エアライン/エアポート・ビジネス入門〔第2版〕: 観光交流時代のダイナミズムと戦略

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航空産業の入門書

世界の航空産業および空港について多面的、体系的に概説した入門書。激動期にあるエアライン/エアポート業界の実証分析を踏まえ、本来の航空産業の行方を探求しています。初版刊行(2011年)以降の動向を盛り込んだ最新版です。

高橋 望 (著), 横見 宗樹 (著)
出版社 : 法律文化社; 第2版 (2016/4/21)、出典:出版社HP

第2版はしがき

2011年の初版公刊以降,日原勝也東京大学大学院特任教授(当時)による好意的な書評(『運輸政策研究』Vol.14.No.4)もあって,本書は望外の読者に恵まれた。とりわけ,エアラインで経営企画に携われた経験のある方が大学で講義される際にテキストとして採用いただいたことは、実務界と学界を結ぶことができた証として,著者の慶びとするところである。
しかし、激動期にあるエアライン/エアポート業界では,この間大きな変化があった。2012年にはピーチ等の参入で日本も遅ればせながらLCC元年を迎える一方,第三極を目指した新規企業スカイマークが経営破綻し,九州と北陸の新幹線開業もあって日本の航空市場の動向は目が離せない。また伊丹と関空の経営統合と運営権の売却をはじめ空港改革の波が日本にも押し寄せている。
世界に目を向けると、欧州の伝統的企業やアジアの国営企業の経営不振に対し、中東のエアラインが躍進し,空港も乗り継ぎ機能をシンガポールから奪うなど、変化が著しい。こうした新事態に可能な限り対応すべく,第2版の改訂に取り組んだ。改めて読者諸兄姉のご批判を賜りたい。
*髙橋担当分については,平成27年度関西大学教育研究高度化促進費における課題「関西圏の交通社会資本(空港・港湾)と地域経済発展」の成果の一部,横見担当分については、平成26年度大阪商業大学海外研究員制度及び平成27年度大阪商業大学研究奨励助成費の成果の一部である。

高橋望
横見宗樹

はしがき

わが国の大学では、交通論の各論として伝統的に「海運論」が設置されてきた。ところが,海運が長年担ってきた国際貨物輸送において航空機の利用が年々増加し,わが国の場合金額でみると、3割程度を占めるに至っている。国際旅客輸送が航空の手に移ったのは太平洋路線で1953年(当時世界最大の輸送量を誇った大西洋路線は1957年)のことだが,現在では毎年日本人の2割近くが航空利用で出国するほど海外旅行も大衆化している。
このように航空のめざましい成長があったことから,多くの大学で「海運論」が「国際交通論」へと名称変更された。こうした大学カリキュラムの変遷に応じ、かつて筆者の一人は新たな「国際交通論」の体系化を目指して教科書を上梓したことがある(吉田茂・高橋望『国際交通論』世界思想社,1995年)。とはいえ海運と航空は、サービス供給技術や市場の制度的枠組みが大きく異なるため固有のシステムが確立しており、結局同書も、旧来通り縦割り的に海運と航空を別々に扱うという形式にならざるをえなかった。

ところがセメスター制の導入で、国際交通の問題はロジスティクス(海運)と旅客輸送(空運)とに分けて講義することとなった。しかし皮肉なことに,両者が分離されることで両者の問題が実は相互に関連していることに改めて気付かされ,海運の講義では空運の問題を、空運の講義では海運の問題を意識せざるをえなくなったのである。
つまり,近年の技術革新と経済の国際化によって、従来先進国が独占した海運業が次第に発展途上国に拡散し、先進国の海運業は相対的に国際競争力を失っていることに歩調を合わせるかのように、先進国の航空企業が独占していた国際航空市場で、アジア諸国の新興航空企業や斬新なビジネスモデルを開発した格安航空企業(LCC)が低コストを武器に市場を席巻しつつある。海運では米国の大手定期船会社が消滅する一方わが国外航海運産菜産業は必死の生き戦略を展開し世界の定期船業の上位に留まることができた。他力で、フラッグ・キャリアとして国際業務を長らく独占してきた日本航空が経営破綻した。
その差は何に由来するのか?実はその究明こそが本書のテーマであり,海運の現在・過去を通して航空の将来を見通すことを目的としている。両産業の違いが大きいのは事実だが、両者を1つの論理で分析することは十分可能であり,海運でえられた知見から多くのことを空運は学ぶべきであると,我々は考えている。その鍵は「海運自由の原則」と「空の不自由」ということなのだが、詳細は本文に譲りたい。また対象を航空輸送産業に限定するのではなく,それを補完する空港・旅行・観光の各分野についても加えることとし,新進気鋭の空港・航空・観光研究者である横見宗樹氏の協力を仰ぐこととなった。
我々は以上の問題意識に基づいて,できるだけわかりやすい教科書を心がけた。つまり、激動する世界の航空業界について、事実を詳細に紹介すると同時に,それに対する無理のない理論の適用に注意した。本書読了後に,さらに研究を進めたい読者のために,参考文献も充実させた。学部レベルの教科書であるため,日本語文献が中心となったが,これら先学の貴重な業績に助けられて本書があることに,改めて感謝したいと思う。

実は近年,日本航空の経営破綻や事業仕分けにおける関西空港の利子補給金,さらには地方空港の赤字といった問題が社会の注目を集めたせいか、交通以外の他分野の研究者の本の出版が相次いでいる。それらの成果から新鮮な視点に学ぶべき点も多いのだが,従来からこの分野を研究対象とする我々には、事実の誤認や理解不足あるいは杜撰な記述が目に付くのも事実である。そうした誤解を読者に与えないよう,難しいことを厳密性を損なわない範囲でわかりやすく、しかしまた理解を優先するあまり水準を下げないよう努めた。我々の意図がどこまで達成されたか,それは読者諸兄姉のご批判を仰ぐほかないと考えている。
いずれにせよ、このような形で本書を上梓できたことについて、高橋が一橋大学大学院で指導していただいた故地田知平名誉教授と杉山武彦元学長に改めて感謝申し上げたい。地田先生には徹底した実証主義に基づく理論の検証と適用を,杉山先生には理論に基づいた政策策定におけるバランス感覚の重要性をご教示いただいた。もちろん,お二人から受けた学恩に比べれば、本書は誠にささやかな成果でしかないが,できれば真の意味での卒業・修了論文としていただきたいと願っている。
加えて、常日頃ご指導いただいている勤務先の同僚並びに二人が所属する日本交通学会と日本海運経済学会の会員諸氏にも謝意を表したい。
最後に,法律文化社編集部部長代理の小西英央氏には、丁寧な編集作業で本書をこのような形にまとめていただいたことに感謝したい。偶然ともいえる出会いが本書誕生の背景にあるが、読者に恵まれて本書の成長が必然的となることを願っている。

高橋望
横見宗樹

高橋 望 (著), 横見 宗樹 (著)
出版社 : 法律文化社; 第2版 (2016/4/21)、出典:出版社HP

目次

第2版はしがき
はしがき

第I部 国際航空輸送産業と政府―市場環境の変化―
第1章 航空輸送産業の特質と動向
§1 航空輸送産業の発展
1 国際旅客輸送の担い手:海運と航空
2 航空輸送産業発展の特徴
3 エアライン・ビジネスの特徴
4 空運クラスター
§2 LCCの急成長
1 LCCのビジネスモデル
2 LCCの効果と進化
§3 航空輸送サービスの特質
1 派生需要(derived demand)
2 参入の容易さ
3 経営環境の変化

第2章 日本の航空市場の発展と航空政策
§1 日本の航空市場の動向と構造
1 ゼロからの出発
2 航空需要の動向:二眼レフ構造から一極集中へ
§2 日本の航空企業
1 日本の定期航空企業
2 小型機を使用した航空事業
§3 日本の航空政策の展開
1 45.47体制と競争促進策への転換:1985年12月航空憲法の廃止
2 航空法に基づく経済的規制とその緩和

第3章 米国における航空規制緩和政策
一米国国内航空産業の事例一
§1 米国国内航空の経済的規制をめぐる諸議論の展開
1 米国航空産業における規制とその問題点
2 規制をめぐる環境の変化とADAの成立
§2 規制緩和以降の航空企業の経営戦略
1 参入規制の撤廃:活発な新規参入による競争激化
2 運賃規制の撤廃:割引運賃戦略
3 路線戦略:ハブ・アンド・スポーク型路線ネットワーク
§3 規制緩和の評価
1 消費者の利益
2 消費者の不利益と行政当局の対応の失敗
3 規制緩和の課題
4 規制緩和の戦略性

第II部 国際空運の制度的枠組み
第4章 国際航空輸送の制度的枠組み
§1 シカゴ会議と多国間協定
1 シカゴ会議
2 シカゴ会議の成果
§2 ICAOとIATA
1 ICAOの特色と機能:各国政府が加盟
2 IATAの役割:航空企業が加盟
§3 空の5つの自由(運輸権の分類)

第5章 国際航空における規制と競争
§1 二国間航空協定とバミューダ体制
1 二国間航空協定
2 シカゴ・バミューダ体制
3 航空ナショナリズム
§2 商務協定からアライアンス(国際航空連合)へ
1 プール協定(運賃収入プール協定)
2 共同運航とコード・シェア
3 アライアンス(国際航空連合)
§3 国際航空における競争
1 伝統的寡占理論
2 レガシー・キャリアとLCCの競争
3 アライアンスの市場競争への影響

第6章 国際航空における規制緩和の動き
米国の国際航空規制緩和策:オープンスカイ政策(航空市場開放政策)
1 IATA(国際航空運送協会)との対立
2 オープンスカイの推進
§2 EUの国際航空政策:市場統合による新しい枠組み
1 自由化の進展:1984年イギリス/オランダ間新協定
2 EUの統一航空政策(27ヵ国:当初加盟国12ヵ国)
§3 日本の国際航空政策:世界の潮流に立ち遅れ
1 競争促進策への転換
2 国際航空自由化への対応
3 国際航空自由化の意義と今後の課題

第Ⅲ部 航空经营論
第7章 航空サービスの費用
§1 会計的費用分析
1 費用分類
2 費用動向
§2 航空機材と運航パターン
1 機材規模の経済
2 航空機の速度・航続距離
3 運航パターン
§3 航空費用の経済分析
1 規模の経済性
2 密度の経済性
3 範囲の経済性
4 ネットワークサイズの経済性

第8章 航空企業のプランニング
§1 航空輸送サービスの供給システム:航空サービスの供給に特徴的なインプット
1 機材(運搬具)
2 労働力:国家資格と国際規制
3 燃料
4 空港
5 航空路
§2 ハブ・アンド・スポーク型路線ネットワーク
1 都市間ペアの効率的増大
2 ネットワーク効果
§3 航空企業の経営管理
1 労務管理:二重賃金制の導入
2 品質管理
3 航空機リース
4 CSRへの取り組みと地球環境問題

第9章 航空企業のマーケティングー
§1 流通チャネル
1 ネット販売(e-retailing)の進展
2 旅行代理店(travel agent)
3 企画旅行の航空運賃
§2 CRS(コンピュータ予約システムの相互接続によるネットワーク化)
1 コンピュータ予約システムの開発と競争
2 コンピュータ予約システムのCRS化とコード・シェア
§3 航空企業間の国際的提携(アライアンス)とマイレージ
1 アライアンスの目的
2 アライアンスのメリット
3 アライアンスの進化
4 成否の鍵
5 マイレージ(FFP:常顧客優待制度)

第IV部 航空経済論
第10章 航空需要と観光
§1 航空輸送需要の特性
1 市場細分化と特性把握
2 旅客の選択
§2 航空需要の経済分析
1 航空輸送需要の決定要因
2 需要の価格弾力性
3 価格政策への適用
§3 航空需要の成長分析
1 需要の所得弾力性(ex)
2 経済成長と観光需要

第11章 航空運賃
§1 規制緩和と国内航空運賃体系の変化
1 認可制から事前届出制に緩和
2 運賃規制緩和の影響
§2 国際航空運賃とIATA
1 IATAの機能
2 国際航空運賃の構造:競争激化による各種料金の多様化
3 IATAの弱体化:運賃設定機能の低下
§3 規制緩和下の運賃戦略
1 運賃戦略の策定
2 レベニュー・マネジメント(revenue management)

第12章 航空貨物
§1 航空貨物の成長
1 航空貨物の動向
2 航空貨物成長の要因
3 航空貨物サービスの供給
§2 国際分業体制の確立と航空貨物輸送
1 生産拠点の海外移転
2 国際工程間分業の進展
3 ロジスティクスの展開
§3 インテグレーター
1 フォワーダー(forwarder:利用航空運送事業者)の概念
2 国際宅配便
3 複合一貫輸送とSea/Air輸送
4 インテグレーター(integrated carrier)

第V部 空港問題
第13章 わが国の空港制度と空港政策
§1 わが国の空港整備制度
1 空港整備・運営の沿革と現状
2 空港整備勘定
§2 空港政策の諸問題
1 空港政策の問題点
2 国際空港問題の対応策
§3 国際ハブ空港の機能と性格
1 国際ハブ空港の類型とハブ空港をめぐる競争
2 国際拠点空港の容量不足による問題点

第14章 空港経営
§1 空港の収入・費用構造
1 航空系活動
2 非航空系活動
3 空港経営の採算性
§2 空港の所有・運営形態
1 空港の所有形態:公的所有と民間所有
2 空港運営の市場化・商業化・企業化
3 PPP/PFIによる空港整備
4 空港債による資金調達:アメリカの事例
§3 空港民営化の潮流
1 民営化の理論的背景
2 民営化の方法
3 民営化の事例
4 今後の展望

第15章 空港と地域経済
§1 空港の経済効果
1 空港と地域経済
2 空港と観光産業
§2 地方空港の活性化策
1 建設から経営の時代へ
2 活性化策の検討
3 補助制度:運航補助・搭乗率保証
§3 効率的な空港経営に向けて
1 複数空港の運営:個別経営と一括経営
2 内際機能分離
3 整備主体と経営主体の分離

参考文献
索引

高橋 望 (著), 横見 宗樹 (著)
出版社 : 法律文化社; 第2版 (2016/4/21)、出典:出版社HP