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遺伝子の何がすごい?
ヒトには約3万個の遺伝子があると言われ、身体的特徴は親から子に遺伝するのはよく知られていることです。そんな私たちの遺伝子について理解を深めることで、人体の神秘だけでなく未来への可能性を広げる知見が得られます。ここでは、非常に興味深い遺伝子について学ぶためにおすすめの本をご紹介します。
シリーズ人体 遺伝子 健康長寿、容姿、才能まで秘密を解明!
人体の凄さがよくわかる
NHKスペシャル総合司会タモリさんと山中伸弥教授による、大好評の人体シリーズの番組が書籍化でされたものです。遺伝子の秘密や番組では伝えきれなかった内容が扱われています。遺伝子に関する前提知識がなくても楽しめるので、全ての人におすすめです。
はじめに
NHKスペシャル「シリーズ人体」制作統括
浅井健博
遺伝子は、人間の可能性を制約する仕組みではなく、
むしろ、未来への可能性を最大限に広げるための仕組みである……。
NHKスペシャル「シリーズ人体Ⅱ遺伝子」が掲げたこのテーマは、番組制作も終盤に確信を得た、シリーズとしての大切なテーマでした。研究者の方々にとって、そんなことは”当たり前”の話なのかもしれません。しかし、素人からしてみれば、そのことが腑に落ちるまでには、いくつかの高いハードルがあります。
まず、多くの人は「この姿形は誰のせい?」「計算が苦手なのは誰のせい?」などと、幾度となく親の顔を思い浮かべてみたり、わが子のできの悪さに嘆いてみたり…….。なにしろ、その元凶はすべて代々受け継ぐ「遺伝子」だと思い込んでいるものですから、「未来への可能性だ」なんて言われても、疑い深くなるのは当たり前です。
さらに加えて、遺伝子の世界は超ムズカシイ。「2重らせん」「AGCT」あたりまでは誰もが学びます。しかし、素人が本当にその世界を知ろうとすれば途方もない胆力が必要です。ましてや、今回の番組で扱うのは最先端の科学。編集室で試写をしていても、次から次に疑問が湧き、理解が進まないこともたびたび咀嚼してわかりやすく伝えるのには大変な苦労が伴いました。遺伝子のロマンを感じられるような境地に達するためには、そうした高いハードルを越えていかなければならないのです。
そんなとき懇切丁寧に説明をくり返し、その魅力を語り続けたのが、番組の取材責任者であり、本書の著者でもあるふたりのディレクターです。彼らとて、もとは素人。今回の番組制作でイチから遺伝子学を学び、世界の最前線を走る研究者の方々の取材を続けてきました。
ディレクターの話を聞きながら、その仕組みの精巧さをひとつひとつ理解するたびに、研究者のみな様の志に触れるたびに、自分自身の体の中に備わった奇跡のような仕組みのすさまじさが少しずつわかり始めます。そうして2回にわたる番組の全体像が見えるころになってようやく、「遺伝子は未来への可能性を広げる仕組みなのだ」と、私自身納得できるようになったのです。同時に、これまでとは別次元の感覚で親へ感謝し、子どもたちにエールを送りたくなるような気持ちが芽生えました。
本書は、そんな番組制作の思考の過程をたどる内容になっています。ディレクターたちが、どんな人たちと出会って、どんなことを学んでいったのか。最先端の現場でどこまで明らかになり、何が議論されているのか。番組ではご紹介しきれなかった内容も交えながら、神秘的とも言える遺伝子の世界を、わかりやすくお伝えすることを心がけています。
ですからムズカシイことすべてはわかりませんが、大切なポイントが、専門家ではない方にも伝わる内容になっています。「遺伝子治療に興味がある」「遺伝子検査をしてみたい」「最先端医療の情報を得たい」などなど、昨今、私たちにも身近な話題となっている遺伝子について、「知りたい!」と思う方がいらっしゃれば、ぜひ本書を手に取っていただければと思います。
思い返せば、タモリさん、山中伸弥さんを司会にお迎えして、NHKスペシャル「シリーズ人体」を開始したのは、2017年9月のことでした。ファーストシリーズのテーマは「神秘の巨大ネットワーク」。これまで、人体のイメージと言えば、「脳が司令塔となり、他の臓器はそれに従う」というものでした。ところが最新の科学は、その常識を覆して「体中の臓器がおたがいに情報をやりとりすることで私たちの体は成り立っている」ということを明らかにし続けています。このいわば「臓器同士の会話」が、医療の世界に革命を起こそうとしていることを全8回でお伝えしました。シリーズは、視聴者のみな様から大変な好評をいただき、今回の第2弾のシリーズが実現しました。では、なぜテーマは「遺伝子」になったのか?
最先端の科学、具体的に言えば遺伝子の解析手法やAIの急速な進化によって、ここ数年で遺伝子学のフェーズが大きく切り替わり始めたことがまず挙げられます。そのおかげで、新しい映像表現も可能になり、これまでとはまったく次元の違う遺伝子の世界が描けるようになりました。
そして、「遺伝子検査」しかり、「遺伝子治療」しかり、研究室の中だけにとどまらず、遺伝子は、私たちひとりひとりにも関係する可能性が急速に高まっています。今、最も社会的な関心を集めているテーマのひとつ、と言ってもよいでしょう。
さらに私自身はもうひとつ、遺伝子に興味を持つ理由がありました。ファーストシリーズで描いた「臓器同士の会話」は、細胞同士の会話とも言えます。そのメッセージを伝える物質を作り出す大もとにあるのが細胞の中にある遺伝子です。メッセージ物質をどうやって作っているのか、その量や出すタイミングをどうやって計っているのかを知れば、最初のシリーズの理解もより深まるのではないかと考えたのです。
かくして、2019年5月、令和に入って最初の大型シリーズとして放送した「シリーズ人体Ⅱ遺伝子」第1集が総合視聴率で12.7%を記録するなど大きな反響を得ることができました。番組をご覧いただいた方にも、そうでない方にも、本書を通してワクワクするような研究の最前線を改めて楽しんでいただければと思っています。
そして、番組ではあまり詳しくご紹介できませんでしたが、ぜひとも触れておきたかったのが「生命倫理」についてです。
番組を放送する数ヵ月前、司会のおふたりに加え、石原さとみさん、鈴木亮平さん、阿部サダヲさんという豪華なゲストを迎え、スタジオで収録を行いました。実際に番組で紹介するスタジオパートは各回20分程度ですが、セットの転換なども含めて収録には2~3時間がかかります。放送とは違って、十分に時間はありますので、さまざまな話に花が咲きます。
生命倫理について話を向けたのはタモリさんでした。「これからどんどんいろいろなことがわかってきて、利用されるようになると、ちょっと怖いよね」と。それに対して山中さんは真剣な眼差しで、「研究者としてどこまでやってしまうのだろうという怖さがある。一歩使い方を間違えると、とんでもないことになる。この番組で改めて感じました」とおっしゃいました。
生命科学のトップランナーである山中さん自身が語るこの言葉には、強烈なインパクトがありました。「怖さって何?」「とんでもないことってどんなこと?」。機会があれば、その真意についてしっかりとうかがってみたいと思っていました。講談社のみな様にご尽力いただき、山中さんの快諾を得て、本書でその機会を得ることができました。他では語られたことのない、山中さんの生命科学への思いをお伝えできるのではないかと思います。
さあ、私たちの命の根幹をなす遺伝子の世界を旅する大冒険の始まりです。今日よりも明日、明日よりも明後日と、新しいものを生み出していく私たちの体、その超ミクロの世界を目撃しに行きましょう。
シリーズ人体遺伝子
目次
第1部 あなたの中の宝物“トレジャーDNA”
口絵
はじめに
あなたの中にある「宝」を探しに!
第1章 あなたの中に眠る宝物”トレジャーDNA”とは何か
驚異の「DNA顔モンタージュ」技術
「〇〇が健康によい」は本当か?
DNAの98%は「ゴミ」と呼ばれていた
姿形や性格、才能などを決める領域
第2章 病気から体を守る”トレジャーDNA”
ヘビースモーカーの109歳
調査でわかった百寿者たちの不健康な暮らしぶり
百寿者みんな、5つ以上”病気のDNA”があった
*病気から体を守るDNA”が次々明らかに
「タバコによる肺の病気のリスク」が80%も下がる
がんや認知症、アレルギーを防ぐDNA
第3章 健康のカギ 効く効かないはあなた次第という事実
「〇〇が健康によい」が万人に通用しない!?
コーヒーが健康に「よい人」と「悪い人」
「がんゲノム医療」が本格的にスタート
合法的ドービングと言われるカフェイン
オリンピック選手に共通するDNA
DNAの98%は遺伝子のコントローラー
「顔」再現による犯人検挙が20件以上
AI×ゲノム「中国版DNA顔モンタージュ技術」
石原さとみさん・鈴木亮平さんのDNA解析結果
自分の中の「気づかざる個性」
第4章人類を進化させる”トレジャーDNA”
海の民バジャウ 驚異の潜水能力
環境に合わせてDNAが「新たな能力」をもたらす
猛毒ヒ素を解毒できる人たち
世界各地で環境に適応したスゴイ人々
DNA研究の先進国アイスランドで驚きの報告
誰もが持っている70個の突然変異
突然変異がなくなれば人類は絶滅する
第5章 あなたの個性が世界を救う!? ヒーローDNA
ヒーローDNAを探すプロジェクト
「難病が遺伝してしまう家族を救いたい」
糖尿病の創薬につながったヒーローDNA
エイズや心臓病にならない人の発見がきっかけに
難病にならないDNAを持つ2人を発見
ヒーローはあなたかもしれない
ゲノムは未知なる可能性の宝庫
第2部 “DNAスイッチ”があなたの運命を変える
科学者への質問「運命は変えられる?」
第1章 なぜ、遺伝子にスイッチがあるのか?
能力や体質、性格にもスイッチがある
赤ちゃんが大人になるのもスイッチの役割
「がん撃退」最先端の治療法
ダーウィンもびっくり! 精子トレーニング
リアル「宇宙兄弟」から驚異の能力が判明
第2章 「がんを抑える遺伝子」をスイッチオフにする仕組み
運命が分かれた一卵性双生児の姉妹
がん患者の6割で抑制スイッチがオフに
双子の運命を分けた真相とは
“DNAスイッチ”はなぜ必要か
実はスイッチオンの遺伝子はほんの一部だけ
遺伝子‐親密なる人類史‐ 下
人類と遺伝子の歴史の行方
単に遺伝子について論じるような科学読み物にとどまらず、社会における重要性まで述べられています。もし遺伝子情報を書き換えられるようになったとき、人間の条件はどのように変わるのでしょうか?科学と倫理のせめぎ合いを通して、現代的な問題に迫ります。
目次
第四部 「人間の正しい研究題目は人間である」
人類遺伝学(一九七〇〜二〇〇五)
父の苦難
診療所の誕生
「介入しろ、介入しろ、介入しろ」
ダンサーたちの村、モグラの地図
「ゲノムを捕まえる」
地理学者
ヒトの本(全二三巻)
第五部 鏡の国
アイデンティティと「正常」の遺伝学(二〇〇一〜二〇一五)
「それなら、わたしたちは同じね」
アイデンティティの一次導関数
最終マイル
飢餓の冬
第六部 ポストゲノム
運命と未来の遺伝学(二〇一五〜……)
未来の未来
遺伝子診断——「プリバイバー」
遺伝子治療——ポストヒューマン
エピローグ——ブヘッダ、アブヘッダ
謝辞
用語解説(五十音順)
年表
解説 『遺伝子―親密なる人類史―』から考える人類の未来/仲野 徹
〈監修にあたって〉
参考文献
原注
索引にかえて
*訳注は、本文内は割注、原注内は〔 〕で示した。
上巻目次
プロローグ——家族
第一部 「遺伝といういまだ存在しない科学」
遺伝子の発見と再発見(一八六五〜一九三五)
壁に囲まれた庭
「謎の中の謎」
「とても広い空白」
「彼が愛した花」
「メンデルとかいう人」
優生学
「痴愚は三代でたくさんだ」
第二部 「部分の総和の中には部分しかない」
遺伝のメカニズムを解読する(一九三〇〜一九七〇)
「目に見えないもの」
真実と統合
形質転換
生きるに値しない命
「愚かな分子」
「重要な生物学的物体は対になっている」
「あのいまいましい、とらえどころのない紅はこべ」
調節、複製、組み換え
遺伝子から発生へ
第三部 「遺伝学者の夢」
遺伝子の解読とクローニング(一九七〇〜二○○一)
「乗り換え」
新しい音楽
浜辺のアインシュタインたち
「クローニングか、死か」
用語解説(五十音順)
〈監修にあたって〉
原注
索引にかえて
遺伝子‐親密なる人類史‐ 上
「遺伝子」全史
科学の歴史上、最も強力かつ危険な概念ともいえる遺伝子の誕生、成長、未来についての物語が描かれています。遺伝子を巡る歴史とリアルな現状についてよくわかります。遺伝学の一般書として全ての人におすすめできる1冊です。
その危険性を知っていたプリヤバラ・ムカジー(一九〇六〜一九八五)に
その危険性を体験したキャリー・バック(一九〇六〜一九八三)に
遺伝の法則の正確な解読は、今後もたらされると予想される自然についてのどんな知識よりも深く、世界に対する人間の見方と、自然に対する人間の力を変えるだろう。
——ウィリアム・ベイトソン
「人間というものは結局のところ、遺伝子にとってのただの乗り物であり、通り道にすぎないのです。彼らは馬を乗り潰していくように、世代から世代へと私たちを乗り継いでいきます。そして遺伝子は何が善で何が悪かなんてことは考えません。私たちが幸福になろうが不幸になろうが、彼らの知ったことではありません。私たちはただの手段にすぎないわけですから。彼らが考慮するのは、何が自分たちにとっていちばん効率的かということだけです」
——村上春樹『1Q84 BOOK1』
目次
プロローグ——家族
第一部 「遺伝といういまだ存在しない科学」
遺伝子の発見と再発見(一八六五〜一九三五)
壁に囲まれた庭
「謎の中の謎」
「とても広い空白」
「彼が愛した花」
「メンデルとかいう人」
優生学
「痴愚は三代でたくさんだ」
第二部 「部分の総和の中には部分しかない」
遺伝のメカニズムを解読する(一九三〇〜一九七〇)
「目に見えないもの」
真実と統合
形質転換
生きるに値しない命
「愚かな分子」
「重要な生物学的物体は対になっている」
「あのいまいましい、とらえどころのない紅はこべ」
調節、複製、組み換え
遺伝子から発生へ
第三部 「遺伝学者の夢」
遺伝子の解読とクローニング(一九七○〜二○○一)
「乗り換え」
新しい音楽
浜辺のアインシュタインたち
「クローニングか、死か」
用語解説(五十音順)
〈監修にあたって〉
原注
索引にかえて
*訳注は、本文内は割注、原注内は〔 〕で示した。
下巻目次
第四部 「人間の正しい研究題目は人間である」
人類遺伝学(一九七〇〜二〇〇五)
父の苦難
診療所の誕生
「介入しろ、介入しろ、介入しろ」
ダンサーたちの村、モグラの地図
「ゲノムを捕まえる」
地理学者
ヒトの本(全二三巻)
第五部 鏡の国
アイデンティティと「正常」の遺伝学(二○○一-〜二〇一五)
「それなら、わたしたちは同じね」
アイデンティティの一次導関数
最終マイル
飢餓の冬
第六部 ポストゲノム
運命と未来の遺伝学(二〇一五〜……)
未来の未来
遺伝子診断——「プリバイバー」
遺伝子治療——ポストヒューマン
エピローグ ブヘッダ、アブヘッダ
謝辞
用語解説(五十音順)
年表
解説/仲野徹
〈監修にあたって〉
参考文献
原注
索引にかえて