1から学ぶスポーツ生理学【第2版】

【最新 スポーツ学について学ぶためのおすすめ本 – スポーツ生理学・栄養学の基本理論から実践メソッドまで】も確認する

知識をすぐに現場に活かす

スポーツ生理学の基盤となる学問は、化学、生物学など多岐にわたる学際的な領域です。そのため全てをすぐに現場に活かすことは難しいです。本書は、そんなスポーツ生理学の知識と現場とをつなぐ架け橋の役割を担ってくれる1冊です。スポーツ生理学の基本だけでなく、近年注目されている女性スポーツまで大きく取り上げています。各章にコラムや確認問題があるので、実践知として身につきやすいです。

中里 浩一 (著), 岡本 孝信 (著), 須永 美歌子 (著)
出版社 : ナップ; 第2版 (2016/3/18)、出典:出版社HP

1から学ぶ(第2版スポーツ生理学」
日本体育大学教授)中里浩一日本体育大学教授岡本信日本体育大学教授須永美歌子

第2版序文

2012年4月に「1から学ぶスポーツ生理学」を発刊してから多くの方にさまざまなご意見をいただきました。図らずもというと著者の言葉としては少し無責任に感じられるかもしれませんが、おおむね好意的なご意見であり大変ありがたく感じました。また著者らの本務校である日本体育大学のみならず,数多くの教育機関において教科書に採用していただいたことは望外の喜びでした。
さまざまなご意見の中には単純なまちがいのご指摘もありました。われわれ著者が講義で用いていて不都合を感じる箇所もありました。今回版改訂のご提案があった折,単純なまちがいの変更はもちろん,それ以外に変更すべき点を著者間で協議しました。その結果,大きく以下の2点を変更することにしました。
1点はコラムの追加です。スポーツ生理学は長い歴史を経て積み上げられてきたものであり,実験科学に裏づけされたゆるぎない内容が大部分です。一方で,これは初版の序文でも触れましたが,競技スポーツ科学あるいは健康スポーツ科学の最前線は常に考え方の見直し,データの収集が行われている分野でもあります。同じ書物の中でこの両者を包含することは通常困難ですが、日々研究の現場にも触れている著者らとしては,日進月歩のスポーツ生理学の研究現場の雰囲気だけでも伝えることはできないかと思案しました。その結果,各章にコラムを加えることにしました。ただし最先端の研究を紹介すること以上に,教科書の一歩先に興味をもってもらえるような内容にすることで初学者にも親しみをもってもらえることを意識しました。
2点目は「女性とスポーツ」の章の追加です。初版を発刊して以降,パラリンピック選手や女性スポーツ選手の活躍に注目が集まるようになってきています。それと同時に女性スポーツ選手の健康やスポーツにおける性差にも関心が寄せられるようになりました。すでに日体大では女性スポーツ選手を対象とした先駆的な研究が行われています。これまでのスポーツ生理学の教科書では女性スポーツを大きく取り上げたものは少なく,本書の重要な特色になると思います。
初版の序論で述べた通りスポーツ生理学を学習したいと思っているすべての皆様にとって、本書がスポーツ生理学を理解するうえでの手助けになることを心より祈っております。

2016年3月
著者を代表して中里浩一

私は2003年度より日本体育大学にて学部や大学院でスポーツ生理学やかかわる講義を担当してきました。途中1年間のブランクがありましたが,計8年間さまざまな学生さんたちと接してきました。そのなかで強く印象に残っているのは競技者,コーチ,トレーナー,教員など目標は、さまざまでも,意識の高い学生さんほど自分の目標に必要な知識を貪欲に求めているということでした。それはやみくもに練習をしているだけでは勝てないし、自分が指導者になったときに適切な指導ができないという真摯な気持ちの現れにほかならないと思います。
その一方で生理学,とりわけスポーツ生理学はいわゆる学際的な領域であり,基盤となる知識は化学や生物学をはじめとして多岐にわたります。そして科学技術の進歩に合わせていまもその領域は拡大しています。しかも競技の場面では,最新の研究を取り入れより高いパフォーマンスを得ようとしています。高等学校を卒業したばかりの学生さんがスポーツ生理学が対象とするすべての内容を学習し、それらすべてを咀嚼し現場で活かすということは,そう容易ではないということは講義担当者として実感してきました。
本書はスポーツ生理に関する知識を希求している学習者と最新のスポーツ生理学とをつなぐ架け橋のような役割をもたせることを目標として作成されました。特に導入では可能な限り平易な表現や例を出すことを心がけながらも、最終的に到達するところはある程度最近の研究内容も含まれているかあるいは理解できるということを目指しました。本書の「1から学ぶ」という名称はそのような意味合いがまれています。
生理学の理解を困難にしているそのほかの要因として,生理学における学習内容が多段階・多要因の事象であるということがあげられると思います。学習者の多くはまず各臓器別に生理学を理解しようとします。しかし、結局競技におけるパフォーマンスは多臓器間の相互作用の結果ですので、知識と実際のスポーツ現場との乖離が発生する原因になりかねません。そこで本書では、生理的な事象は多臓器の相互作用の結果であるという理解を助ける試みとして序章を設定しました。序章には各章(各臓器)の関連性が記載されています。内容として決して十分とはいえませんが、生理学的事象の全体像を理解することの一助になればと思います。
今回の執筆は日本体育大学でスポーツ生理学の講義を担当している全教員が分担して行い、最終的には全員でその内容を精査しました。したがいまして、本書に含まれる内容は本学の学生さんたちをはじめとする競技スポーツにかかわる人たちにとって学んでほしいものであるということと,初学者であっても読み進めていくことができる程度の難易度であるということを確認しています。特に本学の学生さんにとっては本書を講義と併用することで一層の学習効果が期待できると思われます。
スポーツ生理学を学習したいと思っているすべての皆様にとって、本書がスポーツ生理学を理解するうえでの手助けになればこのうえない幸せです。

2012年4月
著者を代表して中里浩一

中里 浩一 (著), 岡本 孝信 (著), 須永 美歌子 (著)
出版社 : ナップ; 第2版 (2016/3/18)、出典:出版社HP

もくじ

【序章】恒常性を維持しようとするからだとスポーツ-
Ⅰ.細胞外液はからだの内部環境である
1.ヒトのからだは細胞でできている
2.細胞外液は体内環境である
II.ヒトのからだは常に細胞外液の“恒常性”を保とうとする
1.恒常性
2.体内の細胞外液の循環が細胞外液の恒常性を保つ
3.からだのさまざまな臓器が細胞外液の恒常性を保つ
4毛細血管は細胞と細胞外液とが物質のやり取りをする場所である.
III.神経系と内分泌系は細胞外液の恒常性を保つ司令塔である
1.神経系はからだ全体の恒常性を見張り,命令を下す
2.内分泌系は血流を介して全身に指令を伝える
1IV.スポーツと細胞外液の恒常性
【第1章】スポーツ生理学の化学的基礎1-炭水化物,脂質タンパク質-
I.スポーツに重要な栄養素は6つある
II.グリコーゲンとグルコースは生体内の重要な炭水化物である
「III.炭水化物(糖質)の主な役割はエネルギー源である
IV.脂質の主な役割は低強度運動におけるエネルギー源である
V.タンパク質はアミノ酸からできている
V.タンパク質は筋肉や骨を形づくる
Column1和菓子は日本人アスリートのリカバリー食?
確認問題
【第2章】スポーツ生理学の化学的基礎2-ATP1合成
I.ATPはあらゆる生命活動のエネルギー源である
II.ATPを産生する仕組みには3種類ある
III.解糖系は酸素を要することなくATPをつくる仕組である
IV.有酸素系は酸素を用いてミトコンドリアでATPをつくつくる仕組みである
V.ATP-PCr系はクレアチンを用いてATPをつくる仕組みである
VI.3つのATP合成系はATPの合成速度や合成量が異なる
VII.三大栄養素はすべてATPをつくるためのエネルギー源になりうる
Column2乳酸に申し訳ない・・・。
確認問題
【第3章】骨格筋の構造と働き
I.骨格筋は力を発揮して骨を動かす
1.筋は平滑筋,心筋,骨格筋に分けられる
2.骨格筋は腱を介して骨に力を伝える.
3.骨格筋の力の方向と腱の走行は必ずしも一致していない
II.筋原線維が骨格筋の力を生み出す.
1.骨格筋は筋線維の束である.
2.筋原線維は基本単位(サルコメア)の繰り返しでできている
3.アクチン線維とミオシン線維はタンパク質の集合体である
4.筋線維が太くなれば骨格筋が太くなり、より大きな力が生まれる
5.筋衛星細胞(筋サテライト細胞)は筋損傷の修復において重要である
6.骨格筋は長さによって発揮する力に差が生じる
7.骨格筋は収縮する速度によって発揮する力に差が生じる
III,持久性の高い骨格筋と持久性の低い骨格筋ではATPのつくり方が異なる
1.筋線維には持久性の高い線維と低い線維がある・・33
2.遅筋線維では主に酸素を利用してミトコンドリアでATPを産生する。
3.速筋線維では主に解糖系およびクレアチンを使ってATPを合成する
4.持久性の高い筋線維と持久性の低い筋線維は発揮する筋力の性質も異なる
IV.骨格筋の伸展性は筋線維とそれを包む筋膜や腱と関係している
1.骨格筋の伸展性は,関節の柔軟性を決める要因の1つである
2.骨格筋と筋膜,腱をまとめて筋膜複合体と呼ぶ
3.筋膜複合体の伸展性を決める要因は大きく2つに分けられる
4.コネクチンは筋膜複合体の伸展性に影響を与える筋線維内のタンパク質である
5.コラーゲンは筋腱複合体の伸展性に影響を与える筋線維外のタンパク質である
6.トレーニングによるコネクチンおよびコラーゲンの変化は今後の検討課題であるColumn3身もだえする学生アスリートたち
確認問題
【第4章】神経組織とスポーツ
Ⅰ.中枢神経と末梢神経
1.神経組織は中枢神経と末梢神経に分けられる
2.神経細胞は細胞体と神経線維でできている
3.中枢神経は灰白質と白質に分けられる
4.末梢神経は自律神経と体性神経に分けられる
5.体性神経は運動神経と感覚神経に分けられる
6.自律神経系による調節は無意識に行われる
II.神経細胞と筋
1.筋線維には運動神経がつながっている
2神経線維を伝わる活動電位が筋力や筋の収縮を調節している
3.神経の電気信号を筋の収縮に変換する仕組みを興奮収縮連関と呼ぶ
4.異なる筋線維タイプには異なるタイプの神経が結合している
5.筋力トレーニングや脱抑制による神経系の変化が発揮筋力を増大させる
III.中枢神経と運動
1.骨格筋,腱,靱帯には力を感じるセンサーがある
2.伸張反射は運動中の重要な反射である
3.Ib抑制反射によって筋は弛緩される
4.脳が随意運動を司る
Column4意識が高ければ復帰も早い
確認問題
【第5章】呼吸器系とスポーツ
I.呼吸器の構造
1.呼吸器は気管・気管支・肺に分けられる
2.呼吸は呼吸筋によって行われる
II.呼吸器の働き
1.呼吸とは酸素と二酸化炭素の交換である
2.酸素は肺で二酸化炭素と交換される
3.取り込まれた酸素は気圧の低いほうへ受け渡される.
4.取り込まれた酸素はすべて使用されているわけではない
5安静時に取り込まれた酸素から生命維持に必要なエネルギー量がわかる
6基礎代謝量は呼吸,心拍、体温の維持などで構成される.
III,呼吸器系と運動トレーニング
1.運動強度が増加すると呼吸数も増加する
2.運動中は酸素がたくさん取り込まれる
3.酸素摂取量を測定すると消費エネルギーが測定できる
4.METsを使うと消費カロリーが推定できる
5.呼吸をみれば運動中のエネルギーに何が使われているかがわかる
6.運動中の換気量はある地点から急激に増加する
7.激しい運動時は酸素を借りている
Column5高強度・間欠的トレーニングは
有酸素性能力と無酸素性能力を同時に高める
確認問題
【第6章】循環器系とスポーツ
I.心臓と血管の構造
1.心臓には4つの部屋がある.
2.血管は動脈・静脈・毛細血管に分けられる。
II.心臓と血管の働き
1.血液は心臓から送り出される
2.心臓は電気刺激によって動いている
3血圧は動脈に加わる圧力である
II.心臓と運動トレーニング
1運動を開始すると心拍数と1回拍出量は増加する
2.運動を開始すると血圧は増加する
3.心拍数は運動強度を表わす
4.有酸素性トレーニングによって心機能は高まる
5.スポーツ選手の心臓は大きい
IV.血管と運動トレーニング
1.運動強度が増加すると血流量は増加する
2運動中の血流は活動筋に対して優先的に分配される
3.スポーツ選手の血管は太い
4有酸素性運動トレーニングは動脈伸展性を増加させる
5.筋力トレーニングは動脈伸展性を低下させる
Column6オリンピックのメダリストは長生き
確認問題
【第7章】内分泌系とスポーツ
I.内分泌系とは
1.ホルモンは内分泌組織で分泌され,標的細胞の受容体と結合して作用する
2.ホルモンには水溶性と脂溶性がある
3.ホルモン分泌量はネガティブフィードバック機構によっても調節されている
II.内分泌系と運動トレーニング・
1.運動ストレスに対して高まるホルモンをストレスホルモンという
2.筋肥大に影響を与えるホルモンがある
3.脂肪の分解に影響を与えるホルモンがある
4.オーバートレーニングはホルモン分泌異常を引き起こす
Column7筋肥大のためにはお酒はほどほどに?
確認問題
【第8章】体液・血液とスポーツ
I.体液の量と組成
1.体液量は体重の約60%を占める
2.体液には電解質が含まれる.
3.体液量を一定に保つ仕組みがある
4.体液のpHを一定に保つ働きを緩衝作用という
5.体液量の低下や電解質の損失によってパフォーマンスが低下する
6.水分は運動前・中・後にこまめに補給する
II.血液の成分と働き
1.血液の成分は血漿,赤血球,白血球,血小板に分けられる
2赤血球変形能はトレーニングによって高まる
3.低~中強度の運動は免疫機能を高める
4血漿量は急性運動後に減少し,持久性トレーニングによって増加する
5運動性貧血には鉄欠乏性貧血,溶血性貧血,希釈性貧血がある
Column8水は飲みすぎるとからだに悪い!?
確認問題
【第9章】スポーツとウエイトコントロール
I.身体組成
1.身体は筋・脂肪・内臓・骨で構成されている
2.体脂肪はエネルギーである
3.体重が重いだけでは肥満ではない
4.筋肉はエネルギーを消費する
II.減量
1.減量とは体脂肪を減らすことである。
2.サウナに入って体重が落ちてもやせたわけではない
3.効果的な減量はパフォーマンスを下げない
II.増量.
1.増量とは筋肉を増やすことである
2.効果的な増量はパフォーマンスを上げる
3筋力トレーニングによる増量はタンパク質の同化と異化のバランスで決まる
Column9トレーニングを休むともとの体力を取りもどすのに休んだ期間の倍かかる?
確認問題
【第10章】外的要因とスポーツ
I.暑熱,寒冷
1.体温は熱の獲得と喪失で決まる
2.高温あるいは寒冷環境に対するからだの反応は視床下部によって調節される
3.運動強度が高くなると体温も高くなる
4.寒冷下では筋のふるえにより体温を上げるため、パフォーマンスは低下する
II.高地
1.高地環境では空気と酸素の量が低下する
2.酸素濃度が低下すると呼吸や循環および血液の変化により
体内酸素運搬を高めようとする
3.高地トレーニングは主に血中ヘモグロビン量や赤血球の増加を期待した
トレーニングである
Column10みんな地球に生きている
確認問題
【第11章】内的要因とスポーツ
I.加齢に伴う身体諸機能の変化
1.こどもの身体機能は発育期にめまぐるしく変化する
2.発育期における運動能力は10代に完成する
3.子どもの筋機能分化は、小学校中学年以降に生じる.
4.加齢に伴い身体機能は低下する
5.加齢は運動機能を低下させる
6.基礎代謝量は加齢とともに低下する
II.運動と遺伝子
1.遺伝子はタンパク質の設計図である
2.遺伝子は多型性を有している
3.ACE遺伝子のI/D型遺伝子多型は循環器系と関連した遺伝子多型である
4.ACTN3遺伝子のR/X型遺伝子多型は筋に関連した遺伝子多型である
III.スポーツパフォーマンスの男女差
1.骨格筋量の男女差は下半身より上半身のほうが大きい.
2.持久性パフォーマンスの男女差は少ない
Column11三毛猫と遺伝子の複雑な話
確認問題
【第12章】女性とスポーツ
I.女性の身体的特徴
1.健康な成人女性は妊娠・出産が可能である
2.女性アスリートの三主徴
II.月経周期
1.正常な月経周期は25~38日である
2.月経周期は基礎体温の測定でわかる
3.月経周期に伴いコンディションは変化する
4.月経周期はパフォーマンスに影響を与える可能性がある
Column12女性にとって体重をキープすることは難しい?
確認問題
参考文献
索引

中里 浩一 (著), 岡本 孝信 (著), 須永 美歌子 (著)
出版社 : ナップ; 第2版 (2016/3/18)、出典:出版社HP

序章 恒常性を維持しようとするからだとスポーツ

この教科書は、筋肉や心臓などスポーツを行う際に重要な臓器や組織について,臓器別・組織別にそれぞれを説明するような内容になっています。
ところが、からだのなかで臓器はそれぞれ別々にあるわけではなく、互いに影響を受けたり、与えあったりしています。そのときの重要な考え方として、からだの内部環境を一定に保とうとする働きがあるということがあげられます。
この序章では、この教科書を読む際の前提として、スポーツに対する適応・変化をからだ全体の変化としてとらえてみたいと思います。
なおこの章のいろいろな箇所に関連した章を示してあります。より深く勉強する際には、それぞれの章を参照してください。あるいはそれぞれの章を勉強した後に改めてこの章を読んでみるのもいいかもしれません。

中里 浩一 (著), 岡本 孝信 (著), 須永 美歌子 (著)
出版社 : ナップ; 第2版 (2016/3/18)、出典:出版社HP