市場を創る – バザールからネット取引まで

本書の筆者、ジョン・マクミランはゲーム理論などの分野で著名な経済学者であり、2007年に亡くなるまでは、中国やその他の途上国の国営企業におけるインセンティブ利用の政策に取り組み、またそれらの経済における起業家精神や経済発展のための制度的構造を研究していた経済学者でした。

邦題では市場を創る―バザールからネット取引までとなっていますが、原書ではReinventing the Bazaar: A Natural History of Marketsとなっている通り市場というものがどのように成り立っているのかという側面あてた市場の歴史を紐解いています。市場(マーケット)は特定の参加者達によってどのように機能しているのか、それがいかに形成されてきたのか。市場はトライアルアンドエラーでの試行錯誤によって、時間経過や回数を重ねるとともにボトムアップから発展し、常に回転して、創造性と柔軟性をもって自らを作り変えています。

本書はそのような市場の役割・機能を現在の最先端の理論とその応用が実際の社会でどのように働いているのかを観察します。

遡ること、サン・マイクロシステムズ会長兼CEOのスコット・マクネリーはスタンフォード大学ビジネス・スクールの学生に講演で「終身在職権を持った大学教授が市場経済について私にいったい何を教えてくれるのだろうか」と問いかけ、その問いに答えたのがジョン・マクミランでした。つまり、本書は前述にもあるように、学者としての大学教授が役に立っていないなというスコット・マクネリーのコメントのカウンターパンチの書籍でもあります。

主な本書の内容は、市場(しじょう)と市場設計の歴史であり、その世界の状況であります。
ただし市場は全能、全能、または全知ではなく、 それは人間の不完全性を伴う発明です。 必ずしもうまくいくとは限りません。マクミランは、現地の状況を反映しながら市場がさまざまな行動からどのように生まれてくるかを指摘するために「自然」という言葉を好んで使用しています。
人々が自分たちのニーズに合うように市場を作ることを妨げることができないのと同じように、人工的な市場をこれらの条件に不適切に市場をつくることもできません。

本書の中で具体例としてオランダのアールスメール花市場、古代アテネのアゴラや現代インドのバザール、ベトナム・ハノイのストリート商品、ルワンダの難民キャンプ、アフリカの製薬産業、日本の築地魚市場や大阪で生まれた世界初の先物市場、インターネットの電子商取引、シリコンバレーのベンチャー精神やイノベーション、カリフォルニア電力市場などが挙げられています。

もちろん規制も必要です。自由市場はそれほど自由ではないときに最もよく働きます。市場システムと市場主義についての議論は、それらの二元主義になりやすく、そして偏る視点になることが多い傾向にあります。それらの意見には ほとんど「市場システムにも長所と短所があります」と言ってお茶を濁してしまったりするが、筆者マクミランはさらに一歩進んで、費用と便益を明確に比較することによってシステムを評価し設計すべきだと言います。相対的な便益は時々異なる可能性があることを強調します。 例えば、本書であるアフリカの製薬産業ではエイズ治療薬の話が出てきますが、特許制度なしでは開発できませんが、医薬品の価格が高騰し、発展途上国では使用できないということになるでしょう。と言っても特許がなければその製薬は生まれません。

大まかな本書の流れですが1〜3章までがフォーカスする市場についての考察で、第1章「唯一の自然な経済」では、市場は歴史とともにいつでも存在していたもので あり,古代アテネのアゴラから現代のネット取引まで,その時代の環境や利用される技術によって形態こそ違うものの,常に人間の経済活動と深く結びついて存在してきた「唯一の自然な経済」であることを、第2章「知性の勝利」では,政府による規制などの状況下でも、市場は人の創意工夫を生み出します。雑草魂からでてくる起業家精神のように自然発生するボトムアップ、交換から生み出される利益があるところで、常に市場を創造するにつれて、改善するための努力が常になされてきたと述べられています

第3章「地獄の沙汰も金次第」では、エイズ薬の抗レトロウィルス薬がエイズで苦しむアフリカの人々にとってまったく手の届かないものであった状 況が,どのように解決されてきたのかを描写する。製薬のグローバル市場が, 市場の最悪の側面を見せつけたとする一方で、人命を救う素晴しい薬の開花 を促してきた原動力は市場インセンティブであったことを指摘しています。エイズ薬の場合,知的財産権のルールを弾力的に変更するという製薬市場の再設計によって問題が解決された.この事例は,トップダウンの市場設計が必要で、一例となっていると伝えています。

第4章から第10章までは、市場がうまく機能するために必要とされるプラットフォームについて述べ,
市場設計がそれらのプラットフォームの形成にかかわることを説明しています。

市場をうまく機能させるプラットフォームが備えている5つの基本的特徴とはしてマクミランは
(1) 情報がスムーズに流れること,
(2)人々が約束を守ると信頼できること,
(3) 競争が促進されていること,
(4) 財産権が保護されているが,過度には保護されていないこと,
(5) 第三者に 対する副作用が抑制されていること,
と述べており
それぞれの章で実際に行われていることを事例に上記の条件とも言える特徴が確認できる分野をこれらの章で描いています。
第11章以下では,市場設計の5つの要素が具体的にどのように市場(舵を切り市場を作り上げていく者たち)と政府(規制・規制緩和をするもの)達の間でどのようなプロセスをたどりそのようなより良い環境を作り上げるかを記載しています。

また市場は万能ではなく,うまく設定されたときにのみうまく機能するという立場から、市場が常に正しいとか,根本的に悪であると いうイデオロギー的な観点に反対して、市場に対してプラグマティックなアプローチを取ることが必要であると主張されています。

本書は知識なしで興味がある分野から各章読み切りで理解できますので最初の1〜3章で市場についての考察を読み、各章で興味がある分野から読み始めるものも良いでしょう。

ジョン マクミラン (著) , John McMillan (原著), 瀧澤 弘和 (翻訳), 木村 友二 (翻訳)
出版社: NTT出版 (2007/3/1)、出典:amazon.co.jp