教養として学んでおきたい能・狂言 (マイナビ新書)

【最新 能・狂言の楽しみ方について学ぶためのおすすめ本 – 観劇前でも後でも役に立つ知識】も確認する

能・狂言への第一歩

伝統古典芸能である能や狂言に親しみたいと考えつつも、どこか苦手意識を感じている方は少なくないでしょう。そんな方々が一歩踏み出すことができるように、本書では能や狂言について一から丁寧に解説していきます。この本を読み終わったらきっと能楽堂に行きたくなります。

教養として学んでおきたい能・狂言

目次

はじめに
第一章 能楽堂へようこそ
能・狂言は能楽堂で初体験したい
能楽堂という空間の魅力
能楽堂、はじめの一歩
能楽堂は木の香りから楽しめる
能楽堂の舞台を眺めてみる
能楽堂の静けさを体感する
チューニングから舞台が始まっている

第二章 能が始まります
能『国西」を楽しむ
『国西」のあらすじ
物語の進行と見どころ
能は想像しながら見る
登場人物を想像する
前半のハイライト「站之段」
想像しないと、作品に近づけない
シンプルだからこそ想像の範囲が広がる

第三章 ドラマチックな歴史物語
能の分頑
歌舞伎では「勧進帳」で知られる『安宅」
能『安宅」の見どころ
能『安宅」を掘り下げる
投若が出てくる『道成寺」
能『道成寺」を掘り下げる

第四章 任言が始まります
狂言はなぜ親しみやすいか
緊張と緩和
狂言「」を見る
物語の展開
『卑」の人間関係を考察する
任言は親しみやすい?
太郎冠者ものさまざま
太郎冠者の装束
第五章 女わわしく男はつらい
わわしい女たち
狂言「千切木」にみる夫婦の形
ここを問えども留守という
『千切木」の夫婦像
つらい男の理女任官
「船模型」にみる男のつらさ

第六章おすすめの能楽
おすすめしたい能楽
『翁」、そして一番目物―神様に捧げる呪術的な作品
二番目の前に協任言
二番目物
三番目の前に大小名任官
三番目もの――幽玄とは
女(三番目)と任(四番目)の間は彈女狂言
四番目は「正」そして雑?
鬼山伏に出家に集任官
五番目―または鬼畜能・切能

第七章 あらためて能楽とは――そもそもの話
能役者の解雇
もとは「哀楽」と呼ばれていた
猿楽の能
狂言椅語
ちょっと一息「猿」について
秀吉の能住い
パトロンの始まりは足利義満
世阿弥のジェットコースター人生
「花伝書」ってなんだろう
家康・将軍家の能比護
なぜ拍手をしない?

第八章 能来について知っておきたいこと
家や流派について
人間国宝とはなんだろう
能楽界個人への栄誉さまざま
栄雪報道から関心を持つ
自分の目と耳
能以外の古典芸能の歴史―日本の伝統芸能さまざま――
能楽からの派生
貴人口の教え
あとがきにかえて
参考1能楽についての情報の入手先
参考2番組(プログラムやチラシ」の書き方、読み方
参考3さまざまな上演形態
著者プロフィール

◆本文中には、などのマークは明記しておりません。
◆本書に掲載されている会社名、製品名は、各社の登録商標または商標です。
◆本書によって生じたいかなる損害につきましても、著者ならびに(株)マイナビ出版は責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。
◆本書の内容は2020年3月末現在のものです。
◆文中敬称略。
本書はリフロー形式で制作されています。本文は文字の書体と大きさを変えることが出来ますので、お好みの設 定で読書をお楽しみください。

はじめに

本書を手に取った人は、能と狂言=能楽についてなんとなくのイメージがあるか、テレビでちらっと見た程度 の人が、ほとんどかもしれない。そこから実際に観る。その一歩が進まないのは「難しそう」「敷居が高い」と いう理由のためだろう。しかし、実際は海外旅行に行くよりも、ゴルフや登山の道具を買い整えるよりも、簡単 に能楽への一歩を踏み出せる。この本を手にしたいまがその最大のチャンスで、軽々と足を運べる、そんなきっ かけにしてほしい。
「教養」という文字に、わたしたち世代は心そそられる。もちろん本を読むより先に能楽堂へ行きさえすれ ば、能楽は体感できるものだし「百聞は一見にしかず」。古典ではあっても演劇だ。ぜひ、一度は触れてほし い。ただその一度が「もう二度と行くもんか」になってほしくない。能楽愛好者としては、ぜひ「また、行こう」「こんどは、これを見よう」となっていただきたい。そんな思いで書いてみた。
本文でも、繰り返し出てくるかもしれないが、わたしの信条は「難しいから面白い」である。能楽は、決して たやすくわかる芸能ではない。ちょっと触れただけでは、その真価は見えてこない。
ゴルフでもいきなりコースには出ない。練習場でのレッスンを重ねてからデビューする。それから、じっくり スコアを上げてゆく楽しみ。海外旅行の本当の良さは現地のことばを使い、出かけた先の歴史を踏まえて、風物に接すること。それらと同じように、能楽も歴史や和歌の解釈、作品への接し方や用語に慣れてこそ難解な印象 を取り払い、踏み込んだ面白さに感動することができる。
とはいっても、本書で難しいことを難しく解説するつもりはない。本書の目次項目から好きなところを選んで 流し読みし、改めて一章からお読みいただくこともおすすめするが、やはり順にページを繰っていただけるよう に工夫した。
初めから歴史や用語解説、そもそも話など重くなる項目を盛り込まず、わたしが大好きな物語の絵解き、能や 狂言のわたし流の楽しみ方を中心に紹介した。その部分に多くの文章を費やした。
テレビドラマや映画、海外ミステリー、もちろん歌舞伎や文楽(人形芝居)、商業演劇にオペラ・・・。こうした分野を好むわたしだが、その理由の一番は「物語の魅力」だ。
能楽にはそうした物語や演出(見せ方)の豊かさがぎっしりつまっている。その舞台を、わたしはこうやって 楽しんでいるという「絵解き」の方法を使った。非常に個人的な偏った見方かもしれないが、これを「想像力」 という文字を借りて繰り返している。そんな筆致におつきあいいただきたい。
なお「見所」という文字がたびたび出てくる。みなさんは「みどころ」と読むだろうが能では観客席のことで 「けんしょ」とか「けんじょ」という。そこからどう見えるかがポイントの一つ。 さらに「面」。通常は「めん」と読むのだが、能楽は能面、狂言面を使用する仮面劇でもある。「めん」だが 「おもて」と読み「面を着ける」(おもてをつける)ともいうが「面を掛ける」(おもてをかける)という。そんな能楽らしい表現に慣れていただくのもねらいなので、フリガナを多用し、安易に簡単な表現、表記をとらないことにこだわった。 少しでも教養らしさを感じていただけたらありがたい。

第一章 能楽堂へようこそ