はじめて学ぶ大学教養地学

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大学生向け地学テキスト

地学の内容を一通り網羅した構成になっています。最近の天文・宇宙を含めた地学分野でどんなことがわかっていて、話題になっていることがつかめるようになっています。大学受験で地学が必要な方、そうでない方にもおすすめの一冊です。

杉本 憲彦 (著), 杵島 正洋 (著), 松本 直記 (著)
出版社 : 慶應義塾大学出版会 (2020/5/29)、出典:出版社HP

はじめに

本書は、大学の教養課程で初めて地学を学ぶ学生を想定して書かれた。地学とは、地球や宇宙の成り立ちを知り、そこで起こる現象を考える学問である。 地球は、約 46 億年前に太陽系で誕生し、固体地球、大気や海洋、そして生物が 相互に作用しながら、これまで変化し続けてきた。

近年、気候変動、食料、環境、資源の問題など、地球と文明社会の持続可能 性が大きく取り沙汰されている。地球と人間の関係に変化が生じてきていることは明らかである。これらの社会問題を考えるために、基礎的な科学的事実を 知ることは、文系、理系を問わず、現代人に必須の教養である。

また、日本では、地震や火山の被害だけでなく、大雨、洪水、台風、大雪、高波などの気象災害も頻発する。これらの原因となる現象の本質を正しく知ることは、防災への第一歩となる。一方で、私たちは、風光明媚な景勝地に囲まれて、豊かな自然の中で、四季を感じながら過ごしている。

このように地学は、身の回りの現象から災害と防災、地球環境や持続可能性の問題まで、とても幅広く重要な学問である。しかし残念なことに、現在の高校ではほぼ、一部の文系受験生のための科目として設置される以外、生徒が地学という科目に触れる機会がほとんどなく、大学教養科目としての地学の教科書も非常に少ない。本書はこのような背景を踏まえ、初めて地学を系統立てて学ぶ大学生や一般の方を想定した構成と内容になっている。

3人の執筆者のそれぞれの専門分野の視点から、固体地球、大気と海洋、 文の3部で構成した。現象が生じる原理になるべく踏み込み、現象の理解を日 的としたため、扱う内容は取捨選択されており、高校地学の内容をすべてカバーするものではない。読者に高校地学を学んだ経験は問わないが、既習者であっても、現象の仕組みの踏み込んだ説明をぜひとも学んでもらいたい。

なお、各章末などに問いを設けている。これらの問いには、すぐに答えが得られないものもあるかもしれない。これからの社会を生きるうえで、よく考えて行動して欲しいという、著者らの願いが込められている。

最後に本書を執筆するにあたって、たくさんの方々の協力を得た。第2部では慶應義塾大学の宮本佳明さん、阿部未来さん、兵庫県立大学の島伸一郎さん、 第3部では大阪工業大学の真貝寿明さんに有益なコメントをいただいた。ここに謝意を表したい。

2020年3月
杉本 憲彦
杵島正洋
松本直記

杉本 憲彦 (著), 杵島 正洋 (著), 松本 直記 (著)
出版社 : 慶應義塾大学出版会 (2020/5/29)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1部 活動する地球の姿
1. 地球の概観と内部構造
1-1. 地球の認識
1-2. 地球の大きさの計測
1-3. 地球の精密な形
1-4. ジオイドと GPS測量
1-5. 地球の内部構造を探る
1-6. 地殻とマントル
1-7. 地殻の厚さの分布
1-8. アセノスフェアとリソスフェア
1-9. 地磁気
コラム 残留磁気と松山基範

2.プレートテクトニクス
2-1. プレート理論の誕生
2-2. プレート境界
2-3. プレート運動の原動力とプルームテクトニクス

3. 地震と地震災害
3-1. 地震という現象
3-2. 地震発生のしくみ
3-3. 地震学の勃興と発展(昭和南海地震まで)
3-4. 空白域とアスペリティ (2011年まで)
3-5. 東日本大震災と南海トラフ巨大地震(2011 年以降)
3-6. 地震災害と防災
コラム 稲むらの火と津波てんでんこ

4. 岩石と鉱物
4-1. 岩石をつくる鉱物の特徴と分類
4-2. ケイ酸塩鉱物
4-3. 固溶体
4-4. 火成岩の分類
4-5. 堆積岩と変成岩

5. マグマと火山
5-1. 火山の噴火と火山の姿
5-2. 火山の分布とマグマの成因
5-3. 沈み込み帯におけるマグマの成因
5-4. マグマの多様化
5-5. 花こう岩の謎

6. 地形と地層の成り立ち
6-1. 地球内部エネルギーがもたらす地表の景観
6-2. 太陽エネルギーがもたらす地表の景観
6-3. 二つのエネルギーの相互作用による地形
6-4. 海面の上下変動と氷期・間氷期
6-5.堆積物と地層
6-6. 地質時代区分
6-7. 放射年代測定法
コラム 氷床コアが保存する過去の気温変動

7. 地球と生命の歴史
7-1. 地球の誕生(46億~40億年前:冥王代)
7-2. 生命の誕生(40億~35億年前:太古代前期)
7-3. 光合成生物の登場と地球環境の激変(35 億~25 億年前:太古代)
7-4. 動物・植物の登場と繁栄(25億~7.3 億年前:原生代)
7-5. 全球凍結事変(7.3億~6.3 億年前:原生代)
7-6. 生物の爆発的な繁栄(6.3 億~4.4 億年前:原生代末〜古生代前期)
7-7. 生物の陸上進出と大量絶滅事変(4.4億~2.5億年前:古生代中期~後期)
7-8. 恐竜など爬虫類の繁栄(2.5 億~6600万年前:中生代)
7-9. 白亜紀末の大量絶滅事変(6600万年前:中生代末)
7-10. 寒冷化する地球と人類(6600万年前~現在:新生代)

8. 人間社会と地球の関わり
8-1. 地下資源の分類
8-2. 鉱床の形成
8-3. レアメタルの特性
8-4. リサイクルと都市鉱山
8-5. エネルギー資源の形成
8-6. 地球上で人間が暮らすということ

第2部 地球をめぐる大気と海洋
1.大気の構造
1-1. 気体の性質
1-2. 大気の組成
1-3. 気圧と層構造
コラム オーロラの発生のしくみ

2. 雲と降水
2-1. 安定、不安定、中立の概念
2-2. 潜熱と湿潤断熱減率
2-3. 雲の形成
2-4. 降水のしくみ

3. 地球の熱収支
3-1. 熱放射
3-2. 短波放射
3-3. 赤外放射
3-4. 温室効果
コラム 惑星などの放射平衡温度

4. 大気の運動
4-1. ニュートン力学
4-2. 風の成因
4-3. コリオリカ
4-4. 風の力のバランス
4-5. ハドレー循環と偏西風
4-6. 傾圧不安定とフェレル循環

5.海洋の構造
5-1. 海水の組成
5-2. 海洋の層構造
5-3. 海水の振動

6.海洋の大循環
6-1. 風成循環
6-2. エクマン輸送
6-3. 西岸強化
6-4,深層循環
コラム ホッケ柱

7. 大気と海洋の相互作用
7-1. 世界の気候と日本
7-2. 日本の四季
7-3. エルニーニョと北極振動
7-4. 物質循環

8. 大気・海洋と人間
8-1. 天気予報
8-2. 気象災害
8-3. 気候変動と地球温暖化
8-4. 環境問題
8-5. 持続可能性

第3部 地球を取り巻く天体と宇宙
1. 天体の運動と暦
1-1. 地球の運動と1日
1-2. 均時差
1-3. 天体の位置の表し方(赤道座標)
1-4. 年周運動と暦
1-5.月とひと月
1-6. 天体の運動と時間単位
1-7. 地球自転の証明
1-8. 地球公転の証明
コラム 年周視差をめぐるタイムレース

2. 惑星の運動と宇宙観の変遷
2-1. 惑星の運動
2-2. 惑星現象
2-3. 宇宙観の変遷とケプラーの法則
2-4. ケプラーの法則
2-5. 調和の法則から惑星の軌道半径を知る
2-6. 1天文単位の決定
2-7. 地球を1円玉の大きさに縮小すると
2-8. 調和の法則の証明

3. 太陽系の姿と惑星探査
3-1. 太陽系の形成
3-2. 太陽系の天体
3-3. 太陽系生命圏
3-4. 系外惑星
コラム 太陽系外からの来訪者

4. 恒星としての太陽
4-1. 核融合反応
4-2. 太陽の構造
4-3. 太陽活動と地球
コラム 地上の星核融合炉

5. 恒星
5-1. 恒星までの距離
5-2. 恒星の明るさ
5-3. 恒星のスペクトル
5-4. フラウンホーファー線と恒星のスペクトル型
5-5. HR図
5-6. 恒星の進化
コラム ベルのパルサー発見

6. 宇宙の距離はしご
6-1. ケプラーの第3法則の利用
6-2. 年周視差の利用
6-3. HR 図の利用
6-4. セファイド
6-5 ハッブル・ルメートルの法則
6-6. Ia型超新星
コラム 聴覚障がい者が活躍したセファイド研究

7. 最新探査が描く宇宙の姿
7-1. 銀河の姿
7-2. 銀河系の周辺
7-3. 宇宙の大規模構造
7-4. 見ることのできる宇宙の果て
7-5. WMAP 衛星の活躍
7-6. 私たちは星の子
コラム 重力波とブラックホール、そしてマルチメッセンジャー天文学

索引

杉本 憲彦 (著), 杵島 正洋 (著), 松本 直記 (著)
出版社 : 慶應義塾大学出版会 (2020/5/29)、出典:出版社HP