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「持続可能な地域」に向けての指針を定める
この本ではまず、日本で起きている数々の問題の実態を突きつけ、個々人が自分のこととして問題意識を持ち、問題解決の為にできることを実に多くの具体例を挙げて、わかりやすく発信してくれています。目的達成に向けて内的動機が高まる仕組みがたくさん詰まっている一冊です。
持続可能な地域とは「人と経済の豊かな生態系」が息づいた地域
持続可能な地域には、4つの豊かな生態環境がある
土、つながり協働し高め合う「地域コミュニティ」
場、道を照らしみんなを導く「未来ビジョン」
風、一人ひとりの生きがいを創る「チャレンジ」
水、未来を切り拓く力を育む「次世代教育」
はじめに
持続可能な地域づくりは、どうしたら可能だろうか?
一過性で終わらない、長期にわたる地域づくりには何が必要なのだろうか?
強力なリーダーに頼ることなく、住民主体でじわじわ地域を活性化できないだろうか?
過去の成功体験や他地域の成功事例に頼るのではなく、確かな知と科学的アプローチによる地域づくりを実践できないだろうか?
一部の住民のためでなく、誰一人取り残さない地域づくりは可能だろうか?
2008年にissue + designを設立以来、地域外のデザイナー、コンサルタントという立場から、地域内の一事業者としての立場から、全国各地で様々な地域課題解決プロジェクトに関わってきた。その過程で私自身が感じてきた問題意識を具体的な方法論というカタチにまとめたのが、本書である。
持続可能な地域を実現するために、私自身がここ数年活用してきたツールがSDGs(持続可能な開発目標)である。SDGsというと、国連が策定した地球レベルの巨大な目標のように聞こえる。しかし、この目標の背景にある考え方は様々な課題を抱える地域がまさに今必要としているものであり、私が現場で実践してきた地域づくりの本質を鋭く突いたものなのである。
本書は、そんなSDGsの考え方に基づき、地域課題の解決が日々の業務である行政のみなさん、地方創生やSDGsの視点から新しいビジネス・CSR活動を企画・実施している企業のみなさん、そして、何よりも自分がばらす地域の活性化のための事業や地域活動に取り組んでいる市民のみなさんに、持続可能な地域を実現するための具体的・実践的な方法論を示すことが目的である。
本書の構成
本書はパート1の知識編、パート2の実践編、そして終章の3つで構成される。
パート1は3章で構成される。
第1章はSDGsと地方創生の基本を理解するための導入の位置付けである。
第2章ではSDGsの17ゴールごとに、日本の地域に関連深いローカルイシューを合計55個、データとともに紹介する。人口減少、高齢化、社会保障費用の増加、教育、地域産業の衰退……地域が抱えている多くの課題は一見それぞれ独立していて互いに無関係に見えても、その根っこでは確実につながっている。持続可能な地域づくりを実践するためには、目の前にある特定の課題を理解するだけではなく、領域を超えて地域全体を俯瞰して捉える必要がある。
第3章は本書の核となるコンセプトを紹介する章である。地域の課題の背景にある5つの「負の連鎖構造」を紹介した上で、連鎖の解消と持続可能な地域を実現するためには「生態系の再生」が不可欠であること、そのために4つの生態環境を整える必要があることを提言している。
パート2は4つの章で構成される。第3章で提言した持続可能な地域に必要な4つの生態環境、土(地域コミュニティ)、陽(未来ビジョン)、風(チャレンジ)、水(次世代教育)、それぞれの地域にとっての意義、環境整備の方法論を1章ずつ紹介して
いる。
また、第3章から第6章の章末に、持続可能な地域づくりに必要な6つの技術を紹介している。この6つは、本書で紹介する全てのプロセスに関連する技術である。より理解が進むように、特に関連性が深い章の後に登場する構成としている。
終章で、私が考える経済成長ステージが終わりテクノロジーが進化した今の時代、日本人が求める「真の豊かさ」があふれる、地域での暮らしに関する考察で締める。
パート1知識編地域の持続可能性とSDGsを理解する
第1章introduction SDGsと地方創生
第2章analysis日本と地域の持続可能性実態
第3章proposal地域の生態系を再生する
技術1地図を描く技術
パート2実践編持続可能な地域づくりを実践する
第4章communityつながり協働し高め合う「地域コミュニティ」
技術2対話の場をつくる技術
第5章vision道を照らしみんなを導く「未来ビジョン」
技術3声を聴く技術
技術4未来を表現する技術
第6章challenge一人ひとりの生きがいを創る「チャレンジ」
技術5問いを立てる技術
技術6発想する技術
第7章education未来を切り拓く力を育む「次世代教育」
終章epilogue地域にある真の「豊かさ」
「地域」の定義
日本の基礎自治体(市区町村)は立地・産業・人口などの現在の状況と抱えている課題で、大きく3つのゾーンに分けられる。
ゾーン1都心・経済成長追求地域
ゾーン2郊外・超高齢化地域
ゾーン3中山間・超人口減少地域
ゾーン1は東京23区、大阪市など、政令指定都市に代表される地域である。人口が当面維持され、今後も日本経済、地域経済の中心地として経済成長が期待される。
ゾーン2は1で働く方の生活拠点となる大都市郊外の地域である。団塊世代がマイホームを構えた地域と重なり、既に退職しているシニア層も多い。現在、急速に高齢化が進んでいる。人口減少は既に始まっている地域も多いが、ゾーン3と比べると当面の減少ペースは緩やかな地域が多い。
ゾーン3は中山間・離島地域と呼ばれる、人口規模が小さく、過疎化・人口減少が急激に進行中の地域である。ゾーン2と比べて高齢化はひと山超えたところも多い。
本書の中で「地域」という言葉は、主にゾーン3の、人口減少が急激に進む小規模の基礎自治体を指している。ただし、例えば、人口150万人の神戸市は、タワーマンションとオフィスビルが立ち並ぶ典型的なゾーン1である大都会・三ノ宮を擁しながら、車や地下鉄で20分ほどの距離に典型的なゾーン3の大農村地帯・北区が位置する。ゾーン1の中にもゾーン2やゾーン3のエリアを含む自治体は多い。そのため、基礎自治体単位で、ゾーン1・2・3を分類することはできない。
ただし、前提として、本書で「地域」という単語は、「人口減少が急速に進む、人口規模の小さいエリア」を意味するものとして、読み進めてもらいたい。なお、「地方圏」という言葉は「三大都市圏(東京圏・関西圏・名古屋圏)」以外を意味している。
私自身、10年間の地域での活動を通じて、多くの地域で様々な方に助けられ、教えてもらい、多様な経験を重ねながら、地域づくりの実践に取り組んできた。その過程で得られた多くの知見を全て洗い出し、精査し、形式知化することで、経験や事例を元にする曖昧な地域づくりではなく、知識と科学に基づく「サイエンスとしての地域づくり」を体系化することを目指し、本書を執筆した。
本書を通じて、地域づくりの「サイエンス」をぜひ体感・実践していただきたい。
目次
はじめに
パート1知識編地域の持続可能性とSDGsを理解する
第1章 導入SDGsと地方創生
SDGsとは
地方創生とSDGs
世界は全てつながっている
インタビュー1国谷裕子氏
「中山間地域が地球の未来のカギをにぎる」
第2章 現状認識日本と地域の持続可能性実態
地域課題を包括的に理解する
SDGsイシューマップ:日本の55イシュー
インタビュー2森雅志氏
「都市の総合力が持続可能な地域をつくる」
第3章 提言地域の生態系を再生する
地域は生きている
生態系を壊す負の連鎖構造
再生に必要な4つの生態環境
技術1地図を描く技術
パート2実践編持続可能な地域づくりを実践する
第4章 土つながり協働し高め合う「地域コミュニティ」
つなぎ、育む。豊かな土壌
つながりが地域と住民にもたらすもの
コミュニティを育む
関係の質を高める対話
行政の役割
技術2対話の場をつくる技術
インタビュー3川延昌弘氏
「SDGsは未来を切り拓く最高のコミュニケーションツール」
第5章 道を照らしみんなを導く「未来ビジョン」
未来へ導く太陽
ビジョンづくりのポイント
1想いと仲間を集める
2未来を語り合う
3ビジョンを表現する
行政の役割
技術3声を聴く技術
技術4未来を表現する技術
第6章 風一人ひとりの生きがいを創る「チャレンジ」
小さな風が吹き続ける地域
風を起こすために必要な2つのこと
熱を生み、風を起こす場づくり
行政の役割
技術5問いを立てる技術
技術6発想する技術
インタビュー4山藤旅聞氏
「SDGsは子どもたちの学びと社会をつなぐ窓」
第7章 水未来を切り拓く力を育む「次世代教育」
未来とつながる日本の川
拡がる学習機会の地域格差
弱体化する育の生態系
激変する働く環境と必須スキル
対話型デザイン教育を地域に
SDGsとデザインが拓く市民教育
行政の役割
エピローグ地域にある真の「豊かさ」
貨幣経済に依存しない豊かさ
正しい時間で生きる豊かさ
自分の仕事ができる豊かさ
百姓として生きる豊かさ
身体と技術を使いこなす豊かさ
おわりに
参考資料