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裁判員制度は,平成21年から始まり、徐々にですがその名が世間にも広まってきました。しかしながら、それでもまだこの裁判員制度に対して、他人事と思っている人は多いかと思います。どうして裁判員制度が始まり、今に至るのか。当時と今では何に相違があるのか、改めて確認していける5冊をご紹介します。
あなたが変える裁判員制度 市民からみた司法参加の現在
本書は、裁判員制度の現状について、裁判員経験者の視点を主軸としてまとめた1冊です。著者は一般社団法人裁判員ネットのメンバーで、市民の視点から裁判員制度についての議論の機会を作り、あるべき姿を模索し、情報発信を行っていきたいとの考えのもと行ってきた裁判員ネットの活動から得た裁判員経験者の声をもとに、これから裁判員となる人へ伝えたいことをまとめています。
2009年に裁判員制度が始まってから、10年が経過しました。この10年間で裁判員・補充裁判員として実際に刑事裁判に関わった人数は8万人を超え、裁判員候補者に選ばれた人数は300万人弱となるそうです。これだけの人が関わっているのに、裁判員制度はどこか他人事のように思っている人は多いのではないでしょうか。制度設立当初こそメディアで多く取り上げられましたが、制度開始から10年を経過した今、制度そのものについてメディアで取り上げられることはほとんどありません。そんな今だからこそ、裁判員制度について改めて学び、いざ自分が裁判員に選ばれたときにどのように行動すべきか、一度考えてみるのもよいのではないでしょうか。
本書は、3章構成となっています。1章では、裁判員経験者の感想など生の声を紹介します。裁判員候補者名簿に載ったことの通知を受け取ってから、判決内容を決めるに至るまで、また裁判員を終えた後、裁判員が何を感じるのかに触れることで、将来裁判員になる人が裁判員になる際のイメージを具体的に抱くことができます。2章では、裁判員制度の概要、実施状況について説明します。裁判員選定の仕方や裁判員の義務など、制度の概要について説明し、制度の運用状況について、審理の長期化や裁判員の心理的負担などといった問題点も含め取り上げます。
3章では、市民の視点から、制度の課題や改善策について考えます。裁判員経験が共有されない、裁判員候補者であることの公表禁止規定の存在、裁判員の心理的負担などといった問題点が多くあるため、どのように改善するか、裁判員となる市民の視点から考えます。
裁判員経験者の声を聞くことができるのが本書の特徴ですので、裁判員制度について改めて学びたい人だけでなく、裁判員候補者に選ばれた人にもおすすめできる1冊といえます。
あなたも明日は裁判員!?
本書は、裁判員を担う市民に向けた、裁判員の過去・現在・未来についてのガイドブックで、裁判員ラウンジのいわば紙上版です。裁判員ラウンジとは、裁判員経験者が体験談を語った後、そのスピーチをもとに裁判員制度に関心を持つ人々が自由に対話するという集会のことです。本書は様々な執筆者が寄稿していますが、そのほとんどが裁判員ラウンジの参加者で、各執筆者の生の声を聞くことができるものとなっています。
裁判員制度が開始してから10年が経過しましたが、まだ自身や家族、知り合いが裁判員を務めたという人はそこまで多くはなく、裁判員制度自体を身近に感じていないという人も多いと思います。そのようなとき、突然、裁判員候補者に選定されたという通知が届いたら、どのように感じるでしょうか。おそらく、実感が湧かなかったり、不安を感じたりと、人によって様々な感情を抱くと思います。本書は、これから裁判員になる人へ向けて、裁判員経験者の声を中心として、裁判員制度について考えていきます。
本書は2部構成となっています。第1部は、裁判員制度の概要や裁判員制度の実施に関わる人々について紹介します。裁判員裁判において裁判員がどのように関わるのかについての説明に加え、裁判員経験者の交流団体の紹介もあります。裁判員候補者となった人は多くの不安を抱えるでしょうが、本書が紹介する団体を通じて、また、本書の紹介する裁判員経験者の体験談を通じて、少しでも裁判員裁判に対する不安を解消できるものと思います。第2部では、大学法学部の教授や弁護士などが、各専門分野からの切り口で、裁判員制度について考えていきます。裁判員の守秘義務や辞退率の上昇、単純多数決での死刑判決の是非など、まだ解決されていない裁判員制度の問題点などについて、改善案も含めて解説していきます。
本書は主に、裁判員候補者となった人に向け、裁判員経験者の経験を学ぶことができるものとなっており、裁判員候補者となった人、裁判員になることへ不安をかけている人におすすめできるものとなっています。
裁判員の判断の心理-心理学実験から迫る
本書は、感情が裁判員の判断にどのように影響するのか、心理学の実証的研究の結果をもとに分析していきます。裁判員制度が開始してから10年が経過しましたが、その間に、裁判員制度について心理学者による分析が行われてきました。その中で、慶応大学教授で認知心理学、司法心理学を専門とする著者の研究室が行なった3つの実証的研究を紹介し、心理学から見て裁判員制度にどのような問題があるのか、裁判員制度をより良いものにするために心理学からどのような提言ができるか、将来心理学者がどのような研究を行う必要があるのかについて、本書は論じていきます。
まず、第1章では、裁判員裁判における心理的問題について説明します。興味深いのは、裁判所HP内にある「裁判員制度Q&A」の中から、心理学が関わりそうな疑問点、不安点をピックアップし、心理学のアプローチから答えていくというものです。死体の写真なども見なければならないのか、法律を知らなくても判断できるのか、裁判官の意見に誘導されるおそれはないのかなどといった疑問点について、裁判所による回答はHP上に掲載されていますが、その回答、制度運用では心理学の側面から見れば不十分な点も多くあります。このような問題点を前提として、その理由となる制度上の問題、裁判員裁判に様々な場面において裁判員の心理に与える影響が判断を左右する可能性などについて紹介します。
続く第2章から第4章では、著者が行なった3つの実験的研究について紹介します。凄惨な写真や被害者側の意見陳述が裁判員の感情・有罪無罪の判断に与える影響、裁判員の判断の仕方・被害者側の意見陳述の用い方についての説示が裁判員の判断に与える影響、より一般的に意見陳述が裁判員の感情に与える影響や、個人特性との関連などについて、各研究を通じて検討します。
裁判員制度では司法のプロではない一般人が被告人の有罪無罪や量刑を判断しますが、その判断はとても複雑で難しいものです。だからこそ、様々な要因が裁判員の心理に与える影響が大きく、判決内容にも大きく影響するといえます。本書は、心理学の面から裁判員制度について考え直し、どのように改善していくのがよいかを考える1冊となっています。
人が人を裁くということ
本書は、裁くという行為の意味を、その根本に戻って考えるものです。著者は、社会心理学を専攻するパリ第8大学心理学部准教授の小坂井敏晶氏です。本書は全体を通じて、我々が常識として考えていること、無意識的に当たり前と思っていることについて、考え直すことを目的としています。例えば、刑事裁判の目的は何か。この問いに対する答えとして、犯罪の真相を究明し、犯人を罰して、再犯を防止する、また、犯人を処罰して被害者の無念を晴らすといったものが考えられます。しかし、これらはいずれも、犯人を確定できる、犯罪の理由が裁判で解明できるということを前提にします。こういった常識に対し、本書は疑問を投げかけます。裁判という制度が担う本当の機能は何なのか。人間が行うさばきとは何か。本書は、こういった問いについて改めて考えます。
本書は、3部構成となっています。第1部では、裁判員制度をめぐる誤解というテーマで、日本の裁判員制度をめぐる議論の落とし穴を指摘します。司法への市民参加が、日本では義務として認識されているのに対し、欧米では、国家権力から勝ち取った市民の権利として理解されています。そして、日本と違い欧米では裁判官よりも市民の判断に重きを置きます。このような日本と欧米との違いが生まれる理由はどこにあるのか、各国の裁判員制度・陪審員制度についてその歴史から紐解き、その理由について考えます。
第2部では、秩序維持装置の解剖学というテーマで、誤審の生じる仕組みを検討します。現在でも大きな問題となっている冤罪ですが、冤罪はどの国でも起こるといいます。そして、人間が人間を裁くことの意味を理解する前提として、冤罪を生む構造を見ていきます。
第3部では、原罪としての裁きというテーマで、1部・2部での検討をもとに、犯罪と処罰の正体に迫ります。刑法学における人が自由意思に基づいて行なった犯罪行為について処罰するという大前提に疑問を投げかけ、裁くという行為について考えていきます。
本書は、裁判員制度だけでなく、刑事司法、裁判制度の根幹について、常識に対して疑問を投げかけ、人が人を裁くという根源的なことについて考えなおすものとなっています。
マスコミが伝えない裁判員制度の真相
本書は、マスコミが報じている裁判員裁判の裏側を、弁護士であり刑事裁判に携わる著者の立場から明るみに出すことにより、裁判員制度の問題点を浮き彫りにすることを目的として書かれたものです。2009年に裁判員制度が導入され、その6年後に本書は出版されましたが、著者は裁判員制度に関するありとあらゆる報道に目を通してマスコミの意見を検証したといいます。そこでわかったことは、マスコミの報道がいかに効果的に問題点を隠してしまうかということだそうです。本書はそのように隠された裁判員制度の問題点を明らかにし、一般市民、法曹関係者、マスコミ関係者にとって裁判員制度の再検討のきっかけになることを願って書かれました。
本書は10章構成となっています。1章では裁判員制度が導入される理由ともいえる「市民感覚」について言及します。裁判員制度は市民感覚、国民の一般常識を裁判に反映させるために導入されたといわれますが、そもそも市民感覚とはあいまいで、社会問題を隠蔽すらしてしまうと本書は指摘します。それなのにマスコミはこの市民感覚を生かせるとして裁判員制度を大いに持ち上げ、大絶賛してきたとして、裁判員制度について考え直します。
2章から4章では、裁判員制度の運用についての問題点を指摘します。出頭率の低下、真の出頭率と報道との乖離、裁判員経験者の答える「良い経験」の真実、裁判員裁判における公判前整理手続の問題点について、各章で言及します。6章では、裁判員裁判における心理と量刑について、その公平性すら失われていると指摘し、7章では、裁判員裁判に求められる「わかりやすさ」について疑問点を提示します。9章では裁判員制度の大きな問題点である死刑判決について考えます。10章では、制度の基本構造を出発点として、制度の構造的問題を広く考えます。
本書は、報道記事を多く引用しながら、時には同一の判決に関する複数の記事を比較しながら、裁判員制度に関する報道のあり方を考え直すものとなっています。裁判員制度について考え直し、報道の見方も考え直すきっかけとなる1冊といえます。