日本の大和言葉を美しく話す―こころが通じる和の表現

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大和言葉の魅力

日本では、漢語と外来語、そして大和言葉の3つが使われています。日本人自身が育んできた知的で優雅な余韻を残す大和言葉を使うことで、品のある言葉遣いを身につけることが期待できます。

高橋 こうじ (著)
出版社 : 東邦出版; 第3版 (2014/11/20)、出典:出版社HP

はじめに

うさぎ追いし彼の山 こぶな釣りし彼の川
夢はいまもめぐりて 忘れがたきふるさと

唱歌「ふるさと」(高野辰之作詞、岡野貞一作曲)は、日本人の心に染みます。その理由の一つは、歌詞のすべてが大和言葉であることです。
大和言葉とは、太古の昔に私たちの先祖が創り出した日本固有の言葉。また、その伝統の上に生まれた言葉です。「山」「服」「夢」「ふるさと」、みんな大和言葉です。
日本語の単語は三種類あり、残る二つは漢語と外来語です。漢語は中国語から取り入れた言葉で、「山地」「河川」など。つまり、漢字の読みで言えば、音読みで発音されるのが漢語。訓読みが大和言葉です。外来語は中国以外から来た言葉で、多くはカタカナ表記です。たとえば、この文章の表題は「はじめに」ですが、「はじめる」は大和言葉で、同じ意味の漢語は「開始」、外来語は「スタート」。私たちはこんなふうに三種類の日本語を日常的に使っています。
大和言葉が日本人の心に染みるのは、日本の風土の中で生まれた言葉だからです。たとえば、「地面が盛り上がったところ」は、先祖たちにとって「や」「ま」という二つの音で表すのが一番しっくり来るもの。だから「やま」になりました。つまり、大和言葉はその一音一音が先祖たちの感性の投影なのです。もちろん漢語や外来語も大切な言葉ですが、たとえば漢語の「故郷」を考えても、私たちはその単語を一つのユニットとして認知し、意味を理解するのに対し、大和言葉の「ふるさと」は「ふ」「る」「さ」「と」の一音一音が心に響きます。冒頭に挙げた歌詞の最後を「こきょう」にしてみると、その違いがよくわかりますね。
大和言葉には、このように「心に染みる」特性があります。ところが最近は、造語能力に富む漢語や一見おしゃれな外来語に押されて、長く愛され、用いられてきた美しい大和言葉があまり使われない、という現象が生まれています。これは本当にもったいない話。大和言葉をもっと知ってもらい、日ごろの会話やスピーチ、手紙やメールなどに生かしてもらおう、ということで生まれたのが本書です。
この本を通して、あなたの会話や文章が多くの美しい大和言葉に彩られ、より充実したものになることを願っています。

高橋こうじ

高橋 こうじ (著)
出版社 : 東邦出版; 第3版 (2014/11/20)、出典:出版社HP

もくじ

はじめに

語らい
このうえなく/いたく/こよなくお買い被りを/おからかいを/お戯れはもうそれぐらいで/恐れ入ります楽しゅうございました/嬉しゅうございます

もてなし
ようこそ運びくださいました、お待ちしていました/お上がりください/ごゆるりとお心置きなく/お口に合いますかどうか/ほんのお口汚しですがどうぞお付き合いください/お言葉を賜る/今宵/言祝ぐ

手紙
日ましに春めくこのごろ/夏も早たけなわ/秋まさにたけなわ/此処彼処に春の兆しが覗くこのごろ〇〇様には/ひとかたならいお世話に/日ごろは何かと/お心にかけていただく/お引き立ていただく幾重にもお願い申し上げます/おみとりください/御身体をお厭いください/くれぐれも御身おいたわりください

言挙げ
いみじくも/まさしく/つまるところ/いやがうえにもむべなるかな/あまつさえ/いささか/たまさかに惜しむらくは/なかんずく/よしんば/言わずもがな

言伝
しばしお待ちを/概ね/あらましは次の通りです/続けざまですみません遅ればせながら/いましがた/思いのほか/鑑みて私事ですが/お手すきのときに/ゆるがせにしません/心待ちにしています

コラム①大和言葉の響きを楽しむ


心を寄せる人/思い初める/馴れ初め/憎からず思う相思い/片恋/片恋づま/したもい契りを結ぶ/逢瀬/心移り/焦がれ泣き

交じらい
誼を結ぶ/とっつきが悪い/しっくりいかない/心安い間柄相合いにする/お催合いで/手を携える/心を同じくする敷居が高い/とりなす/とりもつ/折り合う

装い
目もあや/着映えがする/垢抜けている/こざっぱりお召し替え/誂え/出来合い/さら口紅を差す/眉根/眉尻/おめかし

住まい
門口で/上がり口/引き戸/扉湯船/厨/厠床をとる/寝間

味わい
下ごしらえ/腕によりをかける/若炊き/とろ火上置き/木の芽/はじかみ/煮凝り足が強い/くどくない/得も言われぬおいしさ/余さずいただく

眺め
名にし負う/海辺/凪ぐ/舫う山あいの里/山の端/杣山/峰々きざはし/甍の波/迫り持ち/入り合いの鐘

学び
そらんじる/綴る/下読み/おさらい戦場/旗揚げ/旗色/殿/勲離形/かさ/いびつ

遊び
振り出し/のるかそるか/お手合わせを願います/読みを誤る。筋がいい/玄人裸足/手だれ/ほんの手慰みで触りを一節/節回し/聞かせる/声色

そぞろ歩き
足の赴くままに/道すがら/橋涼み辻/袋小路/葛折り/道標しもたや/盛り場/人だかり/人いきれ

あめつち
日和/雲足が早い/霧が立ちこめる/篠突く雨月が冴える/上り月/鼓星/星月夜黄金/酸/出で湯

コラム②言霊の幸わう国

生きもの
生きとし生けるもの/象/兎馬/幽/かわひらこ和毛/いがむ/ついばむ/もぬけときわぎ/ひこばえ/たわわに実る/うてな


人となり/かたぎ/持ち前/たち打てば響く/目から鼻へ抜ける/ものがたい/竹を割ったようなあこぎ/さかしら/つむじまがり

思い
目頭が熱くなる/胸に迫る/ほだされる/身につまされる捲まず弛まず/思いを馳せる/思い合わせる/徒や疎かにしない憤りを覚える/省みる/結ばれる/胸を撫でおろす

つとめ
全うする/生業/携わる/取り交わす白羽の矢が立つ/荷が勝つ/そつなくこなす/お手の物。書き入れ時/手間暇かける/骨休め/較替え


片時も/ひととき/瞬く間に/追い追い朝な夕な/夜もすがら/常日頃/たそがれ来し方行く末/行く行くは/来たる〇〇年も/幾久しく


御霊/手向ける/みまかる/お弔いお社/垂/さえの神/いしぶみ虫の知らせ/あやかし/奇しきゆかり/幸先

参考文献
索引

語らい
何かについて語るとき、辞書では同じ意味であっても、言葉選びによってニュアンスは随分と変わるものです。奥行きのある表現を身につけましょう。

「一番好きなものを和紙で作ってごらん」。こんな課題を出されて、色とりどりの和紙と真剣に格闘する幼稚園児たちを見たことがあります。忘れられないのは、それを順に披露するときの顔です。ある子は飼っている犬を、ある子はテレビの戦隊ヒーローを、ある子はオムライスを掌に乗せ、どの子も恥ずかしさに声をうわずらせながら、でも、どこか幸せそうに、友達に見せていました。
なぜ恥ずかしいか。それは、心の内にある大事なものを人目にさらすことだから。なぜ幸せか。そうすることで、自分以外の人がそれに触れて、愛したり、大切にしてくれたりする可能性が開かれるからです。
それは、まさに「語らい」の場でした。
語らう、すなわち、会話の場で自分の思いを口にするとは、そういうことです。自分の内側にある大事なものをわかってもらうために、言葉という素材を使ってそれを形にし、相手の前に差し出すこと…。だから、いい「語らい」は、美しい言葉を見つけることから始まるのです。

高橋 こうじ (著)
出版社 : 東邦出版; 第3版 (2014/11/20)、出典:出版社HP