暗号技術の教科書

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現代社会で欠くことのできない暗号を基礎から学ぶ

本書は、現代社会で必要不可欠な「暗号」について、エピソードを交えながら、古典的暗号から電子暗号まで、暗号が現代生活にどのように利用されているか、意外なところで活躍している暗号や、その仕組みを分かりやすく紹介しています。また、暗号の入門書籍では語られることの少ないエレクトロニクスと暗号技術の深い関係を探ることもできます。

吹田 智章 (著)
出版社 : ラトルズ (2018/12/21) 、出典:出版社HP

はじめに

私が『暗号のすべてがわかる本デジタル時代の暗号革命」を技術評論社から出版させて頂いてから既に20年が経過した。
この本は歴史上の暗号とそれにまつわる話題を取り上げ、その進化が現在のデジタル社会を支える暗号技術へと進化したことを様々なエピソードと共に紹介している。さすがに出版社が付けた「すべてがわかる.」というタイトルには恥ずかしい思いをしたものであるが。

現在、社会を支えるICT(通信情報技術)は暗号技術無しには成立し得ないと断言できる。さらに金融の世界を変えようとしているフィンテック(Fintech)も同様だ。金融のあり方に一石を投じたとも言える仮想通貨の登場も何かと話題に上っている。
コネクテッド・カーや自動運転、IoTのセキュリティのためにも暗号技術は役に立つことだろう。
20年前には想像もできなかった暗号の応用技術が登場し、中にはハッキングされてしまった暗号が問題になったり、量子コンピュータが暗合を脅かせていたりする。
改めて『暗号のすべてがわかる本」の改訂版出版の機会を頂いたことをきっかけに、20年前には紹介できなかった新しい暗号技術やエピソードを加えて紹介してゆきたいと思う。

では簡単に本書の内容を紹介していこう。

カエサルの時代には既に使われていた暗号。権力者たちの道具であった暗号は時に歴史を作り、また、数々の悲劇をも生んできた。
私が暗号に出会ったのは小学生の頃、月刊少年雑誌の付録についていた少年探偵手帳のようなものだったように記憶している。
そんな非日常的であった暗号がいつのまにか我々の生活に欠かせない技術となり、また学問になっていた。時の流れは暗号を時代の寵児としてしまった。
そんな中、暗号の本が多数出版されているが、その多くは数学者や専門家向けのものであったり、中には入門書とは言うものの説明の難解なものも多い。

そんなわけで本書では難しい数学の話しは程々にして気怪に暗号について知ってもらえるように話題を集めてみた。「私には暗号なんて関係がないし使ってもいない」とは言っても暗号技術は我々の社会のあちこちで利用されており、知らず知らずのうちに暗号を利用しているかもしれない。
本書を読んでいただければその一部をうかがい知ることができるだろう。
一部、専門的で難しい所があったなら読み飛ばしてかまわない。

第1部「黎明期の暗号とその分類」では暗号とは、そして過去の暗号法を分類して紹介する。

第2部「近代暗号と暗号機械の誕生」では試行錯誤から生まれた様々な暗号機械の登場と戦後までを振り返ってみた。
また、ここでは過去に利用された多項式暗号の実際の解読方法の例を紹介する。

第3部「エレクトロニクスと暗号技術」ではエレクトロニクスと暗号のかかわりを紹介してゆく。狭義には暗号とは言えない内容も含まれているが、エレクトロニクスに暗号がどのように関わってくるか、その必要性やデジタル化がいかに暗号を扱う上で有利かなどを知る参考になるだろう。

第4部「サイバー時代の暗号技術」では今、主流となっている暗号のアルゴリズムやそれを取り囲む話題などを紹介する。
仮想通貨のブロックチェーンやそのベースのひとつハッシュ値、いまや暗号存続の脅威となっている量子コンピュータについてもその仕組みを解説する。

暗号を取り巻く環境は単なる秘匿通信ばかりではなく、政治、経済、エレクトロニクス、通信、数学など多くの分野にまたがっている。興味ある分野から暗号を見てみるのも一興だろう。

改めて改訂版出版に快諾を頂いたラトルズ、そして吉田編集長に感謝の意を表します。

Digital Cypher Revolution
デジタル暗号革命

吹田 智章 (著)
出版社 : ラトルズ (2018/12/21) 、出典:出版社HP

Contents

はじめに

第1部 黎明期の暗号とその分類

1-1 なぜ今、暗号がトレンドなのか
デジタル技術で生かされる暗号テクノロジー
1-2 暗号の定義
1-3 通信の変遷と暗号
1-4 方言は暗号だった!?
1-5 スーパー・コンピュータとカエサルの関係
1-6 少女たちは暗号を使いこなす!?
1-7 世界最古の暗号装置スキュタレー
1-8 小野小町 和歌に隠された暗号
1-9 実在したモノリス
1-10 日本書紀の暗号
1-11 逐次暗号とブロック暗号

第2部 近代暗号と暗号機械の誕生
—近代暗号史

2-1 拡張カエサル暗号
2-2 物理者が作った暗号機械
2-3 電動機械式暗号機の登場
2-4 暗号の天才、フリードマンの登場
2-5 テレタイプ式自動暗号機の誕生
2-6 シリンダー暗号機M-94
2-7 エニグマ暗号機械の誕生
2-8 007も伊達じゃない。イギリス情報部
2-9 どっちが先、英米コンピュータ競争
2-10 14万台生産された合衆国陸軍M-209機
2-11 米国が生んだ暗号機「シガバ」
2-12 九七式暗号機とパープルの誕生
2-13 マジックvsパープル
2-14 秘密主義の犠牲
2-15 太平洋戦争と暗号
2-16 推理小説と暗号
2-17 ベルヌ,多表式暗号を解読する
2-18 多表式暗号を解く正攻法

第3部 エレクトロニクスと暗号技術

電子時代のサイバー暗号

●第1章 ハイパー・プロテクト AV編
1-1 コピーすると画像の乱れるビデオテープの謎
1-2 コピープロテクトがCDドライブを破壊する!?
〜コピーコントロールCDの闇
1-3 一世代までしかコピーできない録音テープの不思議
〜早すぎたDATの誕生
1.4 著作権保護技術てんこ盛りのDVD。それでも破られたのはなぜ?
1-5 メーカーとコンテンツホルダーの憂鬱
1-6 デジタル放送
〜なぜB-CASカードが必要か
1-7 HDTVから4Kへ
〜Blu-ray Disc(ブルーレイディスク)の登場

●第2章 通信編
2-1 アナログからデジタルへ
〜通信方式の変遷とプライバシー保護
2-2 インターネットの安全性を確保する
2-3 デジタルでも盗聴された警察無線!
2-4 鍵がないと動かない自動車のはずだが

●第3章 コードとカード編
3-1 鍵がないと動かないプログラム
〜電子の鍵 デバイスキー方式プロテクト
3-2 ボーと秘密インク
〜見えないバーコード
3-3 書かれていないのに価格のわかるバーコードの謎
3-4 価格表に隠された秘密(隠された原価)
3-5 磁気で書かれた情報
〜クレジットカードとキャッシュカード
3-6 なぜテレホンカードは変造されたのか
3-7 半導体がカードを守る
〜ICカードの登場

第4部 サイバー時代の暗号技術

●第1章 共通鍵暗号
1-1 共通鍵暗号の要素技術
1-2 ブロック暗号モードの操作
(Block cipher modes of operation)
1-3 共通鍵暗号DESの登場
1-4 「あみだ」から生まれた国産暗号アルゴリズムFEAL
1-5 DESからAESへ
〜次世代暗号の登場

●第2章 公開鍵暗号
2-1 共通鍵暗号から公開鍵暗号へ
2-2 鍵を安全に届ける数学のマジック
〜DH鍵交換
2-3 RSA暗号の登場
2-4 公開鍵(暗号化鍵)で解読できない暗号のふしぎ
2-5 公開鍵暗号の弱点
2-6 公開鍵暗号の世代交代
〜楕円曲線暗号へ

●第3章 電子署名
3-1 一石二鳥、公開鍵暗号の効用
〜電子署名
3-2 電子署名の肝 ハッシュ関数
3-3 あなたは誰?
〜公開鍵の認証をどうするか
3-4 認証局がなければ
〜もう1つの認証方法
3-5 鍵事前配布方式KPS

●第4章 電子商取引
4-1 電子認証とEコマース
4-2 クレジット決済システム
4-3 クレジットから電子マネーへ
4-4 電子マネーのためのブラインド署名

●第5章 埋め込まれたコード 電子透かし
5-1 著作物と電子透かし
5-2 電子透かしとは
5-3 電子透かしの新たな用途
5-4 電子透かしに代わるもの
5-5 AIの驚異が迫る
5-6 イスラエル生まれの画像化暗号ソフト

●第6章 広がる暗号技術の利用と次世代暗号技術
6-1 暗号技術の解放
〜大衆のための公開暗号 PGP
6-2 新しい公開鍵のカタチ
〜IDベース暗号(IBE)
6-3 仮想通貨を繋ぐ!?
〜ブロック・チェーン
6-4 迫りくる量子コンピュータの驚異
〜量子コンピュータとは

●第7章 暗号攻撃とタンパ・レジスタント・ソフトウエア技術
7-1 暗号攻撃法
7-2 暗号ソフトを守る

●第8章 国家と暗号
8-1 米国の暗号政策
8-2 失敗した暗号管理 鍵供託システム
8-3 日本の暗号とセキュリティ政策

おわりに

資料編
参考図書
コンテンツ保護関連用語一覧
世界の暗号関係機関
年表

索引

吹田 智章 (著)
出版社 : ラトルズ (2018/12/21) 、出典:出版社HP