不自由な経済 – 日本経済どこがおかしくなっているのか?ゲーム理論からみる日本

日本経済新聞でのコラムと経済教室経済教室欄で「市場を考える」での連載をまとめた書籍となります。

筆者、松井彰彦氏のゲーム理論の観点から社会現象全体を解釈していく一般向け作品は多く『向こう岸の市場(アゴラ)』(勁草書房)や『高校生からのゲーム理論』(ちくまプリマー新書)など数式を用いずとも,経済学/ゲーム理論の核心をつく説明となっています。

中でも本書は”市場理論や人と人のつながりを分析の核とするゲーム理論を用いて、市場や、そこで活動する家族、企業、政府など参加者のつながりをみていきたい”との通り,ゲーム理論を中心とした経済学のレンズで興味深い内容となっています。

こちらのレビュー年からすでにこちらの書籍が発売された年(2011年)だいぶ経ちますが,今なお日本社会における有益な提言になっているところも見受けられます。

例えば,現在なお,雇用や働き方などが紙面を飾りますが,本書での内容は未だにそれらを的確に考察されています.第一部4章のところのP44の”平等性と「サボり」のでは,理想的な競争市場の下では効率的な資源の配分が達成されるという厚生経済学の第一基本定理では公平性の視点が抜け落ちており,この点を再分配=所得移転と市場という二つの組み合わせで回復しようとしているのが厚生経済学の第二基本定理でありますが具体例を用いて,第二基本定理が残念ながら絵に描いた餅だと言います。

また数年で正社員が転職する外資系企業の転職市場もずっと終身雇用でいた人たちからは根無し草のように見えるかもしれないが,俯瞰してみるとそれは思い込みと分かったり(p65),長寿企業が多い日本でこそ,「過去に固執しない心」をもち少々の失敗や成功も気にせず前進することが必要とときます。上記の例以外にもゲーム理論の骨格をもっと使う章もあり,現在でも古さを感じさせない内容になっています。

このあたりは現在でも副業禁止や、終身雇用の崩壊などがメディアの記事に頻繁にあがりますが、このような現象を1つの学問をツールに一歩引いた視点で考えるきっかけを与えてくれる一冊となります。

松井 彰彦 (著)
出版社: 日本経済新聞出版社 (2011/7/23)、出典:amazon.co.jp