算数でわかる天文学 (岩波オンデマンドブックス)

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挫折なしで天文学を学べる

天文学や宇宙論の専門書は、高度な数学の知識が必要で敷居が高いイメージがあり、興味があってもなかなか手をつけられないという方が多いでしょう。本書では、算数や高校数学が少し分かれば、天文学の基本をしっかりと学ぶことができます。一般教養書と専門書の架け橋となってくれる1冊です。

ダニエル・フライシュ (著), ジュリア・クレゲナウ (著), 河辺哲次 (翻訳)
出版社 : 岩波書店 (2020/4/10)、出典:出版社HP

訳者のことば

本書では、天文学を理解するために必要な“算数”を、丁寧すぎるくらいにやさしく解説しています。さまざまな単位の変換方法をはじめとして、私たちが日常で感じる重力や光の法則から、天体観測ができる仕組み、星の運動と性質、ブラックホールや膨張宇宙論までが、ほんのわずかな数式だけで明快に理解できるのです。
登場する計算のほとんどは、四則演算(+ - × ÷)と比例・反比例の考え方、つまり“算数”です。微分も積分も出てきません。一部で指数・対数や三角関数が使われていますが、それらを学んでいなくても理解できるように工夫されています。
難しそうな天文学が、本当にこのような“算数”だけで理解できるのでしょうか。おそらく、できます。本書を読めばきっと、ギリシャの星空の下で育まれた算術の素朴な概念が通奏低音のように今日まで流れ、現代の天文学を理解するベースになっていることがわかるでしょう。
原題のA Student’s Guide to the Mathematics of Astronomyが示唆するように、天文学の基礎的な数学だけを学びたい人にも、将来もっと高度な数学を理解する基礎力をつけたい人にも、本書は辛抱強くアシストしてくれる名ガイドになるはずです。

まえがき

本書の目的はたった1つ。あなたが大学レベルの天文学に必要な数学を理解し、さまざまな問題に使えるようになるのを手助けすることです。
私たちはいくつもの大学や短大で、たくさんの学生たちに天文学の入門コースを教えてきました。そこで彼らに“授業はどうですか”と尋ねると、「話にはついていけるけど、数学や計算がさっぱりわからない」という答えがよく返ってきました。
もし、あなたがそのような学生の1人であれば、本書が役立つはずです。あるいは学生でなくても、書店に並ぶ多くの素晴らしい天文学の本を、もっと深く読み込みたいといった好奇心が強い方であれば、本書は役立つでしょう。
本書は、あなたが初めて天文学と出会う本を意図して書かれたものではありません。また、従来の天文学の本に書かれている多くのトピックを、総合的にあつかう本でもありません。そうではなく、学生たち自身が数学的に難しいと思ったトピックを選び、それらを詳しく解説するために本書を書きました。そのために、たくさんの実例を使いながら、それぞれのテーマをわかりやすく説明しました。また、重要な数学的な関係の意味も深く理解できるように、テキストの内容を充実させる努力をしました。
また、本書は参考書として使いやすくデザインしました。
つまり、興味があるトピックにすぐに入れるように、どこからでも読み始められるモジュラー形式にしました。例えば、重力の法則は十分理解していて、輻射の法則やその使い方があまりわかっていないのなら、第2章はすべて飛ばして第3章の3.2節を読めばよいのです。さらに第1章には、とても基礎的で大切な4つのトピック―単位変換、比率、比率問題、科学的表記法―を詳しく解説しています。本文を読み進むうちに、このような基礎的なトピックのレビューが必要になれば、ここに戻ってきて復習できます。
本書を積極的に活用するために(つまり、文章を読むだけの受け身的な使い方にならないように)、各項の終わりに演習問題をつけています。そのほとんどは、その項で登場する概念に直結した問題か、説明された算術計算に関連するドリルです。
解答は、本書のウェブサイト(http://www4.wittenberg.edu/sgmoa/)に用意されています(英語のみ)。
さらに各章の終わりにも、演習問題よりも挑戦しがいのある総合的な問題を10問程度つけています。これらを解くには、いくつもの概念やテクニックを組み合わせる必要があるので、各章の理解度チェックになります。演習問題と同じく解法と解答はウェブサイトに対話形式で示してあり、最終的な答えまで自力で到達できるように、段階的にヒントを表示させて解くことができます。もちろん、初めから解答全体を見ることもできます。
また、各章を説明したビデオポッドキャストも本書のウェブサイトにあり、重要な考え方やテクニック、方程式やグラフに対する補足説明をしています。本書の記述がモジュラー形式であることを踏まえて、このビデオポッドキャストも単独で見られるようにしています。そのため、すべてのビデオを順番通りに見ることも、スキップして見たいところだけを見ることもできます。
さらに、光の性質、質量中心、円錐の切り口、ポテンシャルエネルギー、そして、有効数字(小数点以下の桁数をどこまで残すかとか、計算結果を安全に丸めるときに役立ちます)などの説明も、本書のウェブサイトにあります。
あなたが天文学に興味をもっているのに、数学が学習の壁になっているならば、本書はあなたを助けてくれるはずです。本書とウェブサイトはきっと、その壁を緩やかなスロープに変え、あなたをより高いレベルの理解に到達させてくれます。
あなたが天文学の学習にもっと役立つ数学を探そうとしている大学生であっても、あるいは好奇心の旺盛な読者の方であっても、きっと本書は天文学へのよいガイドになるでしょう。

謝辞

長年にわたる天文学の授業で多くの学生たちと交わした会話や対話から、本書は生まれました。数学への強い不安を抱きながらも、真剣に考え、質問してくれた学生たちの自発性が、私たちに本書の執筆を思い立たせました。また、彼らの自発性は、すべての説明をできる限りクリアで完璧なものにすべきだと、私たちに教えてくれました。
彼らのインスピレーションに加えて、どのようなトピックスが学生にとって難しいか、そして、どのような説明がもっとも理解しやすかったかといったことに関して、詳細なフィードバックをくれました。そうした蓄積によって生まれたものが、本書を構成するトピックスと個々の説明です。以上のようなさまざまな協力に対して、私たちは学生たちに感謝します。
ジュリア・クレゲナウは、Jason Wright氏にも感謝します。彼は、本書のプロジェクトを通して精神的な支援とともに、星に関する技術的な専門知識も与えてくれました。また、ジュリアはMel Zernow氏に対しても初期のドラフトに有意義なコメントをくれたことに感謝します。
ダニエル・フライシュはGracie Winzeler氏に感謝します。彼は、数学のすべての問題を粘り強く完璧に解いてくれました。そしていつものように、ダニエルはJill Gianola氏に対しても心から感謝します。

ダニエル・フライシュ (著), ジュリア・クレゲナウ (著), 河辺哲次 (翻訳)
出版社 : 岩波書店 (2020/4/10)、出典:出版社HP

目次

訳者のことば
まえがき
謝辞

1 単位がわかる
1.1 単位と変換
1.1.1 変換ファクター
1.1.2 変換問題のセットアップ
1.1.3 答えのチェック
1.1.4 多段階の変換
1.1.5 指数をもつ単位の変換
1.1.6 組立単位
1.2 絶対法と比率法
1.2.1 絶対法
1.2.2 2つの量の比較
1.2.3 比率法
1.2.4 比率の解を解釈する
1.2.5 比例関係
1.2.6 反比例関係
1.3 比率の問題
1.3.1 距離と速さと時間の問題
1.3.2 総量と比率と時間の問題
1.4 科学的表記
1.4.1 係数、底、指数
1.4.2 10進表記と科学的表記の関係
1.4.3 言葉で表した数字
1.4.4 科学的表記を使った計算
1.4.5 桁の見積り
1.4.6 数のベキ乗
1.4.7 電卓の操作について
理解度チェック

2 重力がわかる
2.1 万有引力の法則
2.1.1 万有引力の式の説明
2.1.2 重力の計算
2.1.3 表面の重力
2.2 ニュートンの運動の法則
2.3 ケプラーの法則
2.3.1 楕円のパラメーター
2.3.2 楕円軌道のパラメーター
2.3.3 ケプラーの第3法則を使う
理解度チェック

3 光がわかる
3.1 光とスペクトルの基礎
3.1.1 スペクトル
3.1.2 波長と周波数とエネルギーの関係
3.2 輻射の法則
3.2.1 ウィーンの法則
3.2.2 ステファンの法則
3.2.3 輻射の法則を使う
3.3 ドップラーシフト
3.3.1 ドップラー効果
3.3.2 ドップラーシフトの式
3.3.3 ドップラーシフトの式の別表現
3.4 視線速度図
理解度チェック

4 天体観測がわかる
4.1 視差
4.1.1 視差の説明
4.1.2 視差の計算
4.2 視直径
4.2.1 視直径の説明
4.2.2 視直径の計算
4.3 分解能
4.3.1 分解能の説明
4.3.2 分解能の計算
理解度チェック

5 星がわかる
5.1 恒星視差
5.1.1 恒星視差の式
5.1.2 視差問題の解法:絶対法
5.1.3 視差問題の解法:比率法
5.2 光度と見かけの明るさ
5.3 等級
5.3.1 見かけの等級
5.3.2 絶対等級
5.3.3 距離指数
5.4 HR図
5.4.1 太陽単位
5.4.2 光度軸と温度
5.4.3 星の半径
5.4.4 主系列星の質量
5.4.5 主系列星の寿命
理解度チェック

6 ブラックホールと宇宙論がわかる
6.1 物質密度
6.1.1 密度の説明
6.1.2 密度の比例性と極限のケース
6.1.3 球状物体の密度
6.2 脱出速さ
6.2.1 脱出速さの説明
6.2.2 脱出速さの計算
6.3 ブラックホール
6.3.1 ブラックホールの密度
6.3.2 シュヴァルツシルト半径
6.3.3 ブラックホール近くの脱出速さ
6.4 膨張する宇宙
6.4.1 ハッブル図とハッブルの法則
6.4.2 ハッブル定数H0の値
6.4.3 ハッブルの法則で計算
6.4.4 宇宙の年齢
6.4.5 位置―時間図
6.5 宇宙の歴史と運命
6.5.1 宇宙論的な位置―時間図
6.5.2 宇宙の年齢の決定
6.5.3 過去の膨張率の変動
6.5.4 将来の膨張率の変動
理解度チェック

演習問題の解答
理解度チェックの解答
関連図書
索引

装画 ガリレオ式望遠鏡:矢崎芳則
月のスケッチ:ガリレオ「星界の報告」より

ダニエル・フライシュ (著), ジュリア・クレゲナウ (著), 河辺哲次 (翻訳)
出版社 : 岩波書店 (2020/4/10)、出典:出版社HP