「5G革命」の真実 –5G通信と米中デジタル冷戦のすべて (WAC BUNKO 301)

3時間で5G通信とITビジネスの未来がわかる

5G通信はこれまでの規格とは何が違い目新しいのか、なぜここまで国際政治が揺らいでいるのかなど、知識がなくても5Gに関してざっくりと理解することができる入門書です。技術によって世界や日本はどのように変わるのか、技術革命で起こる変化に対してどう向き合えばいいかを考えさせられます。

深田 萌絵 (著)
出版社 : ワック (2019/7/25)、出典:出版社HP

まえがき 人工世界へようこそ!―Welcome to The Artificial World!

IT革命から二十年、スマホやパソコンがネットで繋がり、買い物も友だちとの会話も仮想空間ですませられる時代となった。5G(第五世代移動通信システム)革命では、スマホやパソコンはすでに必要ない。IoE(インターネット・オブ・エブリシング)で、すべてがネットワーク化されていくので、私たちにはもはやパーソナルなコンピューターは不要なのである。「モノ」がネット経由でデータベースにアクセスし、私たちが「誰」なのかを認識して、それに応じて各人の仮想PCを呼び出す。そこでモノやサービスを購入すれば、私たちが貯蓄した「クレジット」から利用分が引き落とされる。信用社会の始まりだ。
工場で働くのはネットワークでつながったロボットたち。彼らはお互いにコミュニケーションをとりながら、工場ラインでスムーズに作業し、それをAIマネージャーが4K監視カメラを通じて十六・五ミリ秒ごとに作業をチェックする。モノのスマート化、ネットワーク化で「働く」という概念が劇的に変わる。タクシーはすべて自動運転化し、労働市場は「働くロボット」に取って代わられる時代が期待されている。しかし、どこまで実現可能なんだろうか。
5G時代の幕が開き、私は数年前から企業向けに5G通信実験とレポート作成を重ねてきたが、5G通信に関して「これ一冊読めば、知識が無くてもザックリ分かる」というレベルの本がないことに気がついた。5G通信を技術的に書いた本は前提知識がないと難しく、米中覇権争いにフォーカスした書籍などは技術や産業界を含めた動向が見えにくい。
先日、YouTube(ユーチューブ)番組『WiLL Moe Channel』で、5Gがこれまでの通信規格と何が異なり、どこが目新しく、そのためになぜ国際政治が揺らぐのかを簡単に解説すると意外と反響があり、それをベースに技術の話も含めて書籍にまとめることにした。
IT産業は国境のない熾烈なグローバルビジネスの世界で、各国が政治力を使って潰しあっている。その合間を生きていくには政治にも注意を払わざるを得ない。長年スパイ疑惑が指摘されてきたファーウェイに対して、トランプ大統領の堪忍袋の緒が切れた。ファーウェイ創業者の娘(孟晩舟)を逮捕・起訴するまでに至り、そこから、世界はファーウェイ製の5G通信機器を導入するか否かで侃々諤々の議論となっている。
世界のどの国でファーウェイ製5G通信機器は導入されるのか、シェアはどうなるのか、政治的圧力でどう変化を見せるのか、ITビジネスの世界はどう変わるのか。技術と国際政治に対する基本的な理解がなければ、近い将来起こる大きな変化に飲み込まれ、ビジネスで大損をする。
読者の対象は、IT業界に従事しながらも「5Gビジネスの未来が今一つ掴めない」という方や、「5Gで国際社会が争っているのはなぜか」、「通信技術はどんなもので、サイバー空間の未来はどうなるのか」を理解したい方を対象としている。第一章では5Gで実現する未来像を、第二章では5G技術がこれまでとはどう異なるのかをかいつまんで解説した。技術にくわしい方は第二章をスキップしてもらってかまわないと思う。そして第三章で、米中の戦いにおいて世間が見落としている中国製5Gインフラの危険性について言及し、第四章でCASE革命における日本の自動車産業の危機に警鐘を鳴らしている。第五章では5Gの時代に利益を生むモノは何か、そして近未来はどうなるのかという問題についてまとめた。
技術者ではない方にもイメージを持っていただきやすいように、表現を易しくすることを優先した。そのため、通信の専門家の方にはご不満かもしれないが、説明が多少舌足らずな点はご容赦いただきたい。
深田萌給

深田 萌絵 (著)
出版社 : ワック (2019/7/25)、出典:出版社HP

目次

まえがき 人工世界へようこそ!―Welcome to The Artificial World!

第一章 5G通信で世界が変わる
夢の近未来社会がやってくる?
盛り上がらないのはなぜだ!?
設備投資のリターンは?
生産革命に向けてのインフラ
大容量高速アップロードを必要としているのは誰か
低遅延で実現する自動運転

第二章 5G通信の技術と通信の歴史
通信速度が速くなる理由
フェイズドアレイアンテナとビームフォーミング技術
基地局は移動体通信の重要インフラ
ヘテロジニアスネットワーク
5G時代のコア・ネットワーク
「パケ詰まり」はなぜ起こる
広がる遠隔操作の可能性
スタンドアロン型とノンスタンドアロン型
通信とは「トポロジー」との戦い

第三章 米中対立で業界はどうなる
米国防権限法の日本企業への影響
取引先をどうやって選ぶか
最強の諜報インフラ
「通信スパイ」で起訴できない米国の弱み
世界的投資家ソロスの危機感
諜報行為の収益化でGAFAを支えた中国
中国に加担するGAFA
台湾の若者の未来を中国に売った馬英九
中国がディスプレイを狙う理由
トランプは6Gを見据えている
IT企業代理戦争
見えない戦争こそシリコンバレー最大の“イノベーション”
台湾半導体シンジケートとファーウェイ
「青幇」が支配する闇のネットワーク
ファーウェイに関連した不審死
不正競争防止法では技術は守れない

第四章 自動車産業の危機
CASE革命は自動車産業の危機
コネクテッドで車両情報は中国へ
「EV車はエコ」の大ウソ
MaaSというプラットフォームで起こる日本の危機
日産・ルノーの対立は米中代理戦争

第五章 5G通信のビジネスと今後
トランプは世界の良心のために戦っている
低遅延への課題
東京オリンピックと eスポーツ
IoT×FAで日本製造業にチャンス
世界が必要とする日本のセンサー技術
エッジコンピューターの時代 ロ
ボット掃除機がスパイになる?
注目される暗号技術
米の「5G潰し」と6G戦略

あとがき 開発は技術者の遊び心、金は経済界の動力、権力は独裁者の夢

装幀/須川貴弘(WAC装幀室)

深田 萌絵 (著)
出版社 : ワック (2019/7/25)、出典:出版社HP