みらいの教育 – ブラックな教育現場をワクワクへ変える!

現代では年々学校現場は多忙を極め、教員志望者は激減しているという状況にあります。そんな鬱々とした未来を変えようと、教育研究者たちがそれぞれの考えを持ち寄りました。ワクワクな学校現場を作るにはどうすればいいのか、本書から読み解いていきます。

教員の働き方を見直す

近年の学校は、社会の変化に対応すべくとても多くのことをノルマとして課しています。しかし、それに対応した増員などは行われず現場はますます多忙を極めています。このままでは現在現場で働く教員も、教員を目指して勉学に励む教員志望者も先の暗い中を歩いていかなければなりません。そんな鬱々とした未来を、本来あるべきであるワクワクしたものへと変えるべく、学問の枠を飛び越えて問題を解決しようとした本書から明るい教育現場をつくる方法を読み解いていきたいと思います。

本書は教育社会学者の内田良氏と教育哲学者の苫野一徳氏の対談形式で編纂されています。
内田氏は、名古屋大学大学院にて教育発達科学の准教授を務め、教育学の博士でもあります。専門は教育社会学であり、スポーツ事故やいじめ不登校、部活動顧問の負担など学校現場の理不尽な点を社会学の立場から問題提起をしています。
一方苫野氏は熊本大学教育学部の准教授を務め教育学の博士でもあります。哲学、教育学を専攻としており、多様で異質な人たちがどうすれば互いに了解し承認しあえるか研究しています。

本書では第1章で、研究者たちの方向転換を推進していく必要があるという旨の会話があります。組み体操で10段という高さのピラミッドが現在でも行われていることに対して内田氏が危険性を指摘したところ、現場からは「どうすればいいのか教えて欲しい」「批判ばかりでなく対策を」というように反発の声が大きくなっているといいます。しかし、両者は批判の先の対案は皆で探していこうと主張しています。批判者が必ずしも対案を出さなければならないわけでもなく、また批判で終始してしまうわけでもなく、皆で考えていくことこそ大切だと述べています。内田氏のように問題の発見が得意な研究者もいれば、問題の解決が得意な研究者もいる。そういったようにアカデミズム問題で取り組もうと提案しています。

また、次の項では「給特法」についての指摘があります。この法律を「定額働かせ放題」だと批判した上で、時間の無さから教員の働き方改革に関する議論も認識も進んでいないと指摘しています。部活が大好きな先生と自分の時間を大切にしたい先生の相互不和も対話が足りていないことが原因だとして、校内研修のあり方を変えるという提案をしています。教育に関する各々の志を語り合う前段階として、教育関連の書籍やDVDを見て意見交換会をしてみてはどうか、と提案しています。

この後、2章では教育の特殊性について語られています。哲学的な観点から見れば教育は特殊でも何でもなく、むしろ王道であると述べています。ここでも給特法の異常さを指摘し、環境改善を訴えています。3章では現場と研究者のギャップについて提起しています。現場を知らないからと研究者の意見を聞かないのでは建設的な議論ができない。お互いの現場をリスペクトし合うことが大切と言っています。

この後は著者である二人の論文をそれぞれ掲載しています。どちらも教師の特殊性を否定し、給特法を批判しています。また、本の末尾では給特法の条文も掲載しています。

異なる分野の研究者二人の意見の一致と相違、そして多分野の研究が組み合わさることで起こる可能性について知ることのできるとても面白い本となっています。気になる方は是非書店にて手に取ってみてはいかがでしょうか。

内田 良 (著), 苫野 一徳 (著)
出版社: 武久出版; 初版 (2018/10/23)、出典:amazon.co.jp