日本の漁業の現状・課題についての5冊

過去30年間で世界の漁業生産量は2倍になりましたが、日本の漁業生産量はほぼ半減しています。その間、魚を取り巻く現在の状況はどう変わったのか、日本の魚はどこへいき、魚が減ると今後どうなるのか。今後、採用すべき政策は具体的に何があるのか。課題が見える日本の漁業の書籍を集めてみました。

 

日本漁業の真実 (ちくま新書)

濱田 武士 (著)
筑摩書房 (2014/3/5)、出典:出版社HP

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日本の漁業は現在、厳しい状況に置かれています。本書で著者は、日本の漁業の問題点を指摘し、漁獲量の大幅な減少と就業者数の大幅な減少、漁獲規制と国際間の紛争など様々な課題を抱えた現状をまとめています。漁業についての知識を広く捉える構成となっており、前半では、消費者の嗜好の変化や小売業の変化による漁業への影響や200海里経済水域の規制に始まる遠洋漁業の衰退から現在の規制強化の潮流について解説しています。

著者は、規制強化の方法やスーパーマーケットによる小売主導の流通形態、漁協への批判について批判的な意見も載せています。その一方で、具体的な解決策や筆者の意見が述べられていないため、どうすべきかを考える場合には、物足りなく感じてしまうかもしれません。

現在、日本で水産資源の管理が議論され始めていますが、本書では、規制に向かう動きについて、著者の意見が記されており、科学的分析の限界と規制による市場への影響についても触れ、IQ方式やITQ方式の出口規制の是非と負の側面について主張しています。現状の入口規制と出口規制の効果の違いについて明確に示していないのですが、筆者の規制の方針に一石を投じる問題提起は、漁業を考えていく上で、参考になるかもしれません。

また、国土開発による環境破壊で漁場がなくなっていると主張し、日本の漁業の衰退が複合的に追い込まれている状況を示しているため、様々な視点から日本の漁業について考えるきっかけとなる一冊でしょう。

日本人が知らない漁業の大問題

佐野 雅昭 (著)
新潮社 (2015/3/14)、出典:出版社HP

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本書は、日本の漁業を取り巻く現状についてまとめています。近年、クロマグロやウナギの数が減少し、食べられなくなるという危惧がよくなされます。しかし、それらの危惧は、本来の漁業の問題点とは異なり、多くの消費者と関係があるものでも無いとしています。実際、クロマグロやウナギは高級品で、食べる頻度は限られます。

著者は、日本の魚食文化が流通や市場環境、消費者の嗜好の視点から失われつつあると警鐘を鳴らしています。さらに、規制緩和への筆者の意見が、漁協や養殖、流通の観点から述べられており、一般的な大企業が参入する際に、安易な撤退が繰り返されるケースは望ましく無いため、安易な撤退を防ぐ制度設計をすべきであるとしています。

また、最近流行しているブランド化のマーケティング戦略についても、効果に疑問を投げかけ、たとえブランド化をしても、需給バランスによって価格が決定されるために、生産・流通のプロセスを見直すことも必要です。ノルウェーサーモンが例として挙げられており、日本の漁業との違いや性質の違いが存在するために、模倣をしても、効果が現れるとは限らないと指摘し、日本に合わせた手法を開発することの必要性も触れています。消費者の嗜好に合わせたマーケティングや認証制度など、消費者の問題点も主張しており、日本の漁業単体で無く、全体的な状況から見た、筆者の様々な意見があるため、いろいろな読み方ができる一冊となっています。

漁師と水産業 漁業・養殖・流通の秘密

小松 正之 (監修)
実業之日本社 (2015/12/17)、出典:出版社HP

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本書は、日本の漁業をテーマごとに分けて、詳細に説明しています。主に日本の漁業の衰退の原因と現状について触れられています。最初の方では、漁業権の問題や漁協の問題、法律の問題など、制度上の注目されにくい問題が取り上げられています。

日本において、漁業は許可制であり、漁業権を持つことは漁業をするためのライセンスの一つです。その漁業権の多くを管理しているのは漁協なのですが、この漁協の仕組みについて、筆者は改革が必要としています。現在、企業などが漁業に新規参入を行う際に、漁協が事実上の参入障壁となるケースが多く、産業の効率化や経営の健全化の障害になっているとしています。

さらに、現状を固定化させるような補助金政策が、漁業の衰退の要因の一つであるとしています。水産資源の減少と世界的な水産物の需要の増加による価格の上昇と経済停滞による日本の「買い負け」、国内の魚介類の消費量の減少など、需要側の現状についても解説しています。また、漁業者が高齢化し、減少の一途をたどる状況から、漁法、流通過程の変化など供給側の解説もしており、日本の漁業の問題点を生産者と消費者の両方の側面から指摘しています。

養殖の未来と問題点についてもまとめており、持続可能な漁業と水産資源の保護を如何にして実現するかを試行錯誤していることがわかります。持続可能な漁業のためには、漁獲規制も必要となりますが、現在の日本の漁獲規制では、適切な規制がされていないケースがあります。その対策の一つである、漁獲枠を個別に割り当てるIQ方式やITQ方式の導入についても事例を踏まえた説明がされているため、今後の漁業についても考えるきっかけになる一冊です。

魚が食べられなくなる日

勝川 俊雄 (著)
小学館 (2016/8/1)、出典:出版社HP

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日本は豊かな海に囲まれているために、豊かな魚食文化が昔から受け継がれています。しかし、現代の日本では、国内の漁獲量が減少し続け、漁業は衰退の一途をたどっています。魚を輸入する際にも、世界的な需要の高まりから、価格が上昇し、輸入が増えず、日本で魚を食べる機会が減りつつあります。なぜ、このような事態になったのでしょうか。

一般的には、中国、韓国による乱獲、クジラによる捕食、地球温暖化の影響の三つが理由として挙げられます。しかし、それらは、日本全国で漁獲量が減少していることをうまく説明できません。世界的には、水産資源が増加している地域もあります。つまり、日本における漁業の一般的な見方は、誤解が多いのです。その誤解を象徴するのは、漁業が日本だけが衰退しており、将来性が無いと思われている一方、他の国では、成長産業となっている現状です。この違いはどこから来るのでしょうか。

実は、漁獲規制がその鍵となっているのです。日本では、漁獲量を規制すると漁師が経済的に困窮するイメージがありますが、実際は、安定的に収入を確保する手段なのです。漁獲量に事業者ごとに規制をかけることによって、漁獲枠内で効率的に収入を高めることを目指して、水産物の質を高めようとする動きになり、価格が異常に安くなることが無く、水産資源も持続的に存在できるためです。消費者にとっても、水産物が安定的に供給される上に、品質が保証されるメリットもあります。

海外では、成功事例もあり、本書は日本の現状との対比しています。日本の漁獲規制の問題点も数多くあり、本書では、変えるべき現状やとるべき対策を明示しており、日本の漁業について考えるきっかけになる一冊となっています。

漁業という日本の問題

勝川 俊雄 (著)
NTT出版 (2012/4/12)、出典:出版社HP

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日本の漁業は急速に衰退していますが、この原因は何にあるのでしょうか。メディアでは、理由の一つとして「消費者の魚離れ」が喧伝されていますが、実は1976年から、魚離れという言葉が新聞に登場していました。その一方で、水産資源の減少が問題であるとする報道もあり、矛盾した情報が伝えられています。消費者と水産資源の減少、どちらに原因があるのでしょうか。

日本には、豊かな魚食文化がありますが、家庭で魚がよく食べられるようになったのは戦後からで、それまでは漁村など地域的な消費にとどまっていました。冷蔵庫の普及や冷蔵・冷凍技術の向上がきっかけで、家庭での全国的な多様な水産物の消費が可能となったのです。本書では、この水産物消費の歴史的背景と漁獲量の推移を検証し、筆者は日本漁船の乱獲を主な要因としています。

そして、その状況を作り出しているのは、早く獲った者勝ちになる仕組みにあるとしています。その対策として、漁獲枠の設定がよく実施されます。しかし、これだけでは不十分で、漁業者ごとに個別に漁獲枠を設定することで、水産資源の保護と漁業者の持続的な収入の確保が達成できるとしています。世界的には、個別の枠の設定が主流になりつつあり、成功例も出てきています。

日本では、この方式の導入が遅れており、多額の補助金がつぎ込まれている状況で、成功例をモデルケースとした改革の必要性を本書では主張しています。さらに、漁獲枠がこれまで形骸化していた状況について実例を挙げて指摘し、筆者の意見を具体的に示しています。データや引用が詳細に掲載されているため、理解しやすく、検証もしやすい一冊になっています。