あの企業内に! – 潜入調査についてのおすすめ4冊

数年前まではあまり重要な社会問題とされることがありませんでしたが、過労死・過労自殺の問題などをきっかけに一気に社会問題として扱われるようになり、法制度も整備されるようになりました。

働き方改革が進められている現在ですが、なおも多くの企業では改善の速度が遅いところがあります。。そこで、本記事では、気になるあの企業の働き方の現状を紹介するものとして、そこで働いた経験のある人の体験記を紹介する書籍を紹介します。また最後のひろゆき氏がこの潜入調査が今後伸びるのではということも言及しております。

ここでは、そのような企業から自身の身を守るためにはどのようにしたらよいか、考えることができます。その他に、イギリスの低賃金の労働現場に潜入したジャーナリストのルポタージュの1冊も紹介します。イギリスで生じている問題は、日本でも遠くない未来に起こり得るといえるため、日本の問題について考える材料になります。ここで紹介する書籍を通じて、ブラック企業の現状、未来について、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

ジェームズ・ブラッドワース (著), 濱野大道 (翻訳)
出版社: 光文社 (2019/3/13)、出典:出版社HP

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イギリスのジャーナリストである著者ジェームズ・ブラッドワース氏が、イギリス各地を渡り歩いて、生活に必要な賃金さえ支払わないような会社に潜入し、低賃金労働の実態について調査したルポタージュです。著者が潜入したのは、アマゾンの倉庫、訪問介護の現場、コールセンター、ウーバー(自動車配車サービス)のドライバーです。

低賃金労働をしている労働者は、これらの現場でどのような労働をしているのか、どのような生活をしているのかについて、一部小説のように詳しく描いています。例えば、アマゾンの倉庫で著者は倉庫の棚から商品を運ぶピッカーという仕事をし、著者が働いている間の一日の平均歩行距離は16㎞にも及ぶといいます。また、休憩は合計60分ですが、そのうちの30分の休憩ではとても広い倉庫を横切って出口まで歩き、商品を持ち出していないかどうかを調べるボディチェックの列に並ぶための時間もその時間に含まれるため、食事に使える時間はその半分くらいしかない時もあるといいます。

さらに、倉庫にある様々なルールを破ると懲罰ポイントがつけられる、一定数のポイントがたまると解雇にもなります。このほかにも、ウーバーのドライバーは、厳重に監視されていたり、雇用する側にとってのみ都合のよいフレキシブルさをもって低賃金の重労働に従事させる、新しい搾取の形態ともいえます。このような低賃金労働の実態は、遠い国の話とも言い切れず、外国人労働者が増えつつある日本がこれから直面する可能性も十分にあります。日本の労働問題を考える参考にもなる1冊であるとともに、先進国が抱える問題の深刻さを学ぶことができる1冊といえます。

ユニクロ潜入一年

横田 増生 (著)
出版社: 文藝春秋 (2017/10/27)、出典:出版社HP

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著者であるジャーナリスト横田増生氏が1年以上にわたりユニクロにアルバイトスタッフとして潜入し、ユニクロの労働実態を内部から暴こうとした潜入ルポタージュです。ユニクロは、店長の労働時間が月300時間を超えることもあるなど、従業員の働き方が問題視されています。著者横田氏が執筆したユニクロに関する前著『ユニクロ帝国の光と影』では、元店長の話などを引用し、その働き方に迫っています。

この前著に関して、ユニクロから名誉毀損で訴えられ、ユニクロに対する取材が困難となった著者が、さらなる取材を進めるため、自身の正体を隠してユニクロにアルバイト従業員として潜入します。ユニクロの従業員には守秘義務が課せられており、著者の従前の取材ではその守秘義務の壁に阻まれることが多かったといいます。本書では、潜入する前には見えてこなかった、従業員の働き方などについて紹介しています。

本書はユニクロの店舗での潜入ルポですが、長年ユニクロに関する取材を続けてきた著者が、外部からだけでは見えてこなかった部分について内部から探ることで、自身の取材結果に肉付けをしていくものともいえます。そのため、潜入に関する記述自体の全体に占める割合はそこまで多くありません。著者の前著よりもさらに踏み込んだ内容が書かれており、読み応えは十分といえるのではないでしょうか。

実録ブラック仕事体験記

裏モノJAPAN編集部 (著)
出版社: 鉄人社 (2018/9/20)、出典:出版社HP

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ブラック企業の就職体験ルポを主に集めたもので、月刊『裏モノJAPAN』2009年12月号から2018年7月号にかけて掲載されたルポをまとめたものです。最近では、SNSの普及により、誰もが自分の意見などを気軽に発信できるようになったことで、ブラック企業に関する情報を容易に入手できるようになりました。そうはいっても、過酷な労働については、実際にそこで働いてみないとわからないことも多いです。本書は、そのような過酷な労働について、実際に経験をした方の生の声をまとめたものとなっています。

本書は3章構成となっています。第1章では、誰もが知っているような大企業で働いた方のルポが掲載されています。自発的なサービス残業、物理的に無理な目標実行の要求、いじめなどなど、大企業の成功の裏にある労働実態に迫ります。第2章では、あまり人に知られていない現場のルポを紹介します。犬・猫の殺処分の仕事、バキューム清掃員、冷凍倉庫の作業員など、肉体的・精神的に過酷な環境で働く仕事について知ることができます。第3章では、こんな仕事もあるのかというような珍しい仕事のルポを紹介します。

今社会問題となっているブラック企業の実態について知ることができるだけでなく、私たちが普段生活をしている裏側ではこのような仕事をしている人がいるのだと、新たに知ることができます。各ルポの分量がそれほど多いわけではないため、空いた時間などに気軽に読むことができます。

働き方 完全無双

ひろゆき (著)
出版社: 大和書房 (2018/4/14)、出典:出版社HP

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これからの日本で「完全無双」するための働き方について、著者の考えをまとめたものです。著者は、インターネットの匿名掲示板「2ちゃんねる」の開設者で元管理人の西村博之氏です。「働き方 完全無双」とはどのような状態をいうのか。本書のはじめに著者が、“個人の「攻め方」「守り方」をマスターし、企業の「論理」を身につけて、業界としてよりよい「環境」に身を置く”というのが、「働き方 完全無双」であると紹介しています。

これが本書のテーマといえるものであり、その詳細について各章で紐解いていきます。「攻め方」として、個人の能力の上げ方ではなく、相対的に自分を有利にする方法を紹介します。例えば、「新しいことにはとにかく首をつっこんどけ」として、早くから新しいものの場にいること、すぐに結果を求めないことなどの重要性を説明します。また、つらいこともゲーム感覚にしてやるといった、著者の働き方に対する考え方なども紹介します。

次に、「守り方」として、企業の論理に絡め取られることなく、「最悪、クビになっても大丈夫な状態」にしておくことについて説明します。ブラック企業から身を守る方法や、ベーシックインカム、睡眠、健康に対する著者の考え方を紹介します。そして、「無双」に必要なものとして、経営者の視点を紹介し、さらにチャンスを掴むために必要な「業界選び」について紹介します。このような考え方・働き方を身につけて実践することで、「完全無双」状態が完成するといいます。

本書は全体を通じて、働き方に関する比較的普遍的な考え方を紹介するものとなっていますが、節々に著者の働き方に関する考えが現れており、著者の人柄を垣間見ることができます。

また、本テーマである潜入調査については、直接的な調査をしていませんが、本書にはひろゆき氏の意見としては2章で『ブラックさを「ラッキー」に変える』と伝えているところから紹介となりました。

ブラック企業については第1章でも述べましたが、ここでは、さらに積極的に自分の身を守る方法として取り上げたいと思います。不当な金利を取る金融業を「サラ金」「闇金」と呼びますが、ひと昔前に比べると、サラ金の数はぐっと減りました。

なぜ、減ったのでしょうか。国民全員に騙されないための金融リテラシーが身についたからでしょうか。

そういった能力がついたからではなく、サラ金を訴えてお金を取る「弁護士」の数が増えたからなんですよね。サラ金を食い物にする弁護士が、「儲かる」という理由でサラ金業者をガンガン訴えはじめたのです。元をたどれば、司法試験制度が変わって弁護士の数が多くなってきたので、食えない弁護士が増えたことが理由としてあります。

仕事を探している弁護士が、お金を稼げる仕事を探し、訴えれば確実に勝てる案件としてサラ金に目を付けたのです。そして、この流れが、違法に残業代を支払わない「ブラック企業」のほうに向かないかなと僕は願っています。

 

ブラックさを「ラッキー」に変える

ブラック企業というのは、残業代や休日手当を支払わなかったり、パワハラなどで名誉毀損をする発言をしたりするわけです。仕事を探している弁護士が、そういった企業を次々に訴えたらいいのです。

そもそも、サラ金を訴えてお金が取れるというのが弁護士の人たちに浸透したのは、テレビCMがきっかけでした。法的には前々から訴えられたわけですが、それを「手堅い商売」と世間に知らしめたのは、CMがたくさん流れるようになって2~3年くらいが経ってからです。サラ金の場合、やくざがバックにいるイメージがあるかもしれませんが、蓋を開けてみると意外にいなかったりして、弁護士が出てくると撤退してしまったんですよね。

だから、「ブラック企業を訴えて、残業代を100万円、取り戻しました!」というCMが増えれば、「自分の会社もブラックだからお金取れるじゃん、ラッキー」という人がたくさん現れて、世の中はいい方向に変わるのではないかと思います。ブラック企業専門で訴える弁護士が増えていき、ノウハウを溜め込んでいけばいいんですよね。

今、ユニオンという形で、集団になって和民などの大企業と争う例が多いのですが、そうするとお互い有能な弁護士どうしの戦いになるので、判決結果が完全な勝訴ではなかったり、和解になったりしてしまいます。

だから、手始めに弱小ブラック企業を訴える例がどんどん増えていけばいいと思います。弁護士が心を鬼にしてアコギな商売をしていってほしいんですよね。

いつでも「録音」できるように

ブラック企業を訴えた後のお金の回収も、従業員であれば非常にラクです。主要な取引先も知っているでしょうから、そこから口座を押さえればいいのです。

不景気ですし、食えない弁護士が食い物になるブラック企業相手にもっとヤンチャになれば、手っ取り早く社会はよくなると思います。

そのためには、「残業代が支払われていないこと」や「パワハラ発言があること」を、労働者であるあなたが証拠として持っておかなければいけません。豊田真由子元議員の秘書や「しゃぶしゃぶ温野菜」の事件でも、ICレコーダーで「録音」していたことがカギとなりました。

企業側の不当な行動を録音、あるいは録画しておけば、メディアを使って拡散することもできます。テレビのようなマスメディアは、大きな事件性のあるものしか取り上げないかもしれませんが、今はSNSの時代です。個人で発信して、たくさんの賛同者を集めることもできるでしょう。だから、不当なことがあったときに泣き寝入りするのではなく、常に証拠を押さえるという姿勢を持つことです。

ブラックは「根絶やし」にせよ

ブラック企業大賞というのがあります。運営メンバーは、弁護士や大学教授らで構成されており、毎年、有名なブラック企業の事例が取り上げられて勝手に表彰しています。もちろん、世間的にブラックな現状を認知させる意味はあると思うのですが、根本的な解決にはならないのではないかと僕は思っています。

電通や和民、すき家で働く人は少なくなるかもしれませんが、その労働力が他のブラック企業に移動するだけだと思うからです。

たとえば、ホームレス対策において大事なのは、「場所を移動させること」ではなく、「社会復帰させること」です。害虫駆除でも、その虫を殺すのと、隣の家に移動させることは意味がまったく違います。

どうも日本の政策では、後者の「移動させるだけ」という解決方法が多いです。たとえばホームレスの場合、駅前にいなくなればOKということにして、河原や公園など、見えないところに移動させて終わりにしてしまうのです。

個人レベルで自分の所属している会社を訴える例は、探してみればたくさんあると思います。けれど、社会的にはまだまだ認知されていないので、読者のみなさんの力も借りて、もっと早く広まればいいなと思っています。

個人がブラック化するかも?

これは未来の話なのですが、企業のブラック体質は、「外注先」が標的になるかもしれません。自分の会社の従業員だと、残業代を支払わなければアウトなのですが、外注先となると関係がありません。

なぜなら、仕事の「成果」に対する報酬があるだけで、それにかけた「時間」は関係がないからです。「この仕事を5万円の報酬で、ただし3日後までに仕上げてください」と一方的に言われて、受けたほうは3日間、徹夜で作業することになるかもしれません。そうなってしまうと、訴えることが難しくなります。

現に、フランスでは、人件費が高くついてしまうので、雇用を増やさずに外注するケースが増えています。

今の日本は、人を雇って使い倒すほうが手っ取り早いのかもしれませんが、おそらく、フランスのように、外注にして無理をさせるようになっていくと思います。

すると、企業と企業の取引になるので、労働者として保護されることがなくなります。納期に間に合わなかったら罰金を払わせることだって、契約を交わせば合法的にできてしまいます。これが会社の従業員の場合、任せた仕事がメ切に間に合わなくても、罰金を取ることはできませんからね。

それを避けるためには、第1章で紹介した、「手離れよく仕事をすること」を身につけるということと、あとは、得意先の言うなりにならない関係を築くことです。「生活のためにイヤな得意先の仕事も引き受けなくてはいけない」という状態にしないことです。そのために元をたどると、生活レベルを上げないことや、仕事相手を選ぶ基準を設けておくことをしておきましょう。