【最新】発酵を深く知るためのおすすめ本 – 身近な食品から工業・医療での活用まで

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発酵とは?どのように活用されている?

味噌や納豆、ヨーグルトなど、私たちが毎日のように口にする食品には発酵食品が多く含まれています。さらに、発酵は、医療や工業、科学産業などにも幅広く活用されています。そこで今回は、このような身近だけどあまり知らない発酵の世界について学べる本をご紹介します。

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出典:出版社HP

 

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発酵は錬金術である (新潮選書)

科学して金儲けをする発想法

著者の小泉さんは、専攻している発酵学やその分野とは関係ないものまで、持ち前の発想力で数々のヒット商品を生み出してきました。解説はわかりやすいですが、奥が深いです。どんなビジネスにも役立つ発想力の極意がわかるため、発酵に関する知識がなくても楽しめる1冊です。

小泉 武夫 (著)
出版社 : 新潮社 (2005/11/1)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 マイナスをプラスに変える
米からチーズの発想
「黄色い砂糖」の発想
「麦出酢」の発想
米糠から天然のうま味を作る発想
動物の飼料・削りカスから超高価天然フレーバーを生んだ発想
ユニーク醤油への発想
ワインへの発想
吟醸香集積装置の発明
「もろみ酢」の発想

第2章 日本人の底力
灰で豪商になった男の発想
「夏の甘酒」の発想
「猫またぎの鯖」をサバイバル化する発想
小便から爆薬を作る発想
「擬き」の発想
造り酒屋の水
文献からの発想

第3章 柔軟な発想
「行列の出来るラーメン屋」の発想
寿司屋の煎酒の発想
「商標」への発想「発酵唐辛子」の発想
中国に見る究極のリサイクル 生ゴミから宝を生んだ発想
「豚血を使った酒の熟成」という奇妙な発想
気候を利用する爽やかな発想
プロフェッショナル農業集団
人類の未来への発想

小泉 武夫 (著)
出版社 : 新潮社 (2005/11/1)、出典:出版社HP

はじめに

この本には、科学して金儲けする発想法がいっぱい詰まっている。売れるもの、ヒットするもの、成功するものを発想するには先ず、その発想に向かって「常に考えている」ことが必要であり、日頃から何を見るのにも好奇心の塊になることが大切である。物事に対して貪欲に興味を持つ。新しい方法が何かないか、いつも考えられるように心の準備をしておく。これが基本である。
しかし、ただ漠然と思いつくのを待っていたのでは、誰でも考えられるような、似たり寄ったりの発想しか生まれず、結局みんなと同じことになってしまう。
人間には、それぞれ個性がある。それと同じように、発想にも個性があるのだ。その個性を生かすことも発想には大切である。私は子供のころ、何にでも強く興味を抱く好奇心旺盛な少年であった。その上、遊びに遊んだ。もの凄いわんぱく小僧だったのであるが、それが六十一歳の今も続いていて、自分で言うのもなんだが、二十歳の学生に負けない肉体と精神を持っていると自負している。「小泉は、子供のまんま大人になった」なんて周りの人たちは言うが、それは非常に大事な個性のひとつで、言い換えれば、心がいつも少年のように燃え、輝いているという個性が新鮮な発想を生むのである。
私は現在まで、すでに特許を二十数件取得している。食べ物や微生物、そして発酵学を研究しているが、それらの特許のうち、自分の学問に関係しているものは七割くらいで、残りは専門分野とは関係のないものである。その中には「失敗から生まれた発想」もあった。海外旅行中にカバンを盗まれてしまった経験のある日本人は、たくさんいると思う。私もイタリアに行った時にバッグをやられてしまった。幸い大切な物は入っていなかったが、気分のいいものではない。その時ひらめいたのが、「盗難防止装置」である。これだけ情報技術が発達している世の中なのだから、絶対にできないはずはないと思い、ある物を考えた。それはブザーである。荷物が自分の体から二メートル以上離れると、持っているブザーと、荷物のブザーが同時に鳴る。これなら、荷物を持ち逃げしようとした犯人もさぞかしびっくりするだろうと思い、つくったらどうかと考えたわけである。つまり、ここにも子供時代の遊び心の発想があるのだ。
それからもうひとつ。昔、横浜に住んでいた時に、私はアフガンハウンドという大きな犬を飼っていた。毎日散歩に連れて行くと、犬がウンコをする。これにはとても困った。犬は生きもので、これは生理的現象なのだから、犬に「ウンコするな」と言ってもしようがない。それで考えたのが、犬の「ワンタッチ・ウンチ取り器」。こんなふうに考えてみると、世の中には必要なのにないものがたくさんあることに気づく。本書は、私がこれまで考え出した奇想天外な発想、世界のあちこちで見てきた知恵の発想などを紹介し、発想次第では大きな経済効果を生みだせることを語るものである。

小泉 武夫 (著)
出版社 : 新潮社 (2005/11/1)、出典:出版社HP

発酵―ミクロの巨人たちの神秘 (中公新書)

微生物の神秘的世界をのぞく

嗜好食品から医薬品、洗剤の製造、抗生物質、ビタミン、微生物タンパク質の製造まで、発酵の作用は広く利用されています。本書では、世界各地の発酵文化に今日のバイオテクノロジーの原点を探り、目に見えない微生物の神秘的世界を宇宙スケールで捉えていきます。発酵についてあまり知らない人でもじっくり読めば理解できる内容になっています。

小泉 武夫 (著)
出版社 : 中央公論新社 (1989/9/1)、出典:出版社HP

はじめに

「発酵」とは英語でfermentationである。これはラテン語のservereから生まれたもので、その意味するところは「湧く」である。おそらく、アルコール発酵の際に生じる炭酸ガスがしなって盛り上る現象をさして、こう名付けたのであろう。
だが、発酵とはそんなに簡単なものばかりをさすのではなく、今日では非常に広範囲な微生物の応用を総称した意味に使われている。その今日的発酵を筆者なりに定義すると、細菌類、酵母類、糸状菌(カビ)類、藻菌類などの微生物そのものか、その際類が有機物または無機物に作用して、メタンやアルコール、有機酸のような有機化合物をしたり、炭酸ガスや水素、アンモニア、硫化水素のような無機化合物を生じ、なおかつその現象が人類にとって有益となること
となる。
したがってその発酵作用を応用した工業の領域のなかには、私たちの身近にみられる酒類やアルコールの醸造、発酵食品産業のみならず、有機酸、アミノ酸、核酸関連物質、抗生物質、生理活性物質、糖関連物質、酵素製剤、微生物タンパク質などの発酵工業も含まれ、またそのような工業的領域を超えて、人間をとりまく自然界における環境浄化という重要な微生物活動もまた、発酵の分野に入ることになる。もしも、人類社会にとって発酵という微生物の巨大な恩恵がなかったならば、人類はもちろんのこと、動物や植物までもこの地球上に存在しないことになるのは、本書を読むことによって十分に理解されることだろう。
とかくこれまで「発酵」というと、酒やチーズの製造といったごく限られた狭い範囲内でとらえられてきたが、本書のねらいとするところは、もっと大きな視点からこれを見つめることにある。読者がそこから、目にも見ることのできない微細な巨人たちの驚異的世界を覗きこみ、それによって発酵というその仕事ぶりの意義を感じ、そして今日までその発酵を発展させてきた人間の知恵の深さや発想のすばらしさなどもあわせて把握されれば、本書の役割は十分果たされたものといえよう。

一九八九年九月
小泉武夫

小泉 武夫 (著)
出版社 : 中央公論新社 (1989/9/1)、出典:出版社HP

発酵・目次

はじめに

第一章 地球と微生物
地球の誕生
生命の誕生
地球以外に微生物はいるのか
地球上での微生物の分布
発酵微生物の地球的役割
地球上の微生物の数

第二章 微生物と発酵の発見
微生物の発見
微生物の発生をめぐる二つの説
発酵をめぐる二つの説

第三章 発酵技術の進歩
今日的発酵の定義
発酵技術の第一期
発酵技術の第二期
発酵技術の第三期
発酵技術の第四期

第四章 日本人と発酵
日本の酒のはじまり
口噛み酒から麹酒ヘ
奈良と平安の発酵物
画期的、種麹の発明
パスタールを超えた日本人
近世から現代へ

第五章 発酵を司る主役たち
カビ
酵母
細菌
発酵生産物の菌体外分泌

第六章 今日の発酵工業
酒類の醸造およびアルコール類の発酵工業
発酵食品産業
有機酸の発酵工業
アミノ酸の発酵工業
核酸関連物質の発酵工業
抗生物質の発酵工業
生理活性物質の発酵生産
糖類関連物質の発酵工業
酵素の発酵生産工業
微生物菌
体タンパク質の発酵生産
炭化水素からの発酵物の生産
環境浄化発酵
バクテリア・リーチング

第七章 奇跡の発酵
毒抜きとアク抜き
奇跡の「固体発酵」
珍しい発酵嗜好物
染料の発酵
日本各地に伝承された知恵の発酵

あとがき
参考文献

小泉 武夫 (著)
出版社 : 中央公論新社 (1989/9/1)、出典:出版社HP

「発酵」のことが一冊でまるごとわかる

発酵の幅広い活躍を解説

発酵食品には、味噌、醤油、納豆など日本古来の食品から、パン、チーズ、ヨーグルトなど世界中に様々なものがあります。日本酒やビールなどの酒類も全て発酵食品です。本書では、本書では、化学者である著者が、炭水化物やタンパク質、微生物などの基礎知識から始まり、調味料、野菜、魚、肉、乳製品などの「食」と、「衣・住」にまつわる発酵の活躍を優しく解説していきます。

齋藤 勝裕 (著)
出版社 : ベレ出版 (2019/1/17)、出典:出版社HP

はじめに

健康への関心が大きくなってきていることもあり、「発酵」への注目度も高くなっています。発酵とは、微生物が行なう行為のことです。微生物は食品に作用し、それを変化させて「発酵」を起こしますが、「腐敗」という面もあります。
発酵と腐敗の違いは「人間の役に立つかどうか」で決まります。食品の品質を悪化させ、有害な物にするのが腐敗です。それに対して匂いや味を向上させ、栄養分を増加させるのが発酵です。
微生物には多くの種類がありますが、発酵に関与するのは主に麹、酵母、乳酸菌です。麹はでんぷんなどを分解してグルコースにし、酵母はグルコースに作用してエタノールと二酸化炭素にします。お酒はこのエタノールを利用したものであり、パンは二酸化炭素を利用したものです。
乳酸菌というとヨーグルトを思い出しますが、日本人に欠かせないお漬物も乳酸菌が無ければ、ただの「野菜と塩水の混合物」にすぎません。お漬物にあのような香りと味があるのは、乳酸菌による乳酸発酵のおかげなのです。
乳酸菌はお酒にも作用します。日本酒で「山廃仕込み」などというのは、乳酸菌の種類を指しています。乳酸菌のおかげで酵母は雑菌に邪魔されることなく、アルコール発酵をすることができるのです。このように、乳酸菌は多くの食品に作用しています。
実は、発酵は食品に限ったものではありません。麻布をつくるにも、和紙をつくるにも、発酵が利用されています。植物を分解して繊維質だけをとり出すには、発酵を用いるのが一番よいからです。
それだけではありません。陶器などの焼き物にも発酵が利用されています。陶器は粘土を成形して窯で焼いたものですが、この粘土は各地の粘土を混ぜて保存し(寝かせ)、成形しやすく焼いて、味のある粘土とします。この保存している間に、粘土に含まれる有機物が発酵し、粘土の質を向上させるのです。もちろん、焼成すれば微生物は消滅します。

発酵というと、すぐに食品分野、農業分野を考えがちですが、現代の発酵は「発酵科学」として科学産業面にまで広がろうとしています。たとえば、発酵に伴う発熱は産業エネルギーあるいは地域暖房に使われようとしています。枯渇が心配されている石油さえ、微生物の力によって二酸化炭素からつくられようとしています。プラスチックの原料も、微生物の生産する乳酸などの有機物を用い、自然に還りやすい性質のものもつくられつつあります。
本書は、このような素晴らしい発酵の世界を科学的な見地からご紹介する試みです。お読みいただいたら、発酵の有用さ、素晴らしさに目を見張り、そのような働きをしてくれる微生物にいとおしささえ、感じられるかもしれません。
最後に本書の製作に多大なご努力を傾けてくださったベレ出版の坂東一郎氏、シラクサの畑中隆氏、並びに参考にさせていただいた書籍の著者、並びに出版社の方々に感謝いたします。

齋藤 勝裕

齋藤 勝裕 (著)
出版社 : ベレ出版 (2019/1/17)、出典:出版社HP

CONTENTS

はじめに

第1章 微生物がもたらしたプレゼント、それが発酵食品だ!
1-1 発酵食品に囲まれている生活
———味噌汁、パン、お酒・・生活を潤す発酵食品たち
1-2 発酵食品の歴史
———最初は、偶然が生んだ産物だった
1-3 微生物とは何なの?
———バイ菌? ウイルス? 細菌? プランクトン?
1-4 微生物はどこにいるの?
———限られた場所に生きる生物
1-5 微生物の種類と働き
———食品を分解することで「人の役」に立っている

第2章 発酵って、そもそも何だろう
2-1 麹菌、酵母菌、乳酸菌、納豆菌、酢酸菌
———発酵食品をつくる微生物たち
2-2 発酵のしくみは?
———2つの化学反応が起こっている
2-3 腐敗、食中毒と微生物
———何が原因で起きるのか?

第3章 食品の成分を科学の目で見る
3-1 「炭水化物の種類と構造
———単糖類、二糖類、多糖類に分けてみると
3-2 タンパク質の種類と構造
———自然界は「おいしい」ものだけを選択してつくる?
3-3 タンパク質の立体構造
———片方はよい味、片方は味がない?
3-4 タンパク質と酵素
———酵素が無ければ始まらない
3-5 油脂の種類と構造
———脂肪酸の分子構造の違いに由来

第4章 味覚と調味料の関係を科学の目で見る
4-1 「味」は何で決まる?
———5つの基本味とは?
4-2 味を決める5つの要件
———甘味、塩味、酸味、苦味、そして旨味
4-3 味覚の科学
———「味の違い」が数値でわかる?
4-4 味の抑制効果、対比効果とは?
———調理で味が変わるしくみ

第5章 味噌・醤油……..発酵調味料をもう一歩知りたい
5-1 発酵調味料の歴史をひもとくと
———その主役は常に「大豆」だった
5-2 大豆の栄養素と発酵
———発酵食品は健康維持にどう役立つか?
5-3 味噌の発酵はどうなっているのか
———色の違い、趣の違い、そして味噌ができるまで
5-4 醤油、お酢の違いは?
———濃口、薄口、再仕込み、そして米酢、穀物酢?
5-5 世界の発酵調味料
———日本ではちがう酢と醤とはどんなもの

第6章 野菜の旨味を引き出す発酵のちから
6-1 植物の構成要素
———炭水化物は植物がつくる太陽エネルギーの缶詰
6-2 アルコール発酵
———パンづくりにも、発酵利用するものとしないもの
6-3 乳酸発酵でできるお漬物
———他の細菌を死滅させる殺菌作用
6-4 「善玉菌、悪玉菌って?
———乳酸菌の働きで腸内環境をよくする
6-5 野菜の発酵食品のいろいろ
———乳酸発酵した食べ物は腐敗の心配がない?

第7章 魚介類の旨さは発酵から生まれる
7-1 魚介類の発酵って?
———旨味が確実に増す
7-2 日干しと塩蔵という発酵方法
———経験と知恵を凝らした発酵食品の数々
7-3 世界に誇る「鰹節」の発酵
———鰹節のつくり方、トラフグ毒の除去
7-4 熟れ鮨の発酵
———自家製はご用心

第8章 肉の旨さと発酵にはどんな関係があるのか
8-1 熟成と発酵はどう違うか?
———自家酵素か、他人の酵素かの違い
8-2 生ハムの熟成
———発酵させるのは「生ハム」と「中国ハム」のみ
8-3 発酵ソーセージ
———ドライとセミドライがある
8-4 発酵肉食品のいろいろ
———発酵ソーセージの変形がほとんど

第9章 乳製品の発酵食品にはどのようなものがあるか
9-1 牛乳の成分は?
———乳糖を分解しておく
9-2 ヨーグルト
———牛乳がダメでも、ヨーグルトなら大丈夫
9-3 乳の特定成分を発酵させたもの
———発酵クリーム、発酵バター、ナチュラルチーズ

第10章 発酵されたお茶・紅茶・お菓子はどうつくられるか
10-1 お茶、紅茶、ウーロン茶
———酸化発酵をどの程度までさせているか?
10-2 珈琲
———コピ・ルアクは腸内発酵による最高級コーヒー?
10-3 発酵和菓子
———酒まんじゅう、桜餅の葉っぱ、伝統的な柚餅子
10-4 発酵洋菓子
———バニラの香り、チョコレートも発酵によって誕生
10-5 タバコの発酵?
———発酵したままの葉っぱを巻いたのが「葉巻」

第11章 「お酒と発酵」の関係を探る
11-1 ワインと発酵
———ポリフェノールを含む醸造酒
11-2 日本酒と発酵

齋藤 勝裕 (著)
出版社 : ベレ出版 (2019/1/17)、出典:出版社HP

マンガで読む発酵の世界: 微生物たちが作り出すおいしさと健康の科学

微生物の世界をマンガで解説

納豆やヨーグルト、味噌、醤油など、私たちが毎日のように口にしている食品や調味料には、たくさんの発酵食品が含まれています。しかし、発酵に関わる微生物を知っている人は少ないのではないでしょうか。本書は、微生物同士の関係を、微生物を擬人化して描かれたマンガでわかりやすく解説しています。

黒沼 真由美 (著), 舘 博 (監修)
出版社 : 緑書房 (2020/2/7)、出典:出版社HP

はじめに

納豆やヨーグルト、味噌、醤油など、私たちが毎日のように口にしている食品や調味料には、たくさんの発酵食品が含まれています。これらが微生物たちのはたらきによってつくられていることをご存知でしょうか? 発酵食品が体によくおいしいということは広く知られていますが、「発酵って何?」と聞かれてはっきりと答えられる人は、実は少ないのかもしれません。「発酵食品は、古くから受け継がれてきた人々の知恵と技術であり、そこにはさまざまな微生物たちがかかわっています。本書に登場する個性豊かな微生物たちと一緒に、奥深い発酵の世界に一歩足を踏み入れてみましょう。
ようこそ、発酵の世界へ!

主な登場人物

微生物の世界の住人である彼らは、私たち人間とは一味違い、見た目からしてユニークです。学生だけど年齢も不詳だとか……

黒沼 真由美 (著), 舘 博 (監修)
出版社 : 緑書房 (2020/2/7)、出典:出版社HP

もくじ

はじめに
主な登場人物

第1章 発酵と微生物たち
酵母が糖を食べるのはなぜ?
乳酸菌ってどんな生き物?
麹菌が太っ腹なのはなぜ?
硝酸還元菌って一体何者?
微生物は酸素がなくても生きていけるの?
微生物にはどんな種類がいるの?
COLUMN 01 ミトコンドリアと好気呼吸

第2章 麹菌はすごい!
国菌って? なにがすごいの?
麹菌は毒をつくることがあるの?
「口噛み酒」ってなに?

第3章 清酒バンザイ!
清酒はどうやってつくるの?
「三段仕込み」って?
「火落菌」ってなに?
「発酵」と「腐る」ことはどう違うの?
どんな微生物が発酵食品をつくるの?

第4章 米麹をつくろう!
「麹」ってなに?
「もやし」ってなんのこと?

第5章 塩麹のおいしさの秘密
塩麹はなぜおいしいの?
COLUMN 02 食塩と食品保存

第6章 発酵をカガクする!
お米を蒸すのはなぜ?
お餅がもちもちするのはなぜ?

第7章 味噌はうまい!
プロテアーゼってなに?
味噌にはどんな種類があるの?
豆味噌はどうやってつくるの?
醤油はどうやってつくるの?

第8章 ぬか漬けの世界
ぬか漬けってなに?
ぬか床の表面の白い膜はなに?
ぬか床づくりの秘訣は?
ぬか漬けはなぜ健康にいいの?
甘酒ってどんなお酒?

あとがき
解説
参考文献

ここは発酵学園、個性豊かな生徒(微生物)たちが、毎日仲良くごはんを食べたり、ケンカをしたり、発酵したり……。目には見えない、とても小さな世界ですが、顕微鏡で彼らの様子をちょっぴり覗いてみましょう。

黒沼 真由美 (著), 舘 博 (監修)
出版社 : 緑書房 (2020/2/7)、出典:出版社HP

図解でよくわかる発酵のきほん: 発酵のしくみと微生物の種類から、食品・製薬・環境テクノロジーまで (すぐわかるすごくわかる!)

発酵の世界を図解で解説

醤油や味噌、納豆など、発酵と人々の食生活の関わりは古くから世界中であり、数千年以上の歴史を持ちます。そして現代、発酵技術は食品分野だけではなく。医療や工業の分野でも大きな位置を占めています。本書は、そのように大きく広がった発酵の世界をわかりやすく解説した入門書です。

目次

第1章 発酵の基礎知識
発酵とは何か
発酵のはじまり
発酵製品のいろいろ
世界の発酵食品
現代の発酵食品産業

第2章 微生物の基礎知識
微生物の役割
微生物の発見と微生物学の発展
近代における微生物利用
工業と微生物利用
農業と微生物利用
環境浄化と微生物利用

第3章 発酵食品の作り方
日本酒
ワイン
醸造酢
味噌・醤油
納豆
かつお節
魚醬油
漬物
パン
ヨーグルト
チーズ

第4章 産業を支える発酵技術
うま味調味料の生産
ビタミンの生産
アミノ酸の生産
発酵を農業に利用する
抗生物質の生産
発酵と薬の関係、今昔
化学原料を発酵で作る
暮らしのなかの酵素

第5章 発酵の主役微生物
カビ
酵母
乳酸菌
酢酸菌
枯草菌
放線菌
コリネ菌
メタン菌

第6章 微生物の改良
発酵技術の発展
遺伝子とは何か
突然変異株からの育種
遺伝子組み換えによる生産
遺伝子組み換えの原理
極限環境にある微生物の利用
遺伝子の増殖

第7章 発酵の未来
バイオマスとは
バイオエタノール
バイオプラスチック
廃棄物から水素を取り出す
メタン発酵の技術と活用
最新コンポスト
健康を支えるプロバイオティクス
地殻微生物の活用
バイオの特許と産学連携

第8章 作ってみよう発酵食品
食酢の作り方
納豆の作り方
モッツァレラチーズの作り方

コラム
データから見る発酵産業
パスツールの実験 白鳥のフラスコ
食中毒とは
酵素を「産業」にした高峰譲吉
3ドメイン説
微生物の保存
バイオレメディエーション

プロローグ

人による発酵の営みは古く、数千年以上の歴史を持つその流れは連綿と続き、世界のあらゆる場所、あらゆる時代で行われてきた。
そして現代、発酵技術はその歴史にふさわしい進歩をとげ、食品のみならず、医療や工業の分野でも大きな位置を占めている。
本書はそのように大きく広がった発酵の世界を、わかりやすく解説した入門書である。

発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ (角川文庫)

発酵を文化的に紐解く

「発酵」という言葉を聞くと、「美味しい」「健康にいい」というイメージを持つ人が多いでしょう。しかし、発酵を文化的に紐解いてみるともっと奥深い魅力を発見することができます。「発酵のひみつ」を知ることで、微生物と人間の関わり、長年培ってきた文化の奥深さ、日本人がどのように「見えない自然と向かい合ってきたのか」というスタンスなど様々なことが見えてくるようになるでしょう。

小倉 ヒラク (著)
出版社 : KADOKAWA (2020/6/12)、出典:出版社HP

目次

はじめに 発酵をめぐる冒険に、いざ出発!
Column 1 発酵ってそもそも何ぞや?

PART 1 ホモ・ファーメンタム
発酵する、ゆえに我あり
解説
Column 2 発酵と腐敗を分かつもの

PART 2 風土と菌のプリコラージュ
手前みそとDIYムーブメント
解説
Column 3 発酵文化の見取り図

PART 3 制限から生まれる多様性
マイナスをプラスに醸すデザイン術
解説
Column 4 発酵菌と酵素の違いとは?

PART 4 ヒトと菌の贈与経済
巡り続けるコミュニケーションの環
解説
Column 5 恥ずかしくて人に聞けないお酒の基本

PART 5 醸造芸術論
美と感性のコスモロジー
解説
Column 6 醸造とは何か?

PART 6 発酵的ワークスタイル
醸造家たちの喜怒哀楽
解説
Column 7 発酵ムーブメントの見取り図

PART 7 よみがえるヤマタノオロチ
発酵の未来は、ヒトの未来
解説

あとがき
いざ、次なる冒険へ!
文庫版あとがき
解説 橘ケンチ

本文デザイン/大原由衣

小倉 ヒラク (著)
出版社 : KADOKAWA (2020/6/12)、出典:出版社HP

はじめに 発酵をめぐる冒険に、いざ出発!

皆様はじめまして。発酵デザイナーの小倉ヒラクです。

「発酵デザイナー? いったいナニモノ?」

まあそうなりますよね。
僕は、目に見えない微生物の世界のナビゲーター。普段意識しないけれど、実は僕たちの暮らしを支えている発酵菌たちのエヴァンジェリスト(伝道師)として、日本はもちろん世界の東西南北あちこちを巡りながら、世界中で育まれた不思議な発酵文化を皆さまに伝える仕事をしているのです。

「伝えるだって? どんな風に?」

そのためにこの本があるのだ!
昨今、CMや雑誌の特集でよく見かける「発酵」というキーワード。一般的には「美味しい」「健康にいい」と実利的な側面で語られることが多いけれど、実は文化的に紐解いてみるともっと奥深い魅力を発見することができます。
例えば。身近な発酵食品である味噌を紐解けば、アナタが住む土地の歴史が明らかになる。あるいは、ヨーグルトがなぜ健康に良いのかを調べると、ミクロの生命の秘密が見えてくる。

「発酵のひみつ」をひとたび知れば、見えないはずの微生物たちと友だちになれる。
「微生物の視点」を借りれば、この社会のカタチが今までと違って見える。

この本を読めば、発酵の仕組みがなんとなくわかるのはもちろん、微生物と人間の関わり、僕たちが長年培ってきた暮らしの文化の奥深さ、日本人がどのように「見えない自然と向かい合ってきたのか」というスタンス、そして美味しさや美しさを感じる人間の認知システムのカラクリなど、色んな「ひみつ」が見えてくる。

文化の本質は隠されている。目に見えない自然のシンボルである微生物たちは、隠された「ひみつ」をこっそり教えてくれるメッセンジャー。
微生物の目線で社会を見てみよう。そこには「ホモ・ファーメンタム(発酵するヒト)」が愉快に食卓を囲んでいる姿が見えるはずだ。

発酵文化人類学とは何か?

それでは本編を始める前に、本書のタイトルにもなっている「発酵文化人類学」の定義をしたいと思います(なぜなら僕が勝手につくった造語だからね!)。

大学時代に僕が学んでいたのは、文化人類学。10代の終わり頃からバックパックをかついで世界中あちこち旅して、色んな文化を見て回るのにハマっていました。そんなバックパッカー少年にとって、文化人類学は「なぜ世界にはこんなにもたくさんの文化があるのか」という疑問に答えてくれる学問だったのですね。
僻地にせっせと足を運んで宝飾品や器を集めたり、祭りや入れ墨や建築の細かい特徴を写し取ってコレクションにしたり。旅が終わったら書斎に戻ってきて、素材を分類して分析し、具体的なオブジェやモチーフの裏に潜む「文化のひみつ」をあぶり出す……という文化人類学者の姿は、バックパッカーやってモラトリアムを満喫していた自分を勇気づけてくれる憧れの存在でした。
そして時は流れ、僕はデザイナー兼発酵研究家という不思議な仕事をするようになり、僻地にせっせと足を運び、お味噌だのお酒だの、醸造用の道具だの、蔵の土壁のカケラだのをせっせと収集し、自宅に持ち帰った素材を顕微鏡で覗き込みながら日夜微生物の世界の研究に没頭するようになっていました。

「あれっ……なんかこれって大学時代に夢中だった文化人類学の研究に似ているぞ?」
と気づいた瞬間に「発酵+文化人類学」という発想が浮かんだんですね。普通だったら絶対に交わらないはずの線がつながってしまった。しかしだ。考えてみれば発酵の道も文化人類学の道もそれぞれ「交わらないはずの線がつながった学問」だと言えるのですね。

発酵の道は「生命工学と社会学の交差点」。お酒が発酵する現象は、化学式に変換できる=生命工学。けれども、どうして人それぞれ好きなお酒が違うのかは、化学式にはできない=社会学。

文化人類学も同じような構造になっています。様々なオブジェや民話をデータとして分解して共通項を再構築して体系化する=情報工学。けれども、どうして人類がこんなにも多様な文化を生み出したのかを考えるには、データを超えた仮説を生み出す想像力がいる=社会学。

具体的なモノからスタートし、抽象的なメソッドとして体系化する。その時、歴史の奥に隠された「世界のひみつ」の扉が開く。その扉を開けるにはクリエイティブな感性と広い視野でものを見る思考力が試される。
これはまさに、文化人類学からスタートし、デザイナーを通過し、発酵に行き着いた僕にしかできない試みではないか……?と勝手に思い込んでしまったが最後、各地で面白い発酵食品や微生物を見るたびに「僕は今、発酵文化人類学者なのだ!」とがぜん研究モードになっているわけなのでした。

さて、では「発酵文化人類学」を暫定ですが定義してみましょう。発酵文化人類学とは、

発酵を通して、人類の暮らしにまつわる文化や技術の謎を紐解く学問

のこと。生命工学=パイオテクノロジーの応用研究のように、新しい技術や商品を開発するのではなく、すでにあるものを集めて編集しなおし、文化や技術の歴史に新しい視点を持ち込む。つまり、発明するものは「技術」ではなく「視点」。
「発酵」や「微生物」というキーワードによって、今まで関係ないと思われたものの関連性が明らかになったり、当たり前すぎて見落としていた文化の重要性が思いもかけないスケールで浮上してくる……そんなことを目指していきたいと思っています。押忍!

僕が発酵デザイナーになるまで

「どうして発酵デザイナーと名乗ろうと思ったんですか?」

はじめましての人にほぼ確実に聞かれるこの質問。いつも「いやあ、微生物が好きでね~」と照れ笑いしてごまかしているのですが、これを機に紆余曲折をちゃんと説明してみようではないか。

大学時代の終わり、僕はパックパッカー旅の総決算として、大学を1年間休学してパリで美術の勉強をすることにしました(この時の体験は、PART5で詳しく取り上げます)。僕がいたのは、パリの東端ベルヴィルという移民街。フランス人よりもアフリカやアジア、東欧からの移民のほうが目立つカオスな環境で楽しく過ごして帰国してみると、就職活動の時期はとっくに終わり、就職口が決まらないまま卒業。そのままブラブラしているうちに「絵が描けるんだったら、イラストやデザインの仕事もできるだろ」と細々とした仕事が来るようになり、そのうちスキンケアの会社のデザイン部門に拾われ、そこから独立して自分で事務所を構え……と、気づいたらいっぱしのデザイナーになってバリバリ仕事していたのが20代半ばの頃。就活せずにパリで美術を勉強したのが転機になった。人生に無駄はないぜ!

無職でやることなくてブラブラしていた状況から、「どれだけやっても終わらないほど仕事がある」というのが嬉しくて、夜遅くまで働いて、その後朝方まで友だちと遊んで……というのを繰り返していたら、ある朝「あれっ? カラダが動かないぞ」というゾンビ状態になっていました。歩いていると目眩がして倒れるし、雨が降ったり風が強いと耳鳴りがヒドい。全身に血が回っている感じがしないし、何を食べても美味しくないし、アタマも全然回らない。そのうち小さな頃の持病だった喘息やアトピーがぶり返して、咳のしすぎで夜眠れないし、首や関節の皮膚が乾いてボロボロ。

そんな頃に出会ったのが、山梨の老舗味噌屋の末娘(スキンケア会社の同僚だった)と、彼女の大学の恩師である発酵学者の小泉武夫センセイ※1。味噌屋の娘といっしょに小泉センセイの研究室を訪ねると、小泉センセイは僕の顔を見るなり、

「お前……さては免疫不全だな。味噌汁飲め! 納豆と潰物食え!」
と猛烈プッシュ。で、それを実行してみたところ、あら不思議、だんだんと朝の低体温&低血圧がなくなり、それとともに喘息もアトピーもおさまっていったのでした。
それから小泉センセイの著書を読んで「発酵っておもしろいなあ」と興味を持ち始めた頃、味噌屋の末娘から「ヒラクさん、実家の味噌屋のデザインやってくださいよ」と頼まれ、彼女の実家、山梨を訪ねることに。大きな木樽がたくさん並ぶ味噌蔵の、ひんやりと心地いい空間にしばらく佇んでいたところ、突如、

「ヒラク君……聞こえてますか……僕たち、発酵菌です……。キミの力で……僕たちのことを、人間界に伝えてほしいんだけど……今からこっちの世界に来られますか……?」

と、微生物が自分を呼ぶ声が聞こえたような気がしたんですね(たぶん錯覚だけど、思い込みが人生を変えるということもままある)。

その微生物の声に導かれるように味噌屋のデザインの仕事を始めたら、それまで経験したことのない大ヒットに。その仕事を皮切りに、酒蔵や醤油蔵、ビールメーカーなど、全国各地の醸造家たちからデザインの仕事を頼まれるようになり、いつしか「やたら発酵に詳しいデザイナーがいるぞ」という噂が広まり、発酵に関わるデザインの専門家のようになっていきました。

「これはもう、普通に『デザイナー』と名乗っている場合ではないのでは? ていうかもはや本格的に微生物界に参入するしかないのでは?」

と覚悟を決め、「自分は発酵デザイナーである。これからは発酵と微生物に関わる仕事しかやらないのでよろしく」と宣言したのが2014年のこと。それまでの普通のデザインの仕事に区切りをつけてヒマをつくり、0歳を過ぎて東京農業大学醸造科の研究生になり、改めて微生物の世界を本格的に学ぶことに。
この瞬間、世界で唯一の「デザイナー兼発酵研究家」という不思議な肩書が生まれたのでした。

発酵をめぐる冒険に、いざ出発!

「そんなニッチすぎる肩書で仕事があるのかよ?」

と周りは思ったかもしれないけど、僕には勝算があった。
実は発酵産業は巨大な産業だ※2。日本の市場だけに限定しても、食品だけでおよそ5兆円。定義の仕方にもよるが、医療品生産や環境技術などを含めると総計0兆円をゆうに超える、建設業界に匹敵する巨大なマーケットであり、その広大なブルーオーシャンにいるデザイナーは僕ひとり。微生物の世界は、目に見えないが巨大な金(菌)鉱なのであるよ。「発酵デザイナーです。以後よろしく」と宣言してから、予想もつかないような不思議な依頼が次々と舞い込んできた。発酵文化を旗印にしてまちおこしをしたい自治体から。新しい技術を開発したものの、普通の人にそれをどう伝えていいか困っている企業から。バイオ学科の理系学生とデザイン学科の美術系学生をコラボさせたい大学から。
パッケージやパンフレット、WEBをデザインする「いわゆるデザイナー」の枠を超えて、半分研究者、半分コミュニケーターとして、技術や文化を橋渡しするのが、発酵デザイナーに託された役割だ。世の中には色んなニーズがあるもんだね。

そして。発酵文化は地方の文化でもある。依頼の大半は、東京以外の地方の小都市や農漁村から。山にも平野にも海にも川にもそれぞれの風土に育まれた発酵文化がある。そういう場所でデザインのプロジェクトをやるためには、その土地の歴史や風俗、地質のリサーチをしっかりしないと、説得力のあるデザインはつくれない。

賢明な読者の皆さまはお気づきであろう。ここで大学時代に学んだ文化人類学の方法論が活躍しまくったのであるよ。郷土資料館を訪ねて歴史を掘り起こしたり、村の長老から昔の暮らしぶりの聞き取りをしたり、農業や醸造の現場を訪ねて生産過程を詳しく調査したり、文化人類学者のフィールドワーク(現地調査)のノウハウが学問ではなくデザインの現場でめちゃくちゃ役に立った。
そういう意味では、僕は発酵デザイナーになったのと同時に、文化人類学者になる憧れもいくぶんかは叶えたのかもしれない。

で。僕の身の上話はもうちょっとで終わるよ。
色んな土地に行って見聞きしたことを、自分のブログでまとめていったところ、それを読んだ雑誌やWEBメディアの編集者からコラム執筆の依頼が来るようになり、世界各地の発酵食品や郷土文化のことを文章で伝える仕事も増えていった。
すると、それを読んだ自治体の職員や食関係の仕事をしている人から「ウチの発酵食品食べに来ませんか?」という、もはやデザインとは全然関係ないオファーが来るように。「はいはい! 食べます!喜んで!」と色んな地域に足を運ぶうちに、気づけば、民俗学者の宮本常一のように(というと大げさだけど)、各地を歩いて発酵文化を見て記録して回ることが仕事のようになっていた。
文化人類学、美術、デザイン、発酵……と一見回り道ばかりしているように見えた僕の人生のパーツは、味噌蔵で出会った微生物たちの導きによりひとつのパズルに組み上げられた。発酵という未知の世界へ飛び込んでフィールドワークをしてまわる文化人類学者としてのキャリアだ。

本書「発酵文化人類学」は、デザイナーの「手」で全国津々浦々歩いて拾ったものを、発酵スペシャリストの「目」で観察し、文化人類学者の「アタマ」を借りて掘り下げたフィールドノートだ。人生を回り道するあいだに拾った雑多な知恵と技術を「ブリコラージュ※3」してこしらえた登山道具で、自分を導いてくれた大先輩の研究者たちの登った山のその先を超えていきたい。

何千年も人類を魅了してやまない、発酵という険しくも優しさに満ちた高い山の頂を目指して、いざ出発!

小倉 ヒラク (著)
出版社 : KADOKAWA (2020/6/12)、出典:出版社HP

〈この本の読み方ガイド〉

本書は、発酵を通して人類の文化を掘り下げる、世にも珍しい「発酵カルチャー本」。いわゆる発酵の入門書でもないし、かといって文化人類学の専門書でもありません。本編を始める前に、本書に期待していいことと期待しちゃダメなことをきちんと整理しておくぜ。

【期待していいこと】
・発酵文化の面白さがわかる
・同時に文化人類学における主要トピックスがなんとなくわかる
・人類の起源や認知構造についてそれとなく見識が深まる

【期待しちゃダメなこと】
・発酵について体系的に学ぶ
・文化人類学について体系的に学ぶ
・発酵食品の健康機能や美容効果がわかる

つまるところ、この本は何かの入門書ではないわけで。発酵食品の製法や発酵プロセスについてある程度解説はしていますが、教科書のように順を追って解説するものではないし、一般書では取り上げないようなディープかつマニアックな話題もたくさん出てきます。

発酵と文化人類学から派生して、生物学の基礎や遺伝学、宗教やデザイン、アートなど様々なトピックスが入り混じる「ごちゃ混ぜ落語形式」で進めていきます。

いわゆるノウハウ本として読めないこともないけれど、人間と微生物の織りなすミクロの不思議な世界を旅する「トリップ本」として読んでもらえたら幸いです。

アナタの好きなペースで、好きなように解釈して読んでね。

※1 日本の発暦学者。膨大な食のコラムを書いていることで有名。僕を発隊の世界に導いた大先生だが、絶対僕のこと覚えてない!
※2 経産省『微生物遺伝資源に関する新たな整備計画・利用促進方策』の参考資料(2013年発行)を参照。
※3 フランス語の「bricoler」(素人仕事、日曜大工)から。ありあわせの手段・道具でやりくりすること。

小倉 ヒラク (著)
出版社 : KADOKAWA (2020/6/12)、出典:出版社HP

発酵学の革命: マイヤーホッフと酒の旅 (学術選書)

アルコール発酵の歴史を学ぶ

マイヤーホッフは、酵母菌がアルコールを生み出す過程を解明し、謎だった微生物の働きを明かして発酵学に革命をもたらしたことから「アルコール発酵の父」と呼ばれています。本書は、マイヤーホッフのアルコール発酵研究史を振り返りながら最新の研究動向を紹介していきます。

木村 光 (著)
出版社 : 京都大学学術出版会 (2020/7/1)、出典:出版社HP

目次

口絵
はじめに マイヤーホッフをご存知ですか?

第Ⅰ部 マイヤーホッフをめぐる旅

第Ⅰ章 アルコール発酵解明の歴史
「酵母」を生物体とみなす新しい立場
パスツールの登場
パスツールの偉大さ(身体的ハンディキャップと有益性)
無細胞抽出液によるアルコール発酵の発見

第Ⅱ章 オットー・マイヤーホッフの時代
マイヤーホッフの生涯
デンマークからの手紙
ヒトラーによるユダヤ人の弾圧
ドイツからフランスへパリからマルセイユへ
ジャン・ロッシュの支援で出国ビザを獲得
マイヤーホッフの晩年(心臓発作)

第Ⅲ章 発酵研究史とマイヤーホッフ
発酵と解糖(グリコリシス)
乳酸学説(その始まりとマイヤーホッフの解糖系の研究)
エムデンーマイヤーホッフ経路
エムデンーマイヤーホッフ経路における糖のリン酸化
経路における三炭糖リン酸の生成
経路における三炭糖リン酸の酸化
マイヤーホッフの「乳酸学説」の進化
マイヤーホッフ研究室の空気

第Ⅳ章 マイヤーホッフをめぐる旅
マイヤーホッフの長女エマーソン夫人に会う
マイヤーホッフの高弟,ナハマンゾーン教授
リップマン教授を訪問
マイヤーホッフが心臓発作で倒れた状況をグレヴィッチ夫人から聞く
カナダのハリファックスに住むマイヤーホッフの長男を訪問
マイヤーホッフの次男ウォーター・マイヤーホッフ教授に会う
ドイツのハイデルベルグに作られた“マイヤーホッフ通”と“哲学の道”
マイヤーホッフが滞在したバニュルスの海洋研究所を訪問
ルヴォフの存在が明らかになりマイヤーホッフの滞在につながる可能性が出て来た
ドイツのダーレムでマイヤーホッフの記録を永久保存する事が決定
マルセイユでホテル・スプランディッドを探す
マイヤーホッフが一時拘束されていたミルズ強制収容所を訪問
ホテル・スプランディッドを確かめに行く
ヴァリアン・M・フライとは何者か
当時の社会情勢について
マイヤーホッフのピレネー越えに関する問題点の発見

第Ⅴ章 マイヤーホッフの同時代人
ジャン・ロッシュ(Jean Roche, 1901-1992) とは何者か
ロッシュの業績
ロッシュの手紙
ピレネー山超えで無国籍者の表明を拒んでパスポートが期限切れ
脱出後にロッシュへ打った電報がフランス警察の手に
ロッシュの手紙を見た息子のウォーターの納得(国境越えの真相)
ワールブルグとその研究室
エムデンとマイヤーホッフの関係
マイヤーホッフ研究室のカール・ローマン
マイヤーホッフの批判者カール・マイヤー教授に会えず
マイヤーからの手紙(1977,11,4)
ブラシュコからの手紙(1977,12,9)
マイヤーとマイヤーホッフの関係に関する筆者の見解
クーンはナチスへの協力者か

第Ⅵ章 筆者らの微生物研究
概觀
核酸関連物質から有用物質の生産
酵母による発酵から“遺伝子”の研究へ大きく舵を切った
解糖系メチルグリオキサール経路の研究

第Ⅱ部 旅の記憶――世界の酒・食・文化に触れる
ワインと料理をめぐるバイオの世界旅
カナダのバイオ会議後, アメリカ・ナパバレーへ(1980,07,18-08,15)
ドイツの町々(1984,09,08-25)
ヨーロッパのクリスマス (1989,12,10-27)
パスツールの故郷, ドールとアルボア(1990,08, 18-)
年末のロンドンで国際シンポジウム (1992,12,12-26)
スペインのヘレスとカディス(1993,06,20-)

あとがき

オットー・マイヤーホッフの年譜
索引

コラム
天才化学者ラボアジェとギロチン
物質の光学活性(キラリティ)
ノーベル賞は仮説に対して与えられるか
歴史的ホテル・スプランディッド
ウズホールの海洋生物研究所
ノイベルグの娘イレーヌ・フォレスト博士に会う
アメリカのベンチャー企業と日本の企業

木村 光 (著)
出版社 : 京都大学学術出版会 (2020/7/1)、出典:出版社HP

はじめに
マイヤーホッフをご存知ですか?

「アルコール発酵の研究は生命科学研究の始まり」―と私たち研究者の間では考えられている.

アルコール発酵は先史時代から人類が利用してきた自然現象である.エジプトの壁画を見ても人々が,酒やパンを作る状況が描かれている.

人々はブドウの搾り汁を放置しておくと泡が盛んに放出され,液は沸騰した様になり葡萄酒(ワイン)が仕上がってくる事を知っていたところがその原因は不明なまま,本体は沸騰(沸き立つもの)を意味するFerment(発酵するものの意)と呼ばれていた.

ワインやビール,そして日本酒などのアルコール飲料は,それぞれの民族の文化の一つとして古代から事ある毎に飲まれてきたが,これらのアルコール飲料がどうして造られるかという事は19世紀の半ばまで全く分かっていなかった,ワインがブドウから作られ,ビールは大麦から,日本酒(清酒)がコメから作られる事は分かっていたが,それらの原料がどの様な経過を経て,貴重なワインやビール,そして日本酒(清酒)になるのかという過程が分からなかったのである.

そのため1800年にフランス学士院は,重量1kgある金のメダルを賞として懸賞課題「動植物性諸性質の中で酵母として作用する物質と,それによって発酵を受ける物質とが区別される特徴は何か(ブドウの搾り汁がどうして,アルコールと炭酸ガスになるか)」を公募した,この懸賞に刺激されて,発酵に関する研究が行なり,科学者による発酵の原因に関する論文が相次いで発表されるようになった.

19世紀の半ばになって,三人の生物学の巨人が現れたパスツール(1822-95),メンデル(1822-84),それにダーウィーン(1809-82)である.

パスツールは言った.「発酵は生命と相関する現象」である.これに対してリービッヒ(1803-73)らは,それは単なる触媒作用による化学反応であるとした.

パスツールが亡くなって2年後,1897年にブフナー(1860-1917)によって,酵母菌の細胞を磨り潰して抽出した無細胞抽出液によってもアルコール発酵が起こる事が判明し,彼はそれを「チマーゼ」と命名した.しかし,それは単一の酵素ではなく,20種類もの酵素を含む酵素群である事が,ポーランドのA.ウロブルウスキーによって証明された(1901).

20世紀に入って,それらの酵素群の解析研究が行われ,基質のブドウ糖(=グルコース)がリン酸化されて代謝されていくことが明らかになった.1930年代になって,エムデンとマイヤーホッフらがその全体像を解明し,これが我々人間(ヒト)をはじめとする高等動物の筋肉細胞がやっているエネルギー獲得手段と同じである事が明らかになった.この二人の功績によって,その過程は「エムデンーマイヤーホッフ経路」と呼ばれる様になった.

特にマイヤーホッフはカント派の哲学者としての視点から,酵母菌がアルコールを造るのは,我々動物の筋肉がグリコーゲンからエネルギーを得るのと同様の生物的な意義を持つ事を明らかにした.換言すれば酵母菌は我々人間にアルコールを提供するために活動しているのではなく,彼ら自身が生きていくためにアルコールを造っているのであって,我々はそれを有難く横取りしている事を明らかにした.こうして,それまで知られていなかった微生物の働きが注目されるようになってきたのである.

一般に我々が知っている微生物としては酵母菌と大腸菌があるが,前者は我々人間と同様な高等細胞(真核細胞)であり,後者は下等な原核細胞あるいは前核細胞と呼ばれるものである.両者の違いは大切な遺伝物質(核酸DNA)が細胞内で核膜に覆われて保護されているかそのまま細胞内に広がっているかの差である.その他,前者はミトコンドリアという呼吸器官がよく発達しているとか,更にそれが酸素ガスの有無(呼吸)で,エネルギー獲得の効率化が図られているなどの進化の効率化が伴っている.

その後,大腸菌や酵母を中心とする微生物の研究によって,遺伝子の構造が決定され,遺伝子情報が解読され,細胞の持つあらゆる調節機能が解明されてきた.今も分子レベルにおける細胞の制御機構の解明研究が行われている.それと関連して,植物細胞,動物細胞の遺伝子解析も進められ,我々ヒトを含む地球上のあらゆる生物が共通の遺伝子暗号を使って親の遺伝子情報を子孫に伝えて生存している事も明らかになった.すなわち,生物の遺伝や進化の研究までが全て微生物研究に基づいて行われて来たということになる.最近の事例では,新人類のネアンデルタール人が私たち人類に非常に近いことが遺伝子の研究から分かってきた,

これが,筆者が冒頭に掲げた「アルコール発酵の研究は生命科学研究の始まり」になった,という意味である.

1828年に発酵式として,

C6H12O6=2C2H6O+2CO2
(ブドウ糖)(アルコール)(炭酸ガス)

が提出されたが,発酵の真相の解明はなかなか進まなかった.その理由は,肉眼では見えない微生物(酵母菌)が関与していたからである.

地球上にはいろいろなアルコール飲料があるが,これらの酒類に共通するものは,それらの原料に含まれる糖類(ブドウ糖=グルコース)が微生物の作用によってアルコール飲料になるということである.ブドウはそのものずばりのブドウ糖を含んでいるが,大麦もコメもデンプン粒(澱粉粒)としてブドウ糖を含んでいるので,大麦澱粉は麦芽の酵素(アミラーゼ=澱粉分解酵素)によってブドウ糖になり,コメ澱粉は麹カビの酵素(アミラーゼ)によってブドウ糖になるのである.そうしてできたブドウ糖が酵母によってアルコール飲料に変換されるのである.アルコール発酵の歴史を学ぶ中で,筆者は,その中心機構が先述のとおり「エムデンーマイヤーホッフ経路」と呼ばれるもので,この経路によって糖類がアルコールと炭酸ガスに変換される事を知った.その生成機構を明らかにしたのがオットー・マイヤーホッフ(Otto Fritz Meyerhof, 1884-1951) (写真1)である.

筆者がマイヤーホッフに興味を持った理由はいくつかあるが,まず彼がカント派の哲学者だった事である.筆者は自然科学を学ぶものは,哲学的な思考を持つことが重要であると考えていた.欧米では学生にギリシャ哲学以来の思考の流れを必ず教育するといわれている.それに対して日本では,開国以来,欧米の技術を学ぶことに重点が置かれ,思想的な面はほとんど教育されてこなかった.それは諸先輩の論文の読み方にも表れていて,まず,“Method and Material”を読むことが最重要だと言われ,それに対して“Introduction”とか“Discussion”は二の次にされてきた.確かに実験を始めるにはまず技術的な事を知る必要があるが,その研究がどの様な背景で,どのような考えで行われているのかという理屈が大切なのである.それなくしては独創的な研究の発展は出来ないからである.

マイヤーホッフは酵母によるアルコール発酵のメカニズム(機構)が,哺乳動物の筋肉内でグリコーゲンから乳酸が作られるメカニズムと類似の代謝過程であることを見抜いた.これは「生物学の斉一性」といわれるもので,生物間に共通のメカニズムがあることを示したものである.彼は生物の代謝過程が熱力学を基礎とした,化学反応によって営まれる事を確信し,それまでの生気論(生命は特別な存在であるとする見解)を退けた.この発見には彼が影響を受けたカントの先験的観念論が根底にあると思われる.つまり,発酵のメカニズムと動物の筋肉の代謝過程の類似を見抜いたのは,そうした先験的な直観が働いたと思われる.さらに,彼は自然科学的な方法では解析できない意思,感情などの心理的な問題があることも知っていた.

次いで筆者がマイヤーホッフに興味を持った第二の理由が,ユダヤ人の独創性という観点である.かつて,「世界は三人のユダヤ人によって,支配されている」といわれた.アインシュタイン(1879-1955,物理学),フロイド(1856-1939,心理学),それにマルクス(1818-1883,哲学,経済学)である.特に,ワイマール共和国時代(1919-1933)のドイツでの人口比は,ユダヤ人は,1%であったが,ノーベル賞受賞率では25%を占めていた.当時,筆者は「何が独創性を育むか」という問題に興味を持っていたので,ユダヤ人の独創性教育に関心があった.長年,流浪の異教徒として不安定な生活を強いられてきたユダヤ人にとって経済的に独立すること即ち金を握ることと高い教養を身につけることがどこへ移住しても生活の安定を得る基本条件であった.従って,彼らは高等教育機関が集中する都市で子弟の教育に投資した子供達は小さい時からタルムード(ユダヤ教の解説書)を学習する習慣があった.一方,ユダヤ人は昔から小売の露天商などになることを余儀なくされていたので,じっと座って,物事を深く考え抜く習慣を身に着けてきたと思われている.

ユダヤ人はフランス革命(1789年)によってはじめて民族として自由が与えられ,活躍の場を持てるようになった.彼らは都市の民で,商業,金融業,貿易業などに従事していたので,数学,法学,語学の知識が必要とされた.彼らは常に最新の情報を集め,政治経済の動きに敏感に反応した職業としては医者と弁護士が多く,1913年のフランクフルトの例では,医者の36%,弁護士の62.5%がユダヤ人だったといわれる.中にはロスチャイルドの様にフランクフルトのゲットーから身を起こし,銀行業で成功して,世界的な大富豪になった一族もいるが,多くは個人の学識や実力を基本として,大学教授や弁護士,それに研究者の職につく者がだんだん増えた.彼らは解放と共にドイツ社会に同化し,一人前のドイツ人として認められたいという願望のもとに物凄い努力をした.それは「欧米に追いつけ,追い越せ」と頑張った日本人の勤勉さにも通ずるものがあるユダヤ人が“We are both J” (Jewish and Japanese)というのも故無きにしも非ずである.

こうした長期間のユダヤ人の努力の結果,広範囲の分野でユダヤ人エリートが生み出された,ワイマール共和国時代はその爛熟期であった.それは先に示したノーベル賞の独占にも表れている.しかし,そのこと自体が,アーリア系ドイツ人の嫉妬と不安を醸し出し,それがナチスの台頭と反ユダヤ主義(アンチセミティズム=anti-Semitism)の拡大をもたらした.もちろん,政治的には第一次大戦後の膨大な賠償金とワイマール体制に対するドイツ国民の不満,経済的にはニューヨークに端を発する世界的な恐慌が根本にあったことはいうまでもないが,それらの社会不安をうまく利用したヒトラーが独裁制を確立していった.

マイヤーホッフがドイツ系ユダヤ人でヒトラー政権下のドイツで発酵の研究をつづけた事,1938年になって命からがらドイツを抜け出しパリ(フランス)に亡命した事,などを知る人は少ない.

アルコール発酵の過程の解明に偉大な業績を残したオットー・マイヤーホッフだが,世界中で酒を飲む人はごまんといるのに彼の名前を知らない人が多い.私自身,酒を愛する一人であることから,この状況を以前から残念に思っていた.日々口にする酒が微生物の生み出すものであり,なおかつそれが生命科学研究の始まりといえる.そしてその生成の秘密を明かした偉大なる人物が,マイヤーホッフである.酒と食を愛する同好の士にそのことを伝え,おおいに酒の肴にしてもらいたい……本書を著す動機の中心はここにある酒を愛する多くの人々には是非とも知ってもらいたいというのが筆者の思いで,ここにそれらの真相を明らかにする次第である.以下,本書の構成を紹介しよう.

まず第Ⅰ部の第Ⅰ章「アルコール発酵解明の歴史」では,古くからのアルコール発酵研究史を扱う,続く第Ⅱ章「オットー・マイヤーホッフの時代」においては,本書の主人公であるマイヤーホッフの人生を追い,第Ⅲ章「発酵研究史とマイヤーホッフ」で彼がいかに研究史にインパクトをもたらしたかを示そう.第Ⅳ章「マイヤーホッフをめぐる旅」は,筆者が大きな影響を受けたマイヤーホッフその人の事績を訪ねた旅の記録である.歴史の人となってしまったマイヤーホックを,その家族(彼には二男一女がいた)や弟子たちからの聞き取りによって立体的に蘇らせ,彼の発想の原点に迫ろうという試みだ.第Ⅴ章「マイヤーホッフの同時代人」では,彼と親交のあった(あるいはライバル関係にあった)人物群を紹介し,戦争で混乱する時代にも営々と培われた研究史を人物から照射したい.最後に第Ⅵ章「筆者らの微生物研究」において,最近の研究動向を紹介して,さらに深いアルコール発酵の世界に皆さんを導きたい.

第Ⅱ部は大きく趣向を変えて,酒と文化について筆者が経験してきた旅の記録をまとめた,国際学会などに出席の折は,筆者は極力街に出て,多くの文物を見,多くの食文化に触れてきた.酒を知ることは文化を知ることである.最近はどうにも研究室に閉じこもる傾向が強いようだが,一研究者がどのように世界を旅し世界を見たのか,個人の旅日記的記述ではあるが,それを残すことも後世の参考になるのではと思っている.

本書では以下,難解な化学理論や化学式も伴う箇所もあるが,できるだけ多くの読者に楽しんでいただけるよう平易な記述を心掛けた.マイヤーホッフをめぐる旅に,ぜひ多くの読者にご同行願いたい.

木村 光 (著)
出版社 : 京都大学学術出版会 (2020/7/1)、出典:出版社HP

発酵の技法 ―世界の発酵食品と発酵文化の探求 (Make:Japan Books)

発酵食品の製法を解説

キムチ、ヨーグルト、ビールなど発酵食品は世界中で広く生産されています。本書は、世界中で伝えられてきた発酵食品の製法を、野菜、ミルク、穀物、豆類、肉、魚など食材別に解説しています。本書を読むことで、発酵食品の世界の魅力に気づき、発酵食品づくりのコミュニティに入り込むことができるでしょう。

Sandor Ellix Katz (著), 水原 文 (翻訳)
出版社 : オライリージャパン (2016/4/23)、出典:出版社HP

推薦の言葉 Praise for The Art of Fermentation

『発酵の技法』は、単なる料理本以上のものだ。……確かにこの本は発酵食品の作り方を教えてくれるが、さらに大事なその意味や、自分でザワークラウトを作るという平凡で実用的な行為が世界とのかかわりそのものを表現している理由も教えてくれる。そしてその「世界」は1つではなく、菌類やバクテリアの世界、あなたの生活しているコミュニティ、そしてわれわれの身体や大地の健康をむしばんでいる工業化された食産業システムなどが重層的に重なり合っていることもわかる。
たかがザワークラウトのかめにしては、ご大層な物言いだと思えるかもしれない。しかしこの本のSandor Katzの最大の功績は、読者にその真実を悟らせることにある。自分で食品を発酵させることは、現在まるで画一化された巨大な芝生のように地球上を覆い尽くそうとしている風味や食の経験の均質化に対し、五感を通して雄弁に異議を申し立てることだ。そしてそれは、唯々諾々と必需品を消費してほしいと我々全員に望む経済からの独立を宣言し、我々自身やその暮らしている土地を表現するユニークな産品の作り手となることでもある。
―Michael Pollan、本書「序文」より

『発酵の技法』は非凡な本であり、感銘深い情熱と学識の賜物でもあります。あらゆる種類の発酵食品作りの基本を説明しているため、誰でもこの本を読めばどんな発酵食品のレシピにも問題なく対応できる(そして発酵にまつわる心配事を解消できる)ようになるでしょう。私はとても感銘を受けましたし、すぐにでも作り始めようと思っています。Sandor Katz さん、ありがとう。
―Deborah Madison
『Vegetarian Cooking for Everyone』や『Local Flavors』の著者

Sandor Katz が発酵の王であることを自ら証明したこの新著は、非常に大部だが読みやすく、世界中の発酵の知恵やテクニックの集大成となっている。食品と栄養に興味を持つ人なら、ぜひ本棚に揃えておきたい一冊だ。
―Sally Fallon Morell
Weston A. Price財団代表

Sandor Katzは、これまでにもすでに20世紀の誰よりも多くの人を発酵食品の多様性と美味しさに目覚めさせてきた。いったん彼のような天才の新たな視点から世界を眺めれば、それまで住んでいた退屈な世界へ戻ることはできなくなる。『発酵の技法』は、豊富な知識と実践的な応用に満ち溢れた驚異的な本だ。この本は、今後千年の古典となるだろう。
―Gary Paul Nabhan
『Renewing America’s Food Traditions』や『Desert Terroir』の著者

『発酵の技法』は、Sandor Katzが発酵に関して抱き続けた驚くべき情熱を目覚ましい形で証明している。歴史や科学、そしてシンプルで実用的な知恵から織りなされるこの本は、発酵から生み出される飲食物の驚異的な多様性をめぐる、はるかな旅へと読者を連れ出してくれる。
―Charlie Bamforth教授
カリフォルニア大学デービス校食品科学技術学部教授、『Food, Fermentation and Micro-organisms』の著者

これはもうとにかく、発酵については最高の本だ。包括的であり、学術的であり、そして驚くほど深みがある。Sandor Katzはますます数を増しつつある発酵愛好者集団の導師であり、読者は善玉バクテリアのスリリングな世界が我々の周囲一面に広がっていることに気付かされるだろう。バクテリアはピクルスやチーズやパンやビールを作るだけでなく、我々自身の存在も支えてくれているのであり、敬意と共に尊重されるべきものだ。
―Ken Albala
食品歴史学者、『The Lost Arts of Hearth and Home: The Luddite’s Guide to Domestic Self-Sufficiency』の共著者

『発酵の技法』は我々個人の根本的な健康に訴えかける本であり、野生酵母や培養酵母、そしてまだよくわかっていない微生物の説明には、本当に興味がそそられる。理論や科学や実際の観察に基づいてSandor Katzがこの本のページに振りまいた数多くの点を、読者は自分自身の経験と興味に従って線で結んで行くことになる。彼はこの本に、すべての人にとって大事なことを書いている。我々が微生物と呼ぶこの小さな生き物と戦うにしても平和に共存するにしても、それが有機体とみなされるコミュニティのビルディングブロックであることは認めざるを得ない。読者はページをめくるごとに、この本当に魅力的な本に埋め込まれた自分自身の個人的な物語を発見して行くことになるだろう。
―Charlie Papazian
『The Complete Joy of Homebrewing』の著者

この新しい本でSandor Katzは、人類にとって最初のバイオテクノロジーであり地球上の最初のエネルギー源であった発酵の本質をとらえ、その科学的、歴史的、そして実用的な情報を豊富に提供している。果物やはちみつ、ミルク、あらゆる種類のデンプン質の穀物やイモ類や茎、さらには魚や肉に至るまで、自然発酵食品の神秘と感覚的な魅力が明らかにされ、また美食家とMakerの両方にとって役立つように生き生きと明快に描写されている。
―Patrick E. McGovern
ペンシルバニア大学博物館生体分子考古学研究所科学部長、『Ancient Wine』と『Uncorking the Past』の著者

私の父Joe Katzへ。父のお気に入りの話題は家庭菜園で取れる野菜と、それを使って私の義理の母Pattieや父が作る料理のことだった。どんぐりは木から遠くには落ちないという。この本を父と、私の人生を導き示唆を与えてくれた大勢の先生、先達、そして先輩たちに捧げる。

Sandor Ellix Katz (著), 水原 文 (翻訳)
出版社 : オライリージャパン (2016/4/23)、出典:出版社HP

目次 Contents

推薦の言葉 (Michael Pollan)
序文
はじめに

1章 共進化力としての発酵
バクテリア:我々の祖先、そして共進化パートナー
発酵と文化
発酵と共進化
自然現象としての発酵
バクテリアとの戦い
生命愛意識の涵養

2章 発酵の現実的なメリット
発酵の保存効果とその限界
発酵食品の健康効果
省エネ戦略としての発酵
発酵の変わった風味

3章 基本的な概念と機材
培地と微生物群落
天然発酵と培養発酵
選択的環境
群落の発達と遷移
清潔と滅菌
クロスコンタミネーション


暗闇と日光
発酵容器
ジャーを使う方法
かめを使う方法
かめのふた
さまざまなかめのデザイン
金属容器
プラスチック容器
木製容器
カノア
発酵容器として使われるヒョウタンなどの果実
バスケット
穴埋め発酵
漬物器
野菜のスライサー
野菜叩き
アルコール作り用の容器とエアロック
サイフォンとラッキング
びんとびん詰め
比重計
温度計
シードルやブドウの圧搾機
穀物ミル(粉砕機)
蒸し器
保温箱(インキュベーションチャンバー)
熟成室
温度コントローラー
マスキングテープとマーカー

4章 糖を発酵させてアルコールを作る:ミード、ワイン、そしてシードル
酵母
シンプルなミード
植物を加えたミード:タッジとバルチェ
フルーツや花を加えたミード
シンプルな短期間発酵と、ドライでエージングしたもの
連続スターター法
ハーブエキスミード
ブドウからワインを作る
シードルとペリー
砂糖ベースのカントリーワイン
その他のシロップから作る
アルコール飲料
発酵フルーツサラダ
植物の樹液を発酵させる
発泡性のアルコール飲料
複数の原料を使う伝統
トラブルシューティング

5章 野菜(と一部の果物)を発酵させる
乳酸菌
ビタミンCと野菜発酵食品
発酵野菜食品(Kraut-Chi)の基本
刻む
塩:乾塩法と湿塩法
野菜を叩いたり絞ったりする(あるいは塩水に浸す)
詰め込む
発酵期間の長さ
表面のカビと酵母
どの野菜を発酵させるか
スパイス
ザワークラウト
キムチ
中国のピクルス
インドのピクルス
ホットソース、薬味、サルサ、チャツネなどの調味料を発酵させる
ヒマラヤのグンドゥルックとシンキ
塩を使わない発酵野菜について
湿塩法
サワーピクルス
キノコの塩漬け
オリーブの塩漬け
ディリービーンズ
フルーツの乳酸菌発酵
kawal
野菜発酵食品にスターターを加える
液状の野菜発酵食品: ビートクワスとレタスクワス、発酵キャベツジュース、kaanji,そしてŞalgam Suyu
漬物:日本のピクルス
発酵野菜を料理に使う
ラペソー(発酵させた茶葉)
トラブルシューティング

6章 発酵を利用して酸味のある強壮飲料を作る
発泡
ジンジャーバグを使ってジンジャービアを作る
クワス
テパチェとアルア
モービー
ウォーターケフィア(別名ティビコス)
ホエーをスターターとして使う
ルーツビア
プルー
スイートポテトフライ
独創的なソーダのフレーバー
smreka
ノニ
コンブチャ:万能薬、それとも危険?
コンブチャの作り方
コンブチャのキャンディー:ナタ
ジュン

シュラブ
トラブルシューティング

7章 ミルクを発酵させる
生乳の微生物学と政治学
シンプルな凝乳
ヨーグルト
ケフィア
ビーリ
その他の乳発酵食品
植物由来の乳発酵微生物
クレームフレーシュ、バター、そしてバターミルク
ホエー
チーズ
工場でのチーズ作りと農場でのチーズ作り
乳製品以外のミルク、ヨーグルト、
そしてチーズ
トラブルシューティング

8章 穀物とイモ類を発酵させる
刻み込まれたパターン
穀物を水に浸ける
発芽させる
リジュベラック
オートミールを発酵させる
グリッツ/ポレンタ
アトーレ・アグリオ
雑穀粉
ソルガム粥
米粥
古いパンの粥
ジャガイモの粥
ポイ
キャッサバ
南アメリカのキャッサバのパン
ジャガイモを発酵させる
サワー種のはじめ方とメンテナンス
フラットブレッド/パンケーキ
サワー種パン
酸っぱいライ麦のおかゆスープ(ジュル)
シエラライス
ホッパー/アッパム
キシュクとKeckek el Fougara
その他の食品と一緒に穀物を発酵させる
余った穀物(イモ類)を発酵させる
トラブルシューティング

9章
ビールなど穀物ベースのアルコール飲料を発酵させる
天然酵母ビール
tesgüino
ソルガムビール
メリッサ(スーダンの煎りソルガムビール)
アジアの米から作る酒
基本的なライスビール
サツマイモで作るマッコリ
雑穀から作るトンバ
日本酒
大麦のモルト処理
シンプルな不透明大麦ビール
キャッサバとジャガイモのビールホップを越えて:その他のハーブや植物材料を添加したビール
蒸留

10章 カビを培養する
カビを育てる保温箱(麹室)
テンペを作る
テンペを使った料理
テンペの胞子を植え継ぐ
麹を作る
甘酒
植物由来のカビ培養物
トラブルシューティング

11章 豆類や種子、ナッツを発酵させる
種子やナッツを発酵させたチーズやパテ、そしてミルク
ドングリ
ココナッツオイル
カカオやコーヒー、そしてバニラの発酵
豆の自然発酵
イドリー/ドーサ/ドークラ/カマン
アカラジェ(アフロブラジリアンの、発酵させた黒目豆のフリッター)
大豆
みそ
みその使い方
しょうゆ
発酵黒豆:浜納豆と豆鼓
納豆
ダワダワとそれに関連する
西アフリカの発酵種子調味料
豆腐を発酵させる
トラブルシューティング

12章 肉、魚、卵を発酵させる
乾燥、塩蔵、燻煙、そして熟成
乾塩熟成法の基本
湿塩熟成法:コーンビーフと牛タン
粒塩熟成ソーセージ
魚醤
魚の塩漬け
魚を穀物と発酵させる
フィリピンのburong isda と balao-balao
日本の馴れずし
ホエー、ザワークラウト、キムチの中で魚や肉を発酵させる
卵を発酵させる
肝油
魚や肉の穴埋め発酵
ハイミート
肉と魚の倫理

13章 事業化を考えている人のために
一貫性
最初のステップ
規模拡大
条例、規制、ライセンス
異なるビジネスモデル:農場ベースの事業、多角化、そして専門化

14章 食品以外への発酵の応用
農業
バイオレメディエーション
廃棄物処理
遺体の処理
繊維や建築への利用
エネルギー生産
発酵の医療への応用
スキンケアやアロマテラピーへの発酵の利用
発酵アート

エピローグ:文化復興主義者のマニフェスト
参考資料
用語集
参考文献に関する注釈
引用書籍
原注
索引
訳者あとがき

Sandor Ellix Katz (著), 水原 文 (翻訳)
出版社 : オライリージャパン (2016/4/23)、出典:出版社HP

序文 Foreword

本書『発酵の技法(原題:The Art of Fermentation)』は、本当に示唆に富む本だ。この本を読んで私は今までまったくしなかったこと、おそらくこの本を読まなかったら絶対にしなかったであろうことをし始めた。実際Katzの本のせいで私のキッチンカウンターや地下室には、メイソンジャーや瀬戸物のかめ、ジャムびんやさまざまなびん、そしてこの世の物とも思えない色に光り輝く透明なカルボイなどが増える一方だ。Katzの発酵の教えを受け入れてからというもの、私は大きなかめでザワークラウトやキムチを、メイソンジャーでキュウリやニンジンやビートやカリフラワーやタマネギやパプリカやヒラタマネギのピクルスを、ジャムびんでヨーグルトやケフィアを、そして5ガロンのカルボイでビールやミードを作り始めた。これらはすべて生きていることに、私は定期的に気づかされている。夜、寝静まった家の中で、気持ちよさそうに発酵が進んでいるのが聞こえる。その音を聞くと、とても心が安らぐようになった。微生物たちが幸せであることを意味しているからだ。

私は今まで料理本を読むことはあっても、それに載っている料理を作ることはなかった。『発酵の技法』は、どこが違ったのだろうか。ひとつの理由として、Sandor Katzが情熱を込めて書いている発酵の変成パワーの説明があまりにも説得力があるので、どうなるか試してみたくなってしまうからだ。私が小学生のころ、酢と重曹を混ぜるとすごいことが起こるよ、と先生が教えてくれた時の気持ちに似ている。微生物による変成作用は実に驚くべきものだし、その結果として平凡な食材から我々人間ではなくバクテリアや菌類が作り出す、新たな風味や興味深い食感なども多くの場合、驚くべきものだ。

Katzの本が、今まで存在さえ知らなかったもの(クワス? シュラブ?)を作るレシピを試す気にさせてくれるもうひとつの理由は、彼が決して威圧的な態度を取らないことだ。それとは反対に、『発酵の技法』は背中を押してくれる料理本(そしてこれから説明するように、単なる料理本以上のもの)だ。この本はさまざまな微生物の神秘に通じているが、Katzにはそれをわかりやすく説明してくれる才能がある。ザワークラウトづくりは難しくない、こうすればだれでもできるんだよ、と彼は請合ってくれる。でも、もし失敗してしまったら?ザワークラウトに変なカビが生えてきたら?パニックになる必要はない。カビを取り除いて、その下のザワークラウトを賞味しょう。

しかしこの態度の中には、Sandor Katzがキッチンで見せる気楽な表情以上のものが隠されている。これは、政治運動でもあるのだ。『発酵の技法』は、単なる料理本にはとどまらない。あるいは、『弓と禅』が弓矢について説明しているように、この本は料理について説明しているのだとも言えるだろう。確かにこの本は発酵食品の作り方を教えてくれるが、さらに大事なその意味や、自分でザワークラウトを作るという平凡で実用的な行為が世界とのかかわりそのものを表現している理由も教えてくれる。そしてその「世界」はひとつではなく、菌類やバクテリアの世界、あなたの生活しているコミュニティ、そしてわれわれの身体や大地の健康をむしばんでいる工業化された食産業システムなどが重層的に重なり合っていることもわかる。

たかがザワークラウトのかめにしては、ご大層な物言いだと思えるかもしれない。しかしこの本のSandor Katzの最大の功績は、読者にその真実を悟らせることにある。自分で食品を発酵させることは、現在まるで画一化された巨大な芝生のように地球上を覆い尽くそうとしている風味や食の経験の均質化に対し、五感を通して雄弁に異議を申し立てることだ。そしてそれは、唯々諾々と必需品を消費してほしいと我々全員に望む経済からの独立を宣言し、我々自身やその暮らしている土地を表現するユニークな産品の作り手となることでもある。あなたの作るザワークラウトは、私や他の誰のものとも違っているからだ。

韓国・朝鮮の人々は発酵について深い知識を持っており、さまざまな食品の「舌の味」と「手の味」とを区別している。「舌の味」は分子と味蕾との単純な接触によるもので、食品科学者や食品会社にも作り出せる安っぽい単純な風味はこちらに含まれる。「手の味」は、それを作った人の気持ちや愛情までもが刻み込まれた、はるかに複雑な食品の経験だ。あなたが自分で作るザワークラウトには、「手の味」が込められていることだろう。

そしてあなたはきっと、それをたくさん作って人にあげることになる。自分で発酵食品を作る楽しさのひとつは、貨幣経済の枠組みを超えて人と分かち合うことだ。今でも私はビールやミードのびんを他の人と交換し、メイソンジャーの物々交換に定期的に参加している。メイソンジャーにザワークラウトが詰め込まれて自宅を出ると、他の人のキムチやピクルスが詰め込まれて戻ってくるわけだ。発酵食品の世界にのめりこむことは、発酵食品作りのコミュニティに入り込み、面白くてちょっと変わった気前の良い人たちと仲間になることでもある。

しかしもちろん、『発酵の技法』がパスポートやビザのように役立つコミュニティは他にもある。それは我々の周囲や体内のいたるところに存在する、菌類とバクテリアの目に見えないコミュニティだ。この本に隠されたテーマがあるとすれば(きっとあるはずだ)、それは生物学者リン・マーギュリス(Lynn Margulis)が「ミクロコスモス」と呼んだものと我々との関係を再認識させてくれることだ。1世紀以上前にルイ・パスツールが病気と微生物の関係を発見して以来、ほとんどの人はバクテリアとの臨戦態勢にあると感じている。我々は子どもに抗生物質を投与し、微生物となるべく距離を取り、そして環境を除菌しようと努めてきた。我々はPurell(除菌剤の商品名)の時代に生きている。だが生物学者たちは、バクテリアとの戦いは無益なだけ(バクテリアは我々より速く進化するので、必ず勝つ)でなく、非生産的でもあることを認めている。

抗生物質の乱用は、やっつけたバクテリアと同様に致死率の高い耐性菌を生み出している。これらの薬品が、バクテリアもその食物(別名、食物繊維)も存在しない加工食品主体の食生活と共に、深刻な形で我々の腸内微生物生態系へ変調を引き起こしてきたことは理解され始めたばかりだ。このことは、我々の健康上の問題の多くを説明してくれるかもしれない。バクテリアから保護されてきた子どもたちにアレルギーやぜんそくを引き起こす比率が高いことが分かってきた。我々の健康のカギのひとつは、我々の体を共有し我々とともに共進化してきた微生物フローラの健康であることも判明しつつある。そして微生物フローラは、ザワークラウトが本当に大好物のようなのだ。

微生物との戦いにおいて、Sandor Katzは頑固な平和主義者だ。しかし彼は単に戦いを傍観しているわけでもなければ、熱弁をふるうだけでもない。彼はその戦いを終わらそうとしているのだ。ポストパスツール主義者のKatzは我々に、ミクロコスモスとの関係の条件を再交渉するよう、促している。そして『発酵の技法』は、ザワークラウトのかめごとに、その取り扱いを正確に示してくれる雄弁で実用的な宣言なのだ。まさに活発な培養微生物のように、この本が数多くの新たな発酵食品愛好家を生み出すことを、私は確信している。いつ始めても、早すぎることはない。さあ、パーティーを楽しもう。

2011年12月22日
マイケル・ポーラン(Michael Pollan)

Sandor Ellix Katz (著), 水原 文 (翻訳)
出版社 : オライリージャパン (2016/4/23)、出典:出版社HP

はじめに Introduction

ピクルス好きのニューヨーク市の子どもだった私は、そのぱりぱりとした美味しいにんにく風味の酸っぱいピクルスが、私をこんな途方もない発見と探求の旅に連れて行ってくれることになるとは夢にも思わなかった。実際、ピクルスだけでなく、パン、チーズ、ヨーグルト、サワークリーム、サラミ、酢、しょうゆ、チョコレート、コーヒー、そしてビールやワインなどの発酵産物は私の家族の食生活で主要な地位を占めていた(ほとんどとは言えないかもしれないが、多くの人と同様に)のだが、そのことが会話に上ることはほとんどなかった。しかし私が人生でさまざまな栄養学的なアイデアや食生活の実験を試すようになると、発酵リビングフードに含まれる微生物が消化を助けることを学習し、健康を増進する微生物のパワーを実感するようになった。そして家庭菜園で取れた大量のキャベツやラディッシュをどうしようかと悩んでいた時、ザワークラウトが私を呼び寄せたのだ。その付き合いは今でも続いている。

私が最初にザワークラウト作りを教えたSequatchie Valley Instituteの1999年のワークショップで、食物を冷蔵せずに寝かせることに対して、ものすごい恐怖が我々の文化に存在することを知った。現代では大部分の人が、微生物は危険な敵であって冷蔵庫は家庭の必需品だ、と教えられて育ってきた。食物を冷蔵せずに置き微生物の成長を促すという考えは、危険や病気、さらには死といった恐怖心を呼び起こす。「正しい微生物が増えているかどうか、どうやったらわかるんですか?」というのはよく聞く質問だ。多くの人は微生物による変成作用を、安全に行うためには広範囲の知識とコントロールが必要な、したがって専門家に任せるべき特殊技能だと思い込んでいる。

大部分の食物や飲料の発酵プロセスは人類の歴史の黎明期から行われてきた古代の儀式だったが、今ではそのほとんどが工場での生産に委ねられている。発酵は、我々の家庭やコミュニティから、ほとんど姿を消してしまった。自然現象を観察し試行錯誤しながら条件を操作することにより、何千年にもわたってさまざまな人類文化で発展してきたテクニックは、今では隅っこへ押しやられ、絶滅の危機に瀕している。

ほぼ20年にわたって、私は発酵の王国を探検し続けてきた。微生物学や食品科学を学んだ経験はない。私は単に食品を愛する「大地へ帰れ」主義の何でも屋であり、発酵に取り付かれ、旺盛な食欲と、食物を無駄にしたくないという思いと、そして健康を保ちたいという痛切な願いに突き動かされてきた。私は幅広く実験し、この話題に関して実に多くの人々と話し、またそれに関してたくさん読書をした。実験をすればするほど、そして学べば学ぶほど、私は自分に知識がないことを思い知らされる。伝統的な発酵が日常的に行われていた家庭で育った人々は、はるかに深い知識を身に付けている。また、均質で採算の取れる製品を製造し市場へ送り出すために、商業的な製造業者となって技術を極める人たちもいる。そのような人たちの中には、ビールの醸造、チーズ作り、パン作り、サラミの熟成、あるいは日本酒の醸造について、私よりもはるかに多くの知識を持つ人は数え切れないほどいる。微生物学者や、遺伝や代謝、運動学、群衆動態など、発酵のメカニズムの特定の分野について研究している科学者たちは、私がかろうじて理解しているに過ぎない分野について、あらゆる知識を持っている。

また私には、発酵について百科事典的な知識があるわけでもない。すべての大陸で人々が発酵させて食べているさまざまな食品には無限のバリエーションがあり、漠然としていてどんな人でも十分に理解することはできない。しかし私には、たくさんの素晴らしい物語を聞き、数多くの家庭や職人によって作られた発酵食品を味わってきたという強みがある。私の本の読者やウェブサイトへの訪問者、そしてワークショップの参加者の多くが、自分たちの祖父母の発酵のやり方について話してくれる。移民の人たちは、故国の発酵食品(その多くは、彼らが移住によって失ってしまったものだ)について、熱を込めて語ってくれる。旅人たちは、自分が遭遇した発酵食品について報告してくれる。自分の家族の風変わりな秘伝を漏らしてくれた人もいる。そして、私のような実験好きの人たちは、自分の経験を共有してくれる。また、私は数多くのトラブルシューティングの質問に対処する中で、家庭での発酵に起こりがちな問題について、さまざまな角度から研究し考えさせられることになった。

この本は、私が収集した発酵の知恵を集大成したものだ。あちこちに、たくさんの人の声が反映されている。完全なものにしようと努力はしたが、この本は百科事典には及びもつかないものだ。私の意図は、パターンを明らかにし概念を伝えることによって、読者が発酵を探求し自分の生活に発酵を取り戻すことができるように読者の背中を押すとともに、そのためのツールを提供することにある。私の使命は、この重要な技能に関連したスキルや知恵や情報を共有することであり、また文化的慣習に埋め込まれたこの長年にわたる共進化の関係を途絶えさせずに拡散し、影響を与え合い、そして適応させて行くことが私の願いだ。

発酵に関する私の探求や思考には、ひとつの単語が繰り返し表れる。それがculture(文化あるいは培養)だ。発酵は、さまざまな数多くの形でcultureと関係している。その関係は、微生物学の文脈における文字通りの具体的な意味からはるかに広い言外の意味まで、この重要な単語に埋め込まれた多層的な意味と対応している。ヨーグルトを作るためにミルクに加える(あるいは一般的に発酵を始めるためのスターターは、culture(培養微生物)と呼ばれる。同時に、cultureとは全人類が世代から世代へと引き継いで行くもの、例えば言語、音楽、美術、文学、科学知識、そして信念体系、さらには農業や料理(この両方で発酵は中心的な地位を占めている)テクニックに至るまで、それら全体を指す言葉でもある。

実際、cultureという単語はラテン語のculturaに由来し、これは「耕す、栽培する」という意味の動詞colereの変化形だ。我々は土地を耕し、植物や動物、菌類やバクテリアといった生き物を育てているが、これがcultureの本質だ。我々が食物と栽培への参加を取り戻すことは、culture再興の手段であり、消費者(ユーザー)として飼い慣らされた従属的な役割の束縛を打ち破るために行動し、生産者・創造者となることによって尊厳と力を取り戻すことだ。

これは発酵だけではなく(食物に及ぼす生物学的な作用として発酵は必然的なものだが)、より広く食物一般にかかわることだ。この地球上に存在する生き物は、その食物を通して環境と密接に対話している。しかし、技術の発展した現代社会に生きる人類の場合、この結び付きはほとんど絶たれてしまい、破滅的な結果をもたらしている。裕福な人々は過去には誰も想像できなかったほど多くの食物を選ぶことができ、1人の労働はかつてなかったほど多くの食料を作り出すことができるが、このような現象を生み出した大規模な商業的手法とシステムは、我々の地球を破壊し、我々の健康を破壊し、そして我々の尊厳を奪っている。大半の人々が自分が生存するための食物を、脆弱でグローバルなモノカルチャー、合成化学物質、バイオテクノロジー、そして輸送手段のインフラストラクチャーに完全に依存している。

より調和のとれた生活と高い回復力を獲得するためには、我々自身の積極的な関与が必要だ。つまり、我々の周りに存在し食品に含まれる生命(植物や動物、微生物や菌類)と、我々が依存している水、燃料、素材、ツール、そして輸送手段などの資源を、よりよく理解し、関わって行く方法を見つけ出すことだ。また、文字どおりの意味でも比喩的な意味でも、我々の排泄物について責任を持つことでもある。我々は、よりよい世界を作り出し、よりよく持続可能性のある食物を選択し、資源をより意識し、そして分かち合いに基づいたコミュニティを作り出すことができるはずだ。強靭で回復力のある文化を作り出すためには、スキルや情報や価値が尊重され発信される創造的な領域として行かなくてはならない。文化の繁栄は、消費者の楽園やスポーツ観戦には起こり得ない。日常生活には常に参加型アクションのチャンスが転がっている。それをつかむのだ。

微生物のculture(培養微生物)がコミュニティとしてのみ存在し得るように、より広い意味での人類のculture(文化)にも同じことが言える。食物は、コミュニティを作り出すための最も強力な道具だ。食物は人が座ってしばらく滞在したいという気持ちにさせ、また家族を呼び集める役割をする。新しい隣人や疲れた旅人、そして懐かしい旧友を歓迎する。また、食物を生産するには村落が必要だ。人手が多ければ仕事は楽になり、また食物の生産によって分業や交易が促進されることも多い。そして食物全般よりも、発酵食品(特に飲み物)はコミュニティを作り出すうえで重要な役割を果たす。多くの祭りや儀式、お祝い事には発酵産物(パンやワインなど)が付き物だが、それだけではなく発酵は生の農産物の価値と日持ちを向上させるために古くから存在する重要な食品技術であり、すべてのコミュニティの経済的土台として必須のものでもある。どんな穀物ベースの経済でも、醸造所やパン屋は中心的な役割を担っている。そしてワインは、傷みやすいブドウを保存性の高い誰もが欲しがる品物に変換し、チーズは同様にミルクを変換する。

食物を取り戻すことは、コミュニティを取り戻して労働の専門化と分業化の経済的な結び付きに参加することを意味するが、人類のスケールでは、資源と地域的交換の意識を涵養することになる。地球規模での商品輸送は膨大な量の資源を必要とし、環境に大打撃を与える。エキゾチックな食品はスリリングなごちそうだが、それを中心として生活を組み立てることは不適切であり有害でもある。大部分のグローバル化された食物商品は、森林や多様な自給自足作物を犠牲として、広大なモノカルチャーで栽培される。そしてグローバル貿易のインフラストラクチャーに完全に依存してしまっているため、我々は自然災害(洪水、地震、津波)や資源の枯渇(石油価格の高騰)から政治的混乱(戦争、テロ、組織的犯罪)に至るまで、さまざまな原因による物流の途絶に対して非常に脆弱だ。

発酵は、経済再生の切り札ともなり得る。食物を再び地域化することは、農業の再生を意味するだけでなく、パンやチーズやビールなどの発酵食品をはじめとした日常の飲食物へ農産物を加工し保存するプロセスを再生することでもある。農業に限らず、地域の食物生産に参加することによって、最も基本的な生活の必要を満たすために必要とされる重要な資源を実際に作り出すことができる。この地域的な食物の復興を支援することによって、お金は自分たちのコミュニティへリサイクルされ、生産的な企てに携わる人々を支援し、人々が重要なスキルを獲得するインセンティブを作り出し、燃料消費と汚染の少ない、より新鮮で健康的な食物を供給するために繰り返し使われる。コミュニティの自給率が向上し、それによって力と威厳を取り戻すにつれて、グローバルな交易の脆弱なインフラストラクチャーへの依存を全体として減らすことにもなる。文化の再生は、経済の再生を意味するのだ。

私はどこへ行っても、この復興の文化へ参加しようとしている人々に出会う。これを最も良く示す例は、農業に携わることを選択する若者が増えてきていることだろう。20世紀後半、米国や他の多くの国々で、地域的な食物の自給自足の伝統は消滅しかかっていた。現在ではその伝統は復興しつつある。我々もそれを支援し、参加しようではないか。生産的な地域的食品システムが、グローバル化した食品よりも優れている理由はたくさんある。より新鮮で栄養に富む食品が得られること。地域の勤め口と生産性。燃料やインフラストラクチャーへの依存が減らせること。そして、食品安全の向上だ。我々は、食物を通して大地との結び付きを強め、そして農業のきつい肉体労働をいとわないようにしなくてはならない。そのような仕事を尊重し、報酬を支払い、そして自分でも参加しよう。

復興の文化が目新しいものだというつもりはない。新しい技術に抵抗する頑固者はいつの時代にも存在した。例えば、化学肥料を絶対に使わなかったり、代々受け継いできた伝統的な品種を作り続けたり、トラクターの代わりに今でも馬を使っている際夫。発酵の手法を絶やさずに受け継いできた家族もいる。昔のやり方を守ろうとする人、あるいは近代文化の「利便性」を受け入れようとしない人はいつの時代にもいた。文化は常に変化しながら思いがけない方法で復活を繰り返すものではあるが、文化とは継続性でもある。常にルーツが存在するのだ。

もちろん文化の復興には、都市や郊外を放棄して人里離れた田園の理想郷を目指す必要はない。人々が生活しインフラストラクチャーが存在する場所で、より調和のとれた生活様式を作り出すべきなのであり、それは主に都市や郊外ということになる。「持続可能性」や「回復力」は、それを完全に実現するためにはどこかへ引っ越さなければならないような、遠大な理想ではない。自分ができるやり方で、そして自分が今住んでいる場所で、生活に取り込むことが可能な、そして取り込むべき倫理なのだ。

20年ほど前、私はそれまでずっと住んでいたマンハッタンから、テネシー州の電気もない田園の生活共同体へ引っ越した。そのようにして、とても良かったと思っている。時には劇的な変化が必要なこともあるのだ。私は当時30歳、HIV陽性という検査結果が出たばかりで、想像もできないような大きな変化を求めていた。その時の偶然の出会いが、森の中にあるクィアたちの自営農場生活共同体に私を導いてくれた。個人的には、田園への再定住は実りある選択肢になり得ると誓って言える。しかし田園での生活は、都市での生活よりも本質的に良いものではないし、持続可能でもない。実際、田園生活では出かけるたびに車を使わざるを得ない(私を含めてほとんどの人がそうしているように)。私が生まれ育った都市では、大部分の人は車を持たずに大量輸送機関を利用している。

都市は大部分の人々が居住する場所であり、また都市部やその郊外では驚くべき創造的な活動が数多く行われている。都市農業や自営農場の人気は高まっており、放棄された土地の広がる都市で特に盛んだ。職人による発酵事業の復興は都市を中心として行われている。生産がどこで行われようとも、大きな市場は都市にあるためだ。

現代の著名な都市学者Jane Jacobsが、農業は田園の居留地ではなく都市で発展し広がって行った、という興味深い説を唱えている。著書『都市の経済学』(TBSブリタニカ)の中で彼女は、「都市は田園の経済を基礎として建設された」という通説を退け、これを「農業優越のドグマ」と呼んでいる。そうではなく、都市生活に特有の創造性がイノベーションをはぐくみ、農業を生み出した(そして継続的に再創造し続けている)のだと、彼女は論じている。「新たな種子や動物は、まず都市から都市へと伝播した……。そしてまた植物や動物の栽培も、これまでのところ、都市だけの活動である」。彼女の基本的なアイデアは、さまざまな地域から移り住んできた人々の交差点である交易集落が、偶然による種子の交配や選抜育種のダイナミックな環境を提供し、専門化とテクニックの開発や普及を促す機会をもたらしたというものだ。

Jacobsの理論が正しいとすれば、発酵の習慣もまた都市にルーツがあるはずだ。田園居住者は、種子や文化やノウハウなど、受け継がれた伝統を守ることは多かったかもしれない。しかし、農産物直売所の開設や、地域密着型農業(CSA)として知られるコミュニティによる支援の大部分を提供し、需要を作り出すことによって田園地帯の農業に変革を起こしているのは主に都市の住民だ。都市居住者も、田園居住者と同じように菜園を育てたり、発酵食品を作ったりできる。また、都市に存在する創造力の深い底流や、そこで必然的に発生する相互交流を利用して、変革を生み出すこともできる。その変革には、イノベーションを引き起こす可能性と共に、消滅の危機にある古代の知恵が取り込まれるかもしれない。いずれにせよ、文化の復興は田園の専売特許ではなく、田園を主体として行われるものでもないのだ。

20世紀の発酵の文献の多くは、衛生や安全、栄養そして効率の向上を理由として、小規模なコミュニティベースの家内工業から工場へと生産を移行し、また世代から世代へと受け継がれてきた伝統的なスターター培養微生物を実験室で育成された改良済みの系統に置き換えることを推奨している。「ビールやコカ・コーラ、その他のソフトドリンクなど、西洋の飲み物をバンシー族の人々に紹介しようと試みたところ、彼らはそれを拒絶した」と、1977年に米国農務省発酵研究所のClifford W. HesseltineとHwa L. Wandは報告している。「そのため、バンシー族の村落で行われているビールの醸造法が調査された。現地の醸造法が理解され、醸造に利用される酵母とバクテリアが分離されると、近代的な麦芽製造と醸造機器を用いた工業的な発酵醸造法が開発された。この近代的な発酵プラントで製造されたバンツービールは、すんなりと受け入れられた……衛生的な条件で製造されたこの製品は、均一な品質であり、低価格で販売された」。衛生的な条件で大量生産された安価で均一な製品は、村落で行われていた習慣の文化的・経済的重要性とは関係なく、伝統的な村落で製造された製品よりも明らかに優れたものとして受け取られた。一方で、南アフリカ出身のPaul Barkerは以下のように書いている。「伝統的な発酵食品は、その他多くの習慣と共に、我々アフリカ人の文化から消え去ろうとしている。KFCやコカ・コーラ、そしてリーバイスなどの前に敗北する前に、記録される必要がある」。

私がこの本で目標としたのは、食品とそれに伴う幅広いつながりを取り戻す手段として、我々の家庭やコミュニティに発酵食品を取り戻すことだ。ブドウや大麦や大豆だけではなく、ドングリやカブやソルガム、あるいは手に入ったり作ったりした食品の余りを何でも発酵させてみよう。大規模でグローバルなモノカルチャー発酵食品は実に偉大なものだが、例えばドングリのように自生するものや、テネシーの菜園でのカブやラディッシュなど最小限の世話だけで勝手に育ってくれるものを最大限に活用する方法を学ぶためには、実用的な地域主義を推し進めることも必要だ。

この本は発酵食品の種類と、その具体的な作り方によって章立てしてある。最初の3章は一般的な概論で、進化や実用的な利益、そして基本的な作業の概念の観点から発酵の背景知識を説明している。それ以降の大部分は培地(発酵させる食材)と、主な成分としてアルコールを含むかどうかによって分けてある。最後の3章は、発酵の情熱を生かして企業化しようと考えている人のための情報、食品以外への発酵の応用、そして最後に文化復興主義者のマニフェストとなっている。

プロセスに重点を置いたこの本の中心部では、レシピのフォーマットを取っていない(他の人から提供された一部のコラムを除く)。具体的なレシピよりも、幅広く応用できる概念を伝えたかったからだ。示したのは一般的な比率(または比率の範囲)と、プロセスのパラメータ、そして時には風味付けの提案も含まれている。発酵食品のそれぞれについて、何をすべきかに加えて、その理由を説明しようと試みた。発酵は、我々と他の生物との共同作業なので、料理よりもダイナミックで気まぐれなものになる。このような、時には複雑な関係の場合、その手法と理由のほうが、材料の具体的な量や組み合わせ(レシピや伝統によって必然的に異なる)よりも大事になってくる。私は、読者の皆さんが発酵の手法と理由を理解する手伝いをしたいのだ。それを理解すれば、いたるところにレシピは見つかるし、創造力を発揮してレシピを探求することもできるだろう。

謝辞

私はこの本の唯一の著者であり、また誤りや事実と異なる解釈や見落としなどがあったとすればそれはひとえに私の責任だが、この本を書くプロセスはさまざまな意味で積極的な共同作業であった。発酵に関する私の知識は経験を通して得たものであり、師と仰ぐ特定の人物は存在しないが、インターネット上や実際に会って行われた無数の会話を通して教えられ、導かれた、高度に対話的なものであった。私がこの本を書こうと思い立つに至る知識をもたらしてくれたのは、家庭のレシピや微生物学者の知見や興味深い記事を教えてくれた人々だけではなく、私に質問を投げかけることによって私にさらなる実験や研究や熟考を促してくれた人々でもある。そのおかげで私は発酵についてより深く理解することができ、またよりよく説明できるようになった。私には先生はいないと思っていたが、文字通りこの本を読んでくれている何千人もの読者が私の先生だったのだ。ありがとう。

大勢の人が、自分の得た発酵の知識を私に教えてくれた。一部の人は名前を挙げてこの本に引用させてもらったが、そうできなかった人のほうがはるかに多かった。以下のリストに漏れがあれば、あらかじめお詫びしておきたい。私に情報やアイデア、記事、書籍、画像、そして物語を伝えてくれた、以下の人々に感謝する。 Ken Albala, Dominic Anfiteatro, Nathan Arnold t Padgett Arnold, Erik Augustijins, David Bailey、Eva Bakkeslett、Sam Bett、Aron Boros、Jay Bost、Joost Brand、Brooke Budner、Justin Bullard、Jose Caraballo、Astrid Richard Cook、Crazy Crow、Ed Curran、 Pamela Day、Razzle F. Dazzle、Michelle Dick、Lawrence Diggs、Vinson Doyle、 Fuchsia Dunlap、Betsey Dexter Dyer、Orese Fahey、Ove Fossa、Brooke Gillon、Favero Greenforest、Alexandra Grigorieva、Brett Guadagnino、Eric Haas、Christy Hall、Annie Hauck-Lawson、Lisa Heldke、Sybil Heldke、Kim Hendrickson、Vic Hernandez、Julian Hockings、Bill Keener、Linda Kim、Joel Kimmons、Qilo Kinetichore、David LeBauer、 Jessica Lee、Jessieca Leo、Maggie Levinger、Liz Lipski、Raphael Lyon、Lynn Margulis、 E. Shig Matsukawa、Sarick Matzen、Patrick McGovern、April McGreger、Trae Moore、 Jennifer Moragoda、Sally Fallon Morell、Merril Mushroom、Alan Muskat、Keith Nicholson、Lady Free Now、Sushe Nori、Rick Otten、Caroline Paquita、Jessica Porter、 Elizabeth Povinelli、Lou Preston、Thea Prince、Nathan Pujol と Emily Pujol、Milo Pyne, Lynn Razaitis, Luke Regalbuto, Anthony Richter, Jimmy Rose, Bill Shurtleff, Josh Smotherman、Sterling、Betty Stechmeyer、Aylin Oney Tan、Mary Morgaine Thames、Turtle T. Turlington、Alwyn de Wally、Pamela Warren、Rebekah Wilce、Marc Williams、そして Valencia Wombone。「熟成、発酵、そして燻製」と題する2010年の カンファレンスに私を招待し、論文を発表させてくれたOxford Symposium on Food and Cookeryに、そして会場でさまざまな視点と刺激を与えてくれた他の発表者と参加者に感謝する。

実験や研究や情報の整理に当たっては、素晴らしい協力者の方々に手伝っていただいた。Caleb Grey、Spiky、MaxZine Weinstein、そしてMalory Fosterには特に感謝している。遠くから貴重な研究協力をいただいたことについて、Char Boothと私の生涯の友、Laura Harringtonに感謝したい。この本の執筆初期にじっくり考える時間を与えてくれたことについて、Layard Thompson、Rya Kleinpeter、そしてBenjy Russellに感謝する。私の作成途中の手書き原稿を読んでフィードバックを与えてくれたことについて、Spiky、Silverfang、MaxZine Weinstein、Betty Stechmeyer、Merril Mushroom、そしてHelga Thompsonに感謝したい。Michael Pollanには、この本に序文を寄せてくれたことに感謝する。Chelsea Green Publishingの善良な人々すべて、特に私の素晴らしい編集者、Makenna Goodmanに感謝する。私の代理人、Valerie Borchardtに感謝する。

私が食べること、実験すること、そして書くことを楽しんでいる食物を作り出してくれた、植物、動物、そしてそれらを世話する人々に感謝する。特に、ミルクについてはSimmerとKristaに、卵についてはBranch、Sylvan、Daniel、Junebug、そしてDashboardに、肉についてはNeal AppelbaumとBill Keener(Sequatche Cove Farm)に、ハチミツについてはHushとBoxerに、ブルーベリーについてはHector BlackとBrinnaに、そして野菜についてはDaz1とSpikyらShort Mountainの菜園の妖精たち、MaxZineと変幻自在のIDA菜園スタッフ、Little Short Mountain FarmのBilly Kaufman、Stoney、John Whittemore, Jimmy Rose, L Woofers, Mike Bondy Rob Parker, Daniel, Jeff Poppen (Long Hungry Creek Farmの裸足の農夫)、そしてその他大勢の気前のよい友人たちをはじめ、多くの人々に感謝する。Angie OttとDaz’lには我々の多くにさまざまな健康なスターターを提供してくれていることについて、MerrilとDaz’lには彼らが取っておいた種子をいつも分けてくれることについて、感謝したい。このような食物の生産と交換のネットワークに加入することは、非常に刺激となり、また価値のあることだ。

ずっと私の発酵への熱中を許し、励ましてくれた私の素晴らしい友人たちと家族には、最大の感謝をささげたい。私の生まれ育った家庭に感謝する。私を常に支えてくれた、大好きな家族を持って私はとても幸せに思う。この本を書いている途中で、私は17年間住み続けた共同体を離れて自分の道を切り開いて行くという難しい決断をすることになった。新しい生活にも慣れ、すべてはうまく行っている。Short Mountain SanctuaryとIDAや周辺のコミュニティに住むすべての人々には、彼らの愛情と情熱、そして私が持って行く実験的な発酵食品を味見してくれることについて感謝したい。このグループの人々と常連さんたちは、私の最も親愛なる友人であり親友だ。みな自分のことをわかっていて、私がどれだけ彼らを愛しているかを知っているのだ。

Sandor Ellix Katz (著), 水原 文 (翻訳)
出版社 : オライリージャパン (2016/4/23)、出典:出版社HP