自治体の財政担当になったら読む本

【最新 地方自治体財政を学ぶおすすめ本 – 基本から実務まで】も確認する

新卒でも慣れてからでも役立つ一冊

自治体財政では細かい決まり事が多く、スケジュールもタイトなことがしばしばであるため、素早い情報処理が求められます。財政の現場で様々な行政改革をしてきた筆者によって詳細な説明が述べられているため、実務に役立つ仕事術を身に付けることができます。

定野司 (著)
出版社 : 学陽書房 (2015/10/17)、出典:出版社HP

はじめに

財政担当には、自治体全体の財政運営を司る財政課の職員と、事業を執行する部署で予算や
決算などを担当する職員の2通りがあります。
皆さんが、どちらの財政担当になったとしても、おそらく新人職員ではないでしょう。いくつかの職場を経験し、あるいは1つの分野の専門家として、成果を上げてきたからこそ、財政担当に抜擢されたのです。
ですから、自信を持ってください。
でも、決して過信してはいけません。なぜなら、皆さんがこれから相手にするのは、財政担当になる前の皆さんのように、それぞれの部署で力を発揮している職員ばかりだからです。
財政担当になる前、バリバリ仕事をしていたときのことを思い出してください。皆さんは、自分の仕事が自治体の仕事の中で重要な位置を占め、これからも永遠になくなることはなく、今の執行方法が最良の選択であると考えていたに違いありません。そして、仕事の中の重要なポジションを任され、そこで最高の仕事をしてきたことでしょう。「この仕事は他の職員に任せられない、心配だ」そう思っていたはずです。
ところが、実際はどうでしょう。皆さんがいなくても仕事は滞ることなく順調に進行しています。所詮、役所の仕事とはそんなものです。
でも、がっかりしないでください。
その仕事をよく見てみると、皆さんの発想やアイデアが引き継がれていることがわかります。役所も少しずつですが、進化しているのです。
これから先、財政担当になった皆さんは直接、事業に携わることはできません。財政担当にできるのは、事業に携わる職員の発想やアイデアが実現し、仕事に活かされるよう、支援することです。仕事は“ヒト”、“モノ”、“カネ”、“情報”、4つの要素で動いています。皆さんはそのうちの1つ、“カネ”を握っているのです。
もう一度、皆さんが財政担当になる前、バリバリ仕事をしていたときのことを思い出してください。皆さんは確かな「目標」を持っていたはずです。「目標」がなければ「成果」は見えません。「成果」を見せることができたからこそ、財政担当に抜擢されたのです。
もう、おわかりですね。
財政担当になって最初にやらなければならないのは、“カネ”勘定ではなく、「目標」を1つにすることです。財政担当である皆さんと事業に携わる職員の「目標」が同じでなければ仕事は進みません。
職員からたくさんの要求が上がってくることがあります。一方、自治体の使える“カネ”(予算)には限度があります。皆さんは、さまざまな場面でどれに優先して“カネ”を使うのか、使わないのか判断しなければなりません。
そうです。この判断の基準となるのが「目標」です。
「目標」を達成するため、皆さんが最善の道を選択すれば、事業に携わる職員の信頼を得ることができます。反対に、皆さんの判断がぶれてしまっては、職員の信頼を得ることはできず、仕事は進みません。
繰り返しますが、財政担当になった皆さんは直接、事業に携わることはできません。でも、事業に携わる職員と「目標」を1つにし、職員の発想やアイデアを仕事に活かし、「成果」を共有することはできます。そして、それこそが財政担当である皆さんの仕事なのです。
財政担当には、全庁の財政運営を司る財政課の職員と、事業を執行する部署の中で予算や決算などを担当する職員の2通りがあります。両者が激突する場面が「予算査定」です。
もう、おわかりですね。
「予算査定」は、敵味方に分かれて“カネ”(予算)のやり取りをする戦場ではありません。そうです。「予算査定」は「目標」を1つにする場なのです。
本書が、皆さんにとって最善の道を選択する一助になれば幸いです。

2015年9月
定野 司

目次

はじめに

第1章 財政担当の仕事へようこそ
1-1 財政担当の仕事って?
1-2 財政担当の年間スケジュール
1-3 財政担当必読の書
1-4 財政担当に欠かせない3つの力
COLUMN❶ スタートライン

第2章 決算
2-1 決算整理
2-2 決算とは
2-3 主要な施策の成果を説明する書類
2-4 決算審査
COLUMN❷ 網膜はく離

第3章 地方交付税
3-1 地方交付税とは
3-2 地方交付税のしくみ
3-3 地方財政計画
COLUMN❸ 米百俵

第4章 予算のしくみ
4-1 予算とは・会計とは
4-2 歳入歳出予算
4-3 繰越明許費
4-4 継続費
4-5 債務負担行為
4-6 地方債
4-7 一時借入金
4-8 歳出予算の各項の金額の流用
4-9 予算に関する説明書
4-10 予算の7つの原則と例外
COLUMN❹ 役所の養子

第5章 予算編成
5-1 予算編成の流れ
5-2 行財政運営方針の策定
5-3 予算要求
5-4 予算査定
5-5 予算内示
5-6 予算審議
5-7 予算の執行管理
5-8 中期財政計画
COLUMN❺ 足立区の包括予算制度

第6章 起債管理
6-1 地方債とは
6-2 地方債の協議と許可
6-3 地方債の借入れと償還
COLUMN❻ 時問貯金

第7章 財務分析
7-1 決算統計
7-2 健全化判断比率
7-3 行政評価
7-4 財務諸表
COLUMN❼ 貧困の連鎖

第8章 財政担当の仕事術
8-1 財政担当の3方向の交渉
8-2 効率的に資料を読み解くコツ
8-3 低い理想と早い妥協
8-4 相手にしゃべらせる
8-5 できないことにはNOと言う
8-6 譲歩を引き出すテクニック
COLUMN❽ 仕事を私事にかえよう

第9章 財政担当の心得
9-1 仕事に対するスタンスを持つ
9-2 エリート意識を持つ・捨てる
9-3 住民目線・市民感覚を忘れない
9-4 現場主義に立つ
9-5 論理的に物事を考える
9-6 コミュニケーションを大切にする
9-7 必ず1つは得意分野を持つ
9-8 固定観念を捨てる
COLUMN❾ 給与明細書

おわりに

《法令名の略記》

本文中で法令条文を引用する場合、下記の法令については略記した。
地方自治法……自治法
日本国憲法……憲法
地方財政法……地財法
地方公共団体の財政の健全化に関する法律……健全化法
例) 地方自治法第233条第1項 → 自治法233条1項

定野司 (著)
出版社 : 学陽書房 (2015/10/17)、出典:出版社HP