あなたが変える裁判員制度 市民からみた司法参加の現在

『【最新】あなたはどこまで知っていますか? – 改めて裁判員制度を知る5冊』も確認する

はじめに

裁判員制度が始まって10年を迎えようとしています。この間、市民はどのように刑事裁判に参加してきたのでしょうか。まだ裁判員を経験していない人にとっては、裁判は今も身近ではないかもしれません。でも、もしからしたら、次に裁判員になるのは、あなたかもしれません。裁判員として刑事裁判に参加した人たちの経験を、次に裁判員になる人へ伝える。私たちはその架け橋になれればと思い、この本を書きました。

裁判員制度が始まったのは2009年5月です。市民の視点から裁判員制度を考えたいと思い、私たちは一般社団法人裁判員ネットを立ち上げました。市民が主役の裁判員制度が始まるのに、肝心の市民の姿がないのではないかという問題意識でした。私たちは、裁判員制度それ自体に反対する立場でも、無条件に賛成して制度を推進する立場でもありません。市民の視点から、裁判員制度についての議論の機会をつくり、あるべき姿を模索し、情報発信を行っていきたいと考え、活動を積み重ねてきました。

この本は、一言で言えば、市民から見た裁判員制度の10年です。第1章では、裁判員を経験した人たちの声に耳を傾け、法律の専門家ではない日常生活を営む市民が、法廷の裁判員席に座って、何を感じ、考えたのか、そしてどのようなことに戸惑い、悩んだのかを報告します。裁判員を経験した人から、これから裁判員になる人に伝えたいことが凝縮されています。第2章では、まず裁判員制度の概要を説明します。そして、裁判員制度が始まってから今日までの10年間に裁判員裁判が実際にどのように運営されてきたのか、何が注目されたのかを振り返ります。

この章を読めば裁判員制度の10年がわかると言えば少し言いすぎかもしれませんが、制度開始から今日までのトピックを網羅し、わかりやすく解説するように努めますた。第3章は、市民の視点から見えてきた裁判員制度の課題とそれに対する改善案をまとめました。批判だけにとどまることなく、次の10年に向けてどのように改善したら良いか具体的な提案を記しました。裁判員ネットでまとめた「市民からの提言」とともに、法律の専門家だけではなく、市民一人ひとりが制度について議論するきっかけになればと願っています。

裁判員制度はたんに刑事裁判の在り方を変えただけではなく、一人ひとりの価値観を揺さぶる力があります。裁判員経験者の声に耳を傾け、市民の視点から制度を考える中で、私たちが感じていることがあります。それは、小さな水滴が集まり、やがて大きな流れをつくるように、一人ひとりが変わることで社会が変わっていく可能性があるということです。
未来の裁判員のために、本書が少しでも役に立てば、これほどうれしいことはありません。2019年3月大城 聡  坂上暢幸  福田隆行

推薦のことば

本書は、裁判員制度への市民の参加を促す、素晴らしい招待状です。10年を迎える裁判員制度に関わった先輩裁判員である市民の経験と目線が十分に紹介されています。同時に同制度についての法律専門家の視点もしっかりと述べられています。まさに時宜を得た出版であり、これから裁判員裁判に関与する可能性がある市民だけでなく、同制度に関与する裁判官、検察官および弁護士、ならびに法学研究者等にとっても必読の書と云えます。裁判員制度の導入に当たって裁判所の内部にいた者として、またその後同制度の10年の運用につきいささか関与してきた者として、ここに本書を推薦します。

本書の著者である大城聡弁護士は、ユニークにして貴重な活動を展開してきた「一般社団法人裁判員ネット」の中心人物で、また牧野茂弁護士および当職と一緒に共同代表世話人として「裁判員経験者ネットワーク」の活動にも関与してきました。同ネットワークは、本書の執筆者の一人坂上暢幸氏にもお世話になっています。本書は、これらの活動も総括して、本制度についての的確な紹介および評価と、建設的な提言をしています。裁判員経験者の生のことばをふんだんに記録しているだけでなく、法律関係者以外の一般の人々にもわかりやすいことばで、未来の裁判員たちに制度を紹介しているのです。

裁判員制度は、我が国の民主主義を支える、世界にも例を見ない制度です。裁判員たちは刑事司法の運営につき直接貢献すると同時に、人間としての自分の生き方にも大きなヒントを得てきています。この十年の実績をもとに制度導入の本来の趣旨をさらに実現し、また未来の裁判員たちが有意義な経験を積み社会に貢献していくために、本書が広く読まれ、利用されることを期待します。2019年3月弁護士・元最高裁判所判事 濱田邦夫

大城 聡 (著), 坂上 暢幸 (著), 福田 隆行 (著)
出版社: 同時代社 (2019/4/12)、出典:出版社HP

目次 – あなたが変える裁判員制度

はじめに
推薦のことば
第1章裁判員の経験から  福田隆行/坂上暢幸
第1 はじめに
第2 日常に差し込まれる非日常の刑事裁判
1 裁判所から通知を受け取る
2 呼出状を受け取る
3 呼出状を持って裁判所へ
4 裁判員に選ばれて 驚きと戸惑いを持ったまま法廷へ
5 裁判員になると待っていること
①仕事や家庭と折り合いをつける/②刑事裁判に立ち会う/③評議を行い判決を考える/④人を裁くことの難しさに直面する
6 裁判員の役割を終えて
①達成感や高揚感を味わう/②記者会見に臨む/③心理的負担を抱える/④被告人のその後に思いを巡らせる/⑤守秘義務の壁に直面する/⑥裁判員経験者同士で交流する
第3 人を変える裁判員経験
1 人に対する見方の変化
2 社会に対する見方の変化
第4 未来の裁判員へバトンを渡す

第2章教えて裁判員制度!
福田隆行
第1 はじめに
第2 裁判員制度の概要
1 裁判員裁判の対象事件
2 裁判員裁判が行われる裁判所
3 裁判員の選任
①裁判員の人数/②裁判員となる資格/③辞退事由/④裁判員の選任手続
4 裁判員の役割
①公判への立ち会い/②評議・評決/③判決/④日当
5 裁判員の義務
①公平誠実義務、宣誓義務/②出頭義務/③意見を述べる義務等/④守秘義務/⑤解任事由
6 裁判員の保護
①不利益取り扱いの禁止/②特定情報の取り扱い/③裁判員への接触禁止
7 その他の罰則
①裁判員等に対する請託/②裁判員等に対する威迫
8 裁判員裁判の控訴審
①三審制/②控訴審の在り方/③控訴審の判決
第3 裁判員裁判の実施状況
1 対象事件の数
2 裁判員の選任状況
3 裁判員裁判における判決
①終局人員/②無罪判決/③死刑判決/④保護観察付執行猶予判決/⑤求刑を上回る判決

4審理の長期化
①裁判員裁判の審理期間/②過去最長の裁判員裁判/③審理が長期化することの問題点と対策
5 裁判員の心理的負担
①裁判員が受ける心理的負担/②裁判所や検察官の対応/③体調不良を訴える裁判員
6 裁判員への請託、威迫
①裁判員への声掛け事件/②声掛けをした元組員らの裁判/③裁判所の対応
7 裁判員裁判の控訴審
①控訴の状況/②具体的事例から見る裁判員裁判の控訴審/③差戻審
8 裁判員裁判と取調べの可視化
①取調べの可視化の実施状況/②取調べの録音・録画が証拠として使われた事例/③取調べの録音・録画を証拠として用いることの問題点
9 裁判員制度の合憲性

大城 聡 (著), 坂上 暢幸 (著), 福田 隆行 (著)
出版社: 同時代社 (2019/4/12)、出典:出版社HP

第3章 市民の視点から考える
大城 聡
第1 なぜ市民参加が必要か-
1 刑事裁判に市民が参加する意義
①裁判員法の趣旨/②最高裁判所の考え方/③法務省・検察庁の考え方/④弁護士会の考え方/⑤出発点は国民主権の理念/⑥他人事から自分たちの問題へ
2 裁判員ネットの取り組み
①裁判員になる市民の視点から考えたい/②裁判員裁判市民モニター/③市民の声を集め、提言へ
3 市民社会の中の裁判員制度
第2 裁判員の経験共有を阻む2つの壁
1 共有されない裁判員経験
①8万人を超える裁判員経験者/②伝わらない8万人の経験/③「よい経験」と感じた人が95%以上/④低迷する参加意欲/⑤上昇する辞退率と低下する出席率/⑥裁判員制度の根幹に関わる問題/⑦裁判員の経験共有を妨げる「2つの壁」
2 裁判員候補者であることの公表禁止規定を見直すこと
①なぜ裁判員候補者であることを公表できないのか/②公表禁止規定の弊害/③罰則はなくとも市民は萎縮する/④公表禁止を見直すと裁判員候補者は情報を受けやすくなる/⑤呼出状の受け取り前ならば公表による弊害はない/⑥制度開始前の慎重な制度設計/⑦呼出状の受け取りを公表禁止に変更すればよい/⑧具体的な見直し案
3 守秘義務を緩和すること
①裁判員経験者に課される守秘義務/②現在の守秘義務の範囲/③評議の内容はブラックボックス/④経験を共有するために/⑤守秘義務の緩和を求める意見/⑥衆議院法務委員会における附帯決議/⑦裁判員経験者の声/⑧広すぎる守秘義務の範囲を限定する/⑨経験を伝えることを当たり前にする

第3 裁判員の心理的負担
1 はじめに
2 裁判員経験者へのアンケート調査
①裁判員経験者の8割が心理的負担を感じている/②時が経ってからも感じる心理的負担
3 裁判員経験者が語る心理的負担
①凄惨な証拠を見ることにより生じる心理的負担/②判決によって被告人の一生が変わるという責任/③体調不良に現れる場合
4 裁判員を務めた女性による国家賠償請求訴訟
①裁判員の職務と急性ストレス障害/②急性ストレス障害を発症した裁判員裁判の様子/③想像を超えるほどの凄惨な証拠が本当に必要か/④なぜ裁判所は裁判員の深刻な心理的負担に気付かなかったのか/⑤国家公務員災害補償法による救済
5 裁判員の心理的負担軽減のための抜本的対策を
①裁判員に選ばれる前に市民ができること―心理的負担による評退/②裁判員に選ばれた市民ができること一選任後の辞任申立て/③裁判員を経験した後にできること経験者同士の交流/④裁判所の対策/⑤裁判員メンタルヘルスサポート窓口の問題点/⑥裁判員裁判を行う各裁判所に臨床心理士等を配置すべき

第4 責任ある参加と良心的裁判員拒否
1 人を裁く重みを正面から受け止める・
①人を裁くことの重み/②義務でも参加したくない/③人を裁くという言葉/④一枚のコインの表と裏/⑤責任ある参加と良心的裁判員拒否は両立する。
2 良心的裁判員拒否の可能性
①良心的裁判員拒否の明文規定はない/②日本国憲法から良心的裁判員拒否を考える/③思想良心の自由と閣議決定/④辞退事由に潜んでいる良心的裁判員拒否/⑤辞退を認める範囲を極めて狭く限定する見解/⑥裁判所に呼び出す側の論理/⑦最高裁判決で示された見解/⑧実務は辞退の範囲を広く認める方向
3 思想良心による辞退事由を明記して代替義務を設けること
①思想良心による辞退事由を明記する必要性/②代替義務を設けるべき/③裁判員制度の本質は市民に対する信頼である

第5 裁判員時代の法教育
1 法教育の重要性——裁判員時代の「市民の常識」
①刑事裁判の理念と法教育/②高等学校へのアンケート調査/③若者へのアンケート調査/④学習指導要領と裁判員制度/⑤体験型学習の充実/⑥市民講座/⑦裁判員制度における法教育の重要性
2 市民の視点からの実践
①法教育の実践/②裁判員制度体験学習用「模擬裁判DVD」/③地域社会における模擬裁判員裁判の試み
3 司法リテラシーの向上に向けて
①法教育から得られる5つのカ/②未来の裁判員のために

第6 傍聴のすすめ
1 百聞は一見に如かず・
①「裁判の公開」が実質的な意味を持ち始めた/②裁判員裁判市民モニターの取り組み
2 裁判員に選ばれる前に
①裁判員経験者の声/②裁判傍聴に関する提言/③裁判員裁判の日程はインターネットで/④自分も裁判員になるかもしれない
第7 あなたが変える裁判員制度
1 刑事裁判を変える
①裁判員の最大の使命は冤罪を防ぐこと/②主体的な参加が必要/③一人ひとりの悩みこそが刑事裁判に光をもたらす
2 社会の仕組みを変える
3 次の10年に向けて
①刑事司法の新しい担い手/②裁判員法の改正(2015年)/③守秘義務の在り方などは改正から3年経過後に検討/④制度開始10年は市民の視点から制度を見直すタイミング
資料 市民からの提言(2018年5月作成)
あとがき―未来の裁判員のみなさんへ

大城 聡 (著), 坂上 暢幸 (著), 福田 隆行 (著)
出版社: 同時代社 (2019/4/12)、出典:出版社HP