産業・組織心理学TOMORROW

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8テーマ別に解説

産業・組織心理学は職場や組織における人間行動を科学的に明らかにしようとしており、職場での問題解決に役立つ学問です。本書では、産業・組織心理学が扱う主要なテーマについての解説と、応用研究が現代社会におけるどのような課題の解決に活用されているのかについて解説しています。産業・組織心理学を学ぶ際の入門書としても活用できます。

田中 健吾 (著), 高原 龍二 (著)
出版社 : 八千代出版 (2020/12/2)、出典:出版社HP

執筆者一覧

田中健吾 大阪経済大学経営学部教授 11章・12章
高原龍二 大阪経済大学経営学部准教授 5章・6章
新原直樹 東筑紫短期大学食物栄養学科教授,大阪大学名誉教授 1章
縄田健悟 福岡大学人文学部准教授 2章
山下京 近畿大学経営学部准教授 3章・4章
井手亘 大阪府立大学大学院人間社会システム科学研究科教授 7章・8音
阿部晋吾 関西大学社会学部教授 9章・10章
前田洋光 京都橘大学健康科学部准教授 13章・14章
森泉慎吾 帝塚山大学心理学部講師 15章
上田真由子 大阪大学大学院人間科学研究科助教 16章

はじめに

経済政策の変化や天変地異など広範な影響をもたらすものから,ライバル 企業の新戦略や社内不祥事など影響範囲の限られたものまで、企業や労働者 を取り巻く状況は刻一刻と変化しており,多くの企業が生き残りのために工 夫を重ねている。そうした中で労働者の生産性や健康度を向上させるために, 心理学に期待されていることは少なくない。それに応えるべく研究が進められている分野が,産業・組織心理学 (industrial and organizational psychology)ある。行動の理解を追究する心理学の中でも,産業・組織心理学は職場や組 織における人間行動を科学的に明らかにする研究分野であり,その知識を職 場での問題解決に役立てることを志向している (e.g. Zedeck, 2012)。ちなみに, 産業・組織心理学は,「産業心理学 (industrial psychology)」という表現が用い られることも多い。歴史的には産業心理学という表現に組織という言葉が加 えられて、産業・組織心理学という表現になったとされる(馬場, 2017) が,今 日の日本においては明確には使い分けられていない。

産業・組織心理学では心理学の他分野と同様に、人や組織からの情報を収 集するために観察,面接,検査,調査,実験など多種の方法が用いられてお り,得られた情報を研究としてまとめる際にも,事例を詳述するなどの定性 的(質的)研究法,統計的手法を用いて仮説を検証するなどの定量的(量的) 研究法,あるいは両者を併用する混合研究法(mixed method)など多様な方法 が用いられている。
いずれの方法においても、科学としての根拠(エビデンス)に基づいた知見 が重視されることはいうまでもなく,単一の研究よりは複数の研究をまとめ たシステマティックレビューやメタ分析(メタアナリシス)による研究成果が 特に信頼される傾向にある。そのため、産業・組織心理学の研究分野におい ても、確固たる知見がまとまるまでにはかなりの時間が必要とされ、目まぐ るしい産業社会の変化に十分に追いつくことができているとはいいがたい。 産業・組織心理学の基礎的なトピックだけでは現代的な課題に対応することが困難だが、現代的課題に応じられる知見はいまだ十分に体系化されていな いというジレンマが存在するのである。

それでは、産業・組織心理学を学ぶ学生はどこに重点を置いて学習をすれ ばよいか。本書では,上記のジレンマに対応すべく, 産業・組織心理学が扱 う主要なテーマについてそれぞれ2章を設け,基礎的トピックと現代的課題について解説を行った。併せて読むことによって,基礎的な研究を学んだ上 で,それらを背景とした応用研究が現代社会におけるどのような課題の解決に活用されているのか,あるいは活用されようとしているのかを理解してい ただくことが狙いである。
産業・組織心理学が取り扱うテーマは広範囲にわたっており,様々に分類 されているが、日本の産業・組織心理学会では人事部門,組織行動部門,作 業部門、消費者行動部門の4研究部門を置いている。本書では,人事領域の テーマとして採用過程・人事制度 (7,8章),キャリア (9, 10章),組織行動領 域のテーマとして集団・組織と人の行動 (1, 2章),モティベーション(3.4 章)、リーダーシップ(56章), ストレス(11, 12 章),作業領域のテーマとし てヒューマンファクター(15,16章), 消費者行動領域のテーマとして消費者 行動 (13, 14章)を取り上げた。これらのテーマは他の産業・組織心理学の教 科書とほぼ共通するものであり,産業・組織心理学の領域を概ね網羅できて いるものと考えている。

本書の執筆に際しては八千代出版株式会社代表取締役の森口恵美子様,編 集部の井上貴文様に大変お世話になった。深謝の意を表する。

2020年8月
田中健吾・高原龍二

田中 健吾 (著), 高原 龍二 (著)
出版社 : 八千代出版 (2020/12/2)、出典:出版社HP

目次

はじめに

1章 集団・組織と人の行動(グループ・ダイナミックス)
1 集団パフォーマンス
2 集団意思決定
3 同調と服従と内部告発

2章 集団・組織と人の行動(グループ・ダイナミックス):現代的課題
1 チームワーク
2 コンフリクト
3 ダイバーシティの高まる職場

3章 ワーク・モティベーション(動機づけ)
1 モティベーションの概念
2 モティベーションの内容理論
3 過程理論
4 ジョブ・クラフティング

4章 ワーク・モティベーション:現代的課題
1 ワーク・エンゲイジメント
2 成果主義とモティベーション
3 自己決定理論の発展
4 超高齢化社会における女性と高齢者の働き方

5章 リーダーシップ
1 特性論
2 行動論
3 状況論
4 認知論
5 関係論
6 変革論
7 その他のリーダーシップ理論

6章 リーダーシップ:現代的課題
1 パワーハラスメントとリーダーシップ
2 リーダーシップと文化

7章 人的資源管理と採用選考
1 人的資源管理
2 採用選考

8章 人的資源管理と採用選考:現代的課題
1 多様化する雇用形態
2 ダイバーシティ

9章 キャリア
1 キャリアとは
2 キャリアの選択
3 キャリアの発達
4 キャリアの転機

10章 キャリア:現代的課題
1 流動化
2 脱組織化
3 長寿化
4 多樣化
5 キャリア・カウンセラー,コンサルタントの役割
6 今後のキャリア

11章 ストレス
1 ストレスとは
2 心理学的ストレスモデル
3 医学的視点に基づいた職業性ストレス理論
4 心理学的視点に基づいた職業性ストレス理論
5 職場不適応の心理学的視点による理解
6 心理学的職場ストレスモデル

12章 ストレス:現代的課題
1 職場ストレス
2 労働者の心の健康
3 職場ストレスに対する心理的支援と産業カウンセリング

13章 消費者行動
1 消費者行動とは
2 消費者の購買意思決定
3 消費者の価格判断
4 購買後の消費者心理

14章 消費者行動:現代的課題
1 購買意思決定過程に影響を及ぼす今日的問題
2 価格とお金にまつわる今日的問題
3 「選択」と「満足」における今日的問題
4 身体化認知と感覚マーケティング

15章 ヒューマンファクター
1 事故とヒューマンファクター
2 わが国における事故の実態
3 事故と不安全行動
4 リスク・マネジメント
5 これからの安全研究の方向性

16章 ヒューマンファクター:現代的課題
1 遮断かんのない踏切で自動車ドライバーに一旦停止してもらうには
2ホーム上の酔客による事故を減らすには
3 焦り慌てによるヒューマンエラーを防ぐには
4 ヒューマンエラーと心理学的考え

引用・参考文献
索引

田中 健吾 (著), 高原 龍二 (著)
出版社 : 八千代出版 (2020/12/2)、出典:出版社HP