まちづくりプロジェクトの教科書

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新しい時代の「まちづくり」を考える

本書は、これからの新しい時代に対応可能な課題解決型の「まちづくりプロジェクト」の立ち上げや、実践に必要なノウハウが提供されており、その改善や持続可能な発展にも活用できる方法論が紹介されています。また、第1章から読み進めても、必要な箇所のみ部分的に読んでも理解ができる構成となっています。

小地沢 将之 (著)
出版社 : 森北出版 (2020/5/28) 、出典:出版社HP

はじめに

近年、「まちづくり」という言葉を耳にする機会が多くなりました。その意味するところは、私たちそれぞれの解釈に委ねられている部分が大きく、ある人は「地域おこし」のようなニュアンスでとらえているでしょうし、またある人は「都市開発」、またある人は「暮らしやすさの向上」と考えているでしょう。「まちづくり」は、非常に多義的で、つかみどころのない言葉だといえます。
本書を読み進めるうえで、「まちづくり」をきちんと定義しておかなければいけません。本書では、「まちづくり」とは、地域課題の解決や生活の質の向上のための活動を住民らが主体的に行うこと、と定義します。
では、本書のタイトルでもある「まちづくりプロジェクト」についても考えてみましょう。たとえば、商店街が毎夏に感謝セールを開いているとしましょう。これは「まちづくりプロジェクト」でしょうか。毎夏の神社のお祭りであればどうでしょうか。
本書では、「まちづくりプロジェクト」とは、定常的なルーチンワークとは異なるテーマ型の活動、と定義します。先に挙げたセールやお祭りなどのように、定期的に繰り返し行う行事も、もちろん地域活性化への貢献度は大きいでしょう。しかし、定常化された行事は、前回までの取組みのコピーとして実施できてしまう側面もあるので、本書では、これらのルーチンワークと「まちづくりプロジェクト」は異なるものと考えておきます。ちなみに、ルーチンワークである行事を初めて行う場合は、プロジェクトとして着手することになることは覚えておきましょう。

まちづくりプロジェクトの歴史
いま、各地でテーマ型の「まちづくりプロジェクト」が盛んに行われています。より正確にいうとすれば、私たちの暮らしは「まちづくりプロジェクト」を行わなければならない状況に直面しています。その原点は、第二次世界大戦後からの復興に尽力した先人たちの数々の苦悩にあるでしょう。
戦時中、我が国のすべての集落に町内会や部落会がつくられました。これは「隣保団結」により、戦争を追認する「翼賛」体制を実現するための組織です。この時代の町内会は、戦争のための末端組織にすぎず、国から与えられた組織による与えられた活動であり、「まちづくりプロジェクト」とはほど遠いものです。
終戦後、GHQの指導により町内会は解散させられましたが、戦後復興の中心的な存在は町内会でした。たとえば農村部では、多くの人々が仕事を得るために職のある都市部へと移り住みました。中学を卒業すると都市部に移り住んで働く、という人生設計が主流となり、多くの若者が農村部から流出しました。農村部では残された人材でどのように集落や農地を維持するかが課題となりましたが、その際町内会はこれらの課題に向き合う組織として再結成されました。ある集落ではさらなる土地を開拓し、またある集落では、地域産業を生み出すために汗水を流したことでしょう。これは、まさに地域の課題を解決するために、住民が主体的に取り組んだ「まちづくりプロジェクト」です。
一方で、戦後の都市部では全国各地から新たな居住者が殺到しましたが、この際に親睦を深めながら近隣どうしの関係をつくり出したのも町内会でした。さらには、都市の復興や開発に伴い、都市計画道路や公園などが多数つくられ、これに伴って立退きを余儀なくされた人たちも少なくありませんが、これらへの反対運動や自治体との交渉の窓口となったのも町内会でした。これらも「まちづくりプロジェクト」であるといえるでしょう。
つまり、私たちはごく身近な町内会によって、地域課題の解決のための「まちづくりプロジェクト」が行われてきたことを目撃してきたといえます。残念なことに、最近の町内会では、広報紙の配布やごみ集積所の管理、防犯・防災の見回り活動などの「ルーチンワーク」に追われ、かつて盛んだった「まちづくりプロジェクト」の担い手としての姿は見えづらくなってきました。

人口減少時代とまちづくりプロジェクト
私たちの暮らしは「まちづくりプロジェクト」を行わなければならない状況に直面しているなかで、先ほど紹介した戦後の日本と現代の日本には異なる点もあります。かつての我が国には、画一的な価値観やライフスタイルが存在し、経済成長や国際社会の仲間入りといった社会全体の共通目標がありました。さらには先人を敬う儒教的な考えかたをもつ人が多く、トップダウンかつ全員参加で課題解決に取り組むことが可能でした。しかしながら現在の我が国は、多様な価値観やライフスタイル、所得格差が存在し、そして何よりも人口減少時代にすでに突入しており、意識・時間・労力などあらゆる面で、誰もが同じだけの力を発揮できなくなっています。現実問題としては、これが町内会の加入率の低下なども生んでおり、旧来型の地域活動は限界を迎えています。
これらの課題を解決するための新たな担い手としては、NPOなどの活躍もみられます。しかしながら、町内会などの地域コミュニティ組織とNPOの双方の活動は、なかなか融合していない現状にもあります。
我が国が直面している人口減少については、もう少し補足しておきます。
我が国の人口減少は、40年以上前から推計できており、そのこと自体は決して新しい問題ではありません。65歳以上の老年人口は横ばいであり、地域社会のなかでの高齢者の活躍のフィールドが拡大しつつあるのも好材料です。ここで問題なのは、15~64歳の生産年齢人口は2015年の7728万人から50年間で4529万人へと4割以上減少すると推計されていることです。これはすなわち、現在の経済活動や地域活動のスケールを、現在と同じ方法では維持できないということを意味しています。
加えて、我が国にとってこれほどの人口減少は、有史以来初めての出来事であることも重要です。先人たちがこれまで培ってきたまちづくりのノウハウは、右肩上がりの時代に築かれたものにすぎないため、私たちがいまだ経験したことのない極端な人口減少時代においては、そのノウハウさえ生かしきれない可能性があるのです。

これからのまちづくりのために
さて、いまを生きる私たちに課せられた使命は、地域課題の解決に私たち自身が取り組むことによって、少しでも心豊かな生活を送る社会を後世に受け継いでいくことにあります。私たちが人口減少下の社会においても私たち自身のもてる力を総動員できるような方法を手にすることによって、この社会の幸せを持続し、発展させ続けることができるはずです。これこそが、「まちづくり」の現代的な使命です。
しかし、残念なことに、このような使命感をもって「まちづくり」に新たに取り組もうとしても、その道しるべとなるような方法論は体系的に整理されていない現状にあります。
そこで本書では、これからの新しい時代に対応できる課題解決型の「まちづくりプロジェクト」の立上げや実践に必要なノウハウを体系的に提供し、その改善や持続可能な発展にも活用できる方法論を紹介します。

「まちづくりプロジェクト」の実践に取り組む皆さんにとって、本書はまちづくりプロジェクトを進めていくうえでの指針となるだけではなく、これまで十分な関係を構築できていなかった地域コミュニティ組織とNPOなどの相互の活動の関係づくり、あるいはこれらの組織と自治体との協働の方法のヒントにもなるでしょう。また、「まちづくりプロジェクト」の支援を通じて市民協働社会を実現する立場にある自治体にとっては、協働事業の立案・推進のための要点や助成金の審査のポイントが列挙されている指南書としても、本書を活用していただけるものと考えています。

小地沢 将之 (著)
出版社 : 森北出版 (2020/5/28) 、出典:出版社HP

本書の読みかた

まちづくりプロジェクトに初めて着手する読者には、第1章から第8章までを順に読み進めていただくと、まちづくりプロジェクトの立上げから終結までのプロセスが理解できます。また、部分的なスキルアップや知識の習得、取組みの改善を図ろうとする場合は、章ごとに読んでいただくこともできます。

第1章:まちづくりプロジェクトを理解する
第1章は、まちづくりプロジェクトの基礎を理解するために、「まちづくり」や「プロジェクト」がどのようなものなのかについて紹介しています。「まちづくりプロジェクト」が定常的なルーチンワークとはどのような点で異なるのか、理解することを目指します。

第2章~第8章:まちづくりプロジェクトの進めかた
第2章「まちづくりプロジェクトの始めかた」では、実際にまちづくり活動に着手する場合の視点をまとめています。プロジェクトの目標の設定方法などについて取り上げますが、目標が適切に設定できるようになると、活動時の軌道修正や活動後の評価も可能となるため、プロジェクトの全工程を通じて重要な知識となるでしょう。また、ひとたび始めたプロジェクトがどのような状況になると頓挫してしまうか、どうすればそれを防ぐことができるのかについても紹介します。
第3章では、「地域課題に向き合う」方法を取り上げています。多くのまちづくりプロジェクトは、特定の地域課題の解決に取り組んでいますが、私たちが暮らしている地域社会には、誰にも見向きされていないような地域課題も多くあります。このような小さな課題を含め、私たちの身の回りに存在している地域課題を網羅的に見渡す方法や、まちづくりプロジェクトに着手する際の戦略づくりの方法についても紹介します。
第4章は、「地域資源を取り入れる」方法です。第3章で紹介した課題解決型の取組みは、“マイナスの面をプラスに転化する”ものですが、この章では、生活の質の向上を目指す取組みの方法として、地域資源の活用に目を向けます。私たちの身の回りにある6種類の地域資源について紹介し、これらを上手に探索し、“さらなるプラスをもたらす”ために活用できる方法論を提示します。
第5章は、「まちづくりプロジェクトの企画書づくり」についてです。すべてのまちづくり活動は、地域社会との接点をもちながら私たちの暮らしを維持したり、地域社会の課題を解決したりするものです。加えて、第6章で紹介するような仲間集めや資金集めを実現するためには、まちづくりプロジェクトの企画の内容は多くの人に伝える必要があります。そこでこの章では、企画書の基本的な構成要素について紹介し、企画書づくりが容易に行えるようなノウハウの習得を目指します。このなかでは、まちづくりプロジェクトの企画書の例をいくつか示し、どれが優れた企画書であるか一緒に考えてみます。
第6章「まちづくりプロジェクトの仲間集め」では、プロジェクトの実施に不可欠な仲間集めや資金集めに加え、プロジェクトの広報についても紹介し、「伝えること」がプロジェクトの波及において重要であることを理解します。
さて、第7章は「まちづくりプロジェクトの準備と実践」です。第6章までのプロセスを丁寧に踏んでいれば、準備や実践は恐れることは何もありません。それでも、準備期間の途中で軌道修正の必要が生じることもあるので、その方法について紹介し、加えて実践中の注意事項なども確認していきます。
一連の実践が終わることによって、プロジェクトは終結します。第8章「まちづくりプロジェクトの終わりかた」では、事後評価のしかたに加え、次のプロジェクトの立上げに向けた視点を整理します。

第9章、第10章:まちづくりプロジェクトを発展させる
第9章の組織論、第10章の協働論については、本来であればそれぞれ1冊の学術書として成り立つトピックのなかから、要点をかいつまんで紹介しています。まちづくりプロジェクトの企画や実践のうえで、ぜひ参考にしていただきたいと思います。
第9章は、「まちづくりプロジェクトの実行組織」について紹介しています。プロジェクトの1期目を終えた段階で、2期目の企画や実践に向けて別の組織へと移行することもあります。それぞれの組織形態がプロジェクトに取り組むうえでの得手・不得手を知っておくことで、取組みの方針が変わっていくこともあるので、ここで紹介しておきます。
第10章の「市民協働によるまちづくりプロジェクト」では、他団体や自治体などとの協働の方法について理解することを目指します。対話による協働の場づくりや、近年主流になりつつある公募型の市民協働事業なども紹介して、プロジェクトの発展の方法について考えます。

なお、本書で扱うプロジェクトの進めかたの多くの部分は、プロジェクトマネジメントの国際的な知識体系の1つである「PMBOK®(ピンボック)」に準拠させています。しかし、PMBOK®の知識体系は理解のうえでも実践のうえでも難易度が高く、これからのまちづくりが目指す「もてる力の総動員」とはややかけ離れています。本書では必要に応じて、PMBOK®基準によるものとそうでないものを区別し、言及しながら、解説を進めていくこととします。

小地沢 将之 (著)
出版社 : 森北出版 (2020/5/28) 、出典:出版社HP

もくじ

はじめに
本書の読みかた

第1章 まちづくりプロジェクトとはどんなものか
1 まちづくりとは何か
2 プロジェクトとは何か

第2章 まちづくりプロジェクトの始めかた
1 目的・目標の明確化
2 目的の設定
3 目標の設定
4 目的・目標の妥当性
5 統合の仕組みづくり
6 プロジェクトの頓挫
7 プロジェクトの2つの始めかた

第3章 地域課題に向き合う
1 地域課題の探索
2 地域が抱える強みと弱み
3 地域課題の戦略化

第4章 地域資源を取り入れる
1 地域資源の特徴
2 地域資源の種類
3 地域資源の探しかた

第5章 企画書をつくる
1 企画書の役割
2 6W2H
3 テーマとミッション
4 わるい企画書とよい企画書
5 ステークホルダー・マネジメント

第6章 仲間を集める
1 仲間とは誰か
2 資金計画の立案
3 広報の意義と方法

第7章 プロジェクトの実践
1 進捗の管理
2 エスキースチェック
3 プロジェクトの実行
4 プロジェクトの記録作成と公開

第8章 プロジェクトの終わりかた
1 事後評価の意義
2 事後評価のチェックポイント
3 次の展開へ

第9章 まちづくりプロジェクトの実行組織
1 組織の違いによる得手不得手
2 町内会などの地縁組織の特徴
3 商店街などの組合組織の特徴
4 協議会などのネットワーク型組織の特徴
5 NPO法人や株式会社などの組織の特徴

第10章 市民協働によるまちづくりプロジェクト
1 市民協働の方法
2 協働しやすい住民組織づくり
3 協働しやすい行政機構づくり
4 対話の場の構築
5 プロポーザルによるまちづくり

おわりに
さくいん

小地沢 将之 (著)
出版社 : 森北出版 (2020/5/28) 、出典:出版社HP