都市計画とまちづくりがわかる本

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これから都市計画・まちづくりに触れるきっかけに

本書は、都市計画とまちづくりに関する百科事典であり、それぞれの項目が見開きページでまとめられています。写真や表などの図解が豊富で、注釈も添えられているので、初学者にはおすすめの一冊となっています。

伊藤 雅春 (著), 小林 郁雄 (著), 澤田 雅浩 (著), 野澤 千絵 (著), 真野 洋介 (著)
出版社 : 彰国社; 第二版 (2017/7/4) 、出典:出版社HP

第二版刊行にあたって

2011年11月に第一版を刊行してから5年以上を経過し、時点修正が必要な項目を中心に改訂し、古くなった項目を新しい項目にいくつか入れかえて、第二版にしました。

第一版の刊行間近、原稿がそろい編集作業中の2011年3月11日、東日本一帯にマグニチュード9.0という大地震が起こり、想定外の巨大津波が三陸海岸を中心に青森から茨城の太平洋沿岸を襲い、未曽有の被害をもたらしました。福島では原子力発電所がその影響で信じがたい事故を起こしました。
急きょ刊行を延期し、被災直後のことで震災復興の様相はまだ定かではなかったのですが、震災の概要と復興への取り組みの一端の紹介を追加しました。今後の都市計画・まちづくりに東日本大震災がもたらす影響は計り知れないものがあるはずと想定したからです。
それから5年余りが過ぎ、まだまだ東日本における復興まちづくりの状況は途上にあるのですが、2016年4月に九州・熊本で二度にわたる震度7の大地震が起こり、その復興まちづくりはこれからです。また、空き家への対策やスットク再生、風水害への対策や地域社会における防災など、この5年間、地方創生の流れの中で、新たなまちづくり課題も明らかになってきました。
そうした状況も反映させて、第二版では差し替え5項目を含む以下の13項目(執筆者)を新しく追加、さらに5項目を削除し、全体で100項目としました。
また、第一版の執筆者(編著者も含め)は22人でしたが、新たに5人(甲斐徹郎、杉崎和久、平田京子、藤村龍至、室崎千重)が増え、第二版は27人で分担して執筆しました。

・追加新項目と執筆者
21建築士法改正と倫理教育(平田京子)/44都市計画とまちづくりの権限(杉崎和久)/50ミニ・パブリックスによるまちづくり(伊藤雅春)/56超高齢化社会での住まいの新しいタイプ(室崎千重)/61空き家問題(野澤千絵)/62ストック再生まちづくり(藤村龍至)/68公共施設の再編(藤村龍至)/76風水害・土砂災害(室崎千重)/79中越地震の復興むらづくり(澤田雅浩)/80東日本大震災の復興まちづくり(姥浦道生)/81熊本地震の被災と復興まちづくり(柴田祐)/82災害復興への備え(加藤孝明)/96緑による新しいまちづくり(甲斐徹郎)

多くの大震災被災者の方々に鎮魂と激励のメッセージをお伝えするとともに、これからも真摯に都市計画・まちづくりに取り組み、新しい空間・環境・社会を構築する一助となることに努めていきたいと思います。

2017年4月
編著者を代表して 小林郁雄

伊藤 雅春 (著), 小林 郁雄 (著), 澤田 雅浩 (著), 野澤 千絵 (著), 真野 洋介 (著)
出版社 : 彰国社; 第二版 (2017/7/4) 、出典:出版社HP

目次

はじめに「都市計画」から「まちづくり」へ~この本の構成と読み方~
「都市計画とは」「まちづくりとは」何か?~読む前に知っておきたいしくみと流れ~

第1章 都市計画がわかる
世界の都市計画史と思潮
01 古代の都市
02 中世・ルネサンスの都市
03 バロックの都市
04 理想工業村と田園都市論
05 近隣住区論とラドバーン方式
06 グリーンベルトとニュータウン
07 ライトとル・コルビュジエ
08 ゲデスとマンフォード
09 ジェイコブズとアレグザンダー

日本の都市計画史
10 近世までの都市計画
11 幕末・明治の都市計画
12 大正・昭和戦前の都市計画
13 昭和戦後の都市計画
14 80年代・90年代の都市計画
15 2000年代の都市計画

建築基準法の基礎知識
16 建築基準法とは
17 道路(接道義務)
18 建ぺい率と容積率
19 高さ制限
20 建築確認制度
21 建築士法改正と倫理教育

都市計画の枠組み
22 都市計画法の位置付け
23 都市計画法の体系
24 都市のマスタープラン
25 区域区分(線引き)
26 地域地区(用途地域等)
27 開発許可制度
28 都市計画事業
29 地区計画
30 都市計画決定のしくみ

諸外国の都市計画制度
31 アメリカの都市計画
32 イギリスの都市計画
33 ドイツの都市計画
34 フランスの都市計画

現代都市計画の思潮
35 都市のサスティナビリティ
36 ニューアーバニズム
37 コンパクトシティ
38 シティリージョン
39 新しい公共とガバナンス
40 条例によるまちづくり

まちづくりの担い手
41 参加のデザイン
42 まちづくり協議会と町内会・自治会
43 まちづくりNPO
44 都市計画とまちづくりの権限
45 都市計画・まちづくりの専門家と資格

まちづくりの進め方
46 まちづくりとGIS
47 まちを発見する
48 住民参加の手法
49 ワークショップ
50 ミニ・パブリックスによるまちづくり

訪ねて欲しい都市空間

第2章 テーマ別まちづくりがわかる
中心市街地の再生まちづくり
51 中心市街地の活性化
52 大規模集客施設の郊外立地
53 まちなか居住

超高齢社会のまちづくり
54 ユニバーサルデザインとまちづくり
55 地域包括ケアとCCRC
56 超高齢社会での住まいの新しいタイプ
57 ホームレス一居住保障からまちづくりへ

人口減少社会のまちづくり
58 人口減少社会の到来
59 ニュータウン再生
60 限界集落
61 空き家問題
62 ストック再生まちづくり

都市のマネジメント
63 地区独自のルールづくり
64 エリアマネジメント
65 PFIとPPP
66 コミュニティビジネスと指定管理者制度
67 まちづくりファンド
68 公共施設の再編

交通まちづくり
69 交通まちづくりと総合交通政策
70 TDMとモビリティ・マネジメント
71 次世代型路面電車(LRT)
72 コミュニティバス

防災・復興まちづくり
73 ハザードマップとDIG
74 防災都市づくり計画
75 密集市街地整備
76 風水害・土砂災害
77 復興基金
78 阪神・淡路大震災の復興まちづくり
79 中越地震の復興むらづくり
80 東日本大震災の復興まちづくり
81 熊本地震の被災と復興まちづくり
82 災害復興への備え
83 地域防災計画と地域社会における防災
84 震災復興まちづくり模擬訓練

防犯のまちづくり
85 防犯環境設計と防犯まちづくり
86 犯罪発生マップと地域安全マップ
87 防犯パトロールと防犯カメラ

景観まちづくり
88 歴史的町並み保存と川越伝建地区
89 横浜の都市デザイン活動
90 景観緑三法
91 京都の景観制作
92 景観資源を生かす地域づくり

環境共生のまちづくり
93 地球温暖化対策
94 ヒートアイランド現象
95 低炭素型社会実現への再生可能エネルギー利用
96 緑によるまちの自己組織化

緑・水の保全と再生
97 流域圏と総合治水
98 緑地保全の手法
99 里山保全
100 コミュニティガーデン

訪ねてほしい都市空間

参考文献
出典一覧
索引
編著者・著者紹介

伊藤 雅春 (著), 小林 郁雄 (著), 澤田 雅浩 (著), 野澤 千絵 (著), 真野 洋介 (著)
出版社 : 彰国社; 第二版 (2017/7/4) 、出典:出版社HP

はじめに「都市計画」から「まちづくり」へ
~この本の構成と読み方~

あなたは大学に入学したばかりの新入生ですか?それとも就活に忙しい建築学生ですか?あるいは都市計画とまちづくりを改めて勉強し直したい社会人の方でしょうか?この本は、そうした方々のために「都市計画」「まちづくり」を理解してもらおうとしてつくった入門書です。
「都市計画」のもとになっている都市計画法は、古く1919(大正8)年に制定されましたが、現在の法は1968(昭和43)年に新たに抜本的に組み立て直されたものです。とはいっても、すでに半世紀ほど前のことで、わが国が高度成長を進めていく中で、都市をいかに開発整備するかという国家全体の調和と進展のしくみが、これまでの都市計画の役割でした。
それが1980年以降、地域主権の時代の始まりとともに、まちの生活環境の運営維持を進める運動としての「まちづくり」が都市の主要課題になってきています。その基本は成熟社会・人口減少時代のまちのあり方、そこでの人々の暮らしへの取り組み方法です。
都市計画とまちづくり、それぞれ個別に解説された本は数多くありますが、一連の流れの中で統合的な視点から解説しているのが、この本の特徴です。

都市計画がわかる
最初に、世界と日本の都市計画の歴史を、実際の都市の成り立ちからその計画思潮までを解説しています。本文の01~15を読めば、古代から現代まで、西洋と日本の都市計画が概観できます。
次に、日本の都市計画制度を支える建築基準法と都市計画法の基礎的な必須項目が16~30に整理してあります。アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスといった諸外国における制度も31~34にまとめています。
さらに、いくつかの現代都市計画の新たな課題(35~40)から、これまでの都市計画の取り組みでは対応困難な問題への道筋として「まちづくり」を位置付け、その担い手と進め方について41~50で解説しています。
第1章の「都市計画がわかる」はこうした流れで構成されていますが、もちろん、参照項目として個別に読んでも理解できる内容になっています。

テーマ別まちづくりがわかる
第2章は、まさに現代の「都市計画→まちづくり」が直面しているさまざまなテーマに沿って、各項目の解説をしています。
中心市街地の再生、超高齢社会、人口減少社会、マネジメント、交通、防災・復興、防犯、景観、環境共生、緑・水という10のまちづくり(なんとまあ、多面多岐にわたって「まちづくり」が必要なことでしょう!)をカバーして50項目(51~100)あります。
「都市計画」の中で対応されてきた項目も数多くありますが、半分以上は「まちづくり」としか言いようがない項目であり、これからの時代に対応・解決しなければならない21世紀のテーマです。

都市計画からまちづくりへ
「第1章 都市計画がわかる」「第2章 まちづくりがわかる」を通して読んでいただければ、この100年のわが国の「都市計画からまちづくりへ」という動きが理解できるかと思います。それがこの本の狙いでもあります。
都市計画もまちづくりも、都市の地域環境、地域経済、地域社会である「社区」に基盤を置いたコンパクトタウン(自律生活圏)が基本で、生活圏での活動や空間のありようが焦点となります。

この本は27人の執筆者による共同のものです。多くは若い研究者たちです。都市計画からまちづくりへの転換にこれからどのように対処していくべきか、人生をかけた探求が求められています。
しかし、都市は楽しく、奥深いところでもあります。編著者6名がコラムとして「訪ねてほしい都市空間」を楽しく書きました。是非、そうした実際の都市の空間を、まちづくりの現場を、訪ねてみてください。「現場に真実はあり、細部に神は宿る」からです。

伊藤 雅春 (著), 小林 郁雄 (著), 澤田 雅浩 (著), 野澤 千絵 (著), 真野 洋介 (著)
出版社 : 彰国社; 第二版 (2017/7/4) 、出典:出版社HP

「都市計画とは」「まちづくりとは、何か?
~読む前に知っておきたいしくみと流れ〜

「都市計画」とは?
一般に「都市計画」という言葉には、広くは3つの意味があります。「都市総合計画」と「法定都市計画」と「まちづくり」です。近年まで都市計画といえば、長期的な都市の将来像を示す目標としての「都市総合計画」と、都市計画法に基づき都市の形態・事業を規律化する制度としての「法定都市計画」で、大方はカバーできました。
しかし、それだけでは都市活動の複雑化・多様化に対応しきれません。同時に、国土全体一律の中央集権的開発規制や誘導計画から、地区の特色を重視する自律圏を基本にした地域主権時代が始まります。こうした背景に合わせて、1980年の地区計画の制度化以降、「都市計画」の変転が始まりました。
とくに、1995年の阪神・淡路大震災以後の震災復興において、市民まちづくりが果たした大きな役割から、市民による運動としての「まちづくり」への関心が高まり、都市計画からまちづくりへという大きな流れが、21世紀の最も顕著な都市における政策の動きとなります。

「まちづくり」とは?
「まちづくり」という言葉は現在さまざまな意味で使われています。福祉のまちづくり、緑のまちづくり、まちづくり条例、まちづくり会社など。「まち」を「つくる」とは、いったい何なのでしょうか?都市計画とは何がどう違うのでしょうか?
台湾では「社区営造」といいます。社区はコミュニティ(まち)のことで、営は経営、造は建造で、ソフトとハードの改善活動(つくり)です。文化・教育・健康なども含めて、地区の総合的な整備開発保全の活動を視野に入れています。アメリカでは「Community Development」。地域社会Communityの開発Developmentが「まちづくり」に相当します。開発には当然、ハードな土建業的デベロップメントだけでなく、社会開発・能力開発といったソフトな取りも含んでいます。
じつは台湾の「社区営造」は、1990年代の初めに日本の「まちづくり」を参考にした社区総体営造連動に始まり、1999年の921集集大地震からの復興まちづくり活動以降急速に一般化してきました。中国本土においても2008年の四川省512汝川地震からの復興活動以来、台湾同様「社区営造」が使われ始めています。
またイギリス・アメリカのCommunity Developmentとはかなりニュアンスが異なり、1995年の阪神・淡路大震災からの復興まちづくりを見聞した多くの学者たちは「machizukuri」とそのまま使っている場合が多いようです。

「まちづくり」の定義
「まちづくり」は運動、「都市計画」は制度、と考えるとします。比較対照して記せば、
まちづくり: 地域における、市民による、自律的継続的な、環境改善運動
都市計画: 国家における、政府による、統一的連続的な、環境形成制度
となります。
この場合、もう少し限定的にいえば「市民まちづくり」とするべきでしょう。そして、「制度(法律)」はどのようにつくられるか、ではなくて、どのように使われるか、が問題です。それは、「技術」でも「社会」でも、もちろん「計画」でもそうで、どのように使うかというプロセス・運動が重要となります。

都市計画(City Planning)は幻想(image)の創造(あるいは想像)です。その20世紀最大の成果が「田園都市(Garden City)」と、その継承であるニュータウン政策であり、大いなる錯覚でした。論理的計画目標はあってもプロセス継続思考はなく、完璧な完成像はあっても持続性への対応がありません。計画は完成しますが、その瞬間から、ちょうどソビエト共産主義の瓦解のように、崩壊が始まります。
一方、まちづくり(Machizukuri)は運動(Movement)の継続(あわせて自律)です。21世紀のめざすべき都市像は「自律生活圏の多重ネットワーク社会」であり、その自律圏ネット社会をめざす市民の環境改善運動が「市民まちづくり」です。

「まちづくり」の始まり
「まちづくり」を考えるとき、わが国における転機は1980(昭和55)年でした。都市計画法が改正され全国一律の原則から、地域特性に応じた対応が可能な地区計画制度が導入された年です。神戸市では都市景観条例が前々年(1978)に、まちづくり条例が翌年(1981)に制定されています。35年以上前のことです。
1978年に神奈川県知事だった長洲一二さんが「地方の時代」を雑誌『世界』10月号(岩波書店)に発表し、時は民間活力活用、小さな政府、地域が主体となる社会への傾斜が急でした。
それは「まちづくり=地域における、市民による、自律的継続的な、環境改善運動」の始まりを告げる時代でした。「市街地整備のための環境カルテ」を神戸市が策定、市民に公表(1978)するなど、地域からのまちづくりとして都市計画を考えることを、基礎自治体において真剣に取り組み始めた頃、1968年の新都市計画法制定から12年後でした。
その頃、イギリスではサッチャー政権が1979年に始まり(-90)、アメリカではレーガン大統領が81年に政権につきました(-89)。日本では中曽根民活内閣が少し遅れて82年に始まりました(-87)。イギリス・アメリカ・日本と肩を並べて、高度経済成長以後の新たな社会経をめざしていました。政府主導・中央集権から民間活力・地域主権への転換です。都市計画から「まちづくり」への転換でもあり、NPO・ソーシャルエンタープライズの登場でもありました。
イギリス・アメリカがその後、その路線を法制化し、社会的にも一般化していったのに対し、残念ながら、日本では2001年の小泉改革内閣の突然の成立を待たねばなりません。
日本の転換が遅れたその主因は、経済バブルです。日本の「まちづくり」を10年(20年かもしれません)遅らせたのは、わが国の経済バブル期(1986-91頃)と、それに続く空白の10年といわれるバブル経済崩壊後の停滞した経済社会情勢といってよいでしょう。バブル景気は、地道な密集市街地都市環境整備への取り組み、すなわち、まちづくりへの取り組みを、東京発の地上げ軍団があざ笑い、バブルがはじけた後は、ひたすら縮小ちぢみ志向になり、まちづくりどころではない、ということとなりました。

阪神・淡路大震災/東日本大震災と「まちづくり」
そうした時代の流れの中で、阪神・淡路大震災は起こりました。「まちづくり」のスタートである1980年の地区計画制度から15年後、1995年1月のことでした。
まちの再生・復興まちづくりに向けて、これまでの都市計画行政ではにっちもさっちもいきません。それでも、これまでの都市計画法制の特例で対応しようという復旧・復興方針の中で、「二段階都市計画決定」という、言い訳じみたそれなりに巧妙な(既存システムを守りながら、市民まちづくりを組み込んでいく)方式を、行政も市民も納得していくことになったのです。
振り返って、1980年以降の「まちづくり」へのわが国での取り組みで、コミュニティカルテ(地域生活環境診断)から環境カルテ、CRP(Community Renewal Program)、ころがし方式、住宅地区更新事業・住環境整備モデル事業、などといったさまざまな当時のキーワードが思い出されます。法律的対応、事業的な組み立て、住民参加システムなど今から考えても、コンピュータやインターネットといった技術なしに、いろいろな検討がされたことを記憶しています。しかし、当時の思考外であった「主体」(地域マネジメントの担い手)へのアプローチ不足が、すべての敗因であったかもしれません。
そして、2011年3月に東日本大震災が起こり、かつてない巨大津波で三陸海岸は壊滅的な被害を受けました。この広範囲、全面的な被災は、福島原発事故も含めて、都市・地域のあり方、都市計画・まちづくりのあり方に、根底からの見直しを迫っています。やっと復興への道筋が5年経って見えてきた頃に、熊本でも大地震が起こりました(2016年4月)。
東日本大震災での復興構想会議などの論調や、熊本地震からの復興においても、被災地の復興に被災地域自らの市民まちづくりの重要性が指摘されています。これは阪神・淡路大震災復興において芽生えた市民まちづくりの結実であることは明白です。
さらに、そうした復興市民まちづくりは被災地内に止まらず、臨海・内陸の地域連携や都市・田園の相互交流の中で、新たな地域まちづくり像をつくりだして行くことが期待されます。というか、そうした地域構造の変革なしにわが国の未来はないことを、これらの災害復興は示しています。

時代の変化を見据える
1951年、サンフランシスコ講和条約署名(1952年発効)によって独立国家の体制が整った日本は、建築基準法を制定(1950)し、絶対的住宅不足に住宅金融公庫(1950)、公営住宅法(51)、日本住宅公団(55)という住宅建設供給の基本(公庫・公活・公団)となる三本柱が用意され、それらは住宅金融支援機構(2007)、住生活基本法(06)、UR都市再生機構(04)と姿を変え、ほぼ50年間にわたる役割を終えました。
都市総合計画における体制変化はもっと明確です。1962年に、全国総合開発計画(全総)が新産工特(新産業都市・工業整備特別地域)をひっさげ、拠点開発構想を高度経済成長の要と位置付けましたが、10年の計画期間を経ずして新たな大型プロジェクト構想をめざした新全総に改定されました(1969)。さらに高度成長から転換して定住構想をめざした三全総(1977)が、87年の四全総では交流ネットワーク構想へと目標を転換しました。98年の五全総はもはや全国総合開発という枠組みを捨て、21世紀の国土のグランドデザインをめざしました。そして、全総から50年を経ずに、2005年に国土形成計画へと姿を変えました。
こうして都市計画からまちづくりへと時代は変転してきていますが、古くなった新都市計画法は約50年を経て、時代の変化の中で、賞味期限切れの時を迎えています。

人口減少時代において
21世紀を迎え、わが国の都市計画をめぐる社会状況は多くの変化を見せ始めています。いわゆる世の中の変わり目です。最大の変化はわが国誕生以来、たぶん初めての人口減少社会の到来です。その影響が都市のありように直接現れてくるのは20~30年後と考えられていますが、それまでに団塊世代の高齢化に伴う人口の波」は確実に社会経済体制に変化を引き起こします。それは、わが国の1990年代後半以降の経済停滞の根本的な原因であるとされています(藻谷浩介『デフレの正体』角川書店、2010より)。
住宅建設供給も国土総合開発も、市街地再開発もニュータウン開発も、戦後からこれまですべての都市計画政策は人口増加、都市集中への対応が最大要因でした。それが2004年~2008年をピークにわが国は人口減少時代を迎え、これまでの都市計画が担ってきた役割は終わりました。都市の中心市街地と郊外住宅地の衰退は人口空洞化の最も端的な現れであり、すでに1960年代以降、都市に人口移動した結果の地方・田舎の「都市計画」時代の課題が、都市に始まったといえます。
日本の総人口は2008(平成20)年の1億2808万人(国勢調査及び人口動態統計の値を用いて算出した補正人口/総務省統計局)をピークにして減少をはじめています。国勢調査でも、2005(平成17)年1億2,777万人→2010(平成22)年1億2,806万人→2015(平成27)年1億2,710万人と推移しており、次頁の図のように今後急激な人口減少時代を迎えようとしています。(この図は、内閣府の「選択する未来」委員会(第2回140214)資料として事務局から提出された「人口動態について」の中の「長期的な人口の推移と将来推計」で、2050年には日本の総人口は1億人を割り込み、2060年には8,674万人高齢化率40%、2100年には5,000万人(中位推計)を下回るとしています。)
さらに、21世紀になって地球規模でのCO2増大による温暖化などの環境問題、持続可性を中心にした省エネルギー社会や自然災害からの減災社会といったことが、都市問題・都市計画の主要な課題となる時代になりました。

住民参加から市民主体のまちづくりへ
地域における都市計画事業や地域整備政策に、住民の意向を反映させる「住民参加のまちづくり」から、行政主導ではなく住民を中心にした地域市民がそれらに主体的に取り組む「市民主体のまちづくり」が、参加型の次の段階です。行政のほうからいえば「協働型のまちづくり」ということになります。
都市計画の時代の後を継ぐまちづくりの時代は、環境改善運動を進める主体は誰か、という時代でもあります。そのための法制化(まちづくり法)とともに、より広範な地域主体(CBO=Community Based Organization: 地域を基盤とする組織)とより多様な市民主体(まちづくりNPO=Non Profit Organization: 非営利な市民組織)による地域主権・市民主権のまちづくりの時代です。(小林郁雄)

伊藤 雅春 (著), 小林 郁雄 (著), 澤田 雅浩 (著), 野澤 千絵 (著), 真野 洋介 (著)
出版社 : 彰国社; 第二版 (2017/7/4) 、出典:出版社HP