あなたも明日は裁判員!?

『【最新】あなたはどこまで知っていますか? – 改めて裁判員制度を知る5冊』も確認する

はじめに

この本は、裁判員を担う市民向けの、裁判員制度の現在・過去・未来についてのガイドブックです。実質的には、裁判員ラウンジのいわば紙上版といえる内容になっています。裁判員ラウンジとは、裁判員経験者に体験談を語っていただいて、それをもとに裁判員制度に関心を持つ人びとが自由に対話するという2014年2月より3か月ごとに継続している集会です。毎回、メインスピーカーの裁判員経験者などを探すことに苦心して自転車操業のような状態ながら、市民(裁判員候補者を含む)、裁判員経験者、学生(高校生から法科大学院生まで)、法学研究者、弁護士、裁判官などの来場があり、体験談と対話が重ねられてきました。本書は、参加者のひとり日本評論社の荻原弘和さんより、口頭のやりとりで終わるのはもったいないとお声がけいただき、裁判員制度施行10年を機に発刊にいたりました。

執筆者のほとんどは、裁判員ラウンジの参加者です。裁判員を経験した方々には、体験談を綴っていただきました。その他の方々には、裁判員をまだ務めたことがない方、実際に経験した方など、さまざまな方々にこの本をお読みいただけるよう、そもそも裁判員制度とはどのようなものか、裁判員裁判にたずさわるのはどのような人たちか、裁判員経験者に関する市民団体にどのようなものがあるか、裁判員裁判はどのような実施状況にありどのような問題が論じられているかなどについて、平易に記していただいています。

私は、裁判員制度について、司法制度改革の一環として司法の国民的基盤のテーマが議論され、その構想が浮上した2000年から、関心を持っていました。その関心は、2009年に裁判員裁判がスタートし、実際に法廷で傍聴してから、さらに高まりました。裁判員裁判を傍聴して印象的なのは、人の話を聞いて判断する裁判であることです。法廷で語られる被告人、弁護人、検察官、証人や被害者などの声が、しっかりと裁判員と裁判官により受けとめられ、その他の証拠とともに吟味されて慎重な判断につながっていることが、肌で感じられます。
しかし、裁判員を務めた方々がどのようなことを感じ、考えているのか、話を聞きたくても、その機会はほとんどありません。

裁判員ラウンジを始めたきっかけは、裁判員を経験した方々の話を身近にうかがうことにありました。毎年、1000件前後の事件が裁判員裁判で審理され、1件あたりを裁判員6人と交代要員の補充裁判員2人程度が担当します。そのため、裁判員と補充裁判員を経験する市民は、毎年1万人ほど増えているはずです。ただ、1万人といっても、日本の人口に占める割合はわずかに過ぎません。裁判員制度は実施からさほど年月を経ておらず、家族や知り合いで裁判員を務めた人は少なく、裁判員制度自体もいまだ身近ではないように思われます。

本書が、この10年の間に裁判員を経験した人、これから裁判員を経験するかもしれない人や、実務法律家にとって、裁判員制度を身近にとらえ、考えるきっかけになれば、これに勝る喜びはありません。最後になりますが、本書の執筆をご快諾いただいた方々に、心よりお礼申し上げます。また、本書を人の温か味にあふれる素敵なイラストで飾ってくださったイラストレーター・かわいちひろさん、本書の企画・編集を全面的に担当してくださった荻原弘和さんをはじめ株式会社日本評論社の関係者の方々にも厚くお礼申し上げます。そして、裁判員ラウンジでメインスピーカーを務めていただいた後に永眠された、裁判員経験者の小田篤俊さんと、守屋克彦弁護士・元裁判官に、本書を捧げたく思います。

飯 考行 (著, 編集), 裁判員ラウンジ (著, 編集)
出版社: 日本評論社 (2019/4/15)、出典:出版社HP

目次 -あなたも明日は裁判員!?

はじめに
第I部
知ろう!語ろう!裁判員制度9
1 裁判員制度って何だろう
コラム◆ひと山なんぼの裁判員① 裁判員は偉いのか?
2 裁判員裁判が始まって終わるまで
コラム◆ひと山なんぼの裁判員② 裁判官は偉いのか?
3 裁判員裁判にたずさわる人びと
〈1〉裁判員〈2〉裁判員〈3〉裁判官〈4〉弁護士〈5〉臨床心理士〈6〉記者。
コラム◆ひと山なんぼの裁判員③ 誰のための裁判か?
4 裁判員経験者のその後
〈1〉裁判員経験者へのアフターケアとその後。〈2〉裁判員経験者の交流団体
●裁判員ラウンジ ●裁判員経験者ネットワーク
●裁判員ネット ●LJCC
●市民の裁判員制度めざす会
●裁判員ACT ●インカフェ九州
コラム◆ひと山なんぼの裁判員9概ね問題ない?
5 実況中継!裁判員ラウンジ・
裁判員は見た① 悩み苦しまないために
裁判員は見た② 量刑と被告人のその後
裁判員は見た③ 勤務先の理解を得よう
裁判員は見た④ 疑問は評議でスッキリと!
裁判員は見た⑤ DVDで残した記憶
裁判員は見た⑥ 人を裁くということ
裁判員は見た⑦ 裁判員から弁護士に?

第Ⅱ部 もっと知りたい!裁判員制度
司法への国民参加―裁判員制度施行10年目に足もとを見直す

裁判員制度をめぐる諸問題
●裁判員制度の課題と展望について
●取調べビデオ録画について
●辞退率(職場の理解等)の問題について
●裁判員制度をめぐる報道のあり方について
●ベルギーから見た裁判員制度
●裁判員教育の取り組み
裁判員裁判における主な判例
●裁判員制度施行後の判例の動向について
●チョコレート缶事件
●今市事件
コラム◆東名あおり事故公判から
結びにかえて―裁判員に関する重要な2つの課題とその解決案附録―裁判員制度に関する補足情報
裁判員は見た!⑧ 大変でも財産になる経験
裁判員は見た!⑨ 誰かの体験が誰かを救う
裁判員は見た!⑩ 事前準備は?守秘義務は?
裁判員は見た!⑪ 裁判員はひとりじゃない
裁判員は見た!⑫ 見やすい資料に安心感
裁判員は見た!⑬ 裁判官とランチで雑談
裁判員は見た!⑭ もっと司法に関心を!
ラウンジにほえろ!① 被告人もひとりの人間
ラウンジにほえろ!② 裁判を語り合う社会へ
ラウンジにほえろ!③ もっと知って!中高生も
ラウンジにほえろ!④ 法教育が司法を育む。
裁判員あるある
コラム◆ひと山なんぼの裁判員⑤ 問題の本質とは!?

飯 考行 (著, 編集), 裁判員ラウンジ (著, 編集)
出版社: 日本評論社 (2019/4/15)、出典:出版社HP