友だち幻想-人と人の<つながり>を考える-

人と付き合うことは大事だと考えているにも関わらず、人間関係がうまくいかなくて悩んでいる人は多いのではないでしょうか。そんな矛盾を解決するための見取り図が書かれている「友だち幻想-人と人の<つながり>を考える-」は中高生に向けて書かれた書籍となりますが、年齢問わず読んで損はないものです。

日本では友だちが大事だという意識が他国よりも強いです。しかし、現在いじめや引きこもりが社会問題になって注目を集めています。友だちが大切、でも友だちとの関係を重苦しく感じてしまうという矛盾に直面したことがあるのではないでしょうか。本書はこうした問題を解きほぐして考え直すために、これまで当たり前だと思っていた「人と人とのつながり」の常識を、根本から見直しをしています。

「友だち」や「親しさ」についてどのように考えるのかというテーマにきちんと向き合うために考え方の方向性や考えるためのキーワード群から構成されている見取り図を示してくれているので、私たち読者は自分の体験に即して具体的に考えることができます。社会学を専門としている著者が人間関係でつまずき始める中学・高校生に向けて書いたものですが、若い人だけではなく幅広い年代から深く共感する声が寄せられています。

現代は人と関わらなくても生きていける時代になっていますが、全く人との関わりがなければ普通の人は寂しいと思ってしまうでしょう。だからと言ってつながりを求めると、かえって傷ついたり追い詰められたりしてしまいます。そのような矛盾はなぜ生まれるのでしょうか。本書の中では、「親しさを求める作法」が、いまだに「ムラ社会」の時代の伝統的な考え方を引きずっているからだと説明されています。現代は様々な職業や考え方があり、一人一人理想の生き方が違います。そんな人たちが一つの共同体に存在しているので同じような職業や生活形態を想定するムラ的な共同体の作法では親しさを維持することはできないので自覚的に脱却しなければなりません。

共同体的な凝集された親しさという関係から離れて、もう少し人と人との距離感を丁寧に見つめ直したり、気の合わない人とでも一緒にいる作法というものをきちんと考えたりすることが必要です。本書では他者との距離感についてもう少し敏感になることで豊かな人間関係を気づいて欲しいと書かれています。人間関係に気を使っているのになかなかうまくいかないという悩みや人間関係に関する不安を解決する手助けをしてくれる一冊です。

菅野仁 (著)
出版社: 筑摩書房 (2008/3/5)、出典:amazon.co.jp