スティーヴン レヴィットおすすめ本 – やばい経済学から最新ミクロ教科書まで

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やばい経済学の思考法

やばい経済学のレヴィットはシカゴ大学所属で、政治経済学、社会学、政治学などの多岐にわたる研究をしています。やはり最初のフリークエコノミクス/ヤバい経済学が翻訳されて日本でも広まりました。犯罪の経済学など今まであまりされていなかった研究のパイオニアです。

2003年に米国経済協会から40歳未満のアメリカ人経済学者に送られるノーベル経済学賞の登竜門でもあるジョンベイツクラークメダルを受賞しております。最近では教科書も執筆しているので、そちらをレヴィット節があり楽しみながら厳密な経済学が学べます。

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出典:出版社HP

 

ヤバい経済学 [増補改訂版]

フリークエコノミクス(Freakonomics)とは?

本書は、倫理的に問題がある現象から生まれた問いに対して、従来の経済学とは異なった視点からのアプローチにより見つけた答えをまとめている本です。内容的には、日常生活から裏社会のテーマまで幅広く扱っており、ユニークな手法で因果関係を説明していく様は、多くの読者を魅了します。

増補改訂版では、ヤバい話題を追加しており、さらに興味深いケーススタディに触れることができます。経済学からやや全体的なテーマは外れているかもしれませんが、新しい視点によって原因を発見するためのアプローチは、様々な学問分野においても通ずるものがあるでしょう。分析を行う際に、経済学の枠に当てはめる考え方に捉われない筆者の柔軟性と学者としての特性が現れています。

本書は、経済学がメインテーマというよりも、経済学でヤバいことに関する不思議な現象を解き明かす面白さとそこから疑問を解明するアプローチの方法を柔軟にすることが有効であることに主眼を置いた本と言えるでしょう。

スティーヴン・J・ダブナー (著), スティーヴン・D・レヴィット (著), 望月 衛 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2007/4/30)、出典:出版社HP

はじめに

An Explanatory Note
説明のためのノート

2003年夏、作家でジャーナリストのスティーヴン・J・ダブナーは、『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』の依頼で、シカゴ大学の著名な若手経済学者であるスティーヴン・D・レヴィットの人物像を取材した。

ダブナーはお金の心理学の本を書くために下調べをしているところで、たくさんの経済学者をインタビューしたが、彼らは、英語がまるで外国語、それも4番目か5番目の言語であるかのような話し方をするのに気づいた。レヴィットはジョン・ベイツ・クラーク・メダル(若手経済学者に贈られる、ちょっとしたノーベル賞みたいなもの)を受賞したばかりで、ジャーナリストの取材をたくさん受けており、彼らの思考があまり……経済学者ふうに言うと、頑健でない、と考えていた。

でも、レヴィットはダブナーがまるっきりのバカではないことに、そしてダブナーもレヴィットが杓子定規ではないことに気づいた。作家のほうは、この経済学者の冴えた仕事ぶりと、それを巧みに説明する技景に驚嘆した。エリートそのものの経歴(ハーヴァード大学卒、MITで博士号、数々の賞)にもかかわらず、レヴィットの経済学に対するアプローチは際立って異端だった。彼は物事を、学者としてというよりも、非常に賢い好奇心あふれる冒険家として見ているようだった――あるいは、ドキュメンタリー映画監督、法医学検査官、あるいはスポーツから犯罪、ポップカルチャーまでを対象にする賭博の胴元のように。彼は、だいたいの人が経済学についてイメージするお金なんかの話には興味がなく、そのことを、控えめながらも実際のところ脅すようにこう表現した。「経済学はあまり詳しくなくて」。ある日、目にかかる髪を払いながら彼はダブナーにそう言った。「数学は得意じゃない。計量経済学は知らないことが多いし、どうやって理論を作るかも知らない。もし君が株式市場は上昇するか下落するか、 経済は拡大するか縮小するか、デフレはいいことなのか悪いことなのか、税金がどうのとか聞いて――ようするに、こういうことを知っているともし僕が言ったら、それは全部嘘っぱちだよ」。 レヴィットが興味を持っているのは、日々の出来事や謎である。彼が研究しているのは、現実の世界が実際にはどう動いているのか知りたいと思う人なら誰でもかぶりつくような話だ。彼の風変わりな態度はダブナーの記事にも書かれている。

「レヴィットの見るところでは、経済学は答えを出すための道具は素晴らしくよく揃った学問だが、面白い質問が深刻に不足している。彼がとくに才能を発揮するのは、そんな面白い質問をするときだ。たとえば――麻薬の売人がそんなに儲けているのなら、彼らがいつまでも母親と住んでいるのはなぜ? 銃とプール、危ないのはどっち? 過去1年の間に犯罪発生率を大幅に引き下げたものはなに? 不動産業者は心からお客のために仕事をしている? 黒人の親はどうして子供の出世の見込みをぶちこわしにするような名前をつける? 学校教師は一発大勝負のテストでインチキをしている? 相撲界は腐敗している? そして、ボロを着たホームレスがなんでドルもするヘッドホンを持っている? レヴィットの仕事を経済学とは考えていない人はたくさんいる彼の同業者にも少なからずいる。しかし、彼はいわゆる陰鬱な科学(訳注 : 経済学の別名)を蒸留して、その最も基本的な目的を取り出したにすぎない人は欲しいものをどうやって手に入れるのかを説明する。他の学者たちとは違い、彼は個人的な観察や好奇心を使うことを恐れない。逸話や読み筋に頼るのも恐れない(しかし、微積分は恐れている)。彼は直感に従う。彼はデータの山から、これまで誰も発見しなかった話を見つけ出す。ベテランの経済学者が計測不能と宣言した効果を計測できる方法を見つけ出す。

彼の変わらぬ好奇心の対象は自身がそういうことに手を染めたことはないと言う―インチキ、犯罪、不正だ」。レヴィットの燃えるような好奇心は、『ニューヨーク・タイムズ・マガジン」の読者を何千人も魅了した。彼の元にはありとあらゆる質問や問い合わせ、謎かけや要望が寄せられたージェネラル・モーターズ、ニューヨーク・ヤンキース、上院議員。さらに囚人、親たち、3年にわたって自分がやっているペイグル屋さんの売上げの詳細なデータを溜め込んだ男。ツール・ド・フランスの前優勝者は、今のレースにドーピングが蔓延していることを証明するのを手伝ってほしいと言い、CIAは、あなたならマネーロンダリングやテロリストのデータをどう解析するか教えてくれと言ってきた。

こういった反響はすべて、レヴィットの根本的な信念が引き寄せたものである:混乱と複雑さとどうしようもない欺瞞が満ちて いるけれど、現代社会は理解不能ではなく、不可知でもなく、そして立てた質問が正しければ私たちが考えているよりも ずっと興味深い。必要なのはただ、ものの見方を変えることなのだ。ニューヨークへ行ったとき、レヴィットはいくつかの出版社に本を書くべきだと言われた。

「本?」彼は答えた。「本なんて書きたくないよ」。彼はすでに、与えられた時間では解ききれない謎をあと100万個も抱えていた。加えて、書き手の才能はないと思っていた。だから、いや、興味はないと言ったのだった。「でも、一つ方法がある」と 彼は提案した。「ダブナーと僕とで一緒にやるのはどうだろう」。
共同作業というのは誰にでもできるものではない。しかし、彼らここから先は、私たち―2人はうまくいくかどうか考えることにした。そして、できるだろうということになった。あなたもそれに同意してもらえるといいと思う。

増補改訂版のための序

Preface to the Revised and Expanded Edition

本書『ヤバい経済学」を書いているとき、こんなもん誰か読んでくれる人がいるんだろうかという不安で暗い気分になったものだ。改訂版兼増補版まで出すなんてことになるとは、もちろん思ってもみなかった。でも、あの頃の私たちが間違っていて本当によかった。感謝しています。
で、なんで改訂版なんて出すんだろう? 理由はいくつかある。まず、世界は生きていて、息をしていて、変わり続けるものだ。でも本はそうじゃない。書き手が原稿を書き終われば、もうじっと動かなくなり、死んで水の底へと沈み、世に出る支度を出版社が整えるまで1年近くもそのままだ。まあ、第3次ポエニ戦争(訳注 : 紀元前2世紀に共和政ローマとカルタゴの間で起きた戦争)の歴史でも書いているならそれもあんまり問題じゃないだろう。でも、「ヤバい経済学」は現代の世界のいろんな問題を追いかけていて、その現代の世界は結構な速さそれから、一部に間違いも見つかった。だいたい、間違いがわかるのは読んでくれた人が教えてくれるからだ。この手の情報は本当にありがたい。とても感謝しています。そういった修正も細かいところだけだ。

今回、一番大胆に書き換えたのは、第2章の初めのところ、ク・クラックス・クランに聖戦を挑んだある男の話の部分である。『ヤバい経済学』が世に出て数カ月後、この男の語る聖戦やその他ク・クラックス・クランのいろいろな話は、実はずいぶんと大げさに膨らましてあるんだということがわかった。詳しいことはオマケの「フードの奥からほくそ笑む?」を読んでほしい。こんな間違いを認めるのはイヤなことだし、各地でみんなから愛されている人の評判を地に落とすのは気が進まないけれど、本当はどんなことがあったのかをはっきりさせなければいけないと思ったのだ。
もう一つちょっといじくったのが本の構成だ。初版では、各章の前に、私たち著者の1人(ダブナー)がもう1人(レヴィッ ト)の横顔を描いた『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』の記事の抜粋を載せていた。そもそも、その記事がきっかけになってこの本ができたのだ。ところが、この抜粋が偉そうだ(あるいはエゴ丸出し、あるいはコビてる、あるいはこれら全部)なんて言う向きがいらっしゃったので、この版では全部取っ払って、代わりに本の最後に『タイムズ』誌の記事を全部載せることにした。「オマケ」がそれだ。これで、読みたくなきゃ簡単に飛ばせるでしょ。読みたくなったら読めばいいんだし。

オマケは他にもたくさんある。だからこの版は単なる改訂版ではなく、増補版でもあるということになった。『ヤバい経済学』を最初に出したすぐ後の2005年4月に、私たちは『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』に月イチでコラムを書くことになった(訳注 : その後2カ月に1度になった)。そうしたコラムのいくつかをこの版で追加している。題材は、選挙に犬のウンコにセックスの趣味の経済学までいろいろだ。

さらに、私たちのブログ(www.freakonomics.com/blog/)から選んだいろいろなカキコミも入れることにした。この改訂版と 同じように、元々そんなことをするつもりはなかった。最初、ウェブサイトはいろんなものを保管しておいたりやり取りしたりといったぐらいのことをするために作ったつもりだった。ブログへのカキコミも、おずおずと、なんとなく、ときどき書くぐらいだった。ところが、時とともに、『ヤバい経済学』を読んで、書いてあることについてぜひやり取りしたいという人たちがたくさん集まってくれたので、私たちのほうもどんどん熱心になった。やってみると、ブログがあれば、いったん原稿を書き終えてしまうと死体になって水の底に沈んでいるという、本の書き手が味わう嫌な気分を完全に振り払えるのがわかった。とくにこういう本、つまりアイディアを扱った本で、なんなら世界が動くのに合わせて、書いたアイディアを推し進め、磨きをかけ、また考え直しといったように、アイディアと格闘し続けられるとしたら、そんなに面白いことは他にない。

スティーヴン・J・ダブナー (著), スティーヴン・D・レヴィット (著), 望月 衛 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2007/4/30)、出典:出版社HP

目次

説明のためのノート
■この本がどうやってできたか。
増補改訂版のための序

序 章 あらゆるものの裏側
■この本のサワリ : 道徳が私たちの望む世の中のあり方についての学問だとすると、
経済学は実際の世の中のあり方についての学問だ。
□なぜ通念はだいたい間違っているのか
□「専門家」――犯罪学者から不動産屋さん、政治学者まで――は
どうやって事実を捻じ曲げるか
□何をどうやって測ればいいかわかれば現代の日常が理解できるのはなぜか
□で、『ヤバい経済学』ってなに?

第1章 学校の先生と相撲の力士、どこがおんなじ?
■インセンティブの美しさとその暗黒面であるインチキを追究する。
□インチキするのは誰だ? ほとんど誰でも
□インチキなヤツらはどうやってインチキするか、ヤツらを捕まえるには
□イスラエルの保育園のお話
□アメリカで700万人の子供が突然消える
□シカゴの先生はインチキをする
□インチキで負けるのはインチキで勝つより悪いのはなぜか
□ニッポンの国技、相撲は八百長?
□ベイグル売りは見た : にんげんって思ったより正直者

第2章 ク・クラックス・クランと不動産屋さん、どこがおんなじ?
■情報は最強の力である。とくに悪いことに使うときは。
□ク・クラックス・クラン潜入レポ
□専門家とは皆あなたを食い物にする絶好の立場にいる連中のこと
□情報悪用の解毒剤 : インターネット
□新車の値段が車屋さんを出たとたんに暴落するのはなぜか
□不動産屋さんの暗号を解く:「状態良し」の本当の意味
□『ウィーケスト・リンク』の普通の解答者よりトレント・ロットのほうが人種差別的?
□出会い系サイトに出入りする連中がつくVとは

第3章 ヤクの売人はどうしてママと住んでるの?
■通念なんてたいていは張り巡らした墟と、私利私欲と、
ご都合主義にすぎないことについて。
□専門家はどうしていつも統計データをでっち上げるのか:慢性口臭という発明
□正しい疑問を立てるには
□スディール・ヴェンカテッシュがたどった麻薬の巣窟への長く奇妙な旅
□人生はトーナメントだ
□建築家より売春婦のほうが儲かってるのはなぜ?
□ヤクの売人、高校のクォーターパック、編集アシスタント、どこがおんなじ?
□クラックの発明はナイロン・ストッキングの発明にそっくり
□クラックはアメリカ黒人にとってジム・クロウ以来の最悪?

第4章 犯罪者はみんなどこへ消えた?
■犯罪のウソとマコトを仕分けする。
□ニコラエ・チャウシェスクが中絶について学んだ――いや、思い知らされたーこと
□1960年代が犯罪者天国だったのはなぜか
□狂騒の1990年代経済が犯罪を食い止めたと思ってる? 甘いね
□死刑じゃ犯罪を減らせないのはなぜか
□警察は本当に犯罪発生率を減らせるか?
□刑務所、刑務所、どこへ行っても刑務所ばかり
□ニューヨーク市警の「奇跡」の正体見たり
□ところで、銃って結局なに?
□クラック売人 : 昔はマイクロソフト、今じゃペッツ・ドットコム
□凶悪殺人鬼対お年寄り
□犯罪ストッパー、その名はジェイン・ロー
: 中絶の合法化でどうしてすべてが変わったか

第5章 完璧な子育てとは?
■差し迫った疑問をさまざまな視点から追究する : 親でそんなに違うもの?
□子育ては職人技から科学へ
□子育ての専門家が親御さんを死ぬほど脅して回るのはなぜか
□銃とプール、危ないのはどっち?
□恐れの経済学
□教育パラノイア、生まれ対育ち、泥沼のごとき論争
□いい学校が言うほどいいところじゃない件について
□黒人と白人の成績格差と「シロい振る舞い」
□子供に学校でうまくやらせるには : 八つの効くもの、八つの効かないもの

第6章 完璧な子育て、その2―あるいは、ロシャンダは他の名前でもやっぱり甘い香り?
■親が子供にする最初の儀式、つまり赤ん坊に名前をつけることの大事さを測る。
□勝ち馬という名の兄と負け犬という名の弟
□真っク口い名前と真っシロい名前
□文化の断絶 : 黒人視聴者の人気番組トップ50に
絶対『となりのサインフェルド』が出てこないのはなぜか
□本当にどうしようもない名前だったら変えたほうがいい?
□高級な名前と安物の名前(そしてどうやってそれが入れ替わるか)
□ブリトニー・スピアーズは症状だ、原因じゃない
□アヴィーヴァはマディスンの後を継ぐか?
□あなたに名前をつけたとき、両親が世界に向かって宣言したこと

終 章 ハーヴァードへ続く道二つ
■データの信頼性が日々の偶然に出合う。

オマケ 『ヤバい経済学』増補改訂版での追加
□たぶんあなたは不動産屋さんに騙されてる(およびその他現代の日常の謎)
: 喝采を浴びる若手経済学者スティーヴン・レヴィットのもの好きな頭の中とは ■ 『ニューヨーク・タイムズ・マガジン」の『ヤバい経済学」 コラム
□煙と消える:クラックに何が起きた?
□真理は己の中にある? : ある教授が生涯をかけて自ら挑む人体実験
□犬のウンコ : ハイテクでニューヨークをすくえるか?
□なんで選挙なんか行くの? : 経済学的には投票しに行っていい理由なんか
ひとつもありゃしない。それじゃ民主主義を動かす本能はどこから来たんだろう?
□セックス経済学 : エイズ怖さにセックスの趣味が変わるか?
□フードの奥からほくそ笑む? : ク・クラックス・クランの内幕を暴露した活動家が、
どうやって秘密を手に入れたか隠していたらどうする?
□税金の穴を埋める : 税務署に言うべき文句はもっと厳しく、だ。厳しすぎ、じゃない。
■『ヤバい経済学』ブログより
□『ヤバい経済学』自体について
□ロー対ウェイドと犯罪、その後
□カンザスシティ・ロイヤルズとiPod、どこがおんなじ?
□なんで腐ったチキンに36.09ドルも払う?

謝辞
訳者あとがき、ver.2 ―で、なにがどうヤバいのか
付注

カバーデザイン 重原隆
カバー写真(デザイン) Chika Azuma
(写真) James Meyer/Getty Images
(写真) Jan Cobb

序章

The Hidden Side of Everything
あらゆるものの裏側

1990年代の初めにアメリカに住んでいて、晩のニュースや朝の新聞をちょっとでも見ていた人なら、心底震え上がっていても仕方がなかったかもしれない。
犯罪のせいだ。犯罪は増える一方で――アメリカのどの都市でも、直近数十年の犯罪発生率をグラフにするとスキーのゲレンデみたいだった――私たちが慣れ親しんだ世界はもう終わったようだった。故意にせよそうでないにせよ、誰かが撃たれて死ぬなんて珍しくなくなった。車強盗、麻薬の密売、窃盗、レイプ、どれも日常茶飯事だった。凶悪犯罪はどこへでもついて来るイヤな連れ合いだった。そして物事は悪いほうへ向かっていた。まだまだずっと悪くなりそうだ。専門家はみんなそう言っていた。
いわゆる凶悪殺人鬼ってやつらのせいだ。やつらはどこにでも現れた。週刊誌の表紙を見ればやつらがガンを飛ばしていた。役人が書いた数十センチの厚さにもなる長い報告書の中でも肩で風を切って登場していた。やつらは都会の痩せこけたティーンエイジャーで、手には安い拳銃、胸には残虐さだけを抱いている。そんなやつらがあちこちに何千人もいる、人殺しの軍団がこの国を底知れない混沌に突き落とすのだと聞かされた。

スティーヴン・J・ダブナー (著), スティーヴン・D・レヴィット (著), 望月 衛 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2007/4/30)、出典:出版社HP

超ヤバい経済学

前回のフリークエコノミクス(やばい経済学)からの続編!

前回からの続編と位置づけで。本書はは、Freakonomicsと同じ革新的、先駆的な経済学の使い方をして、日常の興味深いトピックを扱っています。切り口は同じくするどく、新しい話題を楽しめます。

スティーヴン・D・レヴィット (著), スティーヴン・J・ダブナー (著), 望月 衛 (翻訳)
東洋経済新報社 (2010/9/23)、出典:出版社HP

 

 

An Explanatory Note 説明のためのノート

ついにそのときがやってきました。ざんげするときです。ぼくたち、最初の本でウソついてました。2回も。一つ目のウソは序章に出てくる。この本には「一貫したテーマなんてものはない」ってところだ。話はこんなふうだ。ぼくらの本を出した出版社の人たち――感じがよくて、頭のいい人たちだ――は、本の最初の原稿を読んで目を丸くして叫んだ。「この本には一貫したテーマがないじゃないか!」実際にその原稿は、インチキする先生だの自分のことしか考えない不動産屋さんだのママから離れられないヤクの売人だの、そんな話を脈絡もなく詰めこんだだけだった。全体を流れるステキな理論の土台があり、出てくる話がそんな土台の上に全部積み上がり、奇跡みたいにつじつまが合って、部分部分の合計よりもずっと大きい全体が完成する、そういうことにはなってなかった。

出版社の人たちがさらに目を丸くしたのは、ぼくたちがそんな寄せ集めの本のタイトルを提案したときだった : 『ヤバい経済学』だ。電話の向こうだっていうのに、手のひらでおでこを叩く音がこっちまで聞こえた。ここなアホどもが、一貫したテーマかない原稿よこしやがって、そのうえ意味もないバかみたいなでっちあげのタイトルかけさせろってか!

そうしてぼくたちは正式に宣告を受けた。最初のところで、つまり序章で、この本には一貫したテーマなんてありませんと告白しろと言われたのだ。それで、和平(と本の手付金)を失わないために、言うとおりにすることにした。でも本当は、あの本にはちゃんと一貫したテーマがあったのだ。そりゃいつもいつもはっきり見えているわけじゃなかった。ぼくたち自身にとってさえそうだった。どうしてもって言うなら、テーマは7文字に煎じ詰めることができる:人は誘因で動く。もっと長くていいならこんな感じ : 人はインセンティヴ(誘因)に反応する。ただし、思ったとおりの反応ではなかったか、一目でかかるような反応ではなかったりもする。だから、意図せざる結果の法則は宇宙で一番強力な法則の一つである。学校の先生にも 不動産屋さんにもクラックの売人にも、それに妊娠中のお母さん、相撲の力士、ベーグル屋さん、ク・クラックス・クランにだっ て、この法則は当てはまる。

一方、タイトルのほうは、まだ決着していなかった。何カ月か経ち、その間にいろんな案が出た。『反通念』(微妙)、『そう でもないかもね』(あいたたた)、『Eレイ・ヴィジョン』(聞かないでください)。で、結局、出版社のほうでも、『ヤバい経済学』ってタイトルはそんなにひどくないかもしれないってことになった。というか、もっと正確に言うと、あんまりひどいんで逆にいいかもしれないってことになった。ひょっとするともう、彼らの心が折れてしまっただけかもしれないけど。序章のタイトルは「あらゆるものの裏側」を探検するって言っている。これが2個目のウソだ。ぼくたちは、分別のある人ならそんなもん誇大広告だってわかってくれるにちがいないと思ってた。でも、文字通りの意味だと思った読者もいて、ぼくたちの本は雑多な話を集めただけでぜんぜん「あらゆるもの」じゃあないじゃないかと苦情をいただいた。そういうわけで序章のタイトルは、わざとウソついたわけじゃないけど、結局ウソになってしまった。ごめんなさい。

でも、最初の本で「あらゆるもの」を扱えなかったおかげで、それ自体が意図せざる結果を招いた。2冊目を書かないといけなくなったのだ。でもはっきり書いておこう。この2冊目と1冊目の題材を合わせても、まだ文字通りの意味で「あらゆるもの」に はなりません。

ぼくたち2人は一緒に仕事をするようになってからもう数年になる。ぼくたちの1人(作家でジャーナリストのダブナー)がもう1人(レヴィット、こっちは経済学者)のことを記事に書いたときに、共同作業は始まった。最初はちょっとギスギスしていた。まあ下品にならない程度に、だったけど。協力しあうようになったのは、やっと、本を書いたらこれだけ払うよと、結構な額の印税をご提案くださる出版社が出始めてからだった(思い出してください。人はインセンティヴに反応する、でしたね。それから、みんなそう思っちゃいないみたいだけど、経済学者もジャーナリストも人なんですよ)。印税をどう分けるか話し合ったときもそうだった。話し合いを始めたとたんに前に進まなくなった。2人とも81%で分けるべきだと言って譲らない。でも、お互い相手が的取るべきだって考えてるのがわかって、この共同作業はきっとうまく行くと思った。で、取り分は Imで手を打ち、仕事に取り掛かったのだ。1冊目を書いているとき、あんまりプレッシャーは感じなかった。読む人なんてほとんどいないだろうと本気で思ってたからだ。(レヴィットのお父さんもまったくだって言ってた。彼によると、こんなので手付金なんて受け取るのは1セントだって「破廉恥」だそうだ)。ぜんぜん期待されてなかったおかげで、ぼくたちはどんなことでもなんのことでも書こうと思うことならどうにでも書けた。そんなわけで、とても楽しめたのだった。

本がヒットしたので、ぼくたちは驚き、喜んだ。これぐらい売れると、手っ取り早く続編が出るところなんだろうけど――『パカでもわかるヤバい経済学』とか『こころのチキンスープ 愛の奇跡のヤバい経済学』とか――ぼくたちは、十分なリサーチをやって、もう書きたくて書きたくてどうしようもなくなるまで待った。そうして4年以上が経ち、ついに、余裕で1冊目よりずっといいって胸を張って言える2冊目を、ここにお届けする。もちろん、ほんとにそうかどうかを決めるのはぼくたちじゃなくて皆さんだ。なんなら、1冊目と同じぐらいひどいかどうかってことでもいい。

少なくとも、出版社の人たちはぼくたちのあくまでもひどい趣味にもうさじを投げたみたいだった。新しい本のタイトルはこれでいきましょうって言っても、もう瞬き一つしなかった。人呼んで『超ヤバい経済学』だ。
この本にちょっとでも気に入るところがあったら、そのときはぜひ、ご自分にも感謝してくださいね。人とのやりとりがこんなにも安くて簡単に行える時代に本を書けてよかったと思うことの一つは、読み手の皆さんから書き手が直接にご意見をいただけることだ。それもものすごい数の声が大音響ではっきりと届く。いい反響というのはなかなか聞けないもので、とてもとてもありがたい。ぼくたちは、書いたことについて意見をもらえただけじゃなく、次はこんなことを書いてはどうだというご提案までたくさんいただいた。eメールで考えを聞かせてくれた人の中には、ご自分の考えがこの本で使われているのに気づく人もいるだろうと思う。どうもありがとう。

『ヤバい経済学」が当たったおかげで、一つとてもおかしなオマケをもらってしまった。ありとあらゆる人の集まりに、講演をしてくれとしょっちゅう招かれるようになった。2人一緒に呼ばれることもあるし、どっちか1人のこともある。そういうところへ出かけていくと、よく「専門家」だといって紹介される。『ヤバい経済学』で専門家には気をつけたほうがいいよと書いた、まさしくその専門家にされてしまったのだ。つまり、情報の点で優位に立ち、それを利用して人を出し抜こうとするインセンティヴを持った人たちである。(そりゃもう全力で、ぼくたちが何かの専門家だなんて考えは金輪際捨ててもらおうってがんばりましたよ)。

そういう場での出会いも、それからの仕事の題材を提供してくれた。UCLAでの講演で、ぼくたちの1人(ダブナー)が、みんな自分で言うほどトイレの後に手を洗ってないって話をした。講演が終わった後、演台に1人の紳士がやってきて握手を求めてきた。泌尿器科のお医者さんだと言う。この自己紹介にはあんまり食欲が湧かなかったけど、このお医者さんはとても大きなものがかかっている場所、つまり彼の働く病院でも、みんなどれだけ手を洗わないか、それに、そんな問題を独創的なやり方でどうやって解消したか、すばらしい話を聞かせてくれた。彼の話もこの本に入っている。

それに、大昔、やはり不潔な手と戦ったもう1人のお医者さんの武勇伝も登場する。ベンチャー・キャピタルの人たち相手の別の講演で、レヴィットがスディール・ヴェンカテッシュとやっている新しい調査の話をした。『ヤバい経済学』にも登場してもらった、ヤクの売人ギャングとつるんで冒険した社会学者だ。新しい調査では、シカゴ の通りに立つ売春婦のお姉さんたちに張り付いて、彼女たちの活動を調べた。来ていたペンチャー・キャピタルの人(ジョンと呼ぶことにしよう)が、その晩遅くに1時間300ドルの売春婦(この人はアリーって名前でお仕事をしている)とデートした。アリーのアパートにやってきたジョンは、コーヒー・テーブルに『ヤバい経済学』が載っているのを見つけた。「あれ、どこで見つけたの?」とジョンは尋ねた。

アリーは、やっぱり「このお仕事」をしている友だちが送ってくれたんだと言った。 アリーの歓心を買おうと――オトコの本能というやつはどうしようもなく強力で、もうセックスすることに決まっていて、お金も払った後だというのに、それでもまだ女の人の歓心を買おうとするージョンは、ちょうど今日、その本を書いた1人の講演を聴いたんだよと話した。それだけじゃまだ偶然が十分じゃないとでもいうように、その日レヴィットは、売春の調査をしているってネタを語ったのだ。数日後、こんなeメールがレヴィットの受信箱に届いた。
あなたと私の共通の知り合いから、あなたが売春の経済学について論文を書いてるって聞きました。本当ですか? 本気でやってらっしゃる研究なのか、それとも私にそう言った人が私をかついだだけなのか、ほんとのところわからないので、ぜひお役に立てればと思っていることをお知らせしたく、とりあえずこんな形でご連絡してみました。

スティーヴン・D・レヴィット (著), スティーヴン・J・ダブナー (著), 望月 衛 (翻訳)
東洋経済新報社 (2010/9/23)、出典:出版社HP

 

よろしく、アリー

一つ難しい問題が残った。レヴィットは奥さんと4人の子どもたちに、今度の土曜の朝は家にいられない、売春婦のお姉さんとブランチを食べに行くって説明しないといけないことになったからだ。大事なことなんだ、彼はそう言い張った。直接会って、彼女の需要曲線がどんな形かじっくり吟味しないといけないからね。どういうわけか、みんなそれで納得してくれた。
そんなわけで、この本にはアリーも登場する。

いろんな出来事が積み重なって、彼女の話がこの本に載ることになったのは、経済学者が累積的優位と呼ぶもののせいかもしれない。つまり、1冊目の本が有名になったおかげで、2冊目の本を書くときになって、他の書き手では手の届かない、いろんな有利な点が生まれたのかもしれない。そんな有利なところをうまく利用できていればいい、ぼくたちは心からそう願っている。最後に、この本を書いている問、ぼくたちはできるだけ経済学の専門用語を直接には出さないように努めた。だから、アリーの一件のことも、累積的優位がどうのなんて考える代わりに、こう言おう……そう、ヤバい。

超ヤバい経済学―目次

説明のためのノート
■前の本でウソついてた件

序章 経済学が「ヤバい」とは
■グローバルな金融危機なんてまるごと無視してもっとおもしろい話をする
□千鳥足は危ない
□インドの女の人を救うありえないものとは
□馬のウンコに溺れる
□「ヤバい経済学」って、何?
□歯のないサメと血に飢えたゾウ
□いつも知ってるつもりで知らなかったこと

第1章 立ちんぼやってる売春婦、デパートのサンタとどうしておんなじ?
■女やっているとどんだけ損かを追究する
□ラシーナをご紹介します。バイトで売春婦やってます
□死んだ「魔女」が100万人
□女に生まれたってだけで罰を与える方法各種
□ラドクリフ大学の女の人たちでさえ代償を払う
□タイトル 区が女の人向けに雇用を創出し…….男がそれをさらっていく
□女の3人に1人は売春婦
□昔のシカゴじゃ売春商売がおおはやり
□聞いたこともないアンケート調査
□下がっていく売春婦の仕事料
□フェラチオがこんなに安くなったのはどうして?
□ポン引き、不動産屋さん
□ポリは売春婦が大好き、どうして?
□学校の先生たちはみんなどこへ行った?
□男と女の賃金格差、本当の原因
□女の人が子どもを愛するように、男の人はお金を愛する?
□性別を変えたらお給料は上がる?
□アリーをご紹介します。楽しく売春婦やってます。
彼女みたいな女の人がもっといないのはどうして?

第2章 自爆テロやるなら生命保険に入ったほうがいいのはどうして?
■生と死のやるかたない側面を検討する。基本的には死のほう
□子どもを産むのに最悪の月
□生まれを決める運命のルーレットは馬の運命も左右する
□アルバート・アアブはアルパート・ジズモアよりも輝いて見えるのはどうしてか
□大はやりの誕生日
□才能ってどこからくるもの?
□野球選手を生むご家庭、テロリストを生むご家庭
□テロってなんであんなに安くて簡単なの?
□9月1日のトリクル・ダウン効果
□あっちこっちの病院を治した男
□次のERなんてもう古い。どうして?
□いいお医者さんとわるいお医者さんをどうやって見分ける?
□「仕事でお客に噛まれた」
□ERのお医者さんにかかるなら女の人がいいのはなぜ
□死ぬのを延期する方法各種
□化学療法って、あんなにも効かないことが多いのに、
どうしてあんなにも使われてるの?
□「ぼくらはいまだにガンにケツを蹴飛ばされてる」
□戦争って思ったほど危なくない?
□テロリストを捕まえるには

第3章 身勝手と思いやりの信じられない話
■にんげんって、思ったほどいいもんじゃない。でも、思ったほどわるいもんでもない
□キティ・ジェノヴェーゼが殺されるのをぬ人もの人がただ見ていたのはどうして
□こういうお隣さんたちだとね
□1960年代に犯罪が急に増えたのはなぜだろう?
□ACLUが犯罪を増やすのはどうして?
□『ビーヴァーにおまかせ』は思っているほど無邪気じゃない
□思いやりの源、純粋なのと不純なの
□老人ホームを訪ねて来るのってどんな人?
□ニュースの少ない日と天災
□経済学者がガリレオのマネして実験室へ
□独裁者ゲームの麗しき単純さ
□ひとってとってもやさしい!
□「ドーナーサイクル」をありがとう
□イランで行われた腎臓のすばらしい実験
□トラックの運転席から象牙の塔へ
□ほんものの人はどうして実験室の人みたいに振る舞ってくれないの?
□思いやりの薄汚れて腐った真実とは
□案山子は人間にも効く
□キティ・ジェノヴェーゼ、ふたたび

第4章 お悩み解決いたします――安く簡単に
■大きくて難しそうな問題が、びっくりするようなやり方で解決できたりする
□子どもを産むのって危ない
□イグナーツ・ゼンメルワイスの救いの手
□「絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律」が
種を絶滅の危機に追いやってるのはどうしてか
□ゴミにお金を払わずに済む独創的な方法各種
□鉗子の出し惜しみ
□起きなかった飢饉
□30万頭の死んだ鯨
□ポリオの謎
□心臓発作をほんとに防いでくれるのは?
□殺人カー
□ロパート・マクナマラの変わった話
□ちょっと頭蓋骨を階段から落としてみよう!
□シートベルト万歳
□どうして助手席に座っちゃいけないの?
□チャイルドシートはどれだけお役に立ってくれる?
□衝突試験の人形は嘘をつかない
□ハリケーンで人が死ぬのはなぜか、何ができるか

第5章 アル・ゴアとかけてピナトゥボ火山と解く。そのこころは?
■地球温暖化を、冷めた、でも真剣な目で見てみよう
口北極と南極の氷を溶かせばいい!
口車の排ガスと牛のオナラ、どっちが最悪?
□地球を愛してる? ならもっとカンガルーを食べよう
口どれもこれも、みんな結局負の外部性に行き着く
□ザ・クラブ、ロージャック
□ピナトゥボ火山が教えてくれたこと
□インテレクチュアル・ヴェンチャーズの破廉恥なぐらい賢くてちょっとヒネた紳士たち
□蚊を狙撃する
□「君、私はあらゆる類の科学者だよ」
□好都合な不都合な真実
□気候モデルが見逃していること
口二酸化炭素が悪者っていうのは間違いなのか?
□「バカでかい火山」と気候変動
□地球を冷やすには
□「水撒きホースを空高く」
□地球工学が嫌いな理由
□生理的に嫌いという壁を飛び越えて
□「曇った鏡」とフワフワの雲を使った解決法
□振る舞いを変えるのがこんなに難しいのはなぜ
□汚れた手と死を呼ぶ医者 口皮がむけていく

終章 サルだってひとだもの
■さあ、真実が今あきらかに…んーと、でも、たぶん読むまで信じちゃくれないし

謝辞
訳者あとがき のっけから大成功したオタクたちのその後
付注

カバーデザイン 重原隆

スティーヴン・D・レヴィット (著), スティーヴン・J・ダブナー (著), 望月 衛 (翻訳)
東洋経済新報社 (2010/9/23)、出典:出版社HP

 

序章

Putting the Freak in Economics
経済学が「ヤバい」とは

人生の判断っていうのはだいたいが難しい。どんな仕事を選ぼう? 年老いたお母さんを老人ホームに入れたほうがいいか?

あなたとつれあいにはもうお子さんが2人いる。3人目を作ろうか?
そういう判断が難しいのにはたくさん理由がある。たとえば、かかっているものは大きい。それに、先行きは不確かでどんなことになるかもわからない。そして何よりも、そういう判断をしないといけないことはそんなにない。だから、一大決心をする練習なんてそんなに積めない。あなたもたぶん、食べ物を買うのはとても上手なんだろう。いつもやってることだし。でも、初めて家を買うのはまったく別の話だ。一方、ものすごくものすごく簡単な判断もある。

友だちが家でパーティを開くってんで、出かけていったと思ってほしい。彼の家はほんの1マイルのところだ。ワインを4杯飲んだせいか、とてもいい気分だ。さて、パーティももう終わりだ。あなたは最後の1杯を飲み干しながら、車のキーを引っ張り出す。急に、これはいけないって気がする。家まで車を運転できる状態じゃない。

スティーヴン・D・レヴィット (著), スティーヴン・J・ダブナー (著), 望月 衛 (翻訳)
東洋経済新報社 (2010/9/23)、出典:出版社HP

0ベース思考—どんな難問もシンプルに解決できる

すべてのバイアスをゼロにして読む?

本書は、経済学者のスティーブン・レヴィットとジャーナリストのスティーブン・ダブナーのコンビによる、バイアスをゼロにした思考法についてまとめた本です。
バイアスが人間の意思決定や判断に影響をもたらすこと自体は、おそらく多くの人が既に感じていることでしょう。しかし、いざある物事を考えているとき、自分自身にバイアスが働いているかを自覚している方はどのくらいいるでしょうか。

やはり、子供の頃と比較して年齢を重ねている結果、知っていることが増えるため、過剰に自分は知っていると思い込むことが増えてくるものです。しかしそのバイアスによって、本当に適した解決策を生み出すことが阻害されやすくなります。

本書では、ゼロベースで思考することによって、問題の解決を図る方法とそのアプローチが有効な理由について紹介しています。本書のテーマの通り、鋭い視点からのアプローチが多く、一見すると常識に反することでも、説明を聞けば納得できる項目が多いと感じます。
こどものように考えることやルーツを辿って要因、根本原因を見つけることはまさにゼロベース思考ですが、その他にも効果的なインセンティブの条件やうまく相手を説得する方法など、鋭い洞察から発見した共通点が紙面に展開されています。著者が自らこの思考法を実践し、結果を示しめしているのでしょう。どれほど計算された本なのか、と考えてしまいます。

スティーヴン・レヴィット (著), スティーヴン・ダブナー (著), 櫻井祐子 (翻訳)
出版社: ダイヤモンド社 (2015/2/14)、出典:出版社HP

 

THINK LIKE A FREAK
by Steven D. Levitt and Stephen J. Dubner

©︎2014 by Steven D. Levitt and Stephen J. Dulner Japanese translation rights arranged with Steven D. Levitt and Stephen J. Dubner
c/o William Morris Endeavor Entertainmem LLC, New York
through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo

脳を鍛え直して、大小問わずいろいろな問題を普通とは違う方法で考える。
ちがう角度から、ちがう筋肉を使って、違う前提で考える。
やみくもな楽観も、ひねくれた不信ももたずにすなおな心で考える。

目次

第1章 何でもゼロベースで考える
―バイアスをゼロにしてアプローチする思考法

「PKを蹴る方向」も合理的に決められる
キッカーはゴールを決めたい「だけ」なのか?
人は「みんなの利益」より「自分の利益」を優先する
「目のつけどころ」を変えて、問題を解決する
「直観」や「主義主張」を排除する
本当のことを言うと「変人扱い」される
「道徳のコンパス」が判断を狂わせる
「タブー」を突いたら、どう反応するか?
次期首相に提示した「思考実験」

第2章 世界でいちばん言いづらい言葉
―「知らない」を言えれば、合理的に考えられる

あなたは「知っている」と思い込んでいる
問題解決は「事実」を集めるだけではできない
専門家の予想の「的中率」はチンパンジー並み
ノーベル賞学者が出した「シンプルな答え」
ほとんどの人が「自分は他人よりできる」と思っている
「得」をするから、知ったかぶりをする
こうしてあなたは「知っている」と思い込む
なぜ、より豊かな人ほど「自殺」するのか?
人類史上初めて「パン」をつくるとしたら?
「ヘンなフィードバック」で判断を誤る
クビになるから「まともなこと」ができない
「知らない」と言って、現実に直面する
気づかせないまま「実験」に参加させる
新しいアイデアを試し、新しい質問を立てる
全米での大規模「試飲実験」の奇妙な結果
「評価」を決めているものの正体を見抜く
「わからない」と言う難しいけれど効果的な戦略

第3章 あなたが解決したい問題は何?
―問題設定を変えて、すごい答えを見つける

「まじめな人」なら見落としてしまうこと
ゼロベースで、問題を「正しくとらえ直す」
なぜ、「突然変異」的な記録が出たのか?
100メートルを4秒台で走ったレベルの数字
異常なようで「最も鋭い」アプローチ
試しながら「却下」する戦術を決める
「ゲームのルール」を書き換える
脳への「だまし」が限界を押し広げる

第4章 真実はいつもルーツにある
―ここまでさかのぼって根本原因を考える

銃規制は「犯罪率の減少」と関係がない?
「避けて通りたいところ」にカギがある
大昔の「宗教の違い」が、現在の「収入の違い」を決めている
徹底的にさかのぼって「要因」を見つける
なぜ、商人は奴隷の顔を「なめる」のか?
裏づけがなくても、怪しい「答え」が定着してしまう
「これはいったい何なのか」を突きつめる
自分自身で「2つの可能性」を検証する
人類最大の問題の「根本原因」とは?
ウンコの力が新しい時代を開く

第5章 子どものように考える
―「わかりきったこと」にゼロベースで向き合う

誰も考えない「小さな問題」を考える
学力アップには、すごい教育法よりメガネのほうが効果大?
これ以上ないほど単純でなくてはいけない
人間を「機械」のように考える
「卓越したパフォーマンス」の秘密とは?
銀行預金も「当たり付き」にしてしまえばいい
ゲームの売上を全部「寄付」に引っ張るには?
子どもより大人のほうがだましやすい
「ちがう角度」から見ると答えがわかる

第6章 赤ちゃんにお菓子を与えるように
―地球はインセンティブで回っている

「過失傷害」より「殺人」を選ばせるインセンティプ
人を頑張らせたければ、「カネ」をやればいい?
口に出す希望と「本当にやりたいこと」はちがう
人がいちばん強く反応するインセンティブは何か?
「道徳的インセンティブ」では人を動かせない
慈善も「経済」の問題になる
誰も言いたがらない「人がその行動をする本当の理由」
「これっきり戦略」で、もらう金額を増やせるか?
うまく「関係の枠組み」を変えれば得をする
中国とアメリカが「世界を変えた」方法
時給11ドルの安仕事も「競争率100倍」の人気職にできる
環境汚染を防ぐ作戦が、汚染を拡大させる
「コブラ効果」が生まれる理由
インセンティブを考えるなら、これを守れ

第7章 ソロモン王とデイビッド・リー・ロスの共通点は何か?
―庭に雑草を引っこ抜かせる方法

赤ちゃんを「真っ二つ」に切るという解決策
おやつに「m&m’sの茶色」を入れるな
嘘つきは、人とはちがうインセンティブに反応する
口を割らなければ「神さま」に決めてもらえばいい
灼熱の鉄棒を握っても「3分の2」が火傷しなかった
いちばん「神」を信じていない人間は誰か?
応募者を減らしたほうがいい人材をつかまえられる
研修だけでやめるなら、2000ドルのボーナスを出そう
敵に自分から「これから行きます」と言わせる
「べらぼうな利益」を生む仕掛けとは?
なぜ、詐欺師は「ナイジェリア出身」を名乗るのか?
「疑陽性率」を極限まで下げたい
こうすれば選りすぐりの「カモ」が見つかる
銀行取引のデータから「テロリスト」を洗い出す
ぼくたちが仕掛けた「生命保険詐欺」のトリック

スティーヴン・レヴィット (著), スティーヴン・ダブナー (著), 櫻井祐子 (翻訳)
出版社: ダイヤモンド社 (2015/2/14)、出典:出版社HP

ヤバすぎる経済学

When to Rob a Bankの翻訳

本書は、『ヤバい経済学』を著したスティーブン・D・レヴィット氏が、よりヤバいテーマについて、ざっくばらんにゆるく分析している本です。『ヤバい経済学』では、学術的な解明が多かったのですが、本書は、くだけたブログ的な内容となっている点には注意が必要です。

テロリストや犯罪をトピックとして取り上げたり、社会問題やイカサマなどそのインセンティブやその現象が発生する背景などが説明されています。内容としては、かなりゆるく、主観的な意見も含まれていますが、新しい切り口で物事を捉える要因が示されているとみるべきでしょう。それは、倫理的な判断をむやみに持ち出ないで、物事を考えることだと思います。

日本では、比較的道徳や倫理を重んじる傾向がありますが、その結果、倫理的に問題があるものは排除しようという意識が生まれ、視点が狭まる可能性があるのではないでしょうか。ヤバいものに対する好奇心を持ち、純粋にある現象に対して問いを投げかける姿勢があるからこそ、視点を変えることが容易になっていることが本書の裏のテーマと言えるのではないでしょうか。

スティーヴン・D・レヴィット (著), スティーヴン・J・ダブナー (著), 望月 衛 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2016/4/15)、出典:出版社HP

この本を読者の皆さんに捧げる。
皆さんの熱意にはいつも、あっと言わされています。
気にかけてくれてありがとう。

Original Title: WHEN TO ROB A BANK
Steven D. Levitt and Stephen J. Dubner
2015 by Steven D. Levitt and Dubner Productions, LLC panese translation rights arranged with Steven D. Levitt and Stephen J. Dubner c/o William Morris Endeavor Entertainment, LLC, New York through Tuttle Mori Agency, Inc., Tokyo.
All rights reserved.

ごあいさつ: ブログとかけてミネラルウォーターと解く。そのこころは?

10年ぐらい前、『ヤバい経済学』(望月衛訳、東洋経済新報社、2006年)って本を出そうとしていた頃の話だ。ついでにウェブサイトも立ち上げることにした。ウェブサイトの名前は、なんのヒネリもなく、「ヤバい経済学ドットコム」にした。このサイトがそのうちブログの役目を果たすことになる。

いつも時代に何歩か遅れているレヴィットはブログなんて聞いたことがなかった。ましてや読んだり書き込んだりなんて全然だった。ダブナーがどんなもんなのか説明したけれど、レヴィットは相変わらずなんなのそれ、と思っていた。

「とりあえずやってみようよ」。ダブナーはそう言った。まだつるんで間もないころだったから、ダブナーがこの2文字を口にするおかげで、思ってもみなかったことを自分があれこれやらかすはめになるなんて、レヴィットはまだ知らなかったのだ。そういうわけでブログをやってみることになった。最初の書き込みはこんなだった。

■あかんぼを世に出す

親御さんなら誰でも、うちの子ったら世界で一番かわいい、そう思うものだ。進化のおかげで、どうやらぼくたちの脳みそは、毎日毎日まいにち自分のあかんぼの顔を眺めているうちに、その子の顔がかわいらしく見えてくるようにできているみたいだ。
よそのお子さんが顔中食べかすだらけだと気分が悪くなるけど、自分の子どもだとまあなんとか我慢もできる。
そんなわけで、『ヤバい経済学』の原稿を延々読み続けたおかげで、ぼくたちは『ヤバい経済学』がかわいいと思うようになった。デキモノも食べかすもみんなみんなかわいい。あんまりかわいいんで、他のみなさんもこの本を読みたいんじゃないか、読んだらなんか言いたいんじゃないか、そこまで思うようになった。そんなわけでこのウェブサイトができた。当分の間、ここが楽しい(少なくとも楽しく言い争う)我が家であってくれればと思う。

で、以来ずっと、とっても楽しい我が家だった!
ぼくらのブログの書き込みは、本よりずっと肩の力が抜けて、ずっと自分の身の周りのことで、ずっと言いたい放題だ。はっきりした答えを出してる書き込みと同じぐらい、疑問投げっぱなしの書き込みもある。よくよく考えもせずに書き込んで、あとで後悔したことが何度かある。よくよく考えて書き込んで、それでもやっぱりあとで後悔したことも何度かある。でもだいたいは、ブログをやってるおかげで、ぼくらはこの世界に心を開き、あれこれ疑問に思う理由ができた。

最初の書き込みと違って、ブログの書き込みの大部分はぼくらのどちらか1人が書いている。本でやったみたいに2人で書いたわけじゃない。ときどき、友だちに(それに敵にも)ぼくらのブログに書いてくれと頼んだ。(頭のいい人をたくさん集めて難しい質問を叩きつける)クウォーラムや(ダニエル・カーネマンやアリーっていう高級コールガールに質問をする)Q&Aもやった。何年かの間、『ニューヨーク・タイムズ』紙がブログのスポンサーをやってくれた。おかげで恰好だけは、まっとうな人間でございますってフリができた。まあ、ほんとは怪しいもんなんだけど。

でもその『タイムズ』紙も、そのうちぼくらの正体がわかってきてぼくらを放り出し、好きにやればってことになった。ぼくらはまた独り立ちすることになった。
そんな年月を過ごす間、ぼくらはよく、なんで相変わらずブログなんてやってんだろうと思っていた。正直、よくわからない。お金が貰えるわけでなし。ブログをやれば本が売れるって証拠もない。

実はブログで本の売り上げは減るなんて可能性もある。なにせ毎日のように自分たちの書いたものをタダでバラまいてるわけだから。
でもやってる間に、なんで自分たちがこんなことやってるのかわかってきた。
読者のみなさんはぼくらのブログを読むのが大好きみたいだし、ぼくらはぼくらで読者のみなさんが大好きだ。読者の人たちの好奇心に創造力、そして何よりも遊び心のおかげで、ぼくらはここまでやってこれた。

ここから先のページで、みなさんのそんな精神が手に取るようにわかるだろう。
ときどき、ブログを本にしたらどうだと言ってくれる読者の人がいた。
とんでもなく頭の悪いアイディアだって思った――で、つい最近のある日、あれ、そうでもないんじゃって思った。何があったんだろう?

ダブナーは子どもの1人をサマー・キャンプに行かせるべくメイン州に向っていた。
その途上、辺鄙なところで、ポーランド・スプリング・ウォーターのバカでかい瓶詰工場に出くわした。自分自身も辺鄙なところで育ったダブナーは、いつも、水のペットボトルにけっこうなお金を出す人がたくさんいるのが不思議だった。しかも、そんな人たちは年に1000億ドルも水にお金を遣っている。

でもこのとき、ブログを本にするってアイディアがそんなに頭悪く思えなくなった。
で、ポーランド・スプリングだのエヴィアンだのみたいな単なる水を商売にしようって古式ゆかしき伝統を見習って、ぼくらもタダで手に入る材料をボトルに詰めて、あなたからお金をふんだくることにしたってわけです。

正直に言うと、ぼくらもブログに書いたことを全部読んで、一番いいネタを拾い集める手間はかけた(8000件にもなる大部分はろくでもない書き込みに混じって、いいのもちゃんとあった。よかったよかった)。

必要なところでは書き込みに編集や更新の手も加えて、本として筋が通るようにいくつかの章に分類した。たとえば第1章の「ぼくたち、お役に立ちたかっただけなんです」では、終身教授制度の廃止、民主主義にとってかわる体制、それにテロリストみたいに考える方法を論じている。第2章の「マス掻く手コキとウェインの恐怖」はヘンな名前やぴったりの名前、それからヘンにぴったりの名前を扱っている。第2章の「ひとたびジェットになったなら……」では、ひとたび経済学者みたいに考え始めたら、何を見ても―あかんぼ、アニメ、腐ったチキン―経済学者みたいに考えるのをやめられなくなる話を書いている。読んでるうちに、みなさんはぼくらがとりつかれているあれやこれや、ゴルフだのギャンブルだの1セント硬貨嫌いだのを、知りたくなくても知ることになる。

ブログのおかげでぼくらは、自分のぶっ飛んだ考えを文章にするなんていうたいへんな喜びを何年も味わっている。あなたがぼくらの頭の中を覗いて、ヤバい経済学の色眼鏡で世界を見るとどんなふうか、知ってくれたらと思う。

スティーヴン・D・レヴィット (著), スティーヴン・J・ダブナー (著), 望月 衛 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2016/4/15)、出典:出版社HP

 

もくじ

ごあいさつ:ブログとかけてミネラルウォーターと解く。そのこころは?
あかんぼを世に出す
第1章
We Were Only Trying to Help
ぼくたち、お役に立ちたかっただけなんです

あなたがテロリストならどんな攻撃を仕掛ける? (SDL)
テロ、その2 (SDL)
「税金との戦い」ってのはどうだろう? (SJD)
公立の図書館がなかったとして、今からでも作れるだろうか? (SJD)
終身教授制度なんて廃止してしまえ(ぼくのもね) (SDL)
客室乗務員にチップをあげないのはどうして? (SJD)
ニューヨークの空の混雑をなんとかしろって? ラグァーディア空港をつぶせばいい (SJD) 徴兵制復活なんて最悪 (SDL)
イギリスの国民健康保険制度を助けたいヤバ経からのご提案 (SDL)
民主主義に代わるもの? (SDL)
政治家にもっとお金を払ったらもっといい人が政治家になる?(SJD)

第2章
Limberhand the Masturbator and the Perils of Wayne
マス掻く手コキとウェインの恐怖

こんどお宅のお嬢さんが新しい彼氏を連れて来たら、ミドルネームはなあにって必ず聞きましょう。(SDL)
モーガン殿下 (SJD)
天国みたいなステキな名前 (SJD)
あかんぼの名前は先が読めない (SJD)
これより名は体を表してるのを言ってみろ (SJD)
「名は体を表す」コンテスト、結果発表 (SJD)

第3章
Hurray for High Gas Prices!
ガソリン値上がり万歳!

誰かがぼくを5ドル分嫌ってる (SDL)
ヤクの売人がウォルグリーンを見習えばほんとに大儲けできるだろうね(SJD)
新車を買うときの求愛ダンス (SDL)
2500万ドルじゃ話にならないけど5000万ドルなら考えてもいい (SJD)
コカ・コーラの秘密のレシピが手に入るとしたらペプシはいくら出す?(SDL)
もういいかげん1セント硬貨なんかなくしちゃいましょうよ (SJD)
明るい家族計画がヤバいんです (SDL)
7200億ドルなくしました。見つけた方は持ち主に返してください。現金希望 (SJD)
カナダのアート・ポップの歌い手とかけてベイグル売りと解く。そのこころは? (SJD)
ジェイン・シバリーに叱られた (SJD)
運動選手はいくらまでなら税金を払う気になるだろう? (SJD)
チキンウィングの値段のつけ方 (SDL)
なんでキウィはあんなに安い? (SJD)
ピート・ローズが教える経済の基本 (SDL)
神様にも企業スポンサーがついてれば…… (SJD)
サレンバーガー機長が言いたかった(でも礼儀正しい人なんで言えなかった)こと
(ゲスト・ブロガー:「スティーヴ機長」)
ガソリン値上がり万歳!(SDL)

第4章
Contested
コンテストいろいろ

世界で一番クセになるものってなぁんだ? (SDL)
ツイッターでのコンテスト、その意図せざる結果 (SJD)
コンテスト : アメリカの標語を6語で作ったら?(SJD)

第5章
How to Be Scared of the Wrong Thing
間違ったものを怖がるとは

どーどー、ネリー (SJD)
チャイルドシートに関するぼくの研究について運輸長官が言わずにいられなかったこと (SDL)
安全性の追いかけ過ぎ、おむつの交換編 (SJD)
テロの脅威、最新版 (SDL)
「石油のピーク」:マスコミの「狼が来た」最新作 (SDL)
石油のピークで一勝負 (SDL)/
デブをこじらせたら死ぬか? (SJD)
ダニエル・カーネマンがあなたの質問に答えます (SDL)
ハイテクの恐怖、iPad編 (SJD)
リスクが嫌いってこういうこと (SDL)
アメリカ政府がインターネット・ポーカーをぶっ潰したのは間違いである理由4つ (SDL) 知らない人を怖がるコスト (SJD)

第6章
If You’re Not Cheating, You’re Not Trying
インチキしてないってことは 一所懸命やってないってことだ

インチキでイケてることにするとは (SJD)
なんで嘘つくの? 自己申告って危うい (SJD)
ムンバイの電車でインチキするには (SJD)
郵便局が切手を貼ってない郵便までちゃんと届けてくれるのはどうして?(SDL)
群れたがり?ヤバい経済学、バスに乗る編 (SJD)
ウソで固めた回顧録のための実験 (SJD)
インチキの殿堂入り、最新版 (SDL)
スポーツでインチキするのはアリか?(STD)
ツール・ド・フランスでドーピングする連中は、もうドーピングさせとくのがいいんじゃないか? (SJD)
ほんとにステロイド問題と戦う気なら、どう戦うのがいい?(SDL)
イカサマしないには (SDL)
アブソリュート・ポーカーのイカサマ、大スキャンダルに発展 (SDL)
税金逃れか税金知らずか?(SJD)
DCの「最優良校」がインチキしてる?(SDL)
荒っぽいドライヴァーから金をふんだくる (SDL)

第7章
But Is It Good for the Planet?
でもそれ、地球にやさしいの?

絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律は絶滅の危機に瀕する種を絶滅の危機に追い込んでいる? (SDL)
環境にやさしく、だから車に乗ろう (SDL)
ロカヴォアってほんとに何十億人もいないといけないの?(SJD)
地球にやさしくして稼ぎを増やす (SDL)
一度にオレンジジュースコップ1杯分ずつ熱帯雨林を救う (SDL)
ざまあみさらせ(包んだ)リンゴくってろ(ジェイムズ・マクウィリアムズ)
神を畏れぬ肉食派と地球温暖化:環境派が石炭ばっかり追い回して牛を追わない理由 (ジェイムズ・マク ウィリアムズ)
ヘイ、ベイベー、あのプリウス、きみの?(SJD)

第8章
Hit on 21
21で大当たり

フィル・ゴードンがボーカーのワールド・シリーズで優勝してくれたらいいのに(SJD)
ウェガスいいとこ (SJD)
ボーカー・ワールド・シリーズ・アップデート : レヴィット、史上タイ記録達成、もはや破られることなし (SDL)
あと1枚でボーカーのワールド・シリーズの決勝に(SD)
バックギャモンってなんでもっと人気が出ないんだろう?(SD)
ぼくがチャンピオンズ・アーに入れてもらえる(少なくともゴルフでボールをほんとに遠くまで飛ばせる可能性ってどんなもんだろう (SDL)
1万時間の後に:PGAツアー?(SDL)
レヴィットはシニア・ツアーに出られます (SJD)
損失の回避、NFLの場合 (SJD)
ビル・ベリチックはえらい (SDL)
地元の利ってほんとにどれだけ利があるの?
なんで利があるの?(SJD)
ピッツバーグ・スティーラーズが好きな理由トップ10 (SJD)
一流のデータの狩人はどうやってできるか (SID)
毎年恒例、ケンタッキー・ダービー予想 (SDL)
誰も気にかけてなくてよかった件 (SDL)

第9章
When to Rob a Bank
銀行襲うならいつがいい?

銀行襲うならいつがいい?(SJD)
中国の犯罪発生率、ほんとはどれぐらい? (SDL)
犯罪者に自分は犯罪者だって思い出させちゃだめ (SDL)
本物のワルは『ザ・ワイヤー』をどう思う? (スディール・ヴェンカテッシュ)
ヤクザ税 (スディール・ヴェンカテッシュ)
ごはんを焦がすな (SDL)
こういう質問に「はい」と答えた人が出たのはいつのことなんだろう?(SDL)
プラキシコ・バーレスは別格? (SJD)
友だちを招いて晩ごはんなんてどうでもいい。ミズーリじゃ晩ごはんに招くのは敵のほう (SDL)
DCではもう銃が禁止されないって?それがなにか?(SDL)
銃による死亡事件を減らすのに一番いいやり方は? (SJD)
グアンタナモ送りになりかけた件について (SDL)
世にも奇妙なほんとの物語:NBCがヤバい経済学風味の警察ドラマを放映へ (SJD)

第10章
More Sex Please, we’re Economists
もっとヤらせて、ぼくら経済学者だし

ニュース速報 : サッカー・ファンって思ってたほどスキモノじゃなかった(SJD)
慎みなき私案 : いま こそセックス税?(SJD)
もっとヤらせて、ぼくら経済学者だし (SJD)
高級コールガールですがなにか?なんでも聞いてあげる
ヤバい経済学ラジオ版が結果を出す (SJD)

第11章
Kaleidoscopia
万華鏡みたいなもの

KFCで列に並んでる間に思うこと (SDL)
『ザ・デイリー・ショウ』を振り返って(SDL)
歯医者さんの見識 (SJD)
例のウンコはどうなった? (SDL)
バラク・オバマがいい書き手なのとおなじぐらいいい政治家なら、もうすぐ彼は大統領になる (SDL)
医学と統計は交わらない(SDL)
あなたがいたずらが好きなら…… (SJD)
ビッグの次はグレイト……の次は残念 (SDL)
神を許し給え (SDL)
経済学者のことを書いて何が面白いか (SJD)
娘が死ぬとき (マイケル・レヴィット)
リンダ・レヴィット・ジンズ、1962-2012 (SDL)

第12章
When You’re a Jet…
ひとたび ジェットになったなら….

粉ミルクを1缶売るのに中国人が何人いるでしょう?(SDL)
なんでアニメ映画はあんなにも有名な人の声ばかり使うんだろう? (SDL)
腐ったチキンになんで36.09ドルも払う? (SJD)
ぜひガソリンを買いましょう! (SDL)
海賊経済学入門講座 (聞き手 : ライアン・ヘイゲン)
見える手 (SDL)
シロクロテレビ (SDL)
君の思いやりってどこまで清く正しく美しい? (SJD)
街角の慈善の経済学 (SJD)
子どもにわいろを贈って試験で頑張らせる (SDL)
サケがおいしいですよ : インセンティヴが効く例 (SDL)
エビの経済学 (SDL)
なんで女の人ってこんなに不幸せなの? (SDL)
今までで貰った最高のアドヴァイスは? (SJD)
この世で最高の褒め言葉とは (SDL)

お礼の部
ヤバい経済学の逆襲:訳者のあとがき
ノート

スティーヴン・D・レヴィット (著), スティーヴン・J・ダブナー (著), 望月 衛 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2016/4/15)、出典:出版社HP

レヴィット ミクロ経済学 基礎編

気鋭の研究者レヴィットのミクロテキスト(基礎)

本書は、ミクロ経済学の中級テキストです。スティーブン・レヴィットとオースタン・グールズビー、チャド・サイヴァーソンが執筆し、邦訳された基礎編です。
数学の説明も詳しく記述されています。わかりやすい文章で書かれているため、理解しやすいのですが、ボリュームがあるため少し大変かもしれません。

ミクロ経済学のテキストの初級と中級とのギャップが大きいことを指摘し、数学が苦手だったレヴィットだから気づいたポイントや学生への配慮も含まれており、ミクロ経済学を学んでいる学生にとっては、役立つ部分があるでしょう。

また、ネット上で補論を公開しており、微分をどう使えばよいのかを知りたいときには、調べやすいでしょう。トピックを説明するための例も具体的で、全体的に理解しやすい仕組みを作っています。

スティーヴン・レヴィット (著), オースタン・グールズビー (著), チャド・サイヴァーソン (著), 安田 洋祐 (翻訳), 高遠 裕子 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2017/4/21)、出典:出版社HP

オースタンから
何年も前に出会った憧れの少女に.結婚してくれてありがとう.

スティーヴンから
愛しの妻,ジェニーに.愛と感謝をこめて.

チャドから
妻のジェナと3人の子どもたち――クレア,アダム,ヴィクトリアに愛をこめて.

3人から
シカゴ大学に.そこは,ただ経済学を学ぶだけではなく,日々,実践する場である.シカゴ大学がなければ,経済学の世界もわれわれも,今とはまるで違っていただろう.

Original Title:
MICROECONOMICS
by Austan Goolsbee, Steven Levitt, and Chad Syverson

First published in the United States by Worth Publishers Copyright © 2013 by Worth Publishers
All rights reserved.

Japanese translation published by arrangement with Worth Publishers, a division of Bedford, Freeman and Worth Publishers LLC through The English Agency (Japan) LTD.

監訳者序文

ミクロ経済学に待望の中級テキストが刊行された! スティーヴン・レヴィット,オースタン・グールズビー,チャド・サイヴァーソンという,シカゴ大学が誇る三人のスター教授たちによるMicroeconomics (Worth Publishers, 2013)である.本書『レヴィット ミクロ経済学』はその邦訳で,原書が700ページ以上の大ボリュームのため,読者の使いやすさを配慮して基礎編と発展編の2冊に分けて刊行することにした.

『レヴィット ミクロ経済学』の最大の特徴は,初学者でもこれ一冊で「使えるミクロ経済学」がマスターできることにある.経済学の前提知識が無くても,独学で中級レベルのミクロ経済学の使い方をきちんと身につけることができるように,随所で工夫がされている.もちろん,初学者だけでなく,入門書では物足りない読者や中級テキストに挫折してしまった学生が,ミクロ経済学をきちんと学び直すのにもぴったりだ.ミクロ経済学の理論をビジネスに活かしたいと考えている社会人,ビジネススクールの学生にも強くお薦めしたい.

実は,ミクロ経済学の分野では,定評ある初級の入門書はすでに何冊も出版されている.特に,洋書はどれも記述が丁寧で,マンキュー,スティグリッツ,クルーグマンなどに代表されるように,文字どおりゼロから学べるテキストが充実している.こうした良書の共通点は,ほとんど数式を使わず,身近なケースをたくさん用いて,鍵となる考え方を繰り返しわかりやすく説明していることにある.しかし,本書と同じ中級レベルのテキストになると,途端に理論重視で無味乾燥な内容になり,詳しい説明もなく,数式や小難しい(ように見える)概念が次から次へと出てくることが珍しくない,さらに,そこで登場する数理的なテクニックが,どのような形で経済学の実践に役に立つのかを示す,具体的な実例が紹介されることもほとんどない.これでは,苦労してまで中級レベルの内容を勉強しようとするモチベーションが湧きにくいだろうし,せっかくコアとなる理論を身につけても宝の持ち腐れになってしまう事例が豊富で数式がほとんどない初級テキストと,数式ばかりで事例のない中級テキストとのギャップを埋めるテキストが,長らく求められていたのである.

本書は,まさにこの初級と中級のギャップを埋める,画期的な中級テキストとなっている.類書でほとんど触れられていない,現実の事例や理論の使い方については,「理論とデータ」「応用」のセクションで,様々な実証研究やデータなどを取り上げることでカバーしている.さらに「ヤバい経済学」のセクションがあるおかげで,常識はずれな経済学の活用法を知ることができると同時に読み物としても楽しめる,というのも他のテキストにはない大きな魅力だろう.では,中級テキスト最大の泣きどころとも言える,数学の多用についてはどうだろうか,残念ながら,入門から一歩進んだ本格的なミクロ経済学をマスターするためには,数式やグラフの理解は欠かすことができない,なぜかと言うと,入門書でおなじみの「言葉による説明」だけでは,内容が漠然としすぎていて,具体的な個々の問題に対して答えを導くことが難しいからだ,そのため,本文をパラパラと眺めれば明らかなように,本書でも数式やグラフはかなり頻繁に登場する.ただし,式の展開やグラフの意味などが懇切丁寧に説明されているので,数学が苦手な人でも心配することはない,途中のプロセスを一切省略することなく,ここまで細かく手を抜かずに,数学について解説した経済学の中級テキストはなかなかない.この非常に丁寧でわかりやすい数学の説明の仕方こそが,独学で「使えるミクロ経済学」の修得を可能にする,本書最大のカラクリと言えるだろう.

余談ではあるが,数式を使いながらわかりやすさも損なわず,「かゆいところに手が届く」書き方になっている要因は,著者の一人であるスティーヴン・レヴィット教授が学生時代に数学を苦手としていたからではないだろうか.彼の代表作『ヤバい経済学(増補改訂版)』によると,大学時代に一つしか数学の授業を取らなかったレヴィットは,MIT (マサチューセッツ工科大学)博士課程の最初の授業で隣に座った学生に,学部レベルで知っておくべき初歩的な数式の記号の意味を聞いて周囲を驚かせたらしい.当時のクラスメートで本書の共著者でもあるオースタン・グールズビー教授によると,周りは彼を見限り「あいつ,おしまいだな」などと囃していたという(そこからレヴィットは独自の道を切り開き,ノーベル賞の登竜門と言われるジョン・ベイツ・クラーク賞を受賞するほどのスター経済学者となるのだから,人生は面白い!),自身の体験を通じて,数学の苦手な学生がどこでつまずくのかを熟知していたレヴィット教授だからこそ,先回りして,読者のかゆいところに手を差し伸べることができたのかもしれない.

さて,本書『レヴィット ミクロ経済学』は,昨年すでに原書の第2版が刊行されている.新版では新たに「第13章 要素市場」が追加されたほか,細かいアップデートが行われた.ただし,この第13章は,初版の第5章の一部の内容を移して1章分に拡張したものであり,見た目ほど大きな変更ではない,書籍全体を通じて,初版から大きく内容が変わっている点も特に見当たらない.なお,原文の意味や説明がわかりにくいところは,訳出の際に,こちらで読みやすいように少しだけ修正を加えてある.最新版の邦訳でないことを気にされる方がいるかもしれないが,ぜひ安心して本書を読み進めていただきたい.

最後に,本書の翻訳作業を引き受けてくださった翻訳家の高遠裕子氏と,編集作業でお世話になった東洋経済新報社の矢作知子氏に感謝したい,お二人のお陰で,中級レベルであるにもかかわらず,非常に読みやすいテキストとして本書を完成させることができた.高遠氏による,堅苦しさを感じない自然な日本語で訳出された『レヴィット ミクロ経済学』を手に,ぜひ一人でも多くの方に「使えるミクロ経済学」のマスターを目指してもらいたい.本書を読了すれば,きっと世界が今までとは違うように見えるはず!

2017年3月
大阪大学大学院経済学研究科准教授 安田 洋祐

スティーヴン・レヴィット (著), オースタン・グールズビー (著), チャド・サイヴァーソン (著), 安田 洋祐 (翻訳), 高遠 裕子 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2017/4/21)、出典:出版社HP

序文

ミクロ経済学は経済学の根幹を成すもので,経済学のあらゆる学派・分野に共通する基本的な知識で構成されている.ミクロ経済学はすこぶる役に立つものでもあって,企業や政府,そして個人が効率的な意思決定をするのに欠かせないツールを提供してくれる.ミクロ経済学の厳密性と有用性は,必ずや学生を惹きつけ,わくわくさせるはずであり,教科書はそれを後押しするものでなければならない,とわれわれは考えている.

なぜ本書なのか

本書の執筆にあたって目指したことが1つある.学生1人ひとりが,経済学の原理を学ぶだけにとどまらず,経済学者のように経済分析ツールを使いこなし,現実社会に応用できるようになってもらいたい,そのための手助けをしたいのだ.

われわれは中級ミクロ経済学の主要な教科書に目を通したうえで,それらとは違うものをつくりたいと考えた.現在主流の教科書は,学生がミクロ経済学に対して抱いている2つの疑問に答えられていない.すなわち,個人や企業は理論どおりに行動しているのか,そもそもミクロ経済学の理論は現実に使えるのか,という疑問である.これらの疑問に対する答えを本書で探っていく順番にみていこう.

個人や企業は理論どおりに行動しているか

ミクロ経済学の既存の教科書は,どれも標準的なツールと経済学の理論を提示し,事例を紹介している.だが,学生の素朴な疑問に答えることはなく,理論は正しいと頭から信じることを学生に期待している.理論が具体的にどう現実に応用できるのかが必ずしも効果的に示されていないのである.

さらに,現在主流の教科書は,応用ミクロ経済学の分野で急速に存在感を高めている実証研究に十分に追いついていない,理論を説明するだけでなく,その活用法を示し,それを支える現実のデータを提供するミクロ経済学の教科書があれば,学部やビジネススクールの学生も納得するのではないだろうか.われわれは,「理論とデータ」や「応用」のセクションを通じて,経済学者が現実のデータをどう活用して理論を検証しているかに注目しながら,理論の背後にある現実に迫っていく.本書では,こうした実証的側面を取り入れることによって,ミクロ経済理論で現実の行動を説明できることをしばしば意外な形で示し,理論のどの部分を修正する必要があるかをあきらかにする.

ミクロ経済学は現実に使えるのか

中級ミクロ経済学といえば抽象的で理論的なものである,といった見方が幅を利かせている.学生にはかなりの努力が求められるので,自分たちが学ぶことがなぜ役に立つのか,どう役に立つのかを知っておいてしかるべきだろう.それがわかっていないと,学ぶ意欲も湧いてこないというものだ.

ミクロ経済学の既存の教科書では,役に立つかどうかは二の次になっているが,われわれは「使える経済学」の教科書を書きたいと考えた,正しく使えば,経済学はすこぶる役に立つ学問である.ビジネスに役立つのはもちろん,政策に生かすこともできるし,日常生活でも使うことができる.本書は,ミクロ経済学の理論と研究で,日常の出来事や市場の性格,企業戦略,政府の政策がどう説明できるのかをあきらかにすることで,ツールを身につけ,使いこなす方法を教示していく.

もう1つ言っておくべきことがある,理論と現実を結びつけ,ミクロ経済学がいかに使えるかを示すという目標も,不完全で不正確な説明や,曖昧で退屈で味気ない書き方では叶えられない.われわれは,経済学的に考えることがいかに優美かつ強力で,役に立ち,現実に使えるかをわかりやすく伝えるため,現在進行形の目立つ実例,時に奇抜とも思える実例を取り上げ,明確な文体で記述するという方法をとるよう心がけた(奇抜な実例の一部は,スティーヴン・レヴィットが担当した「ヤバい経済学」というコラムに収めてある).

われわれ共著者のこと

われわれ三人は長年の友人である.中級ミクロ経済学の教科書を共同で執筆すると決めたとき,重要かつ実際的で多様な見方を持ち込みたいと考えた,三人はそれぞれ経済学部とビジネススクールで教えるかたわら,ミクロ経済学の実証研究に積極的に取り組んでいる.実証研究のさまざまな分野に軸足を置いていることで,過去20年間に検証され,洗練されてきた基本的な理論の根拠を示すことができる.教育と研究の成果を盛り込んだ本書の理論と応用は,他の教科書とは一線を画すものになったと自負している.

学部やビジネススクールで教える利点は他にもある.われわれが相手にしているのは,高い授業料に見合わない講義には容赦のない学生である.前述のように,学生は理論がどう使えるかを知りたがっている.われわれはこうした学生を念頭に本書を執筆した.

ミクロ経済理論をどう現実に結びつけるか

入念に検討された本書の構成に沿って学習を進めていけば,経済学の基本原理を理解し,それを応用して強力で明快な経済分析ツールを使いこなせるようになる.とくに事例の選択には時間をかけ,ごく一般的な事象に独自の視点を提供する事例や,学生にとって有意義かつタイムリーで広く関心のある事例を選ぶよう心がけた.

以下の3つのセクションでは,ミクロ経済学の理論を現実に結びつけ,目の前の現象を理解するうえで理論がいかに有用であるかを示す.

1. 理論とデータでは,経済研究を簡潔に紹介し,実例を用いて理論の背後にある現実をあき
らかにする.データの収集・分析が容易になった結果,ミクロ経済学では急激な変化が起きている.現在,ミクロ経済学の主要な研究では,ミクロ経済理論の根本は押さえつつ,データ,フィールドないし研究室での実験,そして実証に重きが置かれている.理論はつねに検証されるものだが,本書ではその成果を紹介する.

具体的には,以下のような事例を取り上げる.ゴルファーの後方屈折型労働供給曲線(第5章),新薬の潜在市場を決定する(第9章),サウスウエスト航空参入の脅威に対する既存の航空会社の反応(第12章),盗難車追跡システムの正の外部性(第16章).

2. 応用は各章に配され,消費者や生産者がミクロ経済理論を実際の意思決定に生かす方法を論じる.さまざまな出所のデータを活用しながら,理論をどう生かすかを示していく.
以下のような事例を取り上げる.ミクロ経済学を学んで賢くネットオークション(第1章),米国製造業の技術変化(第6章),映画会社は赤字確実の映画をなぜつくるのか(第7章),市場支配力なしに価格差別はできないと思い知らされたプライスライン(第10章),サッカーの混合戦略(第12章).

3. ヤバい経済学軽い読み物の「ヤバい経済学」は,一般的な事象だけでなく,経済学の範疇に入らないとされる事象も経済的に分析できることを意外な形で示す.経済的センスを身につけてもらうのが,その狙いだ.単行本の『ヤバい経済学』〔スティーヴン・レヴィット,スティーヴン・ダブナーの共著,望月衛訳,増補改訂版,東洋経済新報社,2007年)で,経済学とは身のまわりのあらゆる事象を扱う学問であることを示したが,本書の『ヤバい経済学』のエッセイを読めば,常識はずれの出来事を理解するのにもミクロ経済理論が使えることがわかるだろう.
以下のような事例を取り上げる,トーマス・スウェイツのトースター(第1章),動物もセールがお好き(第5章),インドの漁師が携帯電話を手放せないわけ(第6章),シークレットではなかったヴィクトリア・シークレットの価格差別(第10章),文字どおり世界の果てで経済理論を検証する(第17章).

ミクロ経済学をわかりやすく学ぶための工夫

経済学の教科書のわかりやすさには2つの要素が求められるが,本書はどちらも取り入れるよう工夫した.

■第1に,議論の厳密性や深さを損なうことなく,読みやすくわかりやすい文章を書くよう心がけた.強力で高度な理論だからといって,抽象的で乾いた文体で書いたり,難解な言葉を使ったりする必要はない.
■平易な文章でわかりやすく説明するのと同じくらい重要なのが,わかりやすいグラフで視覚に訴えることだ.カラーを使い,簡潔に表示し,詳しい解説をつけることで,文章による説明を補い,より深く理解できるように配慮した.

ミクロ経済学への理解を深めてもらうための工夫

中級ミクロ経済学は難易度が高く,理論をしっかり頭に入れ,さまざまな状況に応用するのは簡単ではないが,以下の練習問題やエッセイが参考になるはずだ.

1. 練習問題「解いてみよう」 閲読者やフォーカス・グループの参加者,試験的に講義を行った教師から繰り返し聞かされたのは,学生は学んだ知識をどう生かして問題を解けばいいかがわからない,という声だった.各章の本文中に,「解いてみよう」と題する練習問題を設けた.これらの細かい練習問題を粘り強く最後まで解いていけば,経済学のツールや分析を駆使して1つの問題を考え抜き,答えを導き出すプロセスをたどることができる.解答では,問題で何が求められているのかを正確に分析し,必要なツールを見極め,それらのツールを使って段階的に正解にたどり着く模範例を示した,「解いてみよう」の問題は,各章末の演習問題と関連づけられており,これを解いておけば,章末の演習問題はもちろん,小テストや試験にも十分対応できるようになる.

2. エッセイ「これで合格」は,学生が陥りやすい落とし穴を指摘し,ミクロ経済理論の微妙でむずかしい点をうまく切り抜ける助けになるものだ宿題やテストでよく出されるトピックについての実用的なアドバイスになっている.具体例としては,所得効果,代替効果に関して覚えておくべきシンプルなルール(第5章),これは価格差別と言えるのか(第10章),チェックの方法(第12章)などがある.

3. 章末の「まとめ」と「問題」各章のおわりには,その章で学んだことを振り返り,身に
つくように「まとめ」,「復習問題」,「演習問題」を配した.すべての復習問題と一部の演習問題の解答は巻末に掲載しており,解答のある問題には*印をつけている〔本訳書では省略. https://store.toyokeizai.net/books/9784492314951に掲載予定〕.
本文中の「解いてみよう」と演習問題との関連性にも注意を払った,「解いてみよう」をしっかりやっておけば,演習問題は難なく解けるはずだ.それぞれの問題が,その章で扱った範囲の理解度を試すものになっているかどうか,大学の教師に徹底的に点検してもらったことを付け加えておきたい.

数学をどう扱うか

数学は経済分析の強力なツールであり,学生にはこれを自在に使いこなせるようにスキルを身につけてもらいたい.多様な学生の要請に応えて,各自にあった数学のスキルを生かし経済分析ができるよう後押しする教科書をつくったつもりだ.本書は幅広い用途に応じたものであり,副教材と併用すれば,標準的な代数と幾何だけを使う学習と,微分を取り入れた学習のどちらも可能である.

わかりやすい文章とグラフには,簡潔かつ網羅的で順を追った説明がつけてある.数式の各段階でなぜ,どうしてそうなるかが懇切丁寧に説明してあり,数学が苦手な学生にも,数式を使いこなせれば経済分析が容易になることがわかってもらえるはずだ.本文中では代数と幾何しか使っていないが,補論とネット上に公開している補論で微分を解説することで,理論や練習問題,応用に微分を取り入れることが可能になっている.

微分を使う読者へ

ミクロ経済学の一部のツールは微分を取り入れると使い勝手がよくなるため,「使える」教科書をつくるにあたって,ある程度,微分を採用することにした.どの程度取り入れるかどう提示するかがむずかしい点だった.講義で微分を使っている教師と話し合うなかで,既存の教科書での微分の扱われ方に不満が多いことがわかった.理由はさまざまで,扱いが多すぎる,あるいは少なすぎるといったものから,微分が前面に出すぎて経済学そのものがわかりにくくなっているとか,微分を経済理論に取り込みすぎている,あるいは微分と経済理論がしっくり馴染んでいないといった不満もあった.本書の方向性を決めるうえで,微分の扱いをどうするかはむずかしい課題の1つだった.最終的にたどり着いた答えは,多くの人にとって「ちょうどいい」ものになったと自負している.

微分は「補論」として扱うことにしたが,本文と同様に語りかけるような文体で直観に訴える書き方を心がけた,補論でも事例を取り上げ,「解いてみよう」の問題を収録しているが,これらは,代数をもとにした本文中のものとほぼ同じである.そうすることで,微分を使った分析が代数を使った分析を補強するものであることを示す.学んだことを実際に試して身につけてもらうために,補論には微分を使わなければ解けない問題を収録してある.適度に微分を使う講義向けに,別に本書では5つの補論を用意したより広範に微分を活用したい読者には,別にネット上で10の補論を公開している.

本文の記述と補論の記述を関連づけるために,本文に「注」をつけている.この注は,適切な補論を参照するよう注意を促し,概念を理解するために微分をどう使えばいいのか具体的に説明したものである.この注を読んで微分に慣れ,使いこなせるようになってもらいたい.

以下は,本書またはネット上で公開している補論のリストである.ネット上の補論はすべて以下のサイトで閲覧できる.
http://macmillanhighered.com/launchpad/gls2e.

スティーヴン・レヴィット (著), オースタン・グールズビー (著), チャド・サイヴァーソン (著), 安田 洋祐 (翻訳), 高遠 裕子 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2017/4/21)、出典:出版社HP

本書に収録されている微分に関する補論

第4章 効用最大化および支出最小化の微分
第5章 所得効果および代替効果の微分
第6章 費用最小化の微分
第7章 企業の費用構造の微分
第9章 利潤最大化の微分

ネット上で公開している微分に関する補論〔英語のみ〕
第2章 均衡と弾力性の微分
第3章 消費者余剰と生産者余剰の微分
第4章 効用関数の微分
第5章 需要の微分
第6章 生産関数と投入需要の微分
第7章 企業の費用構造拡大の微分
第8章 長期競争均衡の微分
第10章 価格戦略の微分
第11章 クールノー競争と差別化されたベルトラン競争の均衡の微分
第12章 ゲーム理論の混合戦略の数学

数学の復習の補論
基礎的な代数であれ微分であれ,中級ミクロ経済学を学ぶほとんどの学生にとって,数学の復習は役に立つはずだ.巻末につけた補論(本訳書では省略]では,本書全体をとおして使われる数学をおさらいできるようになっている.

本書の構成(各章の概要)

以下では,とくに注目されるテーマや他の教科書とは異なる点をあげながら,各章の概要を説明していこう.第1章から第11章までが本書の核心部分であり,ほとんどの教師が講義で使うことになるだろう,残りの第12章から第17章までは,それぞれ個別に活用することができる.

【第1部 基礎概念】
第1章 ミクロ経済学の冒険
冒頭には,導入部として短い章を配した.ミクロ経済学に興味と関心を持ってもらうために,身近な飲料であるコーヒーを取り上げ,コーヒー豆を栽培する生産者とコーヒーを購入する消費者の立場から市場について考える.「応用」,「理論とデータ」の各セクションと,コラムの「ヤバい経済学」を通して,ミクロ経済学のツールが,経済学やビジネスを学ぶうえだけでなく,日常生活においてもすこぶる役に立つものであることをあきらかにする.

第2章 需要と供給 第2章と第3章では,需要と供給を深く掘り下げることで,しっかりとした土台をつくる.そのうえで消費者行動と生産者行動をみていく,需要・供給モデルは単純ながら強力なモデルであり,既存の教科書では基本的なモデルを提示し,応用は別に論じられるのが一般的であるだが,最初にモデルのあらゆる側面を提示するほうが理に適っていると考えられる.われわれは(そして,試験的に本書を使った人たちは),この方法を講義に取り入れて成果をあげている.
第2章ではまず,需要と供給の基本的なモデルを示す.特筆すべきは,「需要・供給モデルを支える主な仮定」の小節であり,ミクロ経済理論を構築し,説明するうえでの留意点を具体的に示している.

第3章 需要と供給のツールを使って市場を分析する 第3章では,需要・供給モデルを活用して,消費者余剰および生産者余剰,価格規制および数量規制,税金および補助金などを幅広く分析する.これらの概念を早いうちに紹介し,より完璧な説明をしておけば,コース全体をとおして無理なく活用できると考えられる.第3章で取り上げるトピックは融通がきくように挿入されているので,必ずしもすべてに目を通す必要はない.自分で選択してもらいたい.
【第2部 消費と生産】
第4章 消費者行動 膨大な数の商品やサービスが手に入るとき,何をどれだけ消費するかを消費者はどうやって決めているのだろうか,決定的に重要な本章では,まず一節を設けて,消費者行動に関する想定を明確に打ち出す.現場の教師が試した結果,学生にとってこの方法がきわめて効果的であることが明らかになっている.本章では,効用理論や消費者の予算制約といった概念も,明快だが厳密な形で紹介する.

第5章 個人の需要と市場の需要
本章では,消費者の選好から市場の需要曲線を導出する方法を示す.5.3節の「価格変化に対する消費者の需要量の変化を,所得効果と代替効果に分解する」では,学生がむずかしいと感じることの多いこのテーマを,細心の注意を払いながら説明していく,豊富な応用事例を示し,避けるべき落とし穴を論じることで,このテーマが身近で興味深いものになる.
第6章 生産者行動 どの投入物をどう組み合わせて生産するのか,企業はどのように決めているのだろうか.また,この決定が生産費用にどう影響しているのだろうか.本章では,消費者の章と同じように,最初に「企業の生産行動に関する単純化した想定」を明確に打ち出す.章の後半では,一節をまるまる使って,企業の長期的な生産性に技術変化が果たす役割について論じる.学生にとっては,いくつもの応用事例が「生きた教材」になる.(「ヤバい経済学」のコラムでは,携帯電話によってインドの漁師の生産者行動がいかに変わったかを取り上
げている).

第7章 費用 費用曲線は,企業の生産水準に応じて費用が変化する様子を描いたものであり,市場の供給曲線を導出するうえで重要である.機会費用とサンクコスト(埋没費用)はわかりづらい概念なので,冒頭でこれらの概念の区別と意思決定に果たすそれぞれの役割について丁度に説明する.スポーツジムの会員の種別と利用頻度の関係,映画会社が赤字覚悟で映画を制作する理由など,本章で取り上げる実例は学生にとって身近な話題であり,わかりづらいとされる概念への理解が深まるはずだ.

【第3部 市場と価格】
第8章 競争市場における供給 本章から市場構造に関する記述が始まる.競争市場がどのように機能しているかを説明するため,テキサス州の電力業界,マサチューセッツ州ボストンやノースダコタ州ファーゴの住宅市場など,現実の産業を取り上げる.事業から撤退すべきか否かの判断は,学生が混乱しやすいトピックであるが,これを注意深く明快に,粘り強く説明していく.

第9章 市場の支配力と独占 本章ではまず,市場支配力の源泉と,こうした支配力が企業の生産と価格決定に与える影響について包括的に論じる市場支配力を持つ企業が利潤を最大化する決定に至るプロセスを3段階に分けて考えることで,理解しやすくなる.マシュマロ製造のダーキー・ムーアやソーダ製造のドクター・ブラウンなど,独占に近い企業を例にして,独占的市場支配力の概念を現実に即して考える.また,サウスウエスト航空が運賃を引き下げて路線を拡大した例など,豊富な事例を取り上げることで,学生の興味をさらに引くものになっている.

第10章 市場の支配力と価格戦略 本章はきわめて現実に近く,有用な章であり,とくに企業で働いている人たちに訴えるはずである.企業が価格支配力を活用できる多様な状況を包括的に取り上げ,それぞれの状況で有効な価格戦略を明快に論じる.学生にとってとりわけ有用なのが,図10.1の「価格戦略の概観」と,「活用できる場合」と題した教育的な項目であり,価格戦略を有効に活用するために,市場や顧客について企業が最初に把握すべきことを説明している.

第11章 不完全競争 本章では,寡占企業および独占的競争企業に注目する.これらの企業は,完全競争企業や独占企業とは異なり,利潤を最大化しようとする競争相手の行動や戦略を考慮しなければならない.さまざまな不完全競争モデルを理解してもらうため,各節の冒頭で「モデルの想定」を設け,モデルにあてはまる条件を列挙している.

第12章 ゲーム理論 ゲーム理論のツールは,企業間の戦略的相互作用を説明し,市場への影響を予測するために活用される.本書ではチェック法を使ってゲームを単純化し,ナッシュ均衡と支配/被支配戦略が一目でわかるようにしているので,ゲーム理論の分析は理解しやすいはずだ.サッカーのペナルティーキックにはじまり,有名人のワインづくり,航空会社の新規参入への対応,映画の「博士の異常な愛情」にいたるまで豊富な話題は,ゲーム理論がビジネスだけでなく日常の意思決定に役立つことを示している.

【第4部 基礎から応用へ】
第13章 投資,時間,保険 長期のリスクや不確実性の役割を理解すると,個人や企業は,投資や保険についてより良い経済判断ができるようになる.企業や消費者が日々直面する多くの意思決定において,現在費用,将来価値,時間,不確実性が大きな役割を果たしていることを明確に論じる.これらのテーマを1つの章にまとめて簡潔に論じている点が,本書の閲読者に高く評価された.

第14章 一般均衡 本章では,一国の経済が効率的に機能するための条件について分析する.一般均衡の概念は,需要・供給の枠組みの延長線上で直観的に説明できる.具体例として,教員の質の低下や,住宅市場と労働市場の相互作用を取り上げる交換,投入,生産効率の関係についても説明をくわえ,それらを厚生経済学の定理につなげる.

第15章 情報の非対称性 これまでの章で市場が効率的に機能するのに必要な条件をみたのに続いて,本章では市場が効率的に機能しない状況に注目する.本章では,取引の関係者問で情報が等しく共有されない場合に,市場が歪むことをあきらかにする.ここでも自動車保険から不動産取引,海賊に至るまで幅広い事例を取り上げることで,ミクロ経済学で学ぶ概念が生活のさまざまな分野で役立つことを示していく.

第16章 外部性と公共財 本章でも引き続き市場の失敗を考察する.取引が買い手でも売り手でもない人々に影響を与える場合,市場に何が起きるのか,逆に,ある財の便益が同時に多くの人々に共有される場合,何が起きるのかに注目する.本章を読めば,なぜ外部性が起きるのか,どうすれば解決できるのかがわかるはずだ(排出権取引やコースの定理について取り上げている).公共財に関する記述では,消防署の建設が火災を誘発しかねない理由をあきらかにする.

第17章 行動経済学と実験経済学 近年の行動経済学の台頭は,従来のミクロ経済学に疑問を投げかけている.行動経済学は,人間が既存の理論どおりに行動しないのではないかと考えている.この疑問に関して,中級ミクロ経済学の教科書はむずかしい立場に置かれる.行動経済学を信奉すれば,教科書で学んだ手法を軽視することになりかねないからだ.
行動経済学について述べた本章では,不合理な世界で合理的に考える方法を示す.誰かが経済的に不合理な決定をすれば,他の市場参加者はその不合理に乗じて自分に有利になるよう行動する(どういう状況で間違いを犯しやすいかを示す).

閲読者への謝辞

下記の本書の閲読者,フォーカス・グループの参加者,その他のコンサルタントの提言やアドバイスに感謝する〔氏名のアルファベット順〕.

Senyo Adjibolosoo, Point Loma Nazarene University
David Anderson, Centre College
Anthony Andrews, Governors State University
Georgeanne Artz, Iowa State University
Kevin Beckwith, Salem State University
Scott Benson, Idaho State University
Tibor Besedes, Georgia Institute of Technology
Volodymyr Bilotkach, Newcastle University
David Black, University of Delaware
Victor Brajer, California State University-Fullerton
John Brock, University of Colorado Colorado Springs
Keith Brouhle, Grinnell College
Bruce Brown, California State Polytechnic University-Pomona
Byron Brown, Michigan State University
Donald Bumpass, Sam Houston State University
Paul Byrne, Washburn University
Benjamin Campbell, The Ohio State University
Bolong Cao, Ohio University
Shawn Carter, Jacksonville State University
Fwu-Ranq Chang, Indiana University-Bloomington
Joni Charles, Texas State University-San Marcos
Ron Cheung, Oberlin College
Marcelo Clerici-Arias, Stanford University
John Crooker, University of Central Missouri
Carl Davidson, Michigan State University
Harold Elder, University of Alabama
Tisha Emerson, Baylor University
Michael Enz, Framingham State University
Brent Evans, Mississippi State University
Haldun Evrenk, Boston University
Li Feng, Texas State University
Chris Ferguson, University of Wisconsin-Stout
Gary Fournier, Florida State University
Craig Gallet, California State University-Sacramento
Linda Ghent, Eastern Illinois University
Alex Gialanella, Manhattanville College
Lisa Giddings, University of Wisconsin-La Crosse
Kirk Gifford, Brigham Young University
Darrell Glaser, United States Naval Academy
Tuncer Gocmen, Shepherd University
Jacob Goldston, University of South Carolina
Julie Gonzalez, University of California Santa Cruz
Darren Grant, Sam Houston State University
Chiara Gratton-Lavoie, California State University-Fullerton
Thomas Grennes, North Carolina State University
Philip Grossman, Monash University
Steffen Habermalz, Northwestern University
Jennifer Hafer, University of Arkansas
James Halteman, Wheaton College
David Hammes, University of Hawaii at Hilo
Mehdi Haririan, Bloomsburg University
Daniel J. Henderson, University of Alabama
Paul Hettler, California University of Pennsylvania
Tia Hilmer, San Diego State University
Gary Hoover, University of Alabama
Jack Hou, California State University-Long Beach
Greg Hunter, California State University-Pomona
Christos A. loannou, University of Southampton
Miren Ivankovic, Anderson University
Olena Ivus, Queen’s University
Michael Jerison, State University of New York-Albany
Bruce K. Johnson, Centre College
Daniel Johnson, Colorado College
Leo Kahane, Providence College
Raja Kali, University of Arkansas
Pari Kasliwal, California State University-Long Beach
John W. Keating, University of Kansas
Russell Kellogg, University of Colorado Denver
Chris Kennedy, George Mason University
Rashid Khan, McMaster University
Vasilios D. Kosteas, Cleveland State University
Carsten Lange, California State Polytechnic University, Pomona
Jeffrey Larrimore, Georgetown University
Sang Lee, Southeastern Louisiana University
Daniel Lin, American University
Qihong Liu, University of Oklahoma
Jeffrey Livingston, Bentley University
Kristina Lybecker, Colorado College
Guangyu Ma, State University of New York-Buffalo
Teny Maghakian, University of California-Merced
Arindam Mandal, Siena College
Justin Marion, University of California Santa Cruz
Timothy Mathews, Kennesaw State University
Ata Mazaheri, University of Toronto-Scarborough
John McArthur, Wofford College
Naranchimeg Mijid, Central Connecticut State University
Lijia Mo, Kansas State University
Myra Moore, University of Georgia
Tamah Morant, North Carolina State University
Thayer Morrill, North Carolina State University
Felix Munoz Garcia, Washington State University
Kathryn Nantz, Fairfield University
Pascal Ngoboka, University of Wisconsin-River Falls
Hong V. Nguyen, University of Scranton
Michael Nieswiadomy, University of North Texas
Matthew J. Notowidigdo, The University of Chicago
Constantin Ogloblin, Georgia Southern University
Alex Olbrecht, Ramapo College of New Jersey
Heather O’Neill, Ursinus College
June O’Neill, Baruch College, City University of New York
Patrick O’Neill, University of North Dakota
Alexei Orlov, Radford University
Lydia Ortega, San Jose State University
Emily Oster, The University of Chicago
Orgul Ozturk, University of South Carolina
Alexandre Padilla, Metropolitan State University of Denver
James Payne, University of South Florida
Anita Alves Pena, Colorado State University
Marie Petkus, Centre College
Jeremy Petranka, University of North Carolina-Chapel Hill
Barry Pfitzner, Randolph-Macon College
Brennan Platt, Brigham Young University
James Prieger, Pepperdine University
Samuel Raisanen, Central Michigan University
Rati Ram, Illinois State University
Ryan Ratcliff, University of San Diego
Marie Rekkas, Simon Fraser University
Michael Reksulak, Georgia Southern University
Malcolm Robinson, Thomas More College
Juliette Roddy, University of Michigan-Dearborn
Brian Rosario, American River College
Nicholas Rupp, East Carolina University
Robert Rycroft, University of Mary Washington
Shane Sanders, Western Illinois University
Sudipta Sarangi, Louisiana State University
Tom Scheiding, Cardinal Stritch University
Helen Schneider, University of Texas-Austin
Barbara Schone, Georgetown University
Kathleen Segerson, University of Connecticut
Quazi Shahriar, San Diego State University
Carl Shapiro, University of California-Berkeley
Alexandre Skiba, University of Wyoming
Rachael Small, University of Colorado at Boulder
Christy Spivey, University of Texas-Arlington
Kevin Stange, University of Michigan
Lee Stone, State University of New York-Geneseo
David Switzer, St. Cloud State University
Ellen Szarleta, Indiana University-Northwest
Kerry Tan, Loyola University Maryland
Gwendolyn Tedeschi, Manhattan College
Jeremy Thornton, Samford University
Irene Trela, Western University
Regina Trevino, Loyola University-Chicago
Brian Trinque, University of Texas-Austin
Victoria Umanskaya, University of California-Riverside
Michael Vaney, University of British Columbia
Jennifer VanGilder, Ursinus College
Jose Vazquez, University of Illinois at Urbana-Champaign
Annie Voy, Gonzaga University
Bhavneet Walia, Western Illinois University
Joann M. Weiner, The George Washington University
Jeanne Wendel, University of Nevada-Reno
Benjamin Widner, New Mexico State University
Keith Willet, Oklahoma State University
Beth Wilson, Humboldt State University
Catherine Wolfram, University of California-Berkeley
Peter Wui, University of Arkansas-Pine Bluff
Erik Zemljic, Kent State University

スティーヴン・レヴィット (著), オースタン・グールズビー (著), チャド・サイヴァーソン (著), 安田 洋祐 (翻訳), 高遠 裕子 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2017/4/21)、出典:出版社HP

学術面での助言者への謝辞

Linda Ghent (Eastern Illinois University) には大変お世話になった.彼女は,学術面での エディターであり,優秀なエコノミストであり,天性の教師でもある.文章から構成,図表にいたるまで,本書のかなりの部分に彼女の意見が反映されている.着想を得てから最終的に本として完成するまで,良い教科書にしようと献身的に協力してくれた.彼女の助言は何物にも代えがたく,共同作業をするのは本当に楽しかった.

Alan Grant (Baker College)は章末の問題を作成してくれた.本文の内容を問うだけでなく,理解を深めてくれる問題になっている. Scott Houser (Colorado School of Mines)と Anita Pena (Colorado State University)は微分の項目を整え, Skip Crooker と Kristina Lybeckerと共に,本書を幅広い教員や学生に役立つものにするために多くの手助けをしてくれ
た.

先がなかなか見通せないとき,頼れる人たちがいて,積極的に関わり貴重なアドバイスをく れたのは幸運だった. Tibor Besedes (Georgia Institute of Technology) , Lisa Giddings (University of Wisconsin-La Crosse) , Alan Grant (Baker College), Scott Houser (Colorado School of Mines) , Kristina Lybecker (Colorado College), Naranchimeg Mijid (Central Connecticut State University), Kathryn Nantz (Fairfield University) , Anita Alves Pena (Colorad State University) , Jeremy Petranka (University of North Carolina-Chapel Hill) , Sudipta Sarangi (Louisiana State University), Jennifer VanGilder (Ursinus College), Annie Voy (Gongaza University) の各氏に感謝申し上げる.

草稿段階の本書をいち早く使ってくれた, Lisa GiddingsとAnnie Voyの受講者にはとくに感謝している.本書の核となる章には,彼らの経験が生かされている.

鷹の目のような鋭さで本書全体をチェックしてくれたMichael Reksulak (Georgia Southern University)にはとくに御礼申し上げたい,細部にまで行き届いた仕事のおかげで,文章が整い,読みやすくなり,理解しやすくなった.Michaelは800メートル先のタイプミスでも見つけられる,誰もがその恩恵を受けている.

出版関係者への謝辞

本書が形になるまで多大な尽力をしてくれた,クリエイティブな人々に大いに感謝したい. 何年も前に著者の1人であるAustanのドアをノックし,道筋をつけてくれたのは,当時ワー ス(Worth)社の経済学担当編集者だったCraig Bleyerだ.Craigは,経営陣のElizabeth Widdicombe, Catherine Woodsの支持を得て,本書のための専門チームを組んでくれた. Craigが別の部署に移ると,後を引き継いだCharles Linsmeieは,編集者として考え抜いたう えで方向性を示し,全体を見通すために必要な手助けをしてくれた.

チームのメンバーは,それぞれにユニークな才能と視点を提供してくれた.ワース社の有能 で実績のある経済学担当エディターのSarah Dorgerは,高い専門性と並々ならぬ情熱をもって本書の進行を管理してくれた.3人の著者と編集者や閲読者,コンサルタントらと何度もやり取りを繰り返し,練り上げていくなかで,彼女の大車輪の活躍と常人にはない忍耐があったから こそ,脱線せずにまとめあげることができた.

制作エディターのJane Tuftsは,これまで経済学の代表的な教科書の編集をいくつか手掛けている.本書のすべての要素,すべてのページに,彼女のクリエイティビティが生かされている.学生の気持ちを本当の意味で理解し,学生の立場に立って原稿を読めるという比類ない才能の持ち主の彼女が最初に草稿に目を通し,貴重な助言をくれたおかげで,読みやすく,魅力的な学生本位の教科書に仕上がった.

ワース社の制作エディターで,確かな知性と優れた判断力を持つBruce Kaplanは,広範な制 作プロセスを穏やかにてきぱきと仕切ってくれた.彼の指示を受けたアシスタント・エディターのMary Melisによって,われわれの草稿は,疲れを知らないプロダクション・チームに引き渡された, Melissa Pelleranoは,プロセス全体を通してしっかりサポートしてくれた.

シカゴ大学では,とくにErin Robertsonのアシストがなければ,途方にくれるところだった.経験を生かして,リサーチ,編集,校正,出版社との連絡全般にわたって助けてくれた. 彼女が自分の本を出す準備は万全だ!

本書を読者に届けるために知恵を絞り,支えてくれたワース社の多くの関係者に感謝申し上 げる. Tracey Kuehn, Barbara Seixas, Lisa Kinneは,当初の企画段階から最後まで基本的な 方向性を示してくれた,度重なる締切破りとハリケーン・サンデーの後,Rob Erreraは,きめ 細かに目配りしながら,制作プロセス全般を見守ってくれた,注意深い目をもった,コピー・ エディターのPatti Brechtにも感謝している.デザイナーのKevin Kallは, その独創的な装丁で,本書を一般的な中級の教科書とは一線を画すものにしてくれた. Ted SzczepanskiとElyse Riederは,各章ごとに,面白くて興味をそそる写真を探してくれた.明快で有用なグラフの原図を描いてくれたGreg Ghentにも特段の感謝をおくりたい.

中級ミクロ経済学は,教師と学生が自ら作りあげるコースであり,教室の内外での学習を充 実させるため,質の高い指導要領や学習の手引きには高いニーズがある. ワース社のメディ ア・補助教材担当エディターのLukia KliossisとJaclyn Ferryは,教師にも学生にも役立つ画期的なツールを提供するために尽力してくれた.本当に役立つメディアや補助教材というプラン を現実にものにしてくれたLukiaにはとりわけ感謝したい,彼女をはじめ同僚のStacey Alexander, Edgar Bonilla, Ashley Josephが形にしてくれた補助教材は,教師にとっても学生にとっても,中級ミクロ経済学のコースを充実したものにしてくれるはずだ.

初版のマーケティングには,特別なむずかしさとチャンスがあるが,ワース社のマーケティ ング・チームは,クリエイティビティを発揮しながら熱心に取り組んでくれた. Paul Shensa の知性と経験は何物にも代えがたく,彼がナビゲートしてくれたおかげで,教師や学生の幅広いニーズを知ることができた. Steve RigolosiとScott Guileが制作プロセス全般にわたってマーケティングに緻密な方向性とひらめきを与えてくれたことで,本書は一段と有用なものになった.おかげで熱い市場にうまく参入できた.その間,大いに励まし,専門家としての調整力を発揮しながら,テストとレビューをきめ細かに取りまとめてくれたKerri Russiniにも御礼申し上げたい.

最後に

われわれの仕事を絶えず応援し,感謝を伝えることができないほど忙しいときでも支えてく れる,それぞれの家族に心からありがとうと伝えたい.
結局のところ,教科書はあくまでツールにすぎないのであって,学生が授業やそれ以外の場 で互いに学び合うことを補助するものだ.本書をきっかけに,学習を続け,いずれは経済学を 使いこなせるようになってくれることを願っている.

オースタン・グールズビー
Austan Goolsbee

スティーヴン・レヴィット
Steven Levitt

チャド・サイヴァーソン
Chad Syverson

スティーヴン・レヴィット (著), オースタン・グールズビー (著), チャド・サイヴァーソン (著), 安田 洋祐 (翻訳), 高遠 裕子 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2017/4/21)、出典:出版社HP

「レヴィットミクロ経済学』総目次

序文

第1部 基礎概念
第1章 ミクロ経済学の冒険
第2章 需要と供給
第3章 需要と供給のツールを使って市場を分析する

第2部 消費と生産
第4章 消費者行動
第5章 個人の需要と市場の需要
第6章 生産者行動
第7章 費用

第3部 市場と価格
第8章 競争市場における供給

以上,基礎編

第9章 市場の支配力と独占
第10章 市場の支配力と価格戦略
第11章 不完全競争
第12章 ゲーム理論

第4部 基礎から応用へ
第13章 投資,時間,保険
第14章 一般均衡
第15章 情報の非対称性
第16章 外部性と公共財
第17章 行動経済学と実験経済学

以上,発展編

レヴィットミクロ経済学 基礎編――目次

監訳者序文
序文

第1部 基礎概念
第1章 ミクロ経済学の冒険
1.1 ミクロ経済学の枠組み(およびそれがロサとローレンについて教えてくれること)
■ミクロ経済学のツールを学ぶ
【ヤバい経済学】トーマス・スウェイツのトースター
■ミクロ経済学のツールを活用する
【これで合格】他の条件はすべて不変とする
1.2 部別にみた本書の構成(およびロサとローレンの見方)
■消費者の決定と生産者の決定
【応用】ミクロ経済学を学んで賢くネットオークション
■市場の供給
■基礎から応用へ
■データにフォーカスする
【理論とデータ】経済学を学ぶことのメリット
■さぁ,楽しく学ぼう!
まとめ
復習問題

第2章 需要と供給
2.1 市場とモデル
■市場とは何か
■需要・供給モデルを支える主な仮定
2. 2 需要
■需要に影響を与える要因
■需要曲線
■需要曲線のシフト
【理論とデータ】嗜好の変化とタバコの需要
■需要に影響を与える要因のなかで,価格だけが特別扱いされるのはなぜか
2. 3 供給
■供給に影響を与える要因
■供給曲線
■供給曲線のシフト
■供給でも価格が特別扱いされるのはなぜか
2.4 市場均衡
■均衡の等式
【これで合格】均衡点で供給量と需要量は等しくなるか
■なぜ市場は均衡に向かうのか
【2.1 解いてみよう】
■需要曲線のシフトの影響
【2.2 解いてみよう】
【ヤバい経済学】名声の値段――オバマ大統領とパパラッチ
■供給曲線のシフトの影響
【2.3 解いてみよう】
■需要曲線および供給曲線のシフトの影響のまとめ
【応用】供給曲線のシフトと1983年のビデオゲーム市場の崩壊
【2.4 解いてみよう】
【これで合格】曲線がシフトしたのか,曲線上を動いただけなのか
■価格と数量の変化の大きさを決める要因は何か
【応用】住宅の供給曲線と住宅価格――2つの都市の物語
■需要曲線と供給曲線が同時にシフトするときの市場均衡の変化
2.5 弾力性
■傾きと弾力性は同じではない
■需要と供給の価格弾力性
■価格弾力性と価格感応度
【応用】需要弾力性と代替財の入手可能性
■弾力性と線形の需要・供給曲線
【2.5 解いてみよう】
■完全非弾力的な需要・供給と完全弾力的な需要・供給
■需要の価格弾力性,支出,売上げ
■需要の所得弾力性
■需要の交差価格弾力性
【2.6 解いてみよう】
2.6 結論
まとめ
復習問題
演習問題

第3章 需要と供給のツールを使って市場を分析する
3.1 消費者余剰と生産者余剰――市場で得をしているのは誰か
■消費者余剰
■生産者余剰
【3.1 解いてみよう】
【応用】イノベーションの価値
【応用】近視の人にとって,レーシック手術の価値とは
■市場環境の変化によって生じる損得
【応用】9.11同時多発テロが航空業界に与えた打撃
【3.2 解いてみよう】
3.2 価格規制
■上限価格規制
■下限価格規制
3.3 数量規制
■数量割当
■政府による財やサービスの供給
【理論とデータ】公的医療保険は民間医療保険をクラウドアウトするのか
3.4 税金
■税金が市場に及ぼす影響
■なぜ税金は死荷重を生み出すのか
■なぜ大型税は小型税より悪いのか
■租税帰着(税負担) ——納税主体は問題ではない
【これで合格】死荷重を正確に計算しただろうか
【3.3 解いてみよう】
3.5 補助金
【応用】黒液の抜け穴のコスト
【3.4 解いてみよう】
【ヤバい経済学】経済的なインセンティブで子どもを産む気にさせられるのか
3.6 結論
まとめ
復習問題
演習問題

第2部 消費と生産

第4章 消費者行動
4.1 消費者選好と「効用」という概念
■消費者選好に関する想定
■効用という概念
■限界効用
■効用と比較
4.2 無差別曲線
■無差別曲線の特性
【これで合格】概念を本当の意味で理解するために,いくつか無差別曲線を描いてみよう
■限界代替率
【ヤバい経済学】ミネソタの住民には紫の血が流れているのか
■限界代替率と限界効用
■無差別曲線の傾き
【4.1 解いてみよう】
【理論とデータ】電話サービス利用者の無差別曲線
■無差別曲線の湾曲度——代替財と補完財
【4.2 解いてみよう】
【応用】「バッズ」(bads) の無差別曲線
4.3 消費者の所得と予算制約線
■予算制約線の傾き
■予算制約線をシフトさせる要因
【4.3 解いてみよう】
■一般的でない予算制約線
4.4 効用,所得,価格の組み合わせ――消費者は何を消費するか
■消費者の最適化問題を解決する
【4.4 解いてみよう】
■効用最大化が意味するもの
【理論とデータ】電話サービス利用者の無差別曲線,再論
■特殊なケース――コーナー解(端点解)
【4.5 解いてみよう】|
■消費者問題の代替的な解法――支出の最小化
4.5 結論
まとめ
復習問題
演習問題
第4章補論 効用最大化および支出最小化の微分
■消費者の最適化問題
■限界代替率と限界効用
■効用最大化
■ラグランジュ式を使った効用最大化
【4A.1 解いてみよう】
■支出最小化
演習問題

第5章 個人の需要と市場の需要
5.1 所得の変化が個人の消費選択に及ぼす影響
■正常財と下級財
■所得弾力性と財の種類
■所得消費曲線
■エンゲル曲線
【応用】エンゲル曲線と住宅の大きさ
【5.1 解いてみよう】
5.2 価格変化が消費選択に及ぼす影響
■需要曲線を導き出す
■需要曲線のシフト
【ヤバい経済学】動物もセールがお好き
【5.2 解いてみよう】
5.3 価格変化に対する消費者の需要量の変化を,所得効果と代替効果に分解する
■代替効果を切り離す
■所得効果を切り離す
【これで合格】価格変化による代替効果と所得効果を計算する
■総効果
■代替効果と所得効果の大きさを決定する要因
【5.3 解いてみよう】
【応用】後方屈曲型の労働供給曲線と余暇の所得効果
【理論とデータ】プロゴルファーの後方屈曲型供給曲線
■下級財の所得効果の例
■ギッフェン財
【応用】ギッフェン財を探して
【これで合格】所得効果と代替効果について,おぼえておくべきシンプルなルール
5.4 他の財の価格変化が,ある財の需要量に及ぼす影響――代替財と補完財
■代替財の価格変化
■無差別曲線の形状,再論
【応用】映画館とホームシアター――代替財か補完財か
5.5 個人の需要曲線を結合して,市場の需要曲線をつくる
■市場の需要曲線
■数式を使って市場全体の需要量を求める
【これで合格】需要曲線を垂直ではなく水平に足す
【5.4 解いてみよう】
5.6 結論
まとめ
復習問題
演習問題
第5章補論 所得効果および代替効果の微分
【5A.1 解いてみよう】
演習問題

第6章 生産者行動
6.1 生産の基本
■企業の生産行動に関する想定を単純化する
【応用】現実の企業はつねに費用を最小化しているか
■生産関数
6.2 短期の生産
■限界生産物
■平均生産物
【6.1解いてみよう】
【応用】短期はどのくらい短いか
6.3 長期の生産
■長期の生産関数
6.4 企業の費用最小化問題
■等生産量曲線
■等費用曲線
【6.2 解いてみよう】
■最小費用を見極める――等生産量曲線と等費用曲線を結合する
■費用最小化グラフによるアプローチ
【6.3 解いてみよう】
■投入物価格の変化
【理論とデータ】病院の投入物の選択とメディケアの払戻しルール
6.5 規模に関する収穫
■規模に関する収穫に影響を与える要因
【これで合格】生産関数の規模に関する収穫を確認する方法
【6.4解いてみよう】
6.6 技術変化
【応用】米国製造業の技術変化
【ヤバい経済学】インドの漁師が携帯電話を手放せないわけ
6.7 企業の生産拡張経路と総費用曲線
6.8 結論
まとめ
復習問題
演習問題
第6章補論 費用最小化の微分
■労働の限界生産物と技術的限界代替率
■微分を使った費用最小化
【6A.1 解いてみよう】
■企業の生産拡張経路
【6A.2 解いてみよう】
演習問題

第7章 費用
7.1 意思決定に関係する費用——機会費用
【応用】本業を休止して大金を稼ぐ――機会費用に関する教訓
【7.1 解いてみよう】
【ヤバい経済学】テストへの支払い——カンニングの経済学
7.2 意思決定に関係しない費用——サンクコスト
■サンクコストと意思決定
【理論とデータ】スポーツジム会員
【応用】映画会社は赤字確実の映画をなぜつくるのか
7.3 費用と費用曲線
■固定費用
■可変費用
■融通性と固定費用対可変費用
■費用曲線を導き出す
■固定費用曲線
■可変費用曲線
■総費用曲線
7.4 平均費用と限界費用
■平均費用の測定
■限界費用
【7.2解いてみよう】
■平均費用と限界費用の関係
【7.3解いてみよう】
7.5 短期費用曲線 対 長期費用曲線
■短期の生産と総費用曲線
■短期の平均総費用曲線 対 長期の平均総費用曲線
【7.4解いてみよう】
■短期の限界費用曲線 対 長期の限界費用曲線
7.6 生産過程における経済性
■規模の経済
■規模の経済対規模に関する収穫
【7.5解いてみよう】
【応用】規模の経済とベーコン製造
■範囲の経済
■範囲の経済はなぜ生じるのか
7.7 結論

第3部 市場と価格

第8章 競争市場における供給
8.1 市場構造と短期の完全競争
■完全競争
■価格受容者からみた需要曲線
8.2 完全競争市場における利潤最大化
■総収入,総費用,利潤最大化
■完全競争下の企業はどのように利潤を最大化するか
【応用】企業はつねに利潤を最大化しているか
■企業の利潤を測る
【8.1 解いてみよう】
【8.2 解いてみよう】
【これで合格】3つの曲線の話
8.3 短期の完全競争
■完全競争市場における企業の短期供給曲線
【応用】電力会社の供給曲線
■完全競争産業の短期供給曲線
【応用】原油の短期供給曲線
■競争企業の生産者余剰
■生産者余剰と利潤
■競争産業の生産者余剰
【8.3解いてみよう】
【応用】発電事業における産業全体の短期供給曲線と生産者余剰
8.4 長期の完全競争産業
■参入
■退出
■産業の長期供給曲線をグラフ化する
【理論とデータ】市場における参入と退出の実際——住宅用不動産
【ヤバい経済学】そう単純ではない「恐喝」の経済学
■長期均衡間の調整
【応用】トウモロコシの需要拡大
【8.4 解いてみよう】
■費用一定・費用逓増・費用逓減産業の長期供給
8.5 生産者余剰,経済的レント,経済的利潤
■完全競争下の費用格差と経済的レント
8.6 結論
まとめ
復習問題
演習問題

用語集

スティーヴン・レヴィット (著), オースタン・グールズビー (著), チャド・サイヴァーソン (著), 安田 洋祐 (翻訳), 高遠 裕子 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2017/4/21)、出典:出版社HP

レヴィット ミクロ経済学 発展編

気鋭の研究者レヴィットのミクロテキスト(発展)

既にでているレヴィット ミクロ経済学 基礎編の続編の形となります。こちらではゲーム理論などや行動経済学のトピックも含めており、最新のミクロトピックまでカバーしております。この2つの章だけでも最新のミクロ経済学の知識の土台をつくることができます。

Steven Levitt (原著), Austan Goolsbee (原著), Chad Syverson (原著), スティーヴン レヴィット (著), オースタン グールズビー (著), チャド サイヴァーソン (著), 安田 洋祐 (翻訳), 高遠 裕子 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2018/1/26)、出典:出版社HP

オースタンから
何年も前に出会った憧れの少女に,結婚してくれてありがとう.

スティーヴンから
愛しのジェニーに,愛と感謝をこめて,

チャドから
妻のジェナと3人の子どもたちクレア,アダム,ヴィクトリアに,愛をこめて.

3人から
シカゴ大学に,そこは,ただ経済学を学ぶだけではなく,日々,実践する場である.シカゴ大学がなければ,経済学の世界もわれわれも,今とはまるで違っていただろう.

Original Title:
MICROECONOMICS
by Austan Goolsbee, Steven Levitt, and Chad Syverson

First published in the United States by Worth Publishers Copyright © 2013 by Worth Publishers
All rights reserved.

Japanese translation published by arrangement with Worth Publishers, a division of Bedford, Freeman and Worth Publishers LLC through The English Agency (Japan) LTD.

監訳者序文

ミクロ経済学に待望の中級テキストが刊行された! スティーヴン・レヴィット,オースタン・グールズビー,チャド・サイヴァーソンという,シカゴ大学が誇る三人のスター教授たちによるMicroeconomics (Worth Publishers, 2013)である.本書『レヴィットミクロ経済学』はその邦訳で,原書が700ページ以上の大ボリュームのため,読者の使いやすさを配慮して基礎編と発展編の2冊に分けて刊行することにした.

『レヴィット ミクロ経済学』の最大の特徴は,初学者でもこれ一冊で「使えるミクロ経済学」がマスターできることにある,経済学の前提知識が無くても,独学で中級レベルのミクロ経済学の使い方をきちんと身につけることができるように,随所で工夫がされている.もちろん,初学者だけでなく,入門書では物足りない読者や中級テキストに挫折してしまった学生が,ミクロ経済学をきちんと学び直すのにもぴったりだミクロ経済学の理論をビジネスに活かしたいと考えている社会人,ビジネススクールの学生にも強くお薦めしたい.

実は,ミクロ経済学の分野では,定評ある初級の入門書はすでに何冊も出版されている.特に,洋書はどれも記述が丁寧で,マンキュー,スティグリッツ,クルーグマンなどに代表されるように,文字どおりゼロから学べるテキストが充実している.こうした良書の共通点は,ほとんど数式を使わず,身近なケースをたくさん用いて,鍵となる考え方を繰り返しわかりやすく説明していることにある.しかし,中級レベルのテキストになると,途端に理論重視で無味乾燥な内容になり,詳しい説明もなく,数式や小難しい(ように見える)概念が次から次へと出てくることが珍しくない.さらに,そこで登場する数理的なテクニックが,どのような形で経済学の実践に役に立つのかを示す具体的な実例が紹介されることもほとんどない.これでは,苦労してまで中級レベルの内容を勉強しようとするモチベーションが湧きにくいだろうし,せっかくコアとなる理論を身につけても宝の持ち腐れになってしまう.事例が豊富で数式がほとんどない初級テキストと,数式ばかりで事例のない中級テキストとのギャップを埋めるテキストが,長らく求められていたのである.

本書は,まさにこの初級と中級のギャップを埋める,画期的な中級テキストとなっている.類書でほとんど触れられていない,現実の事例や理論の使い方については,「理論とデータ」「応用」のセクションで,様々な実証研究やデータなどを取り上げることでカバーしている.さらに「ヤバい経済学」のセクションがあるおかげで,常識はずれな経済学の活用法を知ることができると同時に読み物としても楽しめる,というのも他のテキストにはない大きな魅力だろう.では,中級テキスト最大の泣きどころとも言える,数学の多用についてはどうだろうか,残念ながら,入門から一歩進んだ本格的なミクロ経済学をマスターするためには,数式やグラフの理解は欠かすことができない,なぜかと言うと,入門書でおなじみの「言葉による説明」だけでは,内容が漠然としすぎていて,具体的な個々の問題に対して答えを導くことが難しいからだ,そのため,本文をパラパラと眺めれば明らかなように,本書でも数式やグラフはかなり頻繁に登場する.ただし,式の展開やグラフの意味などが懇切丁寧に説明されているので,数学が苦手な人でも心配することはない,途中のプロセスを一切省略することなく,ここまで細かく手を抜かずに,数学について解説した経済学の中級テキストはなかなかない,この非常に丁寧でわかりやすい数学の説明の仕方こそが,独学で「使えるミクロ経済学」の修得を可能にする,本書最大のカラクリと言えるだろう.

余談ではあるが,数式を使いながらわかりやすさも損なわず,「かゆいところに手が届く」書き方になっている要因は,著者の一人であるスティーヴン・レヴィット教授が学生時代に数学を苦手としていたからではないだろうか.彼の代表作『ヤバい経済学(増補改訂版)』によると,大学時代に一つしか数学の授業を取らなかったレヴィットは,MIT(マサチューセッツ工科大学)博士課程の最初の授業で隣に座った学生に,学部レベルで知っておくべき初歩的な数式の記号の意味を聞いて周囲を驚かせたらしい,当時のクラスメートで本書の共著者でもあるオースタン・グールズビー教授によると,周りは彼を見限り「あいつ,おしまいだな」などと囃していたという(そこからレヴィットは独自の道を切り開き,ノーベル賞の登竜門と言われるジョン・ベイツ・クラーク賞を受賞するほどのスター経済学者となるのだから,人生は面白い!).自身の体験を通じて,数学の苦手な学生がどこでつまずくのかを熟知していたレヴィット教授だからこそ,先回りして,読者のかゆいところに手を差し伸べることができたのかもしれない.

さて,本書『レヴィット ミクロ経済学』は,昨年すでに原書の第2版が刊行されている.新版では新たに「第13章 要素市場」が追加されたほか,細かいアップデートが行われた.ただし,この第13章は,初版の第5章の一部の内容を移して1章分に拡張したものであり,見た目ほど大きな変更ではない,書籍全体を通じて,初版から大きく内容が変わっている点も特に見当たらない.なお,原文の意味や説明がわかりにくいところは,訳出の際に,こちらで読みやすいように少しだけ修正を加えてある,最新版の邦訳でないことを気にされる方がいるかもしれないが,ぜひ安心して本書を読み進めていただきたい.

最後に,本書の翻訳作業を引き受けてくださった翻訳家の高遠裕子氏と,編集作業でお世話になった東洋経済新報社の矢作知子氏に感謝したい,お二人のお陰で,中級レベルであるにもかかわらず,非常に読みやすいテキストとして本書を完成させることができた,高遠氏による,堅苦しさを感じない自然な日本語で訳出された『レヴィット ミクロ経済学』を手に,ぜひ一人でも多くの方に「使えるミクロ経済学」のマスターを目指してもらいたい.本書を読了すれば,きっと世界が今までとは違うように見えるはず!

2017年3月
大阪大学大学院経済学研究科准教授 安田 洋祐

Steven Levitt (原著), Austan Goolsbee (原著), Chad Syverson (原著), スティーヴン レヴィット (著), オースタン グールズビー (著), チャド サイヴァーソン (著), 安田 洋祐 (翻訳), 高遠 裕子 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2018/1/26)、出典:出版社HP

序文

ミクロ経済学は経済学の根幹を成すもので,経済学のあらゆる学派・分野に共通する基本的な知識で構成されている.ミクロ経済学はすこぶる役に立つものでもあって,企業や政府,そして個人が効率的な意思決定をするのに欠かせないツールを提供してくれる.ミクロ経済学の厳密性と有用性は,必ずや学生を惹きつけ,わくわくさせるはずであり,教科書はそれを後押しするものでなければならない,とわれわれは考えている.

なぜ本書なのか

本書の執筆にあたって目指したことが1つある.学生1人ひとりが,経済学の原理を学ぶだけにとどまらず,経済学者のように経済分析ツールを使いこなし,現実社会に応用できるようになってもらいたい,そのための手助けをしたいのだ.

われわれは中級ミクロ経済学の主要な教科書に目を通したうえで,それらとは違うものをつくりたいと考えた現在主流の教科書は,学生がミクロ経済学に対して抱いている2つの疑問に答えられていない,すなわち,個人や企業は理論どおりに行動しているのか,そもそもミクロ経済学の理論は現実に使えるのか,という疑問である.これらの疑問に対する答えを本書で探っていく.順番にみていこう.

個人や企業は理論どおりに行動しているか

ミクロ経済学の既存の教科書は,どれも標準的なツールと経済学の理論を提示し,事例を紹介している.だが,学生の素朴な疑問に答えることはなく,理論は正しいと頭から信じることを学生に期待している.理論が具体的にどう現実に応用できるのかが必ずしも効果的に示されていないのである.

さらに,現在主流の教科書は,応用ミクロ経済学の分野で急速に存在感を高めている実証研究に十分に追いついていない,理論を説明するだけでなく,その活用法を示し,それを支える現実のデータを提供するミクロ経済学の教科書があれば,学部やビジネススクールの学生も納得するのではないだろうか.われわれは,「理論とデータ」や「応用」のセクションを通じて,経済学者が現実のデータをどう活用して理論を検証しているかに注目しながら,理論の背後にある現実に迫っていく.本書では,こうした実証的側面を取り入れることによって,ミクロ経済理論で現実の行動を説明できることをしばしば意外な形で示し,理論のどの部分を修正する必要があるかをあきらかにする.

ミクロ経済学は現実に使えるのか

中級ミクロ経済学といえば抽象的で理論的なものである,といった見方が幅を利かせている.学生にはかなりの努力が求められるので,自分たちが学ぶことがなぜ役に立つのか,どう役に立つのかを知っておいてしかるべきだろう.それがわかっていないと,学ぶ意欲も湧いてこないというものだ.

ミクロ経済学の既存の教科書では,役に立つかどうかは二の次になっているが,われわれは「使える経済学」の教科書を書きたいと考えた正しく使えば,経済学はすこぶる役に立つ学問である.ビジネスに役立つのはもちろん,政策に生かすこともできるし,日常生活でも使うことができる.本書は,ミクロ経済学の理論と研究で,日常の出来事や市場の性格,企業戦略,政府の政策がどう説明できるのかをあきらかにすることで,ツールを身につけ,使いこなす方法を教示していく.

もう1つ言っておくべきことがある.理論と現実を結びつけ,ミクロ経済学がいかに使えるかを示すという目標も不完全で不正確な説明や,曖昧で退屈で味気ない書き方では叶えられない.われわれは,経済学的に考えることがいかに優美かつ強力で,役に立ち,現実に使えるかをわかりやすく伝えるため,現在進行形の目立つ実例,時に奇抜とも思える実例を取り上げ,明確な文体で記述するという方法をとるよう心がけた(奇抜な実例の一部は,スティーヴン・レヴィットが担当した「ヤバい経済学」というコラムに収めてある).

われわれ共著者のこと

われわれ三人は長年の友人である.中級ミクロ経済学の教科書を共同で執筆すると決めたとき,重要かつ実際的で多様な見方を持ち込みたいと考えた,三人はそれぞれ経済学部とビジネススクールで教えるかたわら,ミクロ経済学の実証研究に積極的に取り組んでいる.実証研究のさまざまな分野に軸足を置いていることで,過去20年問に検証され,洗練されてきた基本的な理論の根拠を示すことができる.教育と研究の成果を盛り込んだ本書の理論と応用は,他の教科書とは一線を画すものになったと自負している.

学部やビジネススクールで教える利点は他にもある.われわれが相手にしているのは,高い授業料に見合わない講義には容赦のない学生である.前述のように,学生は理論がどう使えるかを知りたがっている.われわれはこうした学生を念頭に本書を執筆した.

ミクロ経済理論をどう現実に結びつけるか

入念に検討された本書の構成に沿って学習を進めていけば,経済学の基本原理を理解し,それを応用して強力で明快な経済分析ツールを使いこなせるようになる.とくに事例の選択には時間をかけ,ごく一般的な事象に独自の視点を提供する事例や,学生にとって有意義かつタイムリーで広く関心のある事例を選ぶよう心がけた.

以下の3つのセクションでは,ミクロ経済学の理論を現実に結びつけ,目の前の現象を理解す
るうえで理論がいかに有用であるかを示す.

1. 理論とデータでは,経済研究を簡潔に紹介し,実例を用いて理論の背後にある現実をあき
らかにする.データの収集・分析が容易になった結果,ミクロ経済学では急激な変化が起きている.現在,ミクロ経済学の主要な研究では,ミクロ経済理論の根本は押さえつつ,データ,フィールドないし研究室での実験,そして実証に重きが置かれている.理論はつねに検証されるものだが,本書ではその成果を紹介する.
具体的には,以下のような事例を取り上げる.ゴルファーの後方屈折型労働供給曲線(第5章),新薬の潜在的市場を見極める(第9章),サウスウエスト航空の参入の脅威に対する既存の航空会社の反応(第12章),自動車盗難防止装置(ロジャック)の正の外部性(第16章).

2. 応用は各章に配され,消費者や生産者がミクロ経済理論を実際の意思決定に生かす方法を論じる.さまざまな出所のデータを活用しながら,理論をどう生かすかを示していく.
以下のような事例を取り上げる,ミクロ経済学を学んで賢くネットオークション(第1章),米国製造業の技術変化(第6章),映画会社は赤字確実の映画をなぜつくるのか(第7章),市場支配力がなければ価格差別できないことをプライスライン社はいかにして学んだか(第10章),サッカーにおけるランダムな混合戦略(第12章).

3. ヤバい経済学 軽い読み物の「ヤバい経済学」は,一般的な事象だけでなく,経済学の範疇に入らないとされる事象も経済的に分析できることを意外な形で示す.経済的センスを身につけてもらうのが,その狙いだ.単行本の『ヤバい経済学』〔スティーヴン・レヴィット,スティーヴン・ダブナーの共著,望月衛訳,増補改訂版,東洋経済新報社,2007年)で,経済学とは身のまわりのあらゆる事象を扱う学問であることを示したが,本書の「ヤバい経済学」のエッセイを読めば,常識はずれの出来事を理解するのにもミクロ経済理論が使えることがわかるだろう.
以下のような事例を取り上げる.トーマス・スウェイツのトースター(第1章),動物もセールがお好き(第5章),インドの漁師が携帯電話を手放せないわけ(第6章),ヴィクトリアズ・シークレット社の秘密ではない価格差別(第10章),(文字通り)世界の果てに,経済理論を検証しに行く(第17章).

ミクロ経済学をわかりやすく学ぶための工夫

経済学の教科書のわかりやすさには2つの要素が求められるが,本書はどちらも取り入れるよう工夫した.

■第1に,議論の厳密性や深さを損なうことなく,読みやすくわかりやすい文章を書くよう心がけた.強力で高度な理論だからといって,抽象的で乾いた文体で書いたり,難解な言葉を使ったりする必要はない.
■平易な文章でわかりやすく説明するのと同じくらい重要なのが,わかりやすいグラフで視覚に訴えることで,カラーを使い,簡潔に表示し,詳しい解説をつけることで,文章による説明を補い,より深く理解できるように配慮した.

ミクロ経済学への理解を深めてもらうための工夫

中級ミクロ経済学は難易度が高く,理論をしっかり頭に入れ,さまざまな状況に応用するのは簡単ではないが,以下の練習問題やエッセイが参考になるはずだ.

1. 練習問題「解いてみよう」閲読者やフォーカス・グループの参加者,試験的に講義を行った教師から繰り返し聞かされたのは,学生は学んだ知識をどう生かして問題を解けばいいかがわからない,という声だった.各章の本文中に,「解いてみよう」と題する練習問題を設けた,これらの細かい練習問題を粘り強く最後まで解いていけば,経済学のツールや分析を駆使して1つの問題を考え抜き,答えを導き出すプロセスをたどることができる.解答では,問題で何が求められているのかを正確に分析し,必要なツールを見極め,それらのツールを使って段階的に正解にたどり着く模範例を示した.「解いてみよう」の問題は,各章末の演習問題と関連づけられており,これを解いておけば,章末の演習問題はもちろん,小テストや試験にも十分対応できるようになる.

2. エッセイ「これで合格」は,学生が陥りやすい落とし穴を指摘し,ミクロ経済理論の微妙
でむずかしい点をうまく切り抜ける助けになるものだ.宿題やテストでよく出されるトピックについての実用的なアドバイスになっている.具体例としては,所得効果と代替効果について,おぼえておくべきシンプルなルール(第5章),それは正真正銘の価格差別なのか(第10章),チェック法(第12章)などがある.

3. 章末の「まとめ」と「問題」各章のおわりには,その章で学んだことを振り返り,身につくように「まとめ」,「復習問題」,「演習問題」を配した,すべての復習問題と一部の演習問題の解答は巻末に掲載しており,解答のある問題には*印をつけている〔本訳書では省略.http://store.toyokeizai.net/books/9784492315002に掲載〕.

本文中の「解いてみよう」と演習問題との関連性にも注意を払った,「解いてみよう」をしっかりやっておけば,演習問題は難なく解けるはずだ.それぞれの問題が,その章で扱った範囲の理解度を試すものになっているかどうか,大学の教師に徹底的に点検してもらったことを付け加えておきたい.

数学をどう扱うか

数学は経済分析の強力なツールであり,学生にはこれを自在に使いこなせるようにスキルを身につけてもらいたい,多様な学生の要請に応えて,各自にあった数学のスキルを生かし経済分析ができるよう後押しする教科書をつくったつもりだ.本書は幅広い用途に応じたものであり,副教材と併用すれば,標準的な代数と幾何だけを使う学習と,微分を取り入れた学習のどちらも可能である.

わかりやすい文章とグラフには,簡潔かつ網羅的で順を追った説明がつけてある,数式の各段階でなぜ,どうしてそうなるかが懇切丁寧に説明してあり,数学が苦手な学生にも,数式を使いこなせれば経済分析が容易になることがわかってもらえるはずだ.本文中では代数と幾何しか使っていないが,補論とネット上に公開している補論で微分を解説することで,理論や練習問題,応用に微分を取り入れることが可能になっている.

微分を使う読者へ

ミクロ経済学の一部のツールは微分を取り入れると使い勝手がよくなるため,「使える」教科書をつくるにあたって,ある程度,微分を採用することにした.どの程度取り入れるか,どう提示するかがむずかしい点だった.講義で微分を使っている教師と話し合うなかで,既存の教科書での微分の扱われ方に不満が多いことがわかった.理由はさまざまで,扱いが多すぎる,あるいは少なすぎるといったものから,微分が前面に出すぎて経済学そのものがわかりにくくなっているとか,微分を経済理論に取り込みすぎている.あるいは微分と経済理論がしっくり馴染んでいないといった不満もあった.本書の方向性を決めるうえで,微分の扱いをどうするかはむずかしい課題の1つだった.最終的にたどり着いた答えは,多くの人にとって「ちょうどいい」ものになったと自負している.

微分は「補論」として扱うことにしたが,本文と同様に語りかけるような文体で直観に訴える書き方を心がけた.補論でも事例を取り上げ,「解いてみよう」の問題を収録しているが,これらは,代数をもとにした本文中のものとほぼ同じである.そうすることで,微分を使った分析が代数を使った分析を補強するものであることを示す.学んだことを実際に試して身につけてもらうために,補論には微分を使わなければ解けない問題を収録してある.適度に微分を使う講義向けに,別に本書では5つの補論を用意した.より広範に微分を活用したい読者には,別にネット上で10の補論を公開している.

本文の記述と補論の記述を関連づけるために,本文に「注」をつけている.この注は,適切な補論を参照するよう注意を促し,概念を理解するために微分をどう使えばいいのか具体的に説明したものである.この注を読んで微分に慣れ,使いこなせるようになってもらいたい.

以下は,本書またはネット上で公開している補論のリストである.ネット上の補論はすべて以下のサイトで閲覧できる.
http://macmillanhighered.com/launchpad/gls2e

Steven Levitt (原著), Austan Goolsbee (原著), Chad Syverson (原著), スティーヴン レヴィット (著), オースタン グールズビー (著), チャド サイヴァーソン (著), 安田 洋祐 (翻訳), 高遠 裕子 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2018/1/26)、出典:出版社HP

本書に収録されている微分に関する補論

第4章 効用最大化および支出最小化の微分
第5章 所得効果および代替効果の微分
第6章 費用最小化の微分
第7章 企業の費用構造の微分
第9章 利潤最大化の微分

ネット上で公開している微分に関する補論〔英語のみ〕
第2章 均衡と弾力性の微分
第3章 消費者余剰と生産者余剰の微分
第4章 効用関数の微分
第5章 需要の微分
第6章 生産関数と投入需要の微分
第7章 企業の費用構造拡大の微分
第8章 長期競争均衡の微分
第10章 価格戦略の微分
第11章 クールノー競争と差別化されたベルトラン競争の均衡の微分
第12章 ゲーム理論の混合戦略の数学

数学の復習の補論

基礎的な代数であれ微分であれ,中級ミクロ経済学を学ぶほとんどの学生にとって,数学の復習は役に立つはずだ.巻末につけた補論〔以下のサイトに掲載. https://store.toyokeizai.net/books/9784492315002〕では,本書全体をとおして使われる数学をおさらいできるようになっている.

本書の構成(各章の概要)

以下では,とくに注目されるテーマや他の教科書とは異なる点をあげながら,各章の概要を説明していこう.第1章から第11章までが本書の核心部分であり,ほとんどの教師が講義で使うことになるだろう.残りの第12章から第17章までは,それぞれ個別に活用することができる.

第1部 基礎概念

第1章 ミクロ経済学の冒険 冒頭には,導入部として短い章を配した.ミクロ経済学に興味と関心を持ってもらうために,身近な飲料であるコーヒーを取り上げ,コーヒー豆を栽培する生産者とコーヒーを購入する消費者の立場から市場について考える.「応用」,「理論とデータ」の各セクションと,コラムの「ヤバい経済学」を通して,ミクロ経済学のツールが,経済学やビジネスを学ぶうえだけでなく,日常生活においてもすこぶる役に立つものであることをあきらかにする.

第2章 需要と供給 第2章と第3章では,需要と供給を深く掘り下げることで,しっかりと
した土台をつくる.そのうえで消費者行動と生産者行動をみていく.需要・供給モデルは単純ながら強力なモデルであり,既存の教科書では基本的なモデルを提示し,応用は別に論じられるのが一般的である.だが,最初にモデルのあらゆる側面を提示するほうが理に適っていると考えられる.われわれは(そして,試験的に本書を使った人たちは),この方法を講義に取り入れて成果をあげている.
第2章ではまず,需要と供給の基本的なモデルを示す.特筆すべきは,「需要・供給モデルを
支える主な仮定」の小節であり,ミクロ経済理論を構築し,説明するうえでの留意点を具体的に示している.

第3章 需要と供給のツールを使って市場を分析する 第3章では,需要・供給モデルを活用して,消費者余剰および生産者余剰,価格規制および数量規制,税金および補助金などを幅広く分析する.これらの概念を早いうちに紹介し,より完璧な説明をしておけば,コース全体をとおして無理なく活用できると考えられる.第3章で取り上げるトピックは融通がきくように挿入されているので,必ずしもすべてに目を通す必要はない,自分で選択してもらいたい.

第2部 消費と生産

第4章 消費者行動 膨大な数の商品やサービスが手に入るとき,何をどれだけ消費するかを消費者はどうやって決めているのだろうか,決定的に重要な本章では,まず一節を設けて,消費者行動に関する想定を明確に打ち出す.現場の教師が試した結果,学生にとってこの方法がきわめて効果的であることが明らかになっている.本章では,効用理論や消費者の予算制約といった概念も,明快だが厳密な形で紹介する.

第5章 個人の需要と市場の需要 本章では,消費者の選好から市場の需要曲線を導出する方法を示す.5.3節の「価格変化に対する消費者の需要量の変化を,所得効果と代替効果に分解する」では,学生がむずかしいと感じることの多いこのテーマを,細心の注意を払いながら説明していく,豊富な応用事例を示し,避けるべき落とし穴を論じることで,このテーマが身近で興味深いものになる.

第6章 生産者行動 どの投入物をどう組み合わせて生産するのか,企業はどのように決めているのだろうか.また,この決定が生産費用にどう影響しているのだろうか.本章では,消費者の章と同じように,最初に「企業の生産行動に関する単純化した想定」を明確に打ち出す.章の後半では,一節をまるまる使って,企業の長期的な生産性に技術変化が果たす役割について論じる.学生にとっては,いくつもの応用事例が「生きた教材」になる.(「ヤバい経済学」のコラムでは,携帯電話によってインドの漁師の生産者行動がいかに変わったかを取り上
げている).

第7章 費用 費用曲線は,企業の生産水準に応じて費用が変化する様子を描いたものであり,市場の供給曲線を導出するうえで重要である,機会費用とサンクコスト(埋没費用)はわかりづらい概念なので,冒頭でこれらの概念の区別と意思決定に果たすそれぞれの役割について丁寧に説明する.スポーツジムの会員の種別と利用頻度の関係,映画会社が赤字覚悟で映画を制作する理由など,本章で取り上げる実例は学生にとって身近な話題であり,わかりづらいとされる概念への理解が深まるはずだ.

第3部 市場と価格

第8章 競争市場における供給 本章から市場構造に関する記述が始まる.競争市場がどのように機能しているかを説明するため,テキサス州の電力業界,マサチューセッツ州ボストンやノースダコタ州ファーゴの住宅市場など,現実の産業を取り上げる,事業から撤退すべきか否かの判断は,学生が混乱しやすいトピックであるが,これを注意深く明快に,粘り強く説明していく.

第9章 市場支配力と独占 本章ではまず,市場支配力の源泉と,こうした支配力が企業の生産と価格決定に与える影響について包括的に論じる.市場支配力を持つ企業が利潤を最大化する決定に至るプロセスを3段階に分けて考えることで,理解しやすくなる.マシュマロ製造のダーキーモーアー社やソーダ製造のドクター・ブラウン社など,独占に近い企業を例にして,独占的市場支配力の概念を現実に即して考える.また,サウスウエスト航空が運賃を引き下げて路線を拡大した例など,豊富な事例を取り上げることで,学生の興味をさらに引くものになっている.

第10章 市場支配力と価格戦略 本章はきわめて現実に近く,有用な章であり,とくに企業で働いている人たちに訴えるはずである.企業が価格支配力を活用できる多様な状況を包括的に取り上げ,それぞれの状況で有効な価格戦略を明快に論じる.学生にとってとりわけ有用なのが,図10.1の「価格戦略の概観」と,「活用できる場合」と題した教育的な項目であり,価格戦略を有効に活用するために,市場や顧客について企業が最初に把握すべきことを説明している.

第11章 不完全競争 本章では,寡占企業および独占的競争企業に注目する.これらの企業は,完全競争企業や独占企業とは異なり,利潤を最大化しようとする競争相手の行動や戦略を考慮しなければならない.さまざまな不完全競争モデルを理解してもらうため,各節の冒頭で「モデルの想定」を設け,モデルにあてはまる条件を列挙している.

第12章 ゲーム理論 ゲーム理論のツールは,企業間の戦略的相互作用を説明し,市場への影響を予測するために活用される.本書ではチェック法を使ってゲームを単純化し,ナッシュ均衡と支配/被支配戦略が一目でわかるようにしているので,ゲーム理論の分析は理解しやすいはずだ.サッカーのペナルティーキックにはじまり,有名人のワインづくり,航空会社の新規参入への対応,映画の「博士の異常な愛情」にいたるまで豊富な話題は,ゲーム理論がビジネスだけでなく日常の意思決定に役立つことを示している.

第4部 基礎から応用へ

第13章 投資,時間,保険 長期のリスクや不確実性の役割を理解すると,個人や企業は,投資や保険についてより良い経済判断ができるようになる.企業や消費者が日々直面する多く
の意思決定において,現在費用,将来価値,時間,不確実性が大きな役割を果たしていることを明確に論じる.これらのテーマを1つの章にまとめて簡潔に論じている点が,本書の閲読者に
高く評価された.

第14章 一般均衡 本章では,一国の経済が効率的に機能するための条件について分析する.一般均衡の概念は,需要・供給の枠組みの延長線上で直観的に説明できる.具体例として,教員の質の低下や,住宅市場と労働市場の相互作用を取り上げる交換,投入,産出の効率性の関係についても説明をくわえ,それらを厚生経済学の定理につなげる.

第15章 情報の非対称性 これまでの章で市場が効率的に機能するのに必要な条件をみたのに続いて,本章では市場が効率的に機能しない状況に注目する.本章では,取引の関係者間で情報が等しく共有されない場合に,市場が歪むことをあきらかにする.ここでも自動車保険から不動産取引,海賊に至るまで幅広い事例を取り上げることで,ミクロ経済学で学ぶ概念が生活のさまざまな分野で役立つことを示していく.

第16章 外部性と公共財 本章でも,引き続き市場の失敗を考察する.取引が買い手でも売り手でもない人々に影響を与える場合,市場に何が起きるのか,逆に,ある財の便益が同時に多くの人々に共有される場合,何が起きるのかに注目する.本章を読めば,なぜ外部性が起きるのか,どうすれば解決できるのかがわかるはずだ(排出権取引やコースの定理について取り上げている).公共財に関する記述では,消防署の建設が火災を誘発しかねない理由をあきらかにする.

第17章 行動経済学と実験経済学 近年の行動経済学の台頭は,従来のミクロ経済学に疑問を投げかけている.行動経済学は,人間が既存の理論どおりに行動しないのではないかと考えている.この疑問に関して,中級ミクロ経済学の教科書はむずかしい立場に置かれる.行動経済学を信奉すれば,教科書で学んだ手法を軽視することになりかねないからだ.
行動経済学について述べた本章では,不合理な世界で合理的に考える方法を示す.誰かが経済的に不合理な決定をすれば,他の市場参加者はその不合理に乗じて自分に有利になるよう行動する(どういう状況で問違いを犯しやすいかを示す).

閲読者への謝辞

下記の本書の閲読者,フォーカス・グループの参加者,その他のコンサルタントの提言やアドバイスに感謝する〔氏名のアルファベット順〕.

Senyo Adjibolosoo, Point Loma Nazarene University
David Anderson, Centre College
Anthony Andrews, Governors State University
Georgeanne Artz, Iowa State University
Kevin Beckwith, Salem State University
Scott Benson, Idaho State University
Tibor Besedes, Georgia Institute of Technology
Volodymyr Bilotkach, Newcastle University
David Black, University of Delaware
Victor Brajer, California State University-Fullerton
John Brock, University of Colorado-Colorado Springs
Keith Brouhle, Grinnell College
Bruce Brown, California State Polytechnic University-Pomona
Byron Brown, Michigan State University
Donald Bumpass, Sam Houston State University
Paul Byrne, Washburn University
Benjamin Campbell, The Ohio State University
Bolong Cao, Ohio University
Shawn Carter, Jacksonville State University
Fwu-Ranq Chang, Indiana University-Bloomington
Joni Charles, Texas State University-San Marcos
Ron Cheung, Oberlin College
Marcelo Clerici-Arias, Stanford University
John Crooker, University of Central Missouri
Carl Davidson, Michigan State University
Harold Elder, University of Alabama
Tisha Emerson, Baylor University
Michael Enz, Framingham State University
Brent Evans, Mississippi State University
Haldun Evrenk, Boston University
Li Feng, Texas State University
Chris Ferguson, University of Wisconsin-Stout
Gary Fournier, Florida State University
Craig Gallet, California State University-Sacramento
Linda Ghent, Eastern Illinois University
Alex Gialanella, Manhattanville College
Lisa Giddings, University of Wisconsin-La Crosse
Kirk Gifford, Brigham Young University
Darrell Glaser, United States Naval Academy
Tuncer Gocmen, Shepherd University
Jacob Goldston, University of South Carolina
Julie Gonzalez, University of California-Santa Cruz
Darren Grant, Sam Houston State University
Chiara Gratton-Lavoie, California State University-Fullerton
Thomas Grennes, North Carolina State University
Philip Grossman, Monash University
Steffen Habermalz, Northwestern University
Jennifer Hafer, University of Arkansas
James Halteman, Wheaton College
David Hammes, University of Hawaii at Hilo
Mehdi Haririan, Bloomsburg University
Daniel J. Henderson, University of Alabama
Paul Hettler, California University of Pennsylvania
Tia Hilmer, San Diego State University
Gary Hoover, University of Alabama
Jack Hou, California State University-Long Beach
Greg Hunter, California State University-Pomona
Christos A. Ioannou, University of Southampton
Miren Ivankovic, Anderson University
Olena Ivus, Queen’s University
Michael Jerison, State University of New York-Albany
Bruce K. Johnson, Centre College
Daniel Johnson, Colorado College
Leo Kahane, Providence College
Raja Kali, University of Arkansas
Pari Kasliwal, California State University-Long Beach
John W. Keating, University of Kansas
Russell Kellogg, University of Colorado-Denver
Chris Kennedy, George Mason University
Rashid Khan, McMaster University
Vasilios D. Kosteas, Cleveland State University
Carsten Lange, California State Polytechnic University, Pomona
Jeffrey Larrimore, Georgetown University
Sang Lee, Southeastern Louisiana University
Daniel Lin, American University
Qihong Liu, University of Oklahoma
Jeffrey Livingston, Bentley University
Kristina Lybecker, Colorado College
Guangyu Ma, State University of New York-Buffalo
Teny Maghakian, University of California-Merced
Arindam Mandal, Siena College
Justin Marion, University of California-Santa Cruz
Timothy Mathews, Kennesaw State University
Ata Mazaheri, University of Toronto-Scarborough
John McArthur, Wofford College
Naranchimeg Mijid, Central Connecticut State University
Lijia Mo, Kansas State University
Myra Moore, University of Georgia
Tamah Morant, North Carolina State University
Thayer Morrill, North Carolina State University
Felix Munoz Garcia, Washington State University
Kathryn Nantz, Fairfield University
Pascal Ngoboka, University of Wisconsin-River Falls
Hong V. Nguyen, University of Scranton
Michael Nieswiadomy, University of North Texas
Matthew J. Notowidigdo, The University of Chicago
Constantin Ogloblin, Georgia Southern University
Alex Olbrecht, Ramapo College of New Jersey
Heather O’Neill, Ursinus College
June O’Neill, Baruch College, City University of New York
Patrick O’Neill, University of North Dakota
Alexei Orlov, Radford University
Lydia Ortega, San Jose State University
Emily Oster, The University of Chicago
Orgul Ozturk, University of South Carolina
Alexandre Padilla, Metropolitan State University of Denver
James Payne, University of South Florida
Anita Alves Pena, Colorado State University
Marie Petkus, Centre College
Jeremy Petranka, University of North Carolina-Chapel Hill
Barry Pfitzner, Randolph-Macon College
Brennan Platt, Brigham Young University
James Prieger, Pepperdine University
Samuel Raisanen, Central Michigan University
Rati Ram, Illinois State University
Ryan Ratcliff, University of San Diego
Marie Rekkas, Simon Fraser University
Michael Reksulak, Georgia Southern University
Malcolm Robinson, Thomas More College
Juliette Roddy, University of Michigan-Dearborn
Brian Rosario, American River College
Nicholas Rupp, East Carolina University
Robert Rycroft, University of Mary Washington
Shane Sanders, Western Illinois University
Sudipta Sarangi, Louisiana State University
Tom Scheiding, Cardinal Stritch University
Helen Schneider, University of Texas-Austin
Barbara Schone, Georgetown University
Kathleen Segerson, University of Connecticut
Quazi Shahriar, San Diego State University
Carl Shapiro, University of California-Berkeley
Alexandre Skiba, University of Wyoming
Rachael Small, University of Colorado at Boulder
Christy Spivey, University of Texas-Arlington
Kevin Stange, University of Michigan
Lee Stone, State University of New York-Geneseo
David Switzer, St. Cloud State University
Ellen Szarleta, Indiana University Northwest
Kerry Tan, Loyola University Maryland
Gwendolyn Tedeschi, Manhattan College
Jeremy Thornton, Samford University
Irene Trela, Western University
Regina Trevino, Loyola University-Chicago
Brian Trinque, University of Texas-Austin
Victoria Umanskaya, University of California-Riverside
Michael Vaney, University of British Columbia
Jennifer VanGilder, Ursinus College
Jose Vazquez, University of Illinois at Urbana-Champaign
Annie Voy, Gonzaga University
Bhavneet Walia, Western Illinois University
Joann M. Weiner, The George Washington University
Jeanne Wendel, University of Nevada-Reno
Benjamin Widner, New Mexico State University
Keith Willet, Oklahoma State University
Beth Wilson, Humboldt State University
Catherine Wolfram, University of California-Berkeley
Peter Wui, University of Arkansas-Pine Bluff
Erik Zemljic, Kent State University

Steven Levitt (原著), Austan Goolsbee (原著), Chad Syverson (原著), スティーヴン レヴィット (著), オースタン グールズビー (著), チャド サイヴァーソン (著), 安田 洋祐 (翻訳), 高遠 裕子 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2018/1/26)、出典:出版社HP

学術面での助言者への謝辞

Linda Ghent (Eastern Illinois University) には大変お世話になった。彼女は、学術面でのエディターであり,優秀なエコノミストであり,天性の教師でもある,文章から構成,図表にいたるまで,本書のかなりの部分に彼女の意見が反映されている.着想を得てから最終的に本として完成するまで,良い教科書にしようと献身的に協力してくれた。彼女の助言は何物にも 代えがたく,共同作業をするのは本当に楽しかった.

Alan Grant (Baker College)は章末の問題を作成してくれた.本文の内容を問うだけでなく、理解を深めてくれる問題になっている. Scott Houser (Colorado School of Mines)と Anita Pena (Colorado State University)は微分の項目を整え, Skip CrookerとKristina Lybeckerと共に、本書を幅広い教員や学生に役立つものにするために多くの手助けをしてくれた。

先がなかなか見通せないとき,頼れる人たちがいて,積極的に関わり貴重なアドバイスをく れたのは幸運だった. Tibor Besedes (Georgia Institute of Technology ), Lisa Giddings (University of Wisconsin-La Crosse), Alan Grant (Baker College), Scott Houser (Colorado School of Mines ), Kristina Lybecker (Colorado College ) , Naranchimeg Mijid (Central Connecticut State University), Kathryn Nantz (Fairfield University ), Anita Alves Pena (Colorad State University ), Jeremy Petranka (University of North Carolina-Chapel Hill), Sudipta Sarangi ( Louisiana State University), Jennifer VanGilder (Ursinus College), Annie Voy (Gonzaga University)の各氏に感謝申し上げる。

草稿段階の本書をいち早く使ってくれた, Lisa GiddingsとAnnie Voyの受講者にはとくに感謝している.本書の核となる章には、彼らの経験が生かされている。
鷹の目のような鋭さで本書全体をチェックしてくれたMichael Reksulak (Georgia Southern University)にはとくに御礼申し上げたい、細部にまで行き届いた仕事のおかげで、 文章が整い、読みやすくなり、理解しやすくなった. Michaelは800メートル先のタイプミスでも見つけられる。誰もがその恩恵を受けている。

出版関係者への謝辞

本書が形になるまで多大な尽力をしてくれた,クリエイティブな人々に大いに感謝したい.
チャド・サイヴァーソン Chad Syverson

何年も前に著者の1人であるAustanのドアをノックし,道筋をつけてくれたのは,当時ワース(Worth)社の経済学担当編集者だったCraig Bleyerだ.Craigは,経営陣のElizabeth Widdicombe, Catherine Woodsの支持を得て,本書のための専門チームを組んでくれた.Craigが別の部署に移ると,後を引き継いだCharles Linsmeierは,編集者として考え抜いたうえで方向性を示し,全体を見通すために必要な手助けをしてくれた.

チームのメンバーは,それぞれにユニークな才能と視点を提供してくれた,ワース社の有能で実績のある経済学担当エディターのSarah Dorgerは,高い専門性と並々ならぬ情熱をもって本書の進行を管理してくれた.3人の著者と編集者や閲読者,コンサルタントらと何度もやり取りを繰り返し,練り上げていくなかで,彼女の大車輪の活躍と常人にはない忍耐があったからこそ,脱線せずにまとめあげることができた.

制作エディターのJane Tuftsは,これまで経済学の代表的な教科書の編集をいくつか手掛けている.本書のすべての要素,すべてのページに,彼女のクリエイティビティが生かされている,学生の気持ちを本当の意味で理解し,学生の立場に立って原稿を読めるという比類ない才能の持ち主の彼女が最初に草稿に目を通し,貴重な助言をくれたおかげで,読みやすく,魅力的な学生本位の教科書に仕上がった.

ワース社の制作エディターで,確かな知性と優れた判断力を持つBruce Kaplanは,広範な制作プロセスを穏やかにてきぱきと仕切ってくれた.彼の指示を受けたアシスタント・エディターのMary Melisによって,われわれの草稿は,疲れを知らないプロダクション・チームに引き渡された,Melissa Pelleranoは,プロセス全体を通してしっかりサポートしてくれた.

シカゴ大学では,とくにErin Robertsonのアシストがなければ,途方にくれるところだった,経験を生かして,リサーチ,編集,校正,出版社との連絡全般にわたって助けてくれた.彼女が自分の本を出す準備は万全だ!

本書を読者に届けるために知恵を絞り,支えてくれたワース社の多くの関係者に感謝申し上げるTracey Kuchn, Barbara Seixas, Lisa Kinneは,当初の企画段階から最後まで基本的な方向性を示してくれた.度重なる締切破りとハリケーン・サンデーの後,Rob Erreraは,きめ細かに目配りしながら,制作プロセス全般を見守ってくれた,注意深い目をもった,コピー・エディターのPatti Brechtにも感謝している.デザイナーのKevin Kallは,その独創的な装丁で,本書を一般的な中級の教科書とは一線を画すものにしてくれた.Ted SzczepanskiとElyse Riederは,各章ごとに,面白くて興味をそそる写真を探してくれた.明快で有用なグラフの原図を描いてくれたGreg Ghentにも特段の感謝をおくりたい.

中級ミクロ経済学は,教師と学生が自ら作りあげるコースであり,教室の内外での学習を充実させるため,質の高い指導要領や学習の手引きには高いニーズがある.ワース社のメディア・補助教材担当エディターのLukia KliossisとJaclyn Ferryは,教師にも学生にも役立つ画期的なツールを提供するために尽力してくれた.本当に役立つメディアや補助教材というプランを現実にものにしてくれたLukiaにはとりわけ感謝したい,彼女をはじめ同僚のStacey Alexander, Edgar Bonilla, Ashley Josephが形にしてくれた補助教材は,教師にとっても学生にとっても,中級ミクロ経済学のコースを充実したものにしてくれるはずだ.

初版のマーケティングには,特別なむずかしさとチャンスがあるが,ワース社のマーケティング・チームは,クリエイティビティを発揮しながら熱心に取り組んでくれた.Paul Shensaの知性と経験は何物にも代えがたく,彼がナビゲートしてくれたおかげで,教師や学生の幅広いニーズを知ることができた.Steve RigolosiとScott Guileが制作プロセス全般にわたってマーケティングに緻密な方向性とひらめきを与えてくれたことで,本書は一段と有用なものになった.おかげで熱い市場にうまく参入できた.その間,大いに励まし,専門家としての調整力を発揮しながら,テストとレビューをきめ細かに取りまとめてくれたKerri Russiniにも御礼申し上げたい.

最後に

われわれの仕事を絶えず応援し、感謝を伝えることができないほど忙しいときでも支えてくれる,それぞれの家族に心からありがとうと伝えたい.結局のところ,教科書はあくまでツールにすぎないのであって,学生が授業やそれ以外の場で互いに学び合うことを補助するものだ.本書をきっかけに、学習を続け,いずれは経済学を使いこなせるようになってくれることを願っている.

オースタンダールズビー Austan Goolsbee
スティーヴン・レヴィット Steven Levitt
チャド・サイヴァーソン Chad Syverson

Steven Levitt (原著), Austan Goolsbee (原著), Chad Syverson (原著), スティーヴン レヴィット (著), オースタン グールズビー (著), チャド サイヴァーソン (著), 安田 洋祐 (翻訳), 高遠 裕子 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2018/1/26)、出典:出版社HP

『レヴィットミクロ経済学』 総目次

序文

第1部 基礎概念

第1章 ミクロ経済学の冒険
第2章 需要と供給
第3章 需要と供給のツールを使って市場を分析する

第2部 消費と生産
第4章 消費者行動
第5章 個人の需要と市場の需要
第6章 生産者行動
第7章 費用

第3部 市場と価格

第8章 競争市場における供給

以上、基礎編

第9章 市場支配力と独占
第10章 市場支配力と価格戦略
第11章 不完全競争
第12章 ゲーム理論

第4部 基礎から応用へ

第13章 投資,時間,保険
第14章 一般均衡
第15章 情報の非対称性
第16章 外部性と公共財
第17章 行動経済学と実験経済学

以上、発展編

レヴィット ミクロ経済学 発展編 ——目次

監訳者序文
序文

第3部 市場と価格

第9章 市場支配力と独占
9.1 市場支配力の源泉
極端な規模の経済——自然独占
【応用】衛星ラジオ産業における自然独占
スイッチングコスト
製品差別化
主要投入物の支配による絶対的費用優位
【応用】主要投入物の支配——ブラジル,フォードランディアの苦難の歴史
政府の規制
意思(と生産者余剰)あるところに道は開ける
9.2 市場支配力と限界収入
【ヤバい経済学】薬物取引業者が戦争ではなく平和を求めるワケ
市場支配力と独占
限界収入

【9.1 解いてみよう】
9.3 市場支配力を持つ企業の利潤最大化
利潤を最大化する方法
市場支配力を持つ企業の利潤最大化——グラフによるアプローチ
市場支配力を持つ企業の利潤最大化——数式によるアプローチ
【9.2 解いてみよう】
市場支配力を持つ企業のマークアップの公式——ラーナー指数
【応用】市場支配力 対 市場シェア
市場支配力を持つ企業にとっての供給関係
9.4 市場支配力を持つ企業の市場変化への反応
限界費用の変化への反応
需要変化への反応
完全競争市場との大きな違い——顧客の価格感応度の変化に対する反応
【9.3 解いてみよう】
9.5 市場支配力の勝者と敗者
企業が市場支配力を持つ市場における消費者余剰と生産者余剰
完全競争市場における消費者余剰と生産者余剰
【応用】サウスウエスト航空
市場支配力がもたらす死荷重
異なる市場支配力が生む生産者余剰の差
【9.4 解いてみよう】
9.6 政府と市場支配力——規制、反トラスト、技術革新
直接的な価格規制
反トラスト
独占を促す——特許権,許認可,著作権
【応用】インターネットのファイル共有と音楽業界
特許権保護の実際
【理論とデータ】新薬の潜在的市場を見極める
9.7 結論
まとめ
復習問題
演習問題

第9章 補論 利潤最大化の微分
利潤最大化の条件
限界収入
【9A.1 解いてみよう】
【9A.2 解いてみよう】
演習問題

第10章 市場支配力と価格戦略
10.1 価格戦略の基本
企業が価格戦略を追求できるとき
10.2 直接の価格差別 Ⅰ——完全価格差別 (第1種価格差別)
【10.1 解いてみよう】
完全価格差別の例
【応用】市場支配力がなければ価格差別できないことを、プライスライン社はいかにして学んだか
10.3 直接の価格差別 Ⅱ——セグメント化による価格差別(第3種価格差別)
セグメント化がもたらす利益——グラフによるアプローチ
セグメント化がもたらす利益——数式によるアプローチ
各セグメントの価格をいくらにすべきか
【これで合格】それは正真正銘の価格差別なのか
【10.2 解いてみよう】
顧客を直接セグメント化する方法
【ヤバい経済学】ヴィクトリアズ・シークレット社の秘密でない価格差別
【理論とデータ】欧州の自動車市場における地域別セグメント
10.4 間接の価格差別(第2種価格差別)
数量割引による間接の価格差別
【10.3解いてみよう】
バージョニングによる問接の価格差別
クーポンによる問接の価格差別
10.5 セット販売 混合セット販売
【10.4解いてみよう】
10.6 高度な価格戦略
まとめ売り価格
2部料金制
【10.5解いてみよう】
10.7 結論
まとめ
復習問題
演習問題
第11章 不完全競争
11.1 寡占市場における均衡
【応用】ナッシュ均衡の例——映画のマーケティング
11.2 同一財の寡占市場——共謀とカルテル
共謀やカルテルの不安定性
【応用】OPECと石油統制
【11.1解いてみよう】
カルテルがうまくいく条件
【応用】インディアナポリスのコンクリート・カルテル
【ヤバい経済学】政府はいかにして巨大タバコ・メーカーとの戦いに敗れたのか
11.3 同一財の寡占市場——ベルトラン競争
ベルトラン・モデルを構築する
ベルトラン競争におけるナッシュ均衡
【理論とデータ】コンピュータ部品 その1
11.4 同一財の寡占市場——クールノー競争
クールノー・モデルを構築する
クールノー競争における均衡
【11.2 解いてみよう】
クールノー競争を共謀, ベルトラン競争と比較する
クールノー競争において企業数が3社以上の場合
クールノー競争 対 ペルトラン競争——議論の拡張
11.5 同一財の寡占市場—— シュタッケルベルク競争
シュタッケルベルク競争と先行者利得
【11.3解いてみよう】
11.6 差別化された財の寡占市場——ベルトラン競争
差別化された財のベルトラン競争における均衡
【11.4解いてみよう】
【理論とデータ】コンピュータ部品 その2——必死の差別化
11.7 独占的競争
独占的競争市場における均衡
【11.5解いてみよう】
11.8 結論
まとめ
復習問題
演習問題

第12章 ゲーム理論
12.1 ゲームとは何か
支配戦略と被支配戦略
12.2 1回限りのゲームでのナッシュ均衡
【これで合格】チェック法
【12.1 解いてみよう】
複数均衡
混合戦略
【応用】サッカーにおけるランダムな混合戦略
マキシミン戦略(敵が愚かなら、どうするか)
【応用】太陽の下の道楽——非合理的な富豪たちのワインづくり
12.3 繰り返しゲーム
有限回繰り返しゲーム
無限回繰り返しゲーム
【12.2 解いてみよう】
12.4 交互手番ゲーム
【これで合格】後ろ向き帰納法と枝刈り
もう1つの交互手番ゲーム
【12.3 解いてみよう】
12.5 戦略的行動,信憑性,コミットメント
利得の譲渡
コミットメント
【12.4解いてみよう】
【応用】ストレンジラブ博士と秘密の危機
参入阻止——信憑性の活用
【理論とデータ】サウスウエスト航空の新規参入の脅威に対する既存航空会社の反応評判
【ヤバい経済学】ゲーム理論が命を救う
12.6 結論
まとめ
復習問題
演習問題

第4部 基礎から応用へ
第13章 投資,時間,保険
13.1 割引現在価値分析
利子率
「72の法則」
割引現在価値(PDV)
【応用】債券の割引現在価値
【13.1 解いてみよう】
13.2 投資選択を評価する
純現在価値
NPV評価での利子率の重要な役割
【応用】航空会社の機体の更新
純現在価値法 対 回収期間法
【13.2 解いてみよう】
13.3 さまざまな利子率と資本市場
名目利子率 対 実質利子率
その他の利子率による評価
資本市場と市場利子率の決定要因
【13.3 解いてみよう】
13.4 リスクのある投資を評価する
不確実性を考慮した純現在価値——期待価値
リスクと先送りオプション価値
【13.4 解いてみよう】
13.5 不確実性,リスク、保険
期待収益、期待効用,リスクプレミアム
保険市場
【理論とデータ】メディケアの保険価値
リスク回避度
リスク回避と投資判断
【ヤバい経済学】現代の黙示録——災害を予防するために、いくら支払うのか
【13.5解いてみよう】
13.6 結論
まとめ
復習問題
演習問題

第14章 一般均衡
14.1 一般均衡効果の実際
一般均衡効果の概観
数量的一般均衡——需要サイドでつながっているトウモロコシ市場と小麦市場の例
【14.1 解いてみよう】
【理論とデータ】カーマゲドンの一般均衡
数量的一般均衡——供給サイドでつながっているトウモロコシ市場と小麦市場の例
【ヤバい経済学】良い教師はどこに消えたのか
【応用】都市における住宅市場と労働市場の一般均衡効果
14.2 一般均衡——公平と効率性
市場のパフォーマンスの測定基準——社会的厚生関数
【14.2 解いてみよう】
市場パフォーマンスの尺度——パレート効率性
市場のパレート効率性を見つける
市場の効率性——3つの条件
14.3 市場の効率性——交換の効率性
エッジワース・ボックス
エッジワース・ボックスにおける取引の利得
【14.3 解いてみよう】
14.4 市場の効率性——投入の効率性
生産可能性フロンティア
【14.4 解いてみよう】
14.5 市場の効率性——産出の効率性
限界変形率
【14.5 解いてみよう】
14.6 市場,効率性,厚生経済学の定理
【応用】インドの製造業の産出の効率性
14.7 結論
まとめ
復習問題
演習問題

第15章 情報の非対称性
15.1 レモンの問題と逆淘汰(逆選択)
品質がわかる場合
品質がわからない場合
逆淘汰
その他のレモンの問題の例
レモンの問題を軽減する制度
【15.1解いてみよう】
【応用】収集品販売の評判
買い手の情報が多いときの逆淘汰——保険市場
保険市場の逆淘汰を軽減する
【応用】逆淘汰と強制保険
15.2 モラルハザード
極端なモラルハザードの例
【15.2解いてみよう】
保険市場におけるモラルハザードの例
保険市場以外のモラルハザード
モラルハザードを軽減する
【応用】利用実績に基づく自動車保険
15.3 プリンシパル-エージェント関係における情報の非対称性
プリンシパル-エージェントとモラルハザードの具体例
ゲームとしてのプリンシパル-エージェント関係
【ヤバい経済学】俺ら海賊——全員公平な扱い?
一般的なプリンシパル-エージェント関係
【理論とデータ】住宅用不動産取引におけるプリンシパル-エージェント問題
【15.3解いてみよう】
15.4 情報の非対称性問題を解決するシグナリング
シグナリングの古典的な例——教育
他のシグナル
【応用】品質のシグナルとしての広告
【15.4解いてみよう】
15.5 結論
まとめ
復習問題
演習問題

第16章 外部性と公共財
16.1 外部性 なぜ,うまくいかないのか——外部性による経済の非効率性
負の外部性——悪い財が多すぎる
【16.1解いてみよう】
正の外部性——良い財が十分に供給されない
【理論とデータ】自動車盗難防止装置(ロジャック)の正の外部性
16.2 外部性を是正する
汚染の効率的水準 価格を使って外部性を是正する
【応用】スパムメールを減らす
【16.2 解いてみよう】
【応用】自動車税の引上げは、ドライバーを喜ばせたのか
外部性を是正するための数量メカニズム
価格ベース 対 数量ベースの介入と不確実性
市場志向型アプローチで外部性を是正する——排出許可証制度の市場(排出権取引市場)
【16.3 解いてみよう】
16.3 外部性に関するトピックとその対策
共有地の悲劇
コースの定理——外部性の是正を自由市場に委ねる
【16.4解いてみよう】
【応用】テキサスの油田で、共有地の悲劇がコースの定理と出会う
コースの定理と排出権取引市場
16.4 公共財
公共財の最適な水準
【16.5 解いてみよう】
フリーライダー問題を解決する
【ヤバい経済学】消防活動は公共財か
16.5 結論
まとめ
復習問題
演習問題

第17章 行動経済学と実験経済学
17.1 経済モデルの予想どおりに行動できないとき
系統的なバイアス1——過信
系統的なバイアス2——自己管理の問題と双曲割引
系統的なバイアス3——フレーミングの餌食になる
系統的なバイアス4——サンクコストに注意する
【応用】サンクコストのバイアスと住宅市場の崩壊
系統的なバイアス5——寛大さと利他心
17.2 行動経済学は、これまで学んできたことがすべて無駄だと言っているのか
17.3 経済理論をデータで検証する——実験経済学
ラボ実験
【ヤバい経済学】(文字通り) 世界の果てに、経済理論を検証しに行く
自然実験とフィールド実験
17.4 結論,そしてミクロ経済学の未来
まとめ
復習問題
演習問題

用語集

Steven Levitt (原著), Austan Goolsbee (原著), Chad Syverson (原著), スティーヴン レヴィット (著), オースタン グールズビー (著), チャド サイヴァーソン (著), 安田 洋祐 (翻訳), 高遠 裕子 (翻訳)
出版社: 東洋経済新報社 (2018/1/26)、出典:出版社HP