【最新】P&Gの人材育成、経営戦略を学ぶためのおすすめ本 – 個人の考え方からマネジメントまで

P&Gはなぜ成功した?どのように人材を育成する?

P&Gは、洗濯用洗剤やシャンプーなどで有名な、消費財業界で世界的に最大の企業の一つです。売り上げが素晴らしいのはもちろんですが、社員の能力で世界ランキング1位に選ばれたことがあるほど、人財力が高く評価されている企業でもあります。P&Gの社員の育て方や経営からは多くのことを学ぶことができます。そこで今回は、そんなP&Gの人材育成や経営戦略などを学べる本をご紹介します。

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出典:出版社HP

1年で成果を出す P&G式10の習慣 (祥伝社黄金文庫)

優秀な社員になるためのプロセス

通勤の電車の中で、さくさくと読め、早速その日に活用したくなる本です。わかりやすく、実践にすぐに移しやすいのでどんな方にもお勧めできる一冊です。成功するためのプロセスを知ることができます。

杉浦莉起 (著)
出版社 : 祥伝社 (2018/12/12)、出典:出版社HP


社員能力世界No.1企業が社員に叩き込んでいる仕事の基本。
実は、誰でもすぐに真似できることばかりです。
中途入社の私でも、1年で結果を出せました。

『1年で成果を出すP&G式 10の習慣』 杉浦里多

はじめに

パンパース、ジョイ、アリエール、ファブリーズ、パンテーン、マックスファクター、SKII、ウィスパー…… 。
P&Gという社名にはピンとこなくても、これらP&Gの商品名を耳にしたら、「それなら知っている」と反応される方が多いのではないでしょうか。
P&Gは、アメリカに本社を置く日用品雑貨メーカーで、売り上げは約7兆円(2012年6月期)、時価総額16兆円(トヨタは2兆円)、10億ドルブランドを25ももつ、世界最大の消費財メーカーです。
売り上げが素晴らしいだけではありません。数字以上に特徴的なのは「社員能力No.1」の企業である、という点です。アメリカのビジネス雑誌「フォーチュン」で、P&Gは「社員の能力」で世界ランキング第一位(2008)に選ばれています。「チーフエグゼクティブ」誌ではリーダー育成に優れた企業としてランキング総合第一位(2012)、また「フォーチュン」誌の「世界でもっとも賞賛される企業」ランキング、「バロン」誌の「世界でもっとも尊敬される企業」ランキングなど多くの賞を獲得し、その人財力に高い評価をもらっています。
また、GEやマイクロソフト、ディズニーなど、世界有名企業の幹部や社長の多くが、P&G出身者なのです。いわば世界規模での、人材輩出企業です。
しかし、P&Gは優秀な社員を他社からヘッドハンティングするわけではありません。むしろ、逆です。内部社員を幹部に育てていく生え抜き重視の文化が根付いています。
つまり、新入社員を「社員能力No.1」に育て上げる会社なのです。

実は私は、そんなP&Gでは珍しい中途採用社員でした。
当時、P&Gで最も成長株だった化粧品部門のマーケティング活動においてPRを強化するため、そういう仕事 をしていた私に声がかかったのです。
P&Gに入る前の私は、LVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン)ジャパンのフランスファッションブランドや、老舗のハイジュエリーブランドのマネージャーを務めていました。ブランドづくりでは世界トップレベルの仕事にたずさわっていたという自負がありましたので、私のノウハウを「教えてあげましょう」と、上から目線でP&Gのマーケティング部に乗り込みました。
ひとり黒船で乗り込んだつもりでしたが……、そんな思いは、入社初日に打ち砕かれ、「失敗した!」と後悔することになりました。
それまでとはまったく違う企業文化や仕組み、言葉の使い方に圧倒され、ひとり黒船どころか寄りどころのない漂流者の気分になりました。入社ひと月は毎日、「辞めようか」と悩み続けたほどです。
しかし、それでも残る覚悟を決めたのは、転職する際に決めた「少なくとも3年は続ける」という意地だけではありません。
P&Gに入って驚いたのは、何より、社員一人ひとりの能力が、圧倒的に優秀で、「金太郎飴!」と思うほど、均質なことです。そして、そこには皆がやっている明確な「成功の法則」があることが見えてきました。だから、ビジネスパーソンとしての経験がまったくない新入社員が、すぐにリーダーとして活躍し、1年で成果を出せるのです。
そんな彼らが世界最高レベルの社員に成長していく秘密を知りたい、そしてその秘密を私も身に付けたい、という思いが湧いたからでした。

そこで私は、P&Gの中にいながら、P&Gの強さを、”よそ者”として、客観的な視点で観察しました。生え抜きの社員にとってはごく当たり前のことに驚いたり、他社では絶対にやらないことをやっていることに気づいたり….。
つまり、成功をもたらす他社との違いは何か、を見てきたのです。その結果分かったのは、P&Gでは「言葉」「考え方」「行動」において、全員が行なうようにグローバルスタンダード化(全世界で標準化)された数々の習慣があるということです。
それはP&Gが175年間、180ヵ国でビジネスを成功させてきたノウハウを、誰もがしっかり身に付けられるようにまとめた、最強の成果を出す習慣なのです。
この「P&G式習慣」が、世界No.1企業、世界No.1人財を生む秘訣です。
中途入社の私にとって、この習慣を身に付けることは、仕事のプロトコル (作法・手順)を全面的に書き直すような感じでした。
その結果、落ちこぼれ漂流者だった私の担当部署が、1年で目標以上の2ケタ成長を遂げました。毎期末に社内で表彰されるようになり、担当商品は雑誌で最優秀賞に選出。さらに、最優秀社員賞(Recognition Share)をいただきました。これはP&G全社員約2万6千人の中の、2%未満だけに与えられる賞です。
これらの成果は、P&G社員ならば無意識のうちに身に付けている「習慣」を、意識的に身に付けたからです。
これはけっして難しいものではなく、社会人1年生でもできる、シンプルで、そのくせ実践的で、すぐに成果が出せるものです。
もちろん、本当の意味で身に付けるには、すなわち習慣にするには、意識して続けていくことが大切です。
読者のみなさまにもこのP&G式習慣を活用していただき、ワークもライフも成果を出し成長する「ベターワーク&ベターライフ」な日々を過ごしていただきたいと願っています。それが、何にも優る喜びです。

2013年1月
杉浦里多

杉浦莉起 (著)
出版社 : 祥伝社 (2018/12/12)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 言葉を変える
習慣1 「目的は?」を口ぐせにする
●まず「目的」を決めて、それから動く
●入社1日目、15分後の衝撃の一言
●行動する前に目的を明確にする、3つのメリット
●最短で最高の成果を出す「欲望パワー」を引き出す
●相手に求めるアクションは、徹底的に分かりやすくする
●目的に戻って、かみ合わない議論を減らす
●その目的は、「ミッション」からズレていないか?
●歯磨き粉の戦略会議で出された、とんでもないアイデア
●目標値を設定して、ゴールをより明確にする
●「達成すべき絶対ライン」をゴールにする
●数字の公開と共有で、やりがいを持続する
●企業文化が違う相手と、ひとつのチームになる手段としての「目標」
○実践するときのポイント

習慣2 ダメ出しより、まずポジティブな言葉
●すべてを成功に変えてしまうP&Gの方法
●ポジティブな表現を使って、前向きの雰囲気をつくる
●第一声は、「感謝と褒める」が鉄則
●「あなただから」で気持ちよく協力を得る
●「あの人とまた仕事がしたい」と思ってもらえるメール
●ダメ出しも、まずは肯定する
●自己アピールが苦手な人は、「事例紹介」で乗り切る
○実践するときのポイント

習慣3 フィードバックの言葉をあげる・もらう
●成長するためのフィードバックをもらう・する
●お互い気分がいい、「作法」を身に付ける
●こんなフィードバックはNG!
●誰もがメンターになれる
●ヒトよりモノを主語にする
○実践するときのポイント

第2章 考えを変える
習慣4 「消費者がボス!」顧客志向で考える
●「顧客志向」とは、「顧客嗜好」
●最強の5ステップの思考プロセスで、可能性を最大化する
●ステップ1 「目的と戦略の設定」―ゴールへの道筋をつくる
●「楽勝」で「楽チン」な戦略を考える
●ステップ2 「取り巻く環境の分析」―情報を集め、流れを読む
●女性をターゲットにすると、これだけのメリットが
●ステップ3 「WHO(お客様理解)」ー「もっと知りたい」という視点で、相手を理解する
●消費者の声を聞く=言うとおりにすることではない
●表の発言と本音が違うことも
●ステップ4 「WHAT(お客様に提供する価値)」―相手のLOVE体験を考える
●ステップ5 「HOW(お客様との関係づくり)」ー 相手の行動に合わせて関係をつくる
●顧客志向の5ステップの実践「パンパース うんと眠ろ。うんと遊ぼ。プロジェクト」
○実践するときのポイント

習慣5 リーダーシップは「影響力」と考える
●P&Gが定義する「リーダーシップ」とは?
●全員が、リーダーになる。たとえ入社1年目であっても
●リーダーシップの行動指針(5E)を身に付ける
○実践するときのポイント

習慣6 「万が一」を想定する
●「万が一」の「一」の可能性をあえて考える
●「スピード」と「正確さ」で、危機的状況をチャンスにする
●変わるが勝ち。変化に柔軟になる
●人に関わることは、特に迅速に対応する
○実践するときのポイント

第3章 行動を変える
習慣7 「1ページメモ」で頭を整理する
●3分で理解される書類を書く
●全ての書類は1枚にまとめる
●「オーディエンス・アナリシス」―読み手に合わせて、カスタマイズする
●パワポよりワード、外見より中身を磨く
●1枚のメモが持つ3つの効果
●成長の早道! いいメモを保存&マネする
●もっと! 説得力のあるメモを書く
●会議のまとめは、会議内にメモにする
●P&G流メモフォーマットに挑戦する
○実践するときのポイント

習慣8 他人の成功体験を徹底的にマネする
●他人の成功事例を積極的にマネして、成功体験を増やす
●成功要因を見つけて、みんながマネできるようにする
●失敗を繰り返さないために、失敗事例も共有する
●「横から目線」で、イノベーションを起こす
●成功体験に、賛辞を送る
●成功体験をシステム化する
○実践するときのポイント

習慣9 「量」より「質」の時間管理
●時は金なり。時間の価値に敬意を払う
●時間を有意義に使うために、「やらないこと」を決める
●ワークライフバランスよりも「ベターワーク&ベターライフ」を目指す
●ワークとライフを、右肩あがりに管理する
●自分の時間をマネジメントできるのは自分だけ
●自分のひとり時間を、スケジュール予約する
●しっかり休んで、仕事の濃度をあげる
●プロジェクトのスケジュールは、チームで管理する
●会議時間をスリムにする
○実践するときのポイント

習慣10 ボスマネジメントをする
●「相談」で上司を巻き込む
●上司の答えを、イエスかノーにする
●上司は「貴重な資源」として活用する
●上司の上司もうまく使いこなす
●上司の「7つのパワー」を使いこなす
○実践するときのポイント

おわりに

杉浦莉起 (著)
出版社 : 祥伝社 (2018/12/12)、出典:出版社HP

P&G式 伝える技術 徹底する力 (朝日新書)

P&Gで必須となる3つのスキルを学ぶ

P&Gの良い点が実際にどんな利益をもたらしているか、どう生かされているのか、が具体的に詳細に書かれています。P&Gや外資系消費材の会社自体に興味がある方、ビジネススキルやコミュニケーションについて学びたい方々に参考になる良書です。

はじめに

この本は、私がP&Gで働いた23年間で、学び体感したこと、そして、私が広報部長の役職であったからこそ見えた、P&Gという会社が170年間成功を続けてきた理由、ひいてはP&Gという企業の”本質”を語るものです。
しかし、この本の目的はP&Gという企業を紹介し、就職や転職先の人気企業にしようということではありません。P&Gという企業にはとても合理的で効果的な、ユニークな考え方やノウハウがあります。私が23年の間に体得したさまざまなこと—それがP&Gが素晴らしい企業でありつづける秘密ですが—それらをこの本を読んでいただく読者の皆さんにぜひ役立ててもらうために書きました。

P&Gという会社は実に素晴らしい会社です。170年以上にわたり成長を続け、その社員たちは皆いきいきと、消費者の方々の「生活をより良くする」ことを目的に働いています。
一人ひとりが、どんな考え方で、何を目指し、どのような努力をしているのか?上司は部下に何を語り、何を教えるのか?経営者は組織をどう導くのか?P&Gには、170年にわたる成長という事実に裏打ちされた、確固たるノウハウがあります。しかも、それらはすべて、誰もが、今日からでも始められる簡単なことばかりです。

「自分のスキルを上げることに意欲を持っているすべてのビジネスマン」、
「自分の組織の能力を高め、結果を生み出したい管理職の方々」、そして、
「グローバルビジネスをこれから展開する企業の経営者の皆さん」。

この本は、そんな意欲を持つすべての方々に、ご自身の経験や考えと照らし合わせながら読んでいただき、そして、「明日から何か1つ、違うことをやる」ということを具体的に見つけていただければ、著者として嬉しい限りです。

2011年1月 高田 誠

P&G式 伝える技術 徹底する力・目次

プロローグ
・170年で創り上げた、800億ドルのビジネス
・日本の市場を変えた革新的技術とM&A戦略
・P&Gに根づく企業理念(考え方・ノウハウ)
・「コミュニケーション力」という秘密

第1章 「伝える技術」で、「考える技術」を学ぶ
—コミュニケーションカの礎、「論理力」の磨き方
(1) 「3つにまとめる」のがP&Gのコミュニケーション
・コミュニケーションの礎は論理力
・すべてを3つのポイントにまとめる
・まずは書いて、3つにまとめる
・論理的なコミュニケーション力が、ビジネスの成否を決める
・状況が複雑な時こそ、「3つにまとめる」ことが効果的
・なぜ「3つ」、なのか?
・メッセージトライアングル
・「3つにまとめる」習慣で、自信を持って発言できるようになる
・リーダーシップにも不可欠な「3つにまとめる」論理力
・習慣になるまでやってみる

(2) 「目的」へのこだわりが結果につながる
・事業仕分けのように、日々問いただされる「目的」と「理由」
・すべての書類は「目的」の記述から
・「目的の確認」なしでは、プロジェクトを進めない
・議論が噛み合わない時こそ、目的を明確にする
・無駄な活動をなくすための2つの質問
・「目的」を定義する力—目的を明確にするのは、実は簡単ではない

(3) 「イシューシート」で焦点を絞る
・「イシュー(Issue)」=論点・課題・問題点
・「イシューシート」という手法
・イシューシートが解決した、商品化戦略の混乱
・イシューを明確にし、対処できる人が優秀な人

第2章 上司ではなく消費者がボス
—消費者とのコミュニケーションを徹底する仕組み
(1) ボスは誰なのか?
・合言葉は、「消費者がボス(Consumer is Boss)」
・「世界中で、同じ商品を売る」ことは可能か?
・「消費者のために」から「消費者がボス」へ
・髭剃りと洗剤——グローバルとローカルの両極にある商品
・消費者ニーズを掘り起こす調査のノウハウ
・質的調査で「何となく好き」という無意識を掘り下げる
・ファブリーズ——消費者が「諦めていたニーズ」を引き出す
・一消費者であり続けることが、成功への近道
・イノベーションへのこだわりが成長を支える
・「信じて、繰り返す」ことで理念が動き出す

(2) ブランドビルディングで心をつかむ
・売上10億ドルのブランドを、23持っているP&G
・社会的な価値も生み出す、これからのブランドビルディング

(3) どんな企業なのかを知りたい消費者
・欧米と日本における企業ブランドに対する意識の違い
・企業広報で問われるのは企業の本質、化けの皮はすぐに剥がれる
・サステイナビリティ—経済と環境は両立する
・環境への重大なる責任=間違った一歩は踏み出さない
・「P&Gだからこそできる社会貢献」を実践する

第3章 全世界8万人の社員に「目的」を浸透させる
—「信じて、繰り返し、徹底する」組織マネジメント
(1) 全社員が1つの目的のために働く
・Improving Consumers’ Lives—なぜ、企業「理念」ではなく「目的」なのか
・正しい目的を、徹底して繰り返し語る
・目的を仕事の「判断基準」とするための、組織全体のカスケード
・目的は「やりがい」につながる
・消費者からの「一通の手紙」に、確かな手応えを感じる
・今の学生は、より「社会的な意義」を重視する
・目的を全社員で共有するために大事な3つのポイント
・「目的」があって、利益という「結果」がついてくる
・ビジネスチャンスの時こそ、「目的」に立ち戻る

(2) Do The Right Thing (正しいことをする)
・プライドを持って働くために
・「The Right Thing」の「The」に込められたメッセージ
・徹底した法令順守が、グローバル企業にとって必要不可欠な理由
・「新発売」の定義は? ——「正しい広告」の追求
・「正しいこと」を社内に浸透させるための広報部の役割
・「正しくないこと」には厳しく対処

(3) P&Gは「社員」で成り立っている—一人ひとりを尊重
・上司は部下に「あなたが大切」と伝え続ける
・会社と社員のWin—Winの関係の肝も、コミュニケーション
・なぜP&Gは女性が働きやすいのか?
・上司に欠かせない、部下に対する「Demand」と「Care」
・ワークライフバランス人生の充実なくして、仕事の成功なし

第4章 グローバルなコミュニケーションノウハウ
—ツールとしての「英語」を、いかに使いこなすか
(1) なぜ、英語を使うのか?
・英語は業務上のコミュニケーションツール
・英語によるコミュニケーションのデメリット
・英語を使うメリットの3ステージ
・翻訳の過程において、言葉の意図が特定される
・プロジェクトの質を高める、グローバルな情報交換
・成功事例の活用は、イノベーションに匹敵する
・「中軸ビジネス」と「よく知らないビジネス」のバランス
・社内で有用なコミュニティを作り、維持するための仕組み

(2) 「知識」を創ることから始まる
・P&Gはまるで「学会」のように知識を集積する
・「Learnings」=”学び”を意識するということ
・「Learnings」とノウハウのまとめ方のコツ
・組織全体で取り組まない限り、ノウハウは蓄積されない

(3) 日本人がグローバルになるために
・「自分だけ」で考えようとする、日本人の島国根性と遠慮の意識
・「こっち」「あっち」という言葉は禁句
・「自ら情報提供」「顔と名前を売り込む」「手柄を語る」ー日本人がグローバル企業で成功するためにやるべき3つのこと
・グローバル組織の成功も、結局のところ人間関係で決まる
・会社の大小にかかわらず、大切なのは社内のコミュニケーション

第5章 なぜ170年以上も成長を続けられたのか
—大企業病を防ぐ秘訣
(1) 「二番ではダメなんです」
・「一番になること」、それがP&Gであるという信念
・「一番になること」は企業目的として明文化されている
・中国でP&Gを急成長させた、たった1つの秘訣
・社内で「喜び」を共有する仕掛け——成功が成功を呼ぶ
・どうすれば「強み」を自覚し、それを徹底して実践できるのか
・「小さいこと」も十分な強みである
・「強み」を具体化して考える方法

(2) 自分たちは大きな象
・「簡素化」と「スピード」——大企業病を回避したP&Gの取り組み
・社内で「抱え込まない」で、社外の能力を積極的に取り込む
・「シグモイドカープ」を描き続けて、大企業病を防ぐ
・常に「不満足」で、次にやるべきことを考える習慣
・意識的に外に目を向けなければ、マーケットの変化は察知できない
・「変わりつづけること」が、成功をつづける鍵

(3) 一人ひとりが力をつける
・P&Gの社員が「仕事ができるようになる」ためにしている2つのこと
・「今日勝つことと、若手を育てることの両立」をどう達成するか
・自分の成長には、自分が責任を負う
・上司の重要な仕事は、部下の「役割」を明確に定義すること
・コーチングとは、部下に任せ、部下のコンサルタントのように接すること
・人が育ち、人を育てる企業であるために

おわりに

図版作成
加賀美康彦

カバーデザイン
アンスガー・フォルマー
田嶋佳子

P&Gウェイ―世界最大の消費財メーカーP&Gのブランディングの軌跡

経営学・マーケティングの教科書的な企業の事例を学ぶ

本書はマーケティングの神様として名高いP&Gの成功事例から最近のマーケティング戦略まで「P&G流ブランディング」の本質が語られた名著です。P&Gのブランド構築の秘訣を徹底的に解明しています。ブランド戦略やマーケティング戦略を極めたい方にお勧めします。

デーヴィス ダイアー (著), ロウェナ オレガリオ (著), フレデリック ダルゼル (著), Davis Dyer (原著), Rowena Olegario (原著), Frederick Dalzell (原著), 足立 光 (翻訳), 前平 謙二 (翻訳)
出版社 : 東洋経済新報社 (2013/6/28)、出典:出版社HP

まえがき

本書は、プロクター&ギャンブル(P&G)が一六五年前のオハイオ州シンシナティで創立されてから、プランド消費財の世界的リーダーとなった今日までの歴史と運命を綴ったものである。
本書の編纂にあたっては、二つの目的があった。第一の目的は、P&Gの発展の歴史を綿密に検証することである。これまでもP&Gについては多数の本が出版されてきたが、注目に値する内容を記したものは皆無であった。P&Gは現在、消費財業界において世界的に最大かつ最も影響力のある企業の一つであり、現代の消費社会・文化に対して幅広く影響を及ぼしている。P&Gが今日の姿になるまでの変遷を理解することは、地球上の大多数の人々の現在の生活の基盤となっているグローバル化した経済の発展を理解するのに大いに役立つと考える。
第二の目的は、P&Gの事業の中核を占める消費者向けプランド構築という点において、これまでの成功の要因を明確化することである。われわれは、プランド構築に関してP&Gの教訓となった主要な出来事やエピソードを調査することにより、この目的を達成できたと信じている。P&Gは新ブランドの市場への投入、新たな地域への進出、新たな能力やより優れた経営手法の開発、低迷したプランドの回復などに果敢に挑みながら、困難な挑戦と変化に満ちあふれた時代の中で、成功するプランド構築・維持の方法について学習してきた。これらの時代背景とそこでP&Gが学んだ教訓を浮き彫りにすることで、経営能力と戦略的競争優位の源泉としてのブランド構築に関して、読者の理解を深めることに少しでも貢献できればと考えている。

本書では、創業当時よりも近年の歴史に焦点を当てながら、P&Gの歴史を四部に分けて描き出している。第Ⅰ部では、一八三七年のシンシナティでの創業から二〇世紀半ばまでのP&G最初の一〇〇年を、初の大ヒットブランドとなった「アイボリー(Ivory)」と、メガブランド「タイド(Tide)」の誕生に焦点を当てて詳説した。第Ⅱ部では、P&Gが幅広い消費財へ(時には買収を通じて)事業を拡大し、南米、西ヨーロッパ、そして日本へ進出していった一九四五年から八〇年までを描いている。第Ⅲ部では、P&Gが特に極東地域においてグローバル展開を加速させ、生理用品の「オールウェイズ(Always/ウィスパー(Whisper)」、ポテトチップスの「プリングルズ(Pringles)」、ヘアケアの「パンテーン(Pantene)」などの初めてのグローバルブランドを開発した一九八〇年代を追った。第Ⅳ部では中国市場への参入、そしてインターネット・Eコマースの出現、大規模小売店の台頭など、P&Gが多くの機会と挑戦に取り組んだ一九九〇年以降について考察している。
各部の初めの章では、それぞれの時代にP&Gが経験した物語の概要を記し、続けてブランド・市場拡大・経営改革などの特定の教訓に関するエピソードを記している。
プロローグとエピローグでは、P&Gの歴史を通じて一貫した特徴、そしてP&Gがこれまでに確立してきたブランド構築に関する原則を明らかにしている。

本書の企画は一九九〇年代にP&Gの経営陣が、過去数十年の成長と変化をまとめた企業としての新しいプロフィールが必要であると考えたことに端を発する。経営陣は組織に蓄積された記録が失われるのを防ぐとともに、P&Gが過去に大きく規模を拡大し、グローバル化した歴史の中での共通の知識を社内に定着させたいと考えていた。
調査・執筆に着手するため、P&Gは二〇〇〇年にウィンスロップ・グループと契約し、われわれ三人が共著者として作業チームを結成した。本書の発行を支援してくれた、P&GのCEOであるA・G・ラフリーと彼の前任のダーク・ヤーガーとジョン・ペッパーには、感謝の意を表したい。また、P&Gのグローバル広報部門役員であるシャーロット・オットーにも、熱心な支援と激励をいただいたこと、P&Gに関する深い知識を提供していただいたこと、そして示唆に富む指摘を見事な腕前で披露してくれたことに感謝している。
ジョン・ペッパーとシャーロット・オットーに加え、何人もの元・現P&G社員が非公式に助言を与えてくれた。なかでも、ギビー・キャリー、ギル・クロイド、ボブ・マクドナルド、エド・ライダー、ジョン・スメール、クリス・ワーモスには特に本書の編纂に協力していただき、特筆すべき助言をいただいた。調査すべき重要な話題やテーマを指摘してもらい、われわれが袋小路に迷い込むのを防ぎ、さらに最初と最後に詳細に原稿をチェックしていただいた。彼らとともに働くことができたことは、われわれにとって名誉であり喜びである。
本書を取りまとめるにあたっての調査は、シンシナティ本社と世界各地の支社での調査と公文書の調査に基づいている。シンシナティのP&G資料室はP&Gの歴史的史料の宝庫である。われわれは公文書保管人リーダーのエド・ライダーと彼のスタッフ(ダイアン・ブラウン、エイミー・フィッシャー、バーブ・ヘムサス、グレッグ・マッコイ、リサ・マルベニー、ナンシー・アスマン、ダイアン・ワグナー、ならびにインターンとして本プロジェクトの初期に配属されたジョー・シングルトン)との密接な協力関係の下に作業を進めた。われわれは専門家である彼らに対して、数え切れないほどの依頼と質問を行い、常に素早い回答をもらい、そして、大量の資料を提供してもらった。本を執筆する際の調査が本書の場合ほど順調であったことはない。
数多くの元・現社員は気前良くインタビューの時間を割いてくれ、重要書類を提供してくれたり調べてくれたりした。協力してくれた元・現社員の名前は多すぎて全員をここに掲載することができなかったが、われわれは多方面にわたって貢献してくれた彼らに感謝の意を表したい。実に多くのことを教えていただいた。一見すると複雑だが、ひもとくと互いに関連し合ったストーリーを、わかりやすく丹念に解説していただいた。

本書の主なテーマは、伝説に残るほど有名なP&Gの規律正しさと、徹底したビジネスへの取組みである。われわれはP&Gのそのような姿勢を実際に幾度となく目の当たりにした。それは、すでにその名前を記述した方々も含めて、多くの元・現P&G社員たちと直接会い、原稿への入念なコメントや助言をいただいている最中のことだった。本当にコメントを寄せ、修正を行い、助言もしてくれた以下の方々に感謝の意を表したい。ジェフ・アンセル、ディック・アントワン、サンディ・アルガブリト、エド・アーツト、ウォルフガング・バーント、トム・ブリン、ドン・キャンベル、マーク・カラー、アル・コリンズ、ゲイリー・カニンガム、スティーブ・デイビッド、ダグ・デデカー、ジム・エドワーズ、ラド・ユーイング、チャック・フルグラフ、ハラルド・アインスマン、ストナ・フィッチ、ボブ・ギル、クリス・ハッサール、キース・ハリソン、デブ・ヘンレッタ、ピーター・ヒンドル、クリス・ホームズ、グレッグ・アイゼンハワー、マイク・キーホー、マーク・ケッチャム、キース・ローレンス、ゲイリー・マーティン、ロブ・マテウッチ、ボブ・ミラー、シェカール・ミッタラ、ジョージ・モントや、トム・ムーチョ、リサ・オーウェンス、ディミトリー・パネオトポロス、ローレント・フィリップ、ポール・ポルマン、リズ・リッチ、ナビル・サッカブ、クロード・サロモン、ヘルベルト・シュミッツ、ボブ・シート、ジム・シッソン、デイプ・スワンソン、ジョン・トレイシー、ベレニク・ウルマン、ジョン・ヤン。
彼らが提供してくれた情報の量の膨大さと質の高さに、つい思い出す一文がある。それはある著書の同様に長い謝辞の後に添えられた、ユーモラスな次のような一文である。「もし本書に誤りがあったとしても、それは私の落ち度ではない。これだけ緻密なチェックをして、まだ誤りがあったとしても残念だが、誤りは免れない。決して誤りをなくそうとした努力が足りなかったわけではない」。この言葉にはずいぶん救われた。

本を執筆する喜びの一つは、友人や同僚と本について議論していく中で本の内容がまとまっていき、友人や同僚からの質問やコメントにより、さらに鋭いひらめきが触発されて、新たな調査の手段を考えつく瞬間である。われわれはウィンスロップ・グループにおいて、P&Gとその歴史的進化に関する数多くの刺激的な議論をマーガレット・B・W・グラハム、ティモシー・ヤコブソン、ジョージ・スミスらと楽しんだ。われわれはまた、本書の中心的な考えに関して、友人であるアルフレッド・D・チャンドラー、アラン・カントロウ・ジュニア、ジョシュア・マーゴリス、ニティン・ノーリアと議論を行った。
P&Gは本書のサポートを寛大に行ってくれたが、本書の構成・テーマ・解説・結論などはすべてわれわれ執筆者の責任である。また、特別な見返りもなく、原稿の出版合意前に本書のレビューを行ってくれたハーバード・ビジネス・スクール・プレスに対して、なかでも同社の編集者であるジャック・マーフィー、ホリス・ヘイムボウと、示唆に富み徹底的な校閲を行ってくれた四人の担当者の方々に感謝の意を表したい。

最後になるが、愛するわれわれの家族の理解がなければ、本書が完成することはなかったことを書き添えておきたい。ジャニス、リッキー、ベラ、メアリー・エリス、アピー、モリー、チャールズ。このプロジェクトに対する彼らの愛情・理解・支援そして忍耐に感謝する。

デーヴィス ダイアー (著), ロウェナ オレガリオ (著), フレデリック ダルゼル (著), Davis Dyer (原著), Rowena Olegario (原著), Frederick Dalzell (原著), 足立 光 (翻訳), 前平 謙二 (翻訳)
出版社 : 東洋経済新報社 (2013/6/28)、出典:出版社HP

P&Gウェイ——目次

まえがき

プロローグ P&Gの進化を支えた三つの時代と五つのテーマ
■三つの時代
■五つの能力

第Ⅰ部 黎明期(一八三七〜一九四五年)

第1章 P&Gの誕生(一八三七〜九〇年)
■コモディティ時代
■戦略的優位性の創造
■訪れた転機
■新しい事業機会
■一八三七〜九〇年という時代

第2章 企業基盤の確立(一八九〇〜一九四五年)
■株式公開へ
■生産能力の拡張
■ブランディングの重要性
■研究開発の拡充
■ブランドマーケティングを進化させる
■クリスコ——マーケティング戦術の成熟化
■小売店への直接販売へ
■すべてを統合する「ブランドマネジメント」
■嵐の中へ——一九三〇〜四五年
■一八九〇〜一九四五年という時代

第3章 伝説的ブランド——アイボリーとタイド
アイボリー——ブランドの始まり
■アイボリー石鹸の誕生
■アイボリーのマーケティング戦略
■競争優位の確立
■一八八六〜一九○○年——マーケティングメッセージの統一
■消費者との直接コミュニケーション
タイド——P&Gウェイの確立
■タイドの研究開発
■リスクを恐れない
■ブランディング強化
■生産体制の拡充
■タイドの大旋風
■記録的な大成功
■タイドの成功要因

第Ⅱ部 P&G流マーケティングの確立(一九四五〜八〇年)

第4章 各種消費財への事業拡大(一九四五〜八〇年)
■第二次世界大戦後
■事業部の設立
■既存事業の拡張と新規事業への参入——一九五〇〜六〇年代
■column もう一つの成功法則——ダウニーとフォルジャーズの例に学ぶ
■テレビ広告におけるリーダーシップ
■広告代理店とのパートナーシップ
■海外進出の成功
■独占禁止法——予期せぬ障害
■環境問題
■column リライ危機
■一九四五〜八〇年の位置づけ

第5章 伝説的ブランド——クレストとパンパース
クレスト——オーラルケアの革命ブランド
■歯磨き市場とフッ素の研究開発
■クレストと大学研究所の提携
■オーラルケア事業とクレストの位置づけ
パンパース——一〇億ドルブランドの誕生
■黄金期の到来

第Ⅲ部 世界市場への進出(一九八〇〜九〇年)

第6章 グローバルへの展開(一九八〇〜九〇年)
■変化をマネージする(一九八〇〜八五年)
■column 忍耐が生んだプランド、プリングルズ——グローバルプランドへの軌跡
■組織改革と業績回復(一九八五〜八九年)
■column 西ヨーロッパでの躍進と教訓
■一九八〇〜九〇年の位置づけ

第7章 日本市場での教訓
■日本市場への参入
■苦難に満ちたスタート
■一大飛躍
■日本市場での競争の「再」学習
■日本での経験で学んだこと

第8章 伝統的ブランドーパンテーン
■背景——P&Gのヘアケア事業
■革新的テクノロジーBC-18
■市場導入——製品化の決定
■第二ラウンド——パンテーンへの応用
■パンテーンのグローバル展開
■パンテーンの成功に関する考察

第Ⅳ部 縮小市場での模索(一九九〇年〜)

第9章 一九九〇年代の組織改革
■全速前進(一九九〇〜九五年)
■二一世紀に備える(一九九五〜九八年)
■「オーガニゼーション二〇〇五」
■組織改革の余波
■column アイムス買取の成功秘話
■予期せぬ危機
■現状復帰
■一九九〇年以降の位置づけ

第10章 サプライチェーン再構築
■取引先との関係悪化
■社内システムと対外的関係の見直し
■ウォルマートとのパートナーシップ
■得意先との関係構築
■サプライチェーンの共同実験
■改革の拡大
■劇的な改革の一○年
■サプライチェーン再構築の位置づけ

第11章 ブランドの再生——アイボリー、クレスト、オレイ
■アイボリー——純粋に潜む矛盾
■クレスト——ブランドの復活
■オレイ——一〇億ドルブランドへの飛躍
■ブランドエクイティの再定義

第12章 中国への進出
■市場参入までの道程
■市場参入戦略
■事業基盤の構築
■パートナーシップの構築
■洗剤事業の立ち上げ
■さらなる成長と中国企業の追撃
■北京テクニカルセンターの設立
■オーラルケア——クレストの成功
■洗剤事業の立て直し
■中国事業の位置づけ

エピローグ ブランド構築の原則
■経験を通じて実証された原則

解説・訳者あとがき
年表

デーヴィス ダイアー (著), ロウェナ オレガリオ (著), フレデリック ダルゼル (著), Davis Dyer (原著), Rowena Olegario (原著), Frederick Dalzell (原著), 足立 光 (翻訳), 前平 謙二 (翻訳)
出版社 : 東洋経済新報社 (2013/6/28)、出典:出版社HP

P&Gで学んだ経営戦略としての「儲かる人事」

経営手法としての最適・最強の人事システムとは

実践型で、人材マネジメントの話をちゃんと読むことができる本です。具体的な方法が多くの事例でわかりやすく解説されています。経営者はもちろん、部門責任者、部下を持つ上司に役立つノウハウがぎっしりの一冊だと思います。

松井 義治 (著)
出版社 : CCCメディアハウス (2019/3/1)、出典:出版社HP

はじめに

中小企業経営者の多くは、「人事」とは人材がたくさんいる大会社に必要なものであって、中小企業には無用の長物と思っているように見えます。
これは、大きな勘違いです。
欧米企業では、人事のことをHRM (Human Resource Management : ヒューマン・リソース・マネージメント)といいます。
HRMという名称は日本でも根付いているようですが、ヒューマン・リソースというと、「人事」というよりは「人的な経営資源」と捉える人のほうが多いように思います。
経営資源とは、広義にはいわゆる「ヒト、モノ、カネ」のことです。
そして、経営資源を最大限に活用して、企業の設立目的や社会的使命を果たすためのグランドデザインが「経営戦略」ということになります。
「ヒト、モノ、カネ」という経営資源に関心を払わない経営者はいないでしょう。
なかでも「ヒト」という経営資源を最も効果的に活用できる経営者、社員に最大の能力を発揮させることのできる経営者こそ、経営手腕のある人なのです。

経営手腕は多くの経営者が求める力です。ところが、こと「人事」となってしまうと、とたんに「ヒトゴト」になってしまう経営者が多い。
同じ「人事」でも、人事権に無頓着な経営者は企業の大小を問わず皆無ですが、人事戦略・人事施策となるとにわかに関心が下がってしまうようなのです。
ピーター・ドラッカーが言うように「経営とは人を通じて成果を出す」ことですから、人事とはまさに企業経営に他なりません。
人事というと、日本では人員の確保や適材適所の配置、昇進・昇格の評価など信賞必罰・論功行賞の後処理を行うものと考える人が多くいます。これは間違いではありませんが、手段と目的を混同しているともいえます。
人事の目的は、会社のミッションを達成するために人の意欲を高め、最も生産性高く働けるようにすることです。
人事異動や信賞必罰の評価・処遇は、そのための手段であることを忘れてはいけません。
人事戦略、そして人事施策とは、企業が儲かるための経営ツールのひとつです。せっかく業績を上げる有効なツールがあるにもかかわらず、誤解や無関心によって使わないのは、文字どおり宝の持ち腐れといえます。

人事の目指すところは、企業の目標達成に貢献する人材をつくる(よい人材を採用し、よい人材に育てる)ことですから、規模の大小には関係なく、優れた会社には優れた人事システムがあるものです。
つまり、人事とは本来、「儲かる(会社にするための)人事」ということになります。
中小企業経営者が、業績を上げたい、優秀な人材が口では欲しいと言いながら、人事戦略・人事施策を無用の長物と見なすのは、収穫は欲しいが農地は耕さないと言っている農家と同じで、ひどく矛盾した話です。
私は長く人事の世界に身を置いてきて、とくに中小企業経営者の「人事の誤解」について、機会があったら一度まとめてみたいと思い続けてきました。今回、このテーマで執筆を依頼されたとき、真っ先に考えたのもこの点です。
「人材なくして企業なし」という言葉はよく聞きますが、私は「人事なくして人材なし」と言っています。
しかし、多くの中小企業経営者から、「そうは言っても、わが社に人事スタッフなどいないよ」という反論をいただきます。
ところが、ここにも大きな勘違いがあります。
たしかに日本の大手企業(あるいは役所)には、人事部という部署が存在します。人事制度づくりやその運用は、もっぱら人事部の仕事であり、昇進・昇格や異動のシーズンになると全社員の目が人事部に集まるものです。
しかし、この人事部というセクションが組織にとって絶対に不可欠かというと、私は必ずしもそうは思っていません。
私はP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)で採用・人材育成など、いわゆる人事や組織開発のリーダーを務めましたが、P&Gの基本的な人事はラインで完結します。
つまり、たとえばマーケティング部の中での評価、昇進、教育はラインのリーダーの仕事であって、人事部の役割はリーダーによって評価の偏りが出ないよう、組織としての不動の評価軸や枠組みを示すことにあります。
人事は原則、部門のライン・リーダー、マネージャーが果たすべき務めです。
部下のことは、最も身近にいる上司が一番よく知っているはずです。それは日本でも欧米でも同じです。したがって、上司には部下の動機付けから評価、処遇、育成まで責任をもってやらせるべきだと私は考えています。
私は、このP&G方式の人事は、人事スタッフに人を割けない日本の中小企業にこそ有効な人事システムだと考えています。
P&Gをはじめとして外資系企業は、会社としては世界規模のグローバルカンパニーですが、日本法人は意外に中小企業規模並みです。つまり、外資系の人事システムは中小企業の人事システムとも言えるのです。
ですから、中小企業であっても、効果的で生産的な人事は、各部署のリーダーがもう少し目配りと気配りをすればできると私は考えています。「いや、それもP&Gだからできることで、わが社の部課長にそれができるだろうか」と、なお不安な経営者もいるかもしれません。
しかし、できない最大の原因はやらないことにあります。

人事戦略・人事施策は、トップの決断があれば、ほぼすべて実行可能です。有能なスタッフがいなければできないわけではありません。
肝心なのは、まずトップ自身が人事について正しく知ることです。
本書は、中小企業だからできる人事について、できるだけわかりやすく、論理よりも行動を重視して紹介・説明しています。
人事の力とは、自社の求める人材をつくり、長期には企業の理念やビジョン(夢)を達成する力であり、短期には目標達成のためにパフォーマンスを高める力です。これらは、すなわち経営者の力に他なりません。
ビジネスの基本は巧緻より拙速。本書は人事の専門家ではない読者に考慮し、正確さを追求してわかりにくくなるよりはわかりやすさを重視し、あえて思い切った表現をとっているところもあります。
経営者にとって、人事を知ることは経営の力を得ることでもあります。
本書を読んでいただければ、その一端がおわかりになるはずです。

松井 義治 (著)
出版社 : CCCメディアハウス (2019/3/1)、出典:出版社HP

目次

はじめに

CHAPTER1 人事とは強い会社を創るシステムでなければならない
中小企業でもできるのがP&G方式の人事
人事なくして会社の成長なし
コストセンターからプロフィットセンターへ
生産性を上げるのも人事の仕事
人事の力とは企業価値を上げる力
社員の幸福と会社の利益は両立できる
中小企業の人事に求められる能力
残業時間を減らしても売上を落とさない仕組み
成果主義人事が必ずしも生産性に貢献しない理由

CHAPTER2 採用とは未来のリーダーを獲得するシステム
人材像なくして採用の成功なし、まず人材像を定めよう!
人材像は能力よりマインド、知識より行動重視で
採用を成功させるための基本ステップ
若者が3年で辞める原因は面接時につくられる
採用ツールを使って失敗を防ぐ方法
自社に合った人材を引き寄せる発信力
中小企業のイメージを生かした採用をしよう
中小企業の採用スケジュールのつくり方

CHAPTER3 新人がぐんぐん伸びる人事システム
新人を定着させる正しいオリエンテーション
配属先の上司は新入社員の一生を決める存在
社員には年にひとつは新しい分野にチャレンジさせよ
ダメ上司をマネージャーにしてはいけない
新人に求められる能力と育成計画の進めかた
人を育てる原則と人事の3つの大罪
人が育つ仕組みを持っている会社は強い
外資系企業に学ぶ執念で人を育てるGEの文化
新人であっても積極的にポジションを与えよ!
任せすぎは任せなさすぎに勝る

CHAPTER4 社員が自発的に動き始める人事システム
利益は行動からしか生まれない
結果ばかりを評価するとかえって利益を取りこぼす
仕事はチームでやるものチームを強くする6つの要素
社員の前進を促す人事評価のしかた
報酬は大切、しかし報酬で人は成長しない
コミュニケーションを人事評価の対象とせよ
長期的な成長を促すキャリアパスを示そう
地球をステージに活躍する人をつくる人事

CHAPTER5 人を伸ばす・組織を生かす人事システム
組織づくりはまず要のリーダーづくりから
ラインのリーダーを生かしてこそ組織が生きる
経営陣を成長させる評価制度をつくれ
後継者を若いうちから鍛えるサクセッション・プランという人事戦略
人は仕事で成長する効果的なアサインメント計画の立て方
人を伸ばすには段階に応じた働きかけが必要
人を生かすためのマインドを上げる力
ダイバーシティはビジネスチャンスをつくる武器

CHAPTER6 人事の力とは社長の力
人事でよくある社長の勘違い
中小企業では評価の基準は社長の価値観
信賞必罰は社長の決断
孫子の兵法を人事的な目で見ると
社長という職務に定年は必要か
社長ほど社員のことを見ている人はいない
中小企業だからこそ「儲かる人事」は社長次第ですぐできる

あとがき

松井 義治 (著)
出版社 : CCCメディアハウス (2019/3/1)、出典:出版社HP

P&G式 世界が欲しがる人材の育て方――日本人初のヴァイスプレジデントはこうして生まれた

P&Gの戦略的な人材育成が明らかに

マーケティングに優れているP&Gの、日本での草創期における日本人女性の葛藤がよくわかります。マーケティングにたずさわる人には非常に興味深い内容になっています。P&Gの日本支社で初の女性管理職になった和田さんの成功体験がとても参考になります。

目次

P&G式世界が欲しがる人材の育て方
目次
プロローグ P&Gの強みは人材育成

[第1章] 「暗黙の了解」も自分次第
キャリア以前~ジュニア時代
1 P&Gとの出会い
「自分で選べ」という教育方針
「暗黙の了解」も自分次第
英字新聞で見つけた「秘書募集」の広告
ブランドスペシャリストという肩書き
これは仕事ではありません
目的は何ですか
「和田さん、お茶当番よ」

2 ワンページメモ
メモはワンページにまとめなさい
グッドメモを真似る
話すように書けばよい
パワーポイントの落とし穴
形式的な議事録は無駄
コミュニケーション力は人を動かす力
最初に営業部門でトレーニングしない理由
営業とは説得すること
担当ビジネスへの関心度を上げる
四の五の言わずにやる姿勢
いつまでもいると思うな親とボス

[第2章] 育つ社員しかいらない
ブランドマネジャー~マーケティングマネジャー時代
1 人材は自前で育てる
部下を育てる
全員で人材育成
内部昇格制にこだわる
魚の釣り方を教える
教えることで自分も育つ
期待されるスキル
評価は「成果」と「能力開発」で
P&G、日本から撤退?
日本というマーケットを見つめ直す
生まれ始めた使命感
私のいるべき会社はこの本の中にある

2 リクルーティング
育つ社員しかいらない
リクルーティングに品質管理のアプローチ
男女比は3:3で
百聞は一見にしかず
面接のトレーニング
アメリカMBAで学ぶアジア人学生の面接

3 プロジェクト
新生P&Gの象徴、「ウィスパー」
「P&G英語」の研修
結論が先
ファクトブックを使って
身の丈以上のプロジェクト
OJTで身につく戦略的思考
実現させるのが難しいからこそ良いアイデア
プロジェクトの任せ方
リーダーに求められる「見えないものを見る力」
ミス・ウィスパー
競合が決めたルールで勝負はしない
人を巻き込むためにヴィジョンを共有する
ウィスパーという人材育成工場
ウィスパーカレッジ
アメリカMBA学生が驚いた日本人女性のマネジャー

[第3章] リカバリーショット主義
ヘアケアへの異動~マーケティングディレクター時代
1 チーム再生
新しいチャレンジヘ
はじめに課題ありき、はじめに組織ありき
マイナスからのチーム再生
内向き、外向き
不思議なチームビルディングのゲーム
失敗から学ぶことを妨げるヒエラルキー
グローバルの波と戦う その1 勝ちの巻
グローバルの波と戦う その2 負けの巻
グローバルの波と戦う その3 勝ちの巻
「日本の消費者」がアドバイザー
グローバルなチーム体制
アジア・パンテーンブランドチームをリード

2 上司と部下
エクイタブルな能力
消費者に一番近いのは誰か
「王様」を理解する。
「変な会社」
やってみてできなかったことも良い経験になる
再現性
ノー「NO」でブレインストーミング
メガブランド「パンパース」
リカバリーショット主義
上司をマネージする
できない上司の場合
成功したチームも発想を変えることは必要

[第4章] 人とブランドさえ残ればいい
ジェネラルマネジャー時代~現在
1 リーダーシップ
大地震に試されたP&Gの組織力
奇跡的なリカバリー
「P&Gには人とブランドさえ残ればいい」の本当
メンター制度
パンパースの危機
V字回復
大きな問題の正体
3Eリーダーシップモデル
昇進と自己改革|
経営戦略に合わせて業績評価基準をアップグレード
リーダー人材の育成
外国人を育てる
社内コンサルタント
日本を学ぶ

2 ダイバーシティ
日本人初のヴァイスプレジデントに
トップの激励
女性をもっと活性化させるために
WSWから生まれたもの
日本のダイバーシティ
女性は通訳という偏見
ダイバーシティが可能にしたこと
合意しないことに合意する
3年間のP&G生活
「やってやろうじゃないの」の精神
美学を持つ
ミス・ウィスパーに羽根が生えた日

終わりに