プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命

プラスチック問題を知る4冊も確認する

プラスチック・フリー生活-目次CONTENTS

プロローグ
Chapter1
»まずは問題提起
―なぜ私たちは「プラスチック・フリー」に向かったか?
この本について
Chapter2
»スタートガイド
―ものすごく簡単で、最大限の効果を生む6つのアクション

Chapter3
»われらがプラスチックの正体
―プラスチックはどこから来たのか?一体何者なのか?
地球はプラスチックの浸食にあえいでいる!
内分泌撹乱物質の危険性
〈内分泌撹乱物質とは?〉
〈BPA―ここにも、そこにも、あそこにも!〉
〈フタル酸エステル今こそ徹底ボイコット!〉
〈ほかにもプラスチックから浸み出す化学物質はあるのか?〉

chapter4
»日用品に潜む危険性
―身近に使われる2種類のプラスチックについて
プラスチック早見表
ポリエチレンテレフタレート
ポリエチレン
ポリプロピレン
ポリ塩化ビニル
ポリスチレン
ポリウレタン
ポリカーボネート
エポキシ樹脂
アクリル
ポリアミド
ポリテトラフルオロエチレン
メラミン樹脂
ゴム
プラスチック繊維
シリコーン
バイオプラスチック
バイオプラスチックの用語解説
コラム:日本バイオプラスチック協会による認証
参考資料:代表的なバイオプラスチック
プラスチックのリサイクル
コラム・プラスチックのリサイクル-日本の場合
プラスチックに代わる素材

Chapter5
»実践編―プラスチックを追い出す
―より健康的な家づくりに向けて
家の中のプラスチックを知る
「プラスチック度」チェック
家に入ってくるものを注意深く選ぶ
キッチン
食材の買い出し
コラム食材別の入れ物いろいろ
水・コーヒー・紅茶
コラム-備長炭を活用する!
キッチン用品
食材の保管
食材別のおすすめ容器
コラム:クッキングシート
外出するとき
コラムストローの世界にダイブ!
バスルーム
コラム:マイクロビーズの衝撃
リビング
寝室
コラム:合成繊維に潜む危険性

その他の日用品
そうじ・洗濯用品
手作りクリーナーの配合表
文房具
子ども用品
ペット用品
スポーツ用品
旅行用品

Chapter6
»プラスチック・フリー生活を広める
エピローグ
謝辞
日本語版解説「プラスチック・フリーで持続可能社会を」高田秀重(東京農工大学教授)
訳者あとがき
原注および参考文献
・本文中、()は原注、〔〕は訳注を表す。
・*は脚注または傍注を参照のこと。

シャンタル・プラモンドン (著), ジェイ・シンハ (著), 服部 雄一郎 (翻訳)
NHK出版 (2019/5/25)、出典:出版社HP

プロローグ

「いい考えがあるわ!」とシャンタルが叫んだ。
このセリフはいつも決まって、ジェイに興奮と驚嘆、ときには狼狽の種を運んでくる。シャンタルのアイディアは、いつだって創造性のひらめきそのもの。とれたてのホヤホヤで、現実性などおかまいなし。どう行動に落とし込んでいくかは、さあ2人で一緒に計画を練りましょう、というわけだ。もちろん、問題は自分たちの限られた時間とお金の中で、何を実行に移すべきかを取捨選択するということ。願わくば、自分たちの価値観を体現しつつ、最大の効果を発揮できそうなものを選びたい。でも、ときには、そんなややこしいことなど考えず、ただ飛び込んでしまうことだってある。
今回のは間違いなく後者だった。

「プラスチックを使わない製品を売るオンラインストアなんて、どう?」とシャンタルは言った。

それは長距離ドライブ中の出来事だった。オタワにある自宅を出て、行き先はケベック州、モントリオール近郊にあるシャンタルの父の家。2歳の息子ジョティは、チャイルドシートにすっぽり収まり熟睡している。長距離ドライブはいつだって―森の中や海岸の散歩さながらに――新しいアイディアの創造や開発をもたらしてくれる。

このオンラインストアのアイディアには、ビビッとくるものがあった。私たち夫婦は、自分たちのライフスタイルや価値観を守りつつ、同時に環境負荷の低減に貢献できるような仕事を探し求めていたし、プラスチックの削減はきわめて優先度の高い問題だった。2人の知識や興味もうまくつながった。シャンタルはエシカル・ビジネス[環境負荷や社会的課題に配慮した倫理的ビジネス]に熱を上げ、いつの日か自分でも始めてみたいと思っていた。ジェイには生化学や生態毒性学といった理系のバックグラウンドがあった。しかも、2人そろって「自然」と「健康的な暮らし」が大好きとくれば、可能性は無限大。アイディアは、見る見るうちに具体化した。

そして、いちばんのお楽しみがやって来たー「で、何ていう名前にしようか?」
さて、「プラスチック」という言葉を口にするとき、あなたが最初に思い浮かべるものは何だろう?しわの寄ったレジ袋や、使い捨てペットボトル?それとも、おもちゃ?ブロックやミニカー、あるいは人形?

クレジットカードを思い浮かべる人もいるかもしれない。今や「プラスチック払い」「英語の慣用表現で「カード払い」の意」はお手軽そのもの。しかも、本物の紙幣までもがプラスチックになってしまった国さえある。たとえばカナダでは、紙幣はもはや紙ではない。二軸延伸ポリプロピレン製で、向こう側が透けて見える。

もし、あなたがすでにプラスチック問題に通じているなら、おそらくは木に引っかかったビニール袋や、近所の川を流れていくペットボトル、それに黄色いあひるのおもちゃなどが目に浮かぶかもしれない。あるいは、北太平洋のはるか外洋に浮かぶ大量のプラスチックごみをどこかで見たという人もいるだろう。死んだ海鳥のお腹を開くと、色とりどりのプラスチックの欠片がぎっしり詰まっていた、という写真を目にした人もいるかもしれない。死をもたらすプラスチックの破片。

どれもこれも私たちが毎日使っているありふれたプラスチックばかりだ。しかも、わずか数分でごみや資源物にしてしまうようなものばかり。
そのイメージをしっかり焼き付けておいてほしい。
次に、「プラスチック・フリー生活」というフレーズについて考えてみよう。一体、何が思い浮かぶだろうか?

きっと「不可能」という言葉では?果たして、プラスチックなしで生活するなんて可能なのだろうか?

いやもちろん、みなさんの言うとおり、今の時点では可能ではない。この尊い惑星の上に、それができる人間はいない。もしあなたがアマゾンで原始的な暮らしを営む先住民族のひとりであるとか、辺境の奥地で畑をつくり、すべての食料を自分で育てたり、採取したりしているというなら話は別かもしれないけれど……でも、そんな場合でさえ、プラスチックはあなたのところまでやって来るはずだ。

今の時代、プラスチックはありとあらゆる場所にある。微小なプラスチック粒子が、大気中にも、地中にも、そして水中にも広がっている――それが現実だ。世界中のプラスチックを追跡する学術調査が次々に行われ、その裏付けは、いよいよ確かなものとなりつつある。
こうした目に見えない微粒子の存在を抜きにしても、今この時代、私たちの大多数が都市型の生活を営む現実がある以上、プラスチックをまったく使わずに生活するということは、ほとんどの人にとって不可能に等しい。

今こうして文章を書いているキーボードもプラスチック。電話やタブレットもそう。車にも相当量のプラスチックが嵌め込まれている。ほとんどの家は、壁も、床も、照明器具も、何から何までプラスチックだらけ。そして、ありとあらゆる場所で出くわす夥しいプラスチック包装。りんごに卵、入浴剤、口紅、ミニカー、インクカートリッジ……想像しうるかぎり、ほとんどすべての商品がプラスチックに包まれている。

私たちは今、便利で万能なプラスチックが作り出したやっかいな汚染の渦に取り巻かれている。だけれども……実際には、日常生活の中でプラスチックを避ける方法はいろいろあるのだ。どこに住んでいようと、何をしていようと、できることはある。必要なのは、ちょっとした気づきと、実行力だけ。「知識に基づく行動」と言ってもいい。

「プラスチック・フリー」は、言わば最終的なゴールだ。自分たちが生きている間には決して到達しえないけれど(何せプラスチックは何千年も残るわけだから、かなうわけがない)、そんなことは問題ではない。

重要なのは、そこに向かおうとする「努力」。想像の及ぶかぎりたくさんの人間が、プラスチックの有害な汚染を排除しようとあらゆる手を尽くして努力することこそを、今この世界は切実に求めている。「プラスチック・フリー」は、めざす価値のあるゴールだ。何しろ、プラスチックはあらゆる生物の健康を脅かす可能性があって、その汚染は地球上のすみずみにまで急速に広がっているのだから。

シャンタル・プラモンドン (著), ジェイ・シンハ (著), 服部 雄一郎 (翻訳)
NHK出版 (2019/5/25)、出典:出版社HP