教養としての「世界史」の読み方

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歴史に学ぶ

本書では、著者が考えるグローバルスタンダードとしての世界史の教養を身につけるための「7つの視点」に沿って解説されています。著者がローマ史を専門としているので、ローマ史との比較も多く見られ、新しい視点で歴史を学ぶことができる一冊です。

本村 凌二 (著)
出版社 : PHP研究所 (2016/12/17)、出典:出版社HP

はじめに

しばしば「日本史は好きだが、世界史はどうも……」と耳にします。とはいえ、昨今では、外国を訪れる機会もあるし、来日する外国人も増えてきました。イギリスのEU離脱やアメリカ大統領選挙がわが国の出来事のように報道され、過激派によるテロ活動も刻々と伝わってきます。

もはや海外の出来事に無関心ではいられなくなったせいか、ここ十年ほどの間に世界史に対する関心が高まっている気がします。「世界史」と銘打つ本も数多く出されており、それなりに読まれていると聞いています。
しかしながら、私の印象では、これらの語り手の多くが歴史家ではないという点は気になるところです。これが医学や物理学の話になると、まずは専門家が出てくるはずです。ところが、歴史となると、広く理解しやすいせいか、専門の歴史家が前面から退いているように見えます。

ここでいう歴史家とは、実証史学の訓練を受けた狭義の研究者という意味です。これらの歴史家の多くは自分の狭い領域に閉じこもって、専門を異にする他の時代や地域について口を挟みたくないという気持ちがあるようです。間違ったことを言うのを憚るという良心のささやきはよく理解できます。

しかしながら、狭義の歴史家だからこそよく見える出来事もあるはずです。筆者は狭義の歴史家としてはローマ史の研究者ですが、ときには現代に生きる日本人として狭義の専門をこえて語るのも恥じるべきではないと思っています。専門研究と人生の経験を積み重ねた自分だからこそ視界にはいる歴史もあるはずです。それについて世界史という文脈で考えることも大切だと思います。

異国の過去の出来事も、自分の生まれ育った国と比較すればわかりやすいところがあります。たとえば、ローマ帝国の社会は江戸時代後期の社会と並べてみると理解しやすくなります。ローマも江戸も人口一○○万人ほど。清潔な浄水も配慮され、公衆浴場や銭湯がさかんであり、ローマでは風刺詩、江戸では川柳・狂歌がもてはやされ、識字率も高かったといいます。そういう目で見れば、現代の日本人にもローマ社会が身近に感じられてくるのではないでしょうか。
このような比較に気づくのも、ローマ史を専門とする日本人だからこそだと言えます。広く世界史を見渡すことも大切ですが、歴史上の出来事をどのように読み解いていくかはさらに重要な姿勢になります。

文字が開発され、人類の文明史が始まって五千年が経ちました。しかし、その期間の四千年は古代だったのです。とくにローマ帝国に流れこむ地中海世界の歴史は人類にとって計り知れない意味をもっています。この地中海世界の文明史を基軸にしながら世界史を見渡せば、たんなる鳥瞰図とは異なる「世界史の読み方」ができるはずです。
もちろん誰であれ興味をいだき、歴史の意義を感じる人が発言することは悪いことではありません。本書では古代史を専門とする歴史家が解読する世界史の一例を示したつもりです。この試みが「専門外の領域には口を挟まず」という現在の傾向に一石を投じることになれば幸いです。

本村凌二

本村 凌二 (著)
出版社 : PHP研究所 (2016/12/17)、出典:出版社HP

目次

はじめに

序章 「歴史に学ぶ」とは何か?――愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ
グローバルスタンダードの「教養」とは何か
なぜ人は「歴史に学ぶ」ことができないのか
トルストイの痛烈な歴史家批判
「教養」を身につけるための七つの視点
なぜ、今「世界史」がブームなのか

第1章 文明はなぜ大河の畔から発祥したのか――文明の発達から都市国家と民主政の誕生まで
「文明は都市」「文化は農業」と密接に結びつく
「四大文明」が通用するのは日本人だけ
文明発祥に必須な条件とは?
恵まれた環境に文明は生じない
ローマ人と日本人が持つ特異で稀な能力とは?
ソフィスティケートの真髄は「誠実さ」にある
都市国家はどのように誕生したのか
古代ギリシアの民主政は、戦争を機に生まれた

第2章 ローマとの比較で見えてくる世界――ローマはなぜ興隆し、そして滅びたのか
オバマ大統領と皇帝セプティミウス・セウェルスの共通点
ハード・パワーの衰退とソフト・パワーの繁栄
ローマは、なぜ帝国になりえたのか――ギリシアとローマの違い
ローマ史を考察する価値
世界を席巻した大英帝国もローマに学んだ
自らを演出したローマ皇帝、神秘性を重んじるアジアの皇帝
文明度はローマを基準に考える――古代ローマと江戸の上下水道
「名誉心」が国家を支えた――「武士道」と「父祖の遺風」
ローマ帝国はどうして偉大になったのか――「ローマの寛容について」
「寛容」で成長したローマは「傲慢」で滅ぶ
「知識」のギリシア、「お金儲け」のカルタゴ、「勝利」のローマ

第3章 世界では同じことが「同時」に起こる――漢帝国とローマ帝国、孔子と釈迦
「ザマの戦い」と「垓下の戦い」は、同じ前二〇二年に起きた
ローマ帝国と漢帝国を襲った「三世紀の危機」
なぜ教養として「歴史の同時代性」を考えるのか
「アルファベット、一神教、貨幣」が同時代に誕生した
ソクラテス、ゾロアスター、ウパニシャッド、釈迦、孔子の枢軸時代
マルコ・ポーロを超える、東西発見の功績を成し遂げた人物とは?
「産業革命」はなぜイギリスで起き、アジアで起きなかったのか

第4章 なぜ人は大移動するのか――ゲルマン民族、モンゴル帝国、大航海時代から難民問題まで
人類史は民族移動とともにある
民族移動にはパターンがある
古代の地中海世界は「近代的」だった
大航海時代による大規模移民
奴隷制度は人為的な民族移動となった
ユグノーの弾圧がオランダの興隆に繋がった――宗教弾圧による民族移動
「ゲルマン民族の大移動」はヨーロッパ世界を一変させた
日本人の常識からではわからない騎馬遊牧民の行動
今、欧米人は異民族が多数派になる恐怖を感じている
民族移動がもたらす価値観の対立が国家を揺るがす
ウクライナ問題はなぜ解決できないのか

第5章 宗教を抜きに歴史は語れない――一神教はなぜ生まれたのか
日本人にはわかりづらい宗教の力
かつて人は神々の声に従って行動していた
占いは「神々の声」の代用品
二分心は科学的にあり得るのか
初めての近代人オデュッセウス
人はなぜ唯一神を必要としたのか
古代世界の分岐点
一神教の誕生――古代エジプトのアテン神信仰
ユダヤ教はなぜ普及しなかったのか
宗教対立は一神教の宿命
イスラム教対キリスト教という構図の嘘
ローマは欧米人の自負心の源である
戦争は今のままの宗教ではなくならない

第6章 共和政から日本と西洋の違いがわかる――なぜローマは「共和政」を目指したのか
プラトンは独裁政、アリストテレスは貴族政を推奨した
ギリシアで民主政が評価されなかった理由
ギリシアは内紛が多かったので大国になれなかった
古代ローマの共和政は「王者の集まりの如く」だった
ローマ人はなぜ「権威」を大切にしたのか
なぜアテネ・スパルタではなく、ローマのみが強国になれたのか
ローマとヴェネツィアから見る共和政のメリットとデメリット
日本に共和政が根づかない理由
社会主義国が「共和国」を名乗る理由

第7章 すべての歴史は「現代史」である――「今」を知るために歴史を学ぶ
人に読まれない「歴史」は何の意味もない
歴史に学ぶと未来が見えてくる
中国が推し進める中華民族という虚像
なぜ中国では民主主義が根づかないのか
世界初!国内植民地政策
中世はなぜ暗黒時代と言われたのか
世界史における二つの暗黒時代
すでに第三次世界大戦は始まっている
イギリスのEU離脱の背景にあるのはドイツへの不信感
なぜEUはギリシアを見限れないのか
民族の繋がりを無視した国境が招いた悲劇
平和と繁栄が続くとなぜ人は退廃するのか

おわりに

本村 凌二 (著)
出版社 : PHP研究所 (2016/12/17)、出典:出版社HP