決定版 5G: 2030年への活用戦略

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5Gについて理解を深める

用語解説も丁寧で適宜図表を交えながら解説してあるので、5Gについての知識がゼロの方でも気軽に読むことができます。著者本人の個人的なエピソードも織り込んであり、5Gを身近に感じられます。ボリュームはありますが、文章が読みやすいので、最後まですらすらと読み進められます。

片桐 広逸 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2020/5/29)、出典:出版社HP

はじめに 5G元年を迎えて

2019年は、令和の掛け声とともに、5G元年前夜と呼ぶのに相応しい年になりました。2019年9月には、ラグビーワールドカップを契機に5Gのプレサービスが開始され、5G元年とも言える2020年3月からは、5Gの本格的な商用サービスがNTTドコモ、KDDIグループ、ソフトバンクから一斉に開始されました。

最近、ニュースなどで普通に耳にする「5G」とは、第5世代移動通信システム(The 5th Generation Mobile Communications System)のことで、Gはジェネレーション(世代)、つまりこれからは私達の使っている「携帯電話」が、今の第4世代(4G)から、次の5番目の世代に入ったことを意味しています。では、この5Gは、今までの携帯電話や移動通信と何が違うのでしょうか。また、なぜ5Gが次世代の情報通信インフラとして、地方創生や産業・社会再生の切り札として期待されているのでしょうか。

私は5Gに関する講演などの機会をいただくことも多く、最近は特に多数の参加者がいらっしゃいますが、多くの皆様が知りたいことも、まずはこの点に集約されるでしょう。これには、大きく三つのポイントがあります。

一つ目は、5Gの多彩な機能と、これを活かした多方面における社会経済面での利活用の可能性です。まず、5Gでは今の4Gのおおよそ100倍の超高速通信が可能になることで、4Kや8Kといった現在の地上デジタル放送を遥かに上回る超高精細映像を、ストレスなく送れるようになります。これにより、動画視聴はもちろんのこと、VR(バーチャルリアリティ、仮想現実)などの高精細のコンピュータ画像を含めた大容量のデータのやり取りも簡単になり、ゲームや娯楽だけでなく、観光、医療、防災、教育、テレワーク、広告などのあらゆる分野で、これまで難しかったさまざまな取り組みを、格段に使い勝手よく、低コストで行うことができるようになります。

また、これまでの携帯電話とは異なり、通信のタイムラグがなく(超低遅延)、さまざまなセンサー類や端末が非常に多数つながる(同時多数接続=大規模IoT)ことで、同時映像ライブ中継や多彩な遠隔作業、多種多様で大量のデータ(ビッグデータ)の収集が驚くほど容易になります(IoT: Internet of Thingsとはモノのインターネット、あらゆるものがインターネットにつながることを言います)。つまり、超高速・大容量、超低遅延、同時多数接続の三つが5Gの基本的な機能になりますが、これらをどのように活用して我が国の課題解決に取り組んでいくのかが、重要になるのです。

二つ目は、地方を重視した5Gの全国ネットワーク整備の方法です。現在、政府の方針では、地方創生に資する21世紀の基幹インフラという、5Gの意義や特性に鑑み、「5Gの地方への速やかな普及展開を推進する」こととされています(閣議決定「未来投資戦略2018」)。しかし、4Gまでの携帯電話では、経済効率性の高い都市部からネットワークの整備が始まり、地方や過疎地等での整備が後回しになってしまうことが問題でした。このため、2019年4月10日に行われた5G用電波の割当てにおいては、後に触れるとおり、都市部・地方部を問わず、均等な全国展開を図るよう義務を課し、携帯通信事業者に電波の割当てが行われました。

三つ目は、都市・地方を問わず地域限定で誰でも5Gシステムを構築できる、「ローカル5G」の導入です。全国免許を受けた携帯通信事業者は、2024年春までに国土の隅々まで5Gの基盤設備を整備し、需要に応じて速やかなサービス展開を行っていくことになっていますが、この全国展開には一定の時間がかかることや、地域課題を抱える自治体や企業等が、自ら柔軟に5Gを利用したい場合に、個別に5G免許を取得してサービス提供を行うことが可能となります。この「ローカル5G」の第1弾の免許申請の受付けが2019年2月に開始されています。

5Gの特徴やネットワークの整備方針については本文で詳述しますが、以上を踏まえて、5Gがなぜ今注目を集めているのか、その背景に触れておきたいと思います。現在、我が国は地方の衰退と東京一極集中、少子高齢化と働き手の不足、産業の国際競争力向上の必要性など、さまざまな課題を抱えています。

私はこれまで、総務省や出向先で全国ブロードバンド展開や、ICT(情報通信技術)を使った地域活性化などを担当し、仕事だけでも全国各地をくまなく訪問しましたが、人口減少・高齢化が進行する一方、平均賃金は20年以上横ばい、かつ地域間格差は拡大の傾向にあります。企業、医療・介護・建設、農林水産、交通・運輸、もの作りなどで慢性的な人手不足が見られ、中心市街地はシャッター通り化、育児や教育環境の整備もなかなか間に合わないといった状況に置かれている地域が確実に増えています。もちろん観光需要をつかんでインバウンドで賑わうなどの例外的な地域もありますが、今般の新型コロナウイルス流行で、観光だけでなくあらゆる経済活動が大きな打撃を受けてしまいました。これは、もともとあった人口減少・高齢化対策や産業再生といった地域課題の解決に、有事においても持続可能な事業活動の確立と強靭化という課題が付け加わったことを意味します。「ポスト・コロナ」の時代においては、テレワーク、遠隔医療、オンライン教育の早期本格導入などの課題がさらに重要性を増したことは間違いありません。
こうしたさまざまな課題の解決の鍵になるのが、5Gなのです。

もちろん、5Gは最先端の技術を使った革新的な情報通信ネットワークですが、ただ導入しただけでは特効薬にならないかもしれません。他方、上手く使いこなせば、これまでの常識を超えるような、産業活性化や地域課題解決のための利活用方法(ユースケース)が実現する可能性は極めて高いと言えます。

では、5Gをどのように使えば、どのような課題解決に効果が得られるのでしょうか。具体的なユースケースの開発については、すでに政府も2017年度から取り組んでいますし、また、5Gネットワークを整備し2020年春からサービスを開始した携帯通信事業者も、非常に積極的に自治体や企業などのさまざまなパートナーと連携して、次々とユースケースの開発や商用化を進めています。2019年2月には、「ローカル5G」という、誰でも5Gの免許を取得して柔軟なサービス提供ができる仕組みも用意され、5Gの普及展開に向けたさまざまな支援措置も講じられています。大事なことは、5Gを何のために使うのか、どう使いこなすのかにかかっていると言っても過言ではありません。

本書では、まず第1章で、世界各国が5Gのエリア展開やサービス提供に関し鎬を削っている状況と、我が国が5Gに対して持つ強みや課題に触れつつ、我が国の5G展開の狙いや方向性について考えたいと思います。現在の5Gのエリア展開やサービス提供に関する世界的な競争の実態や、2030年の新しい日本社会をめざす5Gの機能や技術、その可能性について概括します。

1980年代に実用化された「携帯電話」は2020年で40年を迎えますが、実は今の4Gも、すでに単なる「電話」ではなく、無線通信とインターネット、コンピュータ、ソフトウェアが融合した技術でありサービスになっています(昔の黒電話とスマートフォンを比べてみてください)。5Gでは、この性能がさらに進化し、新たな機能も加わりました。このように、これまでの世代とは異なる一種「非連続な」性能を持つ5Gの基本的な機能や今後の技術的展望について解説しつつ、5Gとは何かという疑問に答えます。

第2章では、2019年4月の5G周波数割当ての狙いや割当て結果の概要について説明し、総務省の制度設計や政策の含意について、平易かつ詳細に読み解きます。これまで直接講演などで説明してきた内容も含まれますが、その総体について正確な理解を得るために政策的な狙いを解説するのは、本書が初めてではないかと思います。

第3章では、5G利活用の本質とともに、現在、我が国が直面している数々の経済社会上の諸問題について「静かなる有事」と「Society 5.0」というキーワードを用いて、5Gを活用 した新ビジネスの創出や地域課題の解決が、いかに深刻であるとともに必要なことかを解き明かします。また、5Gと新しいICT分野の周辺技術や課題解決ツールが結びつき、地域にあるさまざまな「資源」を活かすことで、国と地域が抱える諸課題の解決にどのように役に立つかを、5Gへの完全移行やSociety 5.0の実現が見込まれる、2030年の日本を一つの区切りとして視野に入れつつ、お話しします。

第4章では、第3章の流れを受けて、2030年までの5Gへの完全移行、Society 5.0実現に向けて政府や携帯事業者が先導的に推進している5Gの利活用の動向について説明しつつ、今後10年間で早期の実現が期待される各種ユースケースのイメージを示します。5Gという新しいインフラの展開だけでなく、実際のユースケースが伴ってこそ「5G」が完成すること、そのために長い目で見た関係者の利活用への取り組みも必要なことを強調したいと思います。

第5章では、全国をカバーする大手携帯通信事業者とは別に、小さなエリア単位で誰でも手軽かつ柔軟に5Gサービスを提供できる新機軸である前述の「ローカル5G」の導入と、その意義やスマート工場などの代表的な利活用方法例、政府の支援等について紹介します。

最後の第6章では、今後とも続いていく技術革新とDX(デジタル・トランスフォーメーション: あらゆるモノ・コトのデジタルデータ化)の中で、「静かなる有事」において重要となる5Gの利活用ユースケースの開発・実装に向けた企業、自治体、大学等の研究教育機関、通信事業者、ベンチャー、地域団体、NPOなど「垂直セクター」と呼ばれる利活用分野の当事者、地域住民などの関係者が、どのように手を結び5Gと向き合うことで利活用が広がっていくのかについて考察します。また、2030年代の実用化が期待される5Gの次の携帯である「Beyond 5G」、いわゆる6Gを巡る動きについても紹介します。

この際、地域において自治体等が各種課題解決に果たす役割や、産業界に求められている役割などを提起した上で、5Gの利活用を含めた総力戦により、日本社会に蔓延する閉塞感を打破し、21世紀の地域をデザインすることが我が国の国力の源泉であり、また土台であること、5Gが「未来の扉」であり、羅針盤となりうる基盤であることを改めて強調し、Society 5.0の実現に向け取り組むべき事柄を示しつつ、本書を結びます。

本書は技術専門書ではなく、日本の5G政策を正確に紹介するとともに、5Gを用いたビジネスや地方創生への示唆、Beyond 5Gなど幅広い内容を論じています。その意味で、最初からお読みいただくのはもちろんのこと、読者の方の関心に応じて関係する各章を別個に読んでいただいても結構だと思います。他方で、特に第1章、第2章については、5Gの機能・特徴及び5Gの展開方針に関する基礎的な部分になりますので、ご精読をお薦めします。

我が国における2019年4月10日の5G用周波数割当ては、40年の歴史を持つ移動通信の一里塚であるとともに、これまでの携帯電話とは非連続な5G時代の幕開けを告げる号砲でもありました。政府・総務省ではこの開始に向けてさまざまな施策を講じ、また今後とも必要な支援を講じていく予定ですが、この周波数割当て方針及びその関連施策については、さまざまな目的や観点を踏まえて策定されるため、ともすればわかりにくい複雑な構造になりがちです。とはいえ、皆様に誤解のないようわかりやすく説明する場を持つことは、政策広報の面でも必要不可欠なところであり、
5G推進の一翼を担った者として、本書の執筆を通じて5Gを広く世の中に知らしめていくことは、自分の大切な責務だと改めて実感しています。

筆者が多くの講演などの場でいただいた、「話を聞いてよくわかったが、誰にでもわかる5G入門の手引きはないのか」との多くの声が、私が本書を執筆する大きな後押しになりました。本書を手にした方が、少しでも5Gの実態や我が国を取り巻く状況の厳しさに対する理解を深められ、新しい21世紀の未来を切り拓く可能性に気づいていただければ幸いです。最後になりますが、総務省では、2030年頃において「5Gが実現する未来社会」を具体的にイメージできるよう、2種類のイメージ動画を制作し、YouTube上で公開しています。

片桐 広逸 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2020/5/29)、出典:出版社HP

目次

はじめに 5G元年を迎えて

第1章 5Gとは何か 携帯電話40年の集大成
1 世界で始まった5Gサービス合戦
5G狂想曲/携帯電話は10年ごとに進化/米韓の5G先陣争いを読み解く/超高速通信だけでない5G/日本は何をめざすのか

2 5Gは「携帯電話」ではない?
5Gの三つの機能/インターネットとコンピューティングの重要性/誰がための5Gサービス?/5Gの端末はスマホではない?/やがて加わる新機能(エッジ・コンピューティング、ネットワーク・スライシング)

3 日本の5Gは後れているのか
5Gサービス展開をどのように評価するか/影の主役、光ファイバ網/10年続く4Gとの共存《コラム》ケータイと電波ことはじめ

第2章 5G周波数割当ての狙い
1 5Gのネットワーク整備
政府目標は「速やかな地方への展開」/5Gの利用意向調査(参入希望調査)/全国均等にエリアカバーをめざす/二つの異なる周波数帯と、面的・スポット的展開の組み合わせ/面的カバーとスポット的利用の組み合わせ

2 新しい電波の割当て方式
人だけでなく「モノ」や「コト」もカバー/全国を10km四方メッシュに分解/2年以内の全都道府県でのサービス開始/5年後に最大で国土の98%がカバーされる

3 割当て結果から見えるもの
5Gサービスはいつから始まるか/基地局数は十分か/設備投資は十分か/どうすれば早くサービスが受けられるか/料金はどうなるのか/5G端末は間に合うか/4Gはすぐ使えなくなるのか

4 さまざまな工夫と割当て後の課題
MVNOとの競争を促進/事業者間での設備の共用/光ファイバ網の十分な確保/通信事故や災害への対策

第3章 「静かなる有事」とSociety 5.0
1 人口減少・高齢化社会と日本の課題
日本衰退の兆候/所得が上がらない/我が国の「静かなる有事」/多発する災害等/5G利活用は総力戦で

2 Society 5.0とは何か
社会はどう進化してきたか/情報化社会(Society 4.0)の深化/IoTの現状と課題/Society 5.0の実現は2020年代後半から2030年代

3 5Gと親和性の高い技術・分野
5Gは分野を横断する「横串」/地域課題の八つの重点分野/親和性が高い分野――モビリティなどが先行

【インタビュー】すべてがつながり合う新社会へのトリガー、5G
岩浪剛太氏(インフォシティ代表取締役)

第4章 5Gの利活用に向けた総力戦
l 5Gにまつわる誤解を解く
5Gの都市伝説

2 総務省の5G総合実証試験
先導的事例の開発に向けた国の取り組み/総合実証試験の取組状況/個人、中小企業、大学も参加できる利活用アイデアコンテスト

3 携帯事業者の新たな挑戦
5Gの真価はロングテール分野に/鍵となるパートナーシップ戦略/契機となるラグビーワールドカップと東京オリ・パラ/「脱・携帯電話事業者」の時代へ/利活用実証への参加者が拡大

4 2030年の5Gユースケース
未来予想図2030/50兆円市場をめざして

5 利活用をどこから始めるか
利活用ユースケースの積み重ね/利活用の八つのヒント/地域課題に向き合う

【インタビュー】5GとVRが実現する、より迅速効率的な診断、手術、遠隔医療
杉本真樹氏(医師・医学博士、帝京大学冲永総合研究所特任教授、Holoeyes株式会社Cofounder COO)

第5章 誰でも使えるローカル5G
1 ローカル5Gとは何か
全国各地域で、誰もが利用できる5G/最初は屋内・敷地内利用から/ローカル5Gのシステム構成/全国系通信事業者との関係

2 ローカル5Gで広がる柔軟な利活用
全国サービスとはどう違うのか/ローカル5Gに適した利活用/鍵を握る産学官金連携とローカル5G支援/五つの留意点

3 産業利用先進国ドイツの動き
Industry 4.0/loTから5G×IoTへ/スマート工場の最前線

【インタビュー】牡蠣養殖でも通信技術をフル活用
ローカル5Gでネットワーク利用分野が急拡大
中尾彰宏氏(東京大学大学院教授)

第6章 持続可能な2030年の未来社会に向けて
1 問われる地方自治体の真価
全国知事会議「富山宣言」のインパクト/地域間競争という現実/自治体3.0の時代/地域資源と人財のチカラ――先進事例から学ぶこと/「うまくいく5G」のためのフローチャート

2 先端技術をめぐるグローバル競争
まだまだ低い産業界の認知度/「国内市場頼み」の現実とリスク/情報化投資の課題/5Gとともに成長する社会

3 5Gに死角はないか
情報セキュリティは生命線/5Gの人体安全性/デザインするのは、2030年代の日本社会

4 6Gの足音と今後の10年間
Beyond 5G/6Gの胎動/5Gが創り上げる6Gの姿/変化は予想より早く起きる

【インタビュー】企業ではなく人材を誘致
地方創生のカギは人をつなげること
大南信也氏(認定特定非営利活動法人グリーンバレー理事[神山まるごと高専担当])

おわりに
参考文献
用語一覧

片桐 広逸 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2020/5/29)、出典:出版社HP