【最新 フェイクニュースを知るおすすめ本 – 真偽を見分けてメディアリテラシーを身につける】も確認する
今求められる情報術
誰が、なぜ「虚報」を流したのか? 世界は、どう変えられたのか? フェイクニュースの流布や扇動による情報操作が世界史にさまざまな影響を与えてきたことを指摘し、それがなぜ、何のために行われたのかを明らかにした本です。
はじめに
●フェイクニュースは伝統的な手法だった
5000年に及ぶ世界史の中で、独裁的な支配者、反体制のポピュリスト(大衆主義者)は、ウソ=フェイクニュース(偽ニュース、現在的にはマスメディアやソーシャル・メディアなどの虚偽報道)などの多様な情報を操作して大衆を扇動し、社会を動かしてきました。
近・現代になると国民国家が普及して、ポピュリズム(大衆主義、人民主義)と独裁には大衆の支持の獲得が必須になり、フェイクニュースを含む情報の操作で民主主義の形骸化が進みました。
特に、恐慌後の社会の不安定期には、大衆の生活が破壊されて社会不安が広がります。ポピュリストや独裁者が存在感を増し、フェイクニュースの流布や陰謀、扇動により国際政治が揺れ動きます。イタリアのファシズム、ドイツのナチズム、ソ連のスターリニズムなどは、巧妙なプロパガンダ(宣伝戦)により大衆を組織し悲惨な戦争に導きました。
それはアメリカ、イギリスの自由主義国も同じで、自らを「民主主義」の擁護者として、ニュルンベルク裁判史観、極東軍事裁判史観などの宣伝を図りました。
1990年代になると、インターネットが普及して情報過多の時代に移ります。現代では、私たちの見えないところでビッグデータが収集され、いつの間にか大衆が管理されるという時代に入りました。
インターネットは確かにとても便利ですが、人間が考え出した情報伝達、宣伝の道具ですから、「明」と「暗」があります。機能性が過多なインターネットは、時に暴走します。しかし、忙しい私たちの多くは、急激に機能を膨張させるインターネットに対応できるメディア・リテラシーを身につけることはなかなかできません。
メディア・リテラシーなどというと、何事かと思われるかもしれませんが、「民主主義社会におけるメディアの機能を理解し、あらゆる形のメディアのメッセージにアクセスでき、批判的に情報を分析、評価し、創造的な自己表現により社会に参画する能力」だそうです。
膨大な情報を集積させたインターネットがいつの間にか、世界史が育ててきた人権、国家システムなどを脅かす強大なモンスターに成長してしまったのです。
極端な話が、中国の超管理社会です。イギリスの作家ジョージ・オーウェルが1948年に『1984年』で批判的に描き出した以上の統制国家が、監視カメラとインターネットと画像認証などの諸システムにより、短期間で出来上がりました。『1984年』は核戦争後の近未来の監視国家を描いた小説で、「テレスクリーン」という双方向テレビ、街頭に仕掛けられたマイクにより、大衆の生活・行動が逐一監視される社会を描き出していますが、それをはるかに超える監視国家がイノベーションにより現実化しているのです。
○2016年の米大統領選挙で何が起きたか
優れた広告・宣伝の道具のインターネットが、フェイクニュースも取り混ぜた情報の操作で政治や経済に介入している現実もあります。どれだけの力を発揮したかは計測不能なのですが、2016年のアメリカ大統領選の際には、「ヒラリー(民主党)が過激派組織のIS(イスラーム国)に武器を供与した」とか、「ローマ教皇が共和党のトランプ支持を表明した」などのフェイクニュースが流されました。
面白く、気を引くようにフェイクニュースは工夫されますから、選挙民の関心が集まったのは当然です。クリミア危機、ウクライナ問題で民主党が大統領選に勝利することを好まないロシアが、フェイクニュースを大量に流して選挙に介入したともいわれています。
ロシアでは、ソ連の崩壊後に石油、天然ガスの利権を握ったユダヤ人財閥とプーチン政権の間に対立があり、ユダヤ人財閥を支持するアメリカの民主党政権によるロシア政治への介入が繰り返されてきました。プーチン大統領とアメリカの民主党政権の間には、強い対立関係があったのです。
2018年、ロシアによる大統領選挙介入疑惑の調査に当たった特別検察官ロバート・マラーは、ロシアの一連の世論工作(ロシアゲート事件)に関わったとして、ロシア人3人、ロシア企業3社を詐欺などで起訴しました。しかし、両陣営が「フェイク」であるとけなし合い、結局事実は闇の中に葬られてしまいました。
しかし、ロシアのサイバー部隊が民主党の候補者ヒラリー・クリントンや選挙責任者のメールを盗んで、その膨大な情報をケンブリッジ・アナリティカという会社に流し、「なりすまし」の手法により選挙戦に利用されたり、ロシアが動かすインターネット上のアカウントがフェイクニュースを拡散させたりしたことは、事実と考えられています。
●ポピュリストとウソが跋扈するわけ
第二次世界大戦後から1年、冷戦の終結・EUの成立から3年、リーマン・ショックから10年余りが経過しました。現在は、激しい時代の変化と古い意識の間のギャップが大きく、古い諸システムが金属疲労を起こし、経済も長期の低迷から抜け出せないでいます。大衆の間に、欲求不満が鬱積するのも当然です。
そうした状況は、ポピュリストに絶好のチャンスを与えることになります。実際、大衆に迎合し、人気取りのためにはフェイクニュースも厭わず、既存のエリート体制を批判・攻撃する政治的風潮がヨーロッパなどで強まりを見せています。
それは一概には悪いとはいえませんが、社会を不安定にしていることは事実です。情報の受け手の情報処理能力が追いついていないからです。
本書は、フェイクニュースの流布や扇動による情報操作が世界史にさまざまな影響を与えてきたことを指摘し、「それがなぜ、何のために行なわれたのか」を明らかにしていこうとするものです。
あらゆることが地球規模で動く現在と比べるならば、20世紀末までは随分とノンビリとした時代だったということを執筆しながら感じました。政治と経済のグローバル化、インターネットの急激な普及、サイバー空間での戦争の日常化が進んでいるのが現代です。
宮崎正勝
もくじ
はじめに
フェイクニュースは伝統的な手法だった?
2016年の米大統領選挙で何が起きたか
ポピュリストとウソが跋扈するわけ
①人気取りの政治家の出現でデマの歴史は始まった。
②共同体の外で、都合よく合理化・喧伝された奴隷制
③「酒池肉林」から始まる中国歴代王朝のウソとは
④迷信を利用して情報操作し皇帝の座についた王莽
⑤「ペルシア戦争の復讐」は建前!アレクサンドロスの真の目的とは
⑥「パックス・ロマーナ」は捏造だった?脚色されたローマ史
⑦「コーランか剣か」はアラブ遊牧民を敵視した大ウソ
⑧南宋の宰相は、リアリストゆえに「売国奴」の代名詞にされた
⑨十字軍とペストの流行が生んだユダヤ人迫害も、虚報と扇動から
⑩冴えない十字軍が発端の大キリスト教国という壮大なデマ
⑪開明的な中国商人が「倭寇」にされた意外な事情
⑫裏切り者に「残忍な王」のレッテルを貼られたドラキュラの悲哀
⑬宗教改革の時代に、なぜ知識人は魔女狩りを煽ったか
⑭「黄金の国ジパング」というデマが大航海時代の扉を開けた
⑮フランス経済を破綻させたジョン・ローの詐術と誇大広告
⑯革命画家は、英雄ナポレオンの虚像づくりにいかに加担したか
⑰エリートを攻撃して支持率アップ!「トランプ的、米大統領ジャクソン
⑱奴隷解放宣言を内外で使い分けたリンカーンの欺瞞
⑲ビスマルク発のフェイクニュースが普仏戦争を引き起こした
⑳ドレフュス事件という世紀の冤罪事件は、なぜ起きたのか
21大衆紙の捏造記事で火ぶたが切られた米西戦争
22ドイツ皇帝ヴィルヘルム二世はなぜ「黄禍論」を煽ったのか
23イギリスの三枚舌外交と「アラビアのロレンス」の苦悩
24「禁酒法」の時代に、移民への偏見が生んだ恐るべき冤罪事件とは
25見せかけのクーデターが成功して政権を握ったムッソリーニ
26自作自演の国会議事堂放火事件でナチスは独裁体制を固めた
27トンキン湾事件という謀略と米軍による北爆の開始
28江沢民は、いかに歴史を修正し共産党の立ち位置を変えたか
29SNSによる連想》の力で「アラブの春」は瞬く間に広がった
30日常化するハイブリッド戦争がさらなる社会不安を生み出す
Episode1プラトンが偽造したアトランティス伝説
Episode2雪と氷の島を「緑の島」と偽ったバイキング
Episode3鄭和の大艦隊は「天命」の証明に使われた
Episode4ロシアが「第三のローマ帝国」というウソ
Episode5聖女ジャンヌ・ダルクは、なぜ魔女とされたか
Episode6フェイクニュースの餌食にされた仏王妃の悲劇。
カバー画像*『サン・ベルナール峠を越えるナポレオン』/shutterstock
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図版作成*アルファヴィル