【最新】シェアリングエコノミーについて学ぶためのおすすめ本 – シェアの歴史から最先端の事例まで

シェアリングエコノミーとは?メリットは?

シェアリングエコノミーとは、物・サービス・場所などを多くの人と共有あるいは交換して利用する社会的仕組みのことです。モノを共有するシェアリングエコノミーの1つに「メルカリ」が挙げられます。遊休資産を有効活用できるので、提供者、利用者どちらにも大きなメリットのある仕組みと言えます。ここでは、近年ニーズが高まっているシェアリングエコノミーについて学ぶのにおすすめの本をご紹介します。

シェアリングエコノミー

シェアリングエコノミーがもたらす未来

シェリングエコノミーとは何か、その基盤、歴史と影響、論点と今後の予測を学問的に追及した手堅い社会学の本です。AirbnbやUberで日本でも知られるようになってきた「シェアリングエコノミー」について、様々な文献を引用しつつ考察をしています。経済学や社会学に興味のある人にもおすすめです。

アルン・スンドララジャン (著), 門脇 弘典 (翻訳)
出版社 : 日経BP (2016/11/17) 、出典:出版社HP

THE SHARING ECONOMY
The End of Employment and the Rise of Crowd-Based Capitalism
by Arun Sundararajan
Copyright © 2016 by Arun Sundararajan
Japanese copyright © 2016
Published by arrangement with ICM Partners
through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo
ALL RIGHTS RESERVED

書くことを教えてくれた両親、自作の詩文を通じてよき手本を示してくれた姉のアヌ、よりよい未来の想像と 創造に私の心を日々向けてくれる最愛の娘のマヤに。

目次

はじめに
第1部 原因
第1章 シェアリングエコノミーとは何か
第2章 シェアリングエコノミーの登場 ―デジタルと社会経済、ふたつの基盤
第3章 プラットフォームが示す新たな経済構造
第4章 ブロックチェーン経済大衆による市場運営

第2部 結果
第5章 クラウドベース資本主義の経済的影響
第6章 規制と消費者保護はどう変わるか
第7章 これからの働き方――課題と論点
第8章 これからの働き方―必要な対策
第9章 おわりに――シェアリングエコノミーはどこへ向かうのか

謝辞
訳者あとがき
原注

はじめに

人生で重要なものは、物質的なものではなくなった。他者、人間関係、経験がこれからは重要だ。
ブライアン・チェスキー(ストゥデイ〉ウェブサイト、2013年3月8日)
私はニューヨークのマンハッタンに住んでいる。わが家に自動車はないが、マンハッタンで自動車を保有している世帯は4戸に1戸もないので、特に珍しくはない。しかし、ときには自動車が必要になる。ところがマンハッタンで手頃なレンタカーを見つけるのは難しく、1日100ドル以下で借りようと思ったら、何キロも離れた
隣の区や州まで行かなければならないこともしばしばだ。一方で、近所の通りには、乗り古したトヨタから最新モデルのBMWまで、何百台という車が停められている(テスラに乗りたくてたまらないが、今のところ見かけたことはない)。娘が小学2年生の頃、学校に送っていくのが遅くなってしまうことがあり、寒い冬の朝などには、タクシーを必死で呼び止めようとしながら、停められている車を少しのあいだ借りられたらいいのにと何度も思った。学校で娘を降ろしたら、もとにあった場所に車を戻し、ダッシュボードに10ドル札と「ありがとう!」と書いたメモを残しておくのだ。
今では、他人の車を1時間0ドルほどで、思い立ったときに借りられるようになった。ゲットアラウンドという会社が提供している、携帯電話を使ったサービスだ(私は2011年に偶然ゲットアラウンドのことを知った。登校する娘を連れて近所の車を恨めしく見ていたときではなかったが。このことについては、またあとで述べる)。2012年2月、メアリー・ミーカーによる「インターネット・トレンド報告」の補足説明を読んだとき、ゲットアラウンドのことが頭に浮かび、マンハッタン全域をカバーする個人間の自動車貸し借りシステムという構想を思いついた(1)。
ミーカーは1990年代後半の「ドットコム時代」から活躍している先駆的なテクノロジー・アナリストで、1995年から毎年発表しているこの報告は大きな影響力を持っている。補足説明でミーカーが強調していたのは、現代ではインターフェースからものの貸し借りにいたるまで、あらゆる物事が「資産を持たない世代」の始まりを告げるかのような形で再検討されているということだった。不動産取引、会社勤め、資産運用、旅行、娯楽、交通など、さまざまな分野について、デジタル技術により可能となった新しいビジネスモデルと顧客体験が示され、企業主体となっている現代の構造が変わりつつあることを感じさせた。パワーポイントのスライドに並べられた対照的な画像が、資産を多く持つ世代とアセットライト世代の違いをはっきりと表わしていた。大量のレコードに囲まれた年配コレクターと、スポティファイ、パンドラ、iTunesといった音楽ストリーミングサービスの画面。高層ホテルと、個人間(P2P)のプラットフォームであるエアビーアンドビー(Airbnb)で借りられる樹上住宅。無数に並んだ机に向かうフルタイム労働者と、インターネットの人材マーケットプレイスなどである。
ミーカーがこの報告に込めたメッセージは、子供向けの絵本のように率直だ。私有物、実店舗、現金支給、出社が前提の常勤職は消え、共有財産、インターネット販売、仮想通貨支払、柔軟性の高いオンデマンド労働が増えていく。
この報告を読んで、「アセットライト世代」の到来はすでに着々と進んでいる経済的・社会的変化の一面にすぎないとわかった。経済活動の新しいモデルをいくつも生み、7世紀の大きな流れをつくる急激な変化が起きている。多くの人々が「シェアリングエコノミー」と呼んで楽観視しているさまざまな活動(および組織)は、P2Pの取引が今よりも一般的になり、企業に代わって「大衆」が資本主義の中心となる未来を先取りした例である。
「急激な変化が起きている」というフレーズは、ここ20年ほどでありふれたものになった。常に起きている変化、特にデジタル技術による変化に、企業経営者はもはやあきらめを抱いているようだ。急激な変化というと、ほとんどの場合は避けるべきはずのものなのに、シリコンバレーの投資家は金儲けのチャンスとして積極的に利用する。TEDトークでは、デジタル技術が革新を生み、世界の難問を解決するという大胆な主張が飽きずに繰り返される。だから、急激な変化が起きていると言う私も同類だろうと疑わしく思った読者もいるかもしれない。
そこで、まずはこうした「新しい」活動の簡単な例を見て、シェアリングエコノミーを理解していこう。多くの人々(2016年時点で約7000万人(2))が、数日間の旅行中の滞在先を探す際にエアビーアンドビーのプラットフォームを使い、他人の家の予備の寝室に泊まったり家全体を借りたりしている。デビー・ウォスコーが立ちあげた会員制プラットフォームのラブ・ホーム・スワップを通じて、家を交換した人も大勢いる(私がこのサービスを知ったのは、ニューヨーク大学のかつての教え子で、当時ニュースサイトのマッシャブルに携わっていた起業家のエリカ・スワローが、2012年2月に学部の私のクラスでシェアリングエコノミーに関する先駆的な記事について話してくれたことがきっかけだった(3))。客を乗せる用意のあるドライバーと車で送ってもらいたい利用者を結びつけるプラットフォームの役割を果たす、リフトやウーバーといったアプリを使って、短い距離を移動することができる。オンデマンドのタクシーや自家用車がニーズに合わない場合でも、中国なら滴滴出行(以前の滴滴快的)のアプリでバスの席を確保し、インドならオーラが提供するプラットフォームを通じてオート三輪を手配できる。アメリカならゲットアラウンドやトゥーロ(以前のリレーライズ)、フランスとドイツならドライヴィー、オランダならスナップカー、イギリスならイージーカー・クラブ、ニュージーランドならユアドライブというP2Pレンタルのプラットフォームを使えば、他人の車を数時間から数日まで利用できる。他人の家で食卓を囲むことも可能で、バルセロナならイートウィズ、ニューヨークならフィーストリー、パリならヴィジートといったソーシャルダイニング・プラットフォームが、人を招いて昼食や夕食を振る舞いたいと思っている料理愛好家とつないでくれる。P2P融資プラットフォームのファンディング・サークルなら、流動資産が100ポンドしかない人でも、中小企業に3ポンドだけ貸しつけることができる(4)家の掃除や補修、水道や電気関係の修理、外壁塗装などのサービスを提供したり、逆にこうしたスキルを持っているフリーランスの労働者を雇ったりすることも、ハンディー、タスクラビット、サムタックといった人材マーケットプレイスを使えば可能だ。
こうしたP2Pのサービスを利用するのに必要な準備は、アプリをインストールしてフェイスブックの有効なアカウントのデータを共有して身元証明をするという簡単なものだ。共有サービスの提供者になるのも同様にシンプルだ。ジャーナリストのジョエル・スタインは、2015年2月のタイム誌の有益で面白い特集記事「シェアリングエコノミーの物語」で、さまざまな共有サービス提供者となった体験を書いている。「レンタカー会社の経営者をはじめ、タクシーの運転手やレストランの支配人になり、物々交換もした」と言い、「愛する妻のカサンドラ」に反対されなければ、さらに自宅をホテル兼ペット預かり所にしただろうと述べている(5)。
家を借りる、送迎してもらう、車を借りる、食事をともにする、金を貸す、家事の手伝いを頼むといった行為そのものは、目新しいものではない。ここで新しいのは、「贈与経済型」の無償の行為ではなく金銭がともなうという点だろう。体験したサービスを商売のように表現していることも、こうした事例がすべて共有に関わるものでありながら、空間、自動車、食事、資金、時間などが無料で提供されるものはひとつもないという事実を浮き彫りにしている。サービスを提供すれば報酬を受け取り、サービスを受ければ対価を支払うことになるわけだ。
では次に、営利目的で行なわれる個人間の取引が新しいのかを考えてみよう。世界経済が大企業に支配されるようになったのはいつなのだろうか?経済活動のあり方は歴史を通じてどのように変化してきたのだろうか?大量生産、大量輸送、近代企業が生まれるきっかけとなった産業革命は、200年あまり前に始まった(6)経済史家のアルフレッド・チャンドラーは、アメリカの近代資本主義を研究した著書『経営者の時代」(東洋経済新報社)で、産業革命期のアメリカ経済を次のように活写している。
1790年には、まだ雑貨商がアメリカ経済では支配的だった。こうした経済にあっては、基本的に家族単位で事業が営まれていた。家族による主な事業は農場経営だった。(中略)家庭外で行なわれる生産活動として、小規模店舗を構える職人の仕事があった。(中略)アメリカの産業革命前夜のフィラデルフィア州について、サム・バス・ワーナーは著書でこう述べている。「街の経済の中心にあったのは、個人経営の店だった。フィラデルフィアでは手伝いを雇ってもひとりかふたりで、大多数はひとりで働いていた(7)」
経済活動の変遷を見てみると、産業革命までは大部分の経済的関係が個人対個人の形を取り、コミュニティに根ざし、社会的関係と密接に絡み合っていたことがわかる(8)。経済的関係を結ぶのに欠かせない信用は、さまざまな社会的つながりから生まれていた(9)。よその街から来た旅人を家に泊める、客人と食事をともにする、乗り物で送迎する、個人から金を借りるといった行為が特に目新しいわけではないことに異論はないだろう。それどころか、なんらかの小規模事業を経営したり、個人のサービス提供者として取引やもの作りをしたりすることも、新しいとは言えない。実際、5世紀初頭のアメリカでは、賃金労働者のほぼ半数が自営業者だった(8)。これが1960年になると5パーセント未満に減った(図0-1参照)。19世紀以前には自営業者が労働人口の過半数を占めていたと考えるのが妥当だ。
労働者の構成が8世紀に入って数十年でこれほど大きく変わった背景には、ひとつには個人経営が多かった農業から別の職業に転じる動きが全米で拡大したことがある。しかし、同時期に自営(かつ非法人)の労働者は農業以外の分野でも割合が減少し、1900年には3割近かったのが1960年には約1割となった。以後3年間もほぼ同水準で推移し、その間にアメリカ経済は大企業が支配するようになった(1)。
以上のことから私が言いたいのは、企業中心の現代は人類の歴史から見ればごく短期間にすぎないというだけでなく、シェアリングエコノミーの特徴とされている取引・商売・雇用の形態が目新しいものではないということだ。かつて存在した共有体験、自己雇用、コミュニティ内での財貨の交換が、現代のデジタル技術によって復活しつつあるというのが正しい。経済活動にも労働形態にもこの「まったく新しいわけではない」という特徴があることは重要である。なぜなら、人々に馴染みのあるものの改良版のほうが、新たに生み出された消費体験や雇用モデルよりも速く普及し、経済効果も大きくなるからだ。
ここまで読んで、シェアリングエコノミーに新しさは全然ないのかと思った方がいるかもしれない。「新しい」とされている活動がすべて過去にも一般的だったのに、なぜもてはやされているのか、と。そのわけは、第一に、馴染みのある活動を新しい形で実現する技術により、「経済的コミュニティ」が家族や近隣住民の枠をはるかに超えて、デジタル的に身分証明された全世界の人々に広がることにある。社会学者のジュリエット・ショアの言う「ストレンジャー・シェアリング(赤の他人との共有)」に参加できるのだ(?)。第二に、こうした「シェア」をともなう起業家的行為が現在の資本主義市場を支えるテクノロジーによって劇的に増大し、これまでの近代国家とは比較にならないほど普及したために、商業価値の源泉が今までの企業からデジタル市場で活躍する一般大衆の起業家へと移ってきていることが挙げられる。本書のテーマに、クラウドベース資本主義』を掲げているのは、このような理由による。
2010~2015年にかけて、この新しい資本主義を形づくっている若い企業は、投資家から多額の資金を集めている。とりわけ活発なプラットフォームにペンチャーキャピタルから投じられた資金額を、図0-2にまとめた。ここに挙げたプラットフォームのほとんどは、評価額10億ドル以上の非上場新興企業、すなわち「ユニコーン企業」である。しかし、こうした企業が起こしている変化の影響は、ベンチャーキャピタルの行動にとどまらない。クラウドベース資本主義によって、職を得るという概念が大きく変わる可能性がある。各種の規制や、雇い主が負担することの多い社会的セーフティネットは見直されるだろう。財、サービス、都市インフラにまつわる資金調達、生産、輸送、消費のあり方も変わる。経済活動の新しい形が生まれることで、信用する相手と判断材料、チャンスをつかむきっかけ、他人との距離感も違ってくる。
ここ数年、私はこうした新しい潮流に強く引きつけられてきた。しかし、2011年に初めてデジタル市場が急拡大していることを知ったときは、腑に落ちなかった。私はデジタル技術がビジネスと社会に与える影響を1990年代後半から研究・教育している。インターネットを使った大規模な市場の先駆けであるイーベイは1995年に創業し、1998年に株式公開され、本書を執筆している2015年まで勢いを保っている。なぜエアビーアンドビーなどの企業が現われるのに2007年までかかったのだろうか?それ以前にはどのような条件が欠けていたのか?

アルン・スンドララジャン (著), 門脇 弘典 (翻訳)
出版社 : 日経BP (2016/11/17) 、出典:出版社HP

エアビーアンドビー―自分の世界を正しくデザインする

2013年の夏、エアビーアンドビーのCEO(最高経営責任者)、ブライアン・チェスキーに初めて会った。マンハッタンのヘルズキッチンにある事務所のロフトで、旅行者を受け入れるホスト、ニューヨークの起業家、シェアリング事業の有識者を集めた会食があり、私も招待されたのだ。チェスキーは美術大学のロードアイランド・スクール・オブ・デザインで学んだデザイナーで、エアビーアンドビーを起業したことは人生を構成する第5章における確かな一歩だったと考えている。「小さい頃はホッケーに夢中でした」と2015年の春に会ったときに彼は言った。「カナダに行って、ユース向けのホッケー選手養成校の門を叩いたほどです。プロにはなれそうにないと気づかされましたが」。ニューヨーク州のニスカュナ高校に通っていた頃、「子供のときから画家のノーマン・ロックウェルを尊敬していました」というチェスキーは教師に才能を見出されて美術の道を志し、6歳のときには作品がアメリカの国会議事堂に展示された。その後美術大学に入学し、産業デザインを学んだ。
当初、チェスキーが抱いていたエアビーアンドビーのビジョンは控えめだったという。「始めようと思ったのは、家賃を稼ぐ必要があったからです。2007年10月のことで、値上げされて1150ドルになった家賃の詩求書が届きました。当時住んでいたサンフランシスコで、デザインの国際コンテストが間近に迫っているときでした。開催日の週末はホテルがどこも予約で埋まっていて、そこで考えたんです。部屋を朝食付きの宿泊所にして、コンテストの関係者に貸したらどうだろう、と。ジョー(エアビーアンドビーの共同創設者で、チェスキーと大学で知り合い当時同居していたジョー・ゲビア)がエアベッドを3つ持っていたので、クロゼットから引っ張り出してきてエアベッド・アンド・ブレックファスト”と名づけました」
チェスキーはこう続けた。「問題を解決して人の役に立つという、いわば純粋な目的を持っていたことがよかったんでしょうね」。私が初めて会った2013年には、チェスキー、ゲビア、もうひとりの共同創設者のネイサン・ブレチャージクの3人の手で、ごく小規模だったエアベッド・アンド・ブレックファストはすでにエアビーアンドビーという全世界的なプラットフォームに成長していた。何百万人という宿泊者に来客用寝室、アパートメント、家屋、ツリーハウス、別荘、ボートなどを貸す「ホスト」は数十万人が登録し、ペンチャーキャピタルから1億ドルを超える出資を受けていた。2016年の時点でも急成長が続いており、同年ダボスで開催された世界経済フォーラムのパネルディスカッションで、ブレチャージクは次のように述べた。「これまでに7000万人のゲストが他人の家に泊まり、そのうち4000万人は昨年のみの数字です。昨年だけで、それ以前の7年間を合計したより多かったわけです」
私がエアビーアンドビーのビジネスモデルに常に感じてきた可能性のひとつに、経済効率の大幅な改善がある。一方では寝泊まりできる空間を遊ばせている人々がおり、もう一方では短期間だけ空間を使いたい人々がいる。インターネット上のプラットフォームを通じて、双方をつなぐことができれば、ある規模から経済的利益が生まれるのではないだろうか。多額の投資をしてホテルなどを建てなくとも、来客用寝室や所有者不在のアパートメントが世界には何百万とあるのだから、それを利用すればいいのではないか。
このように、エアビーアンドビーのビジネスモデルは、企業中心の時代よりもクラウドベース資本主義のほうが経済の基礎的条件に優れていることを端的に示している。シェアリングエコノミーのサービス提供者が規制当局に注視されている一因が、古い体制とのあいだに生じるこのずれである。従業員が常駐する専用施設が当たり前の時代につくられた、宿泊者の安全を守るための規制は、個人的空間とゲスト向けの空間との境界線がどんどん曖昧になってきているエアビーアンドビーの時代に合わないのではないだろうか。P2Pプラットフォーム上で、規制の新たなアプローチがすでに生まれているということはないだろうか。
エアビーアンドビーが興味深い企業だと感じる理由はこれだけではない。短期間のうちに洗練された組織をつくりあげたこと、シェア事業を行なっている新興企業のなかでも広報とマーケティングに優れていること、政府との関係構築に気を配っていること、そして最も重要な(しばしばウーバーと対比される)点として、サービス提供者のコミュニティにとても好評であることが挙げられる。2014年1月にハーバード・ビジネス・レビューに書いた記事で、私はシェアリングエコノミーの二大巨頭であるエアビーアンドビーとウーパーの「プラットフォーム文化」の違いに着目し、チェスキーの持つデザイナーとしての素養がその違いを生んでいるのではないかと推測した。
チェスキーも同感だという。「人生の指針のひとつとして、自分がデザインした世界に住みたいと思っています。デザインするのは、理想の人生、会社、世界などです。だからエアビーアンドビーでは、コア事業から文化にいたるまで多くのことを見直しつづけています。私たちの文化は、デザインされたものなんです。避けられない事態とか運命といったものを私は信じていません。文化は自分でつくらなくてもひとりでにできあがってしまうので、それなら後悔しないように自分からデザインしたほうがいい、というのが私の考えです」
非常に考えさせられる哲学だ。自分の世界を正しくデザインしよう、そうしなければ世界はひとりでにできあがってしまい、その結果に後悔するかもしれない。だが、ここでひとつ疑問が浮かぶ。将来的な規制の枠組みについても、同じことが言えるのではないだろうか?

リフト―交通にホスピタリティを

サンフランシスコのサウスオブマーケット、ブラナン通り888番地に建つエアビーアンドビーの真新しい本社オフィスから数ブロック離れた568番地に、リフトが創業時から構えているオフィスがある。一言で表わすと、リフトはオンデマンドのライドシェアサービスだ。アプリを起動して現在地を入力すると、近くを走っている自動車が表示されるので、配車を頼めば数分ほどで迎えが来る。より高度な使い方もあり、車で出勤する際にアプリを起動して目的地を入力しておけば、似たルートを通りたいユーザーを乗せて小遣い稼ぎもできる。オンデマンドだが自分のスケジュールに合わせて使える相乗りサービスだ。
私がここ何年かリフトを通じて乗せてもらった車のドライバーには、スタンドアップコメディアン、ソフトウェアエンジニア、DJ、教師、退職したCIO(最高情報責任者)、次の仕事に向かうデジタルマーケティング企業の経営幹部などがおり、大学生も多かった。リフトを利用すると、タクシーを拾うのとはまったく違う顧客体験を得ることができる。助手席に座ってドライバーと話すのは、新しい知り合いに送ってもらっているかのようだ。
2012年の秋、私はエミリー・キャスターに招かれてリフトのオフィスを訪れた。キャスターは創業メンバーのひとりで現在は同社の「地域住民による交通の専門家」を自任しており、このときはミーティングに向かうときに同社のサービスを使えるよう、乗客としての利用者登録を通常より早く行なってくれた。迎えにきた車にはリフトのトレードマークである巨大なピンクの口ひげがついていたので、すぐにわかった(ミーティングの終わりに、キャスターは私が他社の販促品を持っていることに気づくと、その口ひげをひとつくれた。今でも私のオフィスにあり、入ってきた学生を大勢驚かせている)。
私が初めてリフトを利用したときのドライバーはアーティストで、活動資金の足しにするためにハンドルを握っているとのことだった。2012年にはリフトがまだ「タクシーサービス」を提供する法的な許可が下りていなかったので、正式な利用料というものがなく、ドライバーが送迎してくれたことへのお返しに「募金」をするようアプリが勧めるという形が取られていた。オフィス訪問で印象に残ったのは、従業員からハロウィーンの衣装を借りて着たことだ。段ボールをうまくつなぎ合わせてつくった、リフトの車だった。
その後の3年間でリフトはベンチャーキャピタルから10億ドルを超える資金を調達し(うち1億ドルは、伝説的な投資家のカール・アイカーンによるもの)、アメリカの3都市でサービスを展開するようになった。ウーバーとの熾烈なシェア争いでニュースに取りあげられることの多いリフトだが、規模では負けていても親しみやすさでは明らかに勝っており、それはピンクの巨大口ひげをやめて控えめなブランド戦略に転換してからも変わらない。共同創業者で社長のジョン・ジマーとは私も何度も議論を楽しんだことがあるが、彼が自社の競争相手はウーバーではなく「ひとりで車に乗るドライバー」だと言ったことはよく知られている(3)。
リフトを始めた動機を私が尋ねると、ジマーはこう答えた。「個人的には、ホスピタリティへの興味ですね。ホスピタリティの成功にはふたつの大きな要素があります。すばらしい体験を提供することと、高い収容率を実現することです。交通にはそのどちらも欠けていました」。収容率について、さらに詳しく語ってくれた。「自動車の利用率はおよそ4パーセントで、利用されている自動車の席が埋まっている収容率は3パーセントほどです。基本的に、1パーセントの利用率は全世界のGDPの3パーセントに相当します。これはビッグチャンスだと思いました」
ジマーの考えは当を得ている。世界中の自動車の収容能力には莫大な余裕がある。新車と中古車を合わせた購入額は、アメリカだけでも年間1兆ドルにもなる。世界的に見れば、各国政府は入り組んだ公共交通システムの構築に何十億ドルもの資金を投じており、都市経済を財政と利便性の両面でひどく悪化させることもしばしばだ。リフトのようなアプリによって都市交通インフラの構築アプローチが変わり、一般大衆に根ざした政府対民間の新しいパートナーシップが生まれるかもしれない。硬直的な中央集権型システムをつくるのではなく、デジタル技術を使って分散した遊休能力を活用するようなパートナーシップだ。

オンデマンド労働力の出現

リフトとウーパーがエアビーアンドビーと異なる点のひとつに、プラットフォームを通じて時間や資産を共有しサービスを提供する「プロバイダー」の費やす時間がはるかに長いことがある。2014年、当時リフトの政府渉外責任者だったデイヴィッド・エストラーダが語ったところによると、リフトのドライバーの3分の2は1週間あたりの運転時間が5時間足らずだったが、数字としては「パートタイム労働」に近づきつつある。これはタスクラピットやハンディーといった多種多様な労働サービスのプロパイダーでも、買い物代行サービスのインスタカートのアプリで依頼を受けて食料品を購入・宅配するパートタイムの代行員でも事情は同じだ。これらのプラットフォームでは、多くのプロバイダーが週に10~0時間も作業に携わっている。
こうした流れが加速して、将来的には福利厚生が貧弱で収入源が安定しない働き方が中心となるのではないかと懸念する声が増えている。もちろん、そのような未来が暗いものだとは一概には言えない。フルタイムで働かずにデジタルプラットフォームを通じて仕事を請け負えば、柔軟で融通が利き、自由度も高い働き方ができるだろう。ジマーもこう指摘している。「日中ずっと拘束される仕事はできないという理由から、片親でリフトのドライバーをしている例は多いです。子供を学校などに迎えにいかなければならないし、子供の習い事のためにいつでも時間を空けておきたいからです」
たしかに、プラットフォームを掛け持ちしてオンデマンドで働くのは魅力的で、自由度も高い。しかし、安定収入がある仕事に就くのも将来設計がしやすいという意味では自由度が高く、使っているアプリの組み合わせによって需要と供給、ひいては収入が急変しかねない状態では難しい。しかも、サービス労働の専門化を推し進めるプラットフォームが現われており、将来的に社会的不平等が拡大することも懸念される。たとえば、ハーバード・ビジネススクールでMBAを取得したマーセラ・サポーンとジェシカ・ペックが立ちあげ、注目度の高い起業家コンテストのテッククランチ・ディスラプトで2014年に勝者となったハロー・アルフレッドというプラットフォームは、『バットマン」で主人を支える忠実な執事から名前が取られていることからもわかるように、一般家庭に個人的アシスタントを提供するというものだ(もちろん、2014年にジャーナリストのサラ・ケスラーが執事を置くほどのアパートメントを持つ難しさについて書いたすばらしい記事で指摘しているように、作品中のアルフレッドと異なり、ハロー・アルフレッドは「住み込みではない執事」だ)(4)。
ハロー・アルフレッドは、オンデマンドの人的サービスとしては氷山の一角だ。2015年5月のウォール・ストリート・ジャーナルに載ったジェフリー・フォウラーの記事「いまやウーバー式サービスはどこにでもある」では、次々と現われるニッチな人的サービスが紹介されていた。次に引用するのは、記者お気に入りの、ラックスの説明だ。
スマートフォン時代だからできる、まさにロジスティクスの驚異だ。ラックスはGPSを使ってまるで魔法のように駐車代行員を派遣する。利用者は自分の車に乗り込んだらラックスのアプリを起動し、目的地を入力する。運転中はスマートフォンの位置が追跡され、到着する頃にはもう駐車係が待っている。先週の金曜日には、サンフランシスコの金融街にあるオフィスに8時9分頃着いた私を、駐車係のケヴィンが迎えてくれた。ブルーの制服に身を包み、身元保証も接客態度も保険もしっかりしていた。キーを手渡すと、駐車場へと車を走らせていった。
午後6時になると、またラックスのアプリを起動し、朝とは違う場所に車を戻すよう依頼したが、まったく問題なかった。10分もしないうちに、今度はロスという名のサービス係が車を届けにきた。ロスがトランクを開けると、折りたたみスクーターとウクレレが入っていた。スクーターは坂の多いサンフランシスコを移動するのに使い、ウクレレは仕事の合間に弾くのだという(同)。
ラックス以外に人気のオンデマンドサービスとしては、1時間以内に商品を買って配達するポストメイツ、自宅に来て荷物の梱包・発送をするシップ、洗濯物を回収・洗濯・返却するワシオ、犬の散歩をするワッグ、シェフがつくった料理を配達するマンチェリー、飲み物を配達するミニバーやドリズリーなどがある。
われわれは大勢のオンデマンド労働者が少数の特権階級に奉仕する世界に向かっているのだろうか?クラウドベース資本主義の効率性が追求され、経済活動全体に占めるP2Pプラットフォームの比重が大きくなっていったとき、オンデマンド労働者には健康保険、雇用保険、有給休暇、育児休業といった社会的セーフティネットベーシックインカムをどのように確保するのか?政府支給の最低所得保障が必要だろうか?それとも、政府と民間のパートナーシップに妙案が現われ、複数の職種にまたがった社会保障制度を実現し、人々の所得を長期的に安定させられるようになるだろうか?

ブラブラカー―信用に基づくグローバルインフラ

興味深いことに、当初リフトの事業計画は、都市と地方の交通事情を変えようとするものではなかった。ジョン・ジマーとCEOのローガン・グリーンは、ジムライドという都市間ライドシェアシステムを立ちあげたもの
の、アメリカで事業が伸び悩んだために「ピボット」したのだ(新たなビジネスモデルへの転換を意味する、シリコンバレー用語)。その頃には、アプリを利用して別の都市まで見知らぬ人に車で送ってもらうというアイデアは、ヨーロッパなどで多大な人気を集めるようになっていた。ヨーロッパ市場を席巻しているのは、フランスを拠点とするブラブラカーだ。自家用車に空席を抱えるドライバーと、その席を買いたい乗客をつないでおり、2015年には1日あたりの乗客数が全米鉄道網のアムトラックを超えるほどになっている。
ブラブラカーの共同創業者であるフレデリック・マゼラは、スタンフォード大学でコンピュータ科学の修士号、INSEAD(欧州経営大学院)でMBAを取得し、研究者としてNASAに3年間勤めた。そんなマゼラがブラブラカーを立ちあげたきっかけは、ジマーと同じく、大きな非効率性に気づいたことだった。2015年、パリの本社で彼はこう言った。「最初の動機は、ムダでした。道を走っている車の空席がムダになっているのが、我慢できなかったんです。いつか、誰もが目を見開いておいおい、どの車もガラガラじゃないか!と言うレベルに達しなければならないでしょう」。また、こうも言っていた。「物事を最適化するのが好きなんです。自動車はまさに最適化の宝庫ですよ」ブラブラカーのようにウェブサイトやモバイルアプリを通じて空席と乗客をマッチングしようとする企業が、多くの国で現われた。2014年から翌年にかけて、マゼラは後発企業を5カ国で1社ずつ買収した(主要競合のカープーリング・コムも含まれていた)。合計買収金額は3億ドルを超え、フランスの新興企業がベンチャーキャピタルから調達した資金としては過去最高となった。同社は順風満帆で、シリコンバレーの合理化されたソフトウェア企業のようでありながら、フランスらしい社会主義的感覚をはっきりと示している。風変わりな社名も、丁寧な市場調査に基づいてつけられたものだとマゼラは言う(本社から2分ほど離れたところにル・プラプラという似た名前のレストランがあるが、なんの関係もないらしい)。「候補は250もありました。それを30まで絞り込んで、何人かの友人に送りました。1~2カ月後にこのあいだ送った名前のリストは覚えてる?と尋ねると、半数以上がブラブラカーを挙げたんです」
「アクティビティ・ペースモデレートシーンやマゼラが好んで話題に出すのは、信用のことだ。信用こそがブラブラカーの核心であると考えており、信用の重要性を熱く語る(スーパーマンのような衣装を着て胸に「信用」の頭文字Tを配した「トラストマン」の等身大パネルを段ボールでつくり、本社オフィスに飾っているほどだ)。信用に関するマゼラの考えの土台にはDREAMSという枠組み(公表、評価、関与、実践本位、節度、SNS)があり、同社では信用ある取引への理解を深めようと常に取り組んでいる(6)。
このように信用を重視するのは、もっともなことだ。人々がイーベイというP2P取引市場を通じて商品を送り合うようになって3年がたち、社会にはインターネット上の半匿名の個人とやり取りする際にデジタルな信用を築くシステムができている。しかし、相手が見ず知らずの他人であることは同じでも、宅配便で荷物を送ってもらうのと、車で送迎してもらうのでは信用のレベルが違う。信用レベルは、どうすれば向上できるのだろうか?」

商取引とコミュニティの融合

マゼラのこだわりは、信用に対する興味からシェアリングエコノミー研究を始めた私にはよくわかる。2011年、私はミネソタ大学のラヴィ・バプナとアロック・グプタ、テキサス大学のサラ・ライスと共同で研究プロジェクトを進めていた。フェイスブックのアプリを使った経済学的実験で、フェイスブックの友達同士がどの程一度お互いを信用しているのか、その信用度がフェイスブック上での付き合いとどのように関連しているのかを測った。
とても鋭い問題設定とアプローチだと私たちは考えていたが、結果を学術会議で発表しても、なんの役に立つのか例を挙げてほしいと言われるばかりだった。そこで、フェイスブックでの友達関係を信用ある取引の基盤として利用している企業を探した。その結果見つかったのが、小さな新興企業だったゲットアラウンドだ。フェイスブックでつながるという、当時はまだ珍しかった手法で、ゲットアラウンドは身元と信用を担保していた。
私は2011年8月に共同創業者のジェシカ・スコーピオとフェイスブックでつながり、ゲットアラウンドが立ちあげ間もない頃だったこともあってすぐに協力を得ることはできなかったが、同社の発展はチェックしつづけた。2年ほどたった頃から、CEOのサム・ゼイドと戦略責任者のパッデン・マーフィーのおかげで研究に取りかかれるようになった。ゲットアラウンドは科学のために無条件で協力してくれるすばらしい情報源で、経済的影響のモデルを組み立てるのに不可欠のデータを提供してもらっている(同社はカリフォルニア大学のスーザン・シャヒーンとも協働して、カーシェアリングの環境面での恩恵をよりよく理解する助けとなっている)。ゲットアラウンドは4000万ドル以上のベンチャー資金を調達するなどして急成長を遂げている。自動車を予約すれば所有者の承認なしで使える同社の「インスタント」方式は、購買中心の消費者行動が共有中心に変わる強いきっかけとなるだろう。このP2Pレンタルのモデルこそシェアリングエコノミーの核心部分であり、「所有権なき利用」と「ヒエラルキーに代わるネットワーク」というふたつのアイデアを両立させる完璧な答えとなる。
しかし、大規模でデジタルなP2Pレンタル市場は、自動車以外にはまだ存在しない。電動のこぎりから掃除ロボットまでなんでも扱う、スナップグッズという先駆的サービスがあったが、利益の出るビジネスモデルを見つけることはできなかった。新しいビジネスチャンスの鉱脈になる可能性があるのは、あまり裕福でない人々が所有している高価なものを対象としたレンタル市場だ。たとえば、ニューヨーク大学の学生のリスペス・カウフマンとクリスティーナ・ブデリスが2014年に立ちあげたキットスプリットでは、カメラ、レンズ、バーチャルリアリティ用ヘッドセットといったプロ用の機材を、個人の映像作家同士で貸し借りしている。ただ、2015年後半の時点では、規模拡大に成功したほかの例を挙げるのは難しく、P2Pレンタルは主に掲示板に近いサービス、たとえばアラン・バーガーが率いるネイバーグッズなどを通じて行なわれている。伝統的な短期貸し出しの仕組みである図書館にならい、家庭用品のレンタル事業で成功している例は多い。ジーン・ホミッキはウェスト・シアトル・ツール・ライブラリーを立ちあげて2012年まで運営し、今ではマイターンというソフトウェア企業を経営して、地域で「資産の図書館」をつくるサービスを展開している。ホミッキによれば、こうした貸し借りサイトではコミュニティが自然発生することがしばしばあるといい、2014年にオンラインマガジンのシェアラブルでこう述べている。「これまでに見られたのは、まず、ツールの図書館から市場が生まれるという現象です。それから、協働スペースと市場によって増強される例も見られます。どちらも自然な流れです(7)」
高級アパレルやアクセサリーは、一見するとP2Pレンタルにそぐわないように思える。しかし、高級衣料を定価の1分の1ほどで数日間貸し出す(2015年時点)レント・ザ・ランウェイが成功したことを受けて、P2Pアパレルレンタル市場が多数生まれている。アメリカではスタイルレンドやレント・マイ・ワードローブ、ヨーロッパではレンテヴー、ドバイではデザイナー4などがある。
ファッションモデルからシリアル・アントレプレナー(連続起業家)に転身し、スタイルレンドの共同創業者でCEOを務めるロナ・ダンカンと、2015年初めに興味深いミーティングをする機会があった。ダンカンは、衣料品とアクセサリーのP2Pレンタルには大きな可能性があると力説した。「所有権がなくても利用するというのは、購入するより自然なことです。女性というのは身に着けるものをより柔軟に選びたいものですから。それに、貸し出して収入が得られるとなれば、衝動買いが増えるかもしれません」。レンテヴーの創業者、フィオナ・ディゼニとも2014年に話をした。ディゼニは、このビジネスモデルが小規模でニッチなデザイナーには特に有意義であると指摘した。P2Pレンタルという活動によって、潜在顧客のファッション嗜好を詳しくつかむことができ、好みが似ているユーザーのあいだでコミュニティが発生し、フィードバックのルートと市場調査の手段がデザイナーの手に入り、レンタルに続いて抵抗なく購入する流れがつくられるからだという(面白いことに、これらの利点はソーシャルメディアが持つ商業的価値として私が2007年に大学で教えていた内容とよく似ている)。
しかし、ダンカンによれば、最大の問題は物流にあるという。商品は所有者から借り手へと運び、使用後はドライクリーニングをしてから確実に返却しなければならない。レント・ザ・ランウェイのようなB2C企業であれば大規模かつ効率的にできるが、小規模なP2P市場には常につきまとう問題だ。その結果、2015年半ばの時点で、スタイルレンドとレンテヴーは両社とも衣料品交換会のようなイベントを主に手がけており、顧客は用意された会場で顔を合わせて品物の受け渡しや交換をしている。ディゼニとダンカンが指摘した商業とコミュニティの融合は、ホミッキの言うツールの図書館における出会いや交換の相互発展と近いものがある。
しかし、まだ肝心の疑問が残っている。「所有権なき利用」により効率性が大きく向上するのは明らかだが、P2Pレンタル市場は家屋や自動車のような高額資産でなくとも規模を拡大できるものなのだろうか?商業とコミュニティがこうしてつながることに、長期的価値はあるのだろうか?P2Pレンタル市場が急拡大することがあれば、経済にどのような影響が出るだろうか?取引の機会が増え、成長が促されるのか?ダンカンの予想する「衝動買いからの貸し出し」という流れが実現するのか?あるいは、商品が売れなくなって景気が減速することになるのか?

ラ・リュッシュ・キ・ディ・ウイー完璧さの再定義

フランスでも、顔の見えるP2Pビジネスモデルが食料品の買い物という分野で人気を集めている。2014年の春、ニューヨーク大学スターン・スクールでMBAを専攻している優秀な学生チーム(フマイラ・ファイズ、シドニー・グラシャック、アンドリュー・ング、ジャラ・スモール)を連れて、マルクダヴィッド・シュクルンに会いにいった。シュクルンはラ・リュッシュ・キ・ディ・ウイを共同創業したCEOで、同社は「イエスと言う蜂の群れ」と訳すことができ、英語圏ではザ・フード・アッセンブリーという名称で知られている。パリに拠点を置くシュクルン率いる活発なチームが開拓しているモデルは、農作物の市場をデジタル技術で拡張する、バーチャルと現実の見事な融合体だ。シュクルンが説明してくれた事業内容は、次のようなものだ。まず、有志が居住地域に「群れ」をつくる。群れは、同社が提供するソフトウェアを通じて、地元農家があらかじめ掲載した作物の出来と価格を見て注文する(ソフトウェアからは市場の宣伝ツールも得られる)。群れと農家の集まりが週2回ほど、有志により時間と場所を決めて開かれ、注文の農産物が引き渡される。有志には少額の手数料(8パーセントほど)が支払われ、ラ・リュッシュ・キ・ディ・ウイにも手数料8パーセントが入り、残りは農家の収入となる。
同社は2010年に着想を得てから、2015年半ばまでに700以上の群れを抱えるまでに成長し、ニューヨークのベンチャーキャピタルであるユニオン・スクエア・ペンチャーズ(USV)から800万ユーロの投資を受けた。USVがフランス企業に投資したのは初めてだった。「土曜の朝に群れの集まりに行き、コーヒーを飲みながら参加者が次々と来るのを眺めました。ここではほかとは違う、独自のことが行なわれていると感じました。アメリカでは誰もやっていません。少なくとも成功例は聞いたことがない」とUSVのパートナーのフレッド・ウィルソンは、2015年にテッククランチの電話インタビューで述べた(8)。会場のにぎわいや参加者が交わす会話と笑顔は、蛍光灯に照らされながら商品棚のあいだをカートを押してひとりで買い物するのが普通のアメリカ人とはきわめて対照的だ。
ラ・リュッシュ・キ・ディ・ウイには、より大きな変化をもたらす可能性がある。農産物の市場で買い物をしたことがあればわかるように、大手スーパーの商品に期待される完璧な色や形をしていない作物にも、消費者は慣れる。しかし、シュクルンによれば、慣れが生じるのは商品の見た目だけではないという。2014年の夏にニューヨークで開かれたラ・フレンチ・タッチ・カンファレンス(技術を切り口にフランスと世界を結ぶことを目指すイベント)の機会に話を聞いたところ、その慣れは悪くないもののようだ。「消費者は、サービスに対する期待を変えなければなりません。有名ブランドにより合理化された、変化のない体験を当たり前だと思っているのです。当社では、合理化されたシステムを提供することはできません。コミュニティによってまったく違ったものになります。利用者は多少の不完全さを受け入れる必要があります。小規模農家が消費者と直接コンタクトを取るシステムで、完璧なサービスを提供するのは非常に難しいですから。ときには商品がなかったり、農家が渋滞で遅れたりすることも受け入れないといけません。ですが、実際に消費者の期待には変化が現われていますよ。人々の理解が進もうとしています」
シュクルンの話を思い出すことが私にはよくある。ホテルの部屋に入り、タオルがきっちりと昼まれ、すべてがあるべき場所に収まっているのを見たときや、ルームサービスがたった1分遅れただけでいらいらしたときなどだ。企業中心の社会を生きてきた私たちは、考えてみればあまり重要でない高品質の商品やサービスに過剰な投資をしているのだろうか?個人対個人の関係が復権すれば、自然とかつてのように本当に重要な品質だけを求めるようになるのだろうか?

アルン・スンドララジャン (著), 門脇 弘典 (翻訳)
出版社 : 日経BP (2016/11/17) 、出典:出版社HP

本書の読み方

ここまで、いくつもの問題を提起してきたが、こうした疑問に答えることが本書を執筆した目的である。読者の方々には、台頭しつつあるクラウドベース資本主義と、人々が受ける可能性のある強い影響への理解を深めていただければ幸いだ。
本書の内容は、大きく原因と結果のふたつに分かれている。もちろん、初めから終わりまで通読するのが理想的だ。しかし、違う順番で読みたい方のために、概要を示しておく。
第1~4章は「原因」のパートで、過去と未来の両方に目を向ける。第1章ではシェアリングエコノミーが市場経済と贈与経済のどちらなのかを論じており、本書の後半に向けた重要な予備知識となる。同じ章で述べているシェアリングエコノミーの考え方の変遷は、研究者にはとりわけ興味深いと思う。
第2章は、ここ数年でシェアリングエコノミーがにわかに活況を呈している理由を知りたいという方に向いている。デジタル技術によって今後起きうる変化を考える枠組みが欲しい場合も、役に立つだろう。専門的すぎることはないが、あとの章を読むのに必須というわけでもない。同様に、第4章では、この先1年でクラウドベース資本主義を変える可能性のある「ブロックチェーン」という新しい技術を概観する(後述するように、この技術により一般大衆は単なる供給源ではなくなり、暗黙のうちに市場そのものを集団で所有し、実際の運営を担う「仲介者」に変わる)。2015年のブロックチェーンの議論には、特に許可なきイノベーションに関して、1995年の商用インターネット黎明期に行なわれた観念的な論争と似たところがある。ブロックチェーン技術により、P2P市場とデジタル契約の新時代が到来すると考えられる。この章も本書の後半を読むのに絶対必要ではない。
第3章では、シェアリングエコノミーのプラットフォームによって生み出されつつある、新たな「機構」の性質を掘り下げる。組織と市場の境界線にデジタル技術がもたらす変化を長年研究してきた結果を踏まえた議論となっている。これまでにないシェアリングエコノミー事業を組み立てる枠組みを探している場合や、経済活動の仕組みを決めているものは何かというより一般的な疑問を持っている場合に役立つだろう。
第5~8章では、経済・規制・労働にもたらされる影響、すなわち「結果」を扱う。経済的影響を論じた第5章と規制問題について述べた第6章は、それだけ読んでも理解できるよう努めたが、本書の前半部分を読めばより多くの学びを得られるはずだ。労働の問題にだけ興味があるという場合は、第3、7、8章を読むことをお勧めする。
2013年のニューヨーカー誌の記事で、ジャーナリストのジェームズ・スロウィッキーはクラウドベース資本主義の可能性を正確に指摘した。ウーパーがベンチャーキャピタルから4億ドルを調達したことに触れてから(当時はあまりに高額だと思われていた)、スロウィッキーはこう結論づけた。
こうした新興企業に資金が流れ込んでいる状況は、ミニバブルが起きつつあるかのように感じられる。しかし、この活況の背後には、経済に多くのリソースが眠っているという賢明なアイデアがある。自家用車が平均して1日に1時間しか使われていないなど、資産は遊ばされているし、働き手には使われない時間とスキルがある。資産を持っている人々と、代金を払ってでも借りたい人々を結びつけることができれば、ムダを減らし、結果的により効率的なシステムが実現できる。
インターネット上の市場は、スロウィッキーが可能性を指摘した結びつきに基づく「コミュニティ」の一種だ。そして、もちろんほかの種類もある。本書では、議論の的を絞るため、人気を集めているシェア活動でも言及しなかったものがいくつもある。食品協同組合、カーシェア協同組合、タイムパンク、自転車シェア計画、コハウジング、コワーキングなどだ。ただし、こうした活動が取るに足りないとか望ましくないということではない。私が設定したクラウドベース資本主義にぴたりと収まらないのだ。では、これまでに挙げた事例に話を戻そう。私はいわゆるシェアリングエコノミーの分野で、非常に多くの経営者、思想家、組織と出会い、刺激を受けてきた。ここで挙げたのはそのほんの一部であり、各章でさらに多くの例を紹介していく。それらは組み合わさって、すばらしいイノベーションのタペストリーを織りなしている。数十年後の資本主義社会の姿を垣間見ることができるだろう。そこからは多くの疑問も湧いてくる。信用に関する疑問や、ブロックチェーンのような新しいデジタルインフラ、経済的影響、働き方、社会的セーフティネット、あるべき規制などについての疑問だ。本書では、ここに挙げた以外にも多数の疑問に対する答えを探っていく。
まずは、おそらく誰もが抱く大きな疑問から始めよう。「シェアリングエコノミー」の正確な定義とは何か?その答えを求めて、またヨーロッパに飛ぶことにしよう。舞台はパリのウイシェア・フェストだ。

アルン・スンドララジャン (著), 門脇 弘典 (翻訳)
出版社 : 日経BP (2016/11/17) 、出典:出版社HP

いまこそ知りたいシェアリングエコノミー

働き方と生き方を変える幸せの指南書

本書は近年流行っている、シェアリングエコノミーが流行に至るまでのシェアの歴史から最先端の事例(国外、国内)まで幅広く扱っている内容です。シェアリングビジネスの基礎を網羅的に把握したい方におすすめです。シェアする未来が、自分の生活や社会にどんな幸せを及ぼすだろうかと、ワクワクしながら読み進めることができます。

長田 英知 (著)
出版社 : ディスカヴァー・トゥエンティワン (2019/9/27) 、出典:出版社HP

はじめに

今、私たちは時代の転換点を迎えています。
2019年は、元号が平成から令和に変わった年です。
新しい時代の幕開けを祝福するかのように、2020年には二度目の東京オリンピック、2025年には二度目の大阪万博が開催されます。
最初の東京オリンピックと大阪万博が行われた1960年代~1970年代前半は、日本の経済成長が軌道に乗った時期でもありました。
新幹線や首都高速道路、羽田空港(現・東京国際空港)など、その後の経済発展を支える社会インフラに多くの投資がされました。また、一般家庭に「三種の神器」と呼ばれたカラーテレビ、洗濯機、冷蔵庫などが普及していったのもこの時代です。
最初の東京オリンピックで使用された代々木体育館を設計した丹下健三氏は「東京計画1960」の中で、新しく大胆な都市像を提示しました。
結局、その計画は実現に至りませんでしたが、大胆な提案が出され、受け入れられるような空気感がこの時代にはあったように思います。
一方、二度目のオリンピックと万博を迎えようとしている現在、世間が高揚感やきらびやかさに満ちているかというと、そうではないように感じます。
もちろん新しい時代を祝うイベントや式典はあり、ゴールデンウィークの2連休では、多くの人がレジャーを楽しんでいました。しかしそれは、「新しい時代を無邪気に楽しむ」という雰囲気ではなかったように思います。
その大きな理由としては、「人口減少」「高齢化」「一極集中」など、日本の将来への漠とした不安が現実味を帯びてきたことがあるのではないでしょうか。
2020年、東京都、沖縄県を除く4の道府県で人口が減少に転じます。
2025年には、団塊の世代が方歳以上の後期高齢者となり、人口の5人に1人が5歳以上になります。
そして超高齢化社会を見据えて、年金支給年齢の引き上げや支給額の引き下げなどが検討されています。さらにはAIやテクノロジーの進展により、単純作業だけではなく、専門的な仕事までもがロボットやシステムにどんどん代替されていきます。そのような中、「人はどのようにして自らの存在意義を見出していくのか」を一人ひとりが真剣に考えなければならないときを迎えています。
私たちは今日、「生まれてから、死ぬまで」を豊かに安心・安全に暮らしていくことがとても難しい時代を生きています。
もちろん戦争などの社会不安がある時代とは異なり、表面的な安定や発展は続いていますし、それがいつまでも続いていくような感覚や期待感もあるでしょう。
しかしその一方で、火にかけられていることに気づかないで鍋の中にいる茹でガエルのように、じわじわと居場所がなくなっていき、いつの間にか生きる術すら失ってしまいそうな不安を多くの人が無意識に感じているように思います。
私は大学卒業後、国内大手生命保険会社に入社しましたが、約1年半で退職し、5歳で市議会議員になりました。当時、3代での転職は一般的ではなく、まして政治の道に入るなどは、ほとんど考えられない時代だったので、「一般企業に勤めることは二度とできない」と覚悟をして会社を辞めたことを覚えています。その後、政治家から戦略コンサルタントになりましたが、転職活動はとても大変で、一度レールから外れたらセーフティネットがないことを痛感しました。
ダーウィンは進化論において「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもない。唯一生き残るのは変化できる者である」と述べています。この言葉の意味を身をもって学んだ経験でした。この状況は、転職がより一般的になっている現在も変わらず、大きな社会問題になりつつあります。
「いい大学を卒業して、いい会社に入れば一生安泰」といったこれまでの人生の成功モデルはもはや通用しない。昨日まで業績がよかった大企業が突然の不振に陥り、あえなく倒産することも稀ではない。しかしそこで、会社に滅私奉公していた社員を守ってくれるものは、ほとんど何もないのです。
その後、コンサルタント職を離れて、宿泊施設の貸し借り(シェア)を個人間で行うネットワークサービスを提供するAirbnbJapan(エアビーアンドビージャパン)に参画したのは、「シェア」という考え方と、それに基づき設計される新しい経済システムは、この社会変化の中で多様な生き方を実現するための基盤となるだろうと考えたからです。
実は、シェアという考え方は新しいものではなく、昔から日本のコミュニティを支える重要な役割を担っていました。
しかし、近年の新しいテクノロジーは、シェアの概念を「シェアリングエコノミー」という新しい経済システム(本書では「共用経済」という言葉で説明します)にまで昇華させることを可能にしました。
そして、この新しい経済システムに立脚した新しい働き方やビジネスモデルが、次々と生まれ、進展しようとしています。
今の時代、限られた人的資源と投資マネーで付加価値を生み出すために、これまでのように大規模投資を行うことによって新しいインフラをつくっていくのは現実的ではありません。
それよりも、今ある資産をシェアという概念でよみがえらせ、より少ない投資で新しい事業を始める仕組みや働き方を推進していくほうが賢明で、新たな活路を確実に見出せます。
シェアが一般的になれば、会社に勤めている人も本業以外で収入を得られる選択肢を少ない投資コストで確保することができます。
出産や育児、親の介護などの理由で、フルタイムの仕事ができないときは、自分がそれまでに培ってきた経験やスキルを活かし、空いている時間を活用してお金を稼ぐことが可能になります。そしてシェアは人と人をつなぎ、新たなコミュニティを生み出します。
このように、シェアは社会の新たなセーフティネットとなるのです。
私たちは今、社会構造と物事の考え方を大きく変える潮目にきています。これまで前提としてきた資本主義という経済システムを補完、あるいは代替する可能性を秘めている共用経済への転換期は、まさに今です。
「世界の注目が日本にある2020~2025年という時期を前に、この転換を成し遂げるための地図を描きたい」という思いが、本書執筆の大きなきっかけになりました。
本書では、
・シェアがなぜこれからの時代の社会スタンダードとなっていくのか
・私たちがこれからの時代を生き抜くうえで、シェアはどのようなライフスタイル、ワークスタイルを可能にするのか」
・日本の社会の未来を築く共用経済の確立に向けて、どのような取り組みを進めていけばよいのかといったことについて考察していきたいと思います。

2019年9月
長田英知

長田 英知 (著)
出版社 : ディスカヴァー・トゥエンティワン (2019/9/27) 、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 シェアの歴史といまを知る
なぜいま、「シェア」が評価されるのか?
私たちの暮らしを支え、豊かにした3つの「シェア」
これからの時代に役立つシェアの形
新しいシェアを支えるもの1~進化するテクノロジー
新しいシェアを支えるもの2~安心・安全の仕組み

第2章シェアの可能性を知る
新しいシェアを定義する
新しいシェアの種類1~音楽・映像のシェア
新しいシェアの種類2~不動産と移動手段のシェア
新しいシェアの種類3~個人スキルのシェア
新しいシェアが実現する新しい経済システム

第3章 過去の働き方とこれからの働き方
高度経済成長を支えたこれまでの働き方
これまでの働き方の崩壊
なぜ、新しい働き方が求められているのか?
「シェア」が働き方の理想と現実のギャップを埋める

第4章 シェアが可能にする幸せな働き方
「幸せ」を叶える働き方とは?
シェアなら「稼ぐ」と「幸せ」を両立できる
シェアでもっと自由に生きる
シェアが企業と社会に与える影響

第5章 「利用者」としても「提供者」としても、シェアを活用するために
シェアには想像以上の活用法がある
シェアサービスの「提供者」になるための戦略を立てる
WIN-WINになるサービスのルールをつくる
トライアンドエラーを繰り返す

第6章 シェアが与える日本企業へのインパクト
シェアは日本に馴染むのか?
シェアリングエコノミー市場の参入フレームワーク
企業間連携によるシェア

おわりに

第1章
シェアの歴史といまを知る

長田 英知 (著)
出版社 : ディスカヴァー・トゥエンティワン (2019/9/27) 、出典:出版社HP

シェアリング・エコノミー--Uber、Airbnbが変えた世界

次世代ビジネスの実態がわかる

シェアリングエコノミーをざっくり見渡すのには、全体と個別企業の取り上げ方のバランスがよく、理解しやすい解説となっています。新しいビジネスチャンスというだけでなく、シェア経済が私たちの社会にいかに大きなインパクトを与えるか、その輪郭が理解できます。

宮崎 康二 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2015/7/23) 、出典:出版社HP

シェアリング・エコノミー--Uber、Airbnbが変えた世界

はじめに

「シェア」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。いま、さまざまなものをシェアするという動きが全世界的に広がっている。「シェアリング・エコノミー」と呼ばれるこの現象は何を意味しているのか。人々が大量生産・大量消費社会に嫌気が差して、モノを買わなくなっているのだろうか。そうではない。近年、急速に広がるシェアリング・エコノミーの潮流の背景には、テクノロジーの進歩がある。
そもそも、私たちは、多くの資産を有効に活用できていない。自家用車は1日のうちのほとんどの時間、駐車場に置かれているだろうし、自分が不在のとき、空いている部屋を使う人もいない。これまでは、そうした資産をうまく活用する方法も考えもなかった。しかし、近年、インターネットやスマートフォン(スマホ)の急速な普及によって、それが可能になってきている。
たとえば、Airbnb(エアビーアンドビー)やUber(ウーバー)といったシェアリング・サービスを提供している企業がある。消費者は、旅先でAirbnbを使えば、不在中で使い手を探している家や空いている部屋を探すことができるし、Uberを使えば、クルマに乗せてくれる人やタクシーをスマホで探すこともできる。
シェアリング・エコノミーとは、2000年代後半以降、スマホの普及と同時に急速に発展した、モノやサービスを共有したり融通し合ったりする仕組みである。その取引は、個人間(Peer to Peer)で行われることが多い。シェアリング・エコノミーが発展した背景には、インターネットによってモノやサービスを取引する際のコストが下がったことや、ソーシャルメディア上の評価システムによって、見知らぬ者同士でも信頼し合うことができるようになったことがある。
シェアリング・エコノミーには、世の中にあるモノや人といったリソースの稼働率を上げることで、社会全体の生産力を上げるという効果が期待される。2016年にはシェアリング・エコノミーの経済規模が10兆円を超えるという試算もある。
実際、シェアリング・エコノミーの潮流は、巨大なビジネスチャンスを生み出している。Uberは未上場ながら企業価値評価額は5兆円弱(400億ドル)、Airbnbは1兆円強(100億ドル)となっている。両社とも2000年代後半に創業された企業であることを考えれば、その急激な成長ぶりがわかるだろう。
このビジネスチャンスをつかもうと多くのスタートアップが登場しており、グーグルやアリババ集団、百度(バイドゥ)、ソフトバンク、楽天といった世界中のIT企業が投資を行っている。また、それはIT企業にとどまらない。フィデリティ・インベストメンツやブラックロック、サード・ポイントなどといった機関投資家の投資も呼び込んでいる。
しかし、その一方で、個人間で取引をするということは、規制の対象にもなりやすい。ホテル業界やタクシー業界といった規制が厳しい業界で提供されるサービスと類似したサービスの場合は、特にそうである。シェアリング・エコノミーを促進し、社会全体の生産性を上げるためには、そうした規制についても見直していく必要がある。
本書では、シェアリング・エコノミーの流れを促進する背景や、それが社会に与える影響、そして、私たちの社会が直面する問題について考えていく。本書は、大きく2つに分けられる。
まず、第1章と第2章では、シェアリング・エコノミーとは何かといった概観をとらえ、それに付随して起こっている数々の問題規制や労働の問題について考察する。
そして、第3章以降では、シェアリング・エコノミーが起きているさまざまな業界を取り上げ、より詳細に説明していく。
本書の執筆にあたっては、慶應義塾大学商学部の深尾光洋教授から数多くのアドバイスをいただいた。長年にわたり金融や経済について調査・研究されてきた深尾教授による的確な指導がなければ、本書の分析はなかった。また、出版にあたっては、日本経済新聞出版社の伊藤公一氏にお世話になった。この場を借りてお礼を申しあげたい。
なお、本書の誤りは当然のことながら筆者に帰属し、その内容は、筆者が所属する、あるいは所属していた組織とは一切関係のないことを明らかにしておく。

2015年7月
宮寄康二

宮崎 康二 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2015/7/23) 、出典:出版社HP

目次

第1章台頭するシェアリング・エコノミー
シェアリング・エコノミーとは
P2Pでのモノのやりとり/古くからあったものか
取引の仕組みと3つの主体
代表的な仕組み/プラットフォーム運営企業/スモールビジネス/消費者
何がシェアリングを可能にしたのか
取引を可能にした3つの要因/追い風となった社会現象
シェアリングのインパクト
既存産業の需要を奪うか/大手企業の参入/経済全体にもたらす影響
5兆円企業の登場――経済効果と市場規模
多額の投資を呼び込む急成長市場/市場規模はどのくらいか/利用している人たちは
シェアリングが引き起こす問題
需要は減るか/規制や税金から逃れていないか/労働者を搾取していないか

第2輩求められる新たな枠組み――規制と労働
外部不経済をどう解決するか
問題となる規制のあり方/最適分配の3条件/競争は存在している/情報の非対称性は少ない/外部不経済は存在する
既存産業の規制は当てはまらない
Airbnbにホテルの規制が適用されると/UberXにタクシーの規制が適用されると/現実に即した規制を
規制づくりの4つのポイント
既存業界との違いを認護する/大枠は運営企業に任せる/試行錯誤が不可欠/業界で意見を出す
見えにくい労働問題
働き手は個人事業主/Uberで起きたストライキーライドシェアサービスの例/Homejoyで起きた問題―クラウドソーシングの例
企業側と個人事業主である働き手のメリット
従業日と個人事業主の違い/労働力を流動的に活用できる――企業側のメリット/働き手のメリット
均衡点はどこか料金と手数料率
ドライバーの収入と給与の比較/どの程度の売り上げを渡すべきか/収入は均衡へ向かう

第3準 P2P宿泊サービス|Airbnbが変えた世界
Airbnbのアイデア
P2P宿泊サービスの原型/3つの特徴
急成長の背景に何があったか
インターネットの普及と都市部の地価の上昇/追い風となった3つの理由
P2P宿泊サービスがもたらすもの
不動産の有効活用/新たな需要をつくる/外部不経済をなくすには/大企業の参入
求められる規制とサンフランシスコ市での合法化
ニューヨークでの法廷闘争/日本国内での逮捕事例/カリフォルニア州の場合―規制以外の弊害/サンフランシスコ市での合法化

第4章 ライドシェアサービス|Uberが変えた世界
ライドシェアサービスとは
2つの特徴/Uberのサービスラインアップ/期待されるカープールサービス/他社との連携で生まれる新サービス
ライドシェアサービスがもたらすもの
価格変動による効率的な資源分配/新車需要は減るか/新たな投資を呼び込むライドシェアサービス
IT大手の出資、既存企業の動き
フェイスブック、グーグルの狙いは何か―IT大手の出資と連携/配車アプリで対抗するタクシー業界
求められる規制とカリフォルニア州での合法化
各地で営業停止に/タクシー免許は必要か/営業許可は必要か/保険加入は義務化すべき/料金体系は自由化すべき/カリフォルニア州での合法化/Uberで行われている取り組み
進化するライドシェアサービス物流と自動運転
物流のプラットフォームに/自動運転がもたらす可能性/グーグルと競合するか

第5章広がるオンデマンド型サービス
「いますぐ欲しい」に応える
典型例はUber―いつでもスマホからリクエスト
どんなサービスがあるか
ライドシェアサービス/カーシェアリング・サービス/スペースの予約サービス/家事代行サービス/オンデマンド配送サービス/食品・生活必需品配送サービス/料理・弁当宅配サービス/モノのレンタルサービス/医療・美容サービス
オンデマンド型サービスの今後
安さと速さが最大の特徴/IT大手も手掛ける即日配送サービス

第6準カーシェアリング・サービス
カーシェアリングとは――2つのビジネスモデル
レンタル型とP2P型/手軽な日常の移動手段―レンタル型/レンタカーと競合するP2P型 カーシェアリングがもたらすもの クルマやスペースの有効活用/新車需要は減るか/稼働率向上による環境への好影響
レンタカー会社と自動車メーカーの参入
エイビスの狙いーレンタカー会社による買収/自動車メーカーの参入/テクノロジーで進化するサービス
普及に向けた2つの課題――営業許可と保険
営業許可のトラブルーサンフランシスコ国際空港/乗り捨てが可能に――日本の法規制と改正/保険の適用範囲―営業停止命令を受けたRelay Rides

第7章 広がるシェアリング・サービス
進化するモノのシェア
eBay|シェアリング・エコノミーの起源/安全な決済サービスの存在/2つの流れ|進化するモノのシェア/「フリ マアプリ」に代表されるスマホのマーケットプレイス/ファッションアイテムのレンタルサービス
クラウドソーシング――個人の時間やスキルをシェアする P2PとP2B/クラウドソーシング企業の役割/膨らむ市場/P2P型の急拡大
クラウドファンディング|個人間でおカネをシェアする
不特定多数の個人から資金を集める/資金需要者と投資家のマッチング/融資や投資の一部が行われる可能性も
コンテンツ配信
ストリーミング配信の急拡大/レンタルも行われるようになった電子書籍
日本経済へのインパクト
2020年に向けて/高齢化や人手不足といった問題の処方蜜に

コラム
2-1 政府と市場
2-2 評価システムの限界
2-3 ロビー活動の重要性
2-4 最低賃金とシェアリング・エコノミー
4-1 Uberの料金変動システムは合理的か
4-2 日本におけるUberXの可能性
5-1家事は2万円で外注できるか
7-1 B2Bのシェアリング・エコノミー
7-2 決済手段としてのビットコイン

解説 技術革新が急速なビジネス分野のダイナミズムを取り込むには 深尾光洋
装新 松田行正

宮崎 康二 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2015/7/23) 、出典:出版社HP

図解入門ビジネス 最新 シェアリングエコノミーがよ~くわかる本

25の事例に見るシェアビジネス

シェアサービス提供の仕組みを図解で分かりやすく解説し、日本における25の事業者の事例を紹介した、シェアリングエコノミーの入門書の位置付けとなっています。モノだけでなく空間や人をシェアリングするビジネス、技術・教育でのシェアリングの取り組みなど、今まさに生まれつつある新しいビジネススタイルで、経営革新のヒント満載でオススメの一冊です!

上妻 英夫 (著)
出版社 : 秀和システム (2018/6/22) 、出典:出版社HP

●注意

(1)本書は著者が独自に調査した結果を出版したものです。
(2)本書は内容について万全を期して作成いたしましたが、万一、ご不審な点や誤り、記載漏れなどお気付きの点がありましたら、出版元まで書面にてご連絡ください。
(3)本書の内容に関して運用した結果の影響については、上記(2)項にかかわらず責任
を負いかねます。あらかじめご了承ください。
(4)本書の全部または一部について、出版元から文書による承諾を得ずに複製すること「は禁じられています。
(5)本書に記載されているホームページのアドレスなどは、予告なく変更されることが
あります。
(6)本書に記載されている会社名、商品名などは一般に各社の商標または登録商標です。なお、本文中には、を明記しておりません。

はじめに

激変するビジネス界では、グローバル化、IT化など、テクノロジー(科学技術)の進化でビジネス社会が大きく変貌しようとしています。
この激変するビジネス界の状況の中で、世界的にも最も注目を集め、関心が高いのがシェアリングエコノミー(共有経済)です。“社会が変わってしまうような革新性(イノベーション)”を秘めた“シェアリングエコノミー”と指摘する専門家からは、“従来の経済構造とは全く異なる新しいビジネスモデルであり、簡単には説明しにくいビジネススタイルと言われています。その動きは世界的な潮流であり、国内でも「成長市場であり」「伸びが続き」「拡大傾向にある」と言われています。
略称でシェアリングエコノミー(共有経済)と呼んでいますが、いまだに明確な定義は統一されていませんし、広義、狭義の観点で定義づけられている珍しいビジネススタイルです。
10年前から欧米で始まりだしたシェアリングエコノミーが本格的に日本に上陸してきたのが2016年以降で、日本は世界各国に比べて普及拡大するのが遅れているという現実があります。しかし、日本でも「OOをIT(情報技術)で武装する」をシェアリングビジネスと捉えて動き出している企業も少なくありません。この「OO」の中に、さまざまな言葉を当てはめたシェアサービスが登場しています。
時代が成熟し市場も成熟化が進み、あらゆることが行き詰まりの状態の中で、問題を解決する方法の一つとしてシェア発想があります。
本書ではこのシェア発想を紹介するために、日本で提供されているシェア事楽運営会社25の事例を紹介し、経営者や新しい事業で起業をする方、事業活性化を狙う担当者、の方々に役立てていただければと考えています。
なお、執筆にあたっては取材先の数多くの先駆的な事業会社の経営者(担当者)のご協力をいただき、また関連する資料や写真等もご提供いただきました。本書刊行にあたり深く、感謝の意を表したいと思います。
2018年6月吉日 上妻 英夫

上妻 英夫 (著)
出版社 : 秀和システム (2018/6/22) 、出典:出版社HP

CONTENTS

はじめに
1. シェアリングエコノミーの時代
1-1 世界的な広がりを見せるシェアリングエコノミーの波
1-2膨張するシェアリングエコノミーの市場規模
1-3 基本的な仕組みはプラットフォーム作りから
1-4 ニッチビジネスからアイデアビジネスまでのシェアリング
1-5 遊休資産と人材確保に効くシェアリング
1-6 シェアリングエコノミーを支えるキーワード
1-7 シェアリングビジネス成功のカギは信頼の積み重ね

2空間・人のシェアリングの可能性
2-1 空間の貸し借りを提供
株式会社スペースマーケット
2-2 日本初、人材紹介サービスのプラットフォーム
株式会社SCOUTER.
2-3荷物一時預かりシェアサービス
ecbo株式会社
2-4 シェアハウスからソーシャルアパートメントへ
株式会社グローバルエージェンツ
2-5 空き駐車場シェアリングサービス
akippa株式会社
2-6 マイプレイス型空間サービス
コインスペース株式会社

3 1代行・技術・教育のシェアリングの可能性
3-1 頼り合いながらの子育てシェア
株式会社AsMama
3-2 日本最大級のまなびのマーケット
ストリートアカデミー株式会社
3- 3日本最大級のクラウドソーシング
ランサーズ株式会社
3-4 デジタル素材をオンラインでつなぐ
ピクスタ株式会社
3-5 家事代行マッチングプラットフォーム
株式会社タスカジ
3-6 “家事の困りごと”のシェアリングサービス
株式会社エニタイムズ

4 モノのシェアリングの可能性
4-1 建機シェアリングサービス
豊田通商株式会社
4-2 ファッションで独自のパーソナライズ戦略
株式会社エアークローゼット
4- 3日本最大のバッグシェアサービス
ラクサステクノロジーズ株式会社
4-4 世界のナチュラル&オーガニック商品を提案
株式会社cart

5 移動のシェアリングの可能性
5-1 個人間カーシェアサービス 株式会社ディー・エヌ・エー
5-2 地域密着性の高いシェアサイクルサービス
OpenStreet株式会社
5-3「借りたい」「貸したい」のカーシェア
株式会社シェアのり
5-4 中距離相乗りマッチングサービス
株式会社notteco
5.5 既存の物流業と印刷業にシェアを導入
ラクスル株式会社

6 その他のシェアリングサービスの可能性 (金融・ファッション・情報ほか)
6-1 衣服生産プラットフォームの実現
シタテル株式会社
6-2 駐車場と自転車のシェアリング
株式会社シェアリングサービス
6-3 “暮らし体験”をマッチング
株式会社ガイアックス
6-4 投資型クラウドファンディング
株式会社クラウドリアルティ

7 シェアリングビジネスの今後と将来性
7-1 コンビニやベンチャー企業との連携事業が進む
7-2 シェアリングビジネスの失敗と問題点
7-3 夢のビジネスと期待の高いシェアリングビジネス

シェアリングエコノミー協会 会員一覧

第1章 シェアリングエコノミーの時代

シェアリングエコノミーの時代の波が確実に押し寄せています。この波は世界に広がり、日本は遅まきながら動き出したという感じです。第1章では、シェアリングエコノミーの広がりや市場規模、基本的な仕組みづくりや、今提供されているシェアリングの事例から、シェアリングビジネスとは何かを見ていきましょう。

上妻 英夫 (著)
出版社 : 秀和システム (2018/6/22) 、出典:出版社HP

シェアリングエコノミー (幻冬舎ルネッサンス新書)

これからの時代における啓蒙の1冊

本書は、石油資源の枯渇から、これ以上の資本主義的経済成長の限界を説いた一冊です。そして、再生可能エネルギーを基にしたインターネットによる交流で即時的な物品の融通と、公正な分配を行うシェリングエコノミーを提案しています。

田村 八洲夫 (著)
出版社 : 幻冬舎 (2018/3/15) 、出典:出版社HP

はじめに

1990年に資産バブルが弾けて、デフレ経済のまま1世紀を迎えた。当時、日本経済にとって「失われた10年」といわれたが、いつの間にか「失われた四半世紀」を超えている。デフレ脱却が目的の「異次元アベノミクス」も色褪せ、中間層の格差貧困、人口減少、地方の過疎・荒廃も止まらない。世界の経済は、豊かさを失い、資宮の拡大、広範な地球環境破壊を伴って、似たようなものである。なぜなら、資本主義衰退にはグローバルな理由がいくつもあるからである。日本の資本主義衰退には、それに特別な原因が加わっている。
筆者は高度経済成長が終焉した第二次石油危機後の時代の流れについて、以下の三つのフェーズでレビューするとともに、第1章1.4節で衰退原因を五つに分けて整理した。第一は、世界の石油消費量が石油発見量を上回る「石油在庫の食い潰し」のフェーズ。第二は、世界の石油(良質で安い石油)生産量のピーク、すなわち生産量(消費量)のアタマ打ちが継続しているフェーズ。第三は、世界の石油生産量が年々減少するフェーズ。2020年代に突入しよう。
まず、石油ピークの今日、資本主義経済が、未だどれだけ石油の厄介になっているのか、およそのことを頭に入れておきたい(1)。
世界のエネルギー消費量(2011年)は、122.7億t/年(tはメートルトンの略号)で、一人当たりの消費量は1・居t/年。内訳は、石油%・1%、天然ガス3・7%、石炭列・3%である。原子力は5%以下で、水力より小さいシェアで、今では再生可能エネルギーの追い上げを受けている。日本のエネルギー消費量(2012年)は、4億7820万tで、世界の一人当たりの平均2.3倍を消費している。内訳は、石油布死、天然ガスの%、石炭9%である。世界も日本も、石油中毒であることに変わりない。次に日本での石油の用途は、輸送や・2%、熱源器・3%、原料9.5%、そして、輸送機関の石油製品消費量(2003年)は、自家用車5%、貨物自動車7・8%を含めてお%、電力はわずか2%である。日本は自動車天国である。
次に、日本の輸送機関のエネルギー消費効率はどうか。t・km(トン・キロメートル)当たり、すなわち1tの物を1km輸送するのに消費するエネルギー(石油のカロリー換算:略号cal)は、鉄道が0.0061(1はリットルの略号)である。それを基準にすると、海運は4倍、自動車は約1倍、航空機はW倍もエネルギーを大量消費している。自動車天国はエネルギー浪費社会である。このまま石油に浸り続けてよいと思う人はいまい。
石油在庫食い潰しは1980年はじめに始まり、石油ピークは2005年に始まった。資本主義経済にとって資本の拡大再生産による複利増殖が生命力だから、「石油制約」、すなわち価格高騰と供給危機は資本主義の将来不安に繋がる。石油に替わるエネルギーについて長らく試行錯誤してきたが、結局、再生可能エネルギーしかない。このエネルギー転換に乗り遅れはできない。
石油価格(現在価値)のトレンドは、高度成長時代は1~8ドル、石油在庫の食い潰しのフェーズは3~0ドルである。石油ピークのフェーズでは毎年上がって100ドルを超えたが、2015年に失速して~8ドル台に逆戻って、現在に至っている。
第一フェーズの間、国際石油資本は石油開発の技術革新に努め、地球上を隈なく探査したが「石油の有限」を思い知った。日本も産業構造と生産工程の改革によって安定成長を図った。バブル崩壊後、幾多の金融政策、財政出動も効果がない。国民にとって巨大な財政赤字と中間層の貧困没落化が続いたままである。覇権国の米国は、経済のグローバル化と金融化で打開を図ったが、却って国力と国際的支配力を失い、世界は貧困と混乱に陥っている。
第二フェーズで石油価格が高騰し、石油代替エネルギーの開発が進んだが、油価は安くないと経済が好況しないことを学んだ。「資本主義の邪道」は2008年に国際金融危機を起こし、2011年にフクシマ3・1という原発過酷事故を起こした。そして、何よりも、「1%の富豪と3%の貧者」という大格差社会が、先進国と世界各国に蔓延した。「石油制約」の上に、中間層没落の大格差社会では、資本主義経済は衰退する。なぜなら、中間層の生産能力と消費能力が資本主義経済を好循環させる駆動力だからである。%%もの貧者は、すでに資本主義にドリームを失っている。どの国も長期国債金利が低下し続け、2016年には米国でも2%以下になった。日本、ドイツはマイナス金利に陥り、資本家の投資意欲の減退を示している。衰退中の資本主義経済は、その生産三要素である「資源」「労働」「資本増殖」のどれもが閉塞状態にあって、資本主義経済が自壊していくように映る。
日本の中産階級没落の実情に話を移す。金融資産のない日本の世帯数は、1987年に3・3%であったが、その後、継続的に増加して2016年現在、実に2倍近い0・9%だという(2)。%年ころは総中流の「豊かな社会」であったが、4世紀になって、日本の若者に自動車の所有離れが進み、非正規社員は、マイカー、マイホームを持てず、安心して結婚し、子育てできる社会でなくなっている。お金は貯まらないし、いつ解雇されるかわからない。
文明社会は余剰生産物が豊かにあって成り立つ。個人主義と私有財産制が発達している現代では、国民の圧倒的多数が、一億総中流時代のように資産を蓄えることが文明人の前提のはずである。しかし、日本は余剰資産のない国民が増え続けて「貧しい文明社会」になった。すでに3%以上の私有地が所有者不明になり、地方の過疎化が進んでいる。それらが原因で、2008年に人口減少国になった。このままでは国民の格差分断と国土の荒廃がいっそう進み、政治・経済・モラルが野蛮的になり、やがて社会崩壊を招くのではないか。それは第三フェーズに、このままではドラスティックに起ころう。
情報通信技術(ICT)が「情報社会論」の後押しで、資本主義経済成長に注目されたのが第一フェーズの初期であった。爾来、ICTは目覚ましく進歩し、インターネットとロボット、人工知能とが一体的になって第二フェーズの現在に登場し経済革命を起こしている。それが、資本主義に替わる「インターネット経済革命」であり、人々の意識、社会のかたちを根本的に変えるだろう。19世紀初頭の資本主義の勃興期に、人々の意識、所有観、さらに社会のかたちが根本的に変わったように。_7世紀の少し前にインターネットの特質を駆使したシェアリングエコノミー(共有主義経済)というビジネスが米国で生まれ、2010年代になって急速に広がっている。「自分の使うモノや能力を、他人と分かち合って使う」という価値観が広がり、日本でも2014年ごろから受け入れられてきている。カーシェアリング、ルームシェアリングに始まり、融通し合って使う様々なビジネスがグローバルに広がっている。仮想通貨による金融もそうである。そして、今では、再生可能エネルギー、製造方法、移動手段のインフラがインターネット・ネットワークを構築し、資本主義と根本的に異なる原理原則の新しい経済システムが生み出されつつある。いわゆるIoT、すなわち「インターネット経済革命」が到来している。これは四半世紀を超える資本主義の行き詰まり、内部矛盾が創出した解決策である。エネルギー文明の研究を続けている筆者は、これを人類史上「三番目の経済革命」と位置付けたい。「第四次産業革命」(経済産業省)、インダストリー4.0(ドイツ)との表現もあるが、人類の社会と意識を大きく変革する論点が乏しいと思われるので、筆者は組みしない。
資本主義経済が衰退から終焉に向かっている今日、ICTと再生可能エネルギーがベースの共有主義経済(「協働型」コモンズ経済ともいう)の台頭が、資本主義に替わるものとしてクローズアップされてきている。これは人類社会にとって幸運なことだと思う。人類社会が彷徨うことなく「道しるべ」をすでに受けたことに等しい。「選手交代」を執拗に嫌う人々は多いと思う。「協働型」コモンズの考え方を資本主義の収益事業に取り込もうとする人々も多いと思う。しかし、インターネット経済の本質からして時間が解決してくれるだろうが、選手交代は早いほど良いに決まっている。第三フェーズに至る前に資本主義が世界的に野蛮的になってきている。石油文明終焉で「社会崩壊」がドラスティックに襲い掛かってくる前に、日本の、世界の若者がインターネットで、P2P(ピア・ツー・ピアの略、第1章1.5節で説明)で繋がって、経済革命を推進してもらいた
日本は、どういう社会であってほしいか。キミはどういう社会にしたいと考えているか。予備校に通う高校生男女を対象にしたアンケート調査の結果がある(3)。脚%に及ぶ高校生が将来の日本として、財政破綻、景気低迷、国際的存在感の低下、少子化の進行を危惧している。そして9割に近い高校生は、自分がリーダーとなり、そんな日本を立て直したいとの大志を持ち、日本の将来像として「技術大国」「幸福度の高い国」「経済大国」を考えている。何も高校生だけではない。今の日本と世界を憂い、「未来社会はこうあるべきとの欲求」を抱いている人々は、年齢に関係なく大勢いる。本書は、このような大志を抱く多数の学生だけでなく、現代社会を憂い、未来社会を探求する、すべての年齢一層の方々に対する提案のつもりである。
その骨子は、以下の四点である。・古代文明がそうであったように、資本主義は人間社会と地球環境をともに荒廃させて、遠くない時期に終焉する。台頭しているシェアリングエコノミーが、交代すべき経済のかたちである。この「選手交代」は早いほど良い。
・その駆動力は進歩の著しいICTベースのインターネット経済革命であり、P2Pに基づく「協働型」コモ
ンズが隈なく展開される。
・ICTベースの「協働型」コモンズは、人々の共感と信頼の上に成り立つ社会である。そして、資本主義で歪んだ社会構造と地球環境破壊を修正し、生態循環の生み出す「果実の範囲」でインテリジェントに持続可能な社会を再構築する。
・ロボットとAIの進歩で高い生産力が維持され、人々は「食うための長時間労働」から解放されて、人生を自分らしくクリエイティブに生きていく社会である。
本書の構成は、第1章で、第三の経済革命として、インターネット経済革命の背景、資本主義衰退の原因、共有主義経済の駆動する力など、全体像を概観し、第8章で、共有主義経済を日本で創り出していく「未来社会の姿」を提起した。それに先立って第2章で人類の本来の姿を欲望と脳の働きから整理して人類の知性について考察し、第3章・第4章で石油依存の資本主義の盛衰と延命のあがきについて記し、次いで人類存亡の危機(第5章)、日本存亡の危機(第6章)について警鐘を鳴らす。第7章で日本で共有社会への「社会変革」を担う力について力説した。大事なことは、適宜繰り返して記述した。
筆者の略歴を、ここで紹介する。石油鉱業界で定年まで油田の発見の仕事に従事してきた。その前に大学では地球物理学を勉強し、探検部に属して梅棹忠夫氏の文明論を語る「学風」の影響を受けた。それ故か、晩年になって「エネルギー文明論」をライフワークとしている。退職後に、石井吉徳氏の「地球は有限、資源は質が全て」という明快なフレーズに同感した。
資本主義に替わる「共有主義経済」への転換のプロセスは多様であり、様々な障害や困難があるものと思う。それを解決して人類社会の新たなかたちを進めていくのは、実際に運動している方々と、「目先の利欲にとらわれない知識人、研究者、学生、実務者」と思う。人類文明を転換する方法や、共感と信頼で幸せな経済社会を創るための「虎の巻」などはない。国民の知恵で試行錯誤して進めていくモノである。その意味で、本書が少しでも役立つのであれば、筆者として本望である。

2018年3月筆者

田村 八洲夫 (著)
出版社 : 幻冬舎 (2018/3/15) 、出典:出版社HP

目次

はじめに
第1章 インターネット経済革命の到来……豊かな人間解放の社会を拓く
1.1 経済革命で社会インフラが変わる
1.2 人類文明を拓いた農業革命
1.3 資本主義経済の勃興と成長
1.4 資本主義経済の衰退と五つの要因
1.5 インターネットが拓く三度目の経済革命
1.6 資本主義とグローバル共有主義は何が違うか
1.7 所有観の移り変わり……私有制と共有制

第2章 人類の欲望……功罪と進化・脳の働き
2.1 人類の欲望と文明の盛衰
2.2 マズローの人間欲望の進化
2.3 脳科学が語る人間欲望の真の姿
2.4 豊かな社会の要件と知性の力

第3章 石油と資本主義の発展と衰退
3.1 石油による資本主義の発展・成熟から低迷へ
3.2 石油は有限だった
3.3 石油ピークで資本主義の挑戦と衰退

第4章 資本主義延命の愚策と社会の分解
4.1 石油代替エネルギーは社会インフラにならない
4.2 原子力は資本主義経済の罪悪
4.3 資本主義の迷走と社会の分解

第5章 人類存亡の危機……地球環境の崩壊が進行中
5. 1 人類の危機レポート『成長の限界」の予測
5.2 資本主義と地球環境破壊・生物絶滅の危機
5.3 生物種の絶滅スピードが猛烈に

第6章 日本存亡の危機……日本の崩壊危機が進行中
6.1 文明崩壊・民族存亡・被曝大汚染の三大危機
6.2 異常な日本の人口減少…….10年後は半減
6.3 日本民族の存亡危機
6.4 日本の生物多様性喪失
6.5 日本大被曝の原発恐怖と存亡の危機

第7章 グローバル共有社会を作る力は何か
7.1 人類と日本の滅亡危機を救う力
7.2 技術的失業者が日本再生の力
7.3 共有主義社会に必要な価値観

第8章 日本の「共有主義社会」のかたち
8.1 バイオリージョン再生で豊穣な国土に戻す
8.2 再生可能エネルギーを自給自足する
8.3 食種を自給自足する
8.4 生産力革命とプロシューマーの活躍で日本は生き返る
8.5 共有主義で豊潤な日本の国土と生活を取り戻す

おわりに
注と出典

田村 八洲夫 (著)
出版社 : 幻冬舎 (2018/3/15) 、出典:出版社HP