親子で読む ケータイ依存脱出法

【最新 – ネット依存・ゲーム依存を理解するためのおすすめ本 – 実態と対策を知る】も確認する

ネット依存の実態とその解決策がわかる

内容はとても興味深く脳の働きについてわかりやすく解説しており、依存症の怖さがわかります。ケータイ依存がどんな風に発展し、維持されているかということについて、脳の機能などを含めて、理論的に説明されています。

磯村毅 (著)
ディスカヴァー・トゥエンティワン

はじめに

あなたは、「国公立大学の医学部生」と言われたら、どんな若者を思い浮かべるでしょうか。成績は? 生活習慣は?
私は、ある国公立大学から、医学部の新入生を対象として、依存症の特別講義を依頼されたことがあります。そのとき、事前学習として依存症に関する図書のレポートを提出してもらいました。その中から1つ紹介します。

『依存症のカラクリ』を読んで8歳・男子

私は依存症といえば、アルコール・タバコ・ドラッグといった、人間にとって有毒な化 学物質を摂取することによる依存症を真っ先に思い浮かべます。しかし、本書では恋愛やギャンブル、インターネット、SEXなどの、精神的なことでドーパミンが分泌され、依存するという依存症も書かれていて、そこにとても興味を覚えました。
以下に、私が気になった項目についての感想や考察などを書いていきたいと思います。

本書で私が気になった項目の1つに、ケータイ依存があります。私がケータイ電話を 買ってもらったのは、私が高校に入学してからだったのですが、以来、どんなときでも時 間があればケータイをひらいて見ていました。私も依存症であったと思っています。
本書の中では、これには2つのパターンがあると書いてありました。1つは恋愛に関するパターン、もう1つはSNS系のパターンです。後者のSNS系では、「かまってちゃん」と称される、ブログ上の日記へのコメントやメール返信を期待しつつじらされ、よう
やくかまってもらえたときの大きな喜びを再び得ようと依存していく人について記述され
ていました。
私にも、彼らの気持ちがよくわかります。私も、SNSのFacebookをやっていますが、コメントや「いいね!」をついつい期待しがちです。まだ自分でケータイを見る のを自制することができるならいいのですが、、ひどかった時期は、大学受験を控えた10 月ぐらいにもずっとケータイをいじっていました。そのときは、私は親に頼んでケータイの機能を制限してもらうことで、なんとか依存をやめることができました。依存の恐ろし さをしっかりと味わいました。
次回の特別講義では、さらに詳しく依存症について勉強したいと思います。

*1 ソーシャルネットワーキングサービス。mixi、ツイッター、Facebook、LINE に代表されるウェブ上でメッセージのやり取りや、情報の公開・交換ができるサービス。
*2 傍線は著者による。

別の例をご紹介します。ある母親から、こんな話を聞きました。
その母親は2年前、幼稚園年長組(当時)の娘に毎晩、布団の中で絵本を読み聞かせてやるのが楽しみでした。その娘が、あるときから小6の兄の部屋で寝るようになりました。
はじめのうちは仲がいいんだねえ、とほほえましく見ていましたが、ある晩、真夜中にベッドの中でこっそりいっしょにゲームをやっているのを見つけてしまったのです。
実は、兄はそれまでに親に隠れてゲーム機(DS)を手に入れ超熱中。視力が低下し、 2回にわたって取り上げられていました。2つ目のゲーム機は、親の金を盗んで買っていたようです。
これで3度目のゲーム没収となった兄は、妹を「お前のせいで見つかった」と激しくののしりましたが、そこまでは想定内。母親がショックを受けたのは、その後の娘の行動でした。
泣いても怒ってもゲームが返してもらえないとわかった娘は、別人のように熱心に勉強 をするようになったのです。そして、親がそのことに感心すると、「ごほうびにゲームをまたやりたい」と交渉してきたといいます。
まだあどけない幼稚園の娘が、そこまでしてゲームがやりたいんだ、といじらしい気持ちになると同時に、母はゲームの魅力の強さに思わず身震いしました。娘は、母の楽しい絵本の読み聞かせよりゲームを選んだばかりでなく、ふだんはあんなに嫌がっていた勉強を懸命にやってまでゲームをやりたいと考えたのです。

*3 アメリカABC ニュースが伝えたところによると、スマホを与えていた幼児に対し、母親とスマホ(タブレット)を前に並べてどちらを選ぶか実験を行った。すると、子どもは全員タブレットを選んだそうだ。

それでも母は、心を鬼にして夫と2人で、ゲームをねだる娘に、「小さいころからゲームに夢中になると止められなくなって頭が狂ってしまう」と根気強く説明しました。この ままでは、娘も兄と同じになってしまう……。いや、もう手遅れか。そんな恐怖を感じた
のです。
夫が、面接するのが仕事の心理士であったことが幸いだったのかもしれません。娘は両親の話に耳を傾け、ゲームのことは言わなくなり、元の元気な子どもに戻っていきました。
一方、兄は懲りずにゲームに手を出し続け、その後もPSポータブルとPSヴィータ、iPodTouchを取り上げられました。さらには友人から借りたという、PSヴィータも2回返させられています。

この2つの例をお読みになって、あなたはどのように感じられましたか?

事態はよくなるどころか、さらに深刻化している

2013年の厚労省の調査によれば、ネット依存が疑われる中高生は、全国に8万人い
ると推計されています。スマートフォンの普及により、ケータイからのネット接続がさらに容易となったため、事態はさらに悪化中です。
なにしろ、スマホを持ち歩くことで、いつでもどこでもゲームができます。その中には、ギャンブル性が強く高額課金が社会問題化したものや、仲間と行うオンラインゲームのように依存性の高いものも含まれます。
LINE、ツイッターといった、人とやり取りができるソーシャルサイトと呼ばれる ネットにつながることもできます。

こうした技術の変化があまりにも急激に起こったため、その負の側面が親や社会に十分認識されないうちに、多くの子どもが「便利なツール」としてケータイを手にしているわけです。
ネット先進国の韓国では、2000年代にオンラインゲームによるネット依存が社会問
題化。16歳になるまでは、夜2時から朝6時までオンラインにアクセスできない「シャッ
トダウン制度」を設けるなど、国を挙げて対策に邁進しています。しかし日本では、対策
はまだ緒に就いたばかりといえるでしょう。

私がここで強調したいのは、ネットやゲームの魅力の強さです。子どもによっては、本当に我慢ができないものなのです。
たとえば、1つ目の例では、国公立の医学部に合格するという高校生ですら、受験の直前という状況にもかかわらず、親の助けを借りなければケータイの魅力を退けることができませんでした。
2つ目の事例の「問題児」の兄も、普通に学校に通い、むしろ成績は上位、運動クラブ の活動にも熱心に取り組む、元気のよいごくありふれた中学生です。
いずれの親子も、お互いの信頼関係は決して悪くありません。外から見れば、どちらも世間並みの子育て、いやそれ以上に順調に見えたはずです。
しかし家庭の中では、ケータイ、ゲームをめぐって、激しい戦いが繰り広げられてきま
した。ちょうど水鳥がすいすい泳いでいるように見えても、水面下で足を一生懸命に動か しているように、絶え間ない努力が続いているのです。
何のための努力かというと、それは直接には、当人や両親としては成績が下がるのを防ぐため、あるいは目が悪くなるのを防ぐため、といったことかもしれません。
それについては、「そんなに厳しく言わなくても、少しくらい成績が下がってもよいではないか」という見方もできるかもしれません。また、今どきの時代、ゲーム・ケータイ抜きにはやっていけないという言い方もあるでしょう。

しかし、この問題はもっと慎重に扱う必要があります。決して成り行きまかせにはできません。そして科学的に見ても、もっと大切なことが、このとき危険にさらされているの です。

子どもたちの健やかな成長を取り戻すために

ちょっと考えてみてください。もし、最初の例の高校生が受験に失敗し、そのままケータイ依存を振り切れずにいたらどうなるでしょう。あるいは、幼稚園や小学生の子どもが
ゲームに夢中になり勉強や運動ができなくなるとしたら……。 仮に運よく回復できたとしても、その間に失った時間はどうなるのでしょう。

子どもたちは、身体的にも精神的にも、そして社会的にも成長の最中です。その発育途
上の一番大事な時期に依存症になるということは、単に依存症という医学的な問題だけで
はなく、子どもたちが将来、一人前の大人として成長し、就職し、独立をして家庭生活を
営んでいくのに必要なトレーニングの機会を失うという教育上の問題をも含んでいるので
す。
この問題をおろそかにすることは、文字どおり取り返しのつかない不幸を子どもたちに、家庭に、そして日本の国全体にもたらすでしょう。

現代日本の消費社会は、いかにも明るく楽しげな外観に飾られています。しかしその魅惑的な外観とは裏腹に、まさに水が低きに流れるように、子どもが「堕落」への道をまっしぐら、となる圧力がつねに働いています。
私は禁煙支援を専門とする呼吸器科医ですが、私のところにも多数の学校から喫煙・飲
酒・薬物防止教育の依頼が来ます。さまざまな誘惑から子どもを守りたいと願う関係者は多いのです。

しかし、最近のケータイやゲーム、ネットの発達を見ると、デジタルツールによる便利 さと引き換えに、時間的にも空間的にも子どもたちの健やかな成長がいよいよ内側から脅 かされはじめた感があります。

本書では、このケータイやゲーム、ネットの時空を超えたトライアングルが織りなす、「電子の罠」(デジタルトラップ)について考えていきます。

そこでは、依存症の有害性にとどまらず、脳科学から見たハマってしまうカラクリ、子どもの成長とデジタルツールの関係、あるいは、依存症の予防や回復へのヒントにも注意を向けていきます。

悩んでいるのは、あなただけではありません!

私は、子どもたちをケータイやゲームの悪影響から守ろうとがんばっている家族や先生、そして子どもたち自身を応援したいと思っています。
この本を手に取ってくださっている方は、きっと何らかの心配をお持ちなのでしょう。そんなあなたには、「悩んでいるのはあなただけではない」と大声で伝えたい。そしていっしょに対策を考えたいのです。
そのために、この本は、そのままご家庭で役立てていただけるようにと考えて、子ども向けのページ(第1章)を設けました。

子ども向けの最初の部分は、冒頭でご紹介した兄と妹に、私が直接会って行った面接で のやり取りそのものを収録しています。面接をしながら、私は実際の子どもを目の前に、ゲームやケータイ、ネットに関する注意や対処法をできるだけわかりやすく、本質をついた短いフレーズで伝えようと努力しました。
ですから、このやり取りの部分は、子どもをデジタルトラップから守ろうとしている方
に、そのまま役に立つはずです。面接場面には小学生・中学生・高校生と3つあり、その あとに大人向けに、より専門的に解説する(第2~4章)、という構成としました。

私は、子どもにも理解できるように伝える努力をすることは、物事の本質をわかりやすく浮き彫りにする近道なのかもしれないと感じています。 なぜなら、やさしい言葉で説明しようとして、初めて自分がよくわかっていないと気づくこともあったし、子どもからの思いがけない反応で教えられることも多かったからです。

その意味で、この本は子ども向けの部分も含めて一般の人にも、きっと参考になると思います。本書によって、1人でも多くの人が「電子の罠」に気づき、明るく落ち着いた毎日を送ることができるよう祈っています。

本書の構成と使い方

第1章 : 子どもとの面接場面
> 子どもに読み聞かせる、または自分で読んでもらうための教材です。

著者と子どもとの面接場面が3つ紹介されています。それぞれ、本格的な依存症というほどではないけれど、ケータイやゲームで成績が落ちてしまった小学2年生、中学2年生、高校2年生です。
実際の会話をもとに構成されているので、やさしい言葉でポイントをついた表現になっています。また会話は、「動機づけ面接」と呼ばれるスタイルで行われていますので、子どもとの接し方の1つのモデルとして参考にしていただければと思います。

*4 従来、依存症患者には現状の問題点を厳しく指摘する対決的な方法がとられてきたが、逆に抵抗を招くことも多く関係者は苦慮してきた。これに対して、患者の気持ちに寄り添いつつ、よい方向への行動変化を促すものが「動機づけ面接」である。

第2章・第3章・第4章 : 保護者会の場面と解説
> 保護者・教育関係者を対象とした、より高度な内容です。
子どもとの面接で出てきた、デジタルツール(ケータイ・ネット・ゲーム)と脳との関係(「失楽園仮説」など)や、依存症の予防策について説明します。
また、デジタルツールに囲まれた社会でいかに子どもの教育環境を確保し、鍛えなおし
ていくかについても考えていきます。

磯村毅 (著)
ディスカヴァー・トゥエンティワン

目次

はじめに
事態はよくなるどころか、さらに深刻化している
子どもたちの健やかな成長を取り戻すために
悩んでいるのは、あなただけではありません!

本書の構成と使い方
第1章 ケータイやゲームで 成績が落ちてしまった 子どもたちとのやり取りから
この本を読もうとしているきみへ
事例1 ゲームにハマりかけているが、本人は自覚していない ―少年A・中2
「ハマる」ってどんなこと?
いったんハマると治らない
ほかのことも楽しくなくなる
ケータイとゲームは似ている
刺激が強くなればなるほど、脳は弱っていく
ゲーム依存症にはワクチンがない
感覚はうそをつかない
やばいと思ったら、すぐやめること!
事例2 ゲームにハマりつつあったが、今は元気な子どもに戻った
少女B・小2(少年Aの妹)
ゲームはなんでいけないの?
ゲームばかりしているとどうなる?
ゲームにハマると、脳がにぶくなる
コラム 依存症のカラクリ
脳を休ませるのが大事
ここで、ピノキオの話をします
知らないうちに、ロバにならないで!
事例3 LINEに夢中だったが、 アナログ男子でいくことを決意
少年X・高2
子どものことを完全に理解している親なんていない
ケータイを取り上げる親が悪い?
ケータイがないと、やっていけない?
ケータイで、神経が弱くなっている
神経が回復すると、心も明るくなる

第2章 激論! 保護者相談会 ケータイをどのように 扱っていますか?
保護者A 言えば言うほど心を閉ざす娘
保護者B きちんとできる子だと思っていたのに
保護者C どのように使うかを細かく話す
保護者D 子どもに理解させることが第一
保護者E 親も、親子関係をつくる努力を
保護者F 子どもの個性により、必要な対処を
保護者G 子どもの言葉を鵜呑みにしない
保護者H 安易に何でも許可しない
保護者I 仲間はずれが怖くてやめさせられない
保護者J 大人が毅然とした態度を
保護者K 話をすることと妥協することは別
保護者L みんなで共通のルールをつくる
保護者M そもそも、こんな「楽しさ」って必要?
保護者N 「うちの親は本気だ」とわからせる
保護者O 親のチェックは必要
保護者P 自分の子どもは自分で守る
保護者Q LINEやっているかどうかでクラス分けを
保護者T 子どもケータイで十分では
保護者U 大人がルールを示せば守れる
保護者V コミュニケーションの素養にはつながらない
保護者W メールを禁止し、連絡網を使うことを提案

第3章 親が陥りがちな ケータイ3つの誤解
よくある誤解①子どもの個人差を見落としている
よくある誤解①–1 ちゃんと言って聞かせて話し合い、ルールをつくれば依存症は防げる
よくある誤解①-2 ゲームを使わせて我慢する力をつけることも大切
よくある誤解①-3 十分やらせればそのうちあきる
よくある誤解② 危機管理が不足している
よくある誤解②-1 やりすぎだからといって、ケータイを取り上げても意味はない
よくある誤解②-2 専門家は依存症を治すことができる
よくある誤解②-3 ストレスが多いときの依存症はしかたがない
よくある誤解②-4 子どもにもプライバシーがある
よくある誤解②-5 子どもの自主性が大切
よくある誤解②-6 子どもとの話し合いが大切
よくある誤解③ 世のムードに流されている
よくある誤解 スマホは世の中の流れ、避けては通れない
スマホの4つの弊害① 電磁波による発がん性
スマホの4つの弊害② 日常生活の喜び・興味の消失
スマホの4つの弊害③ 衝動性の増加(前頭葉の機能低下)
スマホの4つの弊害④ コミュニケーション能力の発達阻害・ネットでのトラブルによるトラウマ

第4章 子どもがネット社会の 弊害につぶされないために
思いきって、情報を制限しよう
是認される快楽が病みつきに
ネット断食のすすめ
子どもが自分の力で生きていくために
「本当に大切なことはツイッターではつぶやかない」
子どもになんらかの試練を与えることも大切
他人に助けられる体験が持つ意味
人に役立つことをするために
あとがき

磯村毅 (著)
ディスカヴァー・トゥエンティワン