【最新】民事訴訟がよく分かるおすすめ本

民事訴訟を学ぼう

民事訴訟は、個人または企業間、個人と企業間の紛争の解決、または損害賠償請求のために裁判所に提起された訴訟のこととなります。 民事訴訟には、誰もが関わる可能性があります。民事調停、民事訴訟、労働裁判、支払い請求、保護命令などのさまざまな手続きがあり、今回は民事訴訟についての知識を付けられる書籍を紹介します。

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出典:出版社HP

はじめての民事手続法

「民訴」がズバッと理解できる

6つの架空ケースをもとに、手続の過程を具体的に解説しています。民事訴訟法の他にも、民事執行・保全法、家事事件手続法、破産法、民事再生法などの主要な手続法、また改正後の最新の内容までカバーされています。民事訴訟法をはじめて学ぶ人にとって、最適の入門書です。

上田 竹志 (著), 濵﨑 録 (著), 堀 清史 (著), 浅野 雄太 (著), 川嶋 四郎 (編集), 笠井 正俊 (編集)
出版社 : 有斐閣 (2020/4/13)、出典:出版社HP

はしがき

本書は、民事に関する手続法の全体を分かりやすく具体的に概観した入門書です。内容としては、民事訴訟法はもちろんのこと、民事調停法や仲裁法等を含むADR(裁判外紛争解決手続)、民事執行法、民事保全法、家事事件手続法、人事訴訟法、破産法、民事再生法等の主要な民事手続法の全体を、コンパクトにカバーしています。本書は、民事訴訟法自体の入門書としても用いることができるように、民事訴訟法の部分を多少多めに説明しました。はじめて民事訴訟法や民事手続法を学ぶ人にとっても、自学自習ができるように工夫しています。本書は、一定の水準を保ちつつ身近で分かりやすい民事手続法のテキストになることを目指したものです。民法、民事執行法等の改正については、2020年4月までに施行されるものを盛り込んでいます。

民事訴訟法は、「民訴」と略されることから、「眠素」ともよばれています。六法科目の中でも難しい法律科目の1つと考えられることが多いようです。しかし、民事訴訟法を中核とする民事手続法の世界は、様々な場面で起きる紛争を人々がよりよく解決するために築き上げてきた歴史の所産であり、人類の知恵の結晶とも考えることができます。日常的に生じる紛争を適切に解決したり予防したりすることは、人々がより豊かな生活や社会を築くために不可欠であるからです。

そこで、私たちは、6件の具体的な架空のケースをもとに、基本的な原則を踏まえながら具体的に手続過程を説明する方法で、本書を執筆しました。現実の社会に発生する紛争は、それぞれ1つひとつに個性があり、生身の人や企業等が当事者となっています。本書では、読者の皆さんができるだけ具体的なイメージをもちながら学べるように工夫しました。訴訟や手続は、山や川にもたとえることができると思います。本書は、これから登る山や下る川の、いわば簡潔で分かりやすい地図を提供したものです。あまり詳しくなりすぎないように工夫をし、できるだけ分かりやすい内容のものとなることを目指しました。手続の基本的なことや原則的なものを中心に概説していますので、より深く学びたい人には、本書を通読して手続法の全体像を理解した後に、より詳しい書物を読むことをお勧めします。

本書の執筆のために、6人の多様な世代の執筆陣が、長い時間をかけ深い議論を行いました。すべては、民事訴訟法・民事手続法の面白さを、1人でも多くの人々に共有してもらえるような入門書にするためです。このようないわば幸せなコラボレーションの果実を、少しでも多くの読者に味わってもらえればと、私たちは願っています。

本書の執筆・刊行に際しては、有斐閣京都支店の一村大輔さんから献身的で入念なサポートをいただきました。心から深く感謝を申し上げます。

2020年2月
川嶋四郎
笠井正俊

上田 竹志 (著), 濵﨑 録 (著), 堀 清史 (著), 浅野 雄太 (著), 川嶋 四郎 (編集), 笠井 正俊 (編集)
出版社 : 有斐閣 (2020/4/13)、出典:出版社HP

目次

序 民事手続法の世界へ
1民事手続法と「正義へのアクセス」
社会と紛争と手続
自力救済禁止の原則
民事手続と刑事手続
手続法の使命と人の役割
「正義・司法へのアクセス」

2民事手続は生まれ進化する
民事訴訟法から民事手続法へ
それでも民事訴訟法 一般法と特別法
各種の手続とその役割

第1編 民事訴訟法
第1章 裁判所
1裁判所の役割と種類等
裁判所とは
裁判所の種類
一般的な公正の保障 フェアーな制度
個別的な公正の保障 フェアネスの確保

2裁判所の権限と管轄
民事裁判権と管轄
管轄の具体的な規律 どこの裁判所が管轄をもつか

3訴訟と費用

第2章 当事者
1当事者概念
当事者とは 訴えれば原告、訴えられれば被告
当事者のよび方

2当事者の特定と確定
当事者の特定 原告が当事者を決める
当事者の確定 裁判所が当事者を確定する

3当事者権と二当事者対立構造
当事者たる地位と当事者権
応訴強制とは
二当事者対立構造とは

4当事者能力
当事者能力とは 訴訟制度を利用できる人
原則 人であること
例外 人でなくても

5当事者適格
(1)当事者適格とは何か

(2)当事者適格における原則
給付の訴えにおける当事者適格
確認の訴えにおける当事者適格
形成の訴えにおける当事者適格

(3)例外 第三者の訴訟担当
第三者の訴訟担当とは
第三者の訴訟担当の整理
法定訴訟担当 自分のための場合と、自分のためではない場合
任意的訴訟担当 あなたに訴訟を任せた
訴訟担当の効果

6訴訟能力
(1)訴訟能力とは何か
(2)どんな場合に訴訟能力が認められるか
(3)訴訟能力制限の効果

7訴訟上の代理

(1)法定代理人
制限行為能力者の場合
法人・権利能力のない社団の場合

(2)任意代理人(訴訟代理人)
弁護士代理の原則
訴訟代理人と本人の関係

第3章 請求と訴え
1訴訟上の請求
(1)訴訟上の請求とは
請求とは何か
「訴訟物」とは何か

(2)訴訟物の単位
権利義務の1つ1つが、そのまま請求になる
どのようなものが訴訟物になるのか

(3)請求の特定
請求の特定(原告が訴訟物を決める)
あいまいな請求は不適法
申立事項と判決事項

2訴え
(1)訴えとは何か
裁判所に判決を要求する
紛争の内容と、解決の形式

(2)給付の訴え
給付請求権のための訴え
給付請求権の実現方法

(3)確認の訴え
あらゆる権利のための訴え
判断したらどうなるのか

(4)形成の訴え
法律状態を変えるための訴え
形成すると、どうなるのか

3訴えの利益
(1)訴えの利益とは

(2)給付の利益
現在給付の利益
将来給付の利益

(3)確認の利益
確認の利益の判断要素
方法選択の適切性 ほかの訴えは使えないのか
対象選択の適切性 訴訟物は、現在の法的紛争に関するものか
即時確定の利益 法的紛争は生じているか

(4)形成の利益

4訴えの提起
(1)訴状の提出
訴えの起こし方
訴状の書き方
訴え提起の効果

(2)訴状の審査

(3)訴状の送達
送達とは受送達者 誰が書類を受け取れるか
「受け取ったことにする」送達制度
訴状送達の効果

(4)重複訴訟の禁止
(5)第一回口頭弁論期日の指定
(6)第一回口頭弁論期日の準備

第4章 審理
1口頭弁論
(1)口頭弁論とその多義性 口頭弁論にはいくつかの意味がある
(2)口頭弁論の必要性または必要的口頭弁論 当事者に審理を受ける機会を保障することが必要

(3)口頭弁論の諸原則
双方審尋主義とは
公開主義とは
口頭主義とは
直接主義とは

(4)手続進行面と内容面での裁判所・当事者間の役割分担

2争点・証拠の整理手続
争点整理手続の概要
各種の争点整理手続
争点整理
手続の完了

3弁論主義
(1)弁論主義の意義
弁論主義の意義
弁論主義の根拠
裁判のために必要な「資料」とは 主張資料と証拠資料の区別
事実の分類と弁論主義が適用される事実
弁論主義の適用が主要事実に限られる理由

(2)弁論主義の内容
当事者の事実・証拠に対する支配権
弁論主義の3つの原則

(3)主張原則・弁論主義の第1テーゼ
主張されない事実はないものとして
規範的要件、特に過失の問題
主張しなければ負けてしまう

(4)自白原則・弁論主義の第2テーゼ
両方ともそう言うならそのまま認めましょう
自白はどのような事実についてどういう場合に成立するのか
自白の効果

(5)証拠申出原則・弁論主義の第3テーゼ 当事者が出してこない証拠を調べることはできない

4釈明権

5当事者の情報へのアクセス
証拠保全とは
弁護士会照会とは
提訴前の証拠収集の処分等
提訴後の情報収集

6訴訟要件
訴訟要件とは
各種の訴訟要件

第5章 証拠
1証拠・証明
(1)証拠概念
証拠と一口にいっても
証拠方法とは
証拠資料とは

(2)証明
証明とは
疎明とは

(3)自白および顕著な事実
当事者が自白した事実
顕著な事実

(4)自由心証主義

2証明責任
(1)証明責任の意義
証明責任=真偽不明への備え
証明責任は訴訟中には動かない

(2)証明責任の分配
法律要件分類説の考え方が基本
当事者は、自己に有利な事実について証明責任を負う
有利か不利かは法規の構造で決まる

3証拠調べ
(1)証拠調べ総論
証拠の申出 この証拠を調べてください
証拠の採否の決定 この証拠を調べましょう/調べません
証拠調べの実施 はい、調べました

(2)証拠調べ各論
証人尋問 あなたが見聞きしたことを教えてください
当事者尋問 当の本人に聞きましょう
鑑定 専門家にお伺いしたい
書証 文書を読みます
文書提出命令 その文書、出してもらいます
検証 五感で調べます

第6章 訴訟の終了
1訴訟の終了事由
当事者の意思による場合
判決による場合

2当事者の訴訟行為による訴訟の終了
(1)判決でなくてもいい?

(2)訴えの取下げ
はじめからなかったことに
取り下げたあとは

(3)請求の放棄・認諾

(4)訴訟上の和解
「訴訟上の」和解があるということは
和解をするメリットは

(5)訴訟上の和解の効力

(6)和解の既判力
何が問題なのか
3つの考え方
判例の考え方

3裁判所の終局判決による訴訟の終了

(1)裁判とは
判決・決定・命令の違い
判決の種類

(2)判決の成立
判決言渡しまでの流れ
判決書の中身

(3)判決の確定

第7章 判決の効力
1言渡しによって生じる判決効

2確定判決の効力
執行力とは
形成力とは

3既判力
(1)すべての確定判決に共通して生じる効力
(2)既判力の根拠

(3)既判力の作用
既判力が意味をもつのは、後の手続でだけ
積極的作用と消極的作用
前訴と後訴の訴訟物が同一の場合
訴訟物が同一でなくても既判力は作用する

4既判力の基準時
既判力はいつの時点の判断について生じるか
既判力の遮断効とは

5既判力の客体的(客観的)範囲
(1)判決の主文への限定(原則)
既判力は判決のどの部分の判断に生じるか
なぜ、理由中の判断には既判力が生じないのか

(2)判決理由中の判断でも既判力が生じる場合(例外)
理由中でも蒸し返せないのは
相殺の抗弁に関する具体例

(3)判決理由中の判断の拘束力と信義則
判決理由中の判断の拘束力とその必要性
信義則による拘束力

6既判力の主体的(主観的)範囲
(1)判決の相対効

(2)第三者への既判力の拡張(例外)
訴訟で争った主体ではないけれど……
訴訟担当の被担当者
口頭弁論終結後の承継人
請求の目的物の所持者

(3)対世効

第8章 複数請求訴訟
複数請求訴訟とは
請求の併合とは
訴えの変更とは
反訴とは
中間確認の訴えとは

第9章 多数当事者訴訟
1多数当事者訴訟とは

2共同訴訟
共同訴訟とは
通常共同訴訟とは
必要的共同訴訟とは

3訴訟参加
訴訟参加とは
補助参加とは
独立当事者参加とは
共同訴訟参加とは
訴訟告知とは

4訴訟承継
訴訟承継とは
当然承継とは
申立承継とは

第10章 上訴・再審
1上訴とは何か
(1)当事者による不服申立ての方法
当事者の不服申立ての機会としての上訴
三審制とは
審級制度とは
人事訴訟の場合
決定・命令の場合

(2)上訴制度の必要性と目的
上訴制度の必要性
判決確定の必要性
上訴制度の目的

2控訴
(1)控訴の要件
(2)控訴の利益

(3)控訴審の審理と判決
続審制とは
控訴審の判決
不利益変更禁止の原則
附帯控訴とは

3上告
(1)上告理由と上告受理申立ての理由
上告理由とは
憲法違反・重大な訴訟手続上の違法
その他の法令違反
最高裁判所への上告受理の申立て

(2)上告審の審理と裁判
上告審の判断の対象
上告審の審理と判決

4抗告
(1)上訴としての抗告
即時抗告と通常抗告
抗告ができない決定
文書提出命令申立てについての決定と即時抗告
再抗告とは

(2)許可抗告

5再審
再審とは
再審事由とは
再審の手続

上田 竹志 (著), 濵﨑 録 (著), 堀 清史 (著), 浅野 雄太 (著), 川嶋 四郎 (編集), 笠井 正俊 (編集)
出版社 : 有斐閣 (2020/4/13)、出典:出版社HP

第11章 簡易手続
1少額訴訟
(1)少額訴訟とは
(2)少額訴訟の提起
(3)審理

(4)判決および執行
判決の内容
執行の内容

2督促手続
督促手続とは
督促手続の流れ

第12章 民事紛争の解決手続の諸相 ADR、和解・調停・仲裁、非訟
1ADR 裁判外紛争解決手続
ADRとは
ADRには

2和解・調停・仲裁
(1)和解

(2)調停(民事調停)
調停の種類
民事調停とは
民事調停の手続
調停に代わる決定

(3)仲裁
仲裁とは
仲裁の手続
仲裁と調停

3訴訟と非訟
非訟とは
非訟には
「訴訟の非訟化」とその限界

第2編 家事紛争に関する手続
第13章 家事調停
1家事調停の意義と手続
家事調停とは
家事調停の手続

2人事訴訟・家事審判との関係
人事訴訟と家事調停
家事審判と家事調停

3調停調書

4調停手続の中でされる審判
合意に相当する審判
調停に代わる審判

第14章 家事審判
1家事審判の意義と手続
家事審判とは
家事審判の手続

2審判
審判の内容・告知・不服申立て
義務の履行をさせる方法

第15章 人事訴訟
人事訴訟とは
人事訴訟の手続と判決
人事訴訟における民事訴訟事項の併合・附帯処分

第3編 民事保全法・民事執行法、倒産法
第16章 民事執行
1民事執行制度の趣旨・目的

2民事執行の意義と種類
民事執行の意義・執行機関・執行当事者
民事執行の種類

3強制執行
(1)債務名義と執行文に基づく強制執行の申立て
債務名義とは
執行文とは

(2)金銭執行の種類と手続
金銭執行の種類
金銭執行の手続の流れ
差押えとは
換価とは
満足とは
執行対象財産の特定とそのための制度

(3)非金銭執行の種類と手続
非金銭執行の種類
直接強制とは
間接強制とは
代替執行とは
子の引渡しの強制執行とは
意思表示の擬制

4担保権の実行手続

5民事執行をめぐる不服申立ての方法
(1)違法執行と不当執行の違い
違法執行とは
不当執行とは

(2)請求異議の訴え
(3)第三者異議の訴え

第17章 民事保全
1民事保全制度の概要
(1)民事保全とは
(2)民事保全制度の趣旨・目的

仮差押えは何のために用いられるのか
係争物に関する仮処分は何のために用いられるのか
仮の地位を定める仮処分は何のために用いられるのか

2民事保全の手続
(1)手続の概要

(2)保全命令の要件と審理手続
保全命令の要件
保全命令の審理手続

(3)保全命令の担保の提供
(4)保全命令の申立てについての裁判に対する不服申立ての方法

3仮差押え
仮差押えの意義と要件
命令の内容とその執行の効果

4係争物に関する仮処分
(1)係争物に関する仮処分の意義と要件

(2)命令の内容・類型とその執行の効果
不動産所有権の移転登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分
占有移転禁止の仮処分
係争物に関する仮処分の効果

5仮の地位を定める仮処分

第18章 倒産処理手続の基礎
1倒産処理手続の意義
(1)倒産とは

(2)倒産処理手続がなぜ必要か
倒産処理手続の必要性① 債権者間の平等の確保と過度の圧力防止
倒産処理手続の必要性② 債務者財産の最大化
倒産処理手続の必要性③ 債務者の経済的再建

2倒産処理手続の種類
(1)法的整理と倒産ADRと私的整理、清算型手続と再建型手続

(2)各倒産処理手続の意義
法的整理によらない倒産処理手続の意義
法的整理の意義

(3)法的整理の種類
清算型手続の種類
再建型手続の種類

第19章 法人の倒産
1法人の破産
(1)破産手続の流れ

(2)破産手続の機関
破産裁判所とは
破産管財人とは

(3)破産手続の開始
破産手続開始申立てとは
破産手続開始決定とは
破産手続開始原因とは
破産手続開始時の手続
破産手続開始決定の効果

(4)破産者の財産の取扱い
破産財団とは
否認権とは
双方未履行双務契約とは

(5)破産者に対する権利の取扱い
破産債権とは
財団債権とは
取戻権・別除権・相殺権とは

(6)配当、破産手続の終了
配当とは
破産手続の終了

2法人の再生
(1)再建型手続の概要
再建型手続の意義と種類
再生手続の流れ

(2)再生手続の開始
申立て
開始決定

(3)再生計画
再生計画案の提出
再生計画案の決議
再生計画の認可と効力
再生計画の遂行

第20章 個人の倒産
1個人の倒産手続の概要
(1)個人の倒産手続の意義

(2)個人の倒産処理手続の種類
消費者破産とは
個人再生手続とは
特定調停とは

2個人の破産手続の概要

3免責
(1)免責の意義

(2)免責の申立てと要件
申立手続
免責の要件

(3)免責の効果
免責の効果と復権
非免責債権とは

事項索引
判例索引

上田 竹志 (著), 濵﨑 録 (著), 堀 清史 (著), 浅野 雄太 (著), 川嶋 四郎 (編集), 笠井 正俊 (編集)
出版社 : 有斐閣 (2020/4/13)、出典:出版社HP

民事裁判入門 裁判官は何を見ているのか (講談社現代新書)

裁判の奥義と核心が分かる

現代社会において、インターネットの書き込み一つで民事訴訟を提起されることもあり、思わぬところで訴訟に関わる場面に遭遇する可能性があります。訴訟についての知識は、当事者・関係者でなくても、あって損はない知識です。一般読者にも理解しやすく、法律実務家や民事訴訟に関係する方にとっても意味のある内容になっています。民事裁判を端的に理解できる入門書です。

瀬木 比呂志 (著)
出版社 : 講談社 (2019/7/17)、出典:出版社HP

プロローグ

・本書の趣旨と「法的リテラシー」の重要性
この本は、現代日本における民事訴訟実務の実際とそれを支える法的制度のエッセンス、また、広い意味での法的戦術の核心部分を、法学を学んだことのない一般読者にも理解できるように、できる限りわかりやすく、かつ正確、的確に解説する書物である。また、本書は、広い意味での法律関係職種の人々、あるいはビジネスパースンまでをも含めた広範囲の読者の「法的リテラシー」を高めることを、もう一つの目的としている。

前者の趣旨は明らかだが、後者については説明が必要だろう。そこで、まず、法的リテラシーとはどういうものかを理解していただくために、一つの事例を挙げてみよう。この事例が表しているのは、いわば、「人々の法意識と裁判・法学との間の『ずれ・溝』とその認識」という問題だ。

・事例1
X社の社長Aは、社員Yを懲戒解雇した。使い込みが理由だ。そして、X(代表者A)は、Yの横領に基づき、民事保全の一種である仮差押えの申立てをした。仮差押えとは、本裁判前にYの財産の仮の法的拘束を求める申立てである。Aは、受付係の裁判所書記官(以下、単に「書記官」という)に相談した上で、何日もかけて、報告書(陳述書)を書き、提出した。そこには、①Yが会計課勤務の職員であり、金銭の出納を担当していて金庫の開閉を行いうる立場にあったこと、の過去一年間の帳簿類を検討した結果、計算上数百万円の不足が発生していると考えられるにもかかわらず、Yは、Aの質問に対して何ら明確な説明を行おうとせず、解雇に対しても特に異議は述べなかったこと、3調査してもY以外に疑わしい社員はいなかったこと、が記されていた。

しかし、その後の審尋(面接)の席で、担当裁判官Bは、Aにこう告げた。「あなたの疎明(「証明」のより簡易なもの)は、横領の事実自体についてはともかく、Yが横領行為を行ったとの点、つまり、Yと横領行為の結び付きの点において、決定的に不足していますね」「そんな……。それでは、裁判官は、Y以外に横領の犯人がいるとお考えなのでしょうか?常識からすれば、Y以外にありえないじゃないですか?刑事裁判については、私も、教養課程の法学の授業で『疑わしきは罰せず』の原則を学びましたからまだわかります。が、本件は、民事で、しかもとりあえずの保全ですよ。今預金をおさえていただかなければ、Yは、明日にもどこかへ逃げてしまうではないですか?」Aは、そう訴え、懇請した。しかし、裁判官Bは、考え方を変えてくれなかった。「法律家の考え方は理不尽だ。常識に反している。そのために、悪事を行った者に味方する結果を招いている」Aは、そんな印象を抱いた。

これは、実は、裁判官だけの問題ではない。裁判官BをX社の顧問弁護士Bに置き換えても同じことなのである。法律家Bが常識人Aを説得する論理を展開できるか、Aの立場に一度は立ってみた上でAを説得して法律家の考え方を理解させることができるか、そして、Aのほうにも、それに耳を傾けるだけの忍耐力や柔軟性があるのか、が問題になっているのだ。ごく普通の日本人は、Yが「やっている」ことはまず間違いないのだから、裁判官、弁護士はその点をよくみるべきではないか、と考えやすいだろう。

確かに、横領があったとすれば、それを行ったのはYである可能性が高い。しかし、民事保全手続も一種の裁判手続なのだから、手続的な正義が要求される。また、本案訴訟(本裁判)でおよそ勝ち目のないような者にY(仮差押債務者。本裁判では被告)の財産の拘束を許すことは、相当ではない。しかも、本件では、民事とはいえ、立証の対象は、横領という犯罪行為である。したがって、もう少し高い程度の立証が必要なのである。憶測で裁判をすることはできない。それでは、X(代表者A)としては、ほかにどのような立証を行うべきだろうか?たとえば、①金庫の鍵はいくつあり、誰がどこに保管していてどのようなアクセスが可能だったのか、また、そのことを知っていた、知りえたのは誰か、といった事柄について調査した上で客観的かつ正確な報告書を書く、②会計に関する専門家の援助を得て、横領のなされた具体的な日時、金額、手段等について、たとえ金額の一部についてであっても確実な疎明(ことにYの横領関与を示す会計帳票書類もしもYが横領を行ったのなら、それらのどこかに、「Yのかかわった入出金の食い違い」を示す部分があるはずだ)を用意する、といったことができれば、少なくとも、Xの主張する金額のうち合理性のある部分について仮差押えが認められる可能性は高いだろう。

このように、一見単純にみえる事案でも、争いのありうるものについては、弁護士の手を借りないと、調査や申立てを迅速に行うことは、かなり難しいものなのである。また、そうした事案では、先の「人々の法意識と裁判・法学との間の『ずれ・溝』とその認識」という問題、「実際には『ずれ・溝』が存在するにもかかわらず、専門家も普通の市民もそれを認識できていない」という問題があらわになりやすい。「人々の法意識と裁判・法学との間の『ずれ・溝』」とは、より具体的にいえば、「日本人の普通の常識と近代法的な考え方との間のずれ」ということだ。このずれは、欧米にももちろんあるが、日本ではそれがより大きい。先の事例との関連でいえば、たとえば、社長Aと裁判官Bの認識のずれの根本には、「推定無罪の原則」の理解という問題がある。

普通の日本人の感覚では、Aのいうとおり、「やったのはYに決まっているのだから仮差押えくらい簡単に認めてくれて当然」ということかもしれない。しかし、数多くの冤罪の積み重ねに対する反省から、近代法は、「疑わしいというだけでは罰されない。有罪とするためには、検察官による、合理的な疑いを容れない(合理的な疑いをさしはさまれないレヴェルの)立証が必要」としている。民事では、ことに保全では、その立証の程度はより低くて足りるものの、やはり、「客観的な証拠からみてY以外による犯行はかなりありにくいと一応はいえるな」という程度のことを裁判官に納得させる立証はあってしかるべきというのが、現代日本法の考え方だということなのだ。

同じような問題は、元裁判官、現学者・著者である僕自身が友人知人から法律相談を受けた際にも、よく感じた。日本人は、たとえいわゆる知識人(「広い視野をもってみずからの知識を使いこなせる(べきである)人々」というほどの意味)や知的職業従事者であっても、「常識的にみて保護されるべき立場にある者、弱い者は常に保護されて当然」という考え方、感覚で法的紛争に臨んでいる場合が多い。だから、たとえば、「別れた配偶者(夫・妻。子どもを連れていることもある)が、他方の配偶者やその親の土地・家を基本的には無償で借りて住んでいる場合には、別れたからといって簡単に追い出されることはないはずだ。それは理不尽、不正義であり、だから、裁判所は弱い者を保護してくれるはずだ」といった前提の下に相談をしてこられるのが普通だ(これまで、そうでない例は一つもなかった)。

しかし、不動産等の無償の貸借(使用貸借)は両者間の人的関係に基づく貸主の好意に根拠を置く契約なので、両者間の人的関係(婚姻等)が解消すれば、その継続が長期間にわたって保証されることは、かなり難しいものなのである(なお、こうした説明では、複雑な法律問題を非常に単純化してその「概略」を説いていることに注意してほしい。以下同様である)。いいかえれば、「法」は、さまざまなヴァリエーションの問題について一定の法的枠組みをもって公平、平等に対処し規整するものなので、その意味では基本的には「非情」な部分(普通の日本人にとっては「非情」と感じられるような部分)をもっている、ということだ。これは、近代法国家ならどの国でも同じことである。

もちろん、法は広い意味での正義や信義にかなうものであることも必要だ。だから、結論が不当なものにならないようにさまざまな調整の理屈があり、実際、そうした調整も行われている。しかし、近代法に基づく裁判が「日本的大岡裁き」とは明確に異なるのは、厳然たる事実なのである。

・本書の書き方の特色
本書の「プロローグ」、「エピローグ」、「拙著等ブックガイド」を除く一四章のうち上訴に関する章とまとめの章(最後の二章)以外の一二章は、民事訴訟の第一審の進行に沿って書かれている。本書が念頭に置いているのは主として地方裁判所の民事訴訟実務だが、簡易裁判所のそれも、基本的には地裁と大きく変わらない。控訴、上告については、第一審と比べて新しい部分はそれほどないので、第2章で簡潔にふれる。書物の主タイトルは、一般読者にとっての親しみやすさ(なじんでいる言葉)という観点から、専門書的な『民事訴訟入門』ではなく、『民事裁判入門』としたが、文中では、訴訟の全体を指す場合には「民事訴訟」の用語を用いている。

もっとも、ただの入門書では読者にとっても(また、著者にとっても)意味が乏しいので、本書の執筆に当たっては、いくつかの工夫をし、以下のような特色を打ち出している。こうした特色は、先の「本書の趣旨」とも関連している。

①僕の、裁判官としての三三年間の経験、学者(研究者。最初は兼業、今は本業)としてのそれに準じる期間の経験に基づき、また、民事訴訟法諸分野研究と併せての法社会学的研究の成果に基づき、民事訴訟実務を、実務と理論の両面から、さらに、必要に応じて法社会学的な考察をもまじえながら、解説する。

②全体として、裁判官が、事案をどのように見詰め、またどのように判断してゆくのかの経過がリアルに理解できるように論じてゆく。これは、弁護士が事案をどのようにみながら主張立証を行ってゆくべきかとも、密接に関連している。

③記述を興味深くわかりやすいものにするために、なるべく多くの具体的な事例や実例を挙げながら説明を行う。教科書的な記述の単調さを避け、同時に読者の理解を深めるためである。

④これはどの国でも同じことだが、前記のとおり、当事者本人(原告・被告)、また、一般市民と法律家のものの見方の間には「ずれ・溝」がある(専門家と素人の考え方、感覚の違い)。ことに、日本の場合には、欧米型近代法と明治時代よりも前の時代の伝統的な日本の法制度・法意識との間には大きな齟齬、食い違いがあったことから、この「ずれ・溝」は、実は、一般的に意識されている以上に大きい。

これは、それ自体一つの本のテーマとなりうる重要な事柄だが、本書の記述でも、折にふれて、この「ずれ」の問題について解説してゆきたい。各章の長さからおわかりのとおり、記述の密度は、章によってかなり異なる。一般的にいえば、その部分の内容が一般読者にとっても有用かつ興味のもてるものである場合には記述は厚くしてあり、より専門家志向の内容になる場合には、前者に比べればより簡潔にしてある。もっとも、書物の後半では、前半と比較すれば、専門的な記述がやや多くなっている。

・読者にとっての本書のメリット
次に、すでに少しふれた部分もあるが、読者にとっての本書のメリットを挙げておこう。この本を読むことによって何が得られるか、また、あなたが民事訴訟や法的紛争を経験することになった場合、そして、日々報道される民事訴訟、ひいては日本や世界で起こっているさまざまな法的紛争を理解する場合に、この本がどのように役立つかということである(なお、本書では、以下、特に重要な箇条書き部分については「ゴシック体」で示す)。

①民事訴訟とその手続全般に関する一般的・具体的な理解が得られる。
実をいうと、比較的観念的な理論(欧米大陸型観念論哲学にその一つのみなもとがある)の理解を中核とする日本の法学を一通り学んだ学生でも、さらには、場合によっては法学者、いや、民事訴訟法学者でさえも、民事訴訟の実際をよく知らない、それについての知識や感覚を十分にもっていない、といったことが、日本ではよくある。その意味では、本書は、法学を学ぶ学生や法律家にも向けられたものである。

②裁判官や弁護士の行っていることについての理解が得られる。
これは、特に、あなたがみずから民事訴訟にかかわる際に問題になる事柄である。こうした事柄が理解できていないと、自分で訴訟を進める場合(「本人訴訟」といわれる)はもちろん、弁護士に委任する場合(弁護士を選任する、弁護士を頼む場合)でも、弁護士がその時々で何をやっているかがよくわからないから、その説明を聴いても十分に理解できないし、和解や人証調べ(当事者本人の供述や証人の証言を聴く証拠調べ)で裁判所に出向くことがあっても、自分がどういう資格でそこに出席しており何をすべきなのか、また自分の発言がどういう意味をもつのかが十分に理解できない、ということになる。実際、こうした事柄について理解しないまま限られた側面で訴訟にかかわったために、裁判官や弁護士に対して不信を抱き、ひいては訴訟のあり方やその結果についても不満を抱くに至る人々は、非常に多いのである。

また、こうした知識は、あなたが、弁護士と相談をし、委任するかどうかを決め、さらに訴訟の途中でその話を聴いて訴訟の進行方向や和解案の当否について決断する際にも、大いに役立つはずである。ここでもまた、多くの人々が、知識不足のままこうした事柄を行い、後になって不満を抱く、後悔するという事態が起こっているからだ。本書から得られる知識は、以上のような場合に、あなたの助け、基本的な指針となるはずだ。日本の民事訴訟や関連の各種手続の件数は、欧米先進諸国の多くに比べれば人口比では少ない。とはいえ、簡裁の各種手続まで含めれば相当の数があり、また、実際に訴訟になるか否かはおくとしても、ごく普通の市民が法的紛争に巻き込まれる、関係する機会そのものは、社会の高度化に伴い、増えてきている。
一例を挙げれば、何気なく行ったインターネットの書き込み一つで民事訴訟を提起されたり、刑事関連手続に巻き込まれたりといったことが起こりうるのが、今の社会だ。また、中小の企業でも海外取引を行えば渉外紛争に巻き込まれることは十分ありうるし、国際結婚・離婚、ことに後者にも、難しい法律問題がつきまとうことは多い。こうした時代に、民事紛争・私的な紛争解決のための最終手段である民事訴訟について知っておく、理解を深めておくことには、大きな意味があるはずだ。

③法的・制度的リテラシーの向上を図ることができる。
この点についてはすでに多少ふれたが、ここではさらに敷衍して説明しておきたい。
僕は、長年法学(民事訴訟法学、法社会学)を実践・研究し、判事補時代と大学に移ってからの二度、アメリカで各一年間の在外研究を行い、また、二五年以上にわたって、体系書・教科書を含む専門書や広い分野の一般書を書いてきた。その過程で、日本社会のさまざまな分野の人々と会う機会も多かったし、外国人とも相当に接触してきている。その結果としての日本社会に対する僕の見方は、おおむね以下のようなものだ。僕の執筆活動全体の問題意識とも関係するので、正確に記してみたい(詳細については、『裁判官・学者の哲学と意見』〔現代書館。以下、『哲学と意見』と略〕に一定のことを書いたほか、今後執筆予定の書物でも明らかにしてゆきたい。

なお、僕の書物のうち本書と何らかの意味で関連する内容のものについては、巻末の「拙著等ブックガイド」に掲げているので、参考にしていただきたい)。「日本社会は、いわば、『高度に組織され、よく洗練された、巨大なムラ社会』である。その法・制度・社会は、ちょっとみたところでは欧米先進諸国のそれとほとんど変わらないようにみえる。しかし、法社会学的な実態をよくみると、そこには、きわめて特殊日本的な変形や古い制度との実質的折衷がみられることが多い。

『高度に組織され、よく洗練された、巨大なムラ社会』には、安全、平和、規律、調和等のメリットがあり、安心して暮らせるという側面もある。しかし、反面、(i)集団中心主義、(i)抑圧的文化、(ⅲ)大きな物事に対する対処のまずさ(戦争、バブル経済、赤字国債、原発等々)、(ⅳ)人々の自発性がなかなか育たず個人の生き方や社会のあり方の新しい方向が定められない、(v)先のように集団中心の生き方や働き方をするために民主主義社会の基盤であるはずの個人の内的生活や自分と家族のための自由な時間が十分に確保できない、個人の内面的価値意識も尊重されにくい、(ⅵ)表に出ないハラスメントが多い、(ⅶ)経済的なものをはじめとするハンディキャップを負った人々をケアする制度が未発達、未熟である、などの大きな問題、また、息苦しく過酷な側面もある。これらは、いわば、同一のコインの表と裏なのだ。もっとも、海外の制度を採り入れる際に先のような変形や折衷が行われることそれ自体は、日本だけの現象ではない。ただ、日本の場合に問題なのは、このことと『タテマエと本音の精妙な二重基準(ダブルスタンダード)』という日本文化に顕著な特質とがからみ合う結果、『外見は欧米・世界標準(場合によりむしろ先進的)だが、その内実は大きく異なる』という制度ができてしまいやすいことだ。その典型の一つが裁判所であり、行政や立法、メディアやジャーナリズム、あるいは大学等についても、そうした傾向はある。

僕が、『絶望の裁判所』、『ニッポンの裁判』という二冊の新書、これらと対になる創作である『黒い巨塔最高裁判所』[各、講談社〕(以下、『絶望』、『ニッポン』、『黒い巨塔』と略)、また、以上の入門とも展開・補足ともなっている清水潔氏との対談『裁判所の正体――法服を着た役人たち』〔新潮社〕で行った一連の日本司法の分析批判も、ある意味では、右のような日本社会の問題点の一端を司法を例にとりつつ明らかにしたものといえる。

さて、先にまとめたことを国民という観点からみるなら、日本人は、一般的・平均的な教育水準やマナー、モラルは高く、ことに、美的センス、職人的テクノロジー、自然科学等においてはすぐれている反面、法的・制度的(また政治的)リテラシー、すなわち近代法の理解や近代的な制度の作り方に関する理解・技術は、たとえば少なくとも中欧・北欧の先進諸国に比べれば低いし、そうした事柄に対する基本的な知識・感覚も限られている、そういうことになるだろう(先に論じたような、「人々の法意識と裁判・法学との間の『ずれ・溝』」という問題をいいかえると、そういうことになる)。

そして、近代以降の国家・社会が法的・制度的な仕組みを基本として組み立てられていること(日本人の多くはこのこと自体をあまりよく認識していないのだが)を考えるなら、「法的・制度的リテラシーの相対的な低さという問題」は、日本人・日本社会が今後克服すべきいくつかの主要な課題のうちの一つであることに、間違いはないと思われる。

本書は、民事訴訟に関する入門書ではあるが、先に挙げたような書物や今後僕が執筆するだろう広い意味での法や社会に関する一般書・専門書同様、この「法的・制度的リテラシー」の向上ということをも念頭に置きながら書かれている。日本人にとって、訴訟は「何だかよくわからない、あまり関係したくないもの」であるのが普通であり、また、その経験後も、「不可解な部分の多かった、いずれかといえば不快な体験」として記憶されることが多い。そのことについては、もちろん、日本の司法、ことに裁判官や弁護士の問題があるが、同時に、人々が主体的に訴訟に向き合いこれと関係することができていない、という問題も確かに存在する。本書は、後者の問題の解消のために、一定程度役立つはずである。

④訴訟のための基礎的知識・感覚が得られ、高度な訴訟戦術の理解も可能になる。民事訴訟の内容は千差万別であり、類型的な事案で相手方がほとんど争わないような場合には、当事者本人でも対処できることがある。また、被告側になる場合には、ことに争う余地に乏しい事案では、弁護士を委任しない例も多い。このように本人がみずから訴訟を行う場合には、訴訟に関する具体的な知識や訴状等の各種書類の書式については、インターネット、また、そうした要請に応えるためのハウツー的な書物等で得るのが普通だろう。

しかし、そのような作業の前提として、まずは民事訴訟全体の体系的な理解が必要である。本書は、そのような「最初の基本的理解を得たい」という要請にも応えうると思う。
一方、僕の専門書群を一つの基盤にしつつ新たな考察をも加えた本書の記述の中には、かなり高度な訴訟戦術に関する部分も相当に含まれている。もっとも、実際に訴訟にかかわる際に弁護士に委任するかあるいはみずから本人訴訟のかたちで行うかについては、慎重な考慮が必要だ。民事訴訟は、基本的にはやはり専門家がかかわるものとして設計されているから、素人が対処できる範囲には、おのずから限界もある。この点については、本文中で詳しく論じる。

⑤コミュニケーション、プレゼンテーション、書くことなどに関する技術を学べる。
僕の基本的な考え方はプラグマティズム(アメリカ型経験論に基づく哲学的方法)である。これは、各種のイデオロギーからは距離をとりつつ、事実を重視し、広い視野からその客観的な意味づけを行い、また、異なる考え方との間に橋を架けようと試みる思想、思想的方法だ。
本書、ことにその中核部分は、そうした観点から、コミュニケーション、プレゼンテーション、書くことの実践的な技術を説くものともなっており、そうした観点からも、法律家や訴訟に興味をもつ人々のみならず、ビジネスパースンや一般学生にも広く参考にしていただける部分があるはずだと考える。

本書の記述も、僕のほかの書物同様、「わかりやすく、明確、正確で興味深い記述」を心がけているが、記述されていることの内容は、先のとおり、一定程度高度なものを含んでいる。法律を学ぶ学生や法律実務家(以下、単に「実務家」という)・学者等にとっても意味のある内容となっているのである。したがって、それをするか否かは読者の御自由だが、一部だけをピックアップして飛ばし読みするような読み方は理解を不正確にするおそれがあることは、お断りしておきたい。総体としての民事訴訟の、トータルな、広い視野からの有機的理解を念頭に置いた書物であるからだ。もっとも、書物後半中第0章ないし第3章(ことに第0章)のうち比較的専門的な部分については、当面訴訟にかかわってはおらずそうした事項にそれほどの興味がないという読者は、とりあえず後回しにしていただいてもかまわないと思う。逆に、通読の後、興味のもてた章や理解が難しかった章を折にふれ読み返していただくなら、あなたの民事訴訟理解、法的リテラシーは、確実に高まるはずである。

瀬木 比呂志 (著)
出版社 : 講談社 (2019/7/17)、出典:出版社HP

目次

プロローグ
本書の趣旨と「法的リテラシー」の重要性/本書の書き方の特色/読者にとっての本書のメリット

第1章 民事訴訟手続の流れ
日本人は裁判嫌いなのか?
日本とアメリカの民事訴訟/日本の裁判官は本当に多忙なのか?/少ない日本の民事訴訟/日本人は裁判嫌いなのか?/民事訴訟手続の概観/本格的に争われるのは四件に一件―民事訴訟の終局区分

第2章 法的紛争が起こったら 弁護士の選び方、訴訟についての決断、本人訴訟の是非
法的紛争は身近なもの/日本で司法が機能しにくい根本的な構造的原因/信頼できる弁護士とは?
―法律相談で心しておくべき事柄/「訴訟は無理ですよ」と言われた場合/弁護士の費用と報酬|委任に当たっての留意事項/さまざまな紛争解決方法/民事訴訟は自分だけでできるのか?/その訴えは、はたして適切なものか?

第3章 訴えの提起訴状、答弁書
訴状の記載事項/訴状の審査とその補正/被告の主張――答弁書、被告第一準備書面/証明責任と証明度

第4章 民事訴訟事件進行のパターン
調書判決事案/被告が本人の事案(調書判決事案を除く)/原告が本人の事案、あるいは双方当事者が本人の事案/双方に代理人がついている事案

第5章 争点整理の実際―裁判官の訴訟指揮の重要性
裁判官方向明示型争点整理/裁判官に求められる謙虚さ/争点整理の実際と法的釈明のあり方/裁判は、「終わりさえすればよい」というものではない/「池ぽちゃ」、「池どぼ」裁判官――難しい訴訟指揮/「弁論兼和解」の弊害 争点整理の手続について

第6章 事件を「読む」事案の的確な把握
弁護士は、どのように事案を把握してゆくのか?/弁護士(および当事者本人)がとってみるべき三
つの視点/「主観的確信」の客観的検証

第7章 効果的な主張・準備書面とは 説得力のある主張にするために
効果的な主張のために――主張のあり方の基本/よい準備書面の条件/認識の共有化 まとめ準備 書面の効用

第8章 証拠調ベ 真実の相対性
1書証
法律家の文章がくだくだしい理由―「法的な定義」の意味/裁判官の注意を喚起できる書面書
証の重要性と「証拠説明書」/文書提出命令という重要な「証拠獲得手段」

2人証―証人尋問と当事者尋問アメリカ、ヨーロッパ、そして日本の人証調べとその意味/人証調べによって心証は変わるのか?/尋問の進め方/事前の陳述書作成/主尋問と「ナルシスティックな欲望」/「逆効果」になることもある反対尋問/適切な外濠の埋め方/虚偽供述ないし偽証はどのくらいあるのか?/「一貫性のある絵を描きたい」という人間の脳の特質/自己のみるところの事実への固執/供述の信用性に関する私見/真実の相対性

3鑑定
専門家の知識

4検証
山林の境界は現場を見ないとわからない

5証拠裁判主義とその現状
証拠を軽視してはならない

第9章 事実認定と裁判官の心証形成
事実認定の本質/民事事実認定と刑事事実認定/ストーリーのぶつかり合いとしての民事訴訟/双方対席審理の重要性

第10章 「判例」はいかに作られてゆくのか?―法的な立論と判断
深夜の違法駐車車両へのバイク衝突―――新たな判例はどのようにして作られるのか?/裁判官の日常的な法的調査/どのように文献を探索し、読んでゆくべきか?/判例における「事実と法理の結び付き」/法的立論の方法

第11章 「和解のあり方とその技術
和解の押しつけ、事実上の強要という問題/和解のメリットとデメリット/心証中心型和解/民事裁判官とカウンセラー/一般的にみて和解が適切でない場合/事件類型による和解の適否/和解が成立しにくい事案/和解勧告の時期/裁判官の和解の技術/和解条項作成上の注意事項とノウハウ

第12章 判決はどのように書かれるのか?
判決の位置づけ/判決の目的―誰のためのものか?/判決書の「旧様式」と「新様式」/欧米の簡略な判決書/日本の判決の問題点/僕自身の体験から/判決起案の要諦

第13章 上訴 控訴と上告
上訴に関する基本的な法的知識/上告と最高裁の裁量/新たな証拠調べはあまり行わない控訴審/第一審判決の全部取消事案は七、八パーセント/本格的に争われた事件の控訴率は、なぜ一律に高いのだろうか?/現在の高裁、最高裁は十分に機能しているのか?

第14章 日本の民事訴訟制度をよくしてゆくためには?
日本の民事訴訟の問題点/その改善の方法/法曹一元制度と関連しての弁護士の問題

エピローグ

瀬木 比呂志 (著)
出版社 : 講談社 (2019/7/17)、出典:出版社HP

裁判官はこう考える 弁護士はこう実践する 民事裁判手続

現役の裁判官と弁護士の本音がわかる!

裁判官と弁護士の双方の視点から、民事裁判手続について述べられています。互いの仕事に対して忌憚のない意見交換がされています。弁護士の実務テクニックも満載です。とっつきにくいと言われている手続法についてイメージしやすいため、これから勉強したいという方にとって非常に参考になる良書です。

柴﨑 哲夫 (著), 牧田 謙太郎 (著)
出版社 : 学陽書房 (2017/9/20)、出典:出版社HP

まえがき

本書は、私が裁判官の立場から、また、牧田謙太郎弁護士が弁護士の立場から、主として若手の裁判官と弁護士に対して、民事訴訟手続を進めるにあたって考慮してもらいたいと思われる事項を論じ、その上で、著者の二人が互いに意見交換をするということを、内容としている。
私は、平成27年4月に千葉地裁松戸支部に着任したが、千葉県弁護士会松戸支部から地裁松戸支部に対し、若手弁護士のための勉強会に裁判官を派遣してほしいとの要請があり、同年7月にその第一号として私が派遣された。

当日は、弁護士相互間の意見交換にコメンテーターのように参加する形で発言をしていたが、このとき特に優れたコメントをした覚えは全くない。しかし、初めて裁判官が出席したことでパンダの如き「珍獣の初来日」のような印象を持たれたためか、弁護士会には意外にも好意的に受け止めていただけたらしい。そして、勉強会に参加されていた弁護士から、そのときの様子が学陽書房編集部に伝えられ、同社から私に対して、執筆依頼があった。

最初の依頼内容は、現役裁判官の立場から、弁護士の仕事ぶりに困惑した例と、それに対する助言を本にしたいというものであった。ただ、そのとき私が気になったのは、裁判官が弁護士に対する苦言ないし要望を一方的に書くと、弁護士の抱える事情や個々の弁護士の立場についての理解を欠くものとなってしまわないかという点であった。

そして、まずは裁判官が弁護士に対する要望を書いた上で、弁護士がそれに対する意見を書いたものを付してはどうか、さらには、これとは逆に弁護士の裁判官に対する要望と、それに対する裁判官側の意見をも盛り込んではどうか、そのことによって、若手弁護士とともに若手裁判官への要望ないしアドバイス的な内容が盛り込めるのではないかと考え、その趣旨を学陽書房の編集者にお伝えしたところ、快く受け入れていただくことができた。

次いで、弁護士の側の執筆者として、勉強会で若手の指導を担当されていた牧田謙太郎弁護士に依頼したところ、御快諾をいただくことができた。かくして、牧田弁護士と私の二名による本書の執筆が実現したというわけである。このような経過から、本書は、一つの章がメインのパートである「主論」と「ひとこと」コメントという形で構成され、裁判官と弁護士のどちらか一方が「主論」を、他方が「ひとこと」コメントを担当している。

よりよい民事裁判を実現するためには、裁判官と弁護士が互いに十分協議することが重要であるとの点については、今更論じるまでもないが、どのような協議をするのが望ましいか、その過程で裁判官はどこまで踏み込んだ話を双方代理人にするのがよいかといった点について論じた文献は、あまり多くないように思う(この点、林道晴・太田秀哉『ライブ争点整理』(有斐閣、2014)は正に画期的な文献といえよう。)。私自身もこの問題に関心を持ち、良かれと思ったことを微力ながら実践してきたつもりであるが、本書中、私が裁判官の立場から論じている部分は、特に、裁判官と弁護士との協議のあり方と、裁判官が事実を把握することの重要性、そして事実認定の過程といった点に重きを置いている。弁護士の方々には、裁判官がどのような考えで訴訟手続に臨んでいるのかを、是非とも理解していただきたい。

牧田弁護士も、若手の弁護士と裁判官を念頭において、よりよい民事裁判が実現するために弁護士は何をすべきかについて、熱心に論じておられる。文中には裁判官に対する手厳しい御指摘も見られるが、裁判官としては若手であるか否かを問わず、この御指摘もよりよい民事裁判の実現のためであると受け止めていかなければならないものであろう。本書が、よりよい民事裁判の実現のためには訴訟手続をどのように進めていくべきかについて、若手法曹の理解に貢献することができれば、私ども二人にとってこの上ない喜びとなろう。

最後に、本書が成り立つきっかけをつくってくださるとともに、その後内容面について御助言をくださった、千葉県弁護士会松戸支部の羽角和之弁護士、そして執筆依頼から今日まで、絶えず牧田弁護士と私を督励してくださった、学陽書房編集部の伊藤真理江さんに、心から厚く御礼申し上げる。

2017年8月吉日
裁判官 柴﨑哲夫

柴﨑 哲夫 (著), 牧田 謙太郎 (著)
出版社 : 学陽書房 (2017/9/20)、出典:出版社HP

目次

第1章 裁判官から見た、弁護士との協働による事実の解明
1「裁判官はひたすら黙って……」は理想的?
2「よりよい民事裁判」と「正しい事実認定」
3認定の対象となる「事実」をめぐって
4弁論主義と要件事実理論は、正しい事実認定を阻害する?
5客観的真実を認定することの重要性
6法曹二者が共通して目指していくべきこと

弁護士からひとこと
1総論賛成、しかし各論は?
2弁護士の真実義務とは?
3依頼者との関係
4再度主論に立ち返る

第2章 弁護士から見た民事裁判に至るまで
1事件の受任
2委任契約の締結
3調査
4手続の選択

裁判官からひとこと
1弁護士の役割に期待すること
2「法的解決を目指す」との視点を忘れずに
3実体法規の選択と一般条項
4実体法規の選択と法的センスの問題
5手続の選択、特に民事保全で注意すべきこと
6裁判官も見習いたい「弁護士のあるべき態度」

第3章 弁護士から見た訴状の作成・提出
1訴状作成は大変な作業である
2民事訴訟法が求める訴状記載事項
3訴状の内容面のポイント
4訴状の形式面のポイント

裁判官からひとこと
1事情聴取での御苦労はお察し申し上げるが
2訴状作成の際は悩んでほしい
3訴状の記載事項について
4訴状とともに提出すべき証拠について
5「よって書き」、否むしろ「訴訟物」の摘示はしっかりと

第4章 弁護士から見た答弁書・準備書面の作成・提出
1被告事件の相談者が来たら
2答弁書はこう作る!
3認否と被告の主張の書き方
4三行半答弁書の是非
5委任状もお忘れなく
6第1回口頭弁論期日と依頼者対応
7準備書面を出す?出さない?
8準備書面と期日の関係
9期日に臨む心構え
10準備書面の作成
11準備書面の提出

裁判官からひとこと
1「認否」と「被告の主張」のコーナーを分けると読みやすい
2反対事実の主張立証を拒否すると、しっぺ返しが待っている
3委任状の原本が未着のときは、終結か続行か?
4被告本人のみが出頭した場合、代理人抜きで事情聴取をするか?
5期日には「口頭弁論をする気構えで臨んでほしい
6日本人の話がコロコロ変わっても「大人の対応」を
7期日終了直後の復習は裁判官も励行すべき

第5章 裁判官から見た書証と証拠説明書
1事実認定における書証の価値
2提出すべき書証とは何か
3どの時期に書証を出すべきか
4証拠説明書をめぐる問題

弁護士からひとこと
1書証の重要性
2書証を出すタイミング
3証拠説明書

第6章 裁判官から見た争点整理手続
1争点整理のあり方
2弁論か弁論準備か
3電話会議が認められる要件とは?
4進行協議期日

弁護士からひとこと
1争点整理手続
2弁論準備について
3電話会議について
4進行協議期日について

第7章 弁護士から見た陳述書、証拠申出、尋問準備
1書証の取り調べから人証の取り調べへ
2陳述書の作成
3証拠申出書
4証拠決定
5尋問の準備

裁判官からひとこと
1「ご意見は。」という抽象的な質問はせず、選択肢を示すべし
2人証ゼロは、個々の人証の必要性を検討した結果である
3人証ゼロの可能性は、早めに示唆しておくべき
4陳述書の証拠開示機能も、主尋問代用機能と同じく重要
5陳述書には、具体的事実を中心に盛り込むべし
6作成者の尋問をしない陳述書の証拠価値は高くない
7陳述書の提出は、「先攻・後攻」ではなく同時とするのが公平

第8章 裁判官から見た人証調べ
1証人及び当事者本人の採用
2人証調べの準備
3人証調べの実施
4証人や本人の供述態度と心証形成

弁護士からひとこと
1弁護士は尋問のプロのはずだが
2尋問一般の心得
3主尋問の注意点
4反対尋問の注意点
5異議の出し方
6尋問の終わりに

第9章 裁判官から見た日和解
訴訟上の和解についての基本的な考え方
2訴訟進行状況に応じた和解勧試の方法
3代理人及び当事者本人への接し方は?
4下された判決が、提示された和解案と真逆だった
5和解案を拒絶した当事者を、判決で不利益扱い?
6和解の席では当事者本人に何を言えばよいのか
7裁判官は、双方代理人を和解の協力者と認識すべしい

弁護士からひとこと
1和解の時期・タイミング
2裁判官の心証開示
3依頼者と和解を検討する

第10章 弁護士から見たイレギュラーケース対応と判決後の処理
1訴訟の中断・受継
2訴えの変更、反訴・別訴提起
3最終準備書面
4判決後の処理

裁判官からひとこと
1「有事」への備えはとても大切である
2本人死亡の際は、裁判所も事件をストップさせた方が
3訴えの変更に関する注意点あれこれ
4裁判官が最終準備書面に期待していることは
5差押対象財産の探索は大変。しかし節度をわきまえて
6「悪しき隣人」ではなく、「良き協力者」になろう

柴﨑 哲夫 (著), 牧田 謙太郎 (著)
出版社 : 学陽書房 (2017/9/20)、出典:出版社HP

図解による民事訴訟のしくみ

図でよりわかりやすく

民事訴訟や民事訴訟法というものについて、言葉は知っていてもその内容について知っている人は少ないのではないでしょうか。しかし、市民が弁護士に相談しやすい環境が整備されつつある現在、民事訴訟も身近なものになってくるでしょう。本書は、民事訴訟法及び関連法について、どのような内容で、現実のトラブルや問題の解決にどのような役割を果たすのかをわかりやすく解説しています。

神田 将 (著)
出版社 : 自由国民社 (2018/5/11)、出典:出版社HP

はしがきに代えて

近年、わが国は司法制度改革の名の下、司法制度全般について多岐にわたる改革を進めてきました。刑事裁判における裁判員制度、法科大学院(ロー・スクール)の設置に代表される法曹養成制度などがその例ですが、それらと並び改革の柱とされたのが市民の立場からのリーガル・アクセスの拡充、すなわち、市民が弁護士に相談しやすい環境を整備することでした。これにより今日では、誰もが日常の法的問題を気軽に弁護士に相談することが可能となっています。

このように市民にとって弁護士が身近であるような環境は、これまでとは異なり、わたしたちの誰もが民事訴訟の当事者となり、相手方を訴えたり反対に訴えられたりする可能性のある時代になったことを意味します。したがって、今後わたしたちにとって民事訴訟が果たす役割はますます増えていくこととなるでしょう。

しかし、この民事訴訟や民事訴訟法というものについては、言葉は知っていてもその内容についてはほとんど知らないという方が多いのではないでしょうか。これは、民事訴訟法やその関連法が民事訴訟という手続に関する法律であるため、とっつきにくいということもありますが、やはり、わたしたちにとっての民事訴訟がこれまでは別世界での出来事であり、内容を理解する必要性が 民法や会社法といった実体法に比べれば小さかったことが大きいのではないかと思います。しかし、これからはわたしたちにとって民事訴訟が身近なものとなっていく以上、わたしたちも民事訴訟に関しての最低限の知識をもつことが 望まれることになるでしょう。

本書はこうした観点から、わたしたちの日常生活にとり身近な存在となりつつある民事訴訟法および関連法につき、それがどのような内容をもち、現実のトラブルや問題点の解決においてどのような役割を果たすのかを解説することを目的としています。したがって、民事訴訟法等の学問的な解説については必要最小限度にとどめ、民事訴訟の国民にとっての役割を図解を多用しつつ、平易に分かりやすく解説することに主眼を置いています。

本書が、民事訴訟法等に興味はあるが勉強の機会のない方、自らが直面している事柄が民事訴訟になった場合のことについて考えてみたい方などの一助となることがあれば望外の喜びです。

著者

神田 将 (著)
出版社 : 自由国民社 (2018/5/11)、出典:出版社HP

目次

巻 頭 30分で理解する民事訴訟の基本構造
1 民事訴訟法とは何か
2 民事訴訟法の性質(実体法と手続法)
3 民事訴訟における原則(当事者主義と職権主義)
4 民事訴訟の審理の構造
5 弁論主義
6 判決の確定と既判力
○ さまざまな民事紛争と解決手続き

第1部 民事訴訟法
○民事訴訟法・早わかり

第1編 総則 (1条~132条の10)
▶︎民事訴訟法「第1編 総則」の条文の構成

[第1章/通則(1条~3条)] 1 民事訴訟の適用 ▷民事訴訟法の基本原理のしくみ

[第2章/裁判所(3条の2~3条の27)
2 日本の裁判所の管轄権 ▷日本の裁判所の管轄権のしくみ
3 どこの裁判所に訴えるか ▷民事訴訟と裁判所の管轄のしくみ
4 裁判官は代えることができる ▷裁判官の除斥・忌避のしくみ

[第3章/当事者(28条~60条)] 5 訴え・訴訟ができる人は ▷当事者能力・訴訟能力のしくみ
6 共同訴訟ができる場合とは ▷共同訴訟のしくみ
7 第三者の訴訟参加 ▷訴訟参加のしくみ
8 訴訟代理人と補佐人 ▷訴訟代理人のしくみ

[第4章/訴訟費用(61条~86条)] 9 訴訟費用は敗訴者が負担 ▷訴訟費用の負担のしくみ
10 訴訟費用の担保を立てる場合 ▷訴訟費用の担保のしくみ
11 訴訟上の救助 ▷訴訟上の救助・扶助のしくみ

[第5章/訴訟手続(87条~132条)] 12 訴訟はどう行われるか ▷訴訟における審尋等のしくみ
13 専門委員等の関与 ▷専門委員の関与のしくみ
14 訴訟の手続と期日 ▷期間48期日および期間のしくみ
15 訴訟書類の交付方法 ▷訴訟書類の送達のしくみ
16 確定判決の効力等 ▷確定判決の効力のしくみ
17 訴訟手続の中断と中止 ▷訴訟手続の中断・中止のしくみ

[第6章/訴え提起前における証拠収集の処分等(132条の2~132条の9)] 18 通知・照会・証拠収集・事件記録の閲覧 ▷訴える前の証拠収集等のしくみ

[第7章/電子情報処理組織に申立て等(132条の10)] 19 オンラインによる申立て等 ▷オンラインによる申立て等のしくみ

第2編 第1審の訴訟手続(133条~280 条)
▶︎民事訴訟法「第2編 第1審の訴訟手続」の条文の構成

[第1章/訴え(133条~147条)] 1 訴えの提起と訴状 ▷訴えの提起のしくみ ▷訴状のサンプル ▷答弁書のサンプル

[第2章/計画審理(147条の2・147条の3)] 2 訴訟の迅速化と計画審理 ▷審理の計画のしくみ

[第3章/口頭弁論及びその準備(148条~178条)] 3 口頭弁論とは何か ▷口頭弁論のしくみ
4 準備書面の作成と手続 ▷準備書面等のしくみ
5 争点・証拠の整理手続 ▷準備的口頭弁論のしくみ
6 3つの整理手続 ▷弁論準備手続、書面による準備手続のしくみ

[第4章/証機(179条~242条)] 7 証拠と証拠調べ ▷証拠と証拠調べのしくみ
8 証拠①証人と尋問 ▷証人尋問のしくみ
9 証拠②当事者の尋問 ▷当事者尋問のしくみ
10 証拠③鑑定 ▷鑑定と鑑定人のしくみ
11 証拠④書証 ▷証拠と書証のしくみ
12 証拠⑤検証 ▷証拠物の検証のしくみ
13 証拠保全の手続 ▷証拠保全のしくみ

[第5章/(2431~260)] 14 判決の種類と効力 ▷判決の言渡しのしくみ
15 判決の言渡しと判決書 ▷判決書の記載のしくみ

[第6章/裁判によらない話なの完結(261条~167条)] 16 取下げ和解・請求の放棄・認諾 ▷裁判によらない訴訟の完結のしくみ

[第7章/大規模に関する特則(268条~269条の2)] 17 大規模の特則は3つ ▷大規模訴訟の特則のしくみ

[第8章/簡易裁判所の手続と特訓(270条~280条)] 18 簡易裁判所の手続と特則 ▷簡易裁判所の訴訟手続と特則のしくみ
19 訴え提起前の和解等 ▷訴え提起前の和解・和解に代わる決定のしくみ

第3編 上訴(281条~337条)
▶︎民事訴訟法「第3編 上訴」の条文の構成

[第1章/控訴(281条~310条の2)] 1 控訴とは何か ▷控訴と手続のしくみ
2 控訴審(第2番)の裁判 ▷控訴審の裁判のしくみ

[第2第/上告(311条~327条)] 3 上告とは何か ▷上告と手続のしくみ

[第3章/旅告(328条~337条)] 4 抗告とは何か ▷抗告と手続のしくみ

第4編 再審 (338条~349条)。
▶︎民事訴訟法「第4編 再審」の条文の構成
1 再審制度と手続 ▷再審と手続のしくみ
2 再審の訴えと審理・裁判 ▷再審の訴状のしくみ

第5編 手形訴訟及び小切手訴訟に関する特則 (350条~367条)
▶︎民事訴訟法「第5編 手形訴訟及び小切手訴訟に関する特則」の条文の構成
1 手形訴訟とは何か ▷手形訴訟のしくみ
2 手形訴訟の要件 ▷上手形訴訟の訴状のしくみ
3 手形訴訟の提起と判決 ▷異議申立のしくみ

第6編 少額訴訟に関する特則 (368条~381条)
▶︎民事訴訟法「第6編 少額訴訟に関する特則」の条文の構成
1 少額訴訟とは何か ▷少額訴訟のしくみ
2 少額訴訟による手続 ▷少額訴訟の訴状のしくみ
3 判決と異議申立 ▷少額訴訟の判決と異議のしくみ

第7編 督促手続 (382条~402条)
▶︎民事訴訟法「第7編 督促手続」の条文の構成
[第1章/総則(382条~396条)] 1 支払督促とは何か ▷支払督促のしくみ
2 支払督促の申立てと発付等 ▷支払督促の申立書のしくみ
3 仮執行宣言と異議申立て ▷異議申立て仮執行宣言のしくみ

[第2章/電子情報処理組織による督促手続の特則(397条〜402条)] 4 電子情報処理組織による手続 ▷オンライン申立てのしくみ

第8編 執行停止 (403条~405条)
▶︎民事訴訟法「第8編 執行停止」の条文の構成
1 執行の停止と手続 ▷執行停止と手続のしくみ
○司法制度改革と民事訴訟法の改正

第2部 民事訴訟の関連手続
○民事訴訟の関連手続・早分かり

第1章 強制執行・担保権の実行(民事執行法・全207条)
▶︎強制執行・担保権の実行と民事執行法
1 強制執行とは何か ▷民事執行のしくみ
2 不動産の強制執行 ▷不動産の強制執行のしくみ ▷強制競売申立書のサンプル
3 不動産の強制管理 ▷不動産の強制管理のしくみ
4 不動産に対する強制執行 ▷不動産の強制執行のしくみ
5 債権に対する強制執行 ▷各種の債権執行のしくみ
6 金銭以外の請求の強制執行 ▷金銭の支払を目的としない請求の強制執行のしくみ
7 担保権の実行 ▷担保権の実行(競売等)のしくみ

第2章 仮差押え・仮処分(民事保全法・全67条)
▶︎仮差押え・仮処分と民事保全法
1 仮差押え・仮処分とは何か ▷保全(仮差押え・仮処分)手続のしくみ
2 仮差押えと手続 ▷仮差押えのしくみ ▷仮差押命令の申立書のサンプル
3 仮処分と手続 ▷仮処分のしくみ ▷不動産仮処分命令申立書のサンプル

第3章 供託 (供託法・全10条)
▶︎供託法の全条文
1 供託制度の概要 ▷供託制度のしくみ
2 供託の手続 ▷供託の手続のしくみ

第4章 公正証書(公証人法・全84条)
▶︎公証人法「第3章 証書の作成」の条項
1 公正証書の効力 ▷公正証書の効力のしくみ
2 公正証書の作成手続 ▷公正証書作成のしくみ

第5章 内容証明(郵便法・郵便規則)
▶︎内容証明に関する郵便法・郵便規則の規定
1 内容証明の効力・効果 ▷内容証明郵便のしくみ
2 内容証明の書き方・出し方 ▷内容証明郵便の作成のしくみ
○不動産登記の重要性と手続

第3部 民事訴訟の関連法
○民事訴訟の関連法・早わかり

第1章 人事訴訟法(身分に関する事件)
▶︎人事訴訟法の条文の構成
1 人事訴訟の手続 ▷人事訴訟のしくみ
2 人事訴訟の申立て ▷人事訴訟(離婚)の訴状しくみ
3 人事訴訟(離婚)の審理・判決 ▷人事訴訟と民事訴訟の違い

第2章 家事事件手続法(家事審判・調停)
▶︎家事事件手続法の条文の構成
1 家事事件の手続 ▷家事事件手続のしくみ
2 家事審判の手続 ▷家事審判のしくみ
3 離婚などの調停手続 ▷離婚事件と調停のしくみ
4 相続事件の審判・調停事件 ▷相続事件と審判・調停のしくみ

第3章 非訟事件手続法(訴訟によらない迅速な裁判)
▶︎非訟事件手続法の条文の構成
1 非訟事件の種類と手続 ▷非訟事件の手続と種類のしくみ
2 非訟事件手続①公示催告 ▷公示催告手続のしくみ
3 非訟事件手続②借地非訟事件 ▷借地非訟事件手続のしくみ

第4章 民事調停法(民事事件の調停手続)
▶民事調停法の条文の構成
1 民事調停の手続 ▷民事調停のしくみ
2 民事調停の申立て ▷民事調停申立書のしくみ
3 民事調停の成立と不成立 ▷民事調停の成立・不成立のしくみ

第5章 破産・再生(債務整理) 関連法(破産法・民事再生法・特定調停法)
▶︎破産・再生(債務整理)の関連法の条文の構成
1 破産法による債務整理 ▷破産手続のしくみ
2 民事再生法による債務整理 ▷民事再生手続のしくみ
3 特定調停による債務整理 ▷特定調停手続のしくみ

第6章 仲裁法・ADR(裁判外紛争解決手続)
▶︎仲裁法・ADR法の条文の構成
1 仲裁による解決法 ▷仲裁手続のしくみ
2 仲裁機関の活用 ▷弁護士会の仲裁センターのしくみ
3 ADR機関による解決手続 ▷ADR(裁判外紛争解決手続)のしくみ
○法テラス(日本司法支援センター) 総合法律支援法

第7章 各種の訴訟関連費用(民事訴訟費用等に関する法律など)
▶︎民事訴訟の費用(手数料)等の法律・規程
1 民事訴訟費用等に関する法律
▷別表第1・申立手数料 ▷別装第2・記録の閲覧・謄写等の手数料
2 弁護士報酬等基準額
3 その他(公証人の手数料・執行官の手数料・契約書に貼る印紙税)
○民事事件の紛争解決のしくみ

事項索引

神田 将 (著)
出版社 : 自由国民社 (2018/5/11)、出典:出版社HP

30分で理解する 民事訴訟法の基本構造

■民事訴訟は、人間の生活関係に関する紛争を、国家の裁判権によって法律的かつ強制的に解決するための手続きです。そのための基本法が民事訴訟法で、これには原則(「当事者主義」、「弁論主義」など)があり、これと合わせて民事訴訟法の構造を知ることで、全体系の理解が容易となります。

1 民事訴訟法とは何か
民事訴訟法とは、その名のとおり民事訴訟に関する法律です。では、民事訴訟とは何でしょうか? 民事訴訟とは、民事の紛争、すなわち私人間の紛争を判決によって解決することを予定した裁判所の手続きです。民事訴訟法は、このような私人間の紛争を判決によって解決する裁判所の手続きについて定めた法律なのです。民事紛争を解決する手続きは、民事訴訟に限られるわけではありません。裁判所外の手続きとしては、当事者同士の話し合いで解決を図る示談交渉もその一つですし、第三者に仲裁人として間に入ってもらう仲裁という手続きも存在します。裁判所の手続きに限っても、話し合いでの解決を目的とする調停や、家庭に関する紛争であれば、家事割という手続きなどが用意されています。こうした種々の紛争解決手続きのうち、民事訴訟は、判決という背後に強制力を控えた裁判所の下す判断によって紛争解決を図る点で、民事訴訟法によって極めて厳格な規制が施されているのです。

2 民事訴訟法の性質(実体法と手続法)
民事訴訟法は民事訴訟という紛争解決手続きを規制対象とするため、民事調停法や家事審判法などと同じく手続法」に分類されます。同じく私人間の関係を対象とする民事法のうちでも、民法や会社法 は、裁判における私人間のルール、争解決基準を定めたものである点で「実体法」に分類されますが、民事訴訟法は、そうした実体法が適用される場である民事訴訟手続き自体を対象としている点で実体法とは性格を異にします。言わば、実体法が中身を規制対象としているのに対し、手続法は箱を規制対象とするといった感じでしょうか。なお、こうした実体法と手続法との関係は、刑事法においては、刑法と刑事法の関係となって現れます。

3 民事訴訟における原則(当事者主義と職権主義)
⑴当事者主義(処分権主義)と職権(進行主義)
民事訴訟法は民事紛争の解決手続きを対象とするものですが、手続きである以上、その手続きがどのように開始、終了するか、また、どのように進んでいくかが決まっている必要があります。また、紛争解決の手続きである以上、その手続きによって解決されるべき紛争、すなわち当該手続きで処理する題材・テーマをどのように設定するかということも決められていなければなりません。これらのことをそれぞれの場面において誰が決めるか、すなわち誰が主導権を有するかという観点から見た場合、民事訴訟法は、手続きの開始と終了、および訴訟の題材の決定については、主に当事者に主導権を認める「分権主義」を採用しています。民事訴訟は、一日始まった訴訟手続きの進行の場面においては裁判所が主に主導権を有するとする「職権進行主義」を採用していますが、民事訴訟という手続をどのような紛争に対し、どのようなタイミングで選択するかは当事者が決定するものとしているのです。ここで現れる「処分権主義」は後に述べる「弁論主義」と遊び、民事訴訟法における当事者主義の一場面を形成しています。

⑵ 訴訟の開始についての処分権主義
民事訴訟は、当事者(原告)が裁判所に対し、訴えを提起することによって初めて脱始します。いくら私人間の紛争が存在していても、当事者による訴えがなければ、裁判所が率先して民事訴訟手続きを開始するというようなことはありません(訴えなければ裁判なしい。 この手続きの主導権を裁判所ではなく、当事者が有するというのが上述の処分権主張の第1の内容ということになります。なお、当事者の一方が原告として訴えを提起した場合、訴えを提起された他方当事者(被告)はその訴訟を絶することが許されず、応訴の義務が生じることになります。原告が訴えを提起する場合、単に「訴える」と言うだけでは足りず、具体的にどのような請求をなすかを特定してそれをなす必要があります。この特定についての権能が処分権主義の第2の内容なのですが、これについての詳細は後述いたします。

⑶ 手続の終了についての処分権主義
訴訟の開始が当事者主導であることは前述しましたが、この開始と同様、訴訟の終了においても当事者主導が採られています。例えば、申立当事者たる原告は裁判所の意向とは全く関係なしに、一度提起した訴えを取り下げたり(訴えの取下げ)、請求を放棄すること(請求の放棄)ができますし、訴えられた当事者である被告の方も、裁判所の考えとは無関係に、原告の請求を認めること(請求の認諾)が可能です。また、原被告当事者双方の話し合いで紛争を解決することも認められており(訴訟上の和解)、裁判所によって判決が下されるのは、当事者間の自法的な解決ができなかったときに限られることになります。このように、訴訟を終了するか継続するかについての主導権を当事者が有しているということが処分権主義の第3の内容です。

⑷ 民事訴訟の進行の職権進行主義
どのように、民事訴訟の開始・終了については処分権主義により当事者が主導権を有しているのですが、一旦始まった訴訟の進行については、裁判所が主導権を有するものとされています。このように、訴訟の進行につき、裁判所が主導権を有するという建前を「職権進行主義」と呼び、民事法において職権主義の一場面となります。具体的には、訴訟が行われる場である「期日」を指定して、争点や証拠の整理を実施したり、和解を試みたりなどの期日の設け方に関してのもののほかか、当事者を求めたり、時機に遅れた攻撃防御方法をするなど期日内においての訴訟指揮もそれに含まれます。以上、民事訴訟を開始から終了までの時系列で見た場合、最初と最後については処分主義により当事者が主導し、その間においては職権進行主義により裁判所が主導するという制度となっているのです。

⑸ 訴訟物の決定についての処分権主義
原告が訴えを提起する場合、単に「訴える」というだけでは足りず、誰に対して具体的にどのような請求をなすかを特定する必要があります。この原告が求める請求は訴訟上の請求、あるいは訴訟物と呼ばれ、これが以後の訴訟の審理の対象、すなわち当該訴訟のテーマとなるわけですが、この訴訟物の決定について当事者(原告)が主導権を有することも処分権の内容とされています。このことは、民事訴訟において裁判所は、当事者(原告)が提供した訴訟物に拘束され、裁判所が勝手に訴訟物を変更したり、作り出したりすることは許されないことを意味します。例えば、当事者が元本の返還だけを求めた場合、裁判所は求められていない利息の支払いを認めることはできないのです。

⑹ 訟事件と訴えの利益
民事訴訟においては、「お金を払え」というように相手方の一定の行為を求める類型である「給付訴訟」が一般です。しかし、「自分が代表者であることの確認を求める」というように法律関係の確認のみを求める「確認訴訟」という類型や「離婚せよ」というように判決自体に法律要件を期待する「形成訴訟」という類型も存在します。こうした類型のうちどの類型を選択するかについても処分権主義により当事者(原告)が決定できるのですが、この中でも確認訴訟は、あらゆる法律関係をその対象とすることができるため、確認訴訟という類型を求める理由が厳しく審査されます。そして、例えば、給付訴訟によった方が目的達成に近道というように判断されると確認訴訟という類型で審理するにあたっての「訴えの利益」がないとされ、「訴訟要件」欠缺による訴え却下の訴訟判決がなされることになります。このように、訴訟物の決定につき、当事者(原告)が主導するといっても、訴訟要件を充たす必要があることには注意しなければなりません。こうした訴訟要件は、無駄な裁判を避けるなどの主に公益の要請に基づくものであるため、その充足についての審理は職権主義でなされ、人の自由処分には委ねられないものとされています。

4 民事訴訟の審理の構造
⑴訴訟物と請求原因事実
ここで、民事訴訟の審理の構造について触れておきたいと思います。これまで述べてきたように、民事訴訟の対象、すなわち訴訟物については処分権主義の一内容として原告が決定します。そして、以後の手続きにおいては、その訴訟物を題材として、その存否、すなわち原告の請求に理由があるか否かについて審理されていくことになります。ここで、民事訴訟の対象、すなわち訴訟物は、その法律効果の発生のために必要ないくつかの具体的事実によって構成されていることに留意する必要があります。例えば、貸金返還請求訴訟の場合、訴訟物は貸金返還請求権となりますが、この返還請求権という法律効果の発生のためには、①金銭の交付、および②その返還約束、という2つの具体的事実が必要です。①がなければ、そもそも貸付がなかったことになるし、②がなければ、もらったものということになるからです。

ここで現れる①金銭の交付、②その返還約束といった具体的事実は、貸金返還請求権を基礎づける「請求原因事実」と呼ばれ、原告は、訴え提起の段階で「訴状」において、訴訟物とともに記載することが求められます。そして、以後の訴訟においては原告は、これらの請求原因事実が存在することを契約書などの証拠を提出することで証明していくことになります。

⑵ 訴訟物と抗弁事実
原告の請求に対する被告の対応としては、いくつかのパターンが考えられ、民事訴訟において被告は、「答弁書」等においてその対応を明らかにすることが求められます。被告の対応としては、まず大きく「認める」か「争うか」に分けることができ、原告の請求、すなわち訴訟物の存在自体を認める場合は 処分権主義のところで述べた「請求の認諾」が成立し、訴訟は終了することになります。一方、争う場合はその争い方によってさらに細かく分けることが可能ですが、民事訴訟においては、被告の争い方は、原告の請求を基礎づける請求原因事実に対する対応を認否という形で 明らかにすることで明らかにします。例えば、上記の①を争えば「お金を借りた(受け取った)覚えはない」といった主張となりますし、②を争えば、「お金は受け取ったがもらったものだ」という争い方になってきます(否認)。

さらに、そうした否認による争い方とは別に、①と②は認めつつも、新たに③弁済、すなわち「お金は確かに借りたが、既に返した」という主張をなすことによって、原告の主張を争う方法もあります。このような被告の主張は「抗弁」と呼ばれ、ここでの弁済の事実は抗弁事実と呼ばれます。

⑶主張と証明
このように、民事訴訟は、当事者同士が自己に有利な事実を主張し合うことによって進んでいきます。上記の例でいえば、①と②が原告に有利な事実であり、③が被告に有利な事実になります。原告の貸金返還請求に対し、被告が①の事実を争う場合を考えてみましょう。すなわち、原告の金銭を交付したという主張に対し、被告が金銭の交付を受けていないという反対事実を主張する場合です。この場合、原告は「金銭を交付した」という自己に有利な事実を証拠によって証明していこうとするのに対し、被告はそれとは両立しない「金銭の交付を受けていない」という事実をやはり証拠によって証明してゆくことになります。こうした双方の立証活動により、いずれかが民事訴訟によって必要とされる証明、すなわち「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証」に成功すれば、裁判所はその事実を認定することになります。しかし、双方ともがそのレベルの立証にまで成功しなかった場合、裁判所としてはどのような態度と採るべきでしょうか。

この場合、裁判所としては事実の認定がきなかったとして真意不明という判決(ノン・リケット)を下すことは許されません。このように双方ともが立証に成功しないような場合でも、裁判所は相矛盾するどちらかの事実を認定して、結論を出さなければならないのです。このことは立証活動をする当事者からみれば、自らの立証活動が成功しなかった場合の不利益(「証明責任)をどちらが負担するかという問題であり、これを「証明責任の分配」と呼びます。ここでの例では、金銭の交付の有無については原告が証明責任を負担しており、原告が立証に成功しなければ、被告の立証の成否に関わらず、裁判所はその事実を認定することはできません。

ここでの①~③の事実については、①、②については原告の請求を直接理由づける事実であることから、原告が立証(証明)する責任を負うのですが、③については、原告の請求を阻害する別個の事実であることから、被告の側で立証する責任を負います。上述の否認と抗弁を厳密に定義すれば、否認とは、相手方が証明責任を負担する事実を争うこと、抗弁とは、請求原因事実に対し、自らの責任を負う事実を主張することということになります。

5 弁論主義
前記のように、民事訴訟においては、訴訟物を基礎づける事実の主張、立証が審理の中心となるわけですが、民事訴訟では、こうした事実に関する資料の収集・提出は当事者の権能かつ責任であるとされる弁論主義の原則が採られています。これらは裁判所の権能とする職権探知主義に対置されるもので、前述の処分権主義と同じく、この弁論主義も当事者主義の一内容とされています。

弁論主義は、その具体的内容として、3つの内容を包含しているものと説かれます。①当事者の主張していない事実に基づいて判決をしてはならない(弁論主義の第1テーゼ)、②両当事者間で一致した事実(すなわち、自白)については、裁判所はその真否を審理せずそのまま判決の基礎としなければならない(弁論主義の第2テーゼ)、③証拠調べは当事者が申請したものを調べることができるだけである(職権証拠調べの禁止)(弁論主義の第3テーゼ)がそれです。以下、各別に見ていきます。まず、第1テーゼは、例えば、原告の貸金返還請求の主張に対し、被告は、返還約束の存否について争い、贈与を受けたものだとの主張をしているだけであるのに、裁判所が被告が主張してもいない弁済の事実を認定して、被告を勝訴させてしまうような場合です。このような結果は原告にとってはまさに不意打ちとなるものであり、弁論主義違反とされるのです。

第2のテーゼは、例えば、原告の返還約束の主張に対し、被告もそれを認め、返還約束をしたことを認めているような場合に、裁判所が返還約束が存在しなかったとして、被告を勝訴させることはできないということを意味します。当事者間に争いのない事実については、裁判所もそれに拘束されるということです。

最後の第3のテーゼは、職権証拠調べの禁止であり、裁判所は当事者の提出した証拠のみを判断の資料にでき、裁判所自らが証拠収集をすることは許されないというものです。このように、処分権主義と弁論主義は、ともに当事者主義の内容をなすものですが、処分権主義が訴訟の内と外との区別に関する問題であるのに対し、弁論主義は、訴訟内における事実や証拠といった訴訟資料の収集についての役割分担の話ということができます。なお、職権探知主義は、真実発見の要請が強い人事訴訟(親子関係不存在の訴えなど)などにおいて採用されています。

6 判決の確定と既判力
わが国の民事訴訟法は、上訴の回数を2回とする三審制の原則を判決の確定採用し、裁判の適正を期しています。したがって、第1審判決が言い渡されただけでは、その判決は未だ確定の状態には至っておらず、判決が最終的に確定するためには、当事者双方が上訴をしないままに上期間を経過する、最高裁の判断が下され当事者の不服申立手段が尽きるなどの段階に至る必要があります。

もっとも、判決が一旦確定してしまえば、当事者はその判決の内容判決の確定を別訴を起こすことで再び争うことはできません。これを認めてしまえば、紛争がいつまでも蒸し返されてしまい、民事訴訟の紛争解決の機能が失われてしまうからです。確定判決に認められるこのような拘束力を「既判力」と呼び、民事訴訟はこの既判力によって紛争を解決する制度となっているのです。

以上が民事訴訟の基本的なスタンスですが、一口に民事紛争といっ ても多種多様であり、また、紛争当事者の求める解決方法は様々であるため、手続きを裁判所におけるものに限っても上で説明した原則とは異なる原則を採用したり、上の原則を修正した手続きが存在します。
ただ、いずれの手続きにおいても法的手続である以上、手続きの開始から終了に至るまでの時系列からのものの見方(横軸の観点)と求める結果に至るために当事者それぞれはどのような主張・立証が必要で何が不要であるかという的構造からのものの見方(縦軸の観点)が必要となります。民事訴訟を考えるにあたっては、目の前の問題点が手続きの進行に関しての問題であるのか、あるいは法的構造に関する問題であるのかを意識することが一つの重要な視点ということができると思います。

神田 将 (著)
出版社 : 自由国民社 (2018/5/11)、出典:出版社HP

裁判官! 当職そこが知りたかったのです。 -民事訴訟がはかどる本-

会話形式で学べる

本書は、訴訟代理人が知りたいことだけを裁判官に尋ねた、2日間のロングインタビューをまとめたものです。書面の作成、証拠提出、証人尋問、判決、控訴に至るまでや、裁判所内部の実態や裁判官の人間関係などにも触れられています。業界内の人だけではなく、裁判や裁判官に興味のある人も楽しめる一冊です。

岡口 基一 (著), 中村 真 (著)
出版社 : 学陽書房 (2017/12/9)、出典:出版社HP

まえがき

民事訴訟に関する新しい書籍が、毎年、何十冊も現れては消えていきました。そのほとんどが、訴訟マニュアルか学術書です。最近のトレンドは、基本書には書かれていないけれど、訴訟代理人の「実務のこういうことこそ知りたかったんだ」という知識をてんこ盛りにまとめたものです。しかし、そういうタイプの書籍も、そろそろネタが出尽くした感があります。読み手も書き手も弁護士であるため、どうしても、話題が似通ってくるのです。有効な訴訟戦略をたてるためのノウハウを習得するには、弁護士同士で感じたことを教え合うだけでは限界があります。

相手の手の内を知るという意味でも、訴訟指揮をする立場にある裁判官に、民事訴訟について感じるところを話してもらう企画があってもいいのではないでしょうか。また、個人的に、「世間知らずな裁判官」と「依頼者を説得できない弁護士」というとらえ方や両者の間にある相互不信のようなものに光を当ててみたいという思いがありました。これまで、書籍、企画問わず面白そうなものには首を突っ込んできた私ですが、このたびたどり着いたのが、民事弁護士が民事裁判官にインタビューするという企画であったわけです。

しかし、とおりいっぺんの話しかしてくれない裁判官では、無難な話に終始し、ネタになりそうな中身が出てこないおそれがあります。加藤新太郎元判事、須藤典明元判事、園尾隆司元判事、山室恵元判事、原田國男元判事、中込秀樹元判事……。法曹であれば誰でも知っている個性派の裁判官が何人もいた時代は過去のものとなり、今は、裁判官がサラリーマン化してしまっているという声も聞かれる時代です。いや、現職の裁判官の中にも、個性あふれる方が一人だけいました。SNSで赤裸々なプライベートを汚しまくっている方が。そう、岡口基一裁判官です。SNSは「オフ」の場と割り切っているため、かえって、「オン」の話題は発信していません。岡口裁判官に、仕事の本音を語ってもらう場があったなら面白いのでは……?思い立ったが吉日。岡口裁判官に打診したところ、すぐに快諾の返事がありました。

とんとん拍子で企画は進み、訴訟代理人が知りたいことだけを裁判官に尋ねる、二日間のロングインタビューが実現したというわけです。本書は、そのエッセンスを、一冊の本にまとめたものです。本書の内容は、書面の作成、証拠提出、証人尋問、和解、判決、そして控訴に至るまで豊富なトピックが盛り込まれています。さらに民事訴訟の知識にとどまらず、これまでどんな本にも書かれていなかった、裁判所内部の実態、具体的には、合議の進め方、足案の仕方、裁判官の人間関係にまで触れています。裁判官が考える訴訟戦略のポイントから、知られざる裁判所内部の様子まで、目から鱗の情報がオンパレードの本書の中には、これまでとは違った新しい訴訟代理人に生まれ変わるためのヒントがきっとあるはずです。

オフではなくオンで本音を語る。まさに本邦初公開、魅惑の開口ワールドをご堪能ください。

弁護士 中村真一

岡口 基一 (著), 中村 真 (著)
出版社 : 学陽書房 (2017/12/9)、出典:出版社HP

CONTENTS

まえがき

CHAPTER 01 書面
裁判所から見た「いい書面」「悪い書面」
要件事実の知識の有無が最も表れる書面
訴状のファーストインプレッション
見落とされがちな「よって書き」
代理人の印象は訴状で決まる
書面はゴテゴテ飾るべからず?
書面を読むタイミング
しょうもない主張につきあう必要は?
エモーショナルな書面の効き目
基本的事実の主張の欠落
書面を送るべきはファックスか郵送か
やたらと長い書面
いつも自分の主張で終わりたい代理人

CHAPTER 02 立証
高裁裁判官がまず読むのは証拠説明書?原判決?
被告欠席が見込まれるときに出しておくべき証拠
証拠の表記方法あれこれ
立証責任のない当事者にどの程度事情を明らかにさせる?
証拠調べにより証明すべき事実の確認
「過時提出主義」の「適時」とはいかに

CHAPTER 03 尋問
陳述書には何を記載するべきか
「尋問バッチリだったのにこの判決?」という疑問が生じるワケ
補充尋問についての考え方
導間で変わる印象。
証拠調べ期日前の準備
介入場間と補充尋問
尋問の和解への影響は?
弾刻証拠を裁判官はどう見ているか

CHAPTER 04 和解
和解のメリット・デメリット
県民性と和解のゆくえのカンケイ
「7割」和解を成立させる裁判官が語る
手元不如意の場合
やっぱり和解してください

CHAPTER 05 審理の終結
弁論の終結~判決までの裁判官のお仕事
最終心正ができるまで
判決までのスケジュール感
部長の心証やいかに
「合識の充実」の取組み
裁判官同士のコミュニケーションの変容
最終準備書面、コレを書いたら勝たせたる

CHAPTER 06 判決
上級審への移番は考慮するのか
和解協議が判決に影響?
代理人の腕のよし悪しが判決に及ぼす影響
起案合成
審理期間の長さは気になる?

CHAPTER 07 控訴
双方から控訴される判決
高裁裁判官が控訴審でまず着目すること
控訴代理人の見立てと筋と
控訴の思旨は大抵どこか間違っている?
双方控訴・附帯控訴などの事情の影響は?
【書式】控訴の部と控訴の都合に対する答弁
控訴審における和解

CHAPTER 08 裁判所から見た内外のお仕事事情
ブラックボックス? 裁判官の異動時の引継ぎ
異動を控えた裁判官
主張まとめメモの提出要請
処理して行くか置いて行くか
裁判官の宿題事情
事件処理「以外」にはこんなことをしています
裁判官に求められる資質
裁判官の仕事の魅力
裁判官はしんどい?
民事系裁判官のスキルが光る場面
高裁から見た管内の裁判官
裁判官に信頼されている代理人
裁判官から見た最近の若い代理人
裁判官がやりやすい代理人
裁判官よ、外に出よう

CHAPTER 09 これからの民事訴訟を語らうこと
民事訴訟の質は今がピーク?
なぜ今がピーク?
失われる旧様式判決
消えゆく要件事実教育
要件事実教育の担い手やいかに
専門訴訟の課題
マニュアル化とAI

おまけ 裁判事! 岡口さんのこと、教えて!
同業者との距離感
知られざる裁判所の飲み会
この仕事はここがつらいよ
ポストの問題
これだからこの仕事はやめられない
「被害者を助ける」なかれ
岡口さんはどうして裁判官に?
書籍の執筆はいつどうやって?
岡口流の情報収集術
SNSとのつきあい方
司法試験は4回め
弁護士には、なってみたい?

あとがきにかえて

岡口 基一 (著), 中村 真 (著)
出版社 : 学陽書房 (2017/12/9)、出典:出版社HP

よくわかる民事裁判 — 平凡吉訴訟日記 第3版 (有斐閣選書)

裁判のしくみを楽しく理解できる

実際に当事者になることはなくとも、現代社会において裁判の重要性は増しています。日本社会のあり方を理解する常識として、裁判の理解を深めることは不可欠でしょう。本書は、基礎知識のない人にも理解できるような、分かりやすい解説がされています。民事裁判に興味のあるすべての人向けの良書です。

山本 和彦 (著)
出版社 : 有斐閣 (2018/11/30)、出典:出版社HP

第3版まえがき

この本は、1999年7月に初版が刊行され、2005年4月に第2版が(さらに2008年8月に第2版補訂が)刊行されましたが、幸いにも多くの読者の手にとっていただくことができました。ただ、この本の出版後、民事裁判を取り巻く状況は大きく変化しました。初版では当時新たに制定された現行民事訴訟法の状況を、第2版(及び第2版補訂)では司法制度改革後の民事司法の状況を取り上げましたが、その後さらに10年の歳月が経ち、民事裁判の姿は大きく変化してきました。

初版の刊行からは20年が経ったわけですが、初版の「エピローグ」で扱った2025年の社会は、今現実に目睫の間に迫っています。そこでの著者の「予言」は当たったものもあれば大きく外れたものもありますが、目指すべき理想の民事裁判の姿に大きな違いがあるとは思われません。この本を著した大きな動機であった、21世紀の規制緩和の進む社会の中で、民事裁判の占める重要性が増していくという予測・期待は変わるものではありません。

第3版は、現行民事訴訟法制定から20年(旧版の「新民事訴訟法」という表現はさすがにやめました)、司法制度改革から10年余りが経ち、事件数の量的減少・質的困難化など新たな問題が生じている現段階の民事裁判の姿を伝えようとするものです。そこでは、現行法が完全に定着する一方で、かつての「改革の熱気」が失われつつある民事訴訟の現状のほか、最近動きの大きいADR(裁判外紛争解決手続)や法曹養成(法科大学院・司法試験等)の状況を紹介し、最新の民事執行の改革の動きなども取り上げてみました。さらに、エピローグは思い切って21世紀半ばの民事裁判として、(著者の期待も含めて)2050年の予測を試みています。最近始まった裁判等のIT化の議論なども含め、技術発展の行方は予測がつきませんが(ひょっとすると、本当にAIが裁判をしているかもしれません)、一民事訴訟法学者の夢想としてお読みいただければと思います。引き続きこの本が民事裁判の全体像を鳥瞰するための見取り図として活用されることを期待しています。

第3版の執筆にあたっても、有斐閣編集部の佐藤文子さんに全面的にお世話になりました。佐藤さんの助言と協力がなければ、「平凡吉の生まれ変わり」も決して実現しなかったでしょう。厚く御礼を申し上げます。

2018年9月
山本和彦

山本 和彦 (著)
出版社 : 有斐閣 (2018/11/30)、出典:出版社HP

まえがき

この本は、民事訴訟の手続の全体像をできるだけビビッドに理解していただくことを目的としています。一般に法律はわかりにくいというイメージがあります。そのなかでも、裁判となると、普通の人はまず自分には関係のないむずかしいことだと思っていることでしょう。しかし、仕事の中で、日常生活の中で、普通の人が裁判に関わる場面は増えてきていますし、これからはもっと増えていくことでしょう。また、実際に裁判の当事者となることはないとしても、21世紀の規制緩和が進む社会の中では、裁判の占める重要性は増していくばかりで、日本社会のあり方を理解する基本的な知識・常識として、裁判の理解が不可欠になってくることでしょう。

ただ、そうだからといって、基礎知識のない人がすぐに民事訴訟法の教科書を読んでみても、その内容を直ちに理解することはほとんど不可能でしょう。この本は、そのような方々のために、とりあえず民事裁判の全体像をわかりやすく理解してもらうことを主な目的とするものです。この本は、有斐閣の『書斎の窓』の453号から462号まで1年間、合計10回にわたり連載した『平凡吉の訴訟日記/手に取るように分かる民事裁判』をもとにしたものですが、分量を増やして民事保全や強制執行の手続なども対象としたほか、内容も新民事訴訟法の施行にあわせて、大幅に加筆訂正しています。

この本の特徴として、第1に、各章を2部に分けている点があります。第1部では、土地明渡訴訟の被告とされた平凡吉という平凡な一市民が偶然つけていた民事訴訟に関する日記をそのまま掲載するという形をとっています。これによって、普通の人の目を通して民事裁判の具体的な進み方をわかりやすく理解しようとするものです。そして、各章の第2部では、平凡吉の日記を2025年に発見した、凡吉の甥で元弁護士の平凡太郎が解説する形をとっています。これによって、第1部で得られた具体的なイメージをもとにして、もう少し詳しく、より正確に民事裁判の手続を理解しようとするものです。

第2に、普通の民事訴訟法の教科書とは違って、民事裁判の具体的な進み方の理解を第1に考えている点があります。そのために、通常の民事裁判の理解に必要なことがらに記述を絞って、教科書などでは詳しく論じられる訴訟の基本的原則や特殊な場合のルールなどについては、あまりふれていません。逆に、民事裁判の全体的な理解に不可欠な民事保全や民事執行の手続についても、最小限の解説をしています(なお、民事裁判の基礎となる裁判制度全体のイメージについては、市川正人=酒巻匡=山本和彦『現代の裁判』(有斐閣アルマ・1998年、第7版・2017年)をぜひ読んでみてください)。

第3に、本文の随所にコラムを入れて、読者の息抜きとするとともに、裁判のイメージを得ることができる話題や最新の問題状況を示すような話題を入れています。

この本が読者対象として予定しているのは、民事裁判に興味のあるすべての人です。法学部の学生の皆さんのなかで、これから民事訴訟法の講義をとって勉強しようとしている人には、講義を聴く前にとりあえずこの本を読んでもらえれば、と思います。民事訴訟法の講義が「よくわかる」ようになるはずです。また、民事訴訟法の講義を聴いても、具体的な裁判のイメージがもう一つつかめないという人にも、一読をお勧めします。この本を読んでいるうちに、いくつかの疑問が氷解して、民事訴訟法の理解が進むのではないかと期待しています。司法試験を受験しようとするような人には、この本は物足りないかと思いますが、受験勉強の息抜きをしながら、民事訴訟法の知識を深める一石二鳥という使い方も可能ではないかと思います。

また、大学の法学部以外の学部の皆さん、また大学の講義とはとくに関係なく、自分が民事訴訟の当事者となって裁判のことを知りたいと思った人や、法律のことはよくわからないけれども新聞記事やテレビのニュースを見て裁判に興味をもった人などにも、ぜひこの本を読んでもらいたいと思っています。その場合、第2部の解説の部分が難しいと思われれば、とりあえず第1部の平凡吉の日記の部分だけを通して読んでみてください。そして、興味をもてるような部分について、解説やコラムを拾い読みしてみてください。そうすれば、民事裁判の最小限の理解は得られるはずです。

民事訴訟法は難しいものと言われます。民訴でなく、眠りの素、「眠素」と呼ばれて、すでに何十年も経っています。しかし、裁判が実際の人間の実際の紛争を取り扱うものである以上、決して退屈なものであるはずがありません。私も裁判所で多くの事件を傍聴し、事件の記録を見たことがありますが、個々の事件を退屈だと感じたことはありません。退屈なのは民事訴訟法の責任であり、民事訴訟の責任ではないはずです。この本では、民事訴訟法の議論の詳しさや正確さを多少犠牲にしても、何とか少しでも私の感じる民事裁判の面白さを伝えたいと思いました。この本を読んでほんの少しでも民事裁判を面白いと思い、興味をもって頂ければ、著者としてこれほどの幸せはありません。

1999年6月
山本和彦

山本 和彦 (著)
出版社 : 有斐閣 (2018/11/30)、出典:出版社HP

目次

プロローグ
判決前夜の平凡吉

1 裁判を始めるにあたって
平凡吉、裁判所で驚く
第1回 口頭弁論/裁判所紹介、民事裁判の概要
裁判所ってどんなとこ?
法廷にいる人たち
「口頭」ではなく「弁論」もしない「口頭弁論」
歯医者型審理から外科型審理へ
民事訴訟はどのように進められるか?

2 裁判のきっかけ
法律相談/紛争の概要
内容証明郵便
法律相談
借地契約をめぐる紛争
法的な思考方法の特徴
法制度の基本的な特徴

3 調停手続
民事調停その他のADR、少額訴訟等
通常訴訟以外の紛争解決手続
民間型ADR
調停手続
仲裁手続
少額訴訟
非訟事件
支払督促

4 処分禁止・占有移転禁止の仮処分
民事保全制度の概要
保全処分の存在理由・特徴
保全処分の手続
仮差押え
占有移転禁止・処分禁止の仮処分
その他の仮処分

5 訴えの提起から弁護士との相談へ
弁護士への委任、訴えの提起
訴訟代理
法律扶助
訴訟費用
訴状
管轄・移送

6 証拠の収集
攻撃防御の準備
訴状の送達
答弁書・準備書面
証拠保全・提訴予告通知
当事者照会
文書提出命令

7 反訴の提起
中間的な訴え、多数当事者
訴えの併合
請求の事後的な併合(訴えの変更・反訴など)
共同訴訟
訴訟参加
訴訟承継

8 争点を整理するプロセス
争点整理の手続
争点整理手続の充実の試み
現行法による争点整理手続
準備的口頭弁論
弁論準備手続
書面による準備手続
計画審理

9 弁護士との相談
法律業の規制緩和と「大競争時代」
陳述書
司法試験制度 現状と改革
司法修習制度
弁護士業務の規制緩和

10 和解手続
訴訟上の和解
判決以外による訴訟の終了 訴え取下げ、請求の放棄・認諾
和解の意義と評価
和解の手続
和解の効果

11 証人尋問
証拠調べの手続
証拠調べの必要
証拠調べの方法
訴訟における専門家の活用
書証
人証(証人尋問、当事者尋問)と集中証拠調べ
尋問の方法

12 判決合議
裁判官 裁判職人か、司法官僚か
裁判官の採用
裁判官のキャリア
裁判部
退官後の裁判官

13 判決の言渡し
判決 過去の清算か、将来への出発点か
判決の言渡し
判決書
判決の種類
確定した判決の効力

14 上訴
上訴 権利保護の充実か、引延しの防止か
上訴
控訴
上告

15 強制執行
強制執行 権利実現のハードルを低く!
訴訟費用の裁判
強制執行の方法
不動産執行
動産執行
債権執行
明渡執行・代替執行
間接強制

エピローグ
民事司法改革
21世紀半ばの民事裁判

あとがき
索引

山本 和彦 (著)
出版社 : 有斐閣 (2018/11/30)、出典:出版社HP

プロローグ

2050年3月のはじめ。まだ肌寒い気候の続く頃、私、平凡太郎は、長年住み慣れた街を引き払い、地方のある村に引っ越しをしようと準備をしていた。

長く続いたAI好況も終わりを告げつつあったが、幸い伯父がかつて買い取り、その後に私が購入して住んでいた土地と建物は比較的高い値段で売り払うことができた。また、私の弁護士としての30年ほどの生活のなかで作ることのできた蓄えもそれなりにあったので、幸い地方ではかなり広い土地を買うことができた。

法科大学院制度の復活や司法試験合格者の再増員で、弁護士の人数は急激に増加し、また、まるで大企業のようなアメリカの大弁護士事務所が物すごい勢いで日本に進出してくるなか、私はたった1人で昔ながらのやり方に従って事務所を経営してきたが、競争にはもうつくづく疲れ果ててしまっていた。そこで、法律事務所を引き継いでくれる後継者を得られたことを機として、老後は田舎で田畑でも耕しながら晴耕雨読というゆったりした生活を送りたい、というかねてからの目論見を果たすことにし、ある農村に、見晴らしのよい住居とともに、若干の田畑を購入することにしたのである。

そこで、4月からの新たな生活に対する大きな希望と少しの不安を胸にしながら、旧い家の整理にとりかかっていた。とはいっても、この家に住んでからもすでに20年近くが経ち、片づけてみると、何やかや自分でも忘れていたような物も出てきて、荷物の整理は難渋を極めていたのである。

そのようななかで、物置の奥のほうにしまい、長年開けられることもなかったある段ボール箱にふと気がついた。どうやら伯父の遺した荷物が忘れられてそのままになっていたようである。開けてみると、中からは、伯父の趣味であった釣りの雑誌や伯母の付けていた古い家計簿などいろんな物があふれ出てきた。やれやれ……と思いながらも、中の物を整理していると、1冊のノートが目についた。その古びてもう黄色くなってしまった表紙には、「平凡吉訴訟日記」という表題が見えた。そう、平凡吉というのは、もう20年ほども前に亡くなった私の伯父のことである。その伯父が亡くなった後、当時外国に住んでいた伯父の娘(私の従姉妹)から甥である私がこの家を購入することになり、移り住んできたのである。職業柄、「訴訟」という言葉を聞いても普通の人のようには驚きはしないが、「訴訟日記」とは……。そういえば、ずいぶん昔、この家の立ち退きを当時の地主から求められて、裁判沙汰にまでなったというような話をどこかで聞いたことがあるのを、私は微かに思い出した。たしかあのときは、私の大学のゼミの先輩である秀山優一弁護士に事件を依頼したという話であったが……。

それにしても、「訴訟日記」とはいったい何なのであろうか。私は好奇心半分で、その古くなったノートを、バラバラにならないように気をつけながら、そっと広げてみた。そこには、2018年3月28日の日付で、次のようなことが書かれてあった。

●判決前夜の平凡吉●
3月28日(水)晴れ
いよいよ明日はこの訴訟のすべてが決まり、私の運命もすべて決まってしまう判決の言渡しの日だ。そう思うと、ビール2本にウイスキーをストレートでさらに3杯飲んだのに、まだ目が冴えてどうしても眠れない。しかたがないので、いままでのことを思い出しながら、この日記を書くことにした。
思えば、事の始まりはもう2年も前のことになる。金に目が眩んだこの土地の地主、金田金造が藪から棒に立ち退きを求めてきた。最初は地代の値上げとかも言っていたが、その本音は、私をここから立ち退かせ、その跡地に高層のマンションを建て、自分はその最上階に住みながら、息子の金一に下の階で医院を開業させ、さらにマンションの貸部屋の家賃で安穏とした老後を送ろうという腹だったのだ。しかし、こっちは生まれてこの方ずっとこの街で暮らしてきたのに、いまさらここから追い出されては、この街で代わりの住まいを見つけることは簡単にはできそうにもなかった。そこで、立ち退きを断ったら、後は信じられないことの連続で、ついには裁判の被告にまでされてしまったのだ……。
いま思えば、本当にいろいろなことを経験した。これまでは、法律のホの字にも縁のない真っ当な暮らしを送ってきたのに、まさかこの年齢になって弁護士先生や裁判所のお世話になろうとは……。内容証明郵便というのが最初に送られてきたときの衝撃、弁護士を探すために駆けずり回ったときの焦り、調停手続というので最初に裁判所の門をくぐったときの緊張感、最初の口頭弁論というのに行ったときに感じた呆れ、当事者尋問で自分の言いたいことが言えたときの爽快さ、和解の期日で相手方の話が終わるのを裁判所の廊下で待っていたときの不安……。
さまざまな感情や出来事が走馬灯のように頭をよぎっては消えていく。しかし、それらもすべて明日限りだ。長かった裁判もやっと終わり、明日はついに判決の言渡しの日なのである。吉とでるか、凶とでるか、まさに試験の発表でも待つ気分である。ただ、秀山先生には本当によくしてもらったし、自分としてもできる限りの最善を尽くしたという思いはある。いまはただただ祈るだけである。

私は時の経つのも忘れて、伯父が遺してくれた日記を最初から最後まで一気に読み終えてしまった。気がついたときには、もう早春の短い日はすでに西に傾きかけていたが、しばらくは自分がどこにいるのかも忘れ、ただただ呆然としていた。いつ会っても酒を飲んだくれて、伯母さんから文句ばかり言われていた、あの凡吉伯父さんがこんな苦労をしてこの土地建物を守り、それにこんな日記を遺していたなんて……。そして、この日記の中には、まだ若く当時司法試験を受験中であった自分のことも書かれていたのである。

そうか、あのとき、凡吉伯父さんが、続けて司法試験の受験に失敗して、もうあきらめかけていた自分を励ましてくれたのには、実はこんな訳があったのか……。ついに試験に合格した時の私の感激や凡吉伯父とのさまざまな出来事が、鮮やかに私の頭の中に蘇っては消えていった。そして、いままさに、そのように苦労して手に入れた弁護士の職を捨て、田舎に隠棲しようとしている自らの身の上に思いを致し、私は大きな感慨を覚えたのであった。

この日記は、いまから30年以上昔のごくありふれた民事訴訟の進み方を法の素人である普通の人が観察したものとして、期せずして貴重な記録になっているように思われる。そこで、私は、この55歳という年齢になって初めて「民事訴訟」という「未知との遭遇」を果たした平凡吉伯父の「驚愕」の記録の一部をまとめて、この際公にすることを思い立ったのである。ただ、日記だけではその意味が必ずしも明らかではないところもあるので、法律の専門家である私が、田畑仕事の合間に、必要な部分を抜粋し(少しは私の想像も入れてまとめた部分もあるが)、また専門的な立場から、若干の解説を書き加えていくということにしたいと思っている。

たしかにこれは大昔の記録ではあるが、民事訴訟の本質は幸か不幸か当時とあまり変わっているようには思われず、2050年の現在でも裁判所でやっていることは、まずほとんど同じである(現在変わっている点はエピローグでふれている)。とくに、伯父が訴訟に巻き込まれた時期が、現在も行われている民事訴訟法(以下では現行民事訴訟法または現行法といっている)が施行された1998年より後であった点も、偶然とはいえ、幸いであった。その意味で、この記録は、これから訴訟を起こそうとしている人々、また民事訴訟の制度に関心がある人々にも大きな参考となるように思われる。

この記録が、平家のみならず、広く世の人々に役立つものとなることができれば、凡吉伯父の遺志にも適うことであろう。思えば、私が法律の世界でこれまで生きてこられたのも、あのときの伯父の激励があったればこそであり、伯父がそのような思いを抱いたのはまさにこの訴訟に巻き込まれたことが原因であったとすれば、これは私から伯父へのささやかな恩返しでもある。

凡吉伯父さんへの感謝を込めて
平凡太郎

追記:なお、私の付した解説は、臨場感を出すために、2018年頃の状況を基礎としている。したがって、この本を読んだ方が、仮にタイムマシーンを持っていたら、その時代の日本で訴訟を起こすこともできるようになっている。この2050年の現在における民事訴訟の様子は、最後のエピローグのなかで簡単に示しておいた。どうかお楽しみに。

山本 和彦 (著)
出版社 : 有斐閣 (2018/11/30)、出典:出版社HP