まちづくり学―アイディアから実現までのプロセス

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「まちづくり学」からみたプロセスの概論

本書は、まちづくりに関して基本的な用語や理論がわかりやすく解説されており、初学者でも読みやすい入門書となっています。まちづくりは、個人的な心構えや技法の段階から、集団的な智恵の段階へと進むことが可能なのではないかという、スタンスの変化についても詳しく記されている一冊となっています。

西村 幸夫 (編集)
出版社 : 朝倉書店 (2007/5/1) 、出典:出版社HP

まえがき

まちづくりに関する著書は、すでに数多く出版されている。そしてその多くは、まちづくりの実践例を紹介しているものである。まちづくりのあり方は、それぞれのまちごとに異なっており、また、同じまちでも時代的な変遷もある。したがって、まちづくりに関して一般論を展開するよりも、具体例を繰り広げ、そのカバーする広がりを実例でもって示していく方がわかりやすいということは、確かにいえるだろう。
しかし、まちづくりには、一定程度共通する姿勢や考え方が存在することも事実である。これらを、まちづくりの発想の出現からその実現までのプロセスに沿って、概論的に論じることも可能なのではないかと考えた。そしてまちづくりをその「構想」、「きっかけづくり」、「考え方」、「マネージメント」の4つのステージで考え、それぞれの段階で留意すべきポイントや参考にすべき情報を示したのが本書である。これは、ある意味でまちづくりの集合的智恵の現段階でのささやかな総括である。したがってこれを「まちづくり学」と称することにした。
「学」と呼ぶと、いかにもしかつめらしく聞こえるかもしれない、楽しくないまちづくりなどまちづくりとは呼べないといった主張からすると、「学」などと称するのはもってのほかといわれそうである。しかし視点を少し変えて、楽しくまちづくりにいそしむということ自体が一つの智恵であると考えるならば、それも広い目でみると一つの一貫した姿勢――すなわち一つの体系を内在させているといえるのである。ただし、その体系があらわに示せているかというと、やや忸怩たるものがある。確かに、「学」と呼ぶにはまだあまりにも未熟かもしれないが、お許し願いたいと思う

本書を組み立てる際に、まちづくりのイメージの共通した出発点として、東京都世田谷区のまちづくりファンドとまちづくりセンター(現(財)世田谷トラストまちづくり)の活動を、一つのモデルとして考えた。世田谷のまちづくりが区のまちづくりセンターを中心に、ここ15年以上にわたって活発に展開され、日本のまちづくりシーンのトップランナーの一つとして位置し続けたこと、さらには、同センターが運営するまちづくりファンドがとりわけ初動期のまちづくりに効果的な支援策として機能してきたことは、疑いのない事実である。これが、世田谷のまちづくりを一つの有効なモデルと考えた理由である。
また、まちづくりの幅広い活動のうち、一定の部分に関するイメージを共有することによって、記述の振れを不必要に大きくしたくないという配慮もあった。本書に世田谷の事例が多いのは、そのことにもよる。
しかし、このことが世田谷のまちづくりを唯一のモデルとして示すことを意味しているわけではないのは、もちろんである。神戸市のまちづくりの事例が本書においても重要な示唆を与えてくれる例として明記されているのをはじめとして、全国のまちづくりの例も示されている。ただし、本書の意図はまちづくりの事例をそのものとして示すことにあるのではなく、事例の先に、私たちが共通して認識すべき、まちづくりのスタンスとでもいうべきものが存在することを明らかにすることにある点は、繰り返し強調しておきたい。

本書で私たちが示そうとしたまちづくりのスタンスのあり方は、実は、まちづくりの実践者たちにとっては至極当然のことなのである。これまでにあまり明文化されてこなかっただけなのかもしれない。こうした考え方を一書にまとめて提起することによって、まちづくりは、個人的な心構えや技法の段階から、集団的な智恵の段階へと進むことが可能となるのではないだろうか。
それを「まちづくり学」と呼ぶのは、誇大広告のそしりを免れないかもしれない。しかし、まちづくりが新たな集合的智恵の段階に至りつつあるという日本社会の現段階に対するやや楽観的な視点をもって、これからもまちづくりの多くの仲間とともにこの道を歩んでいきたいと思う。——楽しくなければまちづくりに値しないからである。本書がその手助けになるとしたら、執筆者一同これに勝る喜びはない。

本書の作成に当たっては、構想から製作の段階にわたり、朝倉書店編集部の支援を受けた。記して謝したい。

2007年3月
西村幸夫

西村 幸夫 (編集)
出版社 : 朝倉書店 (2007/5/1) 、出典:出版社HP

目次

第1章 まちづくりの構想
1.1 まちづくりの視点
1.1.1 まちづくりの本質は何か
1.1.2 コモンズ再確立を目指すまちづくり
1.1.3 統合的視点に立つまちづくり
1.1.4 まちづくりの技法へ向けて
1.2 まちづくりの枠組みとその展開のプロセス
1.2.1 まちづくりの進め方を考えるに当たって
1.2.2 エピソード: 小径との出会いから広がるまちづくり
1.2.3 まちづくりの展開を促す8つのキーワード
1.2.4 常に学び合う姿勢を

第2章 まちづくりのきっかけづくり
2.1 まちづくりの諸活動から—まちづくりの気運づくり—
2.1.1 圧倒的無関心の中で
2.1.2 住民参加のまちづくりの技法としてのワークショップ
2.1.3 ワークショップは人の心に火を点けるか
2.1.4 対立をエネルギーに
2.1.5 開かれた組織の連携による地域ガバナンス
2.1.6 インフォーマルなプロセス
2.1.7 リーダー願望よりも行動を
2.2 まちづくり支援の仕組みから
2.2.1 まちづくり支援は現場から
2.2.2 まちづくり支援の内容
2.2.3 まちづくりファンドとまちづくりセンター
2.2.4 2つの仕組みが生み出すシナジー効果
2.2.5 次なるステージに向けて

第3章 まちづくりの考え方
3.1 公平性と透明性
3.1.1 都市計画の本質
3.1.2 都市計画の流れに沿って理解する
3.1.3 公平性をめぐって
3.1.4 透明性をめぐって
3.1.5 システムとしての都市計画の確立に向けて
3.2 行政と住民の関係・専門家のあり方
3.2.1 行政・住民・専門家、3者の協働—まちづくりを担う3○○—
3.2.2 まちづくりの主体形成
3.2.3 市民
3.2.4 行政
3.2.5 専門家
3.2.6 これからのまちづくり—Web2.0時代のパラレルワールド—

第4章 まちづくりのマネージメント
4.1 まちづくりのマネージメントシステム
4.1.1 まちづくりは運動
4.1.2 自律生活圏
4.1.3 まちづくり協議会
4.1.4 まちづくりのマネージメント
4.1.5 まちづくりのための仕組み
4.1.6 まちの運営と市民事業
4.1.7 まちづくりのための資金・基金
4.1.8 まちづくり支援のかたち
4.1.9 21世紀市民活動社会に向けて
4.2 まちづくりの支援システム
4.2.1 NPOをめぐる状況
4.2.2 キャパシティビルディングとは
4.2.3 アメリカ合衆国における草の根団体に対する支援の概況
4.2.4 アメリカ合衆国におけるキャパシティビルディングの事例
4.2.5 日本における先駆的事例
4.2.6 協働型支援基盤の提案

まちづくりのためのキーワード集

索引

西村 幸夫 (編集)
出版社 : 朝倉書店 (2007/5/1) 、出典:出版社HP