損をして覚える株式投資

株式投資を知る5冊 -最初に読みたい入門書からベストセラーまで-を確認する

まえがき

私が一九五六年に直木賞をもらってから約半世紀、ずっと執筆活動を続けてきました。書いた本は単行本にして四百何十冊くらいありますが、自分で勘定したことがありませんから、正確な冊数はわかりません。
はじめの頃は原稿が売れないために少しモタモタしましたが、調子づいてからは自分で雑誌社に売り込みに行 かなくともずっと連載が絶えることがありませんでした。一番多かった時は連載が十六本で、人と食事をしても 車に乗りこんだ途端に原稿を書かないと間に合わないくらい多忙な目にあいました。
また、小説を書いていたのが途中から文章のデパートみたいになり、料理から海外旅行から老人問題に至るま で何でもござれでしたが、金銭ケースのところが一番人だかりがしたので、とうとう「お金の神様」までつとめ させられました。いつも雑誌社から声がかかったのは、私が時代の変化に敏感で、人の気づかない時に、次の時 代に皆が関心を持つテーマを手がけてきたからです。
「どこにも着陸しない宇宙船から地球を見ている人」と評されたことがありますが、「駿馬も老いれば範馬に等 し」と言いますから、いつかレースからはずされる時が来る覚悟はしておりました。しかし、そうなる前に死ぬ のが一番の理想だと思って「私は七十七歳で死にたい」という本まで書きましたが、その齢になっても一向に死 なず、連載も終わらせてもらえませんでした。それが「中央公論」誌にずっと連載をしてきた「口奢りて久し」 が二〇〇四年の五月号で完結したのをしおに遂に終止符を打つことになったのです。

もっと執筆を続けたかったら、私の方から売り込みに行けばいいのでしょうが、お相撲さんに比べれば四十年 以上も長くもったのですから、もうこれでおしまいにして、あとはまた違う人生を味わってみるのも悪くないな あと、八十路にかかったところで人生の折り返し運転をやりはじめたところです。
いま私は毎月のように中国大陸、香港、台湾、と駆けまわっていますが、五年前から「ハイハイQさんQさん デス http://www.9393.co.jp」というホームページを立ちあげましたので、読者とのコミュニケーションは文 士時代よりもずっと密になっています。国際間にまたがったニュー・ビジネスの起業をお遊びにするようになっ たので一年に十くらいは新規事業を手がける結構忙しい思いをしていますが、ことしになって新しい本を六冊書 きおろす計画を立てました。一冊目は『お金持ちになれる人」と題して筑摩書房から出版しましたが、この「損 をして覚える株式投資」は二冊目です。手に取っていただければおわかりのように、低成長と経済のグローバル化がすすむなかで、私が投資家たちにアドバイスしたいことがテーマになっています。株の舞台も日本から海外に移りつつありますが、舞台は変わっても、お金儲けの原則に変わりはありません。ただし国内にしがみついて
いてはそれがやれなくなってしまったので、頭の切りかえのできる人は切りかえて下さい。
チャンスが少なくなったのではなくて、土俵が拡がっただけのことですから、柔軟に対応できる人にとっては ましな時代になったと言ってよいでしょう。
二〇〇五年十月吉日 邱 永漢 上海新天地寓居にて

邱 永漢 (著)
PHP研究所 (2016/9/12)、出典:出版社HP

 

損をして覚える株式投資 【目次】

まえがき
第一章 思惑は必ず外れる
1株で儲かる人より損する人の方が多い
2手堅くやる株式投資のやり方もある
3プロにも難しいのが株式投資
4証券会社のセールスマンの言うことをきくな
5バカの一つ覚えで終わらないために
6株は自分で研究するしかない
7思案するよりまず買ってみること
8株を買えば株のおかれた位置に気づく
9株式投資は精神修養の道場
10思惑が必ず外れるのが(株)

第二章 過去の経験は邪魔になる
11貯金と利殖は違う世界
12借金で株式投資をしてはいけない
13息子曰く「株って紙切れのことだね」
14証券会社は小さい方が面倒見がいい
15なぜ四大証券の影がうすくなったのか
16証券会社はお猿電車のお猿と同じ
17証券会社の裏をかくつもりが裏目に出る
18思い通りにならない時こそ忍の一字で
19株式投資にとって過去の経験は邪魔になる
20成長株の発想にやっと辿りつく

第三章 なぜ成長株は宝の山なのか
21成長株探しが私の仕事になった
22なぜ成長株は宝の山なのか
23日本に成長株がなくなったら中国に行け
24科学技術者について未来の勉強をする
25エネルギー革命が起こったらどうなる?
26自動車産業は日本人には不向き?
27トンネル株と橋梁株に目を向ける
28文士の工場見学は私がはじまりだった
29成長株理論がいくら正しくともアウトはアウト
30思想は常識化すれば一巻の終わり

第四章 インフレからデフレへ
31為替の自由化は株式市場に大きな衝撃
32貿易黒字の定着が株式市場を一変させた
33鎖国思想からの開放に手間取った
34成長インフレからデフレ生産への一大転換
35株は真っ先に換金される担保物件
36産業界を大きく変えたハイテク産業
37高値人気株は長期投資に向かない
38ベンチャーについ手が出てしまうわけ
39インターネットの申し子もここで一段落
40上場しても社長のプレミアムは十億円ていど

第五章 日本が駄目でも中国がある
41買い占め屋と乗っ取り屋は昔からある
42再建屋に提灯をつける方が確率は高い
43上場廃止に踏み切る企業も現われた
44株式投資だけでメシは食えない
45あなたは「違いがわかる」人?
46低成長になってもチャンスはあるけれど
47株で儲けたかったらパイのふえる国で
48日本が駄目でも中国があるさ
49株をやる人は死んだ後の心配までするな
50株式投資は経済社会の「覗き窓」である

邱 永漢 (著)
PHP研究所 (2016/9/12)、出典:出版社HP