門田先生の3Dプリンタ入門 何を作れるのか、どう役立つのか

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3Dプリンタの仕組みがよくわかる

技術教育講座の准教授で、ものづくりの市民工房「ファブラボ」のディレクターでもある著者が、3Dプリンタの原理や構造、利用法などを丁寧に解説しています。3Dプリンタの使い方とともに「ものづくり」の現状や今後の展望まで学べる1冊です。

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門田先生の3Dプリンタ入門
何を作れるのか、どう役立つのか
門田和雄

本書の内容は、2015年9月の情報をもとにしています。
本書に掲載の社名や団体名、イベント名などの表記は、著者が普段用いているものです。正式名称と完全に一致しないものもありますので、あらかじめご了承ください。

●本文図版/長澤リカ
●目次・章原・本文デザイン/島浩二
図5-2から図5-24の写真提供 株式会社JMC
図6-22の写真撮影協力 Genkei
図7-2から図7-16の写真撮影協力 Genkei

はじめに

2011年頃から、樹脂を溶かして積層する低価格の「3Dプリンタ」なるものが日本にも導入されはじめ、2013年から2014年にかけて、メディアなどで取り上げられる機会が増えたこともあり、「3Dプリンタ」という言葉が広く知られるようになった。この間、3Dプリンタは家電量販店で販売されたり、国内製品が発売されたこともあり、実際に3Dプリンタを手にする人々も増えてきた。そんな中、高精度の3Dスキャナを用意して、3Dプリンタの出力サービスをするスペースや3Dプリンタをシェアして利用するスペースなども数多く生まれた。さらには、3Dプリンタを自作するグループなども現れ、「3Dプリンタ」をキーワードとして、さまざまな関わり方をする人々が増えている。この3Dプリンタが今後、どのような形で私たちの生活と関わっていくのかを予測することは難しいが、私たちの身近に現れたこの新しいデジタル工作機械が一時のブームで完全に消え去ることはないだろう。
科学技術が進歩すればするほど、ものを作ることは一部の専門家の仕事になってしまい、それ以外の人はそれを享受するだけで、ものの修理さえもしなくなっているということが言われて久しい。もちろん、3Dプリンタが普及すると言っても、一人一台や一家に一台という時代がすぐに到来するとは思わない。しかし、大量生産でこれだけものがあふれた時代に、自分だけのものを作りたい、あの人だけのものを作りたいという気持ちがわいてくるのも必然であろう。
これまでにも「自分で作ろう:DIY(Do It Yourself)」の精神で日曜大工やガーデニングに取り組む人は存在した。3Dプリンタの普及もある意味ではこの流れの中にあるだろう。しかし、これまでのDIYと大きく異なる点として、3Dプリンタはデジタルデータを扱うということがあげられる。デジタルデータはインターネットなどを介することで、一瞬にして世界を駆け巡り、人を惹きつけるデジタルデータは素早く拡散し、また元データを改良してよりよいデータが作られるということなども容易になる。また、近年世界中に急速に広まっているものづくりの市民工房であるファブラボでは、デジタル工作機械を複数の人たちが共有して活用するなどの例も見られる。これはDIYがさらに進化した「みんなで作ろう:DIWO(Do It With Others)」とよばれ、ものづくりの新しい流れになってきている。
この流れに乗るか乗らないかは、もちろん個人の自由である。ただし、科学技術に少しでも興味をもち、本書を手にしたあなたは、何かしら3Dプリンタに興味や関心をもっているのではないだろうか。私自身、一般の方より少し早い2012年に3Dプリンタを海外から購入し、これまで3Dプリンタのおもしろさや難しさを体感してきた。そこで感じることは、現在の安価で普及しつつある3Dプリンタはまだまだ精度や速度などの面で不満な点も多いが、「3Dプリンタは理系脳を鍛え、今後、クリエイティブクラスで生きていくための強力な支援ツールになるだろう」ということである。クリエイティブクラスとは、アメリカの都市経済学者リチャード・フロリダによって生み出された階級であり、具体的には、科学、エンジニアリング、デザイン、芸術、音楽、法律、ビジネス、金融などに従事している知識労働者層のことを指す。これらの職業において、コンピュータは既に必須のツールである。今後、これに3Dプリンタなどのデジタル工作機械を結びつけることで、より活動の幅を広げる人間が出てくるであろうと予測するまでもなく、すでに多くの活動事例が実際に生まれつつある。
また、私自身、デジタル工作機械を備えた市民工房を運営するファブラボジャパンネットワークのメンバーとして日々活動しており、2013年8月からは横浜にあるファブラボ関内の運営にディレクターとして関わってきた。また、世界ファブラボ代表者会議にもこれまで4回出席し、世界的なファブラボの広がりを間近で実感している。同時にこの間、東京工業大学附属科学技術高校においてデジタル工作機械の活用を含めて、幅広く、機械工学やロボット工学の教育実践に取り組んできた。
これらの経験を踏まえて、「わかる」「使う」「作る」という視点でまとめたのが本書である。本書は、1部「3Dプリンタがわかる」、2部「3Dプリンタを使う」、3部「3Dプリンタを作る」から構成される全8章からなる。全体を通して3Dプリンタを理解していただけるようにするため、その科学技術的な内容のみならず、第6章では3Dプリンタとともに話題になることが多い、デジタルファブリケーションやものづくりの市民工房であるファブラボについてまとめ、第8章では3Dプリンタの未来を展望した。
現在にいたるまでの3Dプリンタブームを冷静に俯瞰しつつ、現時点での3Dプリンタに関係する基盤技術についての理解を深めていただき、3Dプリンタを使ったり、3Dプリンタを作ったりする活動への一歩を踏み出すための一冊にしていただけると嬉しい。

門田和雄

CONTENTS

はじめに
1部 3Dプリンタがわかる
第1章 3Dプリンタとは
3Dプリンタは積層造形技術
幅広い積層造形技術の道用分野
プラスチック
木材
コンクリート
セラミックス
食品
バイオ細胞
金属

第2章 3Dプリンタの原理
ものづくりの技術
切削加工
塑性加工
溶接
鋳造
砥粒加工
金型と射出成形

3Dプリンタの技術
光造形法の原理
粉末積層法の原理
インクジェット法の原理
熱溶解積層法の原理

第3章 3Dプリンタの構成
熱溶解積層法の3Dプリンタに注目
3Dプリンタの構造
メンデル型とレップラップ
フレーム型
ボックス型
ロストック型
3Dプリンタの各種部品
ステッピングモータ
モータドライバとヒートシンク
電源裝置
エクストルーダー
ホットエンド
軸受
リミットスイッチ
ねじ
軸継手
歯付きベルト
3Dプリンタの制御
制御とは
位置制御と温度制御
PID制御

第4章 3Dプリンタのソフトウェア
3Dデータの作成
3Dプリントに用いられるSTL形式
3Dスキャナ
3DプリントのためのAMF形式
3Dデータのオープン化
3Dデータが東京からバルセロナへ
3Dデータを3Dプリンタへ
3Dプリンタを動かすソフトウェア
充填率
ラフト
サポート
Gコード

2部 3Dプリンタを使う
第5章 3Dプリンタからの出力
光造形法による出力
粉末積層法による出力
粉末固着法による出力
粉末焼結法による出力
インクジェット法による出力
熱溶解積層法による出力
3Dプリントはソフトウェアで決まる
3Dデータの読み込み
3Dプリントが得意な形と苦手な形
デュアルノズル
3Dプリントの失敗例とその対策

第6章 3Dプリンタを使える場所
デジタルファブリケーション
デジタルファブリケーションとは
レーザーカッター
ミーリングマシン
デジタルミシン
カッティングマシン
ものづくりができる場所の拡大
イノベーションを生み出すテックショップ
ファブラボとは
世界ファブラボ代表者会議
ファブラボ間の交流
ファブラボの運営
ファブラボがグッドデザイン賞
イノベーションを実現する資金

第7章 3Dプリンタの作り方
3Dプリンタを作る
フレーム型を作る。
ロストック型を作る
3Dデータの出力
ソフトウェアを使いこなす
3Dデータを作る
直方体を描く
円筒形を描く
フィレットをつける
面取りをする
シェルをつける

第8章 3Dプリンタで未来を作る
ものづくりの未来を作る場の拡大
Maker Faire
ハッカソンとアイデアソン
テッド
3Dプリンタで作るもの
3Dプリンタは次の産業革命を導くか
産業用と個人用の3Dプリンタ
フードプリンタの可能性
食品機械はすでに存在する
和菓子を出力するフードプリンタ
食とファブ

3部 3Dプリンタを作る
3Dプリンタと教育
世界の教育現場への3Dプリンタの導入
日本の普通教育における技術教育
技術教育と理数教育
STEM教育 3Dプリンタを教育に
あとがき

1部 3Dプリンタ がわかる
3Dプリンタとはどのような技術で動くのか。
どのような材料を用いて、どのようなものを作れるのか。
3Dプリンタがわかる、はじめの一歩に。