勝てる野球の統計学――セイバーメトリクス (岩波科学ライブラリー)

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ライバルチームの戦略分析に備える

“送りバントは有効な作戦ではない”、“打率より出塁率が重要である”など、従来の野球のセオリーを覆した、統計手法であるセイバーメトリクスについてよくわかります。日本プロ野球の最新データに沿って解説されていくので、統計学を学びたいかつ野球好きの方におすすめの1冊です。

鳥越 規央 (著), データスタジアム野球事業部 (著)
出版社 : 岩波書店 (2014/3/13)、出典:出版社HP

岩波科学ライブラリー223
鳥越規央
データスタジアム野球事業部|
勝てる野球の統計学
セイバーメトリクス

岩波書店

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「著作権情報等」

まえがき

「セイバーメトリクス」という言葉を聞き慣れない読者もまだ多いかもしれない、これはメジャーリーグで野球のチームづくりの考え方に大きな変革をもたらした,まさに野球のための統計学なのである。「セイバー」はアメリカ野球学会(Society for American Baseball Research)の略称であり、メトリクスとは測定法や指標といった意味である。
メジャーリーグでは1970年代頃からさまざまなデータを駆使して、野球の采配の妥当性などが議論されるようになった。これがセイバーメトリクスのはじまりである。そして1990年代に成績が低迷していたオークランド・アスレチックスがこのセイバーメトリクスを積極的に採用し、選手の獲得や評価を行った。従来の基準では評価が高くないが、セイバーメトリクスの基準では意外に評価の高くなる選手を積極的に低年俸で獲得することによって、選手の年俸を抑えながら2000年~2003年にかけて地区優勝3回,毎年プレーオフに進出するまでにチーム力の強化に成功した.このことで、セイバーメトリクスは一気に話題になったのである。この経緯については,映画にもなった『マネー・ボール』という書籍に詳しく描かれている。

野球好きの方なら、いまやインターネットでも容易に入手できる選手の記録を見て、野球中継を観戦しながら「このバッターは得点圏打率が低い、チャンスに弱いからバントをすべきだ」とか,「このピッチャーは右打者との対戦打率が悪いからピッチャー交代をしたほうがよい」などと、あれこれ自分なりの采配を楽しまれることも多いだろう。自分の考えとは異なる采配をして,結果,痛い目にあった監督の批判をして溜飲を下げる、などというのも野球観戦の一つの楽しみ方だ。
本書は、読者のこの楽しみをいっそう大きなものにするためにセイバーメトリクスの基礎になる考え方や,重要な指標を紹介する。一般に打者は「打率」「本塁打」「打点」で評価される(このすべてでリーグトップであれば三冠王として最高の賞賛を受ける).だが,打者で注目すべき指標は他にもある。いやむしろあまり表に出ない指標により重要なものがある.予備知識のある方にはよく知られた例であるが,打率(ヒットの確率)よりも出塁率(ヒットおよび四死球の確率)の方が有効だったりする.

このほかにもたくさんの指標が登場するが、電卓や必要なら)Excelなどの表計算ソフトを使えば簡単に計算できるものから,ビッグデータを解析することで導くことのできるものまで幅広く紹介している.2014年のシーズンを楽しむためにぜひ活用いただきたい、セイバーメトリクスは進化途上であり、データを眺めているうちに,さらに有効な指標を読者自らが発見するということもあるかもしれない。
各章の構成だが,まず第1章でセイバーメトリクスの指標作成の基礎となる「得点期待値」について解説する.
また第2章で,OPSやRC,XRといった打者評価に用いられる指標について,第3章でWHIP,FIPといった投手評価に用いられる指標について紹介する。こうした指標はもともとメジャーリーグでのデータ分析のために考え出されたものであるが,日本のプロ野球にフィットするように補正した指標作成の提案も行っている。
第4章では、ビッグデータ解析により可能となった守備の評価手法によって求められる、従来の「失策数」,「守備率」だけでは測れない守備力の数値評価について解説する.

さらに第5章では,プロ野球選手の「市場価値」を測るための総合指標として、今もっとも重用されている「WAR」という指標を紹介する.WARは投手や野手などのポジションによらず、単一の指標でその選手の価値を測れるという,たいへん画期的なものである.
第1,4,5章は主にデータスタジアム株式会社のアナリストが担当し、プロ野球のデータを用いたオリジナルの指標を提案している。統計学者の鳥越規央は主に第2,3章を担当し、今まであまり多く語られていなかった打撃・投手指標の数理的背景に迫っている。
野球,そしてスポーツはデータだけでは語れない、予測を超えたファインプレー不利な条件をはねのけての勝利,アスリートの力と力の対決が見る人々に感動を与えるのはもちろんである.だがデータを知っていればこそ、その感動もまたより深まると思うのである。
本書で使用するのは主に2013年の日本プロ野球の最新データである。これはデータスタジアム社が収集し、蓄積したものである。データスタジアム社ではこのほか、サッカーやラグビーのデータの収集・分析も行っている。
セイバーメトリクスは今後,野球以外の他のスポーツにも広がっていくと思われる。こうしたスポーツにも関心のある読者にはさらに注目していただきたい.

鳥越 規央 (著), データスタジアム野球事業部 (著)
出版社 : 岩波書店 (2014/3/13)、出典:出版社HP

目次

まえがき
1“無死満塁”は点が入りにくいのか?——野球のセオリーを検証する
実際のデータを見てみると/送りバントは有効なのか?/得点確率から見る送りバント/得点期待値からプレーの得点価値を算出「得点」を「勝利」に換算する/すべての指標は「勝利」に通ずる

2ホームランバッターか三割打者か?——「全員イチロー」vs「全員バレンティン」
打率.000なのに、出塁率.400でチームに貢献/「得点能力」を評価する指標OPS/走塁能
力や進塁させる能力も加味した打撃指標/1番から9番までイチローなら何点とれる?/その打撃は何点分?

3防御率だけでは見えない名投手の条件——失点に占める投手の責任の割合
先発投手の役目は6回を3点以下に抑えること/「いかにランナーを出さないか」を示す指標/ポテンヒットは投手の責任?/先発投手もリリーフ投手も含めて能力を評価する/外野フライを打たれる投手はホームランのリスクも大きい/フライゴロの比率と被本塁打の関係

4イメージ先行で語られがちな「守備の達人」——失策が多くても守備範囲は広かった
守備貢献度を測る/失策王が実は名手だった?/「守備範囲」の評価方法とは?/守備の評価式は発展途上/「失策をしない能力」,「併殺奪取能力」,「肩力」とは?/2012年,糸井嘉男の肩力/守備範囲を簡易的に測るRF

5真のMVPは誰か?——勝利への貢献度を数字で表す
投手と野手の成績は比べられるのか?/総合評価指標の考え方/控え選手とレギュラーの差はどのくらい?/レギュラーの価値は控え選手を試合に出さないこと/鳥谷敬の貢献度は何勝ぶんに値する?/バレンティンはやはりトップの貢献度/田中将大を貢献度で超えた選手

おわりに——セイパーメトリクスとID野球

2014年3月

鳥越規央
データスタジアム株式会社野球事業部

鳥越 規央 (著), データスタジアム野球事業部 (著)
出版社 : 岩波書店 (2014/3/13)、出典:出版社HP