第20巻 産業・組織心理学 (公認心理師の基礎と実践)

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産業・組織心理学の入門書

本書は、公認心理師を目指す人のための「公認心理士の基礎と実践」シリーズの20巻目です。産業・組織心理学における公認心理士の業務は、国民が「働くこと」に関連した多種多様な心理学支援の理論の研究と実践です。働くことを全般的視野から概説し、公認心理師の業務に関係する最先端の支援を選択し、外観していきます。

新田 泰生 (著), 野島 一彦 (監修), 繁桝 算男 (監修)
出版社 : 遠見書房 (2019/8/28)、出典:出版社HP

巻頭言

心理学・臨床心理学を学ぶすべての方へ
公認心理師法が2015年9月に公布され,2017年9月に施行されました。そして,本年度より経過措置による国家資格試験が始まります。同時に,公認心理師の養成カリキュラムが新大学1年生から始まります。

現代日本には,3万人を割ったとは言えまだまだ高止まりの自殺,過労死,うつ病の増加,メンタルヘルス不調,ひきこもり,虐待,家庭内暴力,犯罪被害者・加害者への対応,認知症,学校における不登校,いじめ,発達障害,学級崩壊などの諸問題の複雑化,被災者への対応,人間関係の希薄化など,さまざまな問題が存在しております。それらの問題の解決のために,私たち心理学・臨床心理学に携わる者に対する社会的な期待と要請はますます強まっています。また,心理学・臨床心理学はそのような負の状況を改善するだけではなく,より健康な心と体を作るため、よりよい家庭や職場を作るため、あるいは,より公正な社会を作るため、ますます必要とされる時代になっています。

こうした社会状況に鑑み、心理学・臨床心理学に関する専門的知識および技術をもって、国民の心の健康の保持増進に寄与する心理専門職の国家資格化がスタートします。この公認心理師の養成は喫緊の非常に大きな課題です。
そこで、私たち監修者は,ここに『公認心理師の基礎と実践』という名を冠したテキストのシリーズを刊行し,公認心理師を育てる一助にしたいと念願しました。

このシリーズは、大学(学部)における公認心理師養成に必要な25科目のうち、「心理演習」、「心理実習」を除く23科目に対応した23巻からなります。私たち心理学者・心理臨床家たちが長年にわたり蓄えた知識と経験を、新しい時代を作るであろう人々に伝えることは使命であると考えます。そのエッセンスがこのシリーズに凝縮しています。
このシリーズを通して、読者の皆さんが,公認心理師に必要な知識と技術を学び、国民の心の健康の保持増進に貢献していかれるよう強く願っています。

2018年3月吉日
監修者野島一彦・繁桝算男

はじめに

我が国の産業・組織心理学会の設立趣旨には,個々人および集団が人間の可能性を基盤として成長し,効率的であると同時に健康的かつ生きがいのある組織を形成し,心と行動の総合体として作業を遂行し,文化的生活者として消費することのできる条件を探究すると述べられている。
産業・組織心理学における公認心理師の業務は,国民が「働くこと」に関連した多種多様な心理学的支援の理論の研究と実践である。その心理学的支援を実施するには,本書の各章にあるように,さまざまな課題があり,そこに産業・組織心理学を学ぶ意義がある。公認心理師の心理学的支援が行われる組織・職場への認識を持つだけではなく、その背景にある経済・産業の動向,個人と組織との関係も学ぶ。
公認心理師の心理学的支援を考えた時,中でも個人と組織との関係は、充分に検討されなければならない。組織は,時に権力的に,自己利益に走りがちである。昨今の各国における自国利益第一主義もその現われである。そこでは,自己組織利益のために、個人の諸権利は抑圧される。また特定の弱者は,スケープゴートとして象徴的に攻撃対象となる。組織が自己利益第一主義に走る時は、法律を無視して、規則を破り、ファシズム化しがちである。

我が国においては、企業のコンプライアンス違反,官庁の付度による政権への迎合,果ては運動部のパワハラによるボス的な集団支配まで、集団の自己利益のために、個人に法律・規則を破る自己犠牲を求める組織風土が存在する。特に我が国の産業界においては、他国に類を見ない「過労死」という組織が個人に自己犠牲を強いる象徴的現象がある。また、ブラック企業においては、組織利益のためには、法律は破られ、若者の健康等の諸権利は否定される。もし過労死を黙認して、あたかも文化的にやむを得ない犠牲とみる風潮が日本文化の深層心理にあるとしたら、そこに日本の強圧的集団主義・集団規範の異常さがある。過労死,ブラック企業,企業のコンプライアンス違反、付度による権力への迎合等を総合的に考察すると、我が国は、欧米に見られるような「自立した働く個人」をいまだに実現できずにいる。我が国においては、働く個人の自立が今後も目指されなければならない。
公認心理師は、上記のような、さまざまな深刻な労働者問題を背景として、個々人の触れると血があふれでるような生々しい心理的傷口をアセスメントし、その心理学的支援を行い,関係者への調整支援と共に,健康的かつ生きがいのある組燃形成に少しでも寄与するという困難でありながらも意義深い仕事を目指す。

本書は,公認心理師養成のテキストという趣旨に基づき企画され,その企画趣旨に基づく編集方針によって執筆された産業・組織心理学である。第1部では,働くことを全般的視野から概説する。上に述べたように,働く個人が自立するためには,労働に関する法律の学習は重要である。よって本書では特別に紙数を割くことにした。第2部の働く人への支援は,公認心理師の業務に関係する最先端の支援を選択し,概観している。公認心理師を目指す読者のお役に立つことができれば幸いである。

2019年7月
新田泰生

新田 泰生 (著), 野島 一彦 (監修), 繁桝 算男 (監修)
出版社 : 遠見書房 (2019/8/28)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1部 働くことを考える
第1章 産業・組織心理学の意義と方法 新田泰生
1 産業・組織心理学の意義
2 産業・組織心理学の研究方法

第2章 産業組織とは 桐村晋次
1 経営戦略と産業組織
2 経営戦略に関する主な理論
3 経営組織の基本構造
4 事業部制,カンパニー制,SBU
5 組織の集団規範の功罪

第3章 組織における人間の行動―仕事へのモチベーションとリーダーシップ 森下高治・小畑周介
1 仕事へのモチベーション
2 リーダーシップ

第4章 働くことと法 小島健一
1 法を学ぶ意義
2 労働法の生成・発展
3 労働判例と労働契約法
4 雇用慣行の変遷と政策の現在
5 労働基準法
6 労働安全衛生法
7 労災保険法
8 安全・健康配慮義務
9 健康情報の取扱い
10 母性保護と女性労働者への支援
11 育児・介護休業法
12 非正規万 働者の保護
13 定年制と高年齢者雇用安定法
14 障害者雇用促進法
15 職場のハラスメントとメンタルヘルス対策
16 過労死・過労自殺の 向と対策
17 「ブラック企業」問題と労働監督行政
18 「働き方改革」 と労働時間上限規制
19 雇用平等とダイバーシティ&インクルージョン

第5章 ワーク・ライフ・バランスとキャリア形成 金井篤子
1 ワーク・ライフ・バランス
2 キャリア形成

第6章 産業臨床心理学の視点から 種市康太郎
1 産業臨床心理学とは
2 職業性ストレスモデル
3 ストレスチェックの活用―職場ストレスモデルを背景に
4 多職種との連携

第7章 産業保健の視点から 島津明人・小田原幸
1 産業保健制度
2 産業保健に関する施策と法令
3 産業保健におけるメンタルヘルス対策

第2部 働く人への支援
第8章 従業員支援プログラム(EAP) 市川佳居
1 EAPとは
2 EAP 技法の特徴
3 EAPの定義と EAP コアテクノロ ジーについて
4 任意相談 vsマネジメント・リファー
5 労働者の心 の健康の保持増進のための指針とEAP
6 EAPの各種サービス

第9章 組織へのコンサルテーションと心理教育―職場のメンタルヘルス対策 における理論と実際 松浦真澄
1 組織へのコンサルテーション
2 心理教育

第10章 復職支援―働くための能力の回復を目指す職業人への全人的支援 中村美奈子
1 復職支援の背景
2 復職支援の概要
3 復職支援の実際
4 まとめ:生涯発達を見通した全人的復職支援

第11章 再就職・障害者就労における心理支援 馬場洋介
1 再就職における心理支援
2 障害者就労における心理支援
3 まとめ

第12章 職場でのトラウマケア 藤原俊通
1 はじめに
2 危険を伴う職場で働く人々の心理
3 トラウマとは何か
4 トラウマのケア
5 組織におけるトラウマケア
6 トラウマケアの先にあるもの
7 おわりに

第13章 産業心理臨床における心理療法1―認知行動療法, アクセプタンス &コミットメント・セラピー 土屋政雄
1 はじめに
2 認知行動療法
3 アクセプタンス&コミットメント・ セラピー
4 事例

第14章 産業心理臨床における心理療法2―ブリーフセラピー 足立智昭
1 ブリーフセラピーの定義
2 ブリーフセラピーの3つの主要モデル
3 解決志向アプローチの面接
4 企業内心理職に求められる心理療法にお ける特徴
5 産業現場におけるブリーフセラピーを志向した関わりの実際

索引
付録
執筆者一覧・編者略歴 巻末

新田 泰生 (著), 野島 一彦 (監修), 繁桝 算男 (監修)
出版社 : 遠見書房 (2019/8/28)、出典:出版社HP