『老いと記憶 加齢で得るもの、失うもの』−加齢のせいと諦めてはいけない

本書は人間が逃れることのできない老いと記憶についての関係を考える中で、老いについて前向きに受け容れられるようになるヒントが詰まった一冊です。高齢者心理学や認知心理学を専門とする増本康平氏が筆者で、5章構成で、“記憶”、“衰え”、“認知症”、“物忘れ”といった事柄について書かれています。小見出しには「記憶のエイジングパラドクス」といった一見難しそうなものが並ぶが、わかりやすい文章で書かれています。

増本 康平 (著)
出版社: 中央公論新社 (2018/12/19)、出典:amazon.co.jp

何かを始めるのに遅すぎるということはない

加齢のせいにして覚えることを諦めていないでしょうか。たしかに、脳の萎縮によって生理学的に抗えないこともあります。しかし、記憶には加齢の影響を受けやすいものと受けにくいものがあります。加齢の影響で衰えやすい記憶は「ワーキングメモリ」と「エピソード記憶」の2つであります。詳しくは本書を確認いただければと思います。衰えない記憶は手続き記憶や習慣であり、手続き記憶とは何かの技能を習得する際のベースとなるものであり、老化の影響を受けにくく、そのため何かを始めるのに遅すぎるということはないらしいです。これはすごく嬉しい情報であって、生きていく上で何か趣味があると生きがいにもなります。

新しいことをいつでも始められます。高齢者は記憶力や体力などを実際よりも低く見積もることが多いです。そうした傾向は生活不活発病という形であらわれています。“高齢になってもできるんだ”という気持ちを持つことが何よりも大切な気がする – 自身を否定的に捉えず、肯定的に捉えることが日々をより幸福なものへと変えていけるとあります。

記憶されやすいのは自分と関連のあるもの

当たり前のことのように感じるが、これは高齢になっても衰えにくい記憶法なのです。記憶法には語呂合わせなどの様々ものがあるが、それらはどれも加齢による影響を受けやすいものです。高齢になっても自分に当てはまるものや自分にとって重要であるものと考えることが覚えやすくなるコツでもあります。そしてそれと同時に記憶する際の感情も大切であるらしい – たしかに、自分の好きなことに関しては感情が昂ぶるからか覚えが早いでしょう。感情と記憶は密接につながっていることがよくわかります。こうしたことを踏まえると、記憶できる確率がグッと上がるとのことです。

認知症の予防にはTHE健康生活

その他にも、運動不足、喫煙、偏食(コレステロール、脂肪の高摂取など)といった不健康な生活習慣とその結果起こる、高血圧、肥満、心疾患、糖尿病、といった生活習慣病は、すべて認知症の危険因子であることが指摘されています。

一方、認知症を予防する生活習慣としては、豊富な社会的交流、適度な運動、魚の摂取、ビタミンEや、ビタミンCの摂取などが挙げられています。

言うまでもなく、認知症の予防にはTHE健康生活が大切なのであり。人とのつながりも面倒だとは思わず、積極的な交流を図るのもたいせつです。散歩をしながらおしゃべりをしている高齢の方をよく見かけるが、この行動は理にかなっていたのです。

記憶について心理学を織り交ぜ、200ページほどでありながらも結構な情報量と内容となっています。人は記憶について変えられないことと変えられることを見分ける必要があり、全てにおいて“年齢のせい”、“老化のせい”とするままでは永遠に変わりません。若い人も高齢の方も、思いこみや偏見を一度なくしてみると、意外と何事もできるかもしれません。

増本 康平 (著)
出版社: 中央公論新社 (2018/12/19)、出典:amazon.co.jp