日本文学の古典 (岩波新書 青版 586)

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古典をどう読むか

作品はその時代に即して読み直され、その読み直しに耐えうるものが古典であり、いろいろな意味で私たちの精神を豊かにしてくれます。本書では、刊行当時に古典がどのように読まれていたのかを知ることができます。また、日本の古典文学や芸能の概要を把握するのに最適の1冊です。

西郷 信綱 (著)
出版社 : 岩波書店; 第2版 (1966/2/21) 、出典:出版社HP

第二版はしがき

古典は過去のものであるとともに現代のものでもあり、従ってそれはつねに新たに、恐らくは世代ごとに読み直される運命を免かれない。時間によって聖化されるのではなく、むしろ時間をこえた、こういう新たな読み直し、現代人との対話にたえうる作のみが古典の名に価するともいえる。この対話は、有効に行われるならば、いろいろの意味でわれわれの精神を豊富化するのに役立つはずである。ただそのさい、それぞれの作の背負っている時代固有の約束や文法を一概に無視することはできないわけで、さもないと現代を過去に読みこむことになりかねない。しかもその約束や文法には、正直にいってまだよくわからぬ点がすこぶる多いのだから困る。

それにしても現代、はたしてどのように日本の古典を読み直すことができるか。不充分にしかやれなかったけれど、この問にいささかなりと答えてみようとして、私たちはこの本を書いた。従ってこの本は、いわゆる日本文学通史といった類のものではなく、またむろん、いわゆる学問的な論述でもなく、もっと気ままに、日本の古典の背骨になっていると思われる幾つかの作家や作品を足場にして、古典の再評価のため若干扉を叩こうとした程度のものであるが、読者が今までよりも意識的に、古典を読み、かつ享受する上での一助となるならばさいわいである。

執筆は一章から四章まで及び「古典をどう読むか」が西郷の、五章から八章までが永積の、九章から十二章までが広末の分担である。旧版に制約されて全面的な書き改めはできなかったが、最近の研究の成果をとり入れ、可能なかぎり手を加え第二版を出すことにした。それにつき岩波書店の都築令子さんにひとかたならずお世話になった。厚く感謝したい。

一九六五年十一月
著者

西郷 信綱 (著)
出版社 : 岩波書店; 第2版 (1966/2/21) 、出典:出版社HP

目次

第二版はしがき

一 神話と叙事詩
古事記
常陸風土記
天照大神とスサノオの命
神話の意味
記紀歌謡倭建の命

二 万葉集
相聞歌
東歌の世界
初期万葉時代
柿本人麿
憶良・旅人・赤人・家持

三 源氏物語
作者の眼
作品の主題
竹取物語とのつながり
源氏物語の新しさ
宇治十帖

四 女の文学
女の文学の作者たち
紫式部日記
枕草子
仮名文字
蜻蛉日記
女の文学と男の文学

五 説話の世界
今昔物語集
宇治拾遺物語
十訓抄・古今著聞集
説話集から御伽草子へ

六 平家物語
平家物語と琵琶法師
平家物語の成立
平家物語の英雄たち
和漢混淆文
全体の構想
平家物語の作者

七 能と狂言
観阿弥の能
世阿弥の能芸論
幽玄の世界
初期狂言の諷刺性
武悪
狂言の笑い
狂言の作者
能と狂言

八 隠者の文学
方丈記
徒然草
長明と兼好
西行
宗祇

九 芭蕉の俳諧
下級武士から俳諧師へ
談林から蕉風へ
芭蕉の生きかた
連句と発句
風流
「軽み」

十 西鶴と戯作者
浮世草子の成立
愛欲と金の文学
西鶴置土産
西鶴の笑い
上田秋成
戯作の世界

十一 近松の悲劇
曾根崎心中
世話悲劇
心中天の網島
女同士の義理
浄瑠璃の伝統と近松

十二 歌舞伎
歌舞伎のなりたち
元禄歌舞伎
様式美・役者中心主義と戯曲
並木五瓶
鶴屋南北
熊谷陣屋
黙阿弥
歌舞伎の大衆性

古典をどう読むか

西郷 信綱 (著)
出版社 : 岩波書店; 第2版 (1966/2/21) 、出典:出版社HP