【最新】フェイクニュースを知るおすすめ本 – 真偽を見分けてメディアリテラシーを身につける

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フェイクニュースとは?情報の審議を見抜くには?

フェイクニュースとは、虚偽の情報で作られたニュースのことを指します。これを真実だと思い込んだ人々はSNSで拡散したり何かしら行動に起こすなどして多くの人に大きな影響を及ぼします。これからのネット社会において、情報の真偽を見抜く力や判断力が問われます。ここでは、今後を生き抜くために必要な知識であるフェイクニュースの実態と対策を学ぶためにおすすめの本をご紹介します。

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出典:出版社HP

フェイクニュースに震撼する民主主義‐日米韓の国際比較研究‐

フェイクニュースの実態とその影響

日米韓の三国が政治的なフェイクニュースによって、民主主義がいかに影響を受けたか論究しています。情報が溢れ出る今の社会の中で私たちはどのような対策を講じることができるのか、今後を生き抜くための知見が得られる1冊です。

清原聖子 (著), Diana Owen (著), 高 選圭 (著), 李 洪千 (著), 小笠原盛浩 (著), 奥山晶二郎 (著), 松本 明日香 (翻訳)
出版社 : 大学教育出版 (2019/10/20)、出典:出版社HP

目次

序章 フェイクニュースに震撼するポスト・トゥルース時代の民主主義
清原聖子
はじめに
1. フェイクニュースの定義
2. 欧米諸国におけるフェイクニュースの拡散と深まる社会の分断
(1)アメリカの諸相
(2)ヨーロッパ諸国における諸相
3. 本書の狙いと特徴
4. 本書の目的と構成

第1章 アメリカ政治における 「フェイクニュース」の進化と影響
ダイアナ・オーエン、(訳)松本 明日香
はじめに
1. 「フェイクニュース」とは何か?
2.「フェイクニュース」についての一般の認識
3. フェイクニュースとメディアの偏りについての一般の関心
4. フェイクニュースの問題
5. ニュースに見られる偏り
6. ソーシャルメディアと「フェイクニュース」の新時代
7. 選挙におけるソーシャルメディアとフェイクニュース
8. 民主主義への脅威
9. 民主主義への脅威としてのフェイクニュースについての一般の認識
おわりに

第2章 アメリカにおけるフェイクニュース現象の構造とその対策の現状
清原 聖子
はじめに
1. メディア環境の変化
(1) メディアの分極化
(2) メディアの信頼度の低下
(3) ソーシャルメディアが主要な政治情報源に
2. オンライン政治広告に焦点を当てたフェイクニュース対策
(1) 連邦選挙委員会での検討49
(2) 連邦議会での検討
(3) プラットフォーム事業者の自主的な規制の導入
3. ファクトチェッカーへの期待
(1) FactCheck.org
(2) ポリティファクト
(3) フェイスブック・イニシアティブへの協力
おわりに

第3章 2017年韓国大統領選挙におけるフェイクニュースの生産・拡散ネットワークと政治的影響力の分析
高 選圭
はじめに
1. フェイクニュースの定義と範囲
2. メディア環境の変化と投票政党の分極化
3. 韓国におけるフェイクニュースの作成や拡散ネットワーク
4.2017年の大統領選挙でのフェイクニュース事例
5. フェイクニュースの流通ネットワークと影響
おわりに

第4章 韓国におけるフェイクニュースの規制の動き
李 洪千
はじめに
1. 韓国のフェイクニュースの概念
2. 規制論の登場背景
3. フェイクニュース対策特別委員会の設置案
4. 政府の法的規制の計画
5. 規制法案
6. 法的定義
7. プラットフォームに対する責任と義務
8. メディアに対する責任を強化
9. ガチャニュースに関連する政府の対策
10. メディアリテラシー教育
おわりに

第5章 日本の有権者はいかにニュースをフェイクと認識したか
―2017年衆院選における「フェイクニュース」の認知―
小笠原 盛浩
1. 海外および日本のフェイクニュース概況
2. 先行研究レビュー
(1) 「フェイクニュース」の分類
(2) フェイクニュース研究の操作的定義
(3) フェイクニュース研究の操作的定義の問題点
(4) リサーチクエスチョンと仮説
(5) 2017年衆院選の概況
3. 方法
(1) 調査概要
(2) 尺度
4. 結果
(1) ニュースのフェイク認知概況
(2) ニュースのフェイク認知と情報源
(3) ニュースのフェイク認知と内閣・政党支持、政治関心
(4) フェイク認知されたニュースの内容
5. 考察

第6章 ウェブメディア運営者の視点から考察する日本におけるフェイクニュース拡散の仕組み
奥山 晶二郎
はじめに
1. メディアが目指したデジタル上のパッケージ
2 ニュースプラットフォームの存在感
3. ウェブメディア編集者が気にするヤフーニュース
4. ニュースプラットフォームが成長した理由
5. デジタル空間における流通の難しさ
6. SNSの「ねじれ」現象
7. 政治家の発言だけがフェイクニュースか
8. ファクトチェックをフェイクニュースにしないために

第7章 鼎談
米韓との比較から見る 2019年参院選におけるフェイクニュース
清原 聖子・小笠原 盛浩・李 洪千
あとがき
索引
執筆者紹介

序章
フェイクニュースに震撼するポスト・トゥルース時代の民主主義
清原 聖子

清原聖子 (著), Diana Owen (著), 高 選圭 (著), 李 洪千 (著), 小笠原盛浩 (著), 奥山晶二郎 (著), 松本 明日香 (翻訳)
出版社 : 大学教育出版 (2019/10/20)、出典:出版社HP

はじめに

フェイクニュースという言葉を読者の皆さんが初めて聞いたのはいつだったろうか。学生とのディスカッションを通じて、年々フェイクニュースという言葉が大学生の間で周知されてきたと筆者は実感している。
この言葉が世界的に広まったきっかけは、2016年アメリカ大統領選挙であった。身近なところでは、2018年10月20日、27日には、『フェイクニュース』というタイトルのNHK土曜ドラマが放送された。ドキュメンタリーではなく、「ドラマ」というところで興味を持ちやすかったのか、筆者の授業を履修している学生の中にも同ドラマを見て、フェイクニュースの社会的な影響に関心を持ったと話す者が何人かいた。
また、大学3年生を対象とする筆者のゼミナールでは2017年9月~2018年1月の秋学期、フェイクニュースを見分ける目を養うことを目的に、ジャーナリストとフェイクニュースの調査を行うプロジェクトを実施した。数か月の調査を経て、ゼミ生たちは、オンライン上の情報にだまされないように、自分自身で情報の信憑性を確かめることや怪しい情報をうかつにシェアしないことが重要である、という心構えができた。そうした影響もあってなのか、翌年の彼らの卒業論文は7本中3本がフェイクニュースの対策を論じるものであった。筆者のゼミナールでは卒業論文のテーマは学生が決めるので、同じテーマを複数人が選ぶというのは珍しい。
ただ、どこかでフェイクニュースという言葉を聞いたことがあるというの生は筆者の周りで増えていると感じるものの、「フェイクニュースとは何か!という問いに答えるのはそれほど簡単ではないようである。辞書的な意味では、オーストラリアのマッコーリー辞典が2016年の言葉として選んだ定義に、フェイクニュースは「政治目的やウェブサイトへのアクセスを増やすために、ウェブサイトから配信される偽情報やデマ。ソーシャルメディアによって拡散される間違った情報」とある。しかし、それでフェイクニュースの定義が定まっているとは言い難い。

1.フェイクニュースの定義

アメリカの非営利調査機関であるピュー・リサーチ・センターの調査(2016)によれば、2016年アメリカ大統領選挙キャンペーン中に、「フェイクニュースが基本的な事実や時事問題について大いに混乱をもたらしている」と答える人が回答者の64%に上った。また、イギリスのブロードバンド・ジェニーとワン・ポール社による世論調査(2017)では、EU離脱を巡る2016年の国民投票でフェイクニュースが何らかの影響を与えたと回答する人が全体の42%に上った。欧米の民主主義国家では、フェイクニュースの拡散が民主主義を脅かすのではないかと懸念が広がっている。
フェイクニュース発祥国のアメリカでは、フェイクニュースはもともとパロディニュース番組を指した。それが2016年大統領選期間中に、広告収入を得たクリエーターによって作られた情報で、有権者のイデオロギー的バイアスに入り込んだ政治的フィクションを指すようになった(Owen,2017:176)。また、2016年の大統領選挙における有権者の投票行動にフェイクニュースが及ぼした影響を分析したアルコットとゲンツコウ(2017)は、フェイクニュースとは故意に捏造されたニュース記事を含め、読者を欺くうその記事と定義した。
日本国内でも、これまでにも選挙や災害時の情報の中には、デマや事実と違ったうわさ・誤情報がたびたび問題になってきた。それと同じではないか、と思われるかもしれない。確かに共通点もあるが、昨今使われるフェイクニュースいう言葉には、不注意で共有された誤情報(micinformatin)と切り分けて、人々を欺くために作られて共有された偽情報(disinformation)という考え方がある(Wardle,2017)。それは、2017年2月に「ファースト・ドラフト」のリサーチディレクター、クレア・ワードル(Claire Wardle)が発表した、誤情報と偽情報についての類型化である。
「ファースト・ドラフト」は、設立当初はグーグル・ニュース・ラボに支援を受けた組織だったが、2017年10月からはハーバード大学ケネディ行政大学院のメディア・政治・公共政策に関するショーレンスタインセンターの中で、オンライン上の偽情報に関する調査を行うプロジェクトになっている。コンドルの分類では、フェイクニュースは、だまそうとする意図の程度によって、以下のように7つのパターンに分けて考えられる。

①「だます意図がない」風刺・パロディ
②見出しや画像、キャプションがコンテンツと関係のない「誤った関連付け」をされた情報
③ある物事や人物について「誤解させるコンテンツ」
④正しいコンテンツが間違った情報とともに提供される「誤ったコンテクスト」
⑤「なりすましコンテンツ」
⑥「操作されたコンテンツ」
⑦だますことや損害を与える目的で100%虚偽のコンテンツを作り出した「捏造コンテンツ」

しかし、フェイクニュースの概念はほかにもある。アメリカのドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領が自分に敵対的な報道を行うメディアに対して「フェイクニュース・メディア」とレッテルを貼って攻撃するように、内容の真偽はともあれ、自分の好まない情報をフェイクニュースと決めつけるような使われ方もされている。
そこで、イギリス下院のデジタル・メディア・文化・スポーツ委員会は「偽情報(disinformation)とフェイクニュース:最終報告(2019)」において、フェイクニュースの代わりに、偽情報という言葉を用い、偽情報とは「危害を与える目的、あるいは政治的、個人的、金銭的な利益のために、オーディエンス欺き誤解を招くことを目的として、誤った、もしくは、操作された情報の音的な作成および共有」であると定義した(House of Commons Digital, Culture Media and Sport Committee, 2019:7)。
このようにフェイクニュースの概念は、国によっても少しずつ異なるし、一国の中でも次第に変化している。フェイクニュースの対策を法律による規制で行おうとすれば、法的制裁は表現の自由を萎縮させることにつながる恐れがあり、定義や対象を明確にすることが重要である。それには慎重な議論が必要である。
また、これまでのデマとの違いとして、偽情報の生成・拡散経路と、シェアされるスピードの速さが挙げられる。ソーシャルメディアが普及したことで、従来と違ってデマや事実と違ったうわさは特定のコミュニティの枠内での交換にとどまらなくなった。フェイクニュースは、フェイスブック(Facebook)などの「友達」ネットワークに乗り、ボーダーレスに拡散される。ヴォスーギら(2018)の研究では、2006年から2017年までのツイッター(Twitter)分析を行い、偽情報は正しい情報よりも速く、遠くへ拡散されやすいという結果が示された。
今や我々の主要な情報源は従来のマスメディアからソーシャルメディアへと変わりつつある。これはアメリカ、韓国、日本で共通している。詳しくは各章の説明に委ねるが、とりわけ若者の間でその傾向が強い。筆者の教える大学1年生に聞くと、LINEニュース(LINE NEWS)やスマートニュース(Smart News)でニュースを見ると答える者が増える一方で、新聞離れが進んでいる。
総務省情報通信政策研究所の「平成28年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によると、ソーシャルメディアによるニュース配信の利用率が全年代では前回調査の14.2%から32.5%に大幅に増加し、テキスト系ニュースサービスにおいて、ソーシャルメディアによるニュース配信の存在感が高くなった。20代では、ソーシャルメディアによるニュース配信を最もよく利用すると答えた割合が59%であるのに対して、紙の新聞と答えた割合は28.6%となっている(総務省情報通信政策研究所、2017:76)。
一時湖源としてのソーシャルメディアの存在が重要になっている今日の情報社会は「フィルターバブル」と言われたり、あるいは、我々は「エコーチェンバー」の中にいるとも言われる。フェイスブックのニュースフィードやツイッターのタイムラインには、ソーシャルメディアのアルゴリズムによって、ユーザーの個々の嗜好(好きな話題や信条)に合わせて変化するフィルターを通した情報が届く。一見すると膨大な情報の中から我々が何を望んでいるのかに合わせて、必要な情報だけを取捨選択して届けてくれることは便利なようでもある。政府が情報を検閲したりコントロールしたりしているわけではないのだから良いではないか、と思うかもしれない。
しかし、サンスティーン(2017)は、「エコーチェンバーは人に偽情報を信ドさせる可能性があり、それを訂正するのは困難もしくは不可能かもしれない」と指摘した(Sunstein,2017:11)。さらに、「インターネットによって、同じ考えを持つ者同士が言葉を交わすことが容易になり、究極的には過激で暴力的な立場へと彼らを向かわせるかもしれない」と述べ、「インターネットは集団分極化の大きなリスクを生む」と警鐘を鳴らした(Sunstein,2017:259)。

2.欧米諸国におけるフェイクニュースの拡散と深まる社会の分断

2016年アメリカ大統領選挙を皮切りに、欧米諸国ではフェイクニュースの拡散によって、社会に混乱が生じ、選挙に影響が出るという懸念が強まっている。ここではアメリカ、ドイツ、フランス、イギリスのフェイクニュース問題を巡る諸相をまとめておきたい。

(1)アメリカの諸相

2008年の大統領選挙で、上院議員を1期しか経験していない民主党のバラク・オバマ(Barack Obama)候補が「チェンジ」を掲げて、ソーシャルメディアを駆使した画期的な選挙キャンペーンを展開して以来、アメリカでは多くの候補者が積極的にソーシャルメディアを選挙キャンペーンに活用してきた。イターネットやソーシャルメディアを使った選挙運動は、新たな「公共圏」を生み出すのではないか、という期待も高まった。公共圏とは、ドイツの政治学者ユルゲン・ハーバーマスの言葉で、参加者が平等な立場で討論に参加。き、国家や社会の問題を自由に論じることができる熟議の場、という意味である(清原・前嶋、2013:ii)。
2016年の大統領選挙では、政治家経験のない、共和党のトランプ候補が既存の政治エスタブリッシュメントを強く批判し、ツイッターを巧みに使って選挙キャンペーンを有利に進めた。トランプ・キャンペーンは、既存の政治を壊し、新しい政治を作り出すという政治の新旧交代を主張した点、そして、ソーシャルメディアを活用して自らのファン層に共感を呼び起こす選挙運動を展開した点からすれば、オバマ・キャンペーンと変わらない。だが、残念ながら、2016年の大統領選挙では、ソーシャルメディア空間は新たな「公共圏」を生み出すどころか、冒頭で述べたように、フェイクニュースの嵐が吹き荒れる場所となった。
そして、「ポスト・トゥルース」という言葉が2016年の言葉としてオックスフォード辞典に選ばれた。同辞典によれば、この言葉は「世論形成において客観的な事実の影響力が弱まり、個人的な信念や感情に訴えることがより重要な状況」を指す。2016年の大統領選挙キャンペーン中にポリティコ(Politico)の編集長であったスーザン・B・グラッサー(Susan B. Glasser)(2016)は、この選挙によって、同じ考え方を持つ者同士のクラウドの渦の中に我々が暮らしていること、そして、フェイスブックのニュースフィードに害をなす党派的なフェイクニュースに囲まれていることが示されたと嘆いた。
グラッサーが悲観する状況は選挙が終わっても続いている。2017年1月に就任したトランプ大統領は、フェイクニュースにもう1つの概念を付け加えた。既述のように、トランプ大統領は、CNNやニューヨークタイムズなど主流メディア(mainstream media)を名指しで「フェイクニュース・メディア」「アメリカ国民の敵」とレッテルを貼り、自分に敵対するメディアを非難し始めた。トランプ大統領のレトリックによって、フェイクニュースという言葉は、客観的な真実かどうかにかかわらず、自分たちの信じる考え方と相容れない情報を指しても使われている。今や、共和党支持者は主流メディアを信じず、民主党支持者は主流メディアを自分たちの信条を反映したものと見なしており、ほとんどのメディアはアメリカを党派的に分断する役割の一つとなってしまった、という指摘もある(Easley,2017)。アメリカでは、主流メディアすらニュースと非難されるありさまであり、フェイクニュースはいわば
社会の分断を表す象徴的な表現にもなっている。

(2)ヨーロッパ諸国における諸相

ドイツでは、保守系ニュースサイトのブライトバート(Breitbart)が2017年1月3日、「暴露:大みそかの夜、1000人の群衆が警察を襲撃し、ドイツ最士の教会に放火した」という見出しの記事を写真入りで掲載したことを発端に、フェイクニュースが炎上した。この記事は事実を報じたものではなかったが、何千回もソーシャルメディアでシェアされた。地元紙は、これはブライトバーになるフェイクニュースで、難民を危険視するヘイトメッセージを含む捏造記事だと伝えた(The Guardian, 2017)。ブライトバートは、トランプ大統領の首席戦略官を務めたスティーブン・バノンが創設したサイトである。
こうした難民への憎悪をあおるフェイクニュースの拡散が目立つようになり、投稿されたものが削除されずにそのまま掲載されていることが社会で問題視されるようになった。これを受けて、ドイツでは2017年10月、フェイクニュースやヘイトスピーチの速やかな消去を大手ソーシャルメディア企業に義務付けた法律「ソーシャル・ネットワークにおける法執行を改善するための法律(通称NetzDG)」が施行された。これは、フェイスブックなどのソーシャルメディア事業者に、「違法内容削除義務、その義務を果たすための苦情対応手続き整備義務、苦情対応状況の報告義務を課すとともに、これらの義務に対する違反に科される過料について定めたもの」である(鈴木、2018)。
フランスでは2017年に大統領選挙が行われた。選挙は、極右のマリーヌ・ル・ペン(Marine Le Pen)候補と、中道のエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)候補の間で争われた。事前にアメリカの国家安全保障局(National Security Agency)のマイケル・ロジャーズ(Michael Rogers)局長が議会の上院軍事委員会の公聴会において、アメリカはロシアの動きを監視しており、ハッカーがフランスの選挙インフラに侵入しようとしている、と警鐘を画していた(NG,2017)。予想通り、マクロン候補に関する醜聞の捏造や偽プロフィールがフェイスブックなどのソーシャルメディアで拡散されたが、マクロンの選挙陣営のサイバー対策チームは事前対策を練っていた(福田、2018.157-158)。
結果的にフェイクニュースの嵐に負けることなく、マクロン候補が当選したが、選挙へのフェイクニュースの影響が懸念されたことで、2018年1月に入って、マクロン大統領は、選挙期間中のフェイクニュースを規制する立法化の意向を示した。それに対し、極右政党のル・ペン党首はすかさず、「国民に口説をつけて、それでもフランスは民主主義国家といえるのか。非常に心配だ」とツイッターで反撃を行った(Reuters,2018)。フェイクニュースの規制を政体が導入するべきかどうか、世論は割れていた。結局2018年11月に成立した法律では、選挙前3か月の間にオンライン上で偽情報が拡散されることを防ぐ目的で、候補者や政党からの申請に基づき判事が速やかに判断を行い、該当記事の削除命令を下すことができるとされた(Fiorentino,2018)。
さらにイギリスでも、フェイクニュースの拡散で選挙情報が混乱した事件が起きた。たとえば、2016年のEU離脱を巡る国民投票直前には、公共放送のBBCのブレイキング・ニュースの偽画像に続いて、「EU残留に投票する人は6月23日に投票できる。離脱に投票する人は6月24日に投票できる」という偽情報がオンライン上で出回り、EU離脱キャンペーンを行っていたボート・リーブ(Vote Leave)は公式ツイッターでそれがフェイクニュースだと支持者に警告しなければならない事態が起きた(Smith,2016)。
2017年の総選挙では、保守党が労働党のコービン党首に対するネガティブキャンペーンを展開する中で、フェイクニュースを流した。保守党はコービン党首を批判する動画を制作したが、そこで使われた動画はスカイニュースでコービン党首が答えた一部を切り取ったもので、情報操作されたコンテンツであった。保守党はフェイスブックのニュースフィードに「6月9日、この人が首相になるかもしれない。そんなことにはさせない」というサブタイトルをつけて、この動画を入れ込み、拡散させた(Booth, Belam and McClenaghan, 2017)。
また、イギリス下院のデジタル・メディア・・文化・スポーツ委員会は2018年7月29日、「偽情報とフェイクニュース:暫定報告」において、2016年の国民投票および2017年の総選挙に関して、ロシアが介入したフェイクニュースがソーシャルメディアで拡散されたと指摘した。同報告書では、党派性の強いフェイクニュースが対立をあおるものとして、偽情報を積極的な脅威と見なしている(House of Commons Digital, Culture, Media and Sports, Committee, 2018:3)。

3.本書の狙いと特徴

このように欧米の民主主義国家においてフェイクニュース拡散問題が深刻化する一方で、東アジアの民主主義国家ではどうだろうか。本書の狙いはそこにある。海外のフェイクニュース研究は言葉の壁もあるのか、欧米偏重である。国内のフェイクニュース関連の書籍では、平(2017)は、2016年のアメリカ大統領選挙を観察する過程で著者が注目することになった、アメリカで起きたフェイクニュース問題について紹介した。藤代(2017)は、不確実な情報や非科学的な情報、デマを「偽ニュース」と呼び、日本でも「偽ニュース」が広がっている点を指摘した。さらに、林(2017)はメディア不信の観点から日本、アメリカ、イギリス、ドイツにおけるフェイクニュースの状況を説明し、揺らぐ民主主義について論じている。福田(2018)はロシアによるフェイクニュースの影響を指摘し、アメリカ、イギリス、ドイツに加えてEUにおけるフェイクニュースの状況とその対策について解説した。また遠藤(2018)は、日本、アメリカ、ドイツ、フランスのフェイクニュースの状況を紹介した上で、「公共圏」となることを期待されたソーシャルメディア空間はもはや「公共圏」どころか、フェイクニュースが蔓延するところとなり、それによって、文明そのものの危機が訪れると指摘した。
国内ではフェイクニュースに関連した新書が多く出版されているが、海外に比べると学術的な分析は少ない。そして国内でも欧米の事例紹介が圧倒的に多い。アメリカを中心に、日本、イギリス、ドイツ、フランスのフェイクニュース現象を解説した書籍はあるものの、そこに韓国を比較対象に加えた書籍は見られない。したがって、本書が、国内外のフェイクニュース研究でこれまで手薄だった、日本、アメリカ、韓国の比較という視点を加えることは、今後、日際的なフェイクニュース研究に資する点が大きいと考えられる。日本と比べ、アメリカ、韓国には、インターネットを使った選挙運動が早くから開花したという共通点がある。
アメリカでのインターネットを使用した選挙運動(以下、ネット選挙運動し略記)といえば、2008年の大統領選挙で、ソーシャルメディアを巧みに活用した民主党のオバマ候補の選挙キャンペーンが今も多くの人の記憶に残っているだろう。しかし、アメリカではそれよりずっと以前、2000年の大統領湿挙で共和党のジョン・マケイン(John McCain)候補陣営のインターネットを使った選挙資金調達が際立っていた。この大統領選挙は「インターネットが選挙キャンペーンに関して候補者と有権者の相互関係に新しい流行を開いた」と評価されている(清原、2011:3)。
一方、韓国ではそれから2年後、廬武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が誕生したが、韓国の2002年の大統領選挙は、「インターネットが大統領を作った」と考えられている(李、2011;高、2013)。さらに2011年ソウル市長補欠選挙でも、ツイッターは候補者と有権者の間の政治コミュニケーションを担う主な媒体となった(高、2013)。
アメリカ、韓国に対して、遅蒔きながら日本がネット選挙運動を解禁したのは、2013年の公職選挙法の一部改正による。それによって、ようやく政党、候補者、有権者は、選挙期間中に選挙運動を目的としたウェブサイトの更新やソーシャルメディアへの投稿などが可能になった。ただし、電子メールを用いた選挙運動は政党、候補者に限定されるなど、規制は残っている。日本で初のネット選挙運動が行われたのは、2013年の参議院議員選挙であった。
また、日本、アメリカ、韓国の比較という視点に加えて、本書のもう1つの特徴は執筆者の構成にある。清原聖子、ダイアナ・オーエン、小笠原盛浩および李洪千は2018年に、日本、アメリカ、韓国、台湾におけるネット選挙運動の比較研究として、”Internet Election Campaigns in the United Staates、Japan and Taiwan”(Kiyohara, Maeshima and Owen編著)を上梓した。また、清原(主査)と李(幹事)は情報通信学会のインターネット政治研究会におおいて、2018年1月から2019年6月までにフェイクニュースをテーマにした研究会を5回開催した。インターネット政治研究会では、高選圭、奥山晶二郎もフェイクニュースに関する報告を行った。本書では、これまでネット選挙運動について国際共同研究を行ってきたメンバーが中心となり、新たにフェイクニュース問題に照準を合わせて、インターネット政治研究会での議論を積み重ねて執筆された学術書である。

4.本書の目的と構成

次に本書の目的と構成について述べたい。本書の目的は第1に、フェイクニュース拡散問題の発生源となったアメリカの状況と比較して、日本における2017年の衆議院総選挙と、韓国における2017年の大統領選挙を事例として、3か国のフェイクニュース現象を明らかにすることである。第2に、その現象の構造的な要因について、比較政治学の視点から、3か国のメディア環境の変化と政治環境の特徴に焦点を当てて検討する。第3に、フェイクニュースの渦から完全に逃れることができない中で、我々はどのような対策を講じることが可能なのか、現在進んでいる対策を踏まえて今後の展望を論じていきたい。本書が議論の対象とする期間は、2016年のアメリカ大統領選挙から2019年の日本の参議院議員選挙までである。以下、本書の構成である。
第1章(担当:ダイアナ・オーエン、(訳)松本明日香)では、著者が主導しジョージタウン大学メディア政治調査グループが実施したフェイクニュースに対する大衆の態度に関するオンライン調査をもとに、アメリカ政治におけるフェイクニュースの概念の変化を明らかにした。そして、アメリカのエリート層と大衆はフェイクニュースを民主主義への脅威であると見なしていると述べる。第2章(担当:清原聖子)では、初めに、なぜアメリカではフェイクニュースが大きな問題になっているのか、その背景を理解する手がかり、ディア環境の変化について明らかにした。続いて、フェイクニュースの題に対し、政府、プラットフォーム事業者、非営利団体の3つの主体(アクター)別にどのような対策が取られているのか、現状を検討する。
第3章(担当:高選圭)は、2017年の韓国大統領選挙の過程で、フッニュースが誰によって作られ、流通・拡散されたのか、その手段となる。アやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)は何か、そして、宝選挙結果へ与えたフェイクニュースの影響はどれほどのものなのか、という題を分析した。さらに、韓国の政治や選挙がフェイクニュースによって左右される背景やそのメカニズムについて、メディアの分極化と政治の分極化の間の相互関係に着目して検討する。
第4章(担当:李洪千)は、2017年以降活発化しているフェイクニュースを規制しようとする韓国社会の動きを紹介している。フェイクニュースを法律で規制することによって、サービスの利用者、プラットフォーム事業者、メディアそれぞれに対してどのような影響が考えられるかを考察し、法的規制導入の問題点を指摘する。
第5章(担当:小笠原盛浩)は、ニュースの受け手がなぜそのニュースを「フェイク」と認知したのかという問いに着目し、著者が清原聖子と共同で実施した2017年の衆議院議員選挙時のオンラインアンケート調査結果をもとに、日本社会におけるフェイクニュース(ニュースのフェイク認知)の現況とそのリスクについて分析した。
第6章(担当:奥山晶二郎)では、新聞社のウェブメディアを運営する当事者の立場から、日本におけるフェイクニュース拡散の構図について、その構造的な問題の起源と対策を考える。そして、フェイクニュースの拡散につながる現在のデジタル空間における情報流通の仕組みを生み出した要因の一つには、新聞社など既存メディアのデジタル化の遅れがあったと指摘する。
最後に第7章では、2019年7月の参議院議員選挙を総括して、アメリ韓国との比較という視座から、日本におけるフェイクニュース現象と今後検討しなければならない課題について、清原聖子、小笠原盛浩、李洪千の3人が鼎談を行った。
ポスト・トゥルース時代に生きる我々は、ソーシャルメディア空間とどのように付き合えばよいのか。どうすればフェイクニュースの渦の中で民主主義を維持していくことができるのか。各章は独立した目的を有するが、本書は、この問いを全章を通じた検討課題としたい。
鼎談では、2019年の参議院議員選挙を振り返りながら、本書で取り上げた論点について、包括的に議論を行う。
フェイクニュース対策としては、政府による規制の導入やプラットフォーム事業者による自主規制の実施、メディアや非営利団体によるファクトチェック、そして若者のメディアリテラシー教育の充実など様々な手段を複合的に考えていく必要があるだろう。ゆえに、本書は、研究者のみならず、メディア関係者、政治家、官僚、そしてソーシャルメディアを主要な情報源としている若者を含む幅広い層を読者に想定している。フェイクニュースの拡散は日本の選挙をどのように変えるのか。そして今後、日本の民主主義社会にどのような影響を与えるのだろうか。アメリカ、勧告との比較から、本書がその展望を洞察する助けとなれば望外の喜びである。

清原聖子 (著), Diana Owen (著), 高 選圭 (著), 李 洪千 (著), 小笠原盛浩 (著), 奥山晶二郎 (著), 松本 明日香 (翻訳)
出版社 : 大学教育出版 (2019/10/20)、出典:出版社HP

参考文献

【外国語文献】

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【邦文文献】

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清原聖子・前嶋和弘(2013)「序 『ネット選挙解禁』は何を生むのかー『公共圏』としてのインターネットか『選挙のアメリカ化』か」清原聖子・前嶋和弘編著『ネット選挙が変える政治と社会一日米韓に見る新たな「公共圏」の姿』慶應義塾大学出版会、pp.i-vii。
清原聖子(2011)『第1章 アメリカのインターネット選挙キャンペーンを支える文脈要因の分析」清原聖子・前嶋和弘編著『インターネットが変える選挙―米韓比較と日本の展望』
慶應義塾大学出版会、pp.1-25。
高選圭(2013)『第4章 ネット選挙が変える有権者の政治参加2012年韓国大統領選挙に見える市民ネットワーク型政治参加」清原聖子・前嶋和弘編著『ネット選挙が変える政治と社会 – 日米韓に見る新たな「公共圏」の姿』慶應義塾大学出版会、pp.67-92。
鈴木秀美(2018) 「ドイツのSNS対策法と表現の自由」『慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所紀要』No.68、pp.1-12。http://www.mediacom.keio.ac.jp/wp/wp-content/upl
oads/2018/04/433882937819693f524fb8aeb862933b.pdf(2019年4月17日アクセス)
総務省情報通信政策研究所(2017)「平成28年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」7月、p.76.http://www.soumu.go.jp/main_content/000492877.pdf(2019
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平和博(2017)『信じてはいけない民主主義を壊すフェイクニュースの正体』朝日新書。
林香里(2017) 『メディア不信 何が問われているのか』岩波新書。
藤代裕之(2017)『ネットメディア覇権戦争偽ニュースはなぜ生まれた』光文社新書。
福田直子(2018) 『デジタル・ポピュリズム操作される世論と民主主義』集英社新書。
李洪千(2011) 「第3章 韓国におけるインターネット選挙 2002年と 2007年の大統領選挙の比較」清原聖子・前嶋和弘編著『インターネットが変える選挙 – 米韓比較と日本の展 望』慶應義塾大学出版会、pp.51-81。

清原聖子 (著), Diana Owen (著), 高 選圭 (著), 李 洪千 (著), 小笠原盛浩 (著), 奥山晶二郎 (著), 松本 明日香 (翻訳)
出版社 : 大学教育出版 (2019/10/20)、出典:出版社HP

人間はだまされる―フェイクニュースを見分けるには (世界をカエル―10代からの羅針盤)

メディアリテラシーが身につく

自分を取り巻く世界を正確に知るためには、メディアを通したたくさんの間接的情報に頼らざるを得ません。本書では、メディアリテラシーを身につけた情報受信者になるにはどうすれば良いのか、どのような落とし穴があるのか、社会の動きを伝えるジャーナリズムの今をできる限り具体的に説明し、未来を展望していきます。

目次

はじめに:「本物の情報」を求めて
僕たちと情報
情報こそ航海の羅針盤
感情が判断をゆがめる
情報の賢い送り手、受け手になろう

第1章 だましのテクニックを見破れ~下心がいっぱい~
情報の出所は?
戦争の最初の犠牲者は「真実」
どうしてだまされるのか
身近な情報操作=広告
だましはイタチごっこ
自ら情報をさがそう”

第2章 何がニュースか〜送り手と受け手の関係~
ウソのような本当の話
メディアは「初めて」が大好き
ニュース判断のモノサシ
蛇口を閉めたり開いたり
送り手がいくらがんばっても
オバマ・マジック
受け手にこびてもいけない
ニュースサイトの仕組み
交流サイトの落とし穴

第3章 ジャーナリストの仕事場~好奇心を全開にし現場へ~
10を聞いて1を書く
初対面にも物おじしない
一番前に陣取るやじ馬
時代の空気を伝える
誤報を避けるために
まぎれこんだウソを見逃すな
それでも「誤報」は生まれる
スマホが取材の方程式を変えた
足で稼げば新たな発見がある
世紀の一瞬を切り取るフォトジャーナリスト
写真のチカラ
映像のトリック
画面ではわからない熱気や匂い

第4章 ジャーナリズムってなに?~もしもそれが無かったら~
社会で起きたことを伝える
判断のための情報
情報を取ってくる
権力を監視する
国の情報はぼくらのものだ
憲法が保障する「知る権利」
自分を高める表現の自由
表現の自由は絶対のもの?

第5章 客観報道とは~伝えることのむずかしさ~
「客観的」には限界が
透明性こそ情報に信頼を与える
ロボット記者は願い下げ
ジャーナリストは広報部員ではない
原発事故報道の反省点
記者クラブ・その利点と欠点
お互いにとても便利な仕組み
ミイラ取りがミイラに
発表の洪水に溺れそう

第6章 これこそが特ダネだ!~スクープの意義~
スコップで掘りおこす
本当のスクープ「調査報道」
時間とお金をかけコツコツと
NPOが担い手に
わずか数時間、でもビッグな特ダネ
時間差スクープの弊害
データジャーナリズムもすごいぞ

第7章 人権と犯罪報道~報道被害を減らすには~
「犯人」と決めつけない
痛い目にあった松本サリン事件
なぜ犯人と思い込んだのか
想像力が必要「もし違ったら……」
犯罪報道は必要か
名前を出さないとどうなるか
一度ついた悪いイメージは
フォローアップの報道を忘れずに

第8章 情報源を守る~都合の悪いことは隠される~
鉄則中の鉄則「情報源は秘密」
正義感からの内部告発
秘密を守る権利は
情報が簡単に取れない時代に
凶海外から心配の声
「特定秘密保護法」とは?
強まるテレビメディアへの圧力
独立性を守るはずの放送法が
NHKと民放の違い
ジャーナリズムと権力と世論

第9章 誰もがジャーナリスト~ネット時代のメディアのあり方~
市民が記者の時代
市民ジャーナリズムの取り組み
複雑系は取材がネックに
やはり実地訓練が一番
ソーシャルメディアに鍛えられる?
デジタルメディアの時代がやってきた
新聞、雑誌が消えていく
紙とネットは共存できる?
新聞の未来は

第10章情報は一人歩きする~あふれる情報の時代に~
ネット情報とのつきあい方
その発信、ちょっと待って!
ニュースは思わぬ形で広がる
時間を盗まれないように
ウィキペディア利用法
ITがあなたをたこつぼに
あれあれ、調査結果が正反対に
ネットメディアのチェック機能
発信が社会を動かすパワーに

第11章 思い込みの壁~海外ニュースは遠い存在?~
送り手と受け手のギャップ
厄介なステレオタイプ
あの紳士の国で略奪が
先入観をくずすには?
特派員の毎日
アメリカに片思い?
反響でわかる日本の位置
複眼的思考のすすめで
なぜ戦場へ向かうのか

第12章 愛国心はほどほどに~冷静さを取り戻す道~
スポーツに国家がついてくる
「前畑がんばれ」に批判も
ジャーナリズムには国籍がある
スポーツ報道ならまあいいけれど
戦争と、新聞の転向の歴史
批判精神失ったアメリカのジャーナリズム
よい例もわずかながら

終わりに:「世論」が暴走しないために
事実が感情に押し流される
自分なりの確認方程式を作ろう
ぼくたちの世論が
プロと市民のコラボの時代
用語解説 巻末3
本文中、用語解説に記載した事項の出てくる箇所には*印を付してある。
参考文献 巻末8

はじめに:「本物の情報」を求めて

ぼくたちと情報

ぼくたちは、日々たくさんの情報に接する。
「情報」とはなんだろうか?まずそこから考えてみよう。
アメリカ中西部、見渡すかぎりの大草原。一匹のプレーリードッグが巣穴入り口の盛り土の上に立ち、周囲をじっと見回している―。
敵を察知すると犬のような鳴き声で仲間に知らせる。警戒警報発令でみんな一斉に巣穴に逃げ込む。鳴き声には敵の種類や大きさ、それがワシなのかアナグマなのか、あるいはガラガラヘビなのか、脅威の度合いなどの情報まで含まれているそうだ。一匹が五感を使って集めた情報が、群れのメンバーを危険から守る。つまり情報をすみやかに得るかどうかは生存にかかわることなのだ。それは人間にとっても同じだ。つまり「情報を得ること=生存にかかわること」なのだ。
あるいは、古代、人里離れた人口約50人の小さな村に、よその土地からある人間がやってきたとする。よその村との交流がほとんどない時代。その当時の人たちにとっては、それは現代人が宇宙人に遭遇するほどの衝撃かもしれない。さらにその人間が、村になかったものを持ってきたとする。たとえばそれが新しい耕作方法だとしたら……。外からもたらされたたった一つの情報が村(共同体)を揺るがすことになる―。
いまや人間の生きている社会はますます複雑になっている。自分を取り巻く世界を正確に知るためには、仲介者(メディア)を通したたくさんの間接的情報に頼らざるを得ない。しかもぼくたちは地球の裏側で起きたことにさえ無関係にいることはできない時代に生きているのだ。あふれる情報とどうつきあえばよいのか――
東北で震度7、死者千人超/大津波襲来、不明者多数/M8・8、国内史上最大福島原発に緊急事態宣言
11日午後2時3分ごろ、国内観測史上最大のマグニチュード(M)8.8の地震があった。震源は三陸沖で、宮城県栗原市で震度7を記録した。最大10メートルの津波が発生、死者は千人を超すとみられる。各地で家屋が倒壊したり、流されたりした。
福島第1原発は兄の一つが冷却できない状態となり、政府は初の原子力緊急事態宣言を出した。放射能漏れは確認されていないが、半径3キロ以内の住民に避難を指示した。
これは2011年3月11日の東日本大震災の発生を伝える当日夜の共同通信の記事(抜粋)だ。
取材記者たちはこれまでに例のない大災害を取材しようと、タクシーを借り上げるなどして、被災現場へと向かった。
丸1日以上たった現場は、津波で家屋すべてが押し流され、まるで「原爆が投下された跡」のようなモノクロの世界。携帯電話は通じず、宿も不十分。
被害の大きさ、家族も家も財産も失った被災者の体験と苦悩。聞くこと、見ることすべてが「ニュース」だった。さらにそこに、余震や津波が再び襲ってくるのではないか、就発事故への不安も広がる。
では、情報の受け手であるぼくたち市民はどうだったろう。必死で「本当の情報」を求め、特に原発事故をめぐる情報にはいらだち、口コミを含めて情報を探していた。
「直ちに健康を害することはない」という政府の発表、それを垂れ流すばかりのテレビの会見場面、新聞報道を読んでも何を信用していいのかわからない。ことは放射能の問題、自分の命に関わるかもしれないのだ。
「『直ちに』ということは、将来はあるという意味なのか?」「どうして東京に住んでいる外国人は逃げ出しているのか」。
「マスコミは情報を隠している?」と疑った市民たちは、ちょうど世に出始めていたインターネットの会員制交流サイト「SNS」(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に情報を求めた。ツィッターなど個々人が発する情報がリツイートで拡散され、それが引き金となってマスメディアが後追い情報を出すという事態もあった。
マスコミは、経験したことのない事態の中で、情報の精度に確信が持てず、パニックを引き起こしてはいけないとビビったのだ。科学的な用語や数字がわかりにくかった面もあった。でも、市民の冷静さを信じて、わかりにくさも含めてでもいいから、もっと情報を共有化する方法があったかもしれない。その結果本当にパニックが起きなかったかどうか今となってはわからないが。

情報こそ航海の羅針盤

このように、生命にかかわる緊迫した事態なんて、そうめったに起きるものではないと思うかもしれない。しかし、ことは災害だけではない。社会の動きに無関心に生きていると、「直ちに」ではなくても、将来困るような変化が起きているかもしれない。気がついたら「戦争」が目の前にあるみたいな……。
そのむかし、海洋を航行する船は、昼は太陽の位置や風の方向、潮流の動き、陸地の影などをとらえ、夜は星の位置を正確に測定して、自分の位置や時間を確認し、船を操縦した。これと同じように、今の社会に生きるぼくたちも、まず自分のいる位置を知ることが重要だ。
そのためには、身の回りだけでなく、もっと広い社会の動きや出来事を知る必要がある。それが情報というわけだ。
情報は知識を増やすだけではない。自分が属している世界がどう動いているか、どんな仕組みになっているかといった実態も表わす。そこには、情報をどう読むかという要素も実は加わってくるのだが。
ぼくたちが生きている社会は多面的で、真実は必ずしもひとつとは言えないが、だからといって、それに目をつぶり耳をふさぐこともできない。情報は、ぼくたちが社会でどう生き、どう動かしていくか考えていくための唯一の指針なのだ。

感情が判断をゆがめる

しかも、ぼくたちは情報を通していつも的確に判断、行動できるかというと、それが難しい。人間には「感情」があるからだ。人間は感情の動物といわれている。常に冷静で絶対に判断を間違わない人間なんているだろうか?いくら理性を働かせても、怒りがおさまらない時や、不安で頭がいっぱいの時もある。「あの商品がなくなってしまう」「○銀行がつぶれそうだ」というデマやうわさは、そんな時に頭にスーッと入ってきて、ぼくらをパニックにさせたりもする。
こうも言える。人は見たいことだけを見て、聞きたいことだけを耳に入れる。そうやって入力する情報を選別しているのだ。「信じたいことを信じる」「いやなことは認めたくない」というのが人情。そうやって大事な情報を落っことして、危険を察知し損ねたり準備が遅れたりする。
その上、ぼくたちは基本的に「自分は簡単にだまされない」と思っているから始末が悪い。どんなに冷静で理性的な人にも「無意識」という領域がある。「意識」していないところで、ほめられたらよい気分になったり、気に入った物をけなされたりしたら気分を害したりするものだ。
情報を発信する側は、人びとの無意識の情感に訴えて、自分に有利になるように導こうとしているのだ。広告などは身近な例だ。耳に心地よい情報ほど要注意かもしれない、受け取る情報には、眉に唾をしてかからなければ、まんまと手玉に取られてしまう。一方、人は予想できなかったことにぶつかると、脳が刺激を受けて新しい発想を生み出す、ともいわれている。「よそ者、ばか者、若者」という言葉を知っているだろうか。古い考えから抜けだせない社会を揺さぶり、よみがえらせることができるのは、この3タイプの人間だという。古い常識にとらわれた大勢の者たちは変化を望まないとしても、柔軟な発想が押しつぶされないことを願いたい。
情報の賢い送り手、受け手になろう「多くのジャーナリストは、プロの「情報の伝え手」としての責任を持って、真実に肉薄しようとしている。情報操作に引っ掛けられる~失敗もときには経験する。出来事にどう対処し、どんな風にからだを張るのか――そこには、きみたちが普段悩んで決断する時と同じようなプロセスがある。「毎日、テレビや新聞、インターネットで見聞きするニュースは、現実とかけ離れた向こうの世界の出来事ではない。だれかの身の回りで実際に起きていることだ。
先ほど例にあげたように、福島の原発事故では、マスコミ情報への不信感から市民たちがSNSを駆使して立ち上がったケースだった。これを特殊ケースに終わらせず、これからも与えられる情報を鵜呑みにせず疑ってみてほしい。「情報の伝え手」を長年やってきたぼくがこんなことを言うのは矛盾していると思われるだろうが、「情報」とは完璧ではないのだ。
ニュースは受け取るだけでなく、共有するものになった。社会とうまく共鳴すれば「一人の意見が社会を動かす」パワーを持つ可能性もある。反対に、ゆがんだ情報にだまされてそれを拡散したら、パニックに加担してしまうことにもなる。
メディアリテラシー(情報を読み解き、活用する力)を身につけた賢い(だまされない)情報受信者、発信者になろう。そこにはどんな落とし穴があるのか。社会の動きを伝えるジャーナリズムの今をできる限り具体的に説明し、未来を展望してみようと思う。世の中の一員としてどう行動し、どういう生き方をしていくかを常に考える……そういうきみたちに。

世界史を動かしたフェイクニュース: デマと扇動に人類は興奮し翻弄された (KAWADE夢文庫)

今求められる情報術

誰が、なぜ「虚報」を流したのか? 世界は、どう変えられたのか? フェイクニュースの流布や扇動による情報操作が世界史にさまざまな影響を与えてきたことを指摘し、それがなぜ、何のために行われたのかを明らかにした本です。

はじめに

●フェイクニュースは伝統的な手法だった

5000年に及ぶ世界史の中で、独裁的な支配者、反体制のポピュリスト(大衆主義者)は、ウソ=フェイクニュース(偽ニュース、現在的にはマスメディアやソーシャル・メディアなどの虚偽報道)などの多様な情報を操作して大衆を扇動し、社会を動かしてきました。
近・現代になると国民国家が普及して、ポピュリズム(大衆主義、人民主義)と独裁には大衆の支持の獲得が必須になり、フェイクニュースを含む情報の操作で民主主義の形骸化が進みました。
特に、恐慌後の社会の不安定期には、大衆の生活が破壊されて社会不安が広がります。ポピュリストや独裁者が存在感を増し、フェイクニュースの流布や陰謀、扇動により国際政治が揺れ動きます。イタリアのファシズム、ドイツのナチズム、ソ連のスターリニズムなどは、巧妙なプロパガンダ(宣伝戦)により大衆を組織し悲惨な戦争に導きました。
それはアメリカ、イギリスの自由主義国も同じで、自らを「民主主義」の擁護者として、ニュルンベルク裁判史観、極東軍事裁判史観などの宣伝を図りました。
1990年代になると、インターネットが普及して情報過多の時代に移ります。現代では、私たちの見えないところでビッグデータが収集され、いつの間にか大衆が管理されるという時代に入りました。
インターネットは確かにとても便利ですが、人間が考え出した情報伝達、宣伝の道具ですから、「明」と「暗」があります。機能性が過多なインターネットは、時に暴走します。しかし、忙しい私たちの多くは、急激に機能を膨張させるインターネットに対応できるメディア・リテラシーを身につけることはなかなかできません。
メディア・リテラシーなどというと、何事かと思われるかもしれませんが、「民主主義社会におけるメディアの機能を理解し、あらゆる形のメディアのメッセージにアクセスでき、批判的に情報を分析、評価し、創造的な自己表現により社会に参画する能力」だそうです。
膨大な情報を集積させたインターネットがいつの間にか、世界史が育ててきた人権、国家システムなどを脅かす強大なモンスターに成長してしまったのです。
極端な話が、中国の超管理社会です。イギリスの作家ジョージ・オーウェルが1948年に『1984年』で批判的に描き出した以上の統制国家が、監視カメラとインターネットと画像認証などの諸システムにより、短期間で出来上がりました。『1984年』は核戦争後の近未来の監視国家を描いた小説で、「テレスクリーン」という双方向テレビ、街頭に仕掛けられたマイクにより、大衆の生活・行動が逐一監視される社会を描き出していますが、それをはるかに超える監視国家がイノベーションにより現実化しているのです。

○2016年の米大統領選挙で何が起きたか

優れた広告・宣伝の道具のインターネットが、フェイクニュースも取り混ぜた情報の操作で政治や経済に介入している現実もあります。どれだけの力を発揮したかは計測不能なのですが、2016年のアメリカ大統領選の際には、「ヒラリー(民主党)が過激派組織のIS(イスラーム国)に武器を供与した」とか、「ローマ教皇が共和党のトランプ支持を表明した」などのフェイクニュースが流されました。
面白く、気を引くようにフェイクニュースは工夫されますから、選挙民の関心が集まったのは当然です。クリミア危機、ウクライナ問題で民主党が大統領選に勝利することを好まないロシアが、フェイクニュースを大量に流して選挙に介入したともいわれています。
ロシアでは、ソ連の崩壊後に石油、天然ガスの利権を握ったユダヤ人財閥とプーチン政権の間に対立があり、ユダヤ人財閥を支持するアメリカの民主党政権によるロシア政治への介入が繰り返されてきました。プーチン大統領とアメリカの民主党政権の間には、強い対立関係があったのです。
2018年、ロシアによる大統領選挙介入疑惑の調査に当たった特別検察官ロバート・マラーは、ロシアの一連の世論工作(ロシアゲート事件)に関わったとして、ロシア人3人、ロシア企業3社を詐欺などで起訴しました。しかし、両陣営が「フェイク」であるとけなし合い、結局事実は闇の中に葬られてしまいました。
しかし、ロシアのサイバー部隊が民主党の候補者ヒラリー・クリントンや選挙責任者のメールを盗んで、その膨大な情報をケンブリッジ・アナリティカという会社に流し、「なりすまし」の手法により選挙戦に利用されたり、ロシアが動かすインターネット上のアカウントがフェイクニュースを拡散させたりしたことは、事実と考えられています。

●ポピュリストとウソが跋扈するわけ

第二次世界大戦後から1年、冷戦の終結・EUの成立から3年、リーマン・ショックから10年余りが経過しました。現在は、激しい時代の変化と古い意識の間のギャップが大きく、古い諸システムが金属疲労を起こし、経済も長期の低迷から抜け出せないでいます。大衆の間に、欲求不満が鬱積するのも当然です。
そうした状況は、ポピュリストに絶好のチャンスを与えることになります。実際、大衆に迎合し、人気取りのためにはフェイクニュースも厭わず、既存のエリート体制を批判・攻撃する政治的風潮がヨーロッパなどで強まりを見せています。
それは一概には悪いとはいえませんが、社会を不安定にしていることは事実です。情報の受け手の情報処理能力が追いついていないからです。
本書は、フェイクニュースの流布や扇動による情報操作が世界史にさまざまな影響を与えてきたことを指摘し、「それがなぜ、何のために行なわれたのか」を明らかにしていこうとするものです。
あらゆることが地球規模で動く現在と比べるならば、20世紀末までは随分とノンビリとした時代だったということを執筆しながら感じました。政治と経済のグローバル化、インターネットの急激な普及、サイバー空間での戦争の日常化が進んでいるのが現代です。

宮崎正勝

もくじ

はじめに
フェイクニュースは伝統的な手法だった?
2016年の米大統領選挙で何が起きたか
ポピュリストとウソが跋扈するわけ

①人気取りの政治家の出現でデマの歴史は始まった。
②共同体の外で、都合よく合理化・喧伝された奴隷制
③「酒池肉林」から始まる中国歴代王朝のウソとは
④迷信を利用して情報操作し皇帝の座についた王莽
⑤「ペルシア戦争の復讐」は建前!アレクサンドロスの真の目的とは
⑥「パックス・ロマーナ」は捏造だった?脚色されたローマ史
⑦「コーランか剣か」はアラブ遊牧民を敵視した大ウソ
⑧南宋の宰相は、リアリストゆえに「売国奴」の代名詞にされた
⑨十字軍とペストの流行が生んだユダヤ人迫害も、虚報と扇動から
⑩冴えない十字軍が発端の大キリスト教国という壮大なデマ
⑪開明的な中国商人が「倭寇」にされた意外な事情
⑫裏切り者に「残忍な王」のレッテルを貼られたドラキュラの悲哀
⑬宗教改革の時代に、なぜ知識人は魔女狩りを煽ったか
⑭「黄金の国ジパング」というデマが大航海時代の扉を開けた
⑮フランス経済を破綻させたジョン・ローの詐術と誇大広告
⑯革命画家は、英雄ナポレオンの虚像づくりにいかに加担したか
⑰エリートを攻撃して支持率アップ!「トランプ的、米大統領ジャクソン
⑱奴隷解放宣言を内外で使い分けたリンカーンの欺瞞
⑲ビスマルク発のフェイクニュースが普仏戦争を引き起こした
⑳ドレフュス事件という世紀の冤罪事件は、なぜ起きたのか
21大衆紙の捏造記事で火ぶたが切られた米西戦争
22ドイツ皇帝ヴィルヘルム二世はなぜ「黄禍論」を煽ったのか
23イギリスの三枚舌外交と「アラビアのロレンス」の苦悩
24「禁酒法」の時代に、移民への偏見が生んだ恐るべき冤罪事件とは
25見せかけのクーデターが成功して政権を握ったムッソリーニ
26自作自演の国会議事堂放火事件でナチスは独裁体制を固めた
27トンキン湾事件という謀略と米軍による北爆の開始
28江沢民は、いかに歴史を修正し共産党の立ち位置を変えたか
29SNSによる連想》の力で「アラブの春」は瞬く間に広がった
30日常化するハイブリッド戦争がさらなる社会不安を生み出す

Episode1プラトンが偽造したアトランティス伝説
Episode2雪と氷の島を「緑の島」と偽ったバイキング
Episode3鄭和の大艦隊は「天命」の証明に使われた
Episode4ロシアが「第三のローマ帝国」というウソ
Episode5聖女ジャンヌ・ダルクは、なぜ魔女とされたか
Episode6フェイクニュースの餌食にされた仏王妃の悲劇。

カバー画像*『サン・ベルナール峠を越えるナポレオン』/shutterstock
地図版作成*AKIBA
図版作成*アルファヴィル

フェイクニュース時代を生き抜く データ・リテラシー (光文社新書)

今の時代を生き抜く考え方

著書は元ニューヨーク・タイムズ東京支局長。日本の大手メディアの構造的な問題点についてに限らず、世界のフェイクニュースの現状、中国の情報戦、米国の新興デジタルメディア、一個人としてどういうメディア・リテラシーを持つのが良いかなど、幅広いトピックについてコンパクトにまとまっています。

マーティン・ファクラー (著)
出版社 : 光文社 (2020/4/14)、出典:出版社HP

目次

序章「データ・リテラシー」の時代
情報に流されないための新スキル
本書のねらい・12日で「5兆バイトの100万倍」ものデータが生成
毎分3万6000のツイート
ネットでモノから人までつながり始めた

第1章「紙」とともに消える日本の新聞
トランプがもたらしたNYタイムズの黄金時代
ホワイトハウスからの締め出しが追い風に
NYタイムズのアプリをフル活用せよ
デジタル転換に遅れる日本の新聞
スマートフォンによって変わった伝え方
マクルーハンの至言「メディアはメッセージ」
20年で1600万部もの激減
記者クラブ制度とアクセス・ジャーナリズム
新時代の「キャンペーン・ジャーナリズム」
大物プロデューサーを追及する#Me Too運動
原発事故のSPEEDI隠蔽
「吉田調書」をめぐる朝日の失敗
小泉進次郎の「脱原発発言」
報道姿勢を今こそ問い直せ
販売店と配達制度の症桔

第2章フェイクニュースに操られる世界
下院議長を「酔っぱらい」にした動画
「トランプ応援団」FOXニュース
「リアリティTV」と化したホワイトハウス
フェイクニュース・マスター
ロシアが仕掛けたヒラリー妨害工作
オールド・メディアへの回帰
トランプのフェイク集
ステレオタイプは記憶に残りやすい
悲劇一歩前の「ピザゲート事件」
フェイクニュースの3つのパターン
トーマス・ジェファーソンとトランプの共通点
言葉の”魔術師”
タイムラインを埋め尽くすトランプのつぶやき

第3章中国が仕掛ける情報戦
中国の禁句「くまのプーさん」
北京で200万人の「サイバー監視員」
セレブ生活を送る首相の娘もNGワード
中国政府が世界で繰り広げる情報境乱
「雨傘運動」をSNSで語るリスク
中国政府が作った2万個のアカウント
休眠アカウントが乗っ取られる
2つに分かれるネット空間
中国資本がハリウッドを変えていく
『トップガン』から消えた日の丸と台湾国旗

第4章ジャーナリズムと戦争
戦争を起こしたイエロー・ジャーナリズム
人々を駆り立てる「リメンバー」
オーソン・ウェルズが広めた「宇宙戦争」
ソーシャル・メディアとラジオの類似性
貧困地域ではラジオが扇動メディアに
原発の広報官になった日本のメディア
フェイクの元祖「大本営発表」
隔離された「零戦最後のパイロット」

第5章海外ジャーナリストが見るメディア20
ネットが促進した「タコツボ化」
無料メディア・アクシオスを使い倒せ
ニュースは専用アプリで直接読もう
メディアのメールマガジンを活用せよ
日本でも聴けるNPR News Podcasts
フィナンシャル・タイムズに追随する日経電子版
「ワセダクロニクル」の調査報道
今こそ新メディアを作る好機
メディアの復権
独立系識者のツイッター
左右両方の意見を意識的に聞く
「インフルエンサー」と「インタープリター」
私がフォローする日本の論客

第6章日本のジャーナリズム復活のために
NYタイムズの復活と「新しい危機」
客観性とアジェンダ…のmanipulationとempowerment…社説はもういらない
オピニオンは署名入りで書け
悪質アカウントを見破る6つの方法
ブロックとミュート
建設業者の「サクラ」コメント
ソーシャル・メディアのパトロール隊
書きこみへの責任を回避するプラットフォーム
SNS規制が急務
世界が注目した日本のブロガー殺人事件
東京オリンピックで強化されるネット監視

付録フェイクニュース還を敵り上げる級編9編

おわりにゲートキーパーとしてのジャーナリズム

取材・構成/荒井香織

マーティン・ファクラー (著)
出版社 : 光文社 (2020/4/14)、出典:出版社HP

序章「データ・リテラシー」の時代

情報に流されないための新スキル

私たちは今、「第4次産業革命」(Industry4.0)の始まりを目撃している。
18世紀終わり、蒸気機関の発明によって工場の機械化と人・モノ・カネのダイナミックな移動が可能になった(第1次産業革命)。重化学工業を中心とする第2次産業革命を経た20世紀初頭には、電気機関の発明によって大量生産・大量消費社会が到来する。
1970年代初頭になると、マイクロ・エレクトロニクス(微細技術を用いた電子工学)とIT(情報技術)の進展によって、製造業の自動化が急速に進んだ(第3次産業革命)。
20世紀終わりに生じたIT革命は、生産技術をさらに高次の段階へ移行させる。インターネットとパソコン、スマートフォンを通じて、世界中の人・モノ・サービス・カネが結びつくIoT(Internet of Things=あらゆるモノがインターネットによってつながる社会)が実現したのだ。ロボットとAI(人工知能)が駆動する現在の第4次産業革命において、最も重要なものは何か。データだ。
しかし私たちは、データが日常生活をいかに変えうるか、その本当の可能性について理解していない。
地球上で暮らす。億もの人々は、日々膨大なデータを生み出す。そのデータは政府と企業によって追跡・分析され、ビッグデータとして集積する。
政府はビッグデータを使い、自分たちに有利なアジェンダ(政策課題)を設定したい。そのアジェンダに対して社会的合意を獲得し、支持率を高めたい。政党は、選挙に勝つために「ビッグデータを活用して対策を打ち、世論を形成する。
ビッグデータは、新商品やサービスを売りたい企業にとっても役立つ道具だ。しかし、悪用も多い。英語圏で「トロール」(troll)と呼ばれる荒らし屋やネット右翼は、ツイッターやフェイスブックなどのSNS(social networking service)で、意図的にフェイクニュースを流して世論を撹乱する。
人間やAIがデータを使って私たちを誘導し、騙す能力は、これからますます高くなる。昔は写真を捏造するのが困難だったから、写っているものはすべて「これは真実だ」と信じられた。逆に、写真になっていないものは噂や風聞の可能性があると考えられた。
今は素人には見分けがつかない精度で、写真や動画はいくらでも捏造できてしまう。本物の情報なのか、あるいはフェイクニュースなのか、普通の人にはとうてい見分けられないディープ・フェイク(deep fake)が、これからどんどん作られていくだろう。
本物そっくりの虚偽や権力者による扇動が溢れる情報の洪水の中、私たちは正しい判断を下すために、いかにして真実を見極めればいいのか?そのために必要となるのが、「データ・リテラシー」だ。
従来、「メディア・リテラシー」の重要性が主張されてきた。これは、テレビや新聞、ラジオといったマスメディアが発信する情報を正しく読み取る能力を指す。しかし、SNSが発達した今、人々は情報の受け手であると同時に作り手でもある。日常生活において、情報源としてのいわゆるオールド・メディアの役割は低下し、ツイッターやフェイスブック、インスタグラム、LINEなどのSNSやネットメディアのデータ』が席巻している。
このデジタル時代を生きる私たちはネット上の情報がどのようにして生まれ、広がっているのかについて意識的にならなければならない。グーグルやLINEに操られるのではなく、私たちが自ら人生の主導権を握り、身を守るための方策を学ばなければならない。そのための新しいスキルを「データ・リテラシー」と呼びたい。データ分析のニュアンスを感じられるかもしれないが、分析にとどまらずデータを解釈し行動につなげる能力を指す新しい言葉としてアメリカでは用いられることがある。本書では、スマートフォン等を通じた一般的なネット利用者に必要な基礎知識という広い意味で積極的に用いる。

本書のねらい

本書は、データ・リテラシーの身につけ方を示すとともに、読者の皆さんに情報の「積極的な利用者」になることを提唱する。読んだり見たりしたことをそのまま受け入れる姿勢は危険だ。情報の本当の価値を理解し、真実とフェイクニュースを選別し、悪意のあるSNSアカウントを見極められるようになってほしい。この混とんとした情報の海を賢く渡っていく術を、今から学んでもらいたい。
そして、2020年冬に感染が拡大している新型コロナウイルス問題は、まさにデータ・リテラシーの重要性を示している。フェイクニュースが蔓延する時代で最初に起こったウイルス・エピデミック(epidemic:伝染病)である。
エピデミックは常にフェイクニュースとともに流行する。中世ヨーロッパで数百万人の命を奪ったペスト禍では、恐怖におびえる人々は黒猫と魔女、そしてユダヤ人が病の原因だと考え迫害した。しかし真犯人はネズミだった(もっと正確にいえば、ネズミに寄生したノミだった)。
そして技術が発展を遂げた現代、情報は指数関数的なスピードで莫大な数の人々に広がるようになった。すなわちこれは、ミスインフォメーション(misinformation:偽情報)がかつてないほどの規模で広がる危険性があるということだ。
日本はじめ世界では、パニックに陥った人々がマスクやハンドソープ、そしてトイレットペーパーまで買い占めている。しかし、なぜトイレットペーパーなのか?コロナウイルスの主な症状は下痢だとでも聞いたのだろうか?そんな馬鹿な話はない。アメリカでも、フェイクニュースと陰謀論のエピデミックがソーシャル・メディアムらホワイトハウスまで蔓延している。
コロナウイルスにまつわる陰謀論は、ソーシャル・メディアで何百万回も発言されている。アメリカ国防総省が中国を攻撃するためにウイルスを作ったとか、ビル&メリンダ・ゲイツ財団が作ったなどとでっち上げられている(後者は明らかに巨大IT企業への不信を反映している)。さらには、株式市場を混乱させるためにウイルスが作られたというストーリーまで見られる。
コロナウイルスは普通の風邪と同じでまったく危険ではないと発言するユーチューバーたちもいる。アメリカの10代の若者に人気のソーシャル・メディアReddit(レディット)では、政権転覆を謀る「ディープ・ステート」(deepstate:国家内の闇の政府)がコロナウイルスを作ったという陰謀論が存在する。また、ウイルスは「コウモリのスープ」を食べる中国の人々によってもたらされたというデマも流れている(2003年に流行したSARSウイルスは、ハクビシンを食べる中国の人々から発見された。しかし実際の発生源はコウモリだと考えられている)。
https://www.reddit.com/

ワシントン・ポストは、ツイッターやフェイスブック、インスタグラム等のソーシャル・
*2.メディアが、社会を混乱やカオスに陥れることが目的のストーリーを拡散していると報じた。多くの人々は、ロシア政府やハッカーグループなどが、恐怖をもたらすためにフェイクニュースを流しているのではないかと不安を抱いている。
情報捏造が行なわれるのはソーシャル・メディア上だけではない。タブロイド紙であるNYポストは、コロナウイルスが中国の生物研究所から流出したとでっち上げている。
もっとも注目すべきはトランプの行動だ。彼は、デマを阻止して国民を安心させるのではなく自らフェイクニュースを作り、積極的に広めようとしている。3月初めにFOXテレビで彼が発言した内容はデマの典型で、皮肉にもコロナウイルスのように急速に拡散した。
「民主党議員たちは、ウイルスがアメリカに来て数百万の国民の命を奪うことを願っている。そうなれば私を批判できるからだ」
トランプは支持者たちの集会でお決まりのように、「コロナウイルスは民主党員たちが次の選挙で私を敗北させるためのでっち上げだ」と発言する。
こうした状況で必要なのは、アメリカ大統領のウソも含むフェイクニュースの検証、つまりファクト・チェックであり、自分でできるようになるのが一番だ。そのための基礎的技能(basicskills)を提供するのが、この本の第一の目的だ。
しかし、誰だって自分ですべてのニュースを検証する時間はないだろう。だから、この時代にこそ、ファクト・チェックや情報のゲートキーパー(門番)の役割を果たすプロのジャーナリストが不可欠だと考える。
したがって、これまで以上に今、真のジャーナリズムが求められているということも本書では訴えたい。フェイクニュースを見破り、政治家やビジネスリーダーがSNSで私たちに直接訴えかける”ファクト(事実)とストーリー”を検証してくれる取材者の存在が欠かせないのだ。私はジャーナリストを、「権力の番犬」「ファクトチェッカー」「ゲートキーパー」の3つの役割を担う者として定義する。
SNSが繁栄を誇る現代、私たちは溢れんばかりの情報をもっている。しかし、私たちがもっていないのは「信頼」だ。ジャーナリストは、信頼できる情報を見極める手助けをしてくれる存在となる。
*2https://www.washingtonpost.com/technology/2020/02/29/twitter-coronavirus-misinformation-statedepartment/
*3https://nypost.com/2020/02/22/dont-buy-chinas-story-the-coronavirus-may-have-leaked-from-a-lab/

とはいえ、ジャーナリスト自身も「信頼問題」に直面している。失った読者の支持をいかに取り戻すのかが、ジャーナリズムにとっての緊急課題だ。そのために今、この3つの役割という原点に立ち返る必要があると私は考える。

2日で「5兆バイトの100万倍」ものデータが生成

Dell EMC(DellTechnologiesの子会社)というアメリカの大手IT企業によると、2020年に地球上で暮らすすべての人類は、一人ひとりが1秒間につき平均1・7メガバイトのデータを発信している。ものすごい量だ。
グーグルのCEO(最高経営責任者)を務めたエリック・シュミット(Eric Schmidt)は、「現在を生きる人類はたった2日間で、人類の文明が始まってから2003年までに生み出された総量と同じだけの情報を生み出している」と指摘した(2010年)。たった2日間で5エクサバイト(exabyte)ものデータが、新たに生まれているというのだ。「エクサ」とは10の2乗、つまり1兆バイトの100万倍にのぼる。気が遠くなるような数値だ。
今日、自分がどんな1日を過ごしてきたか振り返ってみよう。読者の皆さんも、今日1日だけでツイッターやフェイスブック、インスタグラムやLINEに一度はアクセスしたと思う。SNS上で誰かがアップロードした写真やミニ動画を見たり、スマートフォンを使って誰かにメッセージや写真を送ったりしたはずだ。
誰から命令されたわけでもないのに、誰もが自発的に日々たくさんのデータを発信し、受信している。これが現代社会の特徴だ。エリック・シュミットは「これから大きな変化が起こるにもかかわらず、誰も準備ができていない」と指摘する。
10年の段階で、5エクサバイトものデータがたった2日間で流通していた。それから10年後の20年になれば、さらに膨大なデータが世界中で飛び交っていることは言うまでもない。ネットメディアやSNSで、いったいどれほどすさまじい量のデータが流れているのか。具体的に紹介しよう。

毎分布万6000のツイート

17年、アメリカにあるDomoというソフトウェアの会社が興味深いリポートを発表した(“DataNeverSleeps5.0″)。
*4https://www.domo.com/learn/data-never-sleeps-5

このリポートによると、5~7年に世界中で出回ったデータは、それまで人類が生み出してきたデータの実に9倍にのぼる。世界では毎日2.5クィンティリオン(quintillion)バイトものデータが作られている。100万(million)、10億(billion)、1兆(trillion)、1000兆(quadrillion)、100京(quintillion)という数字のケタを見ると、2.5クィンティリオンバイトがいかにとんでもない大きさか理解できる。
しかも人類がデータを作るペースは、IoTによってさらに加速しているというのだ。Domoのリポートでは、図のような数字が報告されている。これらは1日とか1時間ではなく、1分ごとに生み出されているものだ。

ネットでモノから人までつながり始めた

IoTの時代には、コンピュータやスマートフォン、スマート家電などの電子機器がモノと人とデータをつなぐ。2006年の段階で、IoTによってネット上で連結したデバイスは20億機だった。20年には、ネットでつながるデバイスの数は2000億機に増える。たった1年で100倍の増加だ。
IoTが広がれば、家(スマートハウス)も車(スマートカー)も家電もデータで紐づけられる。映画『007カジノ・ロワイヤル』(2006年)では、主人公ジェームズ・ボンドの動きを監視下に置くために、GPS搭載の小型カプセルを体内に埋めこむシーンが出てくる。今やそれは現実となっていて、スウェーデンでは数千人が体内にマイクロチップを埋めこみ、切符やクレジットカードや鍵と一して使用していると言われている。また、日本では8年6月に国会で動物愛護法が改正された。これにより災害時にペットとはぐれる事故や、捨てネコ捨てイヌ問題、ペット虐待に対策を打つため、イヌやネコにマイクロチップを埋めこむことが義務化される。こうしてモノだけでなく人やペットまでネットワークでつながるようになっているのだ。
データがモノや家、車、人やペットを結びつければ、利便性は高まる。ただし、どんな便利なものにもマイナス面が当然ある。体内のマイクロチップは、個人情報の漏洩や監視社会化につながるリスクがある。また、日常でデータに接する機会が増えれば、一般市民は自分の意思で判断できることは少なくなり、外部に委ねざるをえなくなるだろう。そうすると、間違ったデータに騙されてしまうことも多くなる。
それでも私たちは、どんどん拡大し深くなっていくデータの海で生きていかなければならない。政治・経済から日常生活まで、データはあらゆる場面で関わり人間と密接不可分だ。私たちはデータ・リテラシーを今すぐ身につけ、高めていかねばならない。


2015~17年に各インターネットサービスが1分ごとに生み出したデータ量(米ソフトウェア会社Domo発表)

マーティン・ファクラー (著)
出版社 : 光文社 (2020/4/14)、出典:出版社HP

ファクトチェック最前線―フェイクニュースに翻弄されない社会を目指して

あなたもファクトチェッカーに

情報が氾濫する社会に生きる私たちは、多くの情報を見てそれが正しいのかどうかを判断する必要があります。その中でも典型的な虚偽の情報の1つがフェイクニュースであり、それに対してできることはファクトチェックと言えます。本書ではファクトチェックのすすめ方やルールなどが丁寧に解説されています。

立岩陽一郎 (著)
出版社 : あけび書房 (2019/6/7)、出典:出版社HP

まえがき

「立岩陽一郎って馬鹿なの?国連の登録名が「北朝鮮」「南朝鮮」」

最近、ツイッターで批判されることの多い私ですが、これはそのひとつです。このツイートは、私が日刊ゲンダイに連載している「ファクトチェック・ニッポン」で、「北朝鮮」という呼称を使うことを止めるべき、と書いたことに対する意見かと思われます。
この記事で私は次の点を指摘しました。
北朝鮮とは朝鮮民主主義人民共和国を略したものとして使われていること。その国の人々は、この北朝鮮という呼称を好ましく思っていないこと。通常、正式名称を略する場合、「北」といった新たな言葉を加えることはないこと。また、北朝鮮という国名は、かつての西ドイツと東ドイツのように、南朝鮮という国名があって初めて意味をなすこと。そして、日本では南朝鮮とは言わず、韓国と言っていること。

そのうえで、略するなら「朝鮮」が妥当である、と書きました。
時あたかも、安倍総理が日朝交渉に前向きな姿勢を示した時でしたから、「安倍総理は日本テレビの取材に、無条件で日朝交渉に応じる考えだと語ったそうだ。では、ひとつアドバイスしたい。まず、北朝鮮との呼称をやめるべきだ。そうした小さな取り組みもできないようでは、相手側に対話の機運は生まれない」と指摘しました。
前記のツイートをされた方は、その内容が気に入らなかったのでしょう。もちろん、私の意見を批判するのは自由ですし、批判は歓迎します。しかし、「国連の登録名が「北朝鮮」「南朝鮮」」というのは事実ではありません。
これは、国連のウエブサイトを確認すればすぐにわかることです。国連の加盟国のところには、「Democratic People’s Republic of Korea」と書かれています。これが登録名です。
ちなみに、自由奔放な発言で知られるアメリカのトランプ大統領は時折、DPRKを使います。これが正しい略だからです。もちろん、North Koreaとも言いますが、これは西ドイツ、東ドイツのケースと同じで、英語では、普通に朝鮮半島の南北を、South KoreaとNorth Koreaと言い分けているので、自然なことです。

ツイートの話に戻りましょう。
私は、「国連の登録名は「北朝鮮」」と書いた方に、「国連のホームページを確認してください。登録名は「北朝鮮」ではありませんよ」と書いて送りました。さらに、「会って話しませんか?」とも送りました。もちろん、どこに住んでいる方か全くわかりません。
今後その方から返事が来るかどうかはわかりませんが、どういう意図で簡単にわかる嘘を流すのか知りたいところです。

さて、今私たちが住む社会は情報が氾濫する社会と言われます。「氾濫」という言葉が意味するように、それは好意的な受け止めではありません。そこには、多くの情報が飛び交うということ以上に、前記のように情報の中に真偽不明なもの、事実と異なるものが含まれているという問題があるからです。
その典型的なケースが、「フェイクニュース」と呼ばれる虚偽の情報です。
フェイクニュースとは虚偽の情報を意図的に流す行為ですが、単に誤解に基づくものや事実誤認による間違った情報もあるでしょう。冒頭の、「国連の登録名は「北朝鮮」「南朝鮮」」はこれに該当するかもしれません。加えて、一つひとつの情報は事実ではあるものの、その組み合わせを意図的に変えることで事実と異なる内容を伝えるミスリードなものもあります。当然、半分は事実ですが、半分は事実ではないというものもあるでしょう。
いろいろな情報が錯綜していて、何が正しくて何が間違いなのか判然としない社会。それを我々は「情報が氾濫する社会」と見て、危機感を抱いているわけです。
こうしたなかで、注目を集めているのがファクトチェックです。事実を確認する取り組みです。-世界の多くの国や地域で活発におこなわれるようになっています。それは難しい作業ではありません。この本はそれを説明するものです。

例えば、悪質なフェイクニュースを法律で規制する動きもあります。社会に混乱を招き、人々を不幸にするような虚偽の情報を流す人を法律によって罰するというものです。それは一定の成果は得られるでしょうが、同時に、極めて強い副作用を社会にもたらします。規制の範囲は自然と広がってしまい、憲法の保障する表現の自由が不当に制限される事態を招く恐れがあるからです。「これを言ったらフェイクニュースだろうか?逮捕されてしまわないだろうか?」
そう思って疑心暗鬼になるような社会は健全とは言えません。できれば、法規制ではなく、人々がその都度、事実関係を確認していくことが望ましいと思います。そうすれば、フェイクニュースは発されても、少なくとも拡散を防止することは可能です。

つまり、フェイクニュースや事実誤認の情報が発信された時、それを規制するのではなく、私たちが自ら事実関係を確認して、間違いだとわかればそれを指摘するのです。
「国連の登録名は「北朝鮮」」かどうか、国連のウエブサイトを確認すればすぐにわかることです。そうした作業を常におこなって、指摘するのです。

繰り返しになりますが、それは難しい作業ではありません。
この本の狙いは、皆さんにファクトチェックを知ってもらい、それに取り組んでもらうことにあります。
さあ、皆さん、一緒にファクトチェックに取り組みましょう。

2019年5月8日
立岩陽一郎

立岩陽一郎 (著)
出版社 : あけび書房 (2019/6/7)、出典:出版社HP

もくじ

まえがき
1章ファクトチェックとは何か
ファクトチェックの定義
フェイクニュースとファクトチェック
ネットのフェイクニュース
筆者のネットギーク取材体験
誰でもできるファクトチェック

2章ファクトチェックをリードするFIJの取り組み
ファクトチェック・イニシアティブ(Fi)の設立
FIJ設立の趣旨
ファクトチェックのガイドライン
ファクトチェックへのメディアの参加
「問題ある情報」を幅広く収集するために

3章総選挙でのファクトチェック
スマホでの問い合わせ
総選挙をファクトチェック
消費稅2%の増税でなぜ5兆円強の税収なのか
正社員になりたい人がいれば、
必ずひとつ以上の正社員の仕事はある?
野党党首の発言のファクトチェック
内部留保300兆円は事実か
ネットやメディアの情報もファクトチェック

4章沖縄県知事選挙でのファクトチェック
普天間基地をめぐる痛恨の記憶
「沖縄にアメリカ軍基地は集中しているのか?」をチェック
ファクトチェックは地味、されど大切な作業です
NHK記者として沖縄赴任していた時のこと
沖縄一括交付金の創設をめぐるファクトチェック
調査報道から見える沖縄のファクト
本土米軍の沖縄移転のファクト

5章大阪ダブル選挙でのファクトチェック
善悪を議論するのは止めましょう
吉村候補「マニフェスト9割達成」発言のファクトチェック
二重行政と都構想
都構想をファクトチェック
東京都創立の歴史的経緯
ファクトチェック記事への反応
飛び交うネットでの偽情報
巧みなフェイクニュース

6章ファクトチェックの国際的な潮流
国際ファクトチェックネットワークと世界ファクトチェック大会
ヨーロッパのファクトチェック
世界がモデルとするアメリカのファクトチェック
活発化するアジアのファクトチェック
そのほかの地域

あとがき

立岩陽一郎 (著)
出版社 : あけび書房 (2019/6/7)、出典:出版社HP

フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 (角川新書)

フェイクニュースの真の姿

日本でも見られるネット世論操作は、もはや産業と化しています。このような時代を生き抜くためには、フェイクニュースについて理解し、どのような対策を取れるかを知る必要性があります。日本だけでなく世界のフェイクニュースの実態までよくわかる1冊です。

一田和樹 (著)
出版社 : KADOKAWA (2018/11/10)、出典:出版社HP

はじめに

私は日本でいくつかのサイバー関連企業の経営にたずさわった後、六年前にカナダのバンクーバーに引っ越した。ここにいると日常的に見聞きすることが日本とはだいぶ異なるのに驚く。北米で大きく取り上げられている事件がなぜか日本では報じられていなかったり、誤った解釈で伝えられたりすることが意外と多い。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)監視と、フェイクニュース、ハイブリッド戦もそのひとつだ。
その経験を基に世界に拡がっているSNS監視について、この問題にくわしい江添さんと一緒にまとめたのが、昨年上梓した『犯罪「事前」捜査』(角川新書)という本だ。おかげさまで好評をいただき、増刷された。
今回はフェイクニュースとハイブリッド戦についてまとめた。日本でよく耳にするフェイクニュースやハイブリッド戦とは違う視点で書かれていると思う。EU、NATO(北大西洋条約機構)、アメリカ、アジアの状況を踏まえてまとめたものなので、世界の標準とまでは言わないが、日本以外では本書のような視点で語られることが多いと言ってよいだろう。
フェイクニュースと聞いて、ほとんどの人はネット上のねつ造されたニュースや情報を思い浮かべるだろう。そして、そういうものがSNSを通して拡散し、社会に悪影響を及ぼしているのだと想像するだろう。その対策は個々人の情報リテラシーを上げるとともに、しかるべき機関がファクトチェック(事実確認)を行って真偽判定をすること。フェイスブックやツイッターなどのSNS提供者側もファクトチェックに対応した規制を行うことが望ましい。そんな感じだろう。ある面では正しい。
ある面と制限したのは愉快犯やアクセス稼ぎ(あるいはアフィリエイト収入)目的だけを対象にするのなら効果がありそうという意味だ。しかし現実のフェイクニュースにはもっと広い範囲でさまざまな人々が関わっており、組織的に世論操作を仕掛けられていることも少なくない。世論操作を目的としたフェイクニュースは、大規模なボット(システムによって自動的に運用されるSNSアカウント)、トロール(人手によって運用されるSNSアカウント)やサイボーグ(システムに支援された手動運用)による拡散を含む作戦と連動し、さらには広範なサイバー攻撃を含むこともある。もちろん、こうした大規模な作戦を展開できる組織は限られる。その中でも大きな影響力を持っているのが国家である。フェイクニュースは国が本気で取り組むものになっている。
言い方を換えると国をあげてフェイクニュースを使ったネット世論操作に取り組んでいる以上、警察、公務員、政治家、軍事関係者など政府の関係者から企業まで、この問題の当事者になっている。たとえば中国のネット世論操作部隊五毛党のメンバーのほとんどは公務員だったし、アメリカ、イスラエル、ロシア、フィリピンなども政府としてネット世論操作に関わっている。最近のレポートによれば世界の四十八カ国でネット世論操作が行われており、その全てが現政権維持を目的のひとつにしている。同時にネット世論操作産業とも言うべきものが勃興している。政府や政党あるいは政治家のためにネット世論操作を立案し、実行するビジネスだ。
日本でもネット世論操作は行われており、そのために資金が投入され、金を目当てにネット世論操作に加担している者がいる。ネット世論操作産業のエコシステムができあがっている。
フェイクニュースがここまで大げさな話になっていることには理由がある。ネット世論操作は近年各国が対応を進めているハイブリッド戦という新しい戦争のツールとして重要な役割を担っている。ハイブリッド戦とは兵器を用いた戦争ではなく、経済、文化、宗教、サイバー攻撃などあらゆる手段を駆使した、なんでもありの戦争を指す。この戦争に宣戦布告はなく、匿名性が高く、兵器を使った戦闘よりも重要度が高い。EU、アメリカ、ロシア、中国はすでにハイブリッド戦の体制に移行している(あるいは、しつつある)。そのためフェイクニュース、ネット世論操作はハイブリッド戦という枠組みの中で考える必要がある。単体でフェイクニュースのことを取り上げても有効な解決策は生まれない。
別な角度から考えるとフェイクニュースとネット世論操作は社会変化を反映しているとも言える。ネットの普及がもたらした社会変化のひとつであり、民主主義の終焉であり、低い文章読解力がもたらした弊害でもある。フェイクニュースというのは我々の社会が、現在直面している軍事、社会、そして民主主義の危機を象徴している。単純にファクトチェック組織を作るとか、事業者が管理を厳しくするとかで解決できる話ではない。

本書ではハイブリッド戦を軸に多面的にフェイクニュース、ネット世論操作を考察したい。
第二章でくわしく説明するようにフェイクニュースという言葉の定義はさまざまで、ネット世論操作も同様だ。本書ではどちらも広義にとらえることにする。
フェイクニュースには情報が誤っているものだけでなく、ミスリードしようとしているもの、偏った解釈あるいは誤った解釈、偏った形での部分的な事実の開示なども含める。ネット世論操作は、ネットを通じて世論を誘導すること全般を指すものとする。
本書はフェイクニュース、ネット世論操作についての概要を紹介するものであるが、全てを網羅しているわけではない。事例では比較的日本になじみのある地域を中心に取り上げている。たとえばロシア、ヨーロッパ、アジアの状況については触れているが、中東、中南米、アフリカについては触れていない。また、ファクトチェックについては問題の本質的な解決手段にはなり得ないので簡単に触れる程度にとどめた。もっとも新しく包括的なレポートのひとつであるフランス政府機関の『情報操作デモクラシーへの挑戦
(INFORMATION MANIPULATION A Challenge for Our Democracies)] (1101< < IT’ A report by the Policy Planning Staff (CAPS, Ministry for Europe and Foreign Affairs) and the Institute for Strategic Research (IRSEM, Ministry for the Armed Forces))によればファクトチェックには、いくつかの問題がある。すでにある信念に反していると逆効果になる場合があること、読まれないことも多いこと、ファクトチェックが市場になりつつあり商業目的のものが出てきていることなどがあげられている。

本文中の敬称は省略した。あらかじめご承知おきいただきたい。

一田和樹 (著)
出版社 : KADOKAWA (2018/11/10)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第一章フェイクニュースが引き起こした約十三兆円の暴落
フェイクニュースはハイブリッド戦兵器
ネット世論操作が狙う社会の四つの脆弱性
アメリカ大統領選で勝利したのはロシア?
民主党とクリントン陣営のメールがハッキングされた事件
フェイスブックの情報漏洩とケンブリッジ・アナリティカ
ロシアの広告がフェイスブックで一億五千万人に表示
アメリカ国内に拡がるロシアやイランのフェイクメディア
ロシアのメッセージが世界の三千以上のメディアに一万回以上拡散月
マケドニアの少年のネット世論操作関与の真相
ロシアのネット世論操作の歴史
世界に拡がるロシアのネット世論操作
金融市場向けフェイクニュースPR企業

第二章フェイクニュースとハイブリッド戦
フェイクニュースの定義、特徴、対策
現状のAIによる自動判別は論理的に破綻
ファクトチェックは決め手にはならない
検証記事を理解できない人間が増えている?
フィルタバブルと政治フィルタ、機能的識字能力フィルタ
フェイクニュース対策でもっとも重要なのは政府の体制
最強の非対称兵器フェイクニュース
ネット世論操作の四つのパターン
ネット世論操作の基本は国内の支配確立
拡大するネット世論操作産業
巨大な影響力を持ったSNS企業はもはや国家である
エピストクラシー、Google Urbanism、ハイブリッド地域戦

第三章世界四十八カ国でネット世論操作が進行中
世界各国のネット世論操作部隊
世界のネット世論操作部隊
中国五毛党、イギリスJTRIG、トルコAKTrolls等
ヨーロッパを脅かすロシアのネット世論操作
ロシアを支持するフランスの国民戦線(現在の国民連合)
ロシアが支援するポピュリズム政党が政権を取ったイタリア
独立分離騒動のカタルーニャはロシアンマフィアの拠点
ハイブリッド戦としてのクリミア侵攻
第四章アジアに拡がるネット世論操作
政権奪取からリンチまで
国内統治とナショナリズムの台頭を担うネット世論操作
インドフェイクニュースで七人がリンチ殺人

インドネシアネット世論操作業者が選挙戦で暗躍
フィリピン政府が推進するネット世論操作大国
シンガポールフェイクニュースで四千万円稼いだ日系人
ベトナムロシア支援で急速に進むネット言論統制と世論操作
カンボジアネット世論操作企業が支える独裁体制
マレーシア世界最大級の金融不祥事を巡るネット世論操作
タイ振り子のように軍政と民主主義を行き来するフェイクニュース国家
ミャンマー七十万人を国外脱出させたフェイスブックの悪魔
韓国元国連事務総長に大統領選出馬を撤回させたフェイクニュース
台湾中国のネット世論操作の標的~

第五章日本におけるネット世論操作のエコシステム
日本ではどうなっているのか?
政府実行自民党のネット組織
政府容認、支援政治家のウソがフェイクニュースを許容
政府容認、支援政府がヘイトを許容
政府が演出する「攻撃してもよい」雰囲気
世論操作のためのボットが日本でも大規模に活動
右よりアカウントのフォロワーの八割はボットとサイボーグ
政権支持のトロール募集記事を堂々とネットで告知的
日本における情報遮断
扇動される日本人十三万件の懲戒請求騒動
国の仕組みに組み込まれたウソ
親学と江戸しぐさ
フェイクニュース大国への道を歩む日本
問われているのは我々自身である

謝辞
おわりに
参考文献

一田和樹 (著)
出版社 : KADOKAWA (2018/11/10)、出典:出版社HP

フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ: 増補新版世界を信じるためのメソッド

嘘を見破る力を育てる

例えばカメラで何かを撮ったとき、そこに写ったものはその出来事やモノのほんの一部でしかなく全体像は隠されていることが多々あります。その隠されている部分を想像しながらニュースを読むことこそがメディアリテラシーを身につける最短のルートと言っても過言ではありません。本書では、複雑で多面的な世の中を多角的に捉えることができる力が身につきます。

森 達也 (著)
出版社 : ミツイパブリッシング; 増補新版 (2019/12/10)、出典:出版社HP

もくじ

第1章ニュースは間違える
連想ゲームをしよう
イメージはどこから?
戦争とお菓子の値段
メディアって何?
メディアが間違うとき
無実の人が犯人に?
間違いを信じないために

第2章ニュースを批判的に読み解こう
丸呑みしないで、よく噛もう
ラーメンが食べたくなる
ニ○パーセントでも二四OO万人
リテラシーって何?
映画とラジオの誕生
字が読めなくてもわかる
星の王子さまも注意していた
戦争も起こせる
日本にもあったこと
テレビの誕生
クウェートの少女と水鳥

第3章きみが知らない
メディアの仕組み
僕がクビになった理由
メディアジャック
今日のトップニュース
ニュースの価値はどう決まる?
ニュースの作り方
どっちも「事実」
「わかりやすさ」のトリック
「撮る」ことは「隠す」こと
小数点以下の世界/中立って何?
「悪」はどこにいる?
両論併記って何?
多数派はなぜ強い?
メディアと主観

第4章真実はひとつじゃない
世界をアレンジする方法
メディアは最初から嘘だ
「切り上げ」と「切り捨て」
ヤラセと演出/事実は複雑だ
ニュースのうしろに消えるもの
間違いが作られるとき
市場原理とメディア
間違いを望むのは誰?
メディアはあおる
僕らは思い込む
思い込みを変えるのもメディア

第5章フェイクニュースに
強くなるために
世界はグラデーションだ
自由はこわい?
世界から見た日本
北朝鮮の新聞
放送禁止を決めたのは誰?
平和の歌が放送禁止になるとき
フェイクニュースがメディアを変えた
メディアと僕らは合わせ鏡
どっちが嘘なの?
メディアはどんどん進化する
メディアの外にあるもの

あとがき

森 達也 (著)
出版社 : ミツイパブリッシング; 増補新版 (2019/12/10)、出典:出版社HP

フェイクニュースの見分け方 (新潮新書)

真偽を見抜く力を身につける

メディアの中から事実を見つけるにはどうすればいいかを、著者の体験に基づいて書いた本です。本書では、一見もっともらしい情報に対するAmazonやGサーチ、検索によるクロスチェックなどの技術的なファクトチェックの方法、正しい情報を見分けるために役立つヒントを実際の報道を事例として分かり易く詰め込んでいます。

烏賀陽 弘道 (著)
出版社 : 新潮社 (2017/6/15)、出典:出版社HP

はじめに

新聞・テレビ・雑誌・書籍など「旧型マスメディア」と新興のインターネットをぶち抜いて、より精度の高い「事実(ファクト)」を探す。そのための具体的な方法を提案する。それが本書の目的です。
私は1986年に朝日新聞社に入社して、新聞記者になりました。その後新聞記者→週刊誌記者→編集者→フリー記者と、活字媒体のあらゆる職種を経験しています。フリーになった今は、写真も撮りますし、場合によってはビデオカメラも回します。
幸運だったと思うのは、その職業人生の間に、アナログ→デジタル→オンライン化というマスメディア産業の技術革新を、職業の現場で、しかも同時進行で体験できたことです。新聞→雑誌→書籍→インターネットと媒体はどんどん変化しました。新聞記者になりたてのころは原稿用紙にボールペンだったのが、ワープロになり、ついでパソコンじになり、今やiPhoneで書くことすらあります。昔は原稿をテレタイプやファクスで送っていたのに、今ではメールどころか、クラウドサーバーにリアルタイムで打ち込んでいます。
本書で紹介するのは、そうした職業生活の中で私が自然に身につけた「事実の見つけ方」です。
プラスマイナスの総体で考えれば、職業的場面でも私的場面でも、インターネットは私の人生に大きな恵みをもたらしていると言えます。ネットというメディア革命がなければ、私は新聞社を辞める決断をしなかったかもしれません。
しかし社会全体を見渡してみると、インターネットの普及は「信頼できる情報をマスメディアから見つける」という作業をより難しくしました。何が事実かわからない。何を信じていいのかわからない。時を同じくして旧型メディアの衰退が始まりました。乾いた大地は崩れ、私たちは深くて広い「情報のカオスの海」に投げ出されたのです。そこは虚偽の情報(フェイク)と事実(ファクト)が混在している海でした。
そんな混乱したメディア環境にいると、人々は現実を知ることが苦痛になり、あきらめ、無関心になります。それは民主主義社会としては大変不幸なことです。私の提案する「事実の見つけ方」はあくまで私の個人的体験にすぎませんが、そうしたカオスの海を泳ぐ方法を知る一助にしてもらえれば幸甚です。

烏賀陽 弘道 (著)
出版社 : 新潮社 (2017/6/15)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章インテリジェンスが必要だ
公開情報に当たる重要性
日本会議は黒幕か
Gサーチの有効性
アマゾンは書店2.0

第2章オピニオンは捨てよ
オピニオンとは何か
増殖したオピニオン
「大物」のオピニオンには意味がある
代理話者に注意せよ
根拠を求める習慣を
安倍政権は言論弾圧をしたのか
圧力とは何か

第3章発信者が不明の情報は捨てよ
匿名者が発信する情報は信じるな
主語が明示されていない文章は疑う
組織が主語を消す
匿名の朝日記者
「関係者」はオールマイティ
新聞記者はなぜ匿名でもいいのか
「炎上」を過大評価するな
匿名ネット発言はデマの温床
信用できる匿名者とは
書き手の独断的な価値判断
印象操作の蔓延

第4章ビッグ・ピクチャーをあてはめよ
空間軸と時間軸を拡げる
電波停止発言は問題か
問題の本質は電波法
本質を掘り下げよ
書いていないことに着目すべき
前提条件を疑う
「わからない」とは言わないマスコミの悪癖

第5章フェアネスチェックの視点を持つ
フェアネスとは何か
吉田所長は偉人なのか
人間は複雑である
単純な話は受ける
罪請負人は英雄か
無罪請負人の別の顔
現実の単純化
ステレオタイプに沿ったストーリーは要警戒
略奪はなぜ少なかったのか
褒められたい私たち
アーレントの教訓
小保方氏の本の評価
元少年Aの出版は暴挙か
警察と検察報道の問題

第6章発信者を疑うための作法
発信者が多すぎる
フォロワー数は信用を保証しない
引用の正確さで見分ける
定義に正確な言葉を使っているか
言葉の定義を疑う
スラップ訴訟発信者の名前をアマゾンで検索してみる
キャリアも重要である/本を出すことの意味
「媒体」よりも発信者で選ぶ
「専門家」が事実に正確あるいは中立とは限らない
何の「専門」家なのかを確認する
ステマと専門家

第7章情報を健全に疑うためのヒント集
ヒント①世界は妄想に満ちている
妄想性障害
ヒント②陰謀史観は相手にしない
ヒント③企業や政府などの宣伝に沿った話は疑う
ヒント④集団のルールをもとに構成員は動く
法律が人間を縛る
ヒント⑤発問のゴールを明確に決めて動かさない
ヒント⑥事実の全貌は時間が経たないとわからない
ヒント⑦ロジックを逆にしてみる
ないものが「ある」と仮定してみる
ヒント⑧「断言の強さ」は正確さとは関係がない

烏賀陽 弘道 (著)
出版社 : 新潮社 (2017/6/15)、出典:出版社HP