スポーツ栄養学最新理論〈2020年版〉

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スポーツ栄養学の応用

スポーツ栄養学の基礎的な解説をするのではなく、最新・最先端の知見を中心にして応用的な内容が紹介されています。話題になって注目されている分野に限定して、これからのスポーツ栄養学の展望を学ぶことができます。やや難易度が高めなので、他の書籍でスポーツ栄養学の基礎を固めてから本書に進むとより効果的です。

寺田 新 (著)
出版社 : 市村出版 (2020/11/1)、出典:出版社HP

2020年版
スポーツ栄養学最新理論
寺田新編著
市村出版

【編著者】寺田新 東京大学大学院総合文化研究科 准教将
【著者】
藤平杏子 東京都健康長寿医療研究センター研究所研究員
東田一彦 滋賀県立大学人間文化学部生活栄養学科 准教授
石橋彩  国立スポーツ科学センタースポーツメディカルセンター 研究員
日本学術振興会特別研究員(東京大学大学院総合文化研究科)
加藤弘之 味の素株式会社食品研究所主席研究員
川中健太郎 福岡大学スポーツ科学部教授
近藤衣美 国立スポーツ科学センタースポーツメディカルセンター研究員
近藤早希 日本学術振興会特別研究員(東京大学大学院総合文化研究科)
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所協力研究員
松井崇 波大学体育系助教
宮下政司 早稲田大学スポーツ科学学術院准教授
元永恵子 国立スポーツ科学センタースポーツ研究部研究員
下山寛之 筑波大学体育系助教
須永美歌子 日本体育大学児童スポーツ教育学部教授
吉野昌恵 山梨学院大学健康栄養学部准教授

はじめに

オリンピック・パラリンピックや世界選手権などでのメダル獲得のためには、選手の弛まぬ努力が必要なのはもちろんのこと,周囲のスタッフによるサポートも欠かすことができません.「栄養サポート」もそのような選手に対する重要なサポートの一つであり,その実践活動を支える学問分野である「スポーツ栄養学」に対する関心も高まっています.トップレベルの選手ではごく僅かな差で勝敗が決するため,スポーツ栄養士には,基本的な食事を整える手助けをすることに加えて,最新の知見・情報を取り入れてライバルに少しでも差をつけられるような栄養・食事サポートを行うことが求められます。本書では,スポーツ栄養に関する研究・論文報告を積極的に行っている日本人研究者の方々に,自身の研究成果も含めながら,世界のスポーツ栄養学における最新の知見について紹介・解説をしていただき,現場で活躍されているスポーツ栄養士の方々にその理論を広く知っていただくことを目的としています。
近年,スポーツ栄養学に対する興味関心が高まり,様々な書籍が出版されています。その多くが、スポーツ栄養学の基礎的な知識についての解説を目的として書かれていますが、本書は、そのような書籍とは一線を画した内容となっています。つまり,基本的な内容・知識を系統立てて説明したり,間違いのない確実な知識・理論を解説したりするのではなく,未だ可能性の段階にある手法も含めて最新・最先端の内容を中心に紹介する,というものになっています。したがって、スポーツ栄養学のすべての分野を網羅するというものではなく,この数年間で話題になっている・注目されている分野・手法に限定した内容となっています。この本の中で紹介されている新たな手法・理論を実際に現場で試してみたところ、素晴らしい成果が得られることもあれば、期待していたような成果が得られなかったということもあるかもしれません。そのような場合には,事例報告・症例報告として学会などで積極的に報告し、その情報を研究者と共有していただきたいと思っています。そのようにして,研究者とスポーツ栄養士との間で情報のやり取りが行われることで、その手法の改良や新たな手法の開発が進み,スポーツ栄養学が益々発展してくことになります.
上述したように,本書はスポーツ栄養学の「応用編」といった,やや難解な内容になりますので,初学者の方は,「エッセンシャル・スポーツ栄養学」(市村出版)などで基礎的な勉強をしてから,本書に進まれることをお勧めいたします.本書のタイトルに「2020年版」という言葉が入っていますが,これは、もし本書の内容が好評であれば,また次のオリンピック・パラリンピックイヤーに「2024年版」として内容を全面改訂したものを発刊したいという希望を持っているためです(残念ながら,東京オリンピック・パラリンピックは2021年に延期となってしまいましたが…).改訂の際には,その時点でスポーツ栄養学研究の最前線にいる研究者に執筆をお願いする予定です.私を含めて,著者が大幅に入れ替わる可能性もあります.4年後も研究の最前線で活躍し、この本の執筆者となれるように,スポーツ選手の方々と同様に,研究者もお互いに切磋琢磨していきたいと思っています.
2020.8.
編集者寺田 新

寺田 新 (著)
出版社 : 市村出版 (2020/11/1)、出典:出版社HP

目次

1章 糖質摂取とパフォーマンス ……川中健太郎・松井崇
1. 筋と肝のグリコーゲンに関連した研究
(1) 運動中の糖質利用と疲労
1) 運動強度と糖質利用
2) 筋グリコーゲンと疲労
3) 肝グリコーゲンと疲労
(2) 試合前日までの糖質補給
1) 筋グリコーゲンローディング
2) ファットローディング
(3) 試合当日の糖質補給
(4) 試合中の糖質補給
1) グルコース摂取 .
2) グルコースとフルクトースの混合摂取
(5) 試合終了後の糖質補給
1) 糖質摂取のタイミングと量
2) たんぱく質と糖質の同時摂取
3) 摂取する糖質の種類
(6) トレーニング期の糖質補給
1)ガイドラインで推奨されている糖質摂取量
2) 糖質制限下でのトレーニング
2. 脳グリコーゲンに関連した研究
(1) 脳グリコーゲン:脳内唯一の貯蔵エネルギー
(2) 運動による脳グリコーゲンの減少と超回復
(3) 筋グリコーゲンローディング(筋GL)が脳グリコーゲン貯蔵に及ぼす影響
(4) 海馬グリコーゲンローディング(海馬GL)の開発:
海馬を標的とするよりシンプルなGL条件探索
1)高糖質食の影響
2) 運動の影響

2章 たんぱく質・アミノ酸摂取とパフォーマンス…… 加藤 弘之
1. 運動選手におけるたんぱく質摂取の3つの役割
(1) 運動後の筋肥大
(2) 運動後の筋損傷の回復
(3) 運動中のエネルギー源の補給
2. 運動選手のたんぱく質摂取推奨量に関する最新動向
(1) 現時点のたんぱく質摂取推奨量
(2)「推定平均必要量」と「摂取推奨量」
(3) 筋肥大を目的とした場合のたんぱく質摂取推奨量に関する最新知見
(4) 持久運動選手に関するたんぱく質摂取量に関する最新知見
(5)たんぱく質摂取推奨量に影響を及ぼす因子
3.効果的なたんぱく質摂取法1:摂取タイミング
(1) 運動後のタイミング
(2) 運動前と運動後
(3) 1日を通じたたんぱく質の最適な摂取パターンとは…
1) 1回の摂取量
2)何回に分けて摂取するべきか
3) 睡眠前のたんぱく質摂取の効果
4) たんぱく質摂取タイミングによる効果の違いに対する反論
4. 効果的なたんぱく質摂取法2 :たんぱく質の「質」
(1) たんぱく質の質とは
(2) たんぱく質の「質」の違いが及ぼす筋たんぱく質合成,および体組成への影響
(3) 乳たんぱく質の「質」の違いの影響
(4) 乳たんぱく質とステーキの違い
(5) 筋たんぱく質代謝に及ぼすたんぱく質の「質」の違いの一要因:アミノ酸組成
5.たんぱく質摂取の安全性について
6. アミノ酸を活用した1日のたんぱく質摂取量の軽減の可能性
まとめ

3章 脂質摂取とパフォーマンス 寺田新
1. 国際的なスポーツ栄養の公式見解における脂質摂取についての考え方
2. 各代謝機能に及ぼす脂質摂取の影響
(1) 糖代謝との関係
(2)たんぱく質代謝との関係
(3) 脂質代謝との関係
1)ファットアダプテーションとは
2) ケトン食とは
3) ケトン食のメリット
4) ケトン食のデメリット
5) ケトン食はパフォーマンス向上において有効か
6) ケトン体サプリメントの摂取による効果
3. 糖質と脂質の適切な摂取比率

4章 微量栄養素(ミネラル・ビタミン)とパフォーマンス
……東田 一彦・石橋彩
1. ミネラル
(1) カルシウム
1) 体内でのカルシウムの働き
2) 運動時のカルシウム代謝
3) カルシウム欠乏の評価と必要量
(2) 鉄
1) アスリートにおける鉄の働きと貧血の評価
2) ヘプシジン(鉄代謝ホルモン)
3) 糖質,エネルギー不足と鉄欠乏
4) 鉄を摂るタイミング
5) 鉄の必要量
2. ビタミン
(1) ナイアシン
1) ナイアシンとNAD合成経路
2)スポーツパフォーマンスとナイアシン
(2)ビタミンD
1) ビタミンDの働き
2)アスリートにおけるビタミンD不足
3) 筋機能およびパフォーマンスに及ぼすビタミンD摂取の影知
4) 基準値について
まとめ

5章 運動と食欲調節……宮下政司・藤平 杏子
1. 運動に対する食欲の評価の意義
2.食欲調節
(1) 中枢における食欲調節
(2) 末梢における食欲調節
3. 運動と食欲調節
(1) 急性の運動による食欲への影響
(2) 慢性の運動による食欲への影響
(3) 肥満予防の視点
1) 運動様式,運動継続時間および運動強度
2) 肥満遺伝子
(4) 運動後の栄養摂取の視点
1) 栄養摂取
2) 外部環境
おわりに

6章 消化・吸収系機能とパフォーマンス…近藤早希・寺田新
1.長時間運動中における糖質飲料の摂取と消化・吸収系機能
2、食事に対する消化・吸収系機能の適応
3. 一過性の運動が消化・吸収系機能に及ぼす影響
4.長期的なトレーニングが消化・吸収系機能に及ぼす影響
まとめ

7章減量とパフォーマンス…近藤衣美・下山寛之
1 アスリートのエネルギーバランスと身体組成変化の特徴
2.代謝適応、生理学的代謝反応の狩猟採集民族との比較
3. 狩猟採集民族との比較と総エネルギー消費量の配分
4. 減量速度と競技力の関係
5. 減量を行うと走パフォーマンスが向上する理論
6. 体重階級制競技の減量
7. ウォーターローディング

8章 女性アスリートに関する諸問題
(エナジーアベイラビリティー, RED-S) …… 須永美歌子
1. エナジーアベイラビリティー
(1)定義
(2) 測定方法
(3) 基準値
2. エネルギー不足の生化学的指標
(1) レプチン,グレリン
(2) トリヨードサイロニン, サイロキシン
(3) コルチゾール
(4) インスリン様成長因子-1
3. LEAに関連する健康障害と運動パフォーマンスへの影響
(1) 生殖機能
(2) 骨
(3) 循環器系
4. 運動パフォーマンス
おわりに

9章 パラアスリートへの栄養指導・栄養サポート…..元永恵子・野昌恵一
1. アセスメントおよびモニタリング項目と留意点
(1) 食事調査
1) 食事調査の方法と注意点
2) 食事調査結果の評価
(2) 体重測定
1) 肢体不自由
2) 視覚障がい
3) 知的障がい
(3) 体組成評価
1) DXAE 2)空気置換法(ADP) 3) BIA法
4) 皮下脂肪厚法. 2. 最近のトピックス
(1) 利用可能エネルギー不足(low energy availability: LEA)
(2) 暑熱対策と水分摂取
1) 脊髄損傷
2) 切断・欠損
3) 脳性麻痺
(3) サプリメント
1)カフェイン
2)クレアチン
3) ビタミンD
4) サプリメント使用時の留意点
3. 実際の栄養サポート
(1)視覚障がいのあるアスリートの栄養サポート
(2) 脊髄損傷のあるアスリートの栄養サポート
おわりに

索引

寺田 新 (著)
出版社 : 市村出版 (2020/11/1)、出典:出版社HP