ビジネスエリートがなぜか身につけている 教養としての落語

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誰かに話したくなる落語の知識

吉田茂元首相や渋沢栄一が愛した、“落語”。人の心を掴む術を身につけるツールあるいは人の本質や日本の文化を知るツールとして、長年愛されてきました。本書は、“慶応義塾大学卒”“元ビジネスマン”の異色の経歴を持つ落語家が、「落語」と「日本の伝統芸能」の知識を丁寧に解説します。

立川談慶 (著)
出版社 : サンマーク出版 (2020/1/7)、出典:出版社HP

ビジネスエリートがなぜか身につけている 教養としての落語

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はじめに

“和製チャーチル”吉田茂が愛したもの

吉田茂元首相が、選挙活動中にコートを着たままぶっきらぼうに演説をしている際に、「外套をとれ!」と聴 衆から野次を飛ばされたとき、こう言い返しました。
「外套を着てやるから、街頭演説です」
1916年に寺内正毅内閣が発足し、旧知の間柄であった寺内首相に「総理大臣の秘書官をやらんか」と水を向けられたときには、
「総理大臣なら務まるかもしれませんが、秘書官はとても務まりそうもありません」
晩年に訪問客から「お顔の色が大変いいようですが、何を召し上がっていらっしゃるのですか?」と問われたときはこうです。
「人を食ってます」
吉田元首相は、人の心をつかむ才能に溢れた人でした。彼の言葉は、表面的にはシニカル(冷笑的)でありつつ も、温かな人情味を秘めていて、周りの人間を魅了し続けたそうです。 その才能は外交の局面でも遺憾なく発揮されます。 執務中、ほとんど席に着かず、室内を歩き回るのが常だったGHQのマッカーサーに対し、吉田元首相は愛嬌
を込めてこう声をかけます。
「まるで忙の中のライオンだな」
マッカーサーはニヤリとしたあと、吉田首相にフィリピン製の葉巻をすすめます。 しかし彼は、「私はキューバ製しか吸わない」と、ストレートに断ります。 一見不遜な吉田氏ですが、マッカーサーは非常に気に入り、彼との面会には必ず応じるようになったのだそうです。
その後、吉田氏が「餓死者が出るから食糧輸入をしてほしい」とマッカーサー元帥に交渉したとき。「日本の 数字は杜撰だ」と責められた際に返した言葉はこうでした。
「戦前に日本の統計がもし完備していたなら、あんな無謀な戦争はやらなかったろうし、もし完備していたら、 勝っていたかもしれない」
吉田茂元首相といえば、敗戦後の日本の政治や経済を復興させた立役者』。連合国軍総司令部(GHQ)のマッカーサー元帥の指示を受けながら、敗戦した日本を復興させた総理大臣です。
アメリカの要望を聞き入れながら、日本側のメリットも守る。さまざまな交渉術を駆使し、難しい大役を果たしてくれた偉人です。その政治力と葉巻をこよなく愛したことから「和製チャーチル」と呼ばれました。 「吉田首相がサンフランシスコ平和条約の締結に注力したおかげで、GHQによる日本の支配が早めに終わった」そう評価する声まであります。
そんな彼が愛してやまなかったのが”落語」です。
彼の落語マニアっぷりは有名で、古今亭志ん生師匠(五代目)や桂 文楽師匠(八代目)などを料亭にまで呼び、 落語をきいていたほどです。 落語が彼の人間力、政治力に多大な影響を与えていたことは疑いようがありません。
また、業界内外を問わず評価が高く、池上彰氏からも「今の自民党にあれだけのスピーチができる人はいない だろう」と演説力を高く評価されている小泉進次郎氏も無類の落語好きの一人です。
彼は、時間を見つけては寄席に足を運び、移動中も落語の音源をきいているそうで、ブログでは「落語は演説の勉強になる」と公言しています。
その他にも、「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一氏をはじめとする経営者などにも落語を日常的にきいている人が数多く存在しています。
落語というのは、人の上に立つものにとって必要不可欠な、人の心をつかむ術を身につけるツールとなっているのです。

パーティーで「一眼国」が外国人から絶賛された理由

彼らが落語をきくのは、単に「人の心をつかむ術が身につく」からだけではありません。 落語は日本の「文化」、日本人特有の「価値観」を教えてくれます。それは落語が単なる「娯楽」にとどまらず、伝統芸能としての側面があるからです。
古典落語の中に「一眼国」という落語があります。

一眼国

昔、「一つ目の国」があるという噂を聞きつけた男がいました。男は「『一つ目小僧」をさらってきて 見世物小屋に出せば大もうけできる」と目論み、探しに行くことにします。男は尋ね歩いた先でようやく「一つ目小僧」を見つけ、見世物小屋に出すためつかまえようとするのですが、なんと、現地人に逆 につかまえられてしまいます。
そして、こんな言葉をかけられます。 「こいつは珍しい、二つ目をしている。見世物小屋に売り飛ばせ!」

「一眼国」は、「自分たちが抱いている価値観は、あくまでも自分たちのエリアでしか通用しない」という真理を教えてくれます。
私はこの落語を英語に訳してもらい、とある外国人が集まるパーティーで披露しました。その結果、多くの欧 米の皆さんから、「グレイト!」という絶賛の言葉をいただくことができたのです。もちろんその後、パーティーに来場されていたビジネスエリートの方々に話しかけていただき、予想以上にコミュニケーションがとれたこ とはいうまでもありません。
このパーティーで実感したことですが、欧米のビジネスエリートたちは自国の文化や伝統芸能に精通していま す。そして、自国の人たちがどのような価値観を持っているのかもちゃんと話せます。ビジネスエリートにとって「自国の文化・伝統芸能」は、教養として当たり前の知識であり、コミュニケーションツールになっているの です。
元プロサッカー選手の中田英寿氏が、日本各地を旅するようになったのは、海外で生活しているときに日本の 文化や伝統について尋ねられることが多く、「もっと日本のことを知りたい」と感じたからだそうです。中田氏は現在、お菓子メーカーの執行役員を務め、日本酒の良さを世界に広める会社を設立するなど、ビジネスマンと しても活躍しています。
国内外問わず、自国の文化・伝統芸能はビジネスエリートにとって共通言語になりえます。「落語」を知るということは、日本の文化・伝統芸能を知り、日本人の価値観を知るということです。落語は、日本各国を旅せず とも、日本について深く知ることのできる最強のツールなのです。

落語は人間の失敗図鑑

落語は人間の本質をも教えてくれます。
私の師匠だった故・立川談志(七代目)は「落語とは人間の業の肯定だ」と看破しました。平たく言うと、「人 間とは所詮、どうしようもないものなのだ」という意味です。そんな彼の主張を裏付けるかのように、落語に はどうしようもない人、ばかりが登場します。
前出の「一眼国」の主人公のように、他人をうまく利用しようとしたり。スキあらばタダ酒にありつこうとし たり。片思いや横恋慕に悩んでばかりいたり。お金もないのに見栄っ張りだったり……。 言うなれば「成功していない人」「ダメな人」「イケてない人」のオンパレードなのです。 そして、落語の筋書きの多くは、失敗談ばかりです。その様相は「失敗図鑑」と呼んでもよいでしょう。「落 語」というのは、時代が変わってもどれだけ世の中が発展しても、変わらない人間の本質を教えてくれるので
す。
小泉進次郎氏はこのように話します。 「政治の世界はストレスも多いが、心がささくれ立っている時も落語をきいていると、世の中の何でも許してし まえる。世の中でうまい酒のひとつが、落語をきいた後で飲む日本酒だ」
落語の世界を見ていると、失敗ばかりの世の中だからこそ、皆が上手に“小さな迷惑”を”シェア“し合い、
「お互い様」「持ちつ持たれつ」で生きていることにホッとさせられます。そもそもそんな「和を重んじる心」 こそ、私たち日本人が本来もっている美徳であり、今こそ身につけるべき教養なのではないでしょうか。

この本では、
◆大物政治家や経営者がきいていた「人の心をつかむ術」を身につけるツールとしての落語
◆ビジネスエリートにとって共通言語である「日本の文化・価値観」を知るツールとしての落語
◆「人間の変わらない本質」を教えてくれる落語

そんな教養としての落語を、今まで一度も落語に触れたことのない人にも理解できるように解説しています。
最低限知っておきたい知識はもちろんのこと、落語の歴史から、知っておくと一目置かれる話。さらに、その ほかの伝統芸能の知識を、落語と比べながらわかりやすく説明しています。 「落語について知りたいけど寄席に行くのはハードルが高い」 「日本人として、伝統文化を知っておきたい」 そう思ったことがある方に、ぜひ読んでほしいと思います。

立川談慶 (著)
出版社 : サンマーク出版 (2020/1/7)、出典:出版社HP

目次

はじめに
和製チャーチル 吉田茂が愛したもの
パーティーで「一眼国」が外国人から絶賛された理由
落語は人間の失敗図鑑

第1部
これだけは知っておきたい
日本の伝統芸能「落語」

第1章
これだけ知っておけば間違いない落語の「いろは」
落語の原点「雷睡 笑」は仏教の聖害的存在だった
最初の落語家は秀吉に仕えた「曽呂利新左衛門」
落語は江戸時代、庶民の娯楽だった
「古典落語」は著作権なしのカバー曲、新作落語はオリジナルソング
落語家はネタバレしている噺を何回もして、なぜ生きていけるのか
「上方落語」と「江戸落語」は何が違うのか
大阪の落語は、一度なくなった?
上方落語を復興させた「桂米朝」
「立川」「林家」「桂」は名字ではない?
現代落語界の派閥は大きく4つに分かれる
超老舗,団体である「落語協会」と「落語芸術協会」
伝統的な昇進制度に反発した2人のカリスマが独立

第2章
噺の構造と落語家の出世
落語の基本構成は「枕」「本題」「オチ」
「枕」をきけば、落語家の腕前がわかる
落語の神髄「オチ」で最も多いのがダジャレ
落語の代表的なオチの種類
登場人物を知っていれば落語は100倍わかりやすくなる
最重要人物「与太郎」は哲学的側面を持つ“愛されキャラ
フリーの売れない芸人「一八」と金持ちの道楽息子「若旦那」
田舎者の代表格「権助」
落語家の出世階級、「前座」「ニッ目」「真打ち」
上方落語には「階級制度」は存在しない
「真打ち」になっても収入は保証されない
「前座」から「二ツ目」になるのは年功序列
下克上も可能な「真打ち昇進」

第3章
ニュースや会話によく出てくる名作古典落語
[1] 子どもでも知っている超有名落語「寿限無」
[2] 世代を問わない爆笑演目「まんじゅうこわい」
[3]そばを食べる仕草と「今、なんどきだい?」という
セリフが有名な「時そば」
[4] さんまは”低級な魚”だった?「目黒のさんま」
[5] 人情噺の大定番!「芝浜」
Column 1
落語家はどうやって稼いでいるの?

第2部
日本の伝統芸能と落語界のレジェンドたち

第4章
落語と比べると理解しやすい日本の伝統芸能
歌舞伎の元は女性たちの踊りが中心だった「かぶき踊り」
江戸時代に、国民的アイドル,級の人気があった「歌舞伎」
歌舞伎はイケメン、落語は三枚目
なぜ人間国宝は歌舞伎役者に多くて落語家に少ないのか?
二世が少ない落語家、ほぼ世襲の歌舞伎役者
能も狂言もルーツは同じ「武士のもの」
笑える話が落語、笑える劇は「狂言」
文楽は人形劇 × ミュージカル
落語は庶民の娯楽』、講談は、武士の講義。
古典落語に「忠臣蔵」がないワケ

第5章
これだけは知っておきたい落語界のレジェンド
落語界の革命児・立川談志(七代目)
改革と本質を追い求めた談志の信念「全てを疑え」
落語界初の人間国宝・柳 家小さん(五代目)
をしなくても惹きつけられる柳家小さんの存在感
「二・二六事件」の最中に兵士の前で落語を演じた?
破天荒で一匹狼な落語の神様・古今亭志ん生(五代目)
大河ドラマでビートたけしが演じた落語家
「なめくじ部屋」に住んだ天才
伝統と現代性を持ち合わせたイケメン落語家・古今亭志ん朝(三代目)
テレビやラジオでも評価された天才落語家
「寄席四天王」の一人・談志との関係性
“超完璧主義” 昭和の落語名人・桂 文楽 (八代目)
8歳の落語名人が高座で放った一言
Column 2 意外と多い落語由来の言葉

第3部
ビジネスマンが知っていると一目置かれる落語

第6章
世界の笑いと落語
国ごとに好まれるジョークは違う
アメリカンジョークの3つの特徴
中国のジョークは古典由来が多い
フランス人はエッチな話がお好き?
落語に人殺しは出てこない
「飢え」と「寒さ」が落語のベース

第7章
これを知っていればあなたも落語通! 使える落語
言えると一目置かれる「芝浜だけに」の意味
不倫ネタは落語の世界でもたくさん存在する
落語に出てくるコミュニケーション最強男
部下ができたら知っておきたい「百年目」
仕事に行きづまったときにおすすめ「ねずみ穴」
仕事のヒントをもらえる「はてなの茶碗」
ブランディング力を学べる「猫の皿」
Column 3 YouTubeで名人のネタをきく
おわりに
注冊
参考文献

第1部
これだけは知っておきたい
日本の伝統芸能「落語」

立川談慶 (著)
出版社 : サンマーク出版 (2020/1/7)、出典:出版社HP