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リーマン予想を掘り下げる
リーマン予想は、数学最大の難問として有名です。本書では、リーマン予想に至る素数の研究を振り返り、リーマン予想の研究についてわかりやすく解説をします。また、21世紀のこれからは、全ての数学を行う「絶対数学」が重要になってくるということを踏まえて、絶対数学の導入にも役立つように書かれています。
はじめに
リーマン予想は数学最大の難問として有名です。その背景には今から2500年も昔のギリシャ時代からの素数の研究があります。現代の私たちにとっては、素数は小学校時代から接してきていて、簡単なものに思えてしまうかもしれません。しかし、素数という考えを最初に思いついた人の身になって、自分で発見することを想像してみると、並大抵なことではなかったことに気付きます。残念なことに、素数に思い至った偉大な数学者の名前は、知られていません。現在では、素数は数学研究だけでなく、物理学などでも活躍していますし、現代情報社会のセキュリティーの基盤を素数を用いた暗号として提供するという重要な役目も担っています。
本書では、リーマン予想に至る素数の研究を簡単に振り返り、リーマン予想の研究についてできるだけわかりやすく解説をしました。そこには、オイラー、リーマン、ラマヌジャン、コルンブルム、セルバーグといった素数とゼータ関数の研究において数学史に名前を残す人たちが登場します。彼らが、どのようにして研究を推進したかを体験してください。
リーマン予想は未解決問題ですし、これまでの研究は膨大なものです。そこで、本書の解説は筆者の考える重要と思われる視点と題材のみに限定してあります。21世紀のこれからは一元体からすべての数学を行うという「絶対数学」が、リーマン予想の研究だけに留まらず重要だと思います。本書は、絶対数学への導入も兼ねています。リーマン予想は新たな人々の挑戦をまっています。リーマン予想への航海に乗り出してください。
2012年9月18日
黒川信重
リーマン予想の探求 -ABCからZまで
Contents
序章 オイラーとリーマン
コラム ゼータ関数とリーマン予想の略年表
第1章 素数の歴史
ピタゴラスからオイラーまで
第2章 素数とリーマン予想の関係
コラム オイラーとリーマン
コラム ゼータは生き物である
第3章 オイラー積ふたたび
コラム オイラー全集
第4章 オイラー積を発見したラマヌジャン
第5章 コルンブルムとセルバーグ
コラム ゼータ正規化積
第6章 深リーマン予想
コラム ゼータはダイコン!?
第7章 リーマン予想の解読へ
付録 数論の有名な予想のいくつか
(1) abc予想
(2) 関数体版のabc予想の証明
(3) アルチンの原始根予想
(4) 関数体版のアルチンの原始根予想証明の歴史
(5) 一覧表
読書案内
索引
著者プロフィール
よく出てくる記号の読み方と意味
序章 オイラーとリーマン
素数の研究をしてきた人は、今から2500年くらい昔のギリシャ時代から、たくさんいました。その探求が現代のように深い研究になってきたのは、18世紀のオイラーさん(1707年-1783年)と19世紀のリーマンさん(1826年-1866年)のおかげです。それは、ゼータ(ζ)を使うという段階に至ったからです。
オイラーさんは素数2,3,5,7、…にわたる積(オイラー積)を考え、それが自然数1,2,3、…にわたる和に等しいことを見抜きました(1737年)。リーマンさんは、この関数をζ(s)と名付け、さらに、ζ(s)が0になる複素数(零点と呼びます)は実質的に実部が1/2という一直線上に乗っていると予想しました(すべての複素数sに対してζ(s)を意味づけることは複素関数論の解析接続という方法が必要になります)。これが、数学最大の難問と言われる『リーマン予想』です。このリーマン予想は1859年に提出されてから150年以上経ちましたが、未解決です。本書では、このリーマン予想とその一歩先を話したいと思います。
リーマンゼータ関数のはじめのほうの虚の零点は次のようになっています。
リーマンゼータ関数の虚の零点の例
このように、すべての虚の零点の実部が1/2である、というのがリーマン予想です。
リーマン予想の感じをイメージしていただくために、素数やゼータとは離れた数学のところからの美しい定理を紹介しておきます。それは、オイラーさんが1763年12月12日にペテルブルグ(現在のサンクトペテルブルグ)学士院に報告した
『オイラー線定理:三角形の外心・重心・重心は一直線(オイラー線)上に乗っていて、間隔の比はこの順に1:2となる』
という不思議な定理です。リーマン予想の際の零点に外心・重心・垂心を対比して考え、一直線上に乗っているという同じ性質と眺めてもらえばよいのです。どんな三角形でも外心・重心・垂心は、なぜか、オイラー線というオイラー線という一直線上に乗っていて、ずれていないのです。しかも、間隔の比が1:1という等間隔ではなくて、なぜか1:2なのです。
リーマン予想は、この「一直線上に乗っている」という性質にあたります。では、オイラー線の場合に「間隔が1:2」という精密な性質は、リーマン予想の場合には何にあたるのでしょうか?それは、一直線上に零点が乗っているというリーマン予想をさらに踏み込んで、零点の虚部の間隔がどうなっているか、と考えるということです。零点の虚部の間隔がどうなっているかきちんと知りたい、という素朴な知的欲求は自然なものです。
図1 リーマン予想のたとえ
本書では、こういう、リーマン予想を一歩進めた『深リーマン予想』にも足を踏み入れます。
また、整数と多項式を対比するという絶対数学の考え方を基調として紹介します。絶対数学とは1元体F1上で、すべての数学を展開するものです。リーマン予想解明に向けての最強の考え方です。最近のabc予想の研究でも使われています。このような、新しい世界を楽しんでください。
コラム ゼータ関数とリーマン予想の略年表
1737年 オイラー:ゼータ(オイラー積)を発見し、素数とゼータが結びついた
1837年 ディリクレ:等差数列内の素数の分布をゼータを使って研究した
1859年 リーマン:ゼータの虚の零点を用いて素数分布公式を証明し、リーマン予想を提出した
1914年 ハーディ:リーマンゼータが実部1/2の零点を無限個持つことを証明した
1916年 ラマヌジャン:高次(2次)のゼータを発見し、ラマヌジャン予想を提出した
1919年 コルンブルム:合同ゼータを史上初めて発見[1914年没;遺稿がランダウにより出版]
1932年 ジーゲル:リーマンのゼータ研究遺稿を調査し報告[リーマン・ジーゲル公式の発見]
1933年 ハッセ:楕円曲線の合同ゼータに対するリーマン予想を証明した
1942年 セルバーグ:リーマンゼータの虚の零点のうち少なくとも正のパーセントは実部が1/2となることを証明した
1948年 ヴェイユ:代数曲線の合同ゼータに対するリーマン予想を証明した
1949年 ヴェイユ:合同ゼータ関数の一般的定式化(ヴェイユ予想)提出した
1952年 セルバーグ:セルバーグゼータ関数を発見し、リーマン予想の対応物を証明した
1962年、1963年 佐藤幹夫:ラマヌジャン予想を合同ゼータ関数に対するリーマン予想(ヴェイユ予想) に帰着させ、佐藤テイト予想を提出した
1965年 グロタンディーク:合同ゼータ関数の行列式表示を証明した[そのために一万ページに及ぶスキーム論EGA、SGAを構築]
1974年 ドリーニュ:合同ゼータ関数に対するリーマン予想(ヴェイユ予想)を証明した 1974年 レヴィンソン:リーマンゼータの虚の零点のうち少なくとも1/3(34パーセント)は
実部が1/2となることを証明した
1989年 コンリー:リーマンゼータの虚の零点のうち少なくとも2/5(40パーセント)は実部が1/2となることを証明した
1995年 ワイルズ(+テイラー):フェルマー予想を証明した(楕円曲線の標準ゼータによる)
2011年 テイラー達:佐藤テント予想を証明した(保型形式のゼータの無限系列を用いる)
20XX年 xxxx:リーマン予想解決