【最新】起業を理解するおすすめ本 – 起業の知識、本質を学ぶ

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起業するために必要な知識やスキルは?

近年起業するハードルは低くなりつつありますが、起業は人生を左右する重要な決断の一つです。自分のやりたいことが実現できたり、大きな収入を得られる可能性があったり多くのメリットがある反面で、リスクもあります。そんな起業をして成功を得るには、正しい知識を身につけることが必要です。ここでは、すぐに実践できるフレームワークやツールなど起業について学ぶのにおすすめの本をご紹介します。

ランキングも確認する
出典:出版社HP

起業大全――スタートアップを科学する9つのフレームワーク

スタートアップのための実践知

起業だけでなく、セールスの仕方など、ビジネスの基本なところまで幅広くカバーされています。これから起業する人は、これから起きる落とし穴の対策とロードマップ作成に,もう起業して事業をしている人は、答え合わせと足りないことの確認に使うことをお勧めします。

田所 雅之 (著)
出版社 : ダイヤモンド社; 第1版 (2020/7/29) 、出典:出版社HP

はじめに

起業家が事業家へと進化するために必要な実践知をまとめた書

おかげさまで前著『起業の科学』(日経BP)は、起業家や大手企業の新規事業部門立ち上げ担当者など多くの方にお読みいただいた。同書は、起業家が市場で顧客から支持される製品やサービスを作る(PMF)までに必要な知識をまとめたものだ。

PMF Product Market Fit:市場で顧客から支持される製品やサービスを作ること

書籍発売から2年以上が経過し、その間スタートアップ、社内起業家、自治体関係者など数千名以上に直接会う機会があった。また、数千に及ぶ事業やあらゆるスタートアップ経営者のメンタリングやアドバイス、評価等を行ってきた。
現在、国内のスタートアップの資金調達額を見ると、2019年に4462億円となっている(図表0-01)。2010年に705億円だったことを考えると、実に約6.3倍に増えているのだ。スタートアップを目指す人はかつてない勢いで急増していることを肌で感じている。

図表0-01スタートアップの資金調達額は2010年と比べて約6.3倍に

出典:INITIAL「Japan Startup Finance 2019年国内スタートアップ資金調達動向」より

しかし、市場に資金が潤沢になり、資金調達できるスタートアップが増えた一方で、IPO(株式公開)までブレイクスルーできる企業は「ほんの一握りである」のが現状だ。日本では、評価額が10億ドル以上ある未上場企業、いわゆるユニコーン企業は、プリファードネットワークス/スマートニュース/TBM/リキッドグループ等の5社程度しかない1。

1)https://media.startup-db.com/research/marketcap-ranking-2019122019年12月時点

アメリカは100社以上、隣の中国は50社以上もあることを考えると、その差は歴然としている。GDPでは中国に抜かれてしまって、世界3位になったが、それでも日本は経済大国であることには変わりない。また、私は、ユニコーンというのは、ただ単なる「時価総額が高い」未上場スタートアップとは考えていない。ユニコーンとは、「産業を生み出し、明日の世界を創造する担い手」として考えている。
2000年代にGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)が勃興した。4社足して、300兆円に迫る時価総額は凄まじいが、本質は、彼ら4社がもし、この瞬間世の中からいなくなると、世界全体が大きく後退するということだろう。スマホもなく、検索エンジンがない、人々は簡単につながることができない、簡単に買い物することもできない、好きな動画を観ることもできない世界がどれほど不便かを想像してみてほしい。

なぜ、日本ではなかなかユニコーン企業が出ないのか?

なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出てこないのか?この疑問こそが、今回、本書の執筆に至った動機だ。結論から先に言えば、0から1を作る「起業家」は増えた。しかし、1を100にする(事業を成長軌道に乗せ大きくする)「事業家」が日本には圧倒的に少ないということだ(図表0-02)。

図表0-02日本には事業家が圧倒的に不足している

アメリカは一度売却や上場を果たした起業家がシリアルアントレプレナーとしてもう一度起業するケースが多い。つまり、「ドラゴンクエストのようなロールプレイングゲーム」に起業をたとえると、一回クリアした人たちがたくさんいる。その人たちは、起業してからスケールしてEXIT(IPOもしくは事業売却)するまでの「攻略本」を持ってプレイをしているようなものだ。日本だと典型的な例はメルカリだろう。創業メンバーである山田進太郎氏は、ウノウをZynga(ジンガ)に売却する経験を持ち、取締役会長の小泉文明氏は、ミクシィのCFOとして、上場企業の経営を経験している。
この「一回ドラクエをクリアした感の経験」がメルカリの別格の成長を支えたと言える。会社を売却して新たにスタートアップを始める「2周目」「3周目」の起業家も徐々には増えてきたが、まだその数は圧倒的に少ない。

「起業家」が「事業家」になるためには、自らを進化させる必要がある

本書『起業大全』を書いたのは、PMFを達成した起業家が、その先大きく事業をスケール(成長)させるために必要になる知見をまとめたかったからだ(拙著『起業の科学』を書いた理由は、スタートアップ起業家として最も重要なマイルストーンである「PMF」を達成するためのプロセスを体系化するためだった)。
経営に必要なノウハウを学ぶための従来型の知識体系に「MBA」や「中小企業診断士」がある。しかし、これらはスタートアップ型事業や2020年代の文脈において最適化されているとは言えない。つまり、内容が古いのだ。ハッキリ言ってそこで得た知識が、そのまま実務で役立つとは考えにくい(私自身、現在、関西学院大学大学院MBA課程の客員教授をやっているが、他の教員の方々と話していても、皆さん同じ実感を持っている)。
ならば、最新のアップデートした内容のテキストを自分で作ってしまおうと思い立ち、4年前から少しずつ書き進めた。数千というスタートアップや企業内の新規事業への実践的事業のアドバイスや上場企業の経営陣何百人もとの交流や対話を通して、1000冊以上の書籍を読破して、1万枚以上のスライドを作った。その1万枚のスライドのエッセンスの部分をこの書籍に集約した。

事業家(CXO)に必要なのは俯瞰力、大局観、ストーリー設計力、横断的知識「スタートアップの成功は、経営陣が全ての鍵を握っている」というのが本書で伝えたい結論だ。
さらにこの本の目的になぞらえて言うと、
「経営陣が起業家から事業家(CXO)になれるかが成功のキーになる」
ということだ(本書では、事業家をCXOという言葉で以下同義語で使用する)。
ここで言っている事業家/CXOの定義について説明しよう。
CXOのCはChief(長やリーダー)、OはOfficer(役員)を表す。真ん中のXは、それぞれの専門性に応じた職能を指す。例えば、代表的なものにCEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)やCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)、CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)やCTO(Chief Technical Officer:最高技術責任者)などがある。

図表0-03 CXO人材とは何か

従来なら、CTO(最高技術責任者)は「製品開発」だけ、CFO(最高財務責任者)は「ファイナンス」だけを見て部分最適化ができれば、自らの職務を果たしたことになるだろう。
しかし、私が本書で提唱する「スタートアップCXO」になる人材は、この「専門性」だけでは不十分だ(各自の専門性は必要条件だが、十分条件ではないからだ)。
外部環境や内部環境が激しく変わるスタートアップにおいては、各機能に「部分最適化」された意思決定やディレクションしかできないのは「エセCXO」でしかない。
「エセCXO」は組織を間違った方向に導いてしまう。本書で明らかにしていく「スタートアップCXO」は部署やファンクションをまたいで、俯瞰的かつ大局的に事業を把握し、必要なリソースを配分し、かつディレクションする力を持つ人材だ。
さらに各要素を理解するだけでなく、それぞれを有機的に結合し、「自社の唯一無二のストーリー」を描けることが理想だ。これを私は「ストーリー設計力」と呼んでいる。
そして、俯瞰力、大局観、ストーリー設計力に加えて、経営に関する重要な要因の本質を理解し、アクションに落とし込むことができる「横断的知識」も重要になる。この「俯瞰力」「大局観」「ストーリー設計力」「横断的知識」の4つを持つことが、スタートアップを成長させるCXOには、必要不可欠なケイパビリティ(能力)と考えている。
本書では、その能力を体系的に構造化して解説していく。留意点としては、本書で紹介・解説する視点や知識体系は従来型企業で活躍するCXOのそれと大きく異なるということだ。
すでにある程度できあがった組織や企業において事業を再生させたり、もう一度成長軸に乗せたりする従来型のCXOの価値は希少なものである。しかし、スタートアップを成長させる文脈においては、従来型のCXOは、必ずしもフィットしないのが事実だ。
本書は、現在スタートアップで経営幹部にいるメンバーだけのものではない。読者として想定しているのは、以下のような人たちだ。

・広い知見や最新のビジネス知識を身につけてレベルアップしたいビジネスパーソン
・今後、起業を考えている人
・すでに起業している人、さらには、今後スケールして、ユニコーン企業になることにチャレンジしたい人
・スタートアップで働いているメンバー

特にスタートアップで働いているメンバーには、ぜひ、読んでいただきたい。優れた組織に共通する特徴として、メンバーが一つないし二つ上の役職の目線を持っているということが言える(つまり、担当者ならマネジャー、マネジャーなら役員、役員なら代表取締役)。
現時点で、経営からは遠いポジションにいたとしても、本書を通じて、「経営陣もしくは代表取締役だったら、自分はどう意思決定をするか」という問いを自らに投げかけていただきたい。

0→1の起業家に必要なのは「戦略的泥臭さ」

前著『起業の科学』で目指したのは、「PMFの達成」だった。
「スタートアップの生死を分けるのは、PMFを達成できるかできないかだ」と、アメリカの有力ベンチャー・キャピタリストのマーク・アンドリーセンも指摘している。
どんなに優れた製品やサービスを生み出しても、市場に受け入れられなければ成長はできない。私の感覚では、日本のスタートアップでPMFを達成した企業は10%にも満たないのではないだろうか。
PMFを目指す起業家に必要な資質は何かを一言で表現すると、「戦略的泥臭さ」だと考えている。つまり、市場を選択し、PMFできるビジネスモデルを選択し、ソリューションを絞り込んで展開するという高い戦略性が求められる。『起業の科学』では「何をやるか」と同時に「何をやらないか」、まず「無駄な戦を略す」ための戦略性についても解説した(本書の「戦略」でもこの点については改めて説明する)。
一方で、戦略が決まれば、何がなんでもPMFを目指していく「泥臭さ」が求められる。顧客の下に出向いて、何が本当に欲しいものかを徹底的にヒアリングしたり、自らセールスを行うこと。またセールスだけではなく、顧客に価値を提供するために、自ら製品やサービスを届けることもある。戦略性と泥臭さを両方持ち合わせた「戦略的泥臭さ」が、PMFに不可欠な起業家の態度でありスタンスだ。
「戦略的泥臭さ」で成功したシリコンバレーの事例を紹介しよう。2019年時点で、時価総額が350億ドルを超えた世界最大手のフィンテック企業であるStripe(ストライプ)をご存じだろうか。インターネットビジネス向けにオンライン決済サービスを提供する彼らは、2009年に立ち上がったときに、ユーザーを営業して獲得することに非常に熱心に動いた。ストライプの創業者であるコリソン兄弟は、その事業ポテンシャルを見出されて、シリコンバレー最強のアクセラレータであるYcombinator(Yコンビネータ:YC)に採択された。
コリソン兄弟は、まさに、「戦略的泥臭さ」を発揮してPMFを達成した。ストライプのようなフィンテックサービスにとって、YC卒業生は、アーリーアダプター(初期採用者)探しに最適なコミュニティだった(YCの卒業生は、起業家であり、彼らは常に最適な決済処理サービスを探していた)。
共同創業者のパトリック・コリソンとジョン・コリソンは、そうしたYC卒業のユーザー一人ひとりに対して丁寧に仕事を行った。電話をかけて、ストライプを試してみることを了承した人がいたら、リンクを含んだメールを送るのではなく、その顧客の下に自ら出向きストライプのソフトを自分たちでインストールしたのだ。このテクニックは、彼らの名にちなんで「コリソン・インストール」と呼ばれている。
・YC卒業生というアーリーアダプターをターゲットにする「戦略性」
・自ら現場に出向きソフトをインストールする「泥臭さ」
ストライプは「戦略的泥臭さ」を体現してPMFを達成した。「自分たちにとっての、コリソン・インストールは何か?」、これが、PMF前のスタートアップにとって、最も重要な問いの一つである。

会社が成長するにつれて、組織には様々な問題が発生する

PMFを達成した後のゲーム(あえてゲームとここでは表現する)は、PMF達成前のゲームとは大きく異なる。PMFを達成するまでは、関わるステークホルダーは、顧客、経営メンバー、投資家と範囲が限定されている。なので、業務請負に関して明文化したり、方針を明確にしなくても、少数の経営陣とメンバーだけでどうにか仕事は回っていく。
PMF達成前のステージにおいては、そもそもリソース(ヒト・モノ・カネ)は限られているので、それをどのように配分して活用するのかという観点はあまり必要ない。なぜなら、経営チームの時間やスキルこそが最大のリソースなので、寝る間も惜しんで働き自己研鑽して、ひたすらPMFを目指すという方針が支配的になるからだ。
しかし、PMFを達成し、会社が成長して大きくなるにつれ、組織のメンバーも増えてくる。そうすると、組織のルール不足やマネジメント不足など、様々な問題(リスク)が発生してくる。会社に勢いがついて成長期に入ると、息つく間もなく、やるべきことが次から次へと出てくるのだ。
したがってPMF達成のタイミングで、起業家は自らを自己分析して事業家(CXO)に変身・進化するよう努力する必要がある。なぜなら、起業家から事業家(CXO)に変身できないことによって、起業家自身が事業にとって最大のボトルネックになってしまうからだ。
あなたは、下記の問いに答えることができるだろうか?

・PMF後にミッション・ビジョン・バリューをどう磨いていくのか?
・PMF後の事業をスケールさせる戦略やロードマップは、どのように立てるのか?
・成長に寄与する人材を、どう採用し、定着させるか?
・全体の戦略から、各個別の戦術に落とし込み、戦術を実行するための行動マネジメントをどうするか?
・顧客獲得のプロセスをどう最適化するのか?
・顧客獲得後、継続させるためのカスタマーサクセスの考え方は?
・ユーザー・エクスペリエンス(UX=ユーザー体験)ベースの製品開発をどう実装するのか?
・ディフェンシビリティ・アセット(Defensibility Asset=持続的競合優位性資産)の蓄積をいかに考えるか?
・上場するまでのファイナンスについて、そのエクイティストーリーをどう作るのか?
・それぞれの資金調達のフェーズで、どうやって有利に投資家と交渉を進めていくのか?
・人員増加に伴う、オペレーションの属人化/陳腐化、見えないところのボトルネック発生解消にどう対応するか?
・どのような事業ポートフォリオを組めば、全体最適が図れるか?
・バリューチェーンの上流/下流もしくは横にいて、市場シェアを取っている競合企業を買収/出資/業務提携して、さらなる成長軌道を描けないか?

PMFするまでは、顧客と対話をして、良いプロダクトを作ることだけに没頭すればよかった。しかし、PMF後は、ステークホルダーが一気に増えて、カバーすることや意思決定することがとても多くなる。
また、様々な意思決定をするだけではなく、「なぜ、その意思決定をしたのか?」と、意思決定に対する説明責任も果たす必要が出てくるのだ。
当然、CXOとて、一人の人間なので、経営に関するあらゆる領域の専門家になるのは不可能に近い。しかし、ユニコーンを目指すスタートアップCXOならば、最低限、専門家と対話/対峙ができるまでレベルアップする必要がある。
さらに欲を言えば、そうした専門家にディレクションできるまでに自分のレベルを上げてほしい。本書の目的は、まさにそこにある。スタートアップ人材が身につけるべき知見や知識体系を包括的に解説していく。

「経営者はリソースフルであるべきだ」

Amazon(アマゾン)の創業者であるジェフ・ベゾスは、こう述べている。私も全く同感で、経営者は経営に関するあらゆる側面に対して、熟達(マスタリー)が求められるということだ。かりに現時点で、熟達できていなくても、経営者自身は常に自己研鑽し「経営者として常にレベルアップしていく」という姿勢が重要になる。
本書では経営を要素に分けて各章で解説していく。
ただ、留意点として、本書で紹介するフレームワークや知識体系は、それぞれ独立したものでなく有機的に結合する、ということだ。一見するとバラバラに見える経営の要素は、図表0-04のように結合できる。
図の右側は、バランス・スコアカードを参考に私がオリジナルで作成したスタートアップ・バランス・スコアカード(StartupBSC)というフレームワークである。
バランス・スコアカードというフレームワークを聞いたことはあるだろうか?ハーバード・ビジネス・スクール教授のロバート・S・キャプランと著名なコンサルタントであるデビッド・ノートンが1992年に発表した経営システムのフレームワークである。
バランス・スコアカードは、戦略経営のためのマネジメントシステムで財務数値に表される業績だけではなく、財務以外の経営状況や経営品質から経営を評価し、バランスのとれた業績評価を行うための手法である。従来のバランス・スコアカード(図表0-04の左側)は、財務の視点、顧客の視点、内部プロセスの視点、学習と成長の視点で成り立っており、事業をまさに“バランス良く”マネジメントするために用いられるフレームワークである。

図表0-04スタートアップ・バランス・スコアカードのフレームワーク

本書を執筆するに当たって、従来のバランス・スコアカードに私なりの新たな視点を加えて拡張したのがスタートアップ・バランス・スコアカードだ。新しい産業を創造していくスタートアップにとって特に重要になる要素は、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)、戦略(Strategy)、人的資源(Human Re-sources)、オペレーショナル・エクセレンス(Operational Excellence)、顧客体験(User Experience: UX)、マーケティング(Marketing)、セールス(Sales)、カスタマーサクセス(Customer Success)、ファイナンス(Finance)の9つがあげられる。
本書では、それぞれの章ごとで、これらの要素について解説をしていく(当然、一冊の本では、カバーしきれない部分もあるので、それぞれの要素の深掘りについては、稿を改めたい)。

田所 雅之 (著)
出版社 : ダイヤモンド社; 第1版 (2020/7/29) 、出典:出版社HP

この本の実践的な使い方

本書は、『起業の科学』と同様に実務書だ。経営や業務執行の際、そのかたわらに起き、必要な場面に応じて、読み返していただきたい。
例えば、マーケティングの課題にぶつかったときは「マーケティング」の章、人事の課題に直面したときは「人的資源」の章を開くという具合だ。
スタートアップ・バランス・スコアカードはアカデミックなフレームワークでなく、実践で活用するものと認識いただきたい。その特徴としては、
・これらの要素は、全て自分たちで手直しできるものであること
・また論点を要素分解することにより、CSFとKPIの設定ができること
・一枚で、全体を見渡せること
・因果関係になっているので、どういうレバレッジをかければよいか、そのベンチマーキングになること

CSF Critical Success Factor:重要成功要因
KPI Key Performance Indicat-or:重要業績評価指標

各要素の具体的な実装方法として、詳細は、それぞれの章に委ねていくが、大まかにここで説明しよう。
1 各章で、要素ごとの説明やフレームワークや事例を説明する(各章でそれぞれの要素におけるフェーズごとのCSF/KPIの提示を行う)
2 「MVV」の章を読んで、MVVを立ててみる(KPIを作る)
3 CXOは自社のフェーズを鑑みて、CSF/KPIは何かの仮説を立てる
4 要素を組み合わせてみたスタートアップ・バランス・スコアカード全体を俯瞰してみる
5 1年後、2年後、3年後、N年後(上場時)にそれぞれがどういう状態であるべきか状態ゴールを立てる
6 状態ゴールに向けて課題をあぶり出して、実行/運用をする
7 定期的に計測をして、どれくらい達成できたのか改善案などを検証する(3に戻る)
現在の自社の状態を、スタートアップ・バランス・スコアカードに当てはめて、プロットしてみて、「課題のあぶり出し」やあるべき「状態ゴール」を可視化・言語化するのに使っていただきたい。
また、成長するためのリソース配分や資金用途を明確にし、説明責任を果たしたり、ステークホルダーの納得度を高めたり、エクイティストーリー/ビジネスロードマップを構築するときに活用いただきたい(図表0-05を参照)。

図表0-05スタートアップ・バランス・スコアカードを経営に活かす

スタートアップの使命は、絶え間なく変化する外部環境の中で、売上と利益を上げて継続的に企業価値を高めていくことである。
だが、それはあくまで結果指標であり、その先行指標やキードライバーになる要素を理解し、ディレクションすることが「スタートアップCXO」に求められる。
本書を通じて、CXO同士だけでなくCXOとそのステークホルダー(投資家やチームメンバー)が共通言語を持ち、自分たちの事業の成長を志してほしい。
本書の読み方としては、順を追って読んでいただいてもよいし、自社の中で経営課題があると思う要素をピックアップして、読んでいただいてもよい。『起業の科学』は、多くの起業家から「デスクの上に置いて、毎日開いて読んだ」というフィードバックをいただいた。本書も、ぜひ、そのように使い倒していただきたい。

2020年夏
田所雅之

本書の提供する価値

1 スタートアップ経営に必要な要素の理解を理論と事例を通じて深めることができる。
2 理解を深めるだけでなく、実践で使えるフレームワーク、コンセプト、ツールを各要素で提供する。
3 各章の最後のCSFチェックリスト、本書の最後にあるステージごとに問うべき質問リストを活用することで、自社の現在のフェーズにおいて、何に注力するべきかを確認できる。
4 経営者だけでなく、経営メンバー(チームメンバー)の間で本書の内容を共有し、活用することで、社内の共通言語を作り、共通理解を深めることができる。結果として意思決定の質とスピードが高まるだけでなく、メンバー/ステークホルダーの納得性を高めることができる。

田所 雅之 (著)
出版社 : ダイヤモンド社; 第1版 (2020/7/29) 、出典:出版社HP

目次

起業大全

はじめに 起業家が事業家へと進化するために必要な実践知をまとめた書
なぜ、日本ではなかなかユニコーン企業が出ないのか?
「起業家」が「事業家」になるためには、自らを進化させる必要がある
事業家(CXO)に必要なのは俯瞰力、大局観、ストーリー設計力、横断的知識
0→1の起業家に必要なのは「戦略的泥臭さ」
会社が成長するにつれて、組織には様々な問題が発生する
「経営者はリソースフルであるべきだ」
この本の実践的な使い方

CHAPTER1 ミッション・ビジョン・バリュー MISSION, VISION, VALUE
1 ミッション・ビジョン・バリューが、なぜ大事なのか
MVV は顧客に対する独自の価値 提 案 (Unique Value Proposition)からなる
WHY から始めよ
WHY を起点にする
WHY を起点とした WHY-HOW-WHAT の対話とシナジーが重要
MVV を全体感で捉える
2 ミッション・ビジョン・バリューは、実務において最強の武器に なる
1. 意思決定の質とスピードが高まる
2. 持続的競合優位性(ディフェンシビリティ)が高まる
3. 人材採用力が高まる
4. 組織を一枚岩にする
5. プロダクトの訴求力が高まる
秀逸なミッション、ビジョンは継承される
ミッション、ビジョンは「進化」する
3 ミッション・ビジョン・バリューを策定する
良いミッションの5つの切り口
ビジョン
理想の未来から逆算してビジョンを策定する
良いビジョンの5つの基準
バリュー
地球上で最も顧客中心の会社
グーグルが掲げる 10 の事実
フェイスブックのコアバリュー
アマゾンがザッポスを 12 億ドルで買収した理由
自分たちの MVV を体現/言語化した「クレド」を考える
CHAPTER1 のまとめ

CHAPTER2 戦略 STRATEGY
1 事業の実現可能性、成長性、競合優位性を築けるか?
フィージビリティ(PMF の実現可能性)
2 自社事業の「センターピン」を見つける
なぜ、アマゾンは書籍をインターネットで売るビジネスから始め たのか?
資本主義で勝つために必要なことは「競争をしない」「競争を避 ける」
3 どの市場にどう向かうかを論理的/俯瞰的に整理するフレーム ワーク
多くのスタートアップが初期市場の選択で躓いてしまう
市場規模を考える
スタートアップの本質は PFMF を追求すること
PEST 分析
4 Platform Technology Fit を考えているか?
5~10 年後を想像しながら1~2年後の市場についても考える
代替ソリューションが存在しないかを検証する
戦略のない意思決定がスタートアップをダメにする
5 どのビジネスモデルから始めると PMF しやすいか?
プラットフォーム型事業はスケーラビリティは高いが PMF の難 度が高い
スケーラビリティ(Scalability: スケールできるか)
ハイタッチから始めて徐々にシステム化、標準化する
プラットフォームは限定した市場から獲得する
6 持続的競合優位性を築けるか?
スタートアップの価値を決める要素とは
7 持続的競合優位性資産がスタートアップの運命を決める
なぜ、テスラは時価総額で世界第1位になれたのか
CHAPTER2 のまとめ
COLUMN 持続的競合優位性としてのテクノロジーの秀逸性とイノ ベーションモデル

CHAPTER3 人的資源 HUMAN RESOURCES
1 優秀な人材を採用し、定着させる仕組みを作る
起業家から事業家 (CXO)になるために必要な「人材マネジメ ント力」
スタートアップのフェーズ感と人的資源の関係
サイドプロジェクトで始める
2 初期に必要な人材を見極める
機能によって組織を厳密に分断しない
人材の4タイプ
経営陣ストーリーの言語化/自己マスタリー
自己認識力を高める方法
経営チームの組成
自社の魅力/課題を言語化
起業家から事業家 (CXO)に自己変革する
3 「自己認識力」「オープンネス」を高めるストーリーブック
必要な人材の解像度が高まり採用力が高まる
ストーリーブックの具体例
4 採用力を高める方法
人材戦略方針シートを作る
優秀な人材、自社にフィットした人材を採用できるか
現状のバリューチェーンの可視化と採るべき人材のペルソナ構築
採用ファネルの設計と運用
採用ファネル設計により採用候補者体験が向上できるか
ダイレクトリクルーティングのメリットとデメリット
エージェント活用のメリットとデメリット
エージェント活用の効率性/採用率を高めるコツ
5 採用の勝ち筋を見つけていく
常に改善する
面接は「見極め」と「魅力づけ」の場である
面接質問のキラークエスチョン事例
内定の極意
6 人事施策を実装する
エンプロイーサクセスをカスタマーサクセスにする
エンプロイーエクスペリエンスを考慮する
エンプロイージャーニーマップの作り方
7 4ループ学習システムで PDCA を回していく
Evaluation / Laugh / Respect / Learn を意識する
週単位で PDCA を回す
1 on 1 ミーティングを実施する
1 on 1 ミーティングを業務でやることのメリット
8 会社の戦略ビジョンと OKR を連携させる
OKR の設定
MIV/戦略と個人のベクトルを合わせる
CHAPTER3 のまとめ

CHAPTER4 オペレーショナル・エクセレンス OPERATIONAL EXCELLENCE
1 標準化されたプロセスで競合に差をつける
勝ち続ける仕組みをいかに作るか?
OE が求められるのは、PMF 後
標準化やオペレーションの秀逸性は大きな持続的競合優位性になる
細かい PDCA を回して業務を見直していく
全社的/横断的な業務改善を行う
業務改善のステップを理解する
業務を見える化する
業務の課題を明らかにする
ECRS + SK を実行する
3 標準化/マニュアル化の進め方
マニュアルは WHAT、WHY、WHEN、WHO、HOW の切り口 でまとめる
しばらくは業務の負荷をかけてから施策を考える
人材採用
外注化のメリット
業務のツール化/自動化を行う
CHAPTER4 のまとめ

CHAPTER5 ユーザーエクスペリエンス USER EXPERIENCE
1 なぜ、高いユーザーエクスペリエンスが求められるようになった のか
プロダクトは UX の一部に組み込まれた
モノからコトへ人生に寄り添い/顧客の成功へ
良い UX のキーワードは「コト」「トキ」
顧客一人ひとりの人生に寄り添う
エアビーアンドビーが行った UX の思考実験 11 – スター・エクス ペリエンス
顧客が欲しいのは、ドリルではなく穴である
ユーザーサイドがプロダクトの価値を決める時代へ
UX デザインを企業活動の中心に置く
2 UX エンゲージメントモデルとは
利用前 UX プロダクトと出会い興味を抱かせる
利用中 UX ユーザーの期待に応え、負担を減らし、目的を達成す
利用後 UX ユーザーをおもてなしし、再利用のきっかけを作る
利用全体 UX ユーザーが熟達し、なりたい自分になる
パーソナライゼーションとエンターテインメントの融合
3 2020 年代に求められる UX とは
ストレスのない UX を提供するアマゾンゴー
UX 主導の開発を回す
CHAPTER5 のまとめ

CHAPTER6 マーケティング MARKETING
1 優れたマーケティングはセールスを不要にする
そもそもマーケティングとは
マーケティングの目的を知る
2 N1 分析を通じて PCF (Product Channel Fit) を目指す
インタビュー相手をよく知る
インタビュー相手の弟子になる
インタビュー相手の非言語コミュニケーションに注目する
インタビューオーナーになる
インタビュー相手の話を分析する
3 マーケティング施策オプションを理解する
ペイドメディア
オウンドメディア
コミュニティマーケティングを活用する
うまく運用する4つのポイント
起業家はその業界のオーソリティになる覚悟をもつ
アーンドメディア
Love me vs. Buy me
4 アーンドメディア戦略、PR 戦略を考える
「報道連鎖」を仕掛ける
IMPAKT でネタを探す
自社のメディアリストを作る
シェアドメディア
5 インフルエンサーマーケティングを活用する
プレマーケティング
検索エンジン
SNS 等でシェアされるコンテンツを打ち出していく
LP(ランディングページ)を設計する
インタビューの際に顧客に聞いておくべき質問リスト
6 マーケティングファネルを設計し、PDCA を回していく
ファネルを設計し、マーケティングのストーリーを作る
マーケティングは 4P から 4E の時代へ
7 データ・ドリブンでマーケティングを運用する
1. 認知度/ニーズの顕在度/緊急性を分析して現状を把握する
2. 単価の安い商材の「常連」になるかを考える RFM 分析
データ・ドリブンマーケティング
CHAPTER6 のまとめ

CHAPTER7 セールス SALES
1 なぜ、セールスが必要なのか?
初期のスタートアップはトップセールスが当たり前
B2B の商談は5つのステージに分けられる
商談ステージごとの状態を明らかにする
「詰める」マネジメントから「読み」のマネジメントへ
2 インサイドセールスの仕組みを立ち上げる
インサイドセールスとは
インサイドセールスを立ち上げるときの留意点
リードのナーチャリングを理解する
インサイドセールスは全体のスループットの調整弁になる
インサイドセールスを実装するには
マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスは分 業体制で
CHAPTER7 のまとめ

CHAPTER8 カスタマーサクセス CUSTOMER SUCCESS
1 「顧客の成功」「顧客の成果」が会社の成長を後押しする
初回の購入は単なる「関係の始まり」に過ぎない
旧来型の定期購買とサブスクリプションの違いとは
2 カスタマーサクセスを実装する
「顧客の成功」を会社の共通言語にする
カスタマーサクセスマップを作る
カスタマーサクセスのプロセスを理解する
ハイタッチ/ロータッチオンボーディング
テックタッチオンボーディングを実装する
注目されている Product Led Growth
アダプション
サクセス/エクスパンション
3 究極のカスタマーサクセス「チェンジマネジメント」
データ・ドリブンでカスタマーサクセスを運用する
解約した理由(継続しない理由)を明らかにする
4 カスタマーサクセスを標準化する
カスタマーサクセスは会社のハブを目指す
カスタマーサクセスチームとセールスチームは密に連携する
カスタマーサクセスチームを進化させる
CHAPTER8のまとめ

CHAPTER9 ファイナンス FINANCE
1 資本政策を設計し、出口戦略に至るエクイティストーリーを作れ るか?
スタートアップのフェーズを理解する
キャッシュエンジンを確保するところから始める
2 初期の資本政策に細心の注意を払う
Pre-Seed 期の株についての考え方
安易に外部に株を渡さない
会社設立時の留意点
EXIT(IPO と M&A)について理解する
上場企業の創業者は公人になることを覚悟しよう
「悪魔との契約」に注意
M&A のメリットと留意点
3 資本政策を検討する
資本政策表(Cap-table)を作る
持ち株のバランスを考慮する
経営権を維持する
資金調達を理解する
プレマネー (Pre-money)とポストマネー (Post-money)
バリュエーションは高いほどいいのか?
4 お金を集める方法を知る
資金調達の方法―普通株
資金調達の方法―コンバーチブルノート
資金調達の方法―種類株式(優先株式)
優先的残余財産請求権の設定
優先的残余財産の意味
優先的剰余金配当請求権について
希薄化防止条項を検討する
資金調達の方法―新株予約権
資金調達を開始する
5 資金調達する相手を知る
エンジェル投資家とは?
VC の活動内容は?
投資家を見極める
避けるべき投資家とは
投資家と交渉するポイントを押さえる
投資契約を締結する
CHAPTER9 のまとめ

FINAL CHAPTER 自分たちだけのストーリーが究極の競合優位性になる
アマゾンのストーリーの進化を検証する
自分たちの唯一無二のストーリーを作ることができるか
唯一無二のストーリーを言語化/更新していく

おわりに

起業家から事業家へとレベルアップするための 300 の質問

田所 雅之 (著)
出版社 : ダイヤモンド社; 第1版 (2020/7/29) 、出典:出版社HP

STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか (NewsPicksパブリッシング)

成功の原則がわかる

これから起業しようと考えている人や、すでに起業している人に向けて書かれた本です。とても実践的で役に立つ、素晴らしい本です。アイデアの発見、仲間集め、プロダクト開発、ユーザー獲得、資金調達などテーマごとにまとめられており、それぞれの章は前半は起業家が抑えておくべき知識・ノウハウなどの解説パート、後半は起業家へのインタビューベースの事例パートになっています。

堀新一郎 (著) , 琴坂将広 (著) , 井上大智 (著)
出版社 : ニューズピックス (2020/5/27) 、出典:出版社HP

はじめに スタートアップ業界の内側に閉じたノウハウを開放する

「どうやったら起業できますか?」
最近そう質問してくる学生が増えた。起業がキャリアの選択肢の1つとしてメジャーになってきたからだろう。
厳しい言い方をすれば、「起業したいのなら誰かに教わるのではなく、自分で調べて学びなさい」と回答するのが正しい。起業は人に言われてするものではないし、受身な発想で成功するものでもないからだ。
しかし、冷静に考えてみると、たしかに会社設立・登記のハウツー本は存在するものの、どうやったら成功にたどり着けるか、詳しく解説している本は見たことがない。
本屋に行っても、Microsoft、Apple、FacebookやAmazonといった米国企業の創業記はあるものの、国も次元も違い自分ごとにならない。日本でいえば、ソニーやホンダなど、創業が自分が生まれる前の企業だったりして親近感が湧かない。
日本国内でここ2~3年以内に上場やM&Aでエグジットした会社に関する書籍はなかなか見つからない。インターネットで調べてもニュース記事やブログがある程度で、起業する上で押さえるべきポイントが体系的にまとまっていない。起業したいと思っても、どうやったら成功確率が高まるのか学びょうがないのが現状だ。
一方、スタートアップ業界を内側から眺めると、そのコミュニティがとても狭いものであることに気付かされる。実は、優れた起業家は同じコミュニティで互いにノウハウを交換している。しかし、コミュニティの外にいる人にとっては、中でどのようなノウハウが交換されているのか知るよしもない。
そこで、筆者(堀)はYJキャピタル(ヤフーの投資子会社)の代表という立場を利用して、業界を代表する起業家のみなさんを招待し、これから起業する人に成功のノウハウを共有してもらうイベントを頻繁に開催した。
どの起業家も信じられないくらい親切で優しく、これから起業を志す人のためならと無償で自身の経験を語ってくれた。とても忙しいにもかかわらず、何度も何度も時間を割いて自らの経験談を共有してくれた起業家のみなさんには本当に頭が上がらない。
「Pay it forward(誰かからの親切を他の誰かにつなぐ)」の精神がスタートアップ業界にはある。先輩起業家に教えてもらった成功の秘訣を、これから起業する人に伝えなくてはならない。そう思い、初めて起業する人を支援するアクセラレータプログラム「Code Republic」をYJキャピタルと共同運営する East Venturesの衛藤バタラさんに、先輩起業家のケーススタディを講義形式で伝えるプランを相談した。
バタラさんはすぐさま賛同し、「堀さん、それ絶対本にしたほうがいいですよ」と本書執筆のきっかけとなるアイディアを出してくれた。
講義に書籍というキーワードが加わった瞬間、反射的に経営学者である慶應義塾大学の琴坂将広准教授に連絡を取り、本構想を話した。ケーススタディからの示唆をアカデミックにまとめること、そしてその示唆を一人でも多くの学生に届けることで起業をキャリアの1つとして当たり前にしたい、と伝えたところ琴坂先生は身を乗り出して快諾し、本書を共同執筆することになった。
ベンチャーキャピタルであるYJキャピタルとEast Venturesが実践的な事例を投資の最前線から入手し、アカデミアを代表する経営学者が分析し、法則性を見出す。「体系的な知識」と「豊富な事例」が両方揃った本を読者のみなさんにお届けすることに本書はこだわり抜いた。事例だけだと学びが薄いし、知識だけだと具体性がなく実践的ではないからだ。
本書に掲載した事例は、インターネットに落ちている文献の寄せ集めではない。今回、YJキャピタルとEast Venturesの投資先を中心に、スタートアップコミュニティの中でも一目置かれている16社の起業家たちに独自インタビューを行った。上場経験組(ユーザベース梅田、フリークアウト[ヘイ]佐藤、BASE鶴岡、Gunosy福島、ラクスル松本、メルカリ山田・小泉)、M&A、エグジット組(エウレカ赤坂、コーチ・ユナイテッド有安、ペロリ中川、nanapi古川、Fablic堀井)、未上場・累計資金調達額30億円超(ミラティブ赤川、ヤプリ庵原、ココン倉富、dely堀江、ビジョナル[ビズリーチ]南)といった面々である(順不同・敬称略・現在は代表を退いている場合も含む)。
この本でしか語られていないエピソードはたくさんある。普通のインタビューでは教えてくれないことも、筆者の投資家という立場を悪用(?)して裏話を聞き出した。起業家は誰もが魅力的で、どのエピソードも学びにあふれている。膨大なインタビューからケーススタディを作り上げる大役は、琴坂研究会の井上大智さんが担ってくれた。
本書はただのケース集ではない。アイディアの見つけ方からチームビルディング、プロダクト作りやその検証方法、ユーザー獲得・グロース方法、そして資金調達まで、起業してからロケットスタートするまでに必要なアクションを、3社の起業家たちから共通項を可能な限り見つけ出し、体系的にまとめ上げた。
本書を手にとった起業家予備軍のみなさんには、ぜひとも起業への一歩を踏み出してほしい。
お待たせしました。
一緒に「スタートアップ」のリアルを覗きに行きましょう。
堀新一郎

※本書はインタビュー以外も多数の二次情報を引用して作成しましたが、引用文はその一部を文脈上改訂しています(本人確認済)。また、ウェブ上に存在する二次情報は2020年3月時点でURLの存在を確認しています。

堀新一郎 (著) , 琴坂将広 (著) , 井上大智 (著)
出版社 : ニューズピックス (2020/5/27) 、出典:出版社HP

目次

はじめに スタートアップ業界の内側に閉じたノウハウを開放する

第一章 アイディアを見つける
アイディアをどう着想するか
心に響くか、実現性は高いか、ポテンシャルは大きいか
過去、現在、未来の3つの視点で読み解く
「この分野では誰よりも詳しい」と言い切れるか
自分一人でアイディアを探す必要はない
起業家に原体験は必須ではない
商売の「感覚」を身につけておく
アイディアをどう評価するか
いいアイディアとは何か
1 誰の何の課題を解決しているのか
2 スケールできるのか
3 既存のサービスに置き換わる新しいサービスか
4 ビジネスとして成立するのか
5 数年後により多くの人に使われるサービスか
不確実性の高い領域こそ起業家が真価を発揮する
CASE01 ビズリーチ
CASE02 Pairs
CASE03 サイバーセキュリティ&AI
CASE04 サイター
CASE05 クラシル

第二章 最初の仲間を集める
チームメンバーをどう選ぶか
チームビルディングは自己分析から始まる
自分より優秀な人を採用できるか
初期のチームに必要な4つの要素
1 必要最小限のチームで始める
2 カルチャーフィットを優先する
3 社長が雑用役を引き受ける
4 社長が松明をかざす
お金をかけずにいいメンバーを集めるには
1 幅広いタッチポイント(出会いの機会)を作る
2 アクションを繰り返す
3 現在のみならず、未来の事業展開を意識する
4 結果が出るまで徹底する
5 第三者のレファレンスを取る
6 仕組み化する
創業者間契約を締結する
事業が成長すれば、採用できる人材の質も上がる
チームをどう運営するか
対話を欠かさない チームの形を絶えず進化させていく
フェーズに合わせたポジションチェンジ
創業メンバーのパフォーマンスが相対的に低くなってしまったら
CASE06 メルカリ
CASE07 Mirrativ
CASE08 ラクスル
CASE09 hey
CASE10 SPEEDA
CASE11 ビズリーチ

第三章 プロダクトを作り、ユーザー検証する
検証方法をどう設計するか
バットを振り続ける
顧客の「声」ではなく「行動」にヒントがある
最小単位での検証ができているか
既存サービスで検証できないかをまず考える
検証結果をどう判断するか
プロダクトマーケットフィットしているか
ベンチマーク企業のKPIと比較する
「電流が走る感覚」があったか
ピボット・撤退判断は自分でする
CASE12 グノシー
CASE13 フリル
CASE14 MERY
CASE15 サイター
CASE16 SPEEDA

第四章 ユーザーを獲得する
プロダクトをどう磨き込むか
一人でも多く顧客を獲得するには
機能改善による顧客獲得
機能拡充による顧客獲得
マーケティングの発明
1円でも安く顧客を獲得するには
1 ターゲット顧客に限定したアプローチを探す
2 Non-Paid を活用する
3 誰も気付いていない獲得方法を発見・発明する
広告を投入するのはLTV VCACを成立させてから
CASE17 BASE
CASE18 ビズリーチ
CASE19 MERY
CASE20 Pairs
CASE21 クラシル
CASE22 メルカリ

第五章 資金を調達する
資金調達の全体像
資金調達手段は2種類ある
資金調達は一度では終わらない
投資家と起業家の目線のズレ
初めての資金調達は1000万円前後が一般的
バリュエーションと調達額のバランスの決め手は?
1 起業家のトラックレコード
2 事業領域、ビジネスモデル
3 プロダクト
経営者持ち分にどこまでこだわるか
対投資家コミュニケーション
投資家に何を伝えるべきか
1 市場
2 課題
3 解決策
4 競合優位性・差別化
5 ビジネスモデル(ユニットエコノミクス、KSF)
6 トラクション
7 事業計画
8 資金
9 チーム
誰を投資家にすべきか
1 基本事項を確認する
2 求める付加価値・役割を明確にする
3 相性をチェックする
4 レファレンスをとる
コミュニケーションを密に取る
CASE23 nanapi
CASE24 Yappli
CASE25 SPEEDA
CASE26 クラシル

第六章 起業するということ
なぜ起業するかよりも「最初の一歩」が重要
「起業のリスク」なんて無い
起業経験者が重宝される時代になる
起業に必要な3つの素養
1 高い目標を持つ
2 得意なことをやる
3 諦めない

おわりに

巻末特典 起業家への直接アンケート

各サービス紹介

堀新一郎 (著) , 琴坂将広 (著) , 井上大智 (著)
出版社 : ニューズピックス (2020/5/27) 、出典:出版社HP

入門 起業の科学

ゼロからイチを生み出す

起業や新規事業を始めるために重要なエッセンスがコンパクトに凝縮されています。起業を成功させるプロセスは長いですが、そこには定石がありそれを知ることで失敗を回避することができます。起業の全体像を俯瞰することができるので、起業家の方には必読の1冊です。

田所 雅之 (著)
出版社 : 日経BP (2019/2/28) 、出典:出版社HP

これから起業したい人、新しい事業を生み出したい人が、もっと増えるように、この本を書きました。
2017年秋に発売した『起業の科学 スタートアップサイエンス』は、成功に向けて必死で頑張っているスタートアップの方や新規事業部門に配属になった会社員の方などに、発売から1年以上たった今も好評をいただいています。
連続起業家であり、ツイッターで18万人(19年2月時点)のフォロワーを持つことでも知られる「けんすう」さん(古川健介さん)は、18年2月にこんなツイートをしてくれました。
「起業についての質問を、質問箱でいただくことが非常に多いんですが、ほとんど『起業の科学』に書いてある気もするので、まずこれを読むのがいいですよ、本当に!起業したいなーと、モヤモヤ段階の人でもオススメです」
私のところには、フェイスブックやツイッターを通じて読者から続々とメッセージが届きました。「この本を読んで実際に起業をしました」「これを読んで今の迷いが吹っ切れ、新規事業のチームが前に動き出しました」といった喜びの声がたくさんありました。
反響は大企業や官公庁にも広がりました。事業会社の中でベンチャー投資をしたり、企業支援に取り組む官僚や自治体の人たちから相談を受けたり、講演に呼ばれたりする機会が増えました。
私の考えが予想以上に広く受け入れられたことをうれしく思うと同時に、起業や新規事業の成功を目指して悩む人が、こんなにたくさんいるのかと、あらためて気づきました。
そこで、2冊目となるこの本は、既に起業している人たちはもちろん、これから起業してみたい人、新規事業に取り組みたい人にも幅広く読んでいただけるスタートアップの入門書としました。
特に重要なポイントに絞って内容をわかりやすくし、「起業に成功するまでのプロセス」の全体像をすっきりと頭に入れていただけることを一番の目標としています。
スタートアップが成功するか、失敗するか。それは、顧客に熱狂的に受け入れられる製品を作れるか(PMF、プロダクト・マーケット・フィットを達成できるか)にかかっています。この本では、アイデアを思いついてから、PMFを達成するまでに内容を絞り、4ステップ・39のチェックポイントに改めて整理しました。一つのチェックポイントは4~6ページにまとめています。重要な点が頭に入りやすいように、専門用語はなるべく使わず全面的に平易に書き直しました。
初めて起業する人の一番大きな不安は、成功の道しるべが何もないことです。ピンチの連続になることは想像できても、その内容は曖昧で実際には何にどう備えるべきかわからないのです。それは起業をした後でも変わりません。
一般企業なら、自分たちが取り組んでいることが正しいかどうかは事業の売り上げや利益などを見ればある程度わかります。経営やマネジメントの悩みには、優れた参考書がたくさんあります。
しかし、前例のないことに挑むスタートアップは、起業してから最初の売り上げが立つまでに手本はなく、ゴールに向かっているかもわからずに道なき道を進まないといけません。
私自身、日本で4回、米国で1回、スタートアップの立ち上げを経験しています。そのつど、成功に向かって必死でもがいていました。
不安な状況に置かれたスタートアップに救いの手を差し伸べる優れた情報源は、実は探せばたくさんありました。ただ、残念ながら、そうした情報の多くは断片的なものが多く、必ずしも起業家が置かれている状況(成長段階)に最適な解答とは限りません。
しかも、解決すべき課題が次々と出てくる起業家が、分厚い翻訳書を片っ端から読み漁ったり、ネットで情報を集めたりして、成功を目指す情報の全体像を整理する時間的な余裕はなかなか作れるものではありません。私も以前は同じ状況にいたのでよくわかります。
その経験を基に、スタートアップに必要な知識や手順を私なりに体系化しようと、私は1750枚に上るスライド集「スタートアップサイエンス2017」を作りました。5年をかけて毎晩コツコツと約2500時間をかけて作成し、そのために1000人以上の起業家、投資家、スタートアップ関係者と対話を重ねました。このスライド集が前著のベースになりました。
ただ、私が全精力を傾けて集めた情報を余すところなく盛り込んだため、読み返すと、前著は「読むのに少し気合いが必要な本」になった感があります。実際に起業した人が辞書のように「今悩んでいること」の解決策を探るには適していますが、全体像をさっと俯瞰するには不向きかもしれません。
そこで、これから起業や新規事業の立ち上げを目指す幅広い人々に『起業の科学』のエッセンスに触れてほしい。起業した後に直面する課題と解決策の全体像が見えれば、ゼロから起業をする不安が解消し、起業をしてみたい人が増えるのではないか。そんな思いからこの本を作りました。
なお、この本の制作に当たっても、書籍『リーン・スタートアップ』(エリック・リース著、日経BP社)、『Running Lean実践リーンスタートアップ』(アッシュ・マウリャ著、オライリー・ジャパン)、スライド集「あなたのスタートアップのアイデアの育てかた」(馬田隆明氏作成)に学ぶところが多くありました。改めて感謝を申し上げます。

2019年2月 田所雅之

田所 雅之 (著)
出版社 : 日経BP (2019/2/28) 、出典:出版社HP

CONTENTS

はじめに

STEP 0 「成功に至るプロセス」を理解する

STEP 1 アイデアを検証する
1-1 良いアイデアとは?
Check 1 その課題に「顧客の痛み」はあるか?
Check 2 「自分ごとの課題」になっているか?
Check 3 「他の人が知らない秘密」を知っているか?
Check 4 「誰が聞いても良いアイデア」の弱点
Check 5 「イノベーションの超高速化」を理解しよう
1-2 メタ原則の理解
Check 6 「スモールビジネス」とスタートアップの違いとは?
Check 7 スタートアップが捨てるべき「会社員の常識」
1-3 アイデアの検証
Check 8 なぜ「今のタイミング」でやるのか?
Check 9 市場の流れから「予測される未来」とは?
Check 10 「PEST分析」から「兆し」を見つけよう
Check 11 「破壊的イノベーション」を起こせるか?
Check 12 ビジネスアイデアの「フレームワーク」を知ろう
Check 13 「ターゲットとする市場」をどう見極めるか?
1-4 プランAの策定
Check 14 「リーンキャンバス」の書き方
Check 15 なぜリーンキャンバスが必要なのか?
COLUMN スタートアップによくある「勘違い」1 ピッチイベントに積極的に参加する
COLUMN スタートアップによくある「勘違い」2 アイデアを「秘密」にしたがる

STEP 2 課題の質を上げる
2-1 課題仮説の構築
Check 16 「課題検証」をおろそかにしない
Check 17 「ペルソナ」を想定しよう
Check 18 「カスタマーの体験」に寄り添う
2-2 前提条件の洗い出し
Check 19 「ジャベリンボード」で前提条件を洗い出そう
2-3 課題から前提の検証
Check 20 「エバンジェリストカスタマー」を探そう
Check 21 「プロブレムインタビュー」で本音を引き出すコツ
Check 22 「KJ法」を使ったインタビュー分析

STEP 3 ソリューションの検証
3-1 UXを紙1枚に
Check 23 「プロトタイプカンバンボード」で解決策を磨き込む
Check 24 「ソリューションインタビュー」で機能を絞ろう
Check 25 「エレベーターピッチ」に落とし込もう
Check 26 「試作品の設計図=UXブループリント」を作ろう
3-2 プロト作成
Check 27 手書きの「ペーパープロト」からスタート
3-3 プロト検証
Check 28 「プロダクトインタビュー」でユーザー体験を検証

STEP 4 人が欲しがるものを作る
4-1 MVPの構築
Check 29 「MVP=ミニマム・バイアブル・プロダクト」とは?
Check 30 「MVPの型」を知ろう
Check 31 「スプリント」を回し、MVPから学びを得よう
Check 32 「スプリントカンバンボード」で進捗を管理しよう
4-2 MVPを市場へ
Check 33 「カスタマーの生の声」を集め続けよう
4-3 MVPの評価測定
Check 34 「AARRR指標(海賊指標)」を理解しよう
Check 35 「KPI設定」の極意とは?
Check 36 「カスタマーインタビュー」を学びに変えるコツ
4-4 新たなスプリント
Check 37 「2回目のスプリント」を実行しよう
4-5 UXの改善
Check 38 「UX=ユーザー体験」の改善を続けよう
4-6 ピボット
Check 39 「ピボット=大胆な軌道修正」をするか、しないか?
COLUMN スタートアップによくある「勘違い」3 PMF達成前に大企業と業務提携する

おわりに

田所 雅之 (著)
出版社 : 日経BP (2019/2/28) 、出典:出版社HP

STARTUP―アイデアから利益を生みだす組織マネジメント―

事業家に必要なマインドセット

企業したはいいものの、まったくうまくいっていない主人公。彼は出場したポーカー大会で一流の起業家と出会い、起業家のいろはを教わる、という物語になっています。ポーカーと起業の類似性に絡めて、起業の際に大事な点をストンと落ちる形で説いた良書です。

ダイアナ・キャンダー (著), 牧野洋 (翻訳)
出版社 : 新潮社 (2017/8/25) 、出典:出版社HP

序文

私が二〇〇五年に『アントレプレナーの教科書』(邦訳、翔泳社刊)を世に出して以来、客観的事実を重視する実証的起業論―エビデンスベースト・アントレプレナーシップ―の分野で多くのことが起きた。同書の中で私は「スタートアップは大企業の小型版ではない」「投資家の伝統的アドバイス―事業計画を作って実行せよ―は間違い」と指摘した。スタートアップで実際にやらなければいけないのは、ビジネスモデルを探し出すことであって事業計画を実行することではない。
過去十年を振り返ると、同書の中で紹介した概念は国際的な「リーンスタートアップ(最低限のコストで効率的に起業するためのマネジメント手法)」運動へと発展した。カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)、スタンフォード大学、コロンビア大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の各校で私が授業の一環として導入している教育プログラム「リーンローンチパッド」を見てみよう。今では全世界で数百校に上る大学で採用されており、二十五万人以上の学生の間でオンライン受講されている。全米科学財団(NSF)が設立した「イノベーション・コア(通称IICorps)」は、科学の商業化プロジェクトの一環として「リーンローンチパッド」を使っている。
大企業さえも変化している。市場環境が激変するなど絶え間ないショックに見舞われて、継続的なイノベーションを起こす必要性に迫られているからだ。そんななか、大企業はスタートアップのようになろうとして、新しいアイデアの検証に大きな価値を見いだし始めている。
とはいっても、やるべきことはまだ多く残っている。起業家を志望していながら実証的起業論を理解していない人は数十万人にも上る。ここにこそ『STARTUPアイデアから利益を生みだす組織マネジメント』の価値がある。
本書はリーン手法について抵抗感なく読めるように書かれている。ダイアナ・キャンダーは単純でありながらも強烈で印象的な物語(小説)を書き、読者の共感を呼ぶような工夫をしている。この物語を読むことで読者はリーン手法を理解するのである。
実証的起業論の分野では「ハウツー」に焦点を当てた本は多数ある。『スタートアップ・マニュアル』『リーン・スタートアップ』『ビジネスモデル・ジェネレーション』などだ。しかし、『STARTUP』はちょっと違う。「ハウツー」ではなく「なぜ」に主眼を置いている。まずはスタートアップの実践現場で苦悩する主人公オーエン・チェースの物語を描いている。従来型の起業手法ではなぜうまくいかないのか示すためだ。続いてオーエンの学習プロセスに焦点を移していく。リーン手法によってなぜよりスピーディーに、より効率的に起業できるようになるのか見せるためだ。
新商品の開発や新事業の立ち上げに興味を持つ人たちにとって、本書は必読書である。

スティーブ・ブランク

ダイアナ・キャンダー (著), 牧野洋 (翻訳)
出版社 : 新潮社 (2017/8/25) 、出典:出版社HP

トム・リューエからの手紙

教育のツールとして物語は強力である。伝統的な教育手法以上に脳を活発化させるからだ。われわれは教科書を読んだり講義を聞いたりするとき、脳の言語処理機能を使って言葉を翻訳している。しかし、小説を読むときは違う。われわれの脳はフル回転している。まるで小説の中に入り込んで自分自身で物語を体験しているかのように反応している。物語を個人的な体験に関連付けているのだ。
このようにして吸収した知識は自分の体験と結び付いて記憶に定着しやすい。だからこそ私は『STARTUP』にわくわくしている。ダイアナ・キャンダーは現代起業論の原則を教えるために小説形式を採用したのである。結果は素晴らしいの一言だ。
過去十年で起業をめぐる科学は大きく進化した。われわれはスタートアップの失敗を大幅に減らす方法について多くの知識を吸収した。しかしながら起業家にきちんと伝授できていなかった。起業家こそ最新科学の成果を必要としているにもかかわらず、われわれが得た知識を継承していなかった。これからは違う。
アイデアを事業化して利益を生み出す―このような起業プロセスを理解するうえで本書は最適である。ダイアナは起業家を目指す人にとって不可欠な基本概念を説明するために、本書の中でフィクションを巧みに使っている。同時に、真新しい事業を立ち上げようとする起業家の悲喜こもごもについてもカラフルに描いている。読者はジェットコースターのように波乱万丈な人生を送る起業家に感情移入しつつ、最新科学に裏付けされた起業プロセスを学ぶのである。
本書の物語は、人生初のスタートアップを立ち上げたアマチュア起業家の視点で進む。最初の起業で学んだ教訓を生かしてやり直すことができたらいいのに―このように思う起業家は多いはずだ。そこで本書の出番となる。本書は起業家が直面するさまざまな困難について、事業ばかりか私生活の面も含めて生々しいエピソードで伝えている。業界の共通語を使ってスタートアップの課題を浮き彫りにしている。読者は安全な場所に身を置いて本書のページをめくっていくうちに、誤ったやり方で起業した場合に何が起きるのかを知るのである。
本書は起業家にとってのロードマップだ。アイデアを事業化するまでのリスクを大幅に減らすためのロードマップである。自分のアイデアについて夢想し続けるのはもうやめよう。事業計画実行に向けて貴重な時間と資金を浪費し続けるのはもうやめよう。とにかく本書を手に取って読んでみよう。そして秀逸なアイデアを生かすために、行動に出るのだ。
(カウフマン財団アントレプレナーシップ担当バイスプレジデント)

ダイアナ・キャンダー (著), 牧野洋 (翻訳)
出版社 : 新潮社 (2017/8/25) 、出典:出版社HP

目次

序文
トム・リューエからの手紙
はじめに

第1部 人はビジョンを買わない
1 最初の印象で人を判断してはいけない
2 これ以上だましてはいけない
3 営業トークだけでは何も売れない
4 プレーし続けるカギは、どう勝つかではなく、どう負けるか
5 本当のプロは全ゲームで勝負しない
6 スタートアップにとって重要な数字を覆い隠す「バニティメトリクス(虚栄の指標)」
7 遠慮していては助言者は見つからない
8 まずは顧客と顧客ニーズ、自分のビジョンは二の次でいい
9 一か八かは駄目、小さく賭けてチャンスをつかむ
10 新しいことをやるなら専門家でも用意周到な準備が必要
11 人はビジョンを買わない、問題の解決策を買う
12 解決すべき問題を発見したかどうか言えるのは顧客だけ

第2部 仮説で勝負するのは危険
13 幸運を期待するのは戦略ではない
14 仮説の検証に遅過ぎるということはない
15 顧客インタビュー成功のカギは誘導尋問を回避し、オープンエンド(自由回答)型の質問をすること
16 顧客インタビューを上手にこなすには練習あるのみ
17 自分の仮説の誤りに気付くのは、正しさを証明するのと同じくらい重要
18 新しい仮説を検証せずに新しいアイデアにピボット (方向転換)するな
19 運に最も恵まれないときに備えてチップを節約せよ
20 成功する起業家は再挑戦するために、失敗を認め、フォールドし、生き残る
21 アイデアに大金を投じる前に仮説を検証せよ

第3部 正解を知るのは顧客だけ
22 冷静さを保てば運を呼び込める
23 成功する起業家は例外なく成功よりも失敗を多く経験している
24 頑張れば頑張るほど運に恵まれる
25 有望顧客を見つけるチャンスはどこにでも転がっている―探す努力さえすれば
26 緻密なインタビューによって潜在顧客から最高のフィードバックを得る
27 大損しないために「バニティメトリクス」を認識せよ
28 偏頭痛級の問題を見つけるまで顧客インタビューを続けよ
29 偏頭痛級の問題について聞かれると人は語りたくて仕方がなくなる
30 得られた情報の良しあしに関係なく、インタビューは客観的に
31 人が商品を欲していると証明できなければ何をやっても無意味
32 運を呼び込む人はどこに行っても新たな経験を求め、新たなチャンスを見いだす
33 ポーカーでも事業でも運頼みは良い戦略ではない。良い戦略こそが運を呼び込む

第4部 仮説を証明し勝負に出る
34 究極の顧客行動への道のりを最短にせよ
35 不運に備えて蓄えろ
36 恐れて何もしないのは最悪、事業のアイデアを台無しにしてしまう
37 ティルトのときの自分の性向を理解し、対策を取る
38 偏頭痛級の問題に出会ったら、すぐに分かる
39 誤っても、うろたえない
40 小さく賭けて仮説の正しさを検証する、それまでオールインに出るな
41 二度目のチャンスはめったに来ない、一度目のチャンスを逃すな
42 たとえ偏頭痛級の問題を見つけても、解決策作りには警戒心と見直しが必要
43 顧客が商品を欲し、それを実現するビジネスモデルが存在すると証明せよ。それまでオールインは禁物
44 当初のアイデアの良さ(あるいは最初の手札の強さ)は常に相対的なもの

あとがき
訳者あとがき―さらば大企業、こんにちはスタートアップ

ダイアナ・キャンダー (著), 牧野洋 (翻訳)
出版社 : 新潮社 (2017/8/25) 、出典:出版社HP

はじめに

この本は普通のビジネス書とはまったく違う。ロマンスとサスペンスにあふれているのだ。
なぜか。本書が「語る」ではなく「見せる」を基本にしているからだ。「語る」が教科書だとすれば「見せる」は小説。素晴らしいアイデアをひらめいたら、最終的には事業化して利益を生み出さなければならない。どうしたらそれができるのかを理解するうえで、小説は教科書よりもずっと効果的である。もしあなたが新しい事業を立ち上げようとしていたり、既存の事業で困難に直面していたりするならば、本書の読者としては最適である。
起業家(アントレプレナー)の大半は間違ったやり方で事業を立ち上げている。私自身が起業家であったし、その後は投資家として多くの起業家に接してきたからよく分かる。カウフマン財団上級研究者としての時間も含めれば、私が起業家と一緒に仕事をした時間は累計で数千時間に達している。
データを見るとびっくりしてしまう。スタートアップ(新しい事業領域を開拓するための組織や企業)の圧倒的大多数は失敗するのだ。では、厳しい審査を経て選ばれた最良のスタートアップはどうだろうか。ベンチャーキャピタルなど外部投資家の資金を受け入れたスタートアップのことだ。ここも例外ではない。何と七五%は成功できずに終わる。
なぜこんなに失敗するのか?最初にはっきりさせておきたいのは、スタートアップの失敗とは無関係の要素だ。創業者が情熱を欠いていたり、全力で働く意欲を欠いていたりするから失敗するのか―違う。創業者が自分の貯蓄を投じるのを渋ったり、誰からも出資を仰げなかったりするから失敗するのか―違う。創業者が必要なソフトウエアや製品を作れなかったから失敗するのか―違う。
本当のところ、失敗する起業家の大半は情熱を持って全力で働いている。スタートアップを成功させるために積極的にリスクを取り、何でも試そうとする夢想家である。素晴らしい人たちだ。このような人たちのビジネスモデルが欠陥を抱え、お金を払う顧客が一人も現れないとしたら、スタートアップは失敗する。「当初のアイデアが間違っていた」と悟ったときにはすでに手遅れで、資金は底を突いている。創業者は、すっからかんになってようやく「誰もこの製品(あるいはサービス)を欲しがらない」と気付くのである。
こんなに単純なことなのだ。
では、なぜこんなことになるのか?
必要な人材や資金は十分にあるし、有力起業家や投資家が書いたハウツー本も世の中に多数ある。にもかかわらず、スタートアップがなかなか成功しない理由は何なのか?
起業で失敗する確率を大幅に減らすためには何をするべきなのか?
このような疑問に答えるのが本書の目的である。本書の中心はオーエン・チェースという起業家の物語だ。私は自ら何度も起業してエグジット(持ち株の売却による投資資金の回収)している。一方でカウフマン財団を通じて数百人に上る起業家と一緒に仕事をしてきた。自分自身も含め多くの起業家の実体験を統合して、一つの物語としてまとめた。それがオーエンの物語である。
スタートアップについて学ぶ方法は百万通りある。しかし真に学ぶ方法は一つしかない。起業家自身がスタートアップの失敗・成功を経験することだ。私自身の経験からも断言できる。だからこそ私は教科書ではなく小説を書いた。読者のみなさんは本書のページをめくりながら実際にスタートアップを経験し、貴重な教訓を学ぶ。破産の瀬戸際に追い込まれたり、不安で眠れなくなったりする必要はない。
オーエンの物語は主に四つの原則を扱っている。いずれも単純ではあるが、奥深い。これらの原則を肝に銘じておけば、成功の確率をぐんと高めることができる。
読者のみなさんには本書を閉じて四つの原則を無視する選択肢もある。ただしデータはうそをつかない。スタートアップを立ち上げる際にこれらの原則を無視するとどうなるか。統計学の上では、事実上、運命は決まっている。人生のすべてを懸けながら起業に失敗する人たち―毎年数十万人―の一人になる。もちろん起業してすぐに失敗するとは限らない。その場合はさらに過酷な運命が待っている。スタートアップ版「ゾンビ企業」になるのだ。成長も利益も見込めないままでどうにか生き延び、何年にもわたって地上を徘徊することになる。
ゾンビになってはいけない。そのためにも四つの原則を受け入れることが大切だ。

原則1―スタートアップの目的は顧客を見つけることであって、商品を作ることではない

商品を作れないという理由で失敗する起業家はいない。起業家が失敗するのは商品を買ってくれる顧客がいないためだ(注:ここはぜひ二度読んでほしい。極めて重要だから。スタートアップについての研究はいろいろある。そこでは失敗の理由として創業者の経験や資金繰り、所在地、経営体制などが挙げられている。しかしすべて言い訳にすぎない。失敗する本当の理由は明白だ。十分な顧客がいないということ)。
典型的なスタートアップは次のようなステップを踏む。
ステップ1起業家はアイデアを思い付き、わくわくしてあらゆる可能性を思い描く。どんな事業になるのか、どんな影響を世界に与えるのか、どれほどの利益を生み出すのか―こんなことを夢想する。
ステップ2次に起業家はアイデアを基に商品作りに入る。多くの時間と資金をつぎ込んで、できるだけ完成度の高い商品にする。めったに他人に見せない。潜在顧客に見せる前に商品を完璧にしておきたいからだ。何よりも大事なのは第一印象なのだ!
ステップ3次に起業家は商品にブランドを付ける。できるだけキャッチーな社名とロゴを考え出す。ドメインを取得してウェブサイトを立ち上げる。販促用資料を用意する。販促用資料は「さすがプロ」と相手をうならせる出来でなければならない、と自分に言い聞かせる。ステップ4最後に起業家は顧客を探し始める。大抵は空振りの三振。顧客は全然見つからない。当初のアイデアがどこか間違っているのではと推測する。そしてより良いアイデアを目指してブレインストーミングを開始。結局、ステップ1から4までを何度も繰り返す。何の成果も出せないまま、多大な時間と資金を浪費してしまう。
これが「スタートアップ絶望のループ」である。事業がそれなりの売り上げを生み出すようになるまで数カ月、場合によっては数年かかることもある。

成功する起業家は絶望のループにはまらない。どうすればそれを回避できるか知っているからだ。最初に素晴らしいアイデアがひらめく点は同じ。次のステップが違う。商品を作る価値があるかどうか見極めるために、潜在顧客を探すのである。

商品を作る前に顧客を見つけることで「人が実際に欲している商品だ」と確信できる。商品を作る際には人が最も重視している特性や機能を取り入れる。人が欲している商品を作る最大の利点は何か。スタートアップが実際に売り上げを計上できるということだ。

原則2―人は製品やサービスを買うのではなく、問題の解決策を買う

人は特性や機能を求めて店に行くわけではない。「長持ちする物が欲しい」「廉価な物が欲しい」などと思って店の中を歩き回ったり、ネットサーフィンをしたりするわけではない。ではどうして店に行くのか。それは何らかの問題を抱えており、それをどうにかして解決したいと思っているからだ。カーペットにこびり付いている染みがどうしても取れない、自宅に子どもを置いたまま夜中に出掛けられない、退職後の蓄えが十分あるかどうか心配で仕方ない―このような問題で悩み苦しんでいる。だから問題を解決してくれる製品やサービスに対しては喜んでお金を払う。こんな人たちこそ顧客なのである。
厄介なのは、顧客は極めて非合理的で予測不可能な行動に出るということ。誰かから問題の存在を指摘されても、顧客が「確かにこれは問題だ」と納得するとは限らない。逆に顧客が「これは深刻な問題だ」と言ったからといって、多くの人がお金を払って解決しようとする問題であるとは限らない。
インスタグラムやペットロック(石ころをペットに見立てた玩具)といった成功物語がある一方で、売り上げがまったくないままつぶれていったスタートアップが何十万社も存在する。フェイスブックやスナギー(着られる毛布)といった成功物語がある一方で、ゾンビ化したスタートアップが何十万社も存在する。スタートアップ版ゾンビ企業は事実上死んでいるのに、なおもうろうろしている。そんな企業の創業者同士が起業家の交流会などのイベントで鉢合わせし、お互いにばつの悪い思いをするのだ。
顧客が解決すべき問題を抱えているかどうか見極めるにはどうしたらいいのか?アイデアが問題解決に役立つかどうか検証するにはどうしたらいいのか?自分自身で顧客に直接会い、話を聞く―これが唯一の方法だ。

原則3―起業家は探偵であり、占い師ではない

ビジネスモデルについて詳述し、「これで利益を生み出せる」と結論してもいい。少なくとも報告書を書く訓練にはなる。問題なのは、それが机上の空論を述べているにすぎないということだ。頭をフル回転させて仮説を立て、続いて銀行家や投資家の出現を待ち、最後に事業計画を実行する―これでうまくいくだろうか?うまくいくはずがない。どんなに鋭い起業家であっても未来は予測できない。占い師ではないのだ。
本物の起業家は事実を追求する。探偵のように行動する。その点で単なる空想家やアマチュア起業家とは決定的に異なる。彼らは当初のアイデアは多数の仮説で成り立っていると認識している。仮説が誤っている場合には事業の方向性を大転換する覚悟もある。仮説が正しいかどうか判断するには現実の世界で検証するしかない。これによって何が推測で何が事実なのか判定できる。
自分が起業家であると仮定してみよう。営業スタッフを雇うよりもオンライン店舗を立ち上げたほうが商品を売りやすいと思うならどうする?検証せよ。アイデアに共鳴してくれる事業パートナーを見つけられると思うならどうする?検証せよ。四十四ドル九十九セントで売れると思うならどうする?検証せよ!
事業パートナーや投資家、社員と無駄な議論をしてはならない。仮説が正しいかどうかをめぐって彼らと議論したところで徒労に終わるだけ。代わりにやらなければならないのは、事実を集めて仮説を検証すること。そのようにすれば最小限の時間と資金を投じるだけで済む。

原則4―成功する起業家はリスクを取るのではなく、運を呼び込む

成功する起業家とプロのポーカー選手は似ていると見なされがちだ。どちらも自己資金を投じて大きなリスクを取るギャンブラーだから、という理屈だ。確かに両者の間には共通項が多く、比較することに意味はある。ただし現実はちょっと違う。どちらも自分のことをギャンブラーだと思っていないし、リスクテイカーだとも思っていないのだ。
では、なぜ両者とも優れているのだろうか。リスクを最小化して運を呼び込むスキルを学んでいるからである。具体的には、緻密に計算して何度も小さく賭ける。そのようにして仮説を検証しつつ、新たなチャンスを見いだすのだ。個々の賭けで負けても構わない。最小限の時間と資金しか投じていないため、負けても再び挑戦できる。何度も小さく賭けているうちにいずれチャンスに巡り合える。つまり運を呼び込める。そのときになって初めて持てるすべてを賭けるのである。チャンスを最大限に生かすためだ。
世間一般の人たちにしてみれば、プロのポーカー選手も成功する起業家も単に運に恵まれているように見える。しかし本当は違う。彼らは勝つチャンスがあると確信できる場合に限ってオールイン(一度に全額を投じる行為)に出るのだ。

アントレプレナーシップ(起業家活動)に憧れて夢見る人たちに向けて書かれた本は世の中にいくらでもある。本書は起業家の夢を実現するための指南書である。
起業家として成功するためには「秘密のDNA」を持つ必要はないし、「遺伝子版宝くじ」に当たる必要もない。超一流の学歴・職歴があるからといって、スタートアップのゾンビ化を回避できるわけでもない。本書の教えをぜひ学習・応用してほしい。「起業家ごっこをする」のと「本物の事業を創造する」のとでは全然違う。本書の教えを実践するかどうかでそれぐらいの違いが出てくる。
読者のみなさんがオーエン・チェースの物語を読み終わるころには、顧客を見つけて売り上げを計上する道筋が見えてくるはずだ。売り上げこそ、起業家として成功したかどうかを判定する唯一の物差しなのである。

テキサスホールデムのルール

ポーカーの「テキサスホールデム」に詳しくない人のために基本ルールを説明しておこう。それほど複雑ではない。
まずは二枚のカードが伏せた状態で配られる。これが「ポケットカード」と呼ばれる手札。誰にも見せてはいけない。母親に見せるのも駄目。ポケットカードの強さに従って賭け金を決める。ポケットカードが弱い場合にはここで降りるのもOKだ。
ただ、誰かが賭けなければゲームは成立しない。そこでゲームごとに二人のプレーヤーが選ばれ、手札が配られる前に強制的に賭けさせられる。何も見えない状態で賭ける形になるため、ここでの賭け金は「ブラインド(目隠し)」と呼ばれる。
選ばれた二人のうち一人は少額を賭ける「スモールブラインド」、もう一人はその倍額を賭ける「ビッグブラインド」と呼ばれる。スモールブラインドとビッグブラインドのポジションは一ゲーム終わるごとに一つずつ時計回りに移動していく(プレーヤーは同じ場所に座ったままで、ポジションだけが移動する)。
さて、すでに説明したようにポケットカードとして手札二枚が配られると賭けが始まる。各プレーヤーには三つの選択肢がある。「フォールド」「コール」「レイズ」だ。フォールドは賭けるのをやめてゲームから降りること。コールはほかのプレーヤーと同額を賭けること。レイズは賭け金を引き上げること。
一ゲームごとに賭けは全部で四ラウンドある。第一ラウンドは「プリフロップ」。ここでは手札二枚(ポケットカード)だけを頼りにして賭けなければならない。全プレーヤーが共通で使える五枚の場札「共通カード」は伏せられたままであり、まだ使えないということだ。
第二ラウンドに入ると、場札五枚のうち三枚がオープンになり、手役に加えることができるようになる。オープンになった三枚は「フロップ」と呼ばれる。各プレーヤーは二枚の手札と三枚の場札を使ってどんな役ができるか考え、第二ラウンドの賭けに入る。
その後、残り二枚の場札がオープンになる。四枚目の「ターン」と五枚目の「リバー」だ。賭けはターンで第三ラウンド、リバーで第四ラウンドになり、最後に「ショーダウン」。それまでフォールドせずに残ったプレーヤー同士で勝負というわけだ。
手役は手札(ポケットカード)二枚と場札(共通カード)五枚の計七枚を基にして最強の五枚を組み合わせて作る。計四ラウンドの賭けを通じてポーカーテーブルに積まれたチップの山「ポット」を独り占めするのは、最強の手役を持つプレーヤーだ。
どんなポケットカードだと強い手役になりやすいのか。一つは「ペア(同じ数字のカード二枚)」。最強は「ポケットエース(エースのペア)」で、二番目は「ポケットキング(キングのペア)」。「スーテッド(スペードとスペードなど同じ図柄)」や「コネクター(5と4など数字が連続するカード)」も好まれる。逆に「オフスーツ(スペードとハートなど異なる図柄)」などでは強い手役を作りにくい。
世界ポーカー選手権(WSOP)で行われるメーンイベント「ノーリミットホールデム」では、「ノーリミット」という言葉通りレイズの上限はない。手持ちのチップすべてを一度に賭ける「オールイン」も可能だ。オールインで勝てばゲームを続行できるし、負ければすべておしまい。全出場選手七千二百人のうち最終的に負ける七千百九十九人と同じ運命が待っている。よく頑張ったね、また来年会いましょう!
どうだろう?そんなに難しくないのでは?
WSOPでは一万ドルの参加費を払い、テレビカメラに囲まれ、プロのポーカー選手と勝負する。プロの中にはMIT(マサチューセッツ工科大学)の学位を持ち週五十時間以上もプレーするつわものもいる。だからみんな緊張する。だが、ゲームに勝つためには緊張は禁物だ。

ダイアナ・キャンダー (著), 牧野洋 (翻訳)
出版社 : 新潮社 (2017/8/25) 、出典:出版社HP

起業の科学 スタートアップサイエンス

起業の教科書

経済学部でなくても誰でも100パーセント理解できるように記載されており、図解での説明もあり、注釈もすぐ余白に書かれています。起業しようと思っている人は絶対に読むべき一冊です。新規事業やプロジェクトを新しいメンバーで始める時には、全員の共通理解にも使えます。

田所 雅之 (著)
出版社 : 日経BP (2017/11/2) 、出典:出版社HP

起業家の一番大きな課題を解決するために、この本を書いた。
この本は、スタートアップの成功に必要な知識をまとめようと、作成してきたスライド集『スタートアップサイエンス2017』がベースになっている。1750ページに上るスライド集を作るために、5年間、約2500時間を費やし、1000人以上の起業家、投資家、スタートアップ関係者と対話をしてきた。
「なぜ、『スタートアップサイエンス』のスライドをまとめたのか?」とよく聞かれる。
私がスライド集、そしてこの本をまとめた理由は、起業家の一番大きな課題を解決するためである。
私自身、これまでに日本では4回、シリコンバレーで1回、スタートアップを立ち上げてきた。企業内で新規事業の立ち上げをするプロジェクトにも数多く加わってきた。また、スタートアップに対する投資家としても経験を積み、スタートアップの現状を多角的に見てきた。
その経験から分かるのは、スタートアップを始めた瞬間から、起業家には課題が次から次へと降りかかってくることだ。その中でも、一番大きな課題は、スタートアップが成長していく過程の様々なタイミングで、自分たちが何を実現すればよいのかを判断する基準がないことだ。そのため、起業家は目標に対して前進できているのかさえ分からないまま、迷いつつ歩みを進めるしかない。
スタートアップ以外の一般企業ならば、既存事業の売り上げやそこから上がる利益が行動の指標となる。しかし、スタートアップは、起業から最初の売り上げが立つまでには、長い道のりがある。その途中で、何を達成すれば目標に対して前進できているのか、スタートアップの創業メンバーは具体的な基準がないままに悩み続けている。
その不安な状況からスタートアップを救うべく、世の中には数多くの優れた書籍、ブログ、動画などが公開されている。個別にはそれぞれ重要な内容が盛り込まれており、それぞれはとても有用なものだ。
しかし、問題がある。情報の多くがコンテクストに沿ったものでなく、スタートアップのどの段階で有効なのか分からないことだ。
このため、読むタイミングによっては、スタートアップにとって間違った情報になってしまうことがある。アイデアを十分磨き込んでいないのにプロダクト開発に注力したり、プロダクトがカスタマーの心を捉えるものになっていないのに成長に向けて投資をしたりといった間違いを起こし、成功する前に資金が尽きて倒れてしまう。
また、成功のために必要な情報の多くは書籍やブログ、動画などそれぞれのパッケージの中に散らばっており、情報を探すにも読み込むにも膨大な時間が必要になる。起業家はスタートアップを立ち上げた瞬間から、あらゆることを自らやる必要があり、これらの情報を集めるには、圧倒的に時間が足りないのだ。
「いつ、何のために役立つ情報かというコンテクストが分からない」「情報が散在していて、忙しい起業家には把握しきれない」。こうした問題点を解決するために、起業家が成長のステージごとに何に取り組めばよいのかを、私の経験も踏まえて時系列で整理したのが、この『起業の科学スタートアップサイエンス』である。
本書では、カスタマーに熱烈に愛されるプロダクトを生み出し、成長できるようになるまでの考え方を「アイデア検証」から「スケール(事業拡大)」までの20のステップとして定義している。各ステップでどのようなアクションをすべきかを詳細に紹介しており、このステップに沿うことで、自分たちのスタートアップが適切な方向に進んでいるか、時期に合った拡大ができているかをチェックできる。
私はアマゾンやフェイスブックのような「大成功するスタートアップ」を作ることはアートだと思っている。ただし、この本で示した基本的な型を身につければ「失敗しないスタートアップ」は高い確率で実現できる。これを私はサイエンスだと信じている。その思いから、本書のタイトルを「起業の科学スタートアップサイエンス」と定めた。
読者のイメージとしては、スタートアップに関してまだ経験が浅く、玉石混交の情報に左右され、シリコンバレーでもがいていた2011年の自分自身を想定している。
スタートアップが世界でもっと増えれば、世界は活性化し、より良い場所になると信じている。スタートアップを始めたい人、既にスタートアップを始めて壁にぶつかっている人、さらに一般企業の新規事業担当者が成功するために本書が一助になれば幸いである。
なお、本書の制作に当たっては、書籍『リーン・スタートアップ』(日経BP社)、『Running Lean実践リーンスタートアップ』(オライリー・ジャパン)、スライド集「あなたのスタートアップのアイデアの育てかた」(馬田隆明氏作成)に学ぶところが多かった。改めて感謝を申し上げたい。

本書の構成

本書は5章立てで起業して成功するまでの20ステージを紹介している。
第1章の「IDEA VERIFICATION(アイデアの検証)」では、スタートアップの準備段階で必須となる、どんな課題解決をスタートアップのアイデアに定め、それをどう磨き込むかを解説する。
第2章の「CUSTOMER PROBLEM FIT(課題の質を上げる)」では、第1章で磨いたアイデア(課題仮説)を、顧客が本当に抱えているのかを検証する。
第3章の「PROBLEM SOLUTION FIT(ソリューションの検証)」では、検証が済んだ課題仮説を実際に解決するにはどんな方法が適切なのかを検討する。実作業としてはプロトタイプ(試作)を用いたユーザーインタビューを行う。
第4章が「PRODUCT MARKET FIT(人が欲しがるものを作る)」。市場で顧客から熱狂的に愛されるプロダクトを実現するPMFの達成は、本書の最も重要な目標だ。市場の反応を検証するための実用上最小限のプロダクト「MVP」を構築して顧客の声を集め、熱狂的に愛されるプロダクトを実現するための改善を続ける方法を解説する。
最後の第5章は「TRANSITION TO SCALE(スケールするための変革)」。PMFを達成したプロダクトをユニットエコノミクス(顧客1人当たりの採算性)という観点から改善し、利益が出る状態を実現する方法を解説する。PMFが達成でき、ユニットエコノミクスがプラスになったらスタートアップはいよいよスケール(事業拡大)する段階に進むことができる。

第1章

第2章

第3章

第4章

第5章

本書が提供すること

自分たちが正しい方向に進んでいるかを判断するコンパスを提供する
スタートアップは、活動を始めてから、市場に熱烈に受け入れられるプロダクトを実現するPMFの達成まで、事業がどのくらい進捗しているのかを把握することは容易ではない。本書は、各ステージにおける進捗のチェックリストになり、スタートアップが正しい方向に進んでいるのかを確認できる。

時期尚早な拡大を防ぐためのガイドラインを提供する
スタートアップの多くは、アイデアや課題設定、プロダクトの検証が不十分なまま時期尚早な拡大に走ってしまう傾向がある(多くのスタートアップが時期尚早の拡大が理由で死んでしまう)。それを防ぐため、本書では、ステージごとにすべきこと、してはならないことの基準となるガイドラインを示す。リソースが限られるスタートアップが、無駄なことに注力して資金が尽きるという失敗の可能性を下げられる。

各ステージの目標を具体的なアクションに落とし込むノウハウ、ツールを提供する
本書では、抽象的な理論ではなく、スタートアップが実践できるノウハウ、フレームワーク、チェックリストなどのツールを提供している。スタートアップの経営者が、次に行うべき具体的な施策やアクションを明確に理解できる。

包括的な情報を提供する
私は5年の歳月をかけて、スタートアップに関する300冊以上の書籍、500本以上のブログを読み、1000本以上の動画を見た。さらに1000人以上の起業家・投資家などとディスカッションし、アドバイスやメンタリングを行った。そこに自分自身の起業経験・投資経験を加えたものをベースに本書を作り上げた。忙しい起業家にとって有用な情報の全体像が整理できる内容にまとめた。貴重なリソースである時間をセーブできるはずだ。

田所 雅之 (著)
出版社 : 日経BP (2017/11/2) 、出典:出版社HP

Contents

はじめに

Chapter1 IDEA VERIFICATION 【アイデアの検証】
1-1 スタートアップにとっての「良いアイデア」とは一
いかに課題にフォーカスするか
誰が聞いても良いアイデアは避ける
他の人が知らない秘密を知っているか?
なぜクレージーなアイデアが求められるのか?
スタートアップが避けるべき7つのアイデア
1-2 スタートアップのメタ原則を知る
スタートアップとスモールビジネスの違い
97%のことにNOと言えるか
スタートアップは極端に直感に反する
1-3 アイデアの蓋然性を検証する
スタートアップはタイミングが命
市場環境の流れを読む
PEST分析で「兆し」を見つける
破壊的イノベーションと持続的イノベーション
スタートアップの10のフレームワーク
ターゲットの市場に狙いを定める
1-4 Plan A(最善の仮説)を作成する
リーンキャンバスの書き方 ピボットの重要性と留意点
COLUMN サイドプロジェクトでアイデアを練る

Chapter2 CUSTOMER PROBLEM FIT 【課題の質を上げる】
2-1 課題仮説を構築する
課題の質を上げる
ペルソナを想定する
カスタマーの体験に寄り添う
2-2 前提条件を洗い出す
ジャベリンボードの使い方
2-3 課題~前提の検証
Get out of the building!
プロブレムインタビューの心得
仮説を修正していく

COLUMN 創業メンバーは課題が腹落ちしているか (ファウンダー・プロブレム・フィット)

Chapter3 PROBLEM SOLUTION FIT 【ソリューションの検証】
3-1 UXブループリントを作る
最適化する前に入念な検証をする
3-2 プロトタイプの構築
UX設計をベースにプロトタイプを実装する
3-3 プロダクトインタビュー
カスタマーの声がリスクを減らす
Problem Solution Fit終了の条件
COLUMN 共同創業するチームを作る

Chapter4 PRODUCT MARKET FIT 【人が欲しがるものを作る】
4-1 ユーザー実験の準備をする
リーン・スタートアップをより実践的にする
MVPの型を知る
4-2 MVPを構築する
MVPからの学びを最大化する
4-3 MVPをカスタマーに届ける
恥ずかしい状態のうちに市場に出す
マーケティングより直接対話する
4-4 MVPの評価を計測する
スプリントの繰り返しで評価を計測
定量分析で定番の指標を使う
定性分析のインタビューでインサイトを得る
4-5 新たなスプリントを回す
PMF達成へ再びスプリントを実行
PMFは達成できたか?
4-6 UXを磨き込む
UXがユーザーの愛着を左右する
ユーザーを定着させるUXの秘訣
分かりやすさがユーザー定着の決め手
4-7 ピボットを検討する
ピボットをするか
辛抱するか
残り何回ピボットできるか?
COLUMN PMF達成へ柔軟性の高いチームを作る

Chapter5 TRANSITION TO SCALE 【スケールするための変革】
5-1 ユニットエコノミクスを計測する
顧客が増えれば利益も増える形に
LTV(生涯価値)を計測する
5-2 顧客1人当たりのLTVを高める
顧客を長く定着させるには秘密がある
5-3 顧客獲得コスト(CPA)を下げる
PMF直後のCPAを把握する
オーガニックでCPA低減
情報をストックして幅広い層にリーチ

おわりに

編集協力=郷和貴
カバー・表紙イラスト=アフロ
オビの写真=菊池一郎、Snapchat

本書の図版は、スライド集『スタートアップサイエンス2017』をもとに作成した。
また、本書に掲載したURLは2017年10月初め時点のものである。

田所 雅之 (著)
出版社 : 日経BP (2017/11/2) 、出典:出版社HP