今、世界は情報社会にあります。問題解決能力やチームワーク、創造性など21世紀型のスキルが必要とされ、教育もそこを目指しているはずです。しかし、現在の教育システムは本当に今の社会に適応していると言えるのでしょうか。今の教育の現実を「情報時代の学校をデザインする」から読み解いていきます。
教育ニーズの変容と現在の教育システム
今の米国と日本の教育は工業社会の教育と言えます。それは単元を学んだかどうかという基準ではなく一定の時間が経つことで次の単元へと進みます。おそらく、ほとんどの人はこのような学習体制を経験していると思います。しかし、本当にこのシステムは学習者や社会のニーズに応えているのでしょうか。今回は、「情報時代の学校をデザインする」を読んで現在ある教育問題を指摘し、どのように制度を改革すべきなのかを読み解いていきます。
著者はCharles M.Reigeluth氏とJennifer R.karnopp氏です。Charles M. Reigeluth氏はアメリカの教育理論家、研究者、そして改革者です。 彼の研究は教育デザイン理論と学習者中心の教育システムの体系的な変換に焦点を当てています。Jennifer Karnopp氏は、特殊教育の修士号を取得し、過去20年間子供中心の教育を提唱してきました。伝統的な学校と革新的な教育現場の両方で働いています。
本書は全5章の構成となっており、前書きからのスタートとなります。前書きには、既存の教育システムを変化させるために注目すべき2つの側面について書かれています。その一つは幼稚園から高校までの教育システムをどうするか、そしてもう一つはシステム転換をどのように支援するかです。本書はこの2つの点に焦点を当てて書かれています。
第1章には、工業時代から情報時代へと移り変わる中で、教育ニーズが変わってしまったとあります。しかし、日本や米国の学校教育は工業時代のままであるというのです。工業社会の学校教育とは、教室の全ての生徒が同じ時間に同じ教材で学びます。進度は全体の中間に合わせ、ゆっくりと学習するタイプの子どもたちは全てを理解することなく次の内容に進んでしまいます。また、テストは他者と比べ相対的に評価を決めます。このような教育は社会のニーズに適したものとは言えません。
そこで筆者は、個々の進度に合ったボーイスカウト型の教育システムを推奨しています。つまり、理解し終えるまで先へは進まず、理解し終えたらすぐに次へ進むということです。これは、一斉一律かつ競争的な学校制度において画期的なパラダイム変換と言えます。また、現行の学校教育に至った理由は工場労働者を育成するためだと説明しています。「
服従し、時間を厳守し、持久力を持ち、標準化された人材」を育てるためのシステムであり、高等教育を受けるのは一部のみで良いと割り切ったシステムなのだと言います。ですが今の米国と日本は情報社会にあります。標準化からカスタム化へ、対立から協働へ、従順から主体的になる必要があるのです。ですから米国と日本はこのような、学校教育の本質的な変化を目指さなければなりません。
続く2章では、工業時代と情報時代の相違点を指摘し、目指すビジョンを提示します。また、6つのコアアイデアから現在の非生産性の原因を明確にします。3章では新しいシステムを導入している学校を紹介しています。また、6つのコアアイデアの活用方法についても説明しています。
4章では現在の情報時代型学校教育のデザインを①個々の学校、②学区ごと、③州ごと、というように3つのレベルで述べています。そして転換のプロセスを促進する助けとなる変化の法則についての説明もあります。5章では政府がとるべき政策について提案しています。また、教育パラダイムの転換に向けた4つの先導的取り組みについても紹介されています。
この本は米国の学校教育について書かれたものですが、日本にもかなり当てはまることがあり、教育従事者や教員志望者、教育研究者はもちろん、学校に通う子どもがいる親世代の方にも読んで考えてほしい一冊となっています。今の学校に疑問を持っている方は、教育従事者を批判する前にこの本を読んでみてはいかがでしょうか。