ベーシック会社法入門<第8版> (日経文庫)

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効率よく会社法を学ぶ

本書は、会社法の全体像を把握する最短距離を目指す、より高度な考える学習への手がかりを提供することを目的としています。初学者が体系的に知識を消化しやすいように、また、各種試験に向けて会社法を勉強する人も効率的にポイントを押さえやすいように、全体の配列の工夫、索引の充実がされており、効率的に勉強できます。

宍戸 善一 (著)
日本経済新聞出版 (2020/4/9)、出典:出版社HP

まえがき

本書は1991年の初版以来,重要な会社法改正があるごとに改訂を行ってきました。この第8版も,2019年改正を反映させるとともに,全体を見直し,初版以来のフレームワークを維持しながら,日本企業,日本企業を取り巻く環境変化,および会社法学の進歩を取り入れるべく,改訂を行いました。

本書は,会社法の全体像を把握する最短距離を目指すとともに,より高度な考える学習への手がかりを提供しようとするものです。初学者が体系的に知識を消化しやすいように,また各種試験に向けて会社法を勉強しようとする人も効率的にポイントを押さえやすいように,全体の配列を工夫し,わかりにくい箇所の説明にはとくに留意しました。コラムでは,会社法学習に必須の専門用語の解説や最新の重要課題の紹介を行いました。読者の便宜を期し,索引も充実させました。

会社法は,会社という企業組織に関するルールを定めるものです。学生ベンチャーからトヨタ自動車に至るまで,大小様々な企業が,会社法の定めるルールに従って運営されています。そして,日々変化する企業を対象とする会社法も,それに応じた変化を遂げてきました。

わが国の会社法の起源は,1872年の国立銀行条例にあるといわれています。1899年に制定された商法典に会社法が入ってからでも,120年の歴史がありますが,その間,会社法ほど多くの改正が行われた法律は他に例がありません。最近では,1997年以来,急速に進んだ規制緩和改正の集大成ともいえる2005年会社法が,商法典から独立して制定されました。2014年には,コーポレート・ガバナンスや親子会社に関して,2019年にも,社外取締役や役員報酬・会社補償等に関して重要な改正がなされました。

会社法を理解する近道は,各条文の適用対象となる事象の具体的イメージをつかむことです。本書では,具体的なイメージから出発して法制度について考えることができるように工夫し,会社法のルールを単に解説するだけでなく,随所に会社システムについて考えるヒントを盛り込みました。また,より高度な学習への手がかりを提供するよう留意しながら,日々変化しつつある日本企業の姿を浮かび上がらせるよう努力しました。

会社法の定めるシステムは決して唯一自明のものではなく,未解決の課題を多く含んでいます。現実の日本企業の姿は,会社法のみによって作られたものではなく,企業を構成するヒト・モノ・カネの関係は,会社法,その他の関連諸法,各資源の背景にある市場の環境,さらには,企業が存在する社会の文化の影響を受けて,形成され,変化していくものです。新聞(とくに日本経済新聞)・雑誌等のメディアが提供する情報にも注意し,企業および会社法について考えるきっかけを探してみて下さい。

本書で引用した判例は,事件名に,『会社法判例百選[第3版]』(有斐閣)に載っているものはその判例番号を(たとえば,「八幡製鉄所政治献金事件(2)」のように),そうでないものには搭載判例集の頁を付しました。

初版以来,飯田秀総,岩倉正和,江口高顕,大崎貞和,大杉謙一,小出篤,田中亘,藤田友敬,宮島英昭,弥永真生,吉村一男,吉村政穂,渡辺徹也の各氏より有益なご意見をいただきました。第6版の改訂では,藤野洋氏,第7版および今回の改訂では,武田信宏氏に,校正等に関するご協力をいただきました。日経BP日本経済新聞出版本部の堀口祐介氏には,初版以来,筆者を温かく見守っていただきました。最後になりましたが,ここで皆様に厚く御礼申し上げます。

2020年4月
宍戸 善一

宍戸 善一 (著)
日本経済新聞出版 (2020/4/9)、出典:出版社HP

目次

プロローグ

第1章 企業活動と法
1 企業活動を営むための制度
(1) 会社以外の企業形態
(2) 法人格の取得を目指す
2 4種類の会社から選択する
(1) 合名会社―会社の名で取引する
(2) 合資会社―出資を募る
(3) 株式会社―より広く出資を募る
(4) 取締役会非設置会社―有限会社型株式会社
(5) 株式会社以外の有限責任企業形態―合同会社(LLC)と有限責任事業組合(LLP)
3 会社をめぐる利害関係人と関係諸法

第2章 株式会社とは
1 株式会社システムのデッサン
(1) 代表取締役,取締役会,株主総会(ヒトに着目した構造)
(2) 資産,負債,資本(モノとカネに着目した構造)
(3) 会社の支配構造と出資の関係
2 上場会社と非上場会社

第3章 株式会社の機関
1 機関の分化と意思決定
2 代表取締役の権限
3 取締役会と取締役
(1) 取締役会の役割
(2) 取締役の選任
(3) 取締役と会社との利益相反関係
(4) 取締役の責任と代表訴訟
4 経営をチェックするモニター
(1) 経営者に対するモニタリング
(2) 社外取締役・社外監査役(社外役員)の意義とその独立性
(3) 監査役の権限
(4) 会計参与
(5) 大会社の監査と会計監査人
5 機関設計の選択肢の拡大
(1) 指名委員会等設置会社
(2) 監査等委員会設置会社
6 株主総会と株主
(1) 株主総会の決議事項
(2) 株主総会の進め方
(3) 株主総会決議の瑕疵を争う訴訟
(4) 株主の権利義務と少数株主の保護

第4章 株式の役割
1 株式とは
(1) 出資と支配を結ぶもの
(2) 株式と資本金の関係
(3) 株式の分割・併合,株式無償割当
(4) 単元株制度
(5) 株式の種類
2 株式の譲渡
(1) 株式の譲渡・担保化
(2) 出資の回収と株式譲渡自由の例外
(3) 自己株式の取得・保有・処分
(4) 証券市場の整備と金融商品取引法

第5章 会社の資金調達手段
1 資金調達とは
(1) 資金調達の意義と貸借対照表
(2) 資金調達の形態
2 新株発行
(1) 新株発行(募集株式の発行等)の3つの方法
(2) 既存株主の利益の保護
(3) 新株予約権
3 社債の発行
(1) 社債の種類
(2) 社債発行に対する規制

第6章 損益の計算と分配
1 利益処分をめぐる利害対立と企業会計
2 貸借対照表と損益計算書
(1) 貸借対照表と損益計算書の関係
(2) 会計学と会社法の考え方の違い
3 株主への利益還元策
(1) 剰余金配当を行うには
(2) 日本企業の配当政策
4 損失の処理と倒産処理
(1) 欠損,債務超過,倒産
(2) 株主有限責任原則の修正

第7章 会社の組織変動
1 設立と解散
(1) 株式会社を設立するには
(2) 法人格の取得をめぐる問題
(3) 解散と清算手続き
2 組織再編
(1) 合併
(2) 事業譲渡
(3) 会社分割・分社
(4) 株式交換・株式交付・株式移転
(5) 親子会社法制
(6) キャッシュアウト (フリーズアウト)

索引

[COLUMN] 労務出資とスウェット・エクイティ
匿名組合
ベンチャー・キャピタルと投資事業有限責任組合(LPS)
株式相互持合いの解消と株式所有構造の変化
企業提携とジョイント・ベンチャー
コーポレート・ガバナンス
執行役員と執行役
マネージング・ボードとモニタリング・ボード
累積投票制度
役員報酬と経営者のインセンティブ
モニタリング・システム
総会屋と利益供与の禁止
株主の議決権の根拠とその動揺
譲渡制限株式の評価
内部統制システムとJ-SOX法
ベストプラクティス・コード
メインバンク制度とその変遷
敵対的企業買収と防衛策
ストック・オプションとリストリクテッド・ストック
複式簿記
IT化の会社法に与える影響
仮装払込の手口
開業準備行為
M&Aと株式公開買付(TOB)
株式買取請求権
企業グループと持株会社
組織再編税制の影響
親子上場
MBO(マネジメント・バイアウト)

宍戸 善一 (著)
日本経済新聞出版 (2020/4/9)、出典:出版社HP

プロローグ

会社はビジネス・システムの主役です。現代の多くの経済活動は,会社内で行われる生産と会社間で行われる取引の組み合わせからなっています。会社法は,効率的な会社組織作りと,会社をめぐる人々の対立する利害の調整を受け持つ法です。

経済社会の急速な変化に伴い会社法も改正を繰り返してきましたが,まだまだ問題点は残っています。本書では,現代の経済社会の中で最も重要な役割を果たしている株式会社を中心に,会社法に定められた理論的なシステムと会社の実態を比べ,「法と現実」のくい違いに触れながら法理論を概説します。

ひとことでいえば,会社はヒト・モノ・カネの組み合わせです。会社は法的な人格を与えられ,あたかも普通の人間のように法にもとづいた生活を営むことができますが,現実に会社を動かすのは生身の人間(ヒト)です。また,会社が生産活動を営むためには生産設備や原材料(モノ)が不可欠であり,それらの生産要素(ヒトやモノ)を調達するには資金(カネ)が必要です。

企業活動は,資金(カネ)を事業に投下して(モノに換える),回収する(カネに戻す)サイクルの繰り返しですから,どこから資金を調達するか,企業活動より生じた果実をどのように分配するのか,資金の提供(出資)と会社の支配をどのように関連付けるのかなどは会社組織に関する根本的な問題点です。会社支配権の取得は,気に入った経営者を選出できるということであり,ひいては,会社財産の処分権限を取得することを意味します。実際に会社の経営を行う経営者はどのような義務を負っているのか,経営者をどのように監督したらよいのかも会社法上の重要な課題です。

オーソドックスな会社法の教科書は,会社法の定めた設立,株式,機関,新株発行,計算…….という順に従って説明します。本書は,読者に会社法の全体像をより早く理解していただくために,あえて,会社法の順番にとらわれない構成をとりました。

まず第1章では,「学生企業家」A君をモデルに,わが国において選択可能な8つの企業形態のそれぞれの特徴を説明し,さらに一般的に,会社をめぐる利害関係人としてどのような人々が登場するか,そのうちのどの利害対立の調整が会社法の役割であり,その他の関係については,どのような法が担当するかを明らかにします。

第2章では,各パートの細かい説明に入る前に,株式会社システムの全体像のデッサンを提示します。そして,そのような法的なシステムと会社の実態とが必ずしもかみ合っていないという問題点を指摘するため,上場会社と非上場会社という「2つの種類」の株式会社の存在に触れます。

第3章では,株式会社システムを実際に動かすために必要な会社の機関について述べます。株式会社は,「機関の分化」を重要な特徴としています。わかりやすく説明するために,従来の説明の順番とは逆にピラミッド構造の上から,代表取締役,取締役会および監査役,株主総会の順に解説します。ここでは株式会社のヒトの要素を考えます。

第4章では,株主による出資と会社支配とをつなぐ役割を果たしている株式という概念について考えます。また,株式と有価証券制度との関係,および上場会社法の一部を構成していると考えられる金融商品取引法についても簡単に触れます。

第5章では,わが国企業の資金調達行動の特徴を示しながら株式会社が有する資金調達の手段と,それぞれの選択肢の問題点を解説します。会社の支配や,経営陣に対するモニタリングなどの問題にも触れますが,基本的に株式会社のカネの要素について説明します。

第6章では,企業活動の果実をどのように確定し,分配するかという,利益処分ないし損失処理をめぐる利害対立の調整を扱います。損失処理との関連で,倒産処理法および有限責任原則の修正についても触れます。第6章の中心は,会社法を勉強する際に最大の難所とされる計算に関する部分ですが,その理解のカギとなる点について簡潔に説き明かすように努めました。

最後に第7章では,会社の組織自体の変動を取り扱います。会社の生(設立)と死(解放)および融合(合併)と分裂(分割)などについて説明します。

■全体の流れとポイント

1. 企業活動と法
1. 8つの企業形態のうち,会社には,合名会社,合資会社,株式会社,合同会社があります。会社とは,資金を調達して運用し,利益を追求する社団法人です。
2. 会社をめぐって利害が対立する人々の間を調整するために,会社法をはじめ,様々な法があります。

2. 株式会社とは
1. ヒト・モノ・カネの3つの要素から,おおまかに説明します。
◆ヒトとは,代表取締役,取締役(会),株主(総会)などをさします。
◆モノとカネとは,会社の資産,負債,資本をさし,貸借対照表に簡明に表現されます。
◆株主の出資は株式を買うという形で行われ,その権利には議決権も含まれ,経営陣を選べる支配権につながります。
2. 株式会社法は,上場会社を念頭に置いて作られたものと,非上場会社を念頭に置いて作られたものに分けられます。

3. 株式会社の機関
1. 株式会社は,代表取締役,取締役会,監査役,株主総会などの各機関によって権限を分担し,統一のとれた経営を行います。
2. 取締役会によって取締役の中から選任される代表取締役の行為は,会社の行為とみなされます。
3. 取締役会は,重要な業務執行について決定し,代表取締役を選任・監督します。
4. 会計・業務を監督する監査役のほか,大会社では外部の専門家による会計監査が必要です。
5. 株主総会は取締役を選任する会社の最高意思決定機関ですが,万能の機関ではありません。
6. 監査役に代えて社外取締役による監督を目指す指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社が導入されました。

4. 株式の役割
1. 株式とは,誰でも簡単に会社に出資できるように,株主(出資者)の地位を何千万株にも均一に細分化・単位化したものです。
◆株主総会において,1株は1票となり,資本多数決の原則により取締役を選任します。
◆債権者にとってあてにできるのは会社財産だけなので,資本金に相当する財産から株主に配当することはできません。
◆一般的な株式を普通株といい,ほかに利益配当や議決権などに関して内容の異なった株式を発行できます。
2. 株式の譲渡によって出資を回収します。
◆株主が出資を回収する手段を確保するために株式譲渡自由の原則がありますが,法律や定款によって制限されることがあります。
◆健全・活発な証券市場を保つために,情報開示による投資家の保護を第一目的とした金融商品取引法があります。

5. 会社の資金調達手段
1. 会社の資金調達の方法は,他人資本(銀行借入,社債発行)と自己資本(新株発行,内部資金)による調達に大別されます。社債発行と新株発行は取締役会で決定されます。外部資金は直接金融(社債発行,新株発行証券がらみ)と間接金融(銀行・生保からの借入)にも分類できます。
2. 社債は会社が債券の発行によって負担する債務です。普通社債,転換社債,ワラント社債があります。
3.新株発行とは,会社の成立後に株式を発行することです。株主割当増資,公募増資,第三者割当増資があります。

6. 損益の計算と分配
1. 会社法の計算の規定は,剰余金配当をめぐる債権者と株主の間の利害対立を調整することを主たる目的としています。
2. 貸借対照表は決算日における会社の財務状況を静止画像で捉えたものであり,損益計算書は1年間(営業年度)の収益と費用を一覧表にまとめた会社の成績表です。
3. 株主に対する分配可能額は,貸借対照表にもとづいて算出されます。
4. 債務超過など,会社が倒産状況に陥った場合は,破産手続きや会社更生手続きなどに移行します。

7. 会社の組織変動
1. 株式会社の設立は発起人が中心に行います。定款の作成,社員の確定(出資の確保)機関の選任を経て,設立登記を行うと会社が誕生(法人格の取得)します。
2. 会社は,合併によって組織を大きくしたり,分割によって組織を細かく分けることもできます。

宍戸 善一 (著)
日本経済新聞出版 (2020/4/9)、出典:出版社HP