最底辺のポートフォリオ – 途上国での日々2ドルの意味

貧しい国の貧しい人々がどのようにお金を管理しているのか

最貧国の家計は、収入の「少額」「不定期」「予測不可能」という三重の困難に取り巻かれています。筆者たちはファイナンシャル・ダイアリーという聴き取り調査を行い、バングラデシュ、インド、南アフリカ共和国で繰り返し、積み重ねた研究の成果であります。

本書の分析の柱となるフィナンシャル・ダイアリー

本書で扱われる様々なテーマがあります。毎日のお金の流れ(キャッシュフロー)、貸し借り、リスクへの対処、マイクロファイナンス、それを知るにあたり筆者たちは、貧しい家庭の金融日記をまとめるためにデイビッド・ハルムの考えである上記のフィナンシャル・ダイアリーを用いて、3カ国の貧困層世帯を1年に2回、毎週繰り返し訪問し、メンバーが前回の訪問以降に得た、使った、借用した、保存したものの詳細な情報を収集するという方法を取っています。 データ収集とそれに関連する会話を通して、筆者達は世帯の経済生活の詳しい叙述をつなぎ合わせます。 お金だけが単にあるということでなく、常に動き、巡りに巡ってのダイナミックなお金の流れは時間とともに観察しなければならないという事が理解できます。

ファイナンシャル・ダイアリーの特徴は数字のダイナミック性だけが特徴ではありません。筆者達が収集したデータを精査するのと同じくらい、お金に関わる行動・意思決定に関す見解までも伝えてくれます。フィールドチームは、調査の回答者がどのような金融管理の方法を使っているかを知るだけでなく、その決断(支払い(切り崩し)、貯蓄、(インフォーマルな)保険)をするにあたっての家族がどれだけ意見が相違をもっていたか、困った状況になぜ逆にこれまで対処していなかったのか、また貧困層の家計でこれらの困った状況で誰が1番熟考していたのか、多くの理解がこれらのお金の問題と人々との相互理解を深めています。

貧困層のお金の流れ

貧困層のある家族は、農村にいる両親への送金、将来の子供たちのための教育将来の貯蓄、そして病気に対する保険、賃貸料の前払い、親戚への貸付、借金の返済など、たかが数十ドルかと言ってもその家計の貸借対照表上は先進国同様、またそれ以上に様々な項目があります。毎日の目標は、収入がない日でも毎日生きるために食べ物・飲み物を確保しなければならないと。

このように貧困国での生活は、単なる低い収入というだけでなく、変動的で予測不可能な収入を得たり、支出をしたりということを意味します。つまり貧困層の家計では平均所得水準(例えば一人あたり平均2ドルなど)だけでなく、毎日の変動率(例えば収入が昨日が2ドル、今日が0ドル、明後日が4ドル)がより一層、生活を複雑にさせます。毎日のお金のミスマッチがそこにはあり、円滑に物事を運ぶために、貧困層は様々なパターンの借り入れ、貯蓄(または貯蓄の切り崩し)に日々やりくりする必要がありますが本書を通して、どうやって複雑な家計の財務状況の戦略を立てているのかを垣間見ることができます。

貧困者のポートフォリオはまた、社会的関係に成り立ったインフォーマルな活動も見逃せない立ち位置となっています。途上国でのインフォーマルな金融市場では何かとネガティブなイメージがあるかもしれませんが、実はインフォーマルだからこそのメリットが、その柔軟性でもあります。時には支払いの延期、無利子そして不履行などが金利を下げさせる要因にもなるのです。インフォーマルなセクターだからこその社会的義務ができることもあり、フォーマルな金融機関ではできないこともあります。本書を通して、貧しい人々が編み出した創意工夫の数々のファイナンシャル・ツールを数々のストーリーとともに紹介されています。

ジョナサン・モーダック (著), スチュアート・ラザフォード (著), ダリル・コリンズ (著), オーランダ・ラトフェン (著), 野上 裕生 (監修), 大川 修二 (翻訳)
出版社: みすず書房 (2011/12/23)、出典:amazon.co.jp