会社法入門 新版 (岩波新書)

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会社法の背景にある考え方を学ぶ

本書は、会社法の全体像について、基礎的なところから先端的なところまでをコンパクトにまとめたものです。条文の背景にある考え方、改正の背景といった概念的な説明がわかりやすく書かれており、入門書ではありますが、ある程度会社法を学んだ方が会社法の趣旨等の考え方を俯瞰するのに最適です。

神田 秀樹 (著)
出版社 : 岩波書店 (2015/7/23) 、出典:出版社HP

はじめに

「会社法」という新しい法律が二〇〇五年七月に公布され、二〇〇六年五月一日に施行された。本書の初版は、その施行の直前である二〇〇六年四月に刊行され、そこにおいて私は、この会社法が制定された背景と内容のポイントを解説した。その後九年を経て定着した会社法は、二〇一四年六月に施行後初めての一部改正が成立し、二〇一五年五月一日に施行された。さらに、上場会社向けに証券取引所が定めた「コーポレートがバナンス・コード」が二〇一五年六月一日に施行された。そこで、これらの動向を盛り込んで本書を改訂することとした。

会社法は会社の基本法と言われるが、私たち一般の市民にはなじみにくい法律である。それは、「会社」というと、普通は働く所だというイメージがまず浮かぶからではないかと思う。そして、会社で働くヒトは一般には「従業員」といい、働くことに関して規定している法律は、会社法ではなく、労働法という法律である。会社法には、従業員はほとんど登場しない。そこが会社法になじめないところであろう。では、会社法は何を定めているのか。条文を読むだけでは理解が難しい会社法について、この一冊で解説する。

本書の初版において、私は、日本の株式市場についての法制の改革を強調した。とくに、株式市場についての信頼の回復・確保が必要であり、法がそれをすべきことを述べた。公正さと透明さを法は守り抜かねばならない。具体的には、相場操縦やインサイダー取引その他の不公正な取引を法が厳しく監視・禁止し、受託者責任(業者が顧客に対して負う義務のこと)を厳しく問うなど、法がもっと前面に出る必要がある。アメリカのSEC(連邦証券取引委員会)のような強力な番人が必要であり、日本の証券取引等監視委員会(一九九二年設置)はその活動を一層強化する必要がある。このような条件を速やかに整え、他方では、新しい金融商品の開発や市場参加者の「正当な」活動を事前に制約するような規制は撤廃することが妥当であると述べた。

この点について、本書の初版刊行後の二〇〇六年六月に、株式市場を含めた資本市場分野の基本法である「証券取引法」という法律がその名称を「金融商品取引法」と改めて大改正され、二〇〇七年九月三〇日に施行されるに至った。しかもその後、金融商品取引法は二〇〇八年以降毎年一部改正され、二〇一五年にも一部改正がされた。この間、世界金融危機の発生(二〇〇七-〇九年)や東日本大震災(二〇一一年)など内外でさまざまなことが起きたが、法の整備という点では、金融商品取引法の毎年改正は起きるべきことが起きているというのが私の実感である。

そして、二〇〇五年会社法の施行後、二〇〇七年から上場会社向けに証券取引所が会社法に上乗せしたルールを制定し始めた。これも、株式市場についての信頼の回復・確保という流れのなかで起きるべくして起きた出来事である。それが原動力となって、二〇一四年の会社法改正が実現した。そして、二〇一五年に入ってコーポレートガバナンス・コードが制定された。

本書は、会社法の全体像について、基礎的なところから先端的なところまでをコンパクトに述べたものであり、構成は次のとおりである。

第1章では、二〇〇五年の「会社法」の歴史的背景と二〇一四年の改正について述べる。第2章から第4章までは、会社法の内容の概説である。これらの章では、最初の第1節でそのポイントを述べる。第5章は、近年の出来事や世界の潮流など、少し広い視点から会社法を眺めなおして、将来を展倒する。

会社法をまずざっと理解したい読者のみなさんには、第1章、第2章から第4章までの各第1節の部分、そして第5章を読むことをお薦めする。

神田 秀樹 (著)
出版社 : 岩波書店 (2015/7/23) 、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 「会社法」とは何か
1 世界に広がる「株式会社」
株式会社形態の普及/株式会社形態の特質/会社法って、何?/株式会社の特質と会社法の役割/制度間競争の時代/日本の会社形態

2 二〇〇五年の「会社法」制定
二つの偶然/商法改正小史/二〇〇一年以降の改正/議員立法と経済産業省の特別法/そして「会社法」制定へ

3 会社法の考え方
ファイナンス分野/ガバナンス分野/会計法制/ベンチャー企業育成など/会社法の条文配置

4 二〇一四年の会社法改正
二〇一四年会社法改正の経緯/改正の背景/国会での審議/二〇一四年改正の特徴

第2章 株式会社の機関
1 なぜ法は株式会社に機関を要求するのか
会社法のポイント/機関とは/会社法における機関設計/戦後の歴史/その他の改正/まとめ

2 株主総会とは何か
株主総会とは何か/株主総会の招集/株主総会での議決権/株主総会での議事と決議の方法

3 取締役・取締役会とは何か
取締役・取締役会と役目/取締役とは/社外取締役とは/社外取締役設置の奨励/社外取締役の役割は何か/取締役会とその権限(指名委員会等設置会社以外の株式会社)/モニタリング・モデルは採用されるか/取締役会の決議/代表取締役とは/取締役の義務―会社との関係での一般的な義務/取締役の善管注意義務/監視義務とリスク管理体制の構築義務

4 監査とは何か
監査役とは/監査役の権限/監査報告と調査権/監査役の義務/監査役の差止請求および会社代表/監査役会/会計監査人とは

5 監査等委員会設置会社
監査等委員会設置会社とは何か

6 指名委員会等設置会社
指名委員会等設置会社とは何か/業務監査制度のゆくえ

7 役員の責任と株主代表訴訟
役員等の会社に対する損害賠償責任/役員等の責任の免除と軽減/役員等の第三者に対する損害賠償責任/株主代表訴訟とは何か/多重代表訴訟とは何か/一九九〇年代以降の株主代表訴訟/会社の法令違反行為と取締役の責任/代表訴訟に関するその他の論点/株主による違法行為の差止め

第3章 株式会社の資金調達
l 利害調整法としての会社法
会社法による利害調整ルール/株主間の利害調整の必要性/会社情権者がある場合/株主の投下資本回収/株主と経営者との利害調整/まとめ――三つの場面の関係など

2 株式と資金調達
株式という不思議な仕組み/各種の資金調達手段/会社法のルールの必要性/授権株式割度/新株発行における既存株主と新たに株主となる者との利害調整/考えられるルール/日本の会社法のルール/有利発行/第三者割当て/有利発行がされた場合の効果/違法な株式発行/主要目的ルール/上場会社のエクイティ・ファイナンス

3 配当と自己株式の取得
むずかしい会社債権者保護/会社債権者保護のためのルールの二つの柱

4 「株式」という仕組み
株式とは何か/株主の義務/株主の権利/株式の内容/優先株式/種類株式の利用/株主の平等取扱い(株主平等の原則)/株主の地位(株式)の譲渡――株券という仕組み/株式の譲渡/株式譲渡の自由/株主の会社に対する権利行使

5 社債とは何か
社債とは/なぜ会社法は規定を置くのか/社債の発行

第4章 設立、組織再編、事業再生
1 株式会社を設立するには
変幻自在な会社/設立とは何か/発起設立と募集設立/最低資本金制度の廃止/定款の記載事項/株式発行事項の決定/設立時発行株式の引受け/設立時取締役・設立時監査役等の選任/全額出資ルール/失権ルール

2 自由度を増した組織再編
組織再編とは何か/会社法における改正/対価の柔軟化/よく行われるようになったMBO/特別支配株主の株式等売渡請求/三角合併/買収との関係/株主総会決議/簡易組織再編/略式組織再編/株式買取請求権制度と二〇一四年改正/効力発生/差止め/無効の訴え/会社分割における人的分割概念の廃止/詐害的な会社分割/敵対的企業買収

3 企業グループ法制
重要性を増す企業グループの法制/上から下/下から上

4 不良債権問題と事業再生
事業再生のポイント/全部取得条項付種類株式/デット・エクイティ・スワップ

第5章 会社法のゆくえ
1 コーポレートがバナンス・コードの衝撃
なぜ、金融商品取引法は毎年改正されるのか/東京証券取引所によるルール形成/金融審議会のスタディグループなど/第三者割当ての規制/独立役員制度/コーポレートガバナンス・コードの制定/制度は重層的で複雑だが

2 世界金融危機と金融商品取引法の毎年改正
世界金融危機の発生とその背景/格差の拡大/金融危機後のグローバルな議論/金融危機と会社法

3 企業活動のグローバル化と会社法
グローバル化時代の会社法改正の原動力/会社法のパラダイム

4 会社法はどこへいくのか
中小会社と会社法/会社にとっての会社法/会社法の将来

あとがき

神田 秀樹 (著)
出版社 : 岩波書店 (2015/7/23) 、出典:出版社HP