ゲーム理論入門 (日経文庫―経済学入門シリーズ)

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文庫なのに内容はスタンダード教科書レベル

文庫でのものなのでざっくりなものかと印象を持ちますが、非協力ゲーム、協力ゲーム、完全情報ゲーム、不完全情報ゲーム、そして進化ゲームを基礎的な部分を程よい文章と図で手堅く解説してある良書です。もちろん文庫での文字数の制約があり、テキパキした説明のところもあるので、理解が難しいところは渡辺隆裕著の『ゲーム理論入門』でじっくりとした説明を読むのも良いかと思います。

武藤 滋夫 (著)
出版社: 日本経済新聞出版 (2001/1/1)、出典:出版社HP

まえがき

本書は,「ゲーム理論」の入門書です。ゲーム理論という言葉もかなりポピュラーなものになってきましたから,すでにどこかでこの言葉を目にされたことがおありになるかもしれません。ゲーム理論というのは、簡単にいってしまえば、複数の意思決定主体が存在する状況における意思決定の理論です。複数の意思決定主体がいますから,たとえ自分のとる行動が同じであっても,他の人々のとる行動によって結果は違ってきてしまいます。したがって,他の人々がどのような行動をとるかを常に考慮に入れながら自らの行動を決定していかなければなりません。そこに、ゲーム理論の難しさもあり,おもしろさもあります。

ゲーム理論は、チェスなどの室内ゲームに代表されるような,利害が完全に対立する2人の意思決定主体の行動分析から始まりました。しかしながら,「ゲーム的状況」は,室内ゲームの世界だけではありません。われわれの社会は人と人の間の関係から企業,国家などの組織と組織の間の関係に至るまで, 様々なゲーム的状況にあふれていますから、ゲーム理論はただちに経済学,政治学,社会学など社会科学の諸分野に浸透していきました。

特に,1980年代からの経済学,なかでも産業組織論などミクロ経済学への浸透はめざましいものがあり,現在では、ミクロ経済学はゲーム理論なしには語れないといっても過言ではありません。そして,政治学,社会学などの他の社会科学の分野はもちろんのこと、生物学,情報科学, 経営工学,社会工学,オ ペレーションズ・リサーチなどの理工学の分野にも、ゲーム理論は大きな広がりを見せています。 これらの動きを受けて、英文のゲーム理論のテキストも1990年代に入って数多く出版されるようになってきました。日本でも, 1990年代半ばから,翻訳書を含め多くのゲーム理論のテキストが出版されています。

ゲーム理論がこのような展開を見せるなかで,「ゲーム理論は難しい」という言葉をよく耳にします。確かに, ゲーム理論 は数理的な理論ですから,数式がよく出てきます。最近出版されている日本語のテキストも例外ではありません。数式が多いということがゲーム理論は難しいという原因になっているのかもしれません。しかし,ゲーム理論の基本的な部分は+−×÷ の四則演算だけで十分です。

一方,ゲーム理論の違った観点からの難しさを耳にすることがあります。他の人々の動きを考慮しながら自分にとって最適な意思決定を行うという概念的な難しさです。経営工学やオペレーションズ・リサーチなどの分野でも意思決定を扱いますが、そこでは他の人々など外部の動きはすべて確率的に扱ったうえで最適な意思決定を行うことが普通です。しかしながら, 他の人々もそれぞれの意思を持って行動しているわけですからそれでは不十分ではないでしょうか。では、どうやって他の人々の動きを考慮したうえで意思決定をしていくか,そこにゲーム理論の概念的な難しさがあります。

本書では、ゲーム理論の基本的な考え方そしてそのおもしろさを、できるだけ平易に解説し,読者にゲーム理論は難しくないことを知っていただこうと思っています。したがって,数式 による議論はできるだけ避け,簡単な事例を用いて議論を進めていきます。もちろん、ゲーム理論は数理的な理論ですから, 数式を全く用いないで議論することはできません。ただし,そのときも抽象的な議論は避け、具体的な数値を入れて目に見え る形で話を進めます。さらに,理解を深めていただくために、 各章末に練習問題を用意しました。 本書を読んで、文字通りゲーム理論の門をくぐっていただきたいと思います。そして,ゲーム理論のおもしろさをわかって いただき,本書を橋渡しとして現在出版されている他のゲーム理論のテキストへと進んでいただければ,筆者にとってこの上もない幸せです。

本書は、筆者のこれまでの東京工業大学,東北大学,東京都 立大学などにおけるゲーム理論の講義ノートをベースに,最近のトピックを付け加えたものです。中山幹夫氏(慶應義塾大 学), 松井知己氏(東京大学),松井泰子氏(東海大学)には, 本書の初稿の段階から丁寧かつ建設的なコメントをいただきました。牛尾吉昭氏(東京経済大学),大西匡光氏(大阪大学), 岡田章氏(京都大学),船木由喜彦氏(早稲田大学), 丸田利昌氏(大阪府立大学),大和毅彦氏(東京都立大学), 渡辺隆裕氏 (岩手県立大学)からは、最終稿に対してそれぞれのご専門の 立場から有益なコメントを多数いただきました。また,東京工 業大学大学院学生の石原慎一君,陣内悠介君,武藤正義君,小 川竜児君,福田恵美子さん、山田典一君には計算結果をはじめ 最終稿を細かくチェックしてもらいました。日本経済新聞社の堀口祐介氏には,本書の企画の段階から完成まで大変お世話になりました。これらの方々に心から感謝いたします。

2000年12月
武藤 滋夫

武藤 滋夫 (著)
出版社: 日本経済新聞出版 (2001/1/1)、出典:出版社HP

目次

Ⅰ ゲーム理論を学ぼう
1 ゲーム理論とゲーム的状況
2 協力ゲームと非協力ゲーム
3 ゲーム的状況の表現
4 ゲーム理論が与えてきたもの
5 本書を読まれるにあたって

Ⅱ 非協力ゲームⅠ:行動決定が同時に行われる場合
1 事例による把握
2 戦略形ゲーム
3 戦略の支配
4 囚人のジレンマ
5 最適反応戦略とナッシュ均衡
6 戦略の支配とナッシュ均衡
7 混合戦略
8 ナッシュ均衡の求め方
9 ナッシュ均衡の応用例:クールノーの複占市場
10 マックスミニ戦略
11 2人定和ゲームとミニマックス定理
12 多人数戦略形ゲーム
13 利得と期待効用
練習問題

Ⅲ 非協力ゲームⅡ:行動決定が時間をおいて行われる場合
1 事例による把握
2 展開形ゲーム
3 戦略形ゲーム表現
4 ナッシュ均衡
5 部分ゲーム完全均衡
6 チェーンストア・パラドックス
7 繰り返しゲーム
8 部分ゲーム完全均衡の応用例:シュタッケルベルクの複占市場
練習問題

Ⅳ 情報不完備なゲーム
1 事例による把握:行動決定が同時に行われる場合
2 ベイジアンゲームの戦略形ゲーム表現
3 ベイジアン均衡
4 事例による把握:行動決定が時間をおいて行われる場合
5 ベイジアンゲームの展開形ゲーム表現
6 完全ベイジアン均衡
7 情報不完備なゲームの応用例:中古車市場とレモン
練習問題

Ⅴ 2人協力ゲーム:交渉ゲーム
1 協力ゲーム理論と非協力ゲーム理論
2 事例による把握と相関戦略
3 実現可能集合と交渉の基準点
4 交渉ゲーム
5 ナッシュ交渉解と公理系
6 ナッシュ交渉解に対する非協力ゲームからのアプローチ
7 譲渡可能効用とサイドペイメント
練習問題

Ⅵ 多人数協力ゲーム:特性関数形ゲーム
1 事例による把握
2 特性関数形ゲーム
3 優加法性と全員提携の形成
4 配分
5 コア
6 仁
7 シャープレイ値
8 特性関数形ゲームにおけるその他の解
練習問題

Ⅶ 進化と学習のゲーム理論
1 進化と学習のゲーム理論を学ぶ前に
2 進化論的ゲーム理論
3 進化的安定戦略
4 混合戦略型の行動様式まで考えた進化的安定戦略
5 進化ゲームの動学的モデル
6 適応型学習に基づくゲーム理論Ⅰ:現在の状態の観察
7 適応型学習に基づくゲーム理論Ⅱ:過去の経験の記憶
練習問題

〈文献ガイド〉 ゲーム理論をより深く学ぶために
練習問題の略解
事項索引
人名索引

事例
価格引き下げ競争
規格の統一争い
視聴率競争
クールノーの複占市場
男女のジレンマ
価格引き下げ競争における先導者と追従者
参入と参入阻止
多期間にわたる価格引き下げ競争
部分ゲームの説明
シュタッケルベルクの複占市場
価格引き下げのもたらす影響の不確実性
B社(参入企業)の不確実性
規格統一におけるA社とB社の協力
利得行列の変更
投票による決定
家の売買
費用の分担
タカーハトゲームⅠ
タカーハトゲームⅡ
2種類のワープロソフト
ドアの出入り

COFFEE BREAK
フォン・ノイマンは著書に「ゾウ」を入れた!
囚人のジレンマのもともとのストーリーは?
フォン・ノイマンはナッシュ均衡がキライ?
強かったのはお返し戦略!
有名大学卒業は採用時の判断材料になるか?
「無関係な結果からの独立性」の公理は妥当?
ユダヤ教の教典にあったゲーム理論!
エスカレーターはどちらに並ぶ? そして、ドアは押さえる? 押さえない?

武藤 滋夫 (著)
出版社: 日本経済新聞出版 (2001/1/1)、出典:出版社HP